Archive for the ‘コラム’ Category

重度後遺障害と家屋等の改造費

2021-11-12

 交通事故の被害者が、四肢麻痺や高次脳機能障害などの重度の後遺障害を残した場合、後遺障害があることを前提に生活をしていくために、自宅の改築や自家用車の改造が必要となることがあります。
 車イスで屋内を移動するためのバリアフリー化や介護仕様の浴槽やトイレの設置、エレベーターの設置といったものが考えられます。

 これらは、事故がなければ発生しなかったものですし、重度の後遺症が残ったのであれば、このようなことが必要になることも十分予想されますので、加害者に対して、家屋改造費や自動車改造費を損害として請求することが可能です。
 しかし、無制限に改造費の実費が請求できるわけではなく、認められる範囲には制限がありますので、この点について弁護士が解説します。

改造の必要性

 言うまでもありませんが、自宅の改築や自家用車の改造が必要でなければ、賠償の請求はできません。
 そのため、後遺障害の程度が重度で、かつ、在宅介護になる場合で、通常の家屋や車両では生活が困難である必要があります。
 また、被害者本人が生活するために必要であったり、介護のために必要であるということが言えなければなりません。

 介護とは無関係に自宅をリフォームした部分については、賠償として認められません。

金額の相当性

 改造自体が必要であったとしても、標準的な設備・材料を超えて、高級な仕様にした場合など、賠償の範囲が標準的な仕様と同等の額に限られて、一部の費用が自己負担となる可能性があります。

介護等の目的以上にプラスになる部分

 自宅を全面的に改築したり、新築するような場合、被害者の介護等の目的のためだけでなく、その他の部分もそれまでのものよりも新しくなり、耐用年数が伸長し家屋の価値も向上するといった、後遺症とは無関係の部分でもプラスになる部分が生じてきます。

 重度後遺障害が残りつつ、被害者が自宅での生活を継続する場合、被害者本人だけでなく、その家族が同居しているケースが多いと思われますが、このプラスの部分について、同居する家族もその恩恵を受けることになります。
 このような場合、加害者側がそういった部分まで負担しなければならない理由はないので、改築または新築の費用の全額ではなく、一部が減額されることになるでしょう。

 被害者としては、事故がなければそのような工事を行うことはなかったのだから、加害者が全て賠償すべきだと思われるかもしれませんし、感覚的には理解できるところです。
 しかし、損害賠償の場面で可能なのはあくまでも損失の補てんであり、元の状態よりもプラスになることまでは想定されていないことと、賠償の範囲は相当といえるものでなければならないという大原則があります。

 そのため、被害者としても、改築・新築等を行う場合、被害者の後遺症のために必要な工事かどうかをよく検討して、後遺症と必ずしも関係がない部分が含まれる場合には、その部分が賠償の対象とならない可能性があることを考慮した上で工事を依頼するようにした方が良いでしょう。
  特に、建て替えを行ったような場合、被害者の後遺症とは無関係に利便性・価値が向上する部分が多く含まれると思われますので、全額が賠償される可能性は低くなるでしょう。

 また、介護のための家屋を新築するために土地を購入したような場合、土地自体に資産としての独立した価値がありますので、購入費用が全額賠償される可能性は非常に低いと考えられます。

関連記事

重度の後遺症と介護費用

代表者の事故で会社の売上が下がった場合

2021-11-02

 交通事故の被害者の中には、社長など会社の代表者である人もいます。

 そして、会社によっては、社長が事故で仕事を休んだ結果、会社の売上が減少するということがあり得ます。

 被害者にとっては(特に小規模な会社であれば)、通常の休業損害と同様に加害者が賠償をしてしかるべきであると思うかもしれません。

 しかし、一般的な給与所得者が仕事を休んだ結果、勤務先から給与が支払われなくなったような場合と、上記のような会社に損害が生じたようなケースとでは損害賠償の場面では明白に異なります。

 そこで、今回はこのような交通事故の被害者が仕事ができなくなった結果、会社に損害が生じた場合にどのような処理がされるのかについて説明します。

最高裁判例

 今回のようなケースについては、有名な最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決というものがあります。

 この事故は、薬剤師であった被害者が、無免許運転のスクーターにはねられ、眼に障害が生じた結果、経営していた有限会社の利益も減少したため、会社の損害についても賠償を請求したというものです。

 結論として、裁判所は、会社からの請求を認めました。

 しかし、このケースでは、以下のような特徴がありました。

 ①会社には被害者以外に薬剤師がおらず、元々個人で薬局を営んでいたが、納税上の理由で有限会社の形にしたに過ぎず、実質は個人営業の薬局

 ②社員は被害者と妻のみで、妻は名目上の社員

 このような事情の中で、裁判所は、「被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様直個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められる」ということを理由に、会社の損害賠償請求を認めました。

判断の基準

 上記の最高裁判決を元に、実務上、会社と被害者個人が「経済的に一体といえるかどうか」を基準に、会社からの請求を認めるかどうかを判断されるようになっています。

 この「経済的一体性」の判断にあたっては、資本金額・売上高・従業員数等の企業規模、被害者の地位・業務内容・権限、会社財産と個人財産の関係、株主総会・取締役会の開催状況等により判断されるとされています(日弁連交通事故相談センター東京支部編「交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ」243頁)。

