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示談交渉と裁判(裁判基準)の重要な関係

2016-12-09

交通事故事件は示談交渉で解決することが可能

 当事務所では,交通事故事件について裁判の案件も当然お受けしておりますが,結果として裁判をせざるを得なくなった事案でも,初めは示談の可能性を探るために示談交渉から始めることがほとんどです。

 その理由は,交通事故事件が,これまで数えきれないほど全国の裁判所で争われてきており,他の事件と比較してもかなりのノウハウが蓄積されているということにあります。

 ある程度相場(裁判基準)が形成されているため,裁判所の判断を待たなくても当事者双方がある程度結論を予測することが可能となり,弁護士が示談交渉を行うことで,裁判をしなくても相場(裁判基準)を前提とした示談をすることが可能であることが多いのです。

 特に,慰謝料の場合は,算定に一定の基準が必要となりますので,裁判基準が非常に重要となります。

 逆に言うと,これまでにほとんどノウハウがないような特殊な事案では,裁判をせざるを得ないということがあり得ます。

 

示談交渉と裁判は別物?

 慰謝料のように,金額を算定する際に直接裁判基準を用いる場合は別として,その他の場合に裁判ではなく示談交渉として事案を進めていく場合,一応裁判とは別物であるということで,裁判のことは度外視して考えていくことになるのでしょうか?

 答えはノーです。

 交渉でご依頼されている以上,「自分は裁判までするつもりはないから,裁判所のことは関係ないんじゃないの?」と思われるかもしれませんが,そうではないのです。

 示談交渉をしていく上でも,裁判所であればどのように考えるのかということは非常に重い意味を持ってきますので,今回はこの点についてご説明いたします。

 

賠償額を決めるのは法律と裁判所

 交通事故事件の相手方は多くの場合,保険会社になると思いますが,そもそもなぜ保険会社は示談交渉に応じてくるのでしょうか?

 保険会社として,自社の判断を超えて支払うことはない!と考えるのであれば,弁護士から何を言われても支払いに応じなければいいはずです。

 しかし,どのような場合に賠償をしなければいけないのかは法律によって定められていて,法律をどう適用していくのかは裁判所が判断を示すことになります。

 したがって,独自の見解に従って支払いを拒んだ場合,弁護士は最終手段として,裁判等の手段をとることになります。

 

保険会社が示談に応じる理由

 裁判になれば,裁判所の判断で結論が出されることになり,保険会社は判決に従って支払いをせざるを得なくなります。

 そのため,いくら拒んでも,最終的には裁判所の見解に従わざるを得ないのであれば,多少妥協してでも早く支払いをしてしまおうということになるのです。

 このように,裁判という仕組みがあるからこそ,相手方が支払いをしてくれるという側面がありますので,交渉においても裁判所がどのように判断するのかを見据えることは非常に重要です。

 

弁護士にできること

 弁護士は,法律や裁判所が定めたルールの中で,いかにしてご依頼者様の権利を実現していくかということに全力を注いでいくことになります。

 交渉は,ただ自分の主張の正当性を述べればよいというものではなく,その主張が,法律や裁判でも認められるものであることを,根拠を示して説明できなければなりません。

 そのため,交渉と裁判は密接な関係にあり,交渉でも裁判に対する知識は不可欠なのです。

 私がご依頼者様に対して方針などを説明する際,「裁判だと~」と申し上げることがありますが,それはこのような理由によります。

 

まとめ

 以上のように,裁判外の交渉での解決を望まれる方でも,適正な賠償を受けるためには法律や裁判についての知識が非常に重要になりますので,賠償のことでお困りの場合は,まずはお気軽にご相談ください。

交通事故で慰謝料を請求できるケース

2016-12-01

 交通事故事件で,相手方との示談交渉で争いになる項目の典型例が慰謝料の額ですが,慰謝料は,苦痛を被ったら必ず認められるというものではありません。

 比較的争いになりやすいケースとして,以下のようなものがあります。

1 被害者がケガをしたり死亡した場合の被害者本人からの慰謝料請求

 まず,交通事故でケガをした場合の被害者本人からの慰謝料請求ですが,基本的に入通院慰謝料として認められることになります。ただし,この場合でも,交通事故の衝撃が極めて軽微であり,事故によってケガをしたかどうかが疑われるようなケースの場合には,慰謝料が必ず認められるとは限りませんので注意が必要です。

 同様に,被害者が亡くなった場合でも,被害者本人の慰謝料請求権が発生するとされています。この場合,亡くなった方は請求できませんので,相続人である遺族が請求することになります。

