死亡事故の慰謝料

 交通事故で被害者が亡くなられた場合に行う損害賠償請求の中に,慰謝料があります。
 慰謝料とは,一般的に肉体的・精神的な苦痛に対する賠償のことを意味します。

 突然の事故で命を落とすことになった被害者本人の精神的苦痛は計り知れないものですが,死亡事故の慰謝料請求の場合には,残された遺族の精神的苦痛も無視することができません。
 ここでは,死亡事故の慰謝料について,基本的な考え方や相場について解説します。

損害賠償請求権の相続

 被害者本人の慰謝料請求については,本人が既に亡くなっている以上,本人は行うことはできません。
 そこで,相続人が亡くなった被害者に代わって損害賠償請求を行うことになります。

 かつては,慰謝料は本人のみ請求できるものであって,相続することはできないと考えられていたこともありましたが,現在ではその他の金銭債権と同様に相続することができるということが実務上定着しています(最高裁昭和42年11月1日判決)。

 また、相続人が複数いる場合、金銭その他の可分債権は、相続によって「共有」となり(民法898条)、ここでいう「共有」は、民法249条以下の「共有」と同旨のものであるというのが判例ですので(最高裁昭和30年5月31日判決)、民法427条により、当然に分割されるものと考えられます。
 したがって、死亡した本人の慰謝料の額が確定したら、それを各相続人が相続分にしたがって取得することになります。
 相続人の1人が全額請求することができるわけではないので注意しましょう。

金額の算定

自賠責保険の基準

 自賠責保険の慰謝料の基準は,本人の慰謝料の額が400万円とされています。
 その他に,自賠責保険でも死亡事故の場合には特殊な取り扱いがされていて,近親者(父母,配偶者,子)にも慰謝料が認められます。
 近親者の慰謝料は,請求権者1人の場合は550万円,2人の場合は650万円,3人以上の場合は750万円となっています。
 さらに,被害者に被扶養者がいるときは,200万円の加算が行われます。

 いずれにせよ,裁判所などで認められる金額と比較すると非常に小さい金額となっていますので,加害者側の保険会社に不足分を支払ってもらう必要があります。

任意保険会社の基準

 任意保険会社は、上記の自賠責保険基準で算出される金額を参考にしつつ、逸失利益を含めた自賠責保険金の総額を見ながら金額を算定してくることになります。

弁護士基準(裁判基準)

 死亡事故の場合の慰謝料額は,被害者が一家の支柱であったのか,配偶者がいたのかといった事情を元に、おおよその金額について相場が形成されてきています。

 ただし,実際に認められる金額は,事故の状況や,加害者の悪質性等,様々な事情を考慮して決められることになり,実際の認定額にはかなり幅があります。

 また,死亡事故の場合,被害者の遺族の感情も非常にデリケートなものとなりますので,事故の状況や加害者側の態度によって慰謝料が相場よりも高額となることもあります(慰謝料の総額が3000万円を超えることもあります)。

 現在のところ、基準として示されている金額は、被害者の属性によって以下のとおりです(日弁連交通事故相談センター東京支部『2024年版 損害賠償額算定基準』(赤い本)』より)

 一家の支柱 2800万円
 母親、配偶者 2500万円
 その他(独身者、子供、幼児等) 2000万円~2500万円

 「一家の支柱」とは、その収入を主たる収入として世帯の生計を維持しているような者のことをいいます。2人以上の世帯で、収入を多くを稼いでいる人ということです。他の家族は、そうした人に扶養されているということになります。

 このように被害者の属性によって金額に差が設けられているのは、被害者に扶養されていた遺族等が、扶養を受けられなくなってしまうということを考慮しているためです。

 また、この金額には、後述の遺族固有の慰謝料(近親者慰謝料)も含まれているとされていますので、生前に扶養を受けていた家族の精神的苦痛等が反映されて金額に差が出ているものと考えられます。