 この条件を満たすだけでも難しいのですが、現実に請求する場面を考えると、これらの事情を証明するための書類を揃えることの難しさも考えなければなりません。

 大前提として、損害賠償の請求をする場合、各種資料は被害者が集める必要があります。

 「加害者が悪いのだから加害者が動くべきだ」というような理屈は通用しません。

 そして、この種の請求では、弁護士だけで収集することのできる証拠には限界があり、相当程度被害者本人の協力が必要であるということを頭に入れておく必要があります。

 この他に、被害者が仕事をいつ・どれだけ・どういう理由で休んだのかも当然証明する必要があるでしょう。

 長期入院を余儀なくされ、その期間分を請求するのであればともかく、退院した後も休業が続いたような場合、仕事を実際に休んでいて、休みが必要だったことを証明するのは容易ではありません。

 この点についても、休みが必要だったことが後で検証できるように、何らかの形で証拠化しておく必要があります。

 いずれにせよ、ある程度証拠をそろえたとしても、保険会社が交渉で支払いを認める類のものではありませんので、裁判はほぼ必須となるでしょう。

反射損害

 上記のような場合と関連して、代表者が仕事を休んだにもかかわらず、会社が休まなかった場合と同様の報酬を支払った(減額しなかった)場合があります。

 これは、本来、加害者が支払うべき休業損害を会社が肩代わりして支払ったもので、会社にとってはいわば無駄に報酬を払ったことになりますので、会社が加害者に対して無駄になった分を損害として請求することができます。

 ただし、この場合でも、仕事をいつ・どれだけ・どういう理由で休んだのかを被害者が資料を元に証明する必要があります。

まとめ

 以上のように、残念ながら、交通事故で代表者が負傷し、それによって会社の売上が減少したというような場合、この売上減を加害者に賠償させるのは非常にハードルが高いものとなっています。

 通常、会社には代表者以外に従業員がいますので、代表者が仕事を休んだからといって、企業活動そのものが止まるというものではありません。

 それにもかかわらず、代表者の休業=会社の損害とするのであれば、そのような例外的な事情があることを説明しなければならないのです。

 また、会社と被害者個人が経済的に一体の関係にあるという例外的な場合であっても、そのことを証明できるかどうかは別の問題で、さらに、被害者の休業の状況・必要性についても証明する必要があり、提出しなければならない資料の量も多く、裁判はほぼ必須です。

 裁判所に提出する訴状等の書面は弁護士が作成しますが、資料については、被害者である会社代表者が管理しているものですので、該当する文書を探したりすることは被害者本人が行わざるを得ません。

 そのため、会社の代表者が交通事故に遭って、会社の売上が減少したことを相手に賠償させることを求める場合、資料提出について被害者ご本人にも相応の協力をしていただく必要があります。

 逆にいうと、上記のような例外的な場合にあたり、証明のための労力も厭わないというような場合であれば、適切に証拠を集めて、加害者に賠償の請求をしていくとよいでしょう。

整骨院などへの通院

2021-11-01

 交通事故の、特に頚椎捻挫(むち打ち)・腰椎捻挫といった怪我の治療の際に、「整骨院・接骨院に通ってもいいのか」ということがよく問題になります。

 一般的に、整骨院は、営業時間や待ち時間の関係などから、交通事故の被害者にとって利用しやすいという側面があります。

 そのため、選択肢の一つとして有力なものとなりますが、交通事故の「賠償」という観点から見ると、注意すべき点もありますので、この点について解説します。

 なお、以下は、整骨院の施術の有効性について述べるものではありません。

柔道整復とは

 整形外科で診察・治療を行うのは「医師(医者)」ですが、整骨院で施術を行うのは「柔道整復師」です。

 「柔道整復師」は、医師と同様に国家資格ですが、医師とは明確に違い、「柔道整復」とは、打撲、捻挫、脱臼、骨折等の外傷に対して、外科的手段、薬品の投与等の方法によらないで応急的もしくは医療補助的方法により、その回復を図ることを目的として行う」ものとされています。

 また、医師の同意を得なければ脱臼・骨折に応急手当以外の施術をしてはならないとされており(柔道整復師法17条)、レントゲン検査や診断もできません。

 医師の同意を得ずに施術できるのは、打撲、捻挫のみということになります。

何が問題になるのか

 整骨院・接骨院の利点は、前述の利用しやすさということもありますが、整形外科よりも対応が丁寧で、より効果を実感できるといったこともあるようです。

 その反面、整骨院の施術で問題となりやすいのが、期間が長くなりがち、施術部位が多くなる、施術費用が高額になるといったことがあります。

 施術部位の問題に関しては、健康保険では、近接部位について請求の重複が生じないように、一定の制限が加えられています。

 これに対し、交通事故の場合で健康保険を使用していない場合、賠償の場面での近接部位の算定方法について明確なルールがないため、整骨院から保険会社に対して健康保険のルールを超える請求がされるということが見受けられます。

実務上の取り扱い

 整骨院の施術費用の取り扱いは、自賠責保険を含めて明確なルールが定められていないため、自賠責保険の上乗せ保険である任意保険会社も、それほど強く否定してこないこともあります。

