死亡事故と年金逸失利益

 死亡事故に関して加害者に損害賠償請求することができるものの中で代表的なものは,慰謝料と逸失利益です。

 このうちの逸失利益とは,事故に遭うまで収入を得ていた人が,事故に遭ったことによってそれが得られなくなったことによる賠償を求めるものです。

 したがって,請求することのできる金額は人によって異なり,基本的に「事故前にどれだけ稼ぐ力があったか」に依存することになり、事故前の年収に依存することになります。

 しかし,交通事故の死亡者数の約半数が高齢者であるという現在の状況では,必ずしも被害者が仕事をしているとは限らず,年金収入で生活をしていたということも珍しくはありません。

 また、この年金収入は、本人だけでなく、その扶養する家族を養うことにも使用されるため、被害者が死亡し、年金の受給権を失う結果、扶養されていた家族にとって大きな損害が生じます。

 そこで、死亡事故の場合に、年金収入を元に逸失利益を請求することができるのかが問題となります。

年金は逸失利益といえるのか

 かつては,「年金はあくまでも被害者本人のために支払われる性質のもので,逸失利益としての相続人からの請求は認められないのではないか」とか、「年金は働いて得た利益ではないので逸失利益として認めるべきではない」といった議論がありました。

 しかし、上述のとおり、年金が被害者本人のためだけでなく、被害者の年金収入に生活を依存している家族に対しての生活補償の意味合いもあるため、現在では、老齢基礎年金などについて逸失利益にあたることに特に争いはありません(最高裁平成5年9月21日判決)。

 また、国民年金法による障害基礎年金や厚生年金保険法の障害厚生年金についても逸失利益にあたるとされています(最高裁平成11年10月22日判決)。

 しかし,被害者が生前受け取っていた年金がすべて逸失利益として請求することができるかというとそうではありません。

逸失利益として請求できないもの

 被害者本人が死亡までに受給していた障害年金の中には,加給年金といって,年金を受け取る人によって生計を維持されている65歳未満の配偶者や子供がいる場合に年金額が加算されるものがありますが,この加給分については逸失利益として請求することはできないとされています(前掲最高裁平成11年10月22日判決)。 

 その理由として、これらが、「受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である」こと、「子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存在が確実なものということもできない」ことを挙げています。

 また、遺族厚生年金についても、「受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的もっぱら受給権者自身の生計の維持を目的とするものであること」、「受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的である」ことから、社会保障的性格の強い給付であること、「受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない」ことを理由として同様に逸失利益として請求することができないとされています(最高裁平成12年11月14日判決)。

生活費控除率

 死亡逸失利益の請求の場合,死亡によって本人の生活費が不要になったことを考慮して,賠償金額からの生活費の控除が行われますが,年金の場合,生活費に充てられる割合が大きいという判断から,仕事による収入の逸失利益の場合と比較して,より高い控除率が設定されることが多いです。

損益相殺

 交通事故で損害を被ると同時に、交通事故によって利益を得た場合、損害と利益の間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を相手方へ請求できる損害額から差し引くという処理が行われることになります。

 そのため、死亡によって遺族年金の支給を受けているような場合、その額を損害賠償の請求額から差し引くことになります(最高裁平成5年3月24日判決)。

 もっとも、差し引く範囲は、「支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものであるが、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除することを要しない」とされています。

年金受給前の事故

 逸失利益の賠償額は,基本的に事故当時の収入を元に計算していきますが,年金を受給する前に亡くなってしまった場合,逸失利益を請求することは可能なのでしょうか?

 この点については,すでに受給資格を取得していたなど,将来年金を受け取れることが確実であったような場合には請求が可能です。この点は見落としやすい部分ですので注意しましょう。

 以上のように,死亡事故が発生した場合,年金分についても逸失利益として損害賠償請求をすることが可能ですが,理論的に分かりにくい部分があります。

 

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