肩・ひじ・手の関節の後遺症(12級6号など)の賠償

2017-02-15

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が残ることは少なくありませんが,後遺症が残ったからといって,全てが加害者に請求することができる損害賠償の対象となるとは限りません。

 自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうかがポイントとなってきます。

 今回は,交通事故で比較的多く見られる後遺障害の中でも,上肢の運動障害(可動域制限)について,認定された後の損害賠償の問題も含めて見ていきます。

 

上肢の関節の機能障害(運動障害)に関する自賠責保険の基準

 上肢の関節の機能障害(運動障害)が後遺症として残った場合の,自賠責保険における後遺障害等級は以下のとおりです。

(「労災補償 障害認定必携」参照)

 

6級6号

1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

8級6号

1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

10級10号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

12級6号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

※骨折部にキュンチャー(髄内釘)を装着しているか、金属釘を用いたことが機能障害の原因となっている場合は、これらの除去をしてから等級の認定を行うことになります。また、廃用性の機能障害(ギプスによって患部を固定していたために、治癒後に機能障害が残ったような場合)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うとされています。

「関節の用を廃したもの」とは

①関節が強直したもの

※肩関節の場合は,肩甲上腕関節が癒合し,骨性硬直していることがエックス線写真により確認できるものを含む。

②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

③人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,「関節の用を廃したもの」の③以外のもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

 関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

 

 今回は,この中の主に12級6号について見ていきます。

 

認定のポイント

 12級6号であれば,3大関節の中の,1つの可動域が,健側の可動域の3/4以下に制限されていれば認定されることになります。

 そこで,この意味について確認しておきます。

3大関節

 3大関節とは,①肩関節,②ひじ関節,③手関節のことをいいます。

可動域

 可動域とは,関節がどの程度動くのかを示しています。

健側(けんそく)とは

 健側とは,障害が残った腕など(患側)に対して,障害が残っていない方の腕などのことを指します。

関節可動域の測定

 関節可動域の対象となるのは,以下のものです(主要運動といいます。)。

肩関節

屈曲or外転+内転

ひじ関節

屈曲+伸展

手関節

屈曲+伸展

 

測定方法

 自分の力で動かす自動運動と他人の力を借りて動かす他動運動が考えられますが,基本的に可動域の測定を行う場合は他動運動の数値を用います。

 ただし,末梢神経損傷を原因として関節を稼働させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が動くものの自動では動かせないような場合等,他動運動による測定値を用いることが適当ではない場合には,自動運動を用いることがあります。

 自動運動を用いて測定する場合は,その測定値を(   )で囲んで表示するか,「自動」または「active」などと明記することになります。

 測定は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会によって決定された「関節可動域表示ならびに測定法」にならって行われることになります。

 

後遺障害の対象となっていない側にも障害がある場合は?

 上記のように,可動域制限の程度は,健側と患側の比較によって行いますが,事故とは関係なく,健側となるべき側に障害があるような場合,患側の比較をしても,障害がないという結果にもなりかねません。

 このような場合,各可動域について設定されている「参考可動域」との比較によって評価されることになりますので,後遺障害診断書作成の際に,そのことが分かるように医師に記載してもらいましょう。

 

参考運動とは?

 上記のような主要運動とは別に参考運動というものがあります。

 これは,主要運動の可動域が1/2(10級10号)又は3/4(12級6号)をわずかに上回る場合に,このままでは12級6号又は非該当となってしまうところを,参考運動がそれぞれ1/2又は3/4以下となっていれば,10級10号又は12級6号と認定するというものです。

 この「わずかに」とは,原則として5度であり,一部の機能障害については10度とされています。

 このような場合に,参考運動の測定を行っていなければ,当然このことは考慮されませんので,主要運動の可動域制限が,等級の認定基準にわずかに満たない場合には,参考運動の可動域の測定も欠かさずに行うようにしましょう。

 

注意点

 このように,可動域制限さえ出ていれば等級が認定されるかというとそうではありません。

 機能障害の原因となる骨癒合の不良や関節周辺組織の変性による関節拘縮といった異常が画像上明らかであることが必要です。

 そうでなければ、痛みについての14級9号にとどまるか,後遺障害非該当ということもあり得ます。

 そのため,この点について,骨癒合の状態等についてCT等でしっかりと確認しておく必要があります

 以上のように,後遺症に見合った等級の認定が行われるためには,しっかりとチェックしておくべきことがありますので,弁護士にご依頼いただいた場合,後遺障害診断書が適切に作成されるためのサポートをさせていただきます。

 

示談交渉・損害賠償上のポイント

 上記のような点をクリアして12級6号が認定された場合の損害賠償上の問題点についてご説明します。

 後遺障害に関する損害賠償では,基本的に慰謝料と逸失利益が問題となるのですが,このうちの慰謝料については,12級だと290万円程度が相当とされており,それほど問題とはなりません。

 また,逸失利益についても,同じ12級でも,「12級13号」の場合と異なり,就労可能年限である67歳までが労働能力喪失期間として認定されることが通例ですが(例外はあります。),保険会社はできるだけ賠償金を低く見積もってくることが多いので,この点で減額されないようにしっかりと交渉していくことが必要になります。

 この点も,やみくもに交渉をすればいいというわけではありませんので,弁護士にご依頼いただいた場合,請求を基礎づける過去の事例を示すなどして,適正な賠償額が支払われるように根拠に基づいて交渉をしていきます。

 

まとめ

 12級6号が認定されるためには,自賠責保険の後遺障害認定は原則として書類審査ですので,ご自身の障害の程度が正しく評価されるために,必要な検査を受け,それが後遺障害診断書上も表れているかが重要です。

 また,損害賠償請求に当たっては,不当に減額されないように適切に示談交渉を行っていく必要があります。

 弁護士にご依頼ただければ,後遺障害の申請から損害賠償の示談交渉まで行いますので,交通事故で負った後遺症についてご不安な場合は,一度弁護士にご相談ください。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」