2 本人以外の人からの請求

(1) 被害者本人が死亡した場合

 被害者が死亡した場合に近親者からの慰謝料請求が認められることは民法711条に規定があり,「被害者の父母,配偶者,子」が,請求できるということになっています。

 さらに,ケースによっては,711条に列挙されている近親者以外の者からの請求が認められることもあります(最高裁昭和49年12月17日判決)。

(2) 被害者本人がケガをした場合

 例えば,お子様が交通事故でケガをしたことによって,親御さんがお子様のことを思って精神的な苦痛を被ることは珍しくないと思います。このような場合に親御さんから加害者に対して損害賠償請求は可能なのでしょうか?

 この点は,不可能とまでは言えませんが,基本的には,被害者本人が請求すれば足りることから,かなり難しいと言っていいでしょう。

 判例では,最高裁昭和33年8月5日判決が,10歳の娘が交通事故で顔面に著しい損傷を負ったケースで,「その子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」として,母親からの慰謝料請求を認めていますが,かなり例外的なケースであると考えられます。

 死亡事故以外で,近親者の慰謝料が認められることが多いケースとしては,介護を必要とするような重度の後遺障害が残った場合があります。

 このような場合は,近親者慰謝料分を上乗せして請求することを検討しても良いでしょう。

3 物損についての慰謝料

(1) 車の場合

 これも珍しくないケースですが,交通事故に遭った車が非常に思い入れのある車で,その車が事故に遭って傷つけられ,さらには全損扱いとなって修理費用すら出ないというときに,慰謝料の請求ができるのでしょうか?

 この点については,必ず認められないというわけではありませんが,実務上は,「通常は,被害者が財産的損害の填補を受けることによって,財産権侵害に伴う精神的損害も同時に填補されるものといえる」(東京地裁平成元年3月24日判決)などとして基本的に否定されることになります。

 車の損傷に対する補償は,修理費用や買い替え費用といった実費の支払いによって行われると考えておいた方が良いでしょう。

(2) 認められる場合

 それまで大事にしていたペットが死亡した場合や,事故で家屋を破壊されたような場合には,慰謝料の請求が認められることがあります。

4 まとめ

 精神的な苦痛があれば,慰謝料の請求は当然に認められても良さそうなものですが,以上のように実際には認めれられないということも少なくありません。

 逆に,認められる部分については,もれなく支払いを受けるようにしなければなりません。

交通事故の損害賠償の目的

2016-11-25

 みなさんも,様々な弁護士のホームページをご覧になられて,交通事故で弁護士に依頼するメリットは果たしてどこにあるのかということに関心をお持ちだと思います。

 交通事故に関する弁護士のホームページを見ると,「弁護士に依頼することで賠償金が増額します!」といった言葉がよく目につきます。

 これ自体が誤りというわけではなく、たしかに交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットはあります。

 しかし、弁護士に依頼することで「儲かる」という意味ではありません。

 今回は,この点についてご説明させていただきたいと思います。

損害賠償の目的は原状回復

 前回のコラムで,交通事故事件の加害者への請求は損害賠償の請求であり,損害賠償の請求をするためには,被害者が様々な証拠を元に,自分の主張する事実を証明することが重要であるということについて触れました。

 そして,損害賠償の条件として,①被害者の権利が侵害されたこと,②この行為について加害者に故意または過失が認められること,③それによって損害が発生したこと及びその金額,④①と③の間に相当因果関係があることが必要であると述べました。

 この中で,請求できる金額に関する部分は③であり、損害賠償の目的は、交通事故に遭う前の元の状態に戻すことにあるのです(原状回復)。

 したがって、加害者に対して請求することができるのは,あくまでも自分に生じた損害分のみということになります。

損害賠償の範囲は実際に生じた損害分のみ

 例えば,交通事故に遭う前の元の状態を100だとして,交通事故によって20の損害が生じたとします。

 この場合に加害者側に対して賠償金を請求することができるのは損害分の20だけで、それを超えて30とか40とか請求できるわけではありません。

 どんなに上手くいっても、元の状態を超えることはありません。

 外国では,懲罰的な意味合いも含めて,実際に被った損害の範囲を超えて賠償を受ける可能性もあり得ますが,少なくとも日本ではそのような考え方は基本的に採られていません(最高裁平成9年7月11日判決)。

