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「物損は受けられない」の意味

2022-07-07

 「交通事故に強い」、「交通事故専門」をうたう弁護士のホームページは、最近は数多くありますが、その中に、「物損のみのご相談は受け付けていません」といった注意書きが書かれていることがあります。

 弊所でも、お問い合わせいただいた場合、一律でお断りすることまではしていませんが、お話を伺った上で、お受けできない旨をご案内することがあります。

 その理由を結論から申し上げますと、物損で揉めている場合、①人身事故よりも解決までに時間がかかるケースの割合が多く、時間に見合った費用を頂くと経済的メリットがない、②法律的な考え方(裁判所の考え方)に従えば、被害者の要求が認められないことが少なくない(=泣き寝入りになる)ためです。

 なぜ、弁護士は物損のみの依頼を受けることができないところが多いのか、この点についてご説明します。

よくある誤解

 この点について、「弁護士が儲からないから受けられないのではないか」と思われることがあるようです。

 これは、実際にお話を伺っていても、「こんな小さな案件だと受けてもらえないですか?」と聞かれることも多いですし、他の法律事務所の口コミを見ても、「儲からないから雑に扱われた」といったことが書き込まれていることがあるようですので、そういう印象を持たれている方は実際に多いのでしょう。

 しかし、これには一部誤解があります。

 弁護士の報酬は事件に応じて弁護士が自由に設定することができますので、どんな案件でも弁護士に利益が出るような料金を設定することができます。

 例えば、1万円を請求する事案でも、時間がかかると思えば、50万円の費用を設定してもよいわけです(実際に過失割合で争いが生じている場合、裁判をして解決までに数十時間を要するケースも少なくありません)。

 もちろん、1万円を請求するために50万円を払うという人はほとんどいないと思いますので、実際には契約が成立することはないでしょう。

実際の料金設定

 実際の弁護士費用の設定は、上記のように費用を50万円といった定額で定めるというよりも、タイムチャージといって、弁護士の執務時間に応じて報酬を受け取るという方式をとることが多いです。

 弁護士特約でもこの方式は認められていて、その場合の費用は1時間当たり2万円(税別)となっています。

 また、時間の上限は30時間となっていますが、裁判をしてもその程度で収まることが多いことに加え、事情があれば延長も可能です。

 弁護士の側から見れば、タイムチャージ制であれば、事件をお受けしても赤字になるということは通常ありませんので、「少額だから受けられない」ということはないのです。(※事務所によっては、多額の経費により、タイムチャージ制では利益が出ないということもあり得るかもしれません…)

 したがって、少なくとも弁護士特約に加入されているケースであれば、費用面の問題からお受けできないということはあまりありません(逆に言うと、弁護士特約に未加入の場合、タイムチャージ制をとると被害者の方にとって経済的にマイナスとなることが多いと思われますので、費用面からお受けすることができません)。

 それにもかかわらず、弁護士特約に加入されている場合でも、「物損のみの場合にお受けできない」というのは、費用面以外の理由があるのです。

物損は被害者の納得感が得られにくい

 物損で保険会社との間でもめることがあるとすると、代表的なものは以下のものになります。

 ①過失割合

 ②車両の時価額

 ③代車代

 ④評価損

過失割合

 過失割合については、実務上、相場というものがある程度固まってきているところですので、この相場そのものに納得できないという場合、結果を覆すことは困難です。

 事故状況に争いがある場合でも、ドライブレコーダーのようなものがなければ、自分の訴えたい事故状況を証明するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

 どんなに相手が間違ったことを言っていても、こちらの言い分が正しいことを証明できるものがなければ、保険会社や裁判所を説得することはできません。

 「被害者が泣き寝入りするのはおかしい!」と思われるかもしれません(その感覚は理解できます)。しかし、第三者から見ると、どちらが被害者なのかを知る手がかりがないのです。

 厳密には、ドライブレコーダーのようなものがなくても、車の破損状況からおおよその事故状況を証明できることもありますが、そのように都合のよい形で傷が残されていることは多くありません。

 交渉で過失割合を修正できる典型例は、基本の過失割合を修正できるような特殊な事情があって、保険会社がそのことを見落としているような場合です。

車両の時価額

 車両の時価額で争いになった場合も難しい問題があります。中古車の時価額を知るための参考資料として「レッドブック」というものがありますが、ここに掲載されている金額が正しいものとは限りません。

