交通事故に強い弁護士の選び方
交通事故事件は,賠償金額の算定にあたって様々な法律的な問題が生じることがありますし,保険の仕組みや事故状況やケガの分析等が問題となることがあり,かなり専門的な分野です。
そのため,どんな弁護士でも簡単に処理ができるというものではありません。
それでは,交通事故に遭ったとき,どのような弁護士に依頼したらよいのでしょうか。
ほとんどの方にとっては,法律事務所を普段利用することがあまりないかと思いますので,これから弁護士に依頼しようという方にとっては一番悩むところだと思います。実際問題、いい弁護士を見分けることは非常に難しく、これといった方法があるわけではないのですが、ここで記載しているポイントが、弁護士を選ぶ際のヒントになるのではないかと思います。
ホームページ上のアピールポイントについて
法律事務所を選ぶ際のポイントは,様々なものが考えられます。
例えば,「これまでにこんな実績がある!」,「医学に強い!」,「保険会社の代理人を務めていた!」等々。
いずれも,あった方がよいかもしれませんが,こういった宣伝だけで交通事故に強い法律事務所であるかどうかを判断するのは難しいと思います。
なぜなら,事件は1つとして同じものはなく,過去の実績や知識等が必ずしもご自身の件について活かされるかは分からないからです。
例えば,医療関係者との連携をうたっていても,全件に外部の医師が関わっているわけではないでしょう。賠償の交渉や裁判の場面で、医学的な特別なアプローチが必要な場面というのは、決して多くないのです。
また、医師であっても、様々な専門分野があり、専門外の分野には精通しているわけではないのですから、個々の弁護士が、交通事故で問題となり得る症例の医学的に知識を全て備えていることなどあり得ません。ただ、一定の知識があることで、大まかな見通しをつけられる場合があることは事実です。
いずれにせよ、これらは一応の参考程度に考えていただいた方が良いと思います。
インターネットの口コミ
最近は、弁護士を選ぶときにインターネットを利用される方も多く、その際に書き込まれている口コミを参考にされる方も多くいらっしゃると思います。
私自身、飲食店などを探すときに口コミを参考にすることがあります。
しかし、当事者になると分かるのですが、口コミを過度に信用するのは危険です。
当事務所のGoogleの口コミは、2022年7月現在で3件、平均で4.7となっています(弊所から削除依頼をしたことはないのですが、レビューの中には削除されたものもあります)。これに対し、実際に依頼を受けてきた件数は250件を超えており、相談のみで終わった数も含めると500件を超えています。
このことから、実際にレビューする人は、割合的にごく一部であることが分かります。つまり、全体的な意見を反映したものとは言い難いです。
その上で、レビュー自体、ある程度操作することが可能だということも考慮しておかなければならないでしょう。
皆さんもスマホでアプリを利用されていれば経験があるのではないかと思うのですが、アプリの運営からレビューをしてほしいというメッセージが来るのは、何度か利用していたり、課金をしたタイミングだったりします。これらの人は、そのアプリを使っていてある程度満足しているから継続して使用したり課金をするわけです。つまり、高評価のレビューが期待できる人達です。ほとんどの人がレビューを行わない中で、こうした人達に限定してレビューのオファーをしていれば、実態よりも高い評価となり得るのです。
一方で、他の事務所で低評価のレビューを見ると、実際に依頼したわけではなく、相談だけで終わったのではないかと思われるものが目立ちます。
法律事務所にご相談に来られる案件でも、見通しが厳しいと言わざるを得ないものがあり、そうしたケースについて、中途半端な回答をしてしまうと、かえってご本人にとってマイナスになりかねないため、弁護士としてはある程度はっきりとできないことを告げる必要があります(依頼前の見通しは、敢えて少し厳しめに伝える弁護士も多いと思います)。
その場合、お問合せいただいた方の心情にもある程度配慮が必要なことは言うまでもないのですが、言い分が認めてもらえなかったことにはなるので、少なくとも気分良く相談を終えるということは難しいでしょう。その結果、そうした方からの評価は低くなってもおかしくはありません。
しかし、それが実際に依頼した場合の弁護士の仕事ぶりを評価するものかというと、そうはいえないと思います。
