Archive for the ‘重度後遺障害コラム’ Category

重度後遺障害と家屋等の改造費

2021-11-12

 交通事故の被害者が、四肢麻痺や高次脳機能障害などの重度の後遺障害を残した場合、後遺障害があることを前提に生活をしていくために、自宅の改築や自家用車の改造が必要となることがあります。
 車イスで屋内を移動するためのバリアフリー化や介護仕様の浴槽やトイレの設置、エレベーターの設置といったものが考えられます。

 これらは、事故がなければ発生しなかったものですし、重度の後遺症が残ったのであれば、このようなことが必要になることも十分予想されますので、加害者に対して、家屋改造費や自動車改造費を損害として請求することが可能です。
 しかし、無制限に改造費の実費が請求できるわけではなく、認められる範囲には制限がありますので、この点について弁護士が解説します。

改造の必要性

 言うまでもありませんが、自宅の改築や自家用車の改造が必要でなければ、賠償の請求はできません。
 そのため、後遺障害の程度が重度で、かつ、在宅介護になる場合で、通常の家屋や車両では生活が困難である必要があります。
 また、被害者本人が生活するために必要であったり、介護のために必要であるということが言えなければなりません。

 介護とは無関係に自宅をリフォームした部分については、賠償として認められません。

金額の相当性

 改造自体が必要であったとしても、標準的な設備・材料を超えて、高級な仕様にした場合など、賠償の範囲が標準的な仕様と同等の額に限られて、一部の費用が自己負担となる可能性があります。

介護等の目的以上にプラスになる部分

 自宅を全面的に改築したり、新築するような場合、被害者の介護等の目的のためだけでなく、その他の部分もそれまでのものよりも新しくなり、耐用年数が伸長し家屋の価値も向上するといった、後遺症とは無関係の部分でもプラスになる部分が生じてきます。

 重度後遺障害が残りつつ、被害者が自宅での生活を継続する場合、被害者本人だけでなく、その家族が同居しているケースが多いと思われますが、このプラスの部分について、同居する家族もその恩恵を受けることになります。
 このような場合、加害者側がそういった部分まで負担しなければならない理由はないので、改築または新築の費用の全額ではなく、一部が減額されることになるでしょう。

 被害者としては、事故がなければそのような工事を行うことはなかったのだから、加害者が全て賠償すべきだと思われるかもしれませんし、感覚的には理解できるところです。
 しかし、損害賠償の場面で可能なのはあくまでも損失の補てんであり、元の状態よりもプラスになることまでは想定されていないことと、賠償の範囲は相当といえるものでなければならないという大原則があります。

 そのため、被害者としても、改築・新築等を行う場合、被害者の後遺症のために必要な工事かどうかをよく検討して、後遺症と必ずしも関係がない部分が含まれる場合には、その部分が賠償の対象とならない可能性があることを考慮した上で工事を依頼するようにした方が良いでしょう。
  特に、建て替えを行ったような場合、被害者の後遺症とは無関係に利便性・価値が向上する部分が多く含まれると思われますので、全額が賠償される可能性は低くなるでしょう。

 また、介護のための家屋を新築するために土地を購入したような場合、土地自体に資産としての独立した価値がありますので、購入費用が全額賠償される可能性は非常に低いと考えられます。

関連記事

重度の後遺症と介護費用