損害を証明するのは難しい

 このように、元の状態に戻すことを求めるだけであれば、何も難しいことはないように思えます。
 実際に、車の修理代を支払ってもらう程度であれば、難しいことはないと言っていいでしょう(修理代が高いとか安いとかいった問題がありますが、通常は修理工場と保険会社が協定といって料金の擦り合わせを行うので問題となりません。)。

 しかし、交通事故の損害賠償の請求は、そのように簡単なものではありません。

 その理由は,実際に生じた自分に生じた損害を完全に把握するのが現実的にはかなり難しく、損害を証明することも容易ではないからからです。

 例えば,事故で後遺症が残ったり,被害者の方が亡くなった場合の賠償の中に,逸失利益というものがあります。

 これは,被害者が将来得られるはずであった収入が,事故によってマイナスになることについて補てんするものです。

 1年後や2年後の減収については,あるいは程度予測できるかもしれません。しかし,事故当時まだ仕事についていなかった人や,家事という仕事はしていたものの,現金で収入を得ていなかったような人に生じた損害についてはどうでしょうか?

 そもそも,生じた損害を金銭的に評価することが難しい上に,そうでなくても将来どうなるのかを測るのは非常に難しいと言えます。

 また,金銭的な評価が難しいという意味では,精神的な損害(慰謝料)もその代表的なものということになります。

 そして、ある程度賠償金の計算ができたとしても、その裏付けが必要になります。

 先ほどの逸失利益の関係では、将来にいくらの損害が、どの程度の期間継続して発生するのかを証明する必要がありますが、これはケースによって非常に難しい問題があります。

 その結果,保険会社からは、損害が正しく評価されずに、著しく低い賠償金の額が示されたりするのです。

弁護士に依頼する必要性

 こうした中で,弁護士が行うべきことは,実際に生じた損害を的確に金銭的に把握し,それを証拠によって証明するということです。

 これは,過去に積み重ねられてきた事例を研究し,どのような理屈を組み立て,必要となる証拠はどうなるかということを分析していく作業です。

 こうした作業によって,可能な限り損害を証明し,相手方や裁判所を納得させることによって,適切な賠償を実現していくのです。

 このような示談交渉や訴訟は専門的な知識と経験を必要としますので,結果として弁護士に依頼することで経済的なメリットが生じてきます。

 適切な賠償がどのようなものなのか気になる方は一度弁護士にご相談ください。

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弁護士に依頼するメリット

被害者が知っておくべき損害賠償の基本

2016-11-21

 交通事故に遭ってお困りの方は,過失割合が決まらない,相手方が提示してきた示談の金額が小さい,治療費の支払いを打ち切られた等々…様々な事情を抱えられています。

 これらは,内容は違うものの,法律的にはすべて損害賠償の問題になります。

 損害賠償請求が一般的にどのような場合に法律的に認められるのかを知っておくことは,ご自身の請求が認められるのかどうかを判断する上で役に立ちますので,今回はこの点についてお話しします。

 

不法行為責任

 交通事故に限らず,他人から権利を侵害されて損害を与えられた場合には,民法709条により,不法行為責任に基づく損害賠償の請求をすることになります。

 この不法行為責任が認められるには,①被害者の権利が侵害されたこと,②この行為について加害者に故意または過失が認められること,③それによって損害が発生したこと及びその金額,④①と③の間に相当因果関係があること,が必要になります。

 

誰が証明しなければならないのか

 注意をしなければならないのは,これらの条件について被害者の側で証明しなければならないとされていることです。

 このことは,被害者の方からすれば納得しがたいことだと思います。

 しかし,加害者の側から見ると,全くの他人からの請求であることが通常であり,それで賠償金を支払う以上は,やはり請求に理由があることを被害者に示してもらわないといけないということになります。

 

※交通事故事件の場合には,自賠法3条によって,②については被害者が証明しなくても良いことがありますが,問題になりやすい③と④については被害者が証明しなければならないことに違いはありません。

 

どの程度証明しなければならないのか

 このように,被害者の側で損害額や事故によって損害が発生したことを証明する負担を負わされるとすると,一体どの程度証明しなければならないのかが問題になってきます。

 この点については,一般的に,第三者である裁判官が確信に至る程度の証明が必要とされています。

 つまり,ある程度根拠があったとしても,第三者(裁判官)に対して,「おそらく被害者の言う通りだろう。」という程度の認識しか持たせることができないというのでは基本的に証明が足りないということになります。

 