 しかし、だからといって、賠償上問題がないわけではありません。

 弁護士に依頼するかどうかはともかく、自賠責基準の慰謝料を超える慰謝料の支払いを求めようとする場合、施術費用が妥当なのかもしっかりと判断されることになります。

 特に、示談交渉で折り合いがつかず、裁判で施術費用の妥当性が争われた場合、裁判所が厳しい判断をする可能性が十分あり得ます。

 施術費用の請求が高額過ぎるということになれば、その分慰謝料として受け取ることのできる額も減少することになります。

 裁判実務上は、整骨院の施術費用が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになるとされています。

対応策

 既に述べたように、保険会社がそれほど争ってこなければ問題になることは少ないでしょう(稀に、治療終了後に過去の支払い分を争ってくることがあります)。

 しかし、治療中の段階で、整骨院への通院に異議が出された場合、これを保険会社の横暴などと決めつけて何も対応しないというのはやめた方がよいでしょう。

 上記のとおり、整骨院への通院が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになりますので、整骨院に通院をしようとする場合、少なくとも医師に通ってもいいかどうか確認をすべきです。

 医師が指示をしていなくても、効果が認められれば、整骨院への通院が認められることがありますが、医師が明確に施術に反対している場合、整骨院への通院は避けた方がよいでしょう。

 また、柔道整復師は、各種検査を行って、傷病の診断をすることもできませんので、整形外科にも定期的に(最低でも月に1回程度)は通った方がよいです(保険会社からもその旨の指示が出ることが多いです)。

 施術部位の問題は難しいところですが、健康保険で認められないような請求を、交通事故で自由診療だからといって当然のように請求することは問題であるように思います。

 保険会社から過剰請求が指摘された場合、実際に健康保険の基準から逸脱していないか確認して、問題があるようであれば、是正してもらうか転院をするなどの対応が必要でしょう。

まとめ

 整骨院・接骨院への通院は、交通事故の打撲・捻挫の怪我の場合に広く利用されていて、その有効性も否定できません。

 他方で、その施術費用を加害者に負担させることができるかという点については、実務上、完全に決着がついたとは言い難く、整形外科に通院した場合とは異なる問題があります。

 交通事故の治療の一環として、整骨院への通院をする場合、このことを頭に入れて、主治医に相談しながら、あくまでも補助的なものとして上手く整骨院を利用していくことが重要となります。

症状固定後の通院

2021-10-27

「症状固定」の意義

 交通事故の治療費などの支払いは、無限に続くわけではなく、どこかで区切りをつけて、以降の補償は「後遺障害」という形で行われています。

 そのため、通院をしても症状が良くならないということになってくると、保険会社から治療費の支払いを打ち切られることになります。

 この区切りのタイミングになったことを「症状固定」といいます。

 「症状固定」とは文字どおり症状が固定して治療をしても改善が見られなくなった状態を指します。治療の成果がないことと、時間の経過による改善も見込めないことの2点がポイントです。

 この「症状固定」になると、治療費や休業損害の支払いはなくなります。

 休業損害については、後遺障害逸失利益という項目で、後遺障害等級に応じて支払われることになります。

 また、治療費については、後述のように、症状の改善に役立っていないということになるので、支払いの対象から外れることになります。※例外はあります

 それでは、「症状固定」となった後に通院をしたい場合、どのように扱われるのでしょうか?

 これには、大きく分けて2つのパターンがありますので、それぞれ解説します。

①保険会社だけが一方的に言っている場合

 保険会社から打ち切りを通知されたとしても、実際には「症状固定」に至っていないこともあります。

 「症状固定」の考え方は上記のとおりで、治療が症状の改善に役立っているかどうかが重要なポイントになります。

 したがって、治療の効果が十分に出ているにもかかわらず、保険会社が短期間で打ち切りを言ってきたような場合、そもそも「症状固定」には至ってはいませんので、加害者は治療費の支払いを免れることはできません。

 このような場合、一旦治療費を自分で立て替えた上で領収証を保管し、後日保険会社に対して請求することになります。

 このとき、注意しなければならないのは、治療の効果が出ていたとしても、いわゆる対症療法に過ぎず、一時的に症状が和らいでも、時間が経つと元に戻ってしまうという一進一退の状態の場合、やはり「症状固定」とみなされる可能性があるということです。

 治療直後の改善状況だけでなく、例えば1か月前と比べてどうなのかを見極めるようにしてください。

 実際には「症状固定」になっていないのであれば、後でそのことが検証できるように、主治医に意見書のようなものを作成してもらうことも検討しましょう。

②実際に「症状固定」に至っている場合

 損害賠償の基本は「原状回復」です。

 事故がなかった状態に戻すために必要なことを金銭による賠償という形で行います。

 したがって、治療をしても元に戻らないのであれば、無駄な治療であるともいえるので賠償の対象とはならないことになります。

 この場合、治療を継続することは自由ですが、その治療費は加害者側からの支払いの対象ではなくなります。

 ただし、これには例外があり、何も治療しなければ、症状固定時の症状を維持することができず、かえって悪化してしまうというような場合には、症状固定後であっても治療費が加害者側の負担とされることがあります。

 また、人工関節の交換手術のように、将来確実に追加の手術が必要となるような場合、この費用も加害者側の負担となります。

まとめ

 このように、「症状固定」と保険会社から言われた場合、まず、本当の意味で「症状固定」となっているかどうかで対応が変わります。

 「症状固定」になっていないのであれば、主治医にそのことを確認し、証拠として残してもらうことが重要です。その上で、示談交渉の際に、「本当の症状固定」の時期までの治療費等の支払いを請求しましょう。

 これに対し、実際に「症状固定」に至っているのであれば、症状を一時的に緩和する効果があったとしても、治療費の支払いを相手に負担させることは困難です。

 この場合は基本的には後遺障害等級の認定を受けることを検討します。

 また、将来手術を予定しているなど、例外的に症状固定後の治療費を相手に負担させることができる場合には、忘れずにこれを請求するようにしましょう。

 