 そこで、レッドブックの価格に納得できない場合、時価額を算出するための資料を被害者側で用意しなければなりません。

 多くの場合、インターネット上の売出価格を元に算出し、それによって示談することもありますが、これはあくまでも売出価格であって成約価格ではないという問題や、実際に売られている車は、オプションの有無などに違いがあり、事故車と同種のものとは言い難いものが含まれているという問題があります。

 さらに、年式が古い車の場合、レッドブックに掲載すらされておらず、インターネットで検索しても数台しかヒットしないようなこともあり、そのようなケースではデータの数として十分とは言えず、車両の状態にも大きな差があるため、適正額を定めるのは一層難しくなります。

 このように車両の適正な時価額を厳密に証明するというのは簡単なことではありません。

 特に、年式が10年以上前の車種の場合、実際に買い替えようとすると、交渉を行ったとしても、そこで得られる賠償金では不足するというケースが少なからずあります。

 ここで問題となる車両の時価額とは、本人にとって物理的に移動手段として価値があるかどうかではなく、あくまでも第三者から見て経済的な価値があるかどうかです。移動手段としては十分利用できる場合でも、第三者から見ればほとんど価値がないということがあり得ますが、そうした場合、被害者の納得感の得られる賠償を受けることは難しいのです。

代車代

 代車代も悩ましい問題があります。被害者からすると、「必要があって借りたのだから賠償されるのは当然」と考えるでしょう。しかし、それほど簡単な話ではありません。

 通常の修理可能な案件で、過失割合に争いがないようなケースでは、保険会社のアジャスターが損害確認を行い、修理工場と協定を結んで、速やかに修理が行われ、その間に代車が必要になれば、代車代も支払われます。

 保険会社によっては、過失が0:100でなければ払えないというところもありますが、この点は交渉で支払いを受けられるようにすることもそこまで難しくありません。

 問題は、上で述べた過失割合や車両の時価額で争いがある場合です。

 被害者からすると、「保険会社がおかしいことを言って交渉が長引いているのだから、その間に代車が必要になれば、それを保険会社が支払うのは当然」と思われるでしょう。

 しかし、結果的にどちらがおかしいかは裁判をしてみなければ分からないことです。

 また、賠償の基本は、実費の清算なので、交渉に時間がかかりそうな場合、修理や買い替えを先行させて、立て替えた費用を後日相手方に清算してもらうことも可能です。

 そのため、裁判上(法律上)、交渉に長期間の時間を要したとしても、その間の代車代を相手方に負担させることは困難です(相手方が調査をした後も全損か分損かの報告を怠っていたとか、事務的な遅れがあるような場合は別)。

 そうすると、被害者としては、しっかり交渉を行いたい場合(弁護士に依頼するということはそういうケースだと思います)、先に自費で修理代や車の買い替え費用を捻出しなければならないのですが、金額が大きくなることもあり、何より被害者が負担しなければならないことへの抵抗感から、これに納得できないということは多いです。

 他にも、高額な車が事故に遭ったとき、同様のグレードで代車を借りたいという気持ちは理解できるのですが、それをした場合、裁判をしても全額が認められないという可能性があります。

評価損

 これは、あまり争いになることは多くないのですが、修理をしても、事故車扱いとなって売却価格が下がってしまうことを損害として相手に請求するものです。

 最近では、残価設定ローンにより、車の買取りが予定されていることも多く、価格の下落が現実的にマイナスとなるため、問題となることが増えています。

 この点については、裁判上(法律上)の取り扱いは厳しく、外国車や国産の高級車であり、初度登録から間もない事故で、損傷の程度も一定以上のものであるといった条件をクリアしていなければ認められない傾向にあります。

 したがって、この点でも納得が得られないことが多いでしょう。

まとめ

 以上のように、物損の場合、被害者にとって納得が得られないケースが多く、「物損のみは受けられない」という場合、これがその理由となっていることが多いのです。

 既に述べたように、料金面では、弁護士特約を利用するなどすれば、問題なく依頼をお受けすることは可能です。

 しかし、せっかくご依頼いただいても、納得の得られない結果に終わる可能性が高いのだとすると、何のために弁護士に依頼するのか分かりません。

 しかも、その理由が、法律的な考え方や、時価額の問題等そもそも完璧な資料が存在していないという、弁護士の努力では如何ともしがたい部分による場合が多いので、費用面で問題がなかったとしても、どうしても初めからお断りするケースが多くなってしまうのです。

 