きちんと証明できるかが賠償が認められるかどうかのカギ

 基本的に,損害賠償について相手方と争いになるのは,証明の問題が原因であることがほとんどと言っていいと思います。

 例えば,治療の打ち切りの件については,治療によって症状が改善することの証明がどの程度できるかという問題ですし,後遺症(後遺障害)は,後遺症が実際に生じていることの証明や,後遺症が事故によって生じたものであるということの証明の問題ということになります。

 これらについても,証拠によって,誰が見ても賠償をしなければならないことが明らかな状況であれば,基本的に相手方と争いにはならないでしょう。

 仮に,賠償をしなければならないのが明らかなのに,相手が変わり者で支払いを拒んでいるというのであれば,多少手間はかかりますが,裁判をすれば済みます。

 そのため,交渉にせよ裁判にせよ,請求を認めさせるためには,請求に理由があることの証明をどのように行うのかがカギになってきます。

 この点は,まさに法律の専門家である弁護士の得意分野です。

 

まとめ

 今回は,損害賠償の基本について見てみましたが,このことは,交通事故の損害賠償において問題となる様々な場面で基礎となる事柄です。

 請求が可能かどうかの見通しを立てる際にも,このことを念頭に置いて検討していくことになります。

 交通事故の損害賠償請求でお困りの方は,一度弁護士にご相談ください。

骨折による後遺障害等級12級13号のポイント

2016-11-14

 前回は,交通事故の後遺障害(後遺症)の中では比較的軽いとされる14級の中でも,神経症状が残った場合の後遺障害等級14級9号「局部に神経症状を残すもの」に特に焦点を当ててみました。

 今回は,同じ神経症状の中でも,交通事故で骨折した後に後遺障害等級12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」の障害が残った場合について,認定や逸失利益や慰謝料といった損害賠償の弁護士による示談交渉・増額のポイントについて見ていきたいと思います。

 (関節の可動域制限について12級6号が認定された方はこちら→「肩・ひじ・手の関節の後遺症の賠償」

 

骨折と後遺症(後遺障害)

 交通事故に遭ったときに身体のどこかを骨折するということは,むち打ちと同様に交通事故の被害者の方によく見られることです。

 また,骨折をした後,時間をかけて治療をしても痛みが消えなかったり,運動障害(可動域制限)が出たり,骨が変形してしまうこともありますが,そのような後遺症については,加害者からしっかりと損害賠償を受けなければなりません。

 今回見ていくのは,これらの後遺症のうち,痛みを中心とする神経症状に関する後遺症です。

想定される自賠責保険の後遺障害等級は?

 骨折後に痛みの後遺障害が残った場合に認めれられる後遺障害等級としては,前回見た14級9号「局部に神経症状を残すもの」のほかに,12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」が考えられます。

 ここでのポイントは,どちらに認定されるかは症状だけでは分からないということです。

 この2つは,どちらが認定されるかによって想定される損害賠償の金額が大きく異なってきますので,これらがどのように区別されているのかが重要になってきます。

14級9号と12級13号の違い

 自賠責保険の後遺障害12級13号と後遺障害14級9号の内容を見てみると、12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」とあり、14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」とあります。
 これだけを見ると、痛みの強さが強い方が12級13号で、痛みがそれほどでなければ14級9号になるように読めます。
 しかし、痛みの強さは本人にしか分からないので、痛みの強さによって等級を決めるのは困難です。

 さらに、自賠責保険が準用する労災の認定基準では,12級13号は「通常の労務に服することはできるが,時には強度の疼痛のため,ある程度差支えがあるもの」,14級は「通常の労務に服することはできるが,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」とされています。

 しかし,この基準もあいまいで,今一つ区別の基準が分かりません。

 一般的には,14級9号と12級13号を区別する基準としては,12級は「障害の存在が医学的に証明できるもの」であり,14級は「障害の存在が医学的に説明可能なもの」とするものなどが挙げられています。

 これにより,骨折の場合には,画像によって関節面の不整や骨癒合の不全が見られることが,12級13号が認定されるポイントとなってきます。

 逆に言うと、被害者自身がどれだけ痛みが強いと言っても、そのことを裏付ける画像がなければ12級13号は認定されないことになりますし、痛みを裏付ける画像があれば、痛み自体はそれほど苦にならなくても12級13号が認定される可能性があります。

 そのため,骨折による症状についてきちんと賠償を受けるためには,上記のような異常を確認するためのCTやXP,MRIといった検査を受けることが重要となります。

弁護士による12級13号の示談交渉・増額のポイント

 上記のような点に留意して,後遺障害等級12級13号が認定されたとして,損害賠償の示談交渉や裁判の中ではどのようなことが問題になるのでしょうか?