・関連記事

「治療打ち切り・症状固定について」

高齢者の逸失利益

2021-10-25

逸失利益の概要

 交通事故で被害者に後遺症が残った場合や被害者が死亡した場合、後遺障害逸失利益や死亡逸失利益と呼ばれる賠償金が支払われることになります。

 後遺障害逸失利益とは、後遺症によって仕事に支障が出たために、収入が減少したことに対する補填を意味します。

 簡単にいうと、事故に遭う前の収入が1000万円であった人の収入が事故後に900万円に減少した場合に、この差額の100万円を賠償として支払うというものです。

 もちろん、1年分だけ補償すれば良いというわけではありませんので、生涯にわたって減収が予測される部分については、全て補償の対象となります。

 例えば、治療を終えた時点で、事故がなければあと10年は働けるはずだった人の場合、自力で歩けない等の後遺症により、10年間は仕事に影響が出て、本来得られるはずだった収入の額に影響が出ることが考えられます。
 この場合、この10年分の減収を損害として加害者に金銭の請求をするのが後遺障害逸失利益です。

 逆にいうと、後遺症の影響で減収する可能性がない期間については、基本的に賠償の対象とならず、例えば30歳くらいで事故に遭った人について何歳分までを補償すれば良いのかが問題となります。

 裁判を含む一般的な考え方ではこの年齢は67歳と設定されることが多いです。上記の例で、30歳で治療を終えた場合、後遺症として賠償の対象とするのは、30歳から67歳までの37年とされることになります。

 死亡事故の場合も、生活費控除という特殊な処理をすることになりますが、基本的な考え方は同様です。

 そうすると、67歳を超えて仕事をしていたり、事故に遭った時点で60歳を超えていて、67歳を過ぎてもまだまだ仕事をする予定だった人の場合はどうなるのでしょうか?

 このように、高齢者の逸失利益には特有の問題があります。

高齢者の逸失利益の特色

有職者の場合

 最近では、60歳を超えても就労を続ける人も少なくありませんので、比較的高齢の人であっても、逸失利益が生じることは十分あり得ます。

 ただし、この場合、上記で述べたように、一般的なケースのように67歳までの期間で逸失利益の計算を行うと、対象となる期間が短くなる結果、賠償金の額が小さくなってしまったり、67歳を超えるような人の場合、賠償金が0ということになりかねません。

 そこで、こういう場合、「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とみなして計算するという方法で賠償を請求します。

 裁判でも、こうした計算方法が広く認められています。

 その結果、67歳が間近であったり、67歳を超えて仕事をしているような高齢者であっても、逸失利益が認められることになります。

※ただし、事案によっては、必ずこの計算が認められるわけではありませんので注意しましょう。

無職者の場合

 無職の場合、収入がないのですから、減収を前提とした後遺障害逸失利益の請求はできないことになります。

 しかし、事故当時に一時的に仕事をしていなくても、そのうち仕事を開始する予定だったという人もいるでしょう。

 そういう人の場合、就職活動を行っていた等、仕事をする意欲があったことを証明し、後遺障害逸失利益を請求することが可能です。

 ただ、後遺障害逸失利益は、通常、被害者の事故に遭う前の収入額によって金額が決まるのですが、無職者の場合、事故前の収入というものが存在しません。そこで、適切に計算を行うための収入を設定する必要があります。

 一般的には、年齢別の労働者の平均賃金を用いることが多いです。

家事従事者の場合

 高齢者であっても、事故前に同居する家族のために家事を行っていたという人は少なくないでしょう。

 このような人の場合、一般的な主婦(主夫)の場合と同様、家事に関する逸失利益を請求することが可能です。

 この場合の計算方法ですが、女性労働者の平均賃金を用いることが一般的です。

 ただし、この場合も、一般的には全年齢の平均賃金を用いることになるのに対し、高齢者の場合、家事労働にも多少の制限があることがありますので、年齢別の平均賃金を用いることがあります。

まとめ

 いかがだったでしょうか。

 高齢者の場合、形式的に計算すると、後遺障害逸失利益がゼロということにもなりかねませんが、上記のとおり、多少の制限はあるものの、請求自体は認められています。

 高齢者の後遺障害逸失利益の計算は、通常の場合以上に技術的な面が多いので分かりにくい部分となっています。

 そのため、通常の場合以上に示談交渉をしっかりと行うことが必要と言えるでしょう。

 

〇関連記事

・後遺障害の逸失利益とは

・死亡による逸失利益

 

学生・児童など若年者の逸失利益

2021-10-11

逸失利益とは

 死亡事故や後遺症が残るような事故が発生すると,被害者が事故に遭わなければ働いて稼ぐことができたはずの収入が得られなくなる(減額になる)という事態が生じます。

 このような収入の減少について賠償が受けられなければ、被害者本人や、被害者に扶養されていた家族の生活が難しくなってしまいます。

 そこで、こうした損害を賠償するために、治療費や慰謝料などのほかに,「死亡逸失利益」や「後遺障害逸失利益」というものが加害者から支払われます。

 例えば,年収1000万円の人が死亡すると,単純計算で1年で1000万円の損失が生じることになります。

 また,後遺症で年収が1000万円から500万円に低下した場合,同様に,1年で500万円の損失が生じることになります。

 実務上,実際に受け取ることのできる額は,「中間利息控除」という処理をしますし、死亡事故では「生活費控除」という処理をしますので,若干計算は複雑になりますが,逸失利益のイメージはこのようなものです。

逸失利益は事故前の収入に左右される

 上記の例でも明らかなように,「事故によってどの程度収入が減ったか」が重要なポイントになりますので,事故に遭った人の年収によって逸失利益の額は変わります。

 年収が2倍違うと,逸失利益の額も2倍違ってきます。

 そして,基準となる年収は,一般的には,事故の前年の年収を用います。

 つまり,事故の影響がなかった場合,直近でどの程度稼ぐことができていたかが基準になるわけです。

学生や児童等の逸失利益の計算方法は?