他の法律事務所がどうしているのかは分かりませんが、口コミというものが元々このような性質があるため、あまり信用することはできないでしょう。
さらに、法律事務所の性質上、法律や裁判上のルールの定め方や証拠の不足などで、どうしても相談者の希望に沿えないケースというものは存在します。そうした場合、依頼自体お断りせざるを得ないこともあるのですが、このような場合に高評価のレビューを受けることは難しいでしょう。また、依頼者にとっていい結果であるということは相手方にとっては悪い結果である可能性もあるわけで、そうした相手方が悪いレビューをすることもありえるのです。
このような法律事務所の特性からすれば、一定数の低評価のレビューがあったとしても、何ら不思議ではないのですし、実力に問題があるとも限らないのです。
レビューを参考にするとすれば表面的な部分で、例えば、話し方が横柄だとか全く電話がつながらないといった書き込みが複数あるような場合は、気を付けた方がいいかもしれません。
経験による違い
弁護士も,経験によって違いが生じてくることは言うまでもありません。
では,この違いがどのようなところに出てくるかというと,私自身は,①依頼を受けた段階での見通しの正確さ,②事件処理のスムーズさに現れてくると考えます。また、複雑な事案では、特殊な法律の理論を用いる場面がでてきたり、原理原則をきちんと理解できていないと、個別の事案に即した対応ができないということもあります。
見通しの正確さ
1つ目の依頼時に把握する見通しについてですが,経験が浅い段階だと,「できる」ことには目がいくのですが,「できない」ことについては,なかなか分からないものです。
「できる」ことの把握は,それほど難しくありません。依頼者の方の話をよく聞けば,「こういうところで困っている」ということが分かるはずなので,それを元にリサーチをすれば,請求自体が可能かどうかはある程度分かります(本人の気付いていない損害があるような場合には注意が必要です)。
これに対して,「できない」理由を依頼者本人が把握することは難しいため,話を聞いただけですぐに分かるわけではありません。様々な事件を対応してみて,専門書を読み込むことで,分かってくるものです。
そのため,ある程度そういった経験を積んでくると,法律相談のときも「できない」理由がないかを頭においているため,「他にこういった事情はありませんか?」といった問題となりそうな事情についても先回りして聞くことができるようになってきます。
比較的簡単な例を挙げると、慰謝料の計算で最も重要なのは、事故の発生から治療を終えるまでの期間の長さです。そのため、基本的には、「事故日」と「最終通院日」が分かれば、慰謝料の計算は可能です。
しかし、この2点だけを聞いて安心してはいけません。中には、通院の間隔が1か月以上空いていたり、極端に通院の頻度が少ないような場合や(どれくらいが妥当かはケースによります)、整形外科の治療は早々に切り上げ、整骨院ばかり通っていたというようなケース、実際には非常に軽微な事故であるにもかかわらず、自賠責保険に収まる範囲で通院をしていたために保険会社が特に打ち切りを言ってきていなかったに過ぎないといったケースがあります。
このようなケースでは、単純に通院期間の長さだけから慰謝料の額を計算するのが妥当とは思われれないことがありますので、見通しはやや控えめにならざるを得ません。
その結果,依頼を受ける時点で,「こういう請求をすることができますが,実務上,この事情はマイナスに評価されることがありますので,獲得できる金額としては,この程度の幅を見ておいた方がいいと思います」といったご案内をすることができるようになります。
これに対して,経験が浅いと,「こういう請求ができます。」というところまでしか言うことができません。一見すると頼もしいのですが,対応を進めていく中で,当初は想定しなかったようなことが相手から指摘されて分かり,結果として妥協せざるを得ないということが出てきます。
結果だけを見ると,それほど変わらないということも多いと思いますが,経験があるかどうかで,当初の見通しどおりであったかどうかというところに差が出てきます(もちろん,経験を積んでも見通しの多少のずれは生じます)。
弁護士からできると言われて当初期待していたものと、実際の結果がかけ離れたものだったときに,「まあ,しょうがないか」と簡単に受け入れることができるでしょうか?
