重度の後遺症と介護費用

はじめに

 交通事故で、四肢麻痺や脳に対する障害など、被害者に重い後遺障害が残った場合、事故前のように生活することができず、介護を必要とする状態となることがあります。

 この場合、入院や施設への入所、自宅での家族による介護といったことが必要となり、そのための費用や家族への負担が非常に重いものとなります。

 事故の賠償では、この部分についても支払ってもらう必要があることはいうまでもありません。

 しかし、金額が大きい分、額の算定にあたって争いになりやすい部分でもあります。

 ここでは、交通事故の将来介護費用の算出を巡って問題になることを弁護士が解説します。

介護費用の請求が認められる後遺障害

 まず、介護費用を請求するからには、介護が必要になる程度の重度の後遺障害が残ったことが条件となります。

 自賠責保険の後遺障害の基準では、自賠法施行令別表第一の1級と2級が介護が必要な後遺障害として定められており(別表の第一と第二の区別は介護が必要かどうかによります)、これらの等級に該当する場合には問題となることは少ないでしょう。

 問題は、別表第二の後遺障害で、特に3級以下の後遺障害の場合です。

 3級以下といっても、後遺症の程度は決して軽いわけではありません。

 例えば、3級1号だと、「片方の目を失明し、もう片方の目の視力(矯正視力)が0.06以下となったもの」とされていて、3級2号は「咀嚼又は言語の機能を廃したもの」であり、どちらの場合も通常どおり生活することは不可能と言ってよいでしょう。

 5級でも、「1上肢の肩関節、ひじ関節、手関節の全てが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したもの」ですので、一人で生活するのには相当な困難を伴います。

 そうすると、別表一の介護が必要な後遺障害として定められていないからといって、介護の必要がないかというと、そう単純ではないことが分かります。

 特に、高齢者の場合、事故の前から若年者と比較すれば身体能力が低下しているため、後遺障害そのものからすれば介護までは必要ないように思われる場合でも、自立して生活することができなくなるということがあります。

 そこで、3級以下の後遺障害が残った場合でも将来介護費用が賠償として認められるのかが問題となります。

 この点についてはっきりとした線引きがあるわけではなく、実際の被害者の状態や介護がなかった場合にどのような問題が生じるのか等を具体的に見ていくほかありません。

 将来介護費用が認められる場合でも、後述するように、後遺症自体の程度が軽くなるにつれて、認定される介護費用の額が小さくなることがあります。

将来介護費用の額

 介護が必要になった場合、大きな分類として、施設での介護と自宅での介護の2つがあります。

 このうち、施設での介護の場合には、実際にかかることになる実費を元に計算することになります。

 これに対し、自宅で介護を行う場合、通常は対価が発生しませんので、過去の裁判例を元にした相場にしたがって単価が設定されることになります。一般的には8000円程度が目安となってきますが、この部分は後遺症の程度などによって金額に幅が生じるところで、2000円~3000円程度とされる例も見られます。

加害者から将来介護費用を受け取る前に被害者が死亡した場合

 重度の後遺症を残した被害者の場合、健常な人と比べて身体機能が著しく低下しているため、加害者から賠償金を受け取る前に亡くなるということも少なくありません。

 この場合、加害者側に請求することができるのは、実際に生じた介護分までで、亡くなった後の期間については賠償の範囲には含まれないとするのが判例です(最高裁平成11年12月20日判決)。

 この点は、逸失利益については就労可能年限よりも前に被害者が亡くなった場合でも金額に影響しないとされているのと扱いが異なります。⇒「後遺症を残した被害者が亡くなった場合の賠償額

 さらに、このようなケースでは、死亡事故として取り扱うべきなのか、重度の後遺障害の事案として取り扱うべきなのかといった問題も生じます。この違いは、慰謝料や逸失利益の算定方法に現れてくることになります。

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