後遺障害認定の異議申立て

後遺障害認定の異議申立てとは

 後遺障害の認定手続には、事前認定と被害者請求という2つの方法がありますが、いずれの方法でも、損害保険料率算出機構の自賠責調査事務所によって調査が行われ、調査結果の連絡を受けた保険会社が、被害者に対して後遺障害の認定結果を通知することに変わりはありません。

 事前認定の場合は加害者側の任意保険会社が、被害者請求の場合は加害者側の自賠責保険会社から、それぞれ通知されることになります。

 この認定結果が、被害者に残った後遺症に合致したものであれば、通知された結果を前提に保険会社との交渉や加害者との裁判に臨むことになります。

 多くの場合、提出した資料を元に、適切な認定がされていると思われますが、たまに、実態と明らかに合っていないという場合があります。

 その場合、認定結果を不服として、等級の変更を求めることが可能です。

 この不服申し立ての手続のことを「異議申立て」と呼んでいます。

異議申立ての性質

 この「異議申立て」手続ですが、被害者請求の場合、実態は再請求(やり直し)になりますので、新たに支払請求書を提出するとともに、なぜ等級の認定が変更されるべきなのか、その理由が分かる新たな資料を添付することになります。

 また、初回の被害者請求では、高次脳機能障害の事案や非器質性精神障害の事案等、特殊な事案でなければ、各地の自賠責調査事務所で対応可能ですが、異議申立て手続の場合、弁護士や専門医、交通法学者、学識経験者等が参加する「自賠責保険審査会」(専門部会)でより慎重に検討されることになります。

 ※通常の被害者請求よりも時間がかかることが多いです。

異議申立てが成功する確率

 2020年度(2019年)の統計によると、自賠責保険の後遺障害の専門部会(高次脳機能障害・非器質性精神障害を除く)での審査結果は、審査件数12,307件に対し、等級変更あり1,911件、等級変更なし10,032件、再調査264件、その他100件となっており、8割以上が「等級変更なし」ということですから、大半は変更が認められていないといえます。

 そもそも、異議申立てで結果が覆るということは、初回の判断結果が「誤っていた」ということを意味しますが、基本的に後遺障害認定は中立公正な立場で専門的な機関が行うものであり、審査の内容自体も基本的にはゼロか100かという性質のものですので(高次脳機能障害のような一部の障害を除き、裁量の働く範囲は多くありません)、誤りが生じる可能性が低いものです。

 このことから、やみくもに行って認められるようなものではないことがお分かりいただけると思います。

異議申立てが認められるケース

 事前認定でも被害者請求でも、初回の請求時に、後遺障害診断書のほかに診断書・診療報酬明細書、XP,CT,MRIといった画像資料は既に提出されています(提出していなければ、自賠責調査事務所から提出を促され、提出しなければ手続が進みません)。

 そして、通常であれば、これだけの資料を提出しておけば、後遺障害等級の認定は可能です。

 したがって、異議申立てが認められるのは、「上記の必須書類を提出しただけでは認定されないような微妙な案件で、追加の資料を出すことで認定のために不足している部分を補うことができるもの」ということになります(初回認定時に評価の誤りや見落としがある可能性もゼロではありません)。

異議申立てで行うべき活動

 異議申立てが成功する可能性のあるのが上記のようなケースだとすると、追加でどのような資料を提出することができるのかが重要となります。

 被害者の仕事や日常生活への影響度合いを具体的に示すため、被害者本人が現状を詳しく記した書面を提出するということも考えられます。

 しかし、被害者本人が作成したものだと、自分にとって有利になるようなことしか書かないのは当然であり、場合によっては多少誇張があったりする可能性もあります。

 そうすると、やはり本人が作成した文書では資料の説得力としては「弱い」ということになります。

 そこで、他にも後遺障害の存在を示す証拠を添付していく必要が出てきます。

 具体的には、カルテや主治医の意見書といったものを提出したり、レントゲン画像等の見方が難しい事案では、外部の医師に協力を仰ぐといったことも検討します。

 この点は、ケースバイケースで考えるほかないので、検討には専門的な知識と時間を要することになります。

 実際に弁護士が異議申立てを行う場合、これらの資料を適切に評価してもらうため、異議申立ての趣旨をまとめた書面を作成し、併せて提出していくことになります。

 逆にいうと、このように、後遺障害認定のための裏付けとなる追加の書類というものが想定できないケースは、異議申立てに適した事案ではないということになるでしょう。やみくもにおこなってもほとんど認められることはないことは既に見たとおりです。

まとめ

 異議申立ては、簡単に認められるものではありませんが、同種の事案と比べて後遺症が残ったとしても不思議はないといった特殊な事情があるような場合や、初回の認定時には行われていなかった有力な検査が残されているような場合には、やってみる価値はあります。

 その場合、後遺障害の認定を受けられるための要件がどのようなものなのかを頭に思い浮かべながら、有効な資料がどういったものになるのかを検討します。

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