逸失利益は?

 神経症状についての後遺障害については,特に逸失利益の労働能力の喪失期間(労働へ支障が生じる期間)が争いになることが多く,しかも,同じ12級13号であっても,症状の原因が何であるかによって判断が分かれるところでもありますので,以下で詳しく見ていきます。

 そもそも後遺障害とは,原則として,治療をしても良くならない状態になったときに残った症状について認定されるもので、基本的に一生付き合っていくようなものです。

 したがって,逸失利益(後遺症による労働への支障によって生じる減収)は,働いている限り生じるものと考えられます。

 このことは,例えば交通事故で腕などを失ったようなケースを想定すると分かりやすいと思います(失われたものが元通りになることは考えられないでしょう)。

 ところが,神経症状の場合には,あくまでも感覚的な問題であるため,被害者本人の馴れなどによって,労働能力が回復するのではないかという問題があるのです。

 14級9号に関する記事でも言及しましたが,特にむち打ち症の場合にはこのことが問題とされやすく,裁判をしたとしても,むち打ち症で12級13号が認定された場合、労働能力喪失期間が10年程度に限定されることが一般的になっています。

保険会社との示談交渉のポイント

 保険会社は,上記のようなむち打ち症に関する12級13号の一般論を元に,労働能力をかなり短く設定しようとしてきます(10年未満を主張してくることも珍しくありません。)

 上記のように,12級13号で労働能力喪失期間を10年などとされることも多いため,あるいは,そのような提示を受けても,そういうものなのかと思われるかもしれません。

 しかし,同じ12級13号であっても,骨折の場合とむち打ちの場合では事情が異なり,骨折後の疼痛等に12級13号が認定された場合、骨癒合の不全や関節面の不整といった原因がはっきりとしていて,しかもその原因がなくなることがないと考えられます。

 そのため,骨折で12級13号が認定された場合であれば, 過去の裁判例上,症状が骨折部位によるものであるという理由によって,特に労働能力喪失期間を行わなかったものも数多くあります。

 したがって,どの程度の賠償を相手に求めることができるかは,過去の事例を調査し,慎重に検討した上でしっかりと交渉で必要があります。

 実際には、現実に後遺症が仕事へ影響を与えているか、そのために収入が下がっているかといった事情が考慮されて、最終的な結論が出されることになりますので、この点もご自身でチェックしてみてください。

 逸失利益の請求は,弁護士によっても違いが出るところでもありますので,依頼される前によく説明を受けて,弁護士の方針を確認してください。

慰謝料は?

 後遺症について12級が認定された場合のいわゆる裁判基準に従った慰謝料の相場は,290万円程度とされています。

 裁判上は,多くのケースでこの相場にしたがって請求が認められていますので,保険会社が低い金額を提示してきた場合は,しっかりと交渉していく必要があります。

まとめ

 このように,12級13号は,認定されるかどうかという点で,どのように医学的な証明を行うべきかということがまず問題となり,認定された後は,どの程度の賠償を受けることができるかということで特有の問題があります。

 12級13号が認定されるような症状が残っている場合には,交通事故事件に詳しい弁護士にご依頼されることをおすすめします。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」

 

後遺障害等級14級9号の認定と示談交渉

2016-11-04

 交通事故で後遺症(後遺障害ともいいます。)が残ってしまった場合,後遺障害の認定を受けた上で損害の賠償を求めていくことになります。

 この後遺症(後遺障害)には重いものから順に,1級から14級という等級が設けられています。

 交通事故事件に関する様々なご相談をお受けしていると,鞭打ち(むちうち)や腰椎捻挫といった症状を訴える方が多いのですが,そういった方に後遺症が残った場合に認定を受ける可能性が高いのは,後遺障害等級14級9号というものです。

 そこで今回は,自賠責保険の等級の中で一番低い等級に位置付けられている後遺障害等級14級について認定や逸失利益・慰謝料といった損害賠償の弁護士による示談交渉・増額のポイントについて見ていきたいと思います。

自賠責保険の等級表

 自賠責保険で14級として挙げられているものは以下のとおりです。

 

1

1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの

2

3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

3

1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

4

上肢の露出面にてのひら大の大きさの醜いあとを残すもの

5

下肢の露出面にてのひら大の大きさの醜いあとを残すもの

6

1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

7

1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

8

1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの

9

局部に神経症状を残すもの

 