弁護士の経験は,最終的な結果への納得感に影響してくるのです。
事件処理のスムーズさ
2つ目の,事件処理のスムーズさというのは,同じような事件を取り扱っていると,同じような事務処理をしなければならないことが多々出てきます。
そのときに,経験が浅いと,その都度やり方を覚えたり,一から書類を作ったりしなければなりませんが,経験を積んでくると,どこにどういった問い合わせをしなければならないのか,どういう書式を使えばいいのかというノウハウが蓄積されてきますので,手続きがスムーズに進められるようになります。
結果として,解決までの時間も早くなることが期待できます。
依頼者の方への説明も分かりやすいものとなるでしょう。
「大手の事務所」?
交通事故のご相談を多くお受けしている中で、「大手の事務所に相談してみたけど、納得できなくて…」とおっしゃる方がいらっしゃることがあります。
ここで疑問に思うのは、「大手の事務所」とはどういった事務所のことを指しているのか?ということです。弁護士の認識では、交通事故の分野で、「大手の事務所」といえるような事務所はないと思うからです。
ごく一部、交通事故を専門的に扱っていて、ノウハウも豊富な事務所も存在しますが、「大手の事務所」と皆さんがイメージされている事務所とはおそらく異なります。
弁護士の間でも、「大手の事務所」といった認識を持たれている事務所は存在しますが、それは、上場企業などを中心とした企業向けのサービスを中心に取り扱っていて、大規模な人員を動員しているような事務所のことで、そういった事務所は、通常交通事故の事案などは取り扱いません。
そもそも、交通事故の事案は、知識や経験は必要ですが、マンパワーが強く必要とされるような分野ではありません。
したがって、交通事故の分野には、「大手の事務所」というものは存在しないと考えていただいた方が良いです。
おそらく、相談に来られた方は、「全国に支店を展開している」、「事務所に所属している弁護士の数が多い」といったことから、そういう事務所のことを「大手の事務所」と考えられたのだと思いますが、このような要素と実際に担当する弁護士が交通事故に強いかどうかは無関係であり、実際には経験の浅い弁護士も少なくありません。
もちろん、全国に支店を出しているような事務所にも交通事故に強い弁護士もいるのではないかと思いますが、少なくとも「大手の事務所だから交通事故に強い」ということは言えないのです。
取扱い件数
これまでの自身の経験からすると、同種の事案(交通事故であれば、交通事故の事案)をどれだけ取り扱ってきたかは、弁護士の能力を測る上で非常に重要なポイントになります。
これは、上で書かせてもらっている経験の違いに直結する事柄です。
ただし、取り扱い件数で注意したいのは、「実際にその弁護士がどれだけ関与しているか」です。
事務所単位での実績の記載からは、実際に担当する弁護士の実績がどの程度かは分かりません。
言うまでもありませんが、いい加減な事件処理をしていては、いくら数をこなしたところでそれに相応しい能力を身につけることはできません。
法律事務所の中には、弁護士に依頼したものの、手続自体は弁護士資格のない事務員がほとんど行っており、電話をかけても事務員としか話せないということもあるようです。
実績を重視して弁護士を選ばれる場合は、実際にその弁護士がどのように関わってきたか、依頼後のやり取りはどうなるのかといった点をご相談時に確認していただくとよいです。
相談時のポイント
このように,交通事故に強い弁護士を事前に見分けるのは簡単なことではありません。
これを見極めるためには,まずは一度ご相談いただき,色々と話を聞いてみるのが一番です。
相談に来られる方は,何か分からないことや困ったことがおありだと思いますが,ご相談の際は,そういった質問に対して弁護士が,
- 適切に回答をすることができるのか,
- 分かりやすい言葉で説明してくれるのか,
- 具体的な方策を示してくれるのか
- 裁判を含めて,どれくらいの費用でどこまで対応してくれるのか
といった点に着目してください。
交通事故事件は,ご依頼いただいた方にとって最良の結果を獲得しようと思うと,様々なことを考慮しなければなりません。
これを自分の言葉で分かりやすく説明することができ,適切な方法をきちんと実行することができる弁護士であれば,交通事故に強い弁護士といえるのではないでしょうか。
どんなに交渉を尽くしても,話し合いではまともな解決にならないような相手もいます。そのような場合に,裁判までは対応できないというようなところには依頼はしない方が良いと思います(裁判自体は可能でも,高額な追加費用の負担を求める等)。
最終的には,印象の問題にもなりますが,当事務所では,上記のような点を心がけて日々業務を行っておりますので,一度お気軽にご相談ください。