死亡事故と相続について

交通事故によってご家族を亡くされた場合,損害賠償という視点からはどのような手当てがなされているのでしょうか。

 

遺族固有の慰謝料と被害者本人の慰謝料

ご遺族の方にとって,大切な方を亡くされた精神的な苦痛は計り知れませんが,精神的な苦痛に対する損害賠償は,慰謝料という形で行われます。

残された家族自身の精神的な苦痛に対する賠償は自ら請求することができますが,それだけでなく,亡くなった被害者本人の精神的な苦痛に対する慰謝料についても,相続するという形で請求することができます。

かつては,被害者本人の慰謝料を相続することができるのかということが問題とされたこともあったのですが,現在では相続することができるということで実務上は決着がついています。

遺族固有の慰謝料よりも被害者本人の慰謝料の方がかなり高額に算定されることが一般的です。

 

遺族の扶養利益と被害者本人の逸失利益

ご遺族の方の中には,亡くなった方の収入によって生計を立てていたという方も少なくないと思います。

そのような場合,被害者が亡くなることによって,それまでと同様に生活をしていくことが困難になります。

このような,扶養が受けられなくなったことによる損害については,扶養利益の侵害として損害賠償を求めることができます。

ただし,この請求によると,被害者の収入のすべてが配偶者や子供の扶養にあてられるわけではないことから,事故に遭わなければ被害者本人が得るはずであった利益(逸失利益)の請求をするよりも金額的には小さくなると考えられます。

したがって,きちんと賠償をしてもらおうと思えば,被害者本人の逸失利益として請求した方が良いことが多いです。

この被害者本人の逸失利益の請求は,相続によって可能になります。

 

相続との関係

このように,交通事故でご家族を亡くされた場合の損害賠償請求は,必ずしも相続を前提とするものではありませんが,生じた損害のすべてについて加害者に責任を負ってもらうためには,相続人として請求をしていく必要があります。

ただし,亡くなった方の債務等の関係で,相続をすることが事実上できず,相続放棄をせざるを得ないということもあります。

相続放棄は,「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(民法915条)に家庭裁判所に対して申し立てる必要があります。

相続放棄をするとはじめから相続人ではなかったことになりますので,相続放棄をした場合には,相続人としての地位では損害賠償請求ができなくなります。

 

相続人の範囲と請求について

相続人としての地位にもとづいて請求をすることになると,いったい誰が請求することができるのかという請求権者の問題が生じてきます。

相続人の範囲は法律で定められていて,

  1. まずは配偶者と子供,
  2. 子供もその代襲相続人もいなければ配偶者と直系尊属,
  3. さらに直系尊属もいなければ配偶者と兄弟姉妹となります(民法887条,889条,890条)。

そして,金銭その他の可分債権は,法律上当然に分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとされていますので(最高裁昭和29年4月8日判決,同平成16年4月20日判決),各共同相続人が相続分に応じて請求をしていくことになります。

 

生命保険金について

生前に生命保険に加入されていた方が事故で亡くなられた場合,生命保険金が支払われることになります。

 

1 相続との関係

生命保険金と相続との関係なのですが,生命保険金請求権は,受取人が固有の権利として取得するものですので,相続財産の対象とはならないとされています(最高裁昭和40年2月2日判決)。

また,生命保険金は基本的に特別受益の対象とはならないと解されていますが,他の相続人との間で著しい不公平が生じるような特段の事情がある場合には,

特別受益の場合に準じて,持戻しの対象となることがあります(最高裁平成16年10月29日判決)。

持戻しになると,具体的相続分の算定にあたって,持戻し分を加算して計算することになります(持戻し分が遺産分割の対象になるわけではありません。)。

 

2 賠償との関係

損害賠償は,事故の前の状態に戻すことを目的とするものですので,それ以上に事故によって利益を得ることは認められていません。

したがって,加害者からの賠償以外で事故によって何らかの利益を得ていた場合,加害者に対して請求することができる額からその分を差し引くことになります。

そこで,生命保険金を受け取ったことにより,その分請求できる額が減ってしまうのかが問題となりますが,生命保険金は賠償金の請求にあたって差し引かなくてもよいとされています(最高裁昭和39年9月25日判決)。

この点は,人身傷害保険金を受け取った場合に保険代位により請求可能額が減ることとは扱いが異なりますので注意が必要です。

 

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