 それぞれに検討すべき点がありますが,今回はこの中でも14級9号の「局部に神経症状を残すもの」について詳しく見ていきます。

14級9号が認定されるケース

 一口に後遺障害等級14級9号といっても,実際には様々な症状が考えられます。

 14級9号が対象とする神経症状には、受傷部位の痛みのほか、しびれや感覚障害、精神障害等、幅広い内容を含んでいますが,実務上目にする機会が多いのは,頚椎捻挫(むちうち)・腰椎捻挫の後に痛みやしびれが残った場合です。また、骨折後の痛みについて認定されることもあります。

認定の難しさと認定に向けてのポイント

 14級9号は,基本的に症状の原因を明確に証明することが困難なものについて認定されるものです。例えば骨折であれば、レントゲン画像上、骨の癒合は上手くいっていて原因は明確に分からないものの、患者が痛みがを訴えているといった場合です。むち打ち症に代表される打撲捻挫については、そもそも画像上の異常は見られません。

 そのため,元々はっきりとした基準を設けることが難しい等級であるといえます。

 しかし,現実に交通事故によって被害者が症状を訴えている以上,きちんと補償を受けられるようにする必要があります。

 他方で,症状の程度や感じ方は人によって様々ですし,全く証明がされていないものについて一律に保険金や賠償金を支払うわけにはいきません。

 そこで,現実に生じている症状と原因について,様々な資料を元に総合的に判断して,等級が認定されるかどうかが決まることになります。

 どの資料が具体的にどのように評価されているのかという点については公表されていませんので,微妙な事案において結果を確実に予測することは非常に難しいといえます。

 したがって,被害者としては,評価の対象となっていると思われる事柄については,資料を揃えて適切に自賠責保険会社に対して提出していくことが重要となります。

 その際,事故の状況に関する資料や,症状の原因を説明するための画像資料,症状の一貫性を示す書類,ジャクソンテスト・スパーリングテストといった神経根症状誘発テスト等の各種検査結果が記された書類を提出することなどが考えられます。

 ただし、ここで挙げた神経根症状誘発テスト等は、あくまでも被害者が痛いとか痺れるとか訴えるかどうかを見るものであり、第三者から見てその存在を確認できるものではありません。したがって、資料としてはそれほど有効なものではないといえるでしょう。

 実際の認定例を見ても、これらのテストを受けて陽性の結果が後遺障害診断書に記載されていても非該当となることも少なくなく、他方で、こうしたテストを一切受けていなくても認定を受けられているものも多数あります。

 頸椎捻挫・腰椎捻挫などで神経症状が問題となる場合の画像資料については,比較的早い段階でMRI検査を受けることをおすすめします。頸椎や腰椎のヘルニアが症状の長期化に影響を与えている可能性がありますが、レントゲンやCTでは、ヘルニアをはっきりと確認することができないためです。

 この他に,医療機関への通院実績も重視されていると一般的に考えられていますが,この点については少し注意が必要です。

 たしかに,医療機関にしっかりと通院することは,適切な治療を行った上でなお症状が残存した(症状が固定した)ということを示し,また,治療期間中の症状の適切な把握という意味でも必要であると考えられます。

 しかし,後遺症の認定を受けることを目的として過剰に通院をすることは,医師も推奨していないと考えられますし,ご自身にとっても負担であるほか,損害賠償上も過剰診療にあたるとして因果関係が否定される可能性もありますので,必要に応じて適切に通院をすることが重要です(少なくとも,これまでに多数の14級9号の認定事例を見てきた経験上,半年程度の間に100回近くも通わなければならないということはないと考えられます。)。

 以上のような点を踏まえて,資料によって医学的に症状について説明ができるといえるような場合には,14級9号が認定されることになります。

 このような資料の収集についても,弁護士にご依頼いただいた場合には,弁護士が代行していきます(一部ご協力をお願いすることもあります。)。

 なお,むち打ち症の場合でも,12級13号という等級が認定される可能性がありますが,そのためのハードルとして,画像等で医学的に症状を証明することができなければならないため,今よりもむち打ち症に関する理解が進んでいなかった頃であればともかく、現在では可能性は低いと考えられます。

弁護士による14級9号の示談交渉・増額のポイント

 等級の認定がされたら,賠償金の請求を行うことになります。

 後遺症(後遺障害)について賠償の対象となるのは,主に逸失利益と慰謝料の2つです。

後遺障害慰謝料

 このうち,慰謝料については,ある程度定額化が進んでいることもあって,他の等級と比べて特に難しいということはなく,14級の場合のいわゆる裁判基準による相場である110万円程度が認定されることが多いです。