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交通事故の事故態様の証明

交通事故の納得できないルール

2022-07-01

 交通事故事件で弁護士の対応が必要となるということは、加害者側の保険会社との間で何かしら争いあるのが通常です。

 争いがあるパターンの1つは、被害者か保険会社のいずれかが法律上のルールや相場をよく理解していないというものです。

 保険会社の理解が不足している場合、法律上のルールや相場を理解してもらうことが重要になりますので、法律の条文を示したり過去の事例を示すことで交渉します。

 問題となるのは被害者側が法律上のルールや相場に納得できないという場合です。

 率直に申し上げて、法律のルールは、必ずしも交通事故の被害者にとって優しいものではありません。

 様々な場面でそうしたことがあるのですが、これまでの経験から、ほとんどの問題の根本的な原因は、①被害者が自分の言い分を証明しなければならないこと、②相当因果関係の範囲外は賠償されないこと、の2点であると思います。

 そこで、今回はこれらについて解説します。

証明責任

 法律の世界では、「証明責任」という言葉があります。

 証明責任とは、専門的には、法律が適用されるために必要となる事実について、真偽不明の状態となった場合に、その法律の適用によって生じる効果を得られないという当事者の負担のことをいいます。

 これだと分かりにくいので、交通事故の場合に即して解説します。

交通事故の場合

 まず、交通事故の場合、民法709条や自賠法3条(自賠法3条は人身事故のみ)といった条文があることで、加害者に対して法律的に金銭の請求が可能となっています。

 そのため、被害者としては、民法709条に書かれている条件を満たしているかどうかが非常に重要となります。

 では、交通事故の場合、ここでいう条件がどのようなものかというと次のようなものです。

①相手が自動車事故を起こして自分が被害者となったこと

②自分に何らか損害が生じたことと、損害の金額

③自分に生じた損害と事故との因果関係

④相手に過失があること

 これらについて「証明責任がある」ということは、これらを全て証明しなければ、民法709条の適用が認められず、加害者に対して金銭の請求ができないということになります。

 そして、これらの「証明責任」は、被害者にあるとされています。

※④の相手の過失は、人身事故の場合、自賠法3条により相手が証明しなければならないのですが、実際に問題となるのは過失があるかないか(0か100か)ではなく、過失の割合がどの辺りなのかであり、細かい事故状況と過失の割合に争いがあれば、見解の相違がある事故状況については、結局被害者側が証明しなければなりません。

何で被害者が証明しなければならないのか

 「何の落ち度もない被害者が、なぜ資料を出したりしないといけないのか」といって不満を持つ人もいるでしょう。その気持ちは分かります。

 しかし、いくら被害者だからといっても、加害者側が言い値で賠償しなければならないとするのはさすがに行き過ぎでしょう。

 過大請求とまで言わなくても、被害者が計算の仕方を誤解している可能性もありますし、少なくとも加害者側でチェックをする必要があり、そうすると、最低限の資料は被害者が提出する必要があります。

 もっと言うと、当たり屋に車をぶつけられたような場合でも、相手が「自分が被害者だ」と訴えてきた場合、何の証明もなく支払いに応じなければならない、もしくは、自分に何の落ち度もないことを証明しなければならないということになってしまいます。ドライブレコーダーもつけていないというような場合、それを証明するのは困難です。

 結論としては、被害者側が損害の発生や額などを証明しなければならないという点はやむ得ないというほかありません。

 したがって、これを受け入れられないといって証明を怠れば、賠償も受けられないということになります。

証明の程度

 では、証明とはどの程度のものをいうのか?

 法律上、明確な決まりがあるわけではありませんが、基本的には、第三者に確信を抱かせる程度の証明は必要といえます。

 「被害者の言っていることがおそらく正しいだろう」という程度では足りず、より強い証拠を出す必要があるのです。

相当因果関係

 証明の問題と並んで、被害者の納得が得られないのが、因果関係の問題です。

 交通事故の場合の因果関係とは、「事故がなければこうならなかった」といっただけでは足りず、「事故が起きれば、通常はそういう損害が発生するだろう」というものでなくてはなりません。これを相当因果関係といいます。

 逆に言うと、他の案件では生じないような自分に特有の損害が生じたような場合や、通常のケースと比較して過大な損害が発生しているような場合は、賠償の対象外となる可能性があります。

 これは、先ほどの証明の問題とは異なり、「損害が発生していることを証明できたとしても認められないもの」になります。

 典型例は、会社の役員が事故に遭って、重要な商談に参加できなくなった結果、会社に莫大な損害が生じたといったもので、そのような損害まで加害者は賠償しなくても良いとされています。