 逸失利益の計算において事故の前年の年収に着目すると,事故当時に仕事に付いていない学生や児童の逸失利益はどうなるのでしょうか?

 逸失利益は,将来得られるはずであった収入のことですので,学生や児童であっても,将来的には仕事に就くことが予想され、当然逸失利益は存在しますし,対象となる期間も長いため金額も大きくなります。

 とはいっても,直近の就労実績がないため、通常のケースのように,「事故前年の収入」の額を元に計算することはできません。

 実務上は,このような場合,一般的な労働者の全年齢の平均賃金(賃金センサス)を用いて計算します。

 全年齢の平均賃金は,一般的な労働者が,生涯を通して得る収入を平均したものですので,生涯にわたって影響が続く死亡・後遺症の逸失利益を計算する際に用いるのは合理的です。

 男性の場合,男性のみの平均値を用いてよいですが,女性の場合,女性のみの平均値を用いると逸失利益の額が小さくなってしまいますので,男女を含んだ平均値を用いるようにします。

 また,学歴によっても計算結果が変わりますので,被害者の家庭の事情等の属性を見て,有利な方法で計算を行います。

若年労働者の逸失利益の計算方法は?

 学生や児童など,収入のない被害者については,上記のように考えることができますが,就職して間もないような若年の労働者の逸失利益はどうでしょうか?

 この場合,現実に就労の実績は存在し、基準にすることのできる「事故前年の収入」というものがありますので,単純に考えると,この数字を用いて計算することになります。

 しかし,一般的に,仕事に就いて,経験を積んで役職がついたり,転職するなどしてステップアップしていくことで,得られる収入の額は大きくなっていきます。

 そのため,就職して間もない時期は,収入が小さいということにあります。

 逸失利益は,「本来得られるはずだった収入」を補填するものですので,このように就労して間もない時点の金額的に小さな収入額を元に計算されてしまうと,十分な補償がされたことにはなりません。

 そこで,このような若年労働者の場合,将来の昇給を考慮して逸失利益の額を計算することになります。

 具体的には,学生などと同様に,平均賃金を用いるという方法があります。

 この平均賃金を用いる計算をするかどうかの分かれ目ですが,30歳未満という数字が目安として示されていますので参考になります。

 

赤信号無視を争う裁判

2021-09-08

 最近,立て続けに3件の加害者が赤信号無視を否認している事案の裁判が終わりましたので,これについて触れてみたいと思います。

 事案の詳細は記載しませんが,結論からいうと,過失割合①30:70,②0:70(片側賠償),③0:100で,いずれもこちら側に有利な形で終了しました。

 ①は,対人・対物保険を使っていただくことにはなりましたが,人身傷害保険の仕組みの関係で,人身部分については満額回収ができています。

 ②は,同じく人身傷害保険の関係で人身部分の満額回収ができ,相手方の賠償はしないことになったため,保険を対人・対物保険を使う必要もありませんでした。

 ③は,人身は主張が認められない部分があったものの,過失割合は0:100だったため,物損で満額回収できました。

赤信号無視否認の場合の特徴

・0か100か

 交通事故の過失割合の話をするときに,保険会社の担当者から「動いているもの同士なので,0:100にはなりません」といったことを言われることがあります。

 たしかに,車を運転するときは,運転手は細心の注意を払う必要があるため,車が動いていれば多少の過失があるとされることがほとんどです。

 しかし,これには例外があり,典型例が赤信号無視です。

 信号機の表示に従うことは,最も基本的な交通ルールなので,赤信号無視をすれば,基本的に過失100%ということになるのです。

 つまり、赤信号を無視が認められた方は100%加害者で、赤信号無視をしていない(通常は青信号)方は100%被害者ということになります。

 したがって,どちらが赤信号無視をしたのかが問題となる場合,過失割合が30%なのか20%なのかという違いが出るのではなく,基本的には0か100かという問題になります。

※最終的にどちらが赤信号だったのか分からないという場合には,痛み分けで50:50にするという考え方もあります。

・円満解決が困難

 このケースでは、青信号で交差点に進入した方には何ら落ち度がなく、しかも加害者側が嘘をついていて(勘違いをしている可能性もあります)、むしろこちらが加害者と言われているようなという状況にありますので、感情的な対立が大きく、加害者側の保険会社としても、加害者本人が「赤信号無視をしていない」と言っていれば、それにしたがって動くしかありませんので、交渉で賠償金の支払いを受けることは非常に困難です。

 その結果、裁判所の判断を仰ぐことになるのですが、裁判では次に述べるように証拠が不足しているという問題が出てきます。

・証拠が足りない

 赤信号無視で裁判になっている場合,ドライブレコーダーや防犯カメラ,第三者である目撃者といったものがあれば,そもそも裁判をするまでもありませんから,裁判になっているという時点で,決め手となる証拠が欠けているということになります。

