交通事故の損害賠償の目的

2016-11-25

 みなさんも,様々な弁護士のホームページをご覧になられて,交通事故で弁護士に依頼するメリットは果たしてどこにあるのかということに関心をお持ちだと思います。

 交通事故に関する弁護士のホームページを見ると,「弁護士に依頼することで賠償金が増額します!」といった言葉がよく目につきます。

 これ自体が誤りというわけではなく、たしかに交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットはあります。

 しかし、弁護士に依頼することで「儲かる」という意味ではありません。

 今回は,この点についてご説明させていただきたいと思います。

損害賠償の目的は原状回復

 前回のコラムで,交通事故事件の加害者への請求は損害賠償の請求であり,損害賠償の請求をするためには,被害者が様々な証拠を元に,自分の主張する事実を証明することが重要であるということについて触れました。

 そして,損害賠償の条件として,①被害者の権利が侵害されたこと,②この行為について加害者に故意または過失が認められること,③それによって損害が発生したこと及びその金額,④①と③の間に相当因果関係があることが必要であると述べました。

 この中で,請求できる金額に関する部分は③であり、損害賠償の目的は、交通事故に遭う前の元の状態に戻すことにあるのです(原状回復)。

 したがって、加害者に対して請求することができるのは,あくまでも自分に生じた損害分のみということになります。

損害賠償の範囲は実際に生じた損害分のみ

 例えば,交通事故に遭う前の元の状態を100だとして,交通事故によって20の損害が生じたとします。

 この場合に加害者側に対して賠償金を請求することができるのは損害分の20だけで、それを超えて30とか40とか請求できるわけではありません。

 どんなに上手くいっても、元の状態を超えることはありません。

 外国では,懲罰的な意味合いも含めて,実際に被った損害の範囲を超えて賠償を受ける可能性もあり得ますが,少なくとも日本ではそのような考え方は基本的に採られていません(最高裁平成9年7月11日判決)。

損害を証明するのは難しい

 このように、元の状態に戻すことを求めるだけであれば、何も難しいことはないように思えます。
 実際に、車の修理代を支払ってもらう程度であれば、難しいことはないと言っていいでしょう(修理代が高いとか安いとかいった問題がありますが、通常は修理工場と保険会社が協定といって料金の擦り合わせを行うので問題となりません。)。

 しかし、交通事故の損害賠償の請求は、そのように簡単なものではありません。

 その理由は,実際に生じた自分に生じた損害を完全に把握するのが現実的にはかなり難しく、損害を証明することも容易ではないからからです。

 例えば,事故で後遺症が残ったり,被害者の方が亡くなった場合の賠償の中に,逸失利益というものがあります。

 これは,被害者が将来得られるはずであった収入が,事故によってマイナスになることについて補てんするものです。

 1年後や2年後の減収については,あるいは程度予測できるかもしれません。しかし,事故当時まだ仕事についていなかった人や,家事という仕事はしていたものの,現金で収入を得ていなかったような人に生じた損害についてはどうでしょうか?

 そもそも,生じた損害を金銭的に評価することが難しい上に,そうでなくても将来どうなるのかを測るのは非常に難しいと言えます。

 また,金銭的な評価が難しいという意味では,精神的な損害(慰謝料)もその代表的なものということになります。

 そして、ある程度賠償金の計算ができたとしても、その裏付けが必要になります。

 先ほどの逸失利益の関係では、将来にいくらの損害が、どの程度の期間継続して発生するのかを証明する必要がありますが、これはケースによって非常に難しい問題があります。

 その結果,保険会社からは、損害が正しく評価されずに、著しく低い賠償金の額が示されたりするのです。

弁護士に依頼する必要性

 こうした中で,弁護士が行うべきことは,実際に生じた損害を的確に金銭的に把握し,それを証拠によって証明するということです。

 これは,過去に積み重ねられてきた事例を研究し,どのような理屈を組み立て,必要となる証拠はどうなるかということを分析していく作業です。

 こうした作業によって,可能な限り損害を証明し,相手方や裁判所を納得させることによって,適切な賠償を実現していくのです。

 このような示談交渉や訴訟は専門的な知識と経験を必要としますので,結果として弁護士に依頼することで経済的なメリットが生じてきます。

 適切な賠償がどのようなものなのか気になる方は一度弁護士にご相談ください。

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