 このように賠償の範囲が限定されている理由は、「損害の公平な分担」にあるなどとされていますが、被害者にとっては納得できるものではないでしょう。

 しかし、この相当因果関係の考え方は、交通事故以外の損害賠償全般に用いられているものであり、誰しも、過失で他人に損害を発生させてしまうことはあり得る中で、被害者に一方的にその損害を負担させてしまうと、安全に取引や生活を行うことができなくなってしまいます。

 そのため、相当因果関係の基本的な考え方についても、受け入れざるを得ないのが現状です。

 ただし、何をもって「相当」といえるのかについては、判然としない部分もありますので、相手から「因果関係がない」と言われても、それが正しいとは限りません。その場合、交渉が必要となります。

まとめ

 以上のように、保険会社の対応以前に、法律上のルールの関係で、被害者が納得できない部分が出てくる場合があります。

 そういう場合、ルール自体がおかしいことを指摘しても、保険会社は応じませんし、裁判所の判断も変わらないでしょう。

 被害者としては、ルールについては受け入れた上で、ルールの中で最大限できることを考えるという風に意識を切り替える必要があります。

交通事故の事故態様の証明

2022-06-23

 交通事故の示談交渉や裁判を行う中で、「どうやって事故が起きたのか」という事故態様に関する争いが生じることがあります。

 例えば、加害者側は一時停止をしていたのか、事故の前の双方の車両の位置関係はどうだったのかといったところです。

 ドライブレコーダーの映像があれば、この点も比較的容易に証明でき、社会問題となったあおり運転の影響もあって、ドライブレコーダーを設置している人も少なくないため、そうした場合にはそれほど問題とはなりません。

 したがって、上記の点が争いになっているということは、ドライブレコーダーの映像のような客観的な証拠がないケースということになります。

 そして、このようにお互いに決め手に欠けるような事件の場合、話し合いでの解決は難しく、裁判に至るということが少なくありません。

 では、裁判ではどのように事故態様について証明していけばよいのでしょうか?今回はこの点について解説します。

証明の方法

 既に述べたように、この類型では決め手になる証拠がないため、証拠を出すといってもどうしても「弱い」証拠となってしまいます。

 それでも、車両の損傷個所を撮影した写真や事故直後の双方の車両の停車位置を撮影した写真、ブレーキ痕の写真といったものによって、ある程度事故状況を証明することは可能です。

 例えば、事故車両のへこみ具合などを見ることで、力の入力方向を知ることができる場合があります。これによって、加害車両がどの方向から被害車両に衝突したのかを知ることができます。

 そのほか、事故直後の車両の位置を確認すれば、車両が早回り右折をしたかどうか等が分かることがあります。

 また、ブレーキ痕によっても、加害車両の速度が出ていたことや実際の進路を知ることもできるでしょう。

問題点

 以上のようなものを用いれば、事故態様についても容易に証明できるような気もしてくるのですが、現実に起きる交通事故の場合、被害者や加害者がどのような動きをするのかは必ずしも一律ではないため、車両のへこみ具合などから、ただちに事故状況が分かるわけではありません。

 例えば、「事故を回避しようとしてハンドルを切った」「加速して事故を回避しようとした」「ぶつかった衝撃でハンドルをとられた」等々、様々な主張がされることがあり、実際、そうしたことがあったとしても不自然とは言えないでしょう。

 そうすると、力の入力方向が分かったとしても、そこに上記の様々な可能性を考慮すると、事故態様が証明できたとはいえないことになります。

 事故直後の写真についても、衝突の後どれだけ動いたのか不明であることに加え、ひどいときは、実際にはそうした事実がないのに、「事故の後、他の車の邪魔になると思ったので動かした。」などと言ってくる場合もあります(これも、事故の後車を移動させる人は少なからずいますので、そういう主張自体が不自然なわけではありません)。

 このように、ドライブレコーダーの映像などがない場合、事故態様を証明することは容易なことではないことがお分かりいただけると思います。

 そして、双方の証拠が決め手に欠ける場合、「工学鑑定」などと呼ばれる鑑定意見書が提出されることがあります。

工学鑑定の問題

 工学鑑定とは、事故の解析についてある程度の知見を持った者が、車の損傷状況や路面の状態などから逆算して事故の状況について意見を出すものです。警察のOBや保険会社のアジャスター経験者などが行うことが多いようです。