 もっとも,保険会社は,自賠責保険基準の32万円などと認定してくることもあるので,そのような場合には,しっかりと交渉する必要があります。

後遺障害逸失利益

 これに対し,逸失利益については,金額の算定に難しいところがあります。

 逸失利益は,後遺症によって将来どの程度減収が見込まれるかという点に対する賠償ですので,後遺症による影響が将来的にどの程度残るのか(労働能力喪失期間)が問題となります。

 一般的には,後遺症が治療をしても良くならないものを指すため,一生涯残るものとして計算を行います。

 ところが,14級9号の場合には,長期的に見ると症状が改善するということもしばしば見られるため,この点が問題となるのです。

 ここで注意しなければならないのは,労働能力喪失期間は,等級だけではなく,後遺症の原因となった傷病の内容によっても変わってくるということです。

 むち打ちについては,最近では5年程度が目安とされていますが,例えば骨折した後に痛みが残ったような場合に,どの程度の期間影響が残るのかという点についてははっきりとした相場があるわけではないのです。

 したがって,このような場合には,被害者の方の状況に応じて請求していくことになりますが,その際に,弁護士が,過去の事例や議論の内容を踏まえて適切に説明をしていくことになります。

まとめ

 このように,14級9号は,等級としては低いものになりますが,特有の難しさが存在します。

 また,様々な議論があるところでもありますので,十分な知識がないままに示談をしてしまうと,本来受けられるはずだった賠償が受けられなかったということにもなりかねません。

 14級9号が問題となる場合には,交通事故事件に詳しい弁護士にご依頼されることをおすすめします。

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むち打ち症の後遺障害

後遺障害の慰謝料

後遺障害の逸失利益

こんな弁護士には要注意?

2016-10-24

 交通事故について依頼する弁護士を探してこのHPをご覧になっている方は,交通事故に強い,交通事故専門の弁護士を探されていることと思います(※もっとも,日弁連では,H28.10現在,弁護士の専門性を認定する制度がないため,HP等の広告で「専門」と表示することは差し控えるのが望ましいとしています。)。

 交通事故に強い弁護士がどういう弁護士かということについては,当事務所のHPでも「交通事故に強い弁護士とは」の中で簡単にご説明していますが,やはり,1回で判断するのはなかなか難しいというのが実際のところです。

 ただ,反対に,交通事故事件であるかどうかにかかわらず,一般的にこのような弁護士は良くないということについては,比較的容易に分かる場合があります。

 そこで今回は,どのような弁護士が良くないのかという点について述べていきたいと思います。

 

① 依頼をしてもらうためにとにかく強気なことを言う

 まず,依頼を受ける段階ですが,とにかく依頼してくれればプラスになるということを強調して,強引に依頼を受けようとすることが考えられます。

 多少のセールストークをすることは,弁護士のキャラクターによる部分もあるので絶対に悪いとは言えませんが,例えば,「絶対にこれだけ賠償金をとれます!」,「絶対に後遺障害について等級を認定させます!」,「すぐに解決できます!」というように,一定の結果を約束することは,弁護士の決まりで明確に禁止されています(弁護士職務基本規程29条2項)。

 どんなに簡単なように見える事案であっても,細かい事情や裁判官等の判断によっては,結果を100%保証することなどできるはずがなく,このような説明をして依頼を受けようとすることは非常に問題があるのです。

 また,それほど極端な場合でなくても,明らかに想定しなければならないリスクがあるにもかかわらず,その説明を十分に行わないという場合も,やはり問題があると言えるでしょう。

 リスクばかりを強調して,可能性を初めから放棄することも同様に問題がありますが,逆に強気する説明を受けて,思ったような結果が得られずに高額な弁護士費用が無駄になったということになっても困ります。

 弁護士に依頼する際は,リスクも含めて,事件の見通しについて丁寧に説明してくれる弁護士かどうかを見ることが大切です。

 

② 事件放置・報告の遅れ

 弁護士との間で特に問題になりやすいのが,事件放置です。

 弁護士も,好きで事件を放置しているわけではないので,依頼の段階ではなかなか分かりません。

 この原因として考えられるのは,他の事件が忙しすぎて手が回らない,あるいは他の事件の対応で忘れてしまったということが典型例だと思います。

 弁護士としては,大量に事件があるため,やむを得ずそうなってしまったということなのでしょうが,依頼された方にとっては,頼りにできるのはその弁護士だけです。

 したがって,常に即日対応というのは現実的に難しいにせよ,多忙を理由に事件を放置するということはあってはなりませんし,多忙を理由に事件を処理できないのであれば,そもそも事件を受けるべきではありません。