 そういう意味では,8割とか9割といった高い確率で勝てる裁判ではありません。

 これらのことを踏まえた上で,裁判をするメリットやデメリット,勝つために何がポイントになるのかについて説明します。

裁判のメリット

 裁判をする場合の大きなメリットは,人身傷害保険による過失分の補填です。

 人身傷害保険は,自動車保険にオプションとして付帯されるもので,最近では大半の方が加入しています。

 この保険は,通常,自損事故や自分の過失が大きいような,加害者から自分の治療費などを支払ってもらえないような場合に使う保険で,治療費や休業損害といった実損害のほか,慰謝料なども保険会社の基準によることになりますが払われます。

 この保険の特徴として,裁判で和解したり判決が出て,賠償金の総額が確定した場合で,過失の問題で加害者からの支払が十分ではない場合,不足する部分を補うことができるというものがあります。

 その結果,裁判で赤信号無視が確定できず,0:100にすることができない場合でも,痛み分けで50:50ということになれば,足りない部分を人身傷害保険でカバーすることが可能となり,結果的に人身部分は満額回収することができます。

 赤信号無視がはっきりしない場合でも受取額が増えるというのは,裁判の大きなメリットです。

 なお,物損についてはこのようなメリットはありません。

裁判のデメリット

 相手方が赤信号無視を否認しているということは,こちら側が赤信号だったと言われていることを意味します。

 つまり,相手からするとこちらが100%加害者ということになります。

 そのため,こちら側から裁判を起こした場合,反対に相手からも裁判を起こされることになります。

 その結果,同じ裁判の中で相手からの訴えについても対応しなければならなくなるのですが,この部分は,弁護士費用特約の範囲外となります。

 また,人身事故で痛み分けとなった場合に,人身傷害保険を利用して受取額が増えることになるのは相手も同じです。

 そのため,こういったことに対応するため,加入している対人・対物保険を使用していただく必要が出てきます。

 これらの保険を使うと等級が下がって支払わなければならない保険料が増えますので,この点がデメリットとなります。

 もっとも,人身傷害保険の恩恵を考えると,保険料の増額を差し引いてもプラスになることが多いので,この点の比較は裁判をする前に確認しておく必要があります。

 逆に,損害が物損のみで,金額も小さい場合,完全に勝たなければ経済的にマイナスということもあり得ます。

裁判のポイント

 既に述べたように,このような裁判では決め手となる証拠がないことが前提となっていますので,裁判のポイントは,事故そのものの説明はもちろんのこと,事故前後の行動についての説明についてもいかに自然にできているのかということなどが点になります。

 しかし,最終的にそれらの事情を見てどう判断されるかは裁判官次第です。

 Aという裁判官は原告の言うことが正しいと考えても,Bという裁判官は被告が正しいと考えるかもしれません。

 また,立証がどこまでいったら十分なのかという点についても,裁判官によってかなりバラつきがあります。

 こう言ってしまうと身も蓋もないかもしれませんが,このように決め手に欠ける裁判の場合,「どの裁判官が担当になるか」が結果を分ける一番重要なポイントのような気がします。

関連記事

「交通事故の事故態様の証明」

裁判所の事実認定の問題

2021-06-11

 裁判は,相手方との交渉が行き詰まったときに,紛争解決の最終手段となるものですが,結論の出され方について,皆さんが持たれているイメージと異なるところがあったり,私自身,疑問に思うこともあるので,今回はこのことについてお話します。

裁判官の行う作業とは

 裁判官は,①法令の解釈と②事実認定を行います。

 法令の解釈とは,「○○法の〇条に書かれていることは,××ということを意味している」という風に,一見して抽象的な法令の文言が,具体的にどのような場面を想定しているのかを明らかにする作業です。

 次に,事実認定とは,一方の当事者が,「××という事実がある」(例えば,「AさんがBさんにお金を貸した」,「交通事故はこういう風にして起こった」)と主張したのに対し,相手方が「そんな事実はない」と言われたときに,言い分どおりの事実があったのかどうかを,裁判官が判断するということです。

 裁判で争うというと,一般的には,後者のイメージが強いと思いますので,この点を掘り下げて考えてみたいと思います。

証明責任とは

 裁判をする際に知っておかなければならないこととして,「証明責任」という言葉があります。

 例えば,「AさんがBさんにお金を貸した(消費貸借)ので,Bさんにお金を返してほしいが,Bさんは,お金はもらったもの(贈与)だと言っている」というような場合に,「Aさんには,消費貸借契約(お金を貸したこと)の存在について証明責任がある」というような表現をします。

 その結果,読んで字のごとく,Aさんは,消費貸借契約について証明する責任があり,この証明に失敗すれば,Aさんはお金を取り戻すことができないということになります。

 そのため,裁判になれば,Aさんは,消費貸借契約があったということを様々な証拠を元に証明していくことになります。

証明の程度

 次に,この証明といっても,「この証拠があれば,○○であることは100%間違いない!」といえるようなものがあれば,そもそも裁判で争うことはないと思われますので,通常は,そこまでは至らない微妙な点があるはずです(「契約書がない」「契約書はあるが,体裁がおかしい」etc)。

 その中で,裁判官は事実を認定しなければならないわけですが,この証明の程度は,最高裁判例によれば,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持たせる程度(高度の蓋然性)の証明が必要と言われています(最高裁平成50年10月24日判決。「ルンバール事件」)。

 これだけ言われてもよく分かりませんが,要は,極めて高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があるということです。