 扶養の有無は逸失利益の部分でも考慮されていると考えられますので、扶養されていた遺族は二重に保護されるようなイメージとなります。

 反面、扶養する家族がいないような単身者の場合には、慰謝料の金額が低くなることになります。

慰謝料の増額

 一般的に、事故が悪質である場合など、一定の場合には通常の相場よりも慰謝料の額が高くなることがありますが、特に死亡事故の場合、生じた損害が甚大ですので、個々の事情によって慰謝料の増額が認められることが少なくありません。
 過去の裁判上認められたケースとしては、加害者が一切謝罪をしなかったこと、居眠り運転等、加害者の過失が著しいこと、加害者が自分には過失がないなどと不合理な主張に終始していたこと等があります。

 交渉の際は,慰謝料の増額に結びつくような事情については漏れなく主張をしていく必要があります。
 死亡事故の場合は、基準を杓子定規に用いるのではなく、事案に応じた配慮が特に必要となると言えるでしょう。

高齢被害者の慰謝料

 被害者が高齢者である場合、被害者が若年者である場合と比較して被害者本人の慰謝料の額が少なくなるのではないかという議論があります。
 人生を享受したとは言えない若者の場合と、人生をほぼまっとうした高齢者とでは、無念さ・悔しさといった苦痛の程度に違いがあるのではないかという問題です。

 たしかに、奪われた人生の長さを考えると、そうした考え方にも一理あるとはいえ、実際の裁判実務上も差を設けていると考えられるものが存在します。

 また、上で述べた弁護士基準の区分からも分かるように、慰謝料の額は、家族内における死亡した被害者の占めていた役割が重視されていますので、高齢で仕事をしていなかったり、子供が独り立ちしているようなケースでは、慰謝料の額が低くなりがちです。

 他方で、奪われた命の重みに差をつけるようなことが許されるものではないという考えも当然存在します。

 この点については、医療事故や介護事故の場合には、高齢被害者の慰謝料が大幅に減額されるようなケースもあるようですが、交通事故については、多少の差があったとしても、一般的な相場から大幅に減額するようなことは認めるべきではありません。

 特に、遺族の立場からすれば、ただでさえ高齢者は逸失利益の部分で金額が小さくなることが多い上に、慰謝料も減額されるようなことになれば、命の重さに差をつけているようにも感じられるので、納得することはできないと思います。

 上記の弁護士基準における慰謝料の区分でいうと、少なくとも「その他」の下限である2000万円を下回るようなことは認めるべきではないでしょう(個々の事情によって増額を求めることも当然あり得ます)。

被害者本人の慰謝料と近親者固有の慰謝料の関係

 死亡事故の場合,法律により,近親者も別途慰謝料を請求することが可能となっています(民法711条)。

(※→「交通事故で慰謝料を請求できるケース」)

 実際に裁判で被害者本人の慰謝料と近親者固有の慰謝料を同時に損害賠償請求した場合,例えば,被害者本人の慰謝料が2000万円,近親者固有の慰謝料が,100万円と50万円などと認定されることになります。
 なお,裁判所は,慰謝料の総額を決める上では,近親者固有の慰謝料と被害者本人の慰謝料を同時に請求する場合と,被害者本人の慰謝料としてのみ請求する場合とで差をつけることはしていないとしています(別冊判例タイムズNo.38 16ページ)。

 また、上で見た弁護士基準による慰謝料の額は、この近親者慰謝料も含んだものとされています。

 したがって、例えば、子だくさんの被害者が死亡した場合に、子の人数に応じて慰謝料の額が膨れ上がっていくということは想定されていないということです。

 近親者慰謝料の額を決めるにあたっては、生前の被害者と近親者の関係(同居の有無等)が考慮されます。

保険会社との交渉

 慰謝料の金額については,ある程度の相場が存在するとはいえ,実際の裁判では事案によってかなり金額に開きがあるのは事実です。特に、被害者側に有利になる事情があれば、積極的に主張をして、過去の事例などを示しつつ、慰謝料の増額を求めていくべきです。

 そのため,相手方保険会社から提示される金額がかなり低くなっていることが少なくありませんので,示談をする前に,金額が適正かどうかをきちんと確認する必要があります。

 死亡事故で慰謝料の請求をお考えの方は,一度弁護士にご相談ください。

 

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