 一般的には,多忙な弁護士というと,経験豊富で頼りになるようなイメージがあるかもしれませんが,弁護士の業務はいつ突発的に対応すべきことが発生するか分かりませんので,そういったことに対応できるよう,ある程度余裕をもっていることも必要であると思います。

 ご相談時に,弁護士にそれとなく現在の多忙ぶりについて確認されるといいかもしれません。

 

③ 早く事件を終わらせるために不利な示談をすすめてくる

 これは,なかなか分かりにくいのですが,例えば,裁判等をすればより高額の賠償金を受け取れる可能性が非常に高いのに,そのようなメリットはあまり述べず,裁判のデメリットである時間がかかることや,法的なリスクを強調して,低額の示談を勧めてくるということが考えられます。

 裁判は,ふたを開けてみないとどのような結果になるか分からないので,事前に結果を約束できないことは既に述べたとおりですが,あまりにもリスクを強調しすぎることも考えものです。

 法的なリスクがあることを踏まえて,それでも裁判をすべき事情があるのであれば,裁判をすべきです。

 最終的には,ご依頼された方のご都合などがありますので,確実にこうすべきということはありませんが,少なくとも,過度にリスクを強調することで,必要以上に裁判をすることに消極的にさせてしまうのは良くないでしょう。

 

 まとめ

 弁護士にも様々なタイプがありますが,ここで述べたようなタイプの弁護士は依頼者の方にとって良くないと言えるでしょう。

 ご相談時には,これらの点を意識しながら,事件の見通しの説明等を聞いていただき,信頼できる弁護士を選んでいただくと良いと思います。

千葉県民は運転が荒い?

2016-10-12

はじめに

 当事務所の紹介ページでも記載しているとおり,当事務所はJR千葉駅から徒歩2分の場所に,交通事故事件を重点的に取り扱う法律事務所として設立されました。

 交通事故事件は専門性が高い分野ですので,千葉で交通事故被害に遭われてお困りの方は,是非弁護士にご相談いただきたいと思います。

 このコラムでは,交通事故事件に関する様々な情報を発信していければと考えております。

 初回は,当事務所がある千葉の交通事故の状況について見ていきたいと思います。

 

千葉県民の運転に対するイメージ?

 千葉県民の運転マナーについて,みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか?

 私は,5年ほど前に千葉市内で賃貸のアパートを探すために不動産業者の車に乗って信号待ちをしていたところ,運転をしていた担当者が突然横にいた原付の運転手に文句を言われたことがありました(原付の進路が狭くなったのかもしれません。)。

 そのとき,担当者が,「この辺りは運転が荒い人が多いんですよねー。」と言っていて,それ以来,私も何となくそういった印象を持っていました(幸いなことにこれまで特に事故に巻き込まれそうになったことはありません。)。

 そこで,改めて千葉の交通事故の状況について見ていきたいと思います。

 

千葉県内の交通事故の状況

 千葉県警の発表によると,平成27年の千葉県内の交通事故死者数は180人で,これは,愛知県の213人,大阪府の196人に次いで3番目に多かったとのことです。

 この数字を見ると,千葉県はやはり運転が荒い人が多いのかな?という風に見ることもできますが,都道府県によって人口もかなりバラつきがありますので,警察庁が発表している平成26年のデータを元に,そのあたりを比較してみましょう。

 これを見ると平成26年の交通事故死者数は182人(全国4位)で,交通事故の負傷者数は全国で9位となっており,やはり全国的に見ても多いといえます。しかし,負傷者数を人口10万人当たりで見ると,千葉県は38位で決して多くはありません。

 もちろん,実際には,車の利用頻度や道路状況等によっても事故が起きやすいかどうかは変わってきますので,この数字のみで運転のマナーが分かるわけではありません。

 しかし,いずれにせよ,千葉県民が他の県に比べて交通事故を起こしやすいかというとそうではなく,千葉県民の運転が荒いとまでは言えないのではないかと思います。

 

まとめ

 このように,データを見る限り,千葉県民の運転に問題があるとは言い切れませんが,悲惨な死亡事故の件数が多いことに間違いありません。

 死亡事故を可能な限りゼロにしていくべきであることは言うまでもありませんので,千葉県が死亡事故の件数が多い地域であることを肝に銘じて安全な運転を心がけましょう。

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