 実際には,やや緩和されて判断されているようですが,基本的には高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があることに変わりはありません。

 ただ,この点についての裁判官のさじ加減がかなりまちまちで,裁判を利用する側としては,運に強く左右されてしまうというところが問題です。

実際の認定の問題

 先の例でいえば,お金を受け取ったことに争いはなく,それがもらったものなのか貸したものなのかの二者択一となりますが,どちらがより真実に近いかという点で,51対49で貸したものだといえれば,請求を認めてよいのか(依頼者の方と話をしていると,このイメージを持っている方が多いようです),それとも,80対20(あるいはそれ以上)くらいにならないといけないのかというところが,裁判官の考え方によって大きく変わり得るところです。

 「証明責任」の考え方や,前掲の最高裁判例を重く見れば,証明の程度をかなり強く要求することになり,結論として,「これを認めるに足りる証拠がない」(実際の判決でよく見られる表現)などといって請求が認められないことになるのでしょう。

 しかし,既に述べたように,そもそも,誰が見ても勝ち負けが明らかなようなケースでは,通常はそもそも裁判になどなっていないと考えられますので,このような結論を安易に出すべきではないと思います。

 実際,仮に,「7:3でお金は貸したものだ」と裁判官が思ったとしても,それでは証明の程度としては足りないとする裁判官であれば,原告の請求は認められないことになってしまいますが,これは,結果的に,訴えられた側からしてみると,事実上お金はもらったものと認められ,返さなくても良いことになってしまいます。

 実際には,「お金はもらったものだ」という認定までされたわけではありませんが,「貸したものではない」とされることは,「もらったもの」とほぼ同じ効果があります。

 しかし,裁判官としても,基本的にはもらったものではない(おそらく貸したもの)と考えていたはずですので,二人の当事者に対して出される結論としてはおかしいはずです(「消極的誤判」の問題)。

 これが紛争解決を求めて起こした裁判の帰結として妥当なものといえるでしょうか?

 他方で,同じ状況でも6:4くらいでも足りると考えている裁判官であれば,原告の請求は認められるということになるでしょう。

 このように,微妙な案件では,裁判官による判断が分かれることがあり得ますが,それを当事者がどう受け止めれば良いのかは難しい問題です。

最後に

 裁判官が,自らの出す判決の重みや当事者主義の原則から,自身の心証が曖昧なままで安易に一方当事者の請求を認めないとすることも理解できないわけではありませんが,実際の当事者は,自分にとって重要な財産であったり,ときには誇りをかけて裁判に挑んでいます。

 また,当事者は,「証拠が,あるいは若干足りないところがあるかもしれないが,それでもいろいろな事情をくみ取ってもらえれば,真実を認めてもらえるのではないか」と期待して裁判を起こしています。

 そのような中で,裁判官は,安易に「証明責任」を理由に証明が足りないなどとするのではなく,可能な限り真実が何かを探求し,どうしてもそれが分からなかったという場合にのみ,「証明責任」を理由に,判決を出すべきだと思います。

 しかし,当事者に裁判官を選ぶ権利はありませんので,証明の程度についてどのような考え方をしている裁判官にあたるかは,最終的に運次第となります。

 一応,わが国では,事実認定について2審まで争うことが可能ですが,個人的には,心理学的な観点からも,1審の認定を覆すことは容易ではないと考えています。

 このような現状からすると,紛争の解決手段として,裁判というものが必ずしも最善なものではないということが分かってきます。

 交通事故でいうと,「保険会社は支払いが渋く,言っていることがおかしい」,「裁判所ならきちんと判断してもらえる」というイメージがあるかもしれませんが(私も以前はそのように考えていました),裁判所が,証明責任を理由にそれ以上に支払いを認めないということも十分あり得るのです。

 したがって,基本的には,示談交渉で保険会社が出せるギリギリのところまで回答を引出し,その上で,明らかにおかしければ裁判をするという風に考えた方が良いのではないかと思います。

 

参考文献

(判例タイムズNo.1419_5頁 須藤典明「高裁から見た民事訴訟の現状と課題」)

サラリーマンと自営業者の休業損害の違い

2021-05-13

サラリーマン(給与所得者)と自営業者(事業所得者)では,休業損害の認定上,様々な違いがあります。

ここでは,当事務所で実際に取り扱ってきた案件や,文献等を元に,大まかな違いについてまとめてみました。

 

給与所得者

事業所得者

労務管理

・第三者である使用者によりタイムカード等で管理

→残業代等につながる重要なものなので,休業時間についても正確に把握される

・自分で管理

→時間を正確に管理されていないことが多く,記録があったとしても自分で作成したものなので信用性が問題となる

復帰時期・休業の必要性

・復帰時期について,会社・産業医と相談することになる

・復帰ができない場合,解雇もあり得るし,そうでなくても体裁上,復帰できる場合には多少無理をしても速やかに復帰することがある

・休業によって事業の継続に著しい支障が出るような場合,無理をしてでも復帰する傾向にある

・反面,加害者からの補償があれば,それ以上に大きなマイナスが出ないような場合,休業が長期化することも見られる(復帰するかは自己判断になる)

提出書類

・源泉徴収票

・休業損害証明書

 

・確定申告書

・休業したことが分かる資料(決まりがない)

・休業の理由が事故によるものであることが分かる資料(決まりはないが,医師からの安静指示が出ている場合,その診断書等)

計算方法

・休業が連続している場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額(付加給を含む)を90日で割り,休業開始から休業終了までの期間をかける

