赤信号無視を争う裁判

2021-09-08

 最近,立て続けに3件の加害者が赤信号無視を否認している事案の裁判が終わりましたので,これについて触れてみたいと思います。

 事案の詳細は記載しませんが,結論からいうと,過失割合①30:70,②0:70(片側賠償),③0:100で,いずれもこちら側に有利な形で終了しました。

 ①は,対人・対物保険を使っていただくことにはなりましたが,人身傷害保険の仕組みの関係で,人身部分については満額回収ができています。

 ②は,同じく人身傷害保険の関係で人身部分の満額回収ができ,相手方の賠償はしないことになったため,保険を対人・対物保険を使う必要もありませんでした。

 ③は,人身は主張が認められない部分があったものの,過失割合は0:100だったため,物損で満額回収できました。

赤信号無視否認の場合の特徴

・0か100か

 交通事故の過失割合の話をするときに,保険会社の担当者から「動いているもの同士なので,0:100にはなりません」といったことを言われることがあります。

 たしかに,車を運転するときは,運転手は細心の注意を払う必要があるため,車が動いていれば多少の過失があるとされることがほとんどです。

 しかし,これには例外があり,典型例が赤信号無視です。

 信号機の表示に従うことは,最も基本的な交通ルールなので,赤信号無視をすれば,基本的に過失100%ということになるのです。

 つまり、赤信号を無視が認められた方は100%加害者で、赤信号無視をしていない(通常は青信号)方は100%被害者ということになります。

 したがって,どちらが赤信号無視をしたのかが問題となる場合,過失割合が30%なのか20%なのかという違いが出るのではなく,基本的には0か100かという問題になります。

※最終的にどちらが赤信号だったのか分からないという場合には,痛み分けで50:50にするという考え方もあります。

・円満解決が困難

 このケースでは、青信号で交差点に進入した方には何ら落ち度がなく、しかも加害者側が嘘をついていて(勘違いをしている可能性もあります)、むしろこちらが加害者と言われているようなという状況にありますので、感情的な対立が大きく、加害者側の保険会社としても、加害者本人が「赤信号無視をしていない」と言っていれば、それにしたがって動くしかありませんので、交渉で賠償金の支払いを受けることは非常に困難です。

 その結果、裁判所の判断を仰ぐことになるのですが、裁判では次に述べるように証拠が不足しているという問題が出てきます。

・証拠が足りない

 赤信号無視で裁判になっている場合,ドライブレコーダーや防犯カメラ,第三者である目撃者といったものがあれば,そもそも裁判をするまでもありませんから,裁判になっているという時点で,決め手となる証拠が欠けているということになります。

 そういう意味では,8割とか9割といった高い確率で勝てる裁判ではありません。

 これらのことを踏まえた上で,裁判をするメリットやデメリット,勝つために何がポイントになるのかについて説明します。

裁判のメリット

 裁判をする場合の大きなメリットは,人身傷害保険による過失分の補填です。

 人身傷害保険は,自動車保険にオプションとして付帯されるもので,最近では大半の方が加入しています。

 この保険は,通常,自損事故や自分の過失が大きいような,加害者から自分の治療費などを支払ってもらえないような場合に使う保険で,治療費や休業損害といった実損害のほか,慰謝料なども保険会社の基準によることになりますが払われます。

 この保険の特徴として,裁判で和解したり判決が出て,賠償金の総額が確定した場合で,過失の問題で加害者からの支払が十分ではない場合,不足する部分を補うことができるというものがあります。

 その結果,裁判で赤信号無視が確定できず,0:100にすることができない場合でも,痛み分けで50:50ということになれば,足りない部分を人身傷害保険でカバーすることが可能となり,結果的に人身部分は満額回収することができます。

 赤信号無視がはっきりしない場合でも受取額が増えるというのは,裁判の大きなメリットです。

 なお,物損についてはこのようなメリットはありません。

裁判のデメリット

 相手方が赤信号無視を否認しているということは,こちら側が赤信号だったと言われていることを意味します。

 つまり,相手からするとこちらが100%加害者ということになります。

 そのため,こちら側から裁判を起こした場合,反対に相手からも裁判を起こされることになります。

 その結果,同じ裁判の中で相手からの訴えについても対応しなければならなくなるのですが,この部分は,弁護士費用特約の範囲外となります。

 また,人身事故で痛み分けとなった場合に,人身傷害保険を利用して受取額が増えることになるのは相手も同じです。

 そのため,こういったことに対応するため,加入している対人・対物保険を使用していただく必要が出てきます。

 これらの保険を使うと等級が下がって支払わなければならない保険料が増えますので,この点がデメリットとなります。

 もっとも,人身傷害保険の恩恵を考えると,保険料の増額を差し引いてもプラスになることが多いので,この点の比較は裁判をする前に確認しておく必要があります。

 逆に,損害が物損のみで,金額も小さい場合,完全に勝たなければ経済的にマイナスということもあり得ます。

裁判のポイント

 既に述べたように,このような裁判では決め手となる証拠がないことが前提となっていますので,裁判のポイントは,事故そのものの説明はもちろんのこと,事故前後の行動についての説明についてもいかに自然にできているのかということなどが点になります。

 しかし,最終的にそれらの事情を見てどう判断されるかは裁判官次第です。

 Aという裁判官は原告の言うことが正しいと考えても,Bという裁判官は被告が正しいと考えるかもしれません。

 また,立証がどこまでいったら十分なのかという点についても,裁判官によってかなりバラつきがあります。

 こう言ってしまうと身も蓋もないかもしれませんが,このように決め手に欠ける裁判の場合,「どの裁判官が担当になるか」が結果を分ける一番重要なポイントのような気がします。

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