・休業が連続していない場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額を同期間の稼働日数で割って,実際の休業日数をかける

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・事故前年の所得金額(青色申告特別控除前の所得金額。売上ではない)を365日で割って,休業日数をかけるのが一般的(稼働日数を用いることもあり得る)

・家族が手伝っている場合,その分を基礎収入額から差し引くことがある

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・その他,外注に出した場合の外注費を損害額とすることもあり得る

※休業することによって無駄になる固定経費分を加算することも可能(地代家賃等)

上記のような違いから,交渉や裁判では以下のような傾向があります。

・自営業者は,実際に休業したかどうかを第三者(保険会社・裁判所)が把握することが難しいことに加え,入院や医師による安静指示がないような場合,加害者が負担すべき休業損害の日数を証明するのが非常に難しい。

・給与所得者の場合,自らの意思で復帰時期を決めるのが事実上困難であり,休業損害証明書という定型の書類があるので,休業の必要性も比較的認められやすい。

そのため,結論として,自営業者の休業損害の支払いを受けるのは,給与所得者よりも難しい傾向にあります。

自営業者の場合,実際に休業したのはいつで,休業の理由は何だったのか,正確に記録しておくことは必須です。

また,本当に休業が必要なのかを自己責任で判断しなければならないということを認識しておく必要があります。

その上で,固定経費分の損害の請求等,漏れがないように支払いを求めることが重要です。

後遺障害14級9号【肩関節脱臼後の疼痛】で140万円→280万円

2021-02-17

事案の概要

 自転車で道路を横断中,右折してきた四輪車にはねられたというもので,被害者は,肩関節や足関節の靭帯損傷といった傷害を負いました。

 その後,通院加療を続けていましたが,肩関節の痛みが後遺症として残ることとなりました。

当事務所の活動

依頼前の状況

 本件では,依頼の前に,事前認定により後遺障害等級14級9号が認定され,賠償金額として約140万円が提示されていました。

 しかし,保険会社の算定の仕方が妥当なのか疑問に思われたため,ご相談となりました。

後遺障害等級の検討

 本件は,そもそも後遺障害等級が14級9号でよいのかということをまず検討する必要がありました。

 骨折・脱臼を原因とする痛みなどの神経症状に関する後遺障害は,後遺障害等級14級9号のほかに,後遺障害等級12級13号が認定される可能性があります。

 14級9号と12級13号の違いは,訴えている症状について,関節面の不整や骨癒合の不全等といった他覚的に確認することのできる原因が存在するかという点にあります。

 本件の場合,主治医から,レントゲン上は特に問題がないという説明を受けていたことと,異議申立てをするためには時間と若干の費用が発生することになるため,後遺障害等級は14級を前提として示談交渉を行うことになりました。

示談交渉

 本件で,相手方の示した金額で問題があったのは,通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料でした。

 後遺障害逸失利益については,計算方法については疑問があったものの,計算結果は低いとは言い難いものでした。

 具体的には,本来であれば,被害者が症状固定時に16歳であり,労働能力喪失期間を考える際,稼働開始までの期間分を控除するという処理が必要となるため,例えば,労働能力喪失期間が10年であれば,対象となる期間は,10年間から18歳(一般的に稼働開始可能と考えられる年齢)までの2年間を引かなければなりません。

 この処理は,単純に10から2を引くのではなく,中間利息を控除したライプニッツ係数を用います。

 ところが,相手方は,労働能力喪失期間を5年としながら,この5年のライプニッツ係数をそのまま用いていました。

 これは,実質的には労働能力喪失期間として7年を認定したのと同様になります(最終的な計算結果は,中間利息控除の関係で,7年で計算したよりも高くなります)。

 一般的に後遺障害等級14級9号の場合,労働能力喪失期間を就労可能年限までではなく,一定期間の制限されることが多く(むち打ち以外の場合は例外あり),若年者の場合,回復が期待できるため,その可能性も高まります。

 そうすると,労働能力喪失期間が実質7年とされるのであれば,決して不当とはいえません。

 また,相手方は,逸失利益の計算にあたって,全年齢の女性労働者の平均賃金を用いていました。

 労働能力喪失期間に制限のない後遺障害であれば,この数値を用いることが想定されるのですが,労働能力喪失期間が制限される場合で,被害者が若年者の場合だと,後遺障害の影響を受ける時点の収入は,働き始めたばかりの頃で,全年齢の平均賃金よりも低くなることが想定されます。

 したがって,逸失利益算定のための基礎となる基礎収入の額も,厳密に考えると,全年齢の女性労働者の平均賃金よりも低くなる可能性がありました。

 以上の点を考慮すると,相手方から示された逸失利益の額は低いものとはいえないのではないかと考えられました。

 そこで,示談交渉の対象を慰謝料の部分に絞ることとしました。

 その結果,最終の支払額が約280万円となって示談が成立することとなりました。

ポイント

 保険会社から示される金額は一般的には低いことが多いのですが,若年の学生が被害者となった場合のように,単純な計算とはならないような場合,むしろ裁判をするよりもいい条件なのではないかと思われることがあります。

 一方で,慰謝料のような算定が単純なものについては,ほぼ例外なく低い金額が示されます。

 示談交渉では,やみくもに相手の見解を否定するのではなく,論点を絞って交渉を進めることが有効な場合があります(そうすることで,解決までの時間も早まるというメリットもあります。)。

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

« Older Entries Newer Entries »