 弁護士が行う主張や立証と異なるのは、被害車両の材質にも着目し、物理の法則等を用いて専門的な分析を行うというところです。

 このように書くと、非常に有力な方法であるように思えるのですが、実際にはそれほど甘くはありません。

 まず、そこで述べられている物理の法則のようなものですが、実際に妥当なものなのかどうかを裁判官を含めた第三者が検証することが困難です。

 それ以上に問題なのは、その物理法則を適用しようとする事実関係(例えば、衝突時の双方の車両の向きや衝突前の双方の車両の位置関係など)がそもそも証明されていないということです。

 そうすると、いくらもっともらしいことを述べられていたとしても、いわば机上の空論に過ぎず、とりわけ、厳格な証明が必要となる裁判で採用するわけにはいかないのです。

 もちろん、場合によっては有用な場合もあるかもしれませんし、裁判官によっては説得される者もいるかもしれません。

 しかし、基本的には過信できるようなものではないと個人的には思います。

 この点は、過去に裁判官も有用性を疑問視するような見解を示したことがあります。

最終的な結論の出し方

 結局、当事者のいずれからも決定的な証拠が出されないということになると、最後は、当事者の話を陳述書や尋問という形で確認して、どちらが真実を言っているのかを探ることになります。

 この中で、他の証拠との関係で明らかに無理な主張をしていれば、もう片方の言っている方が正しいだろうということになるので、こちらの主張が通る可能性が出てきます。

 しかし、相手も弁護士と打ち合わせをした上で裁判に臨んできますので、そうそう不合理なことを言うことは期待できません。

 尋問まで行っても決定的なものが出てこない場合、判決という形になりますが、その場合、証明に失敗している部分については認定してもらえないことになります。具体的には、同種の事故の一般的な類型に沿った過失割合が認定されたりすることとなります。

まとめ

 事故状況について争いになった場合、自分の言い分を通す(真実を証明する)ことは容易ではありません。だからこそ、ドライブレコーダーが普及するようになったともいえます。車両の損傷状況などから立証が可能であれば、ドライブレコーダーなど必要ないのです。

 もちろん、立証活動によって言い分が認められることもあるのですが、ドライブレコーダーを設置するなどして、事前に紛争を予防しておくということが重要です。

 また、ドライブレコーダーがなかったとしても、事故現場で少しでも証拠を保全するように努めるべきです。

 

被害者請求は本当に被害者にとって有利なのか

2022-06-07

 自賠責保険の後遺障害の認定を受けるための方法は、「事前認定」と「被害者請求」という2つがあります。

 このことは、インターネット上にも多数の記事が掲載されているのですが、誤解を招きかねないものも多々あるように思いますので、これらの違いについてここで解説します。

事前認定

 「事前認定」とは、相手の任意保険の保険会社が、後遺症部分についても賠償を支払っても良いか、事前に認定機関に調査を依頼することをいいます。

 任意保険は、自賠責保険の上乗せ保険ですので、自賠責保険で認められないものは支払いませんが、上記の調査の結果、後遺障害を認定できるという結果になれば、自賠責保険で支払いが出ることが分かりますので、任意保険会社としても、上乗せ部分を含めて支払いができるようになります。

 その結果、被害者に対しても、後遺障害分も含めた形で賠償金の提示が行われることになります。

被害者請求

 これに対して、「被害者請求」とは、自賠法16条1項により被害者に認められている請求で、被害者が自賠責保険の保険会社に対して直接賠償金の請求を行うものです。

 賠償責任保険の性質からすると、一旦加害者が被害者に賠償金を支払った後で、加害者に対してその分の保険金が支払われることになるはずですが、被害者の便宜のため、このような請求が認められています。

 「被害者請求」は上記のように自賠法16条により認められたものですので、「16条請求」とも呼ばれます。

 「被害者請求」は、自賠責保険会社に対して直接賠償金の支払いを求めるものですので、後遺障害の認定がされれば、直ちに自賠責保険金が支払われることになります。

認定機関

 上記のとおり、手続の違いはありますが、「損害保険料率算出機構」というところが認定のための調査を行うことに変わりはありません。

 「損害保険料率算出機構」は、法律に基づいて設立された団体で、中立な立場から損害調査等を行っています。

 「事前認定」の場合は、相手の任意保険会社から、「被害者請求」の場合は、相手の自賠責保険会社から、それぞれ調査の依頼が行われることになります。

 重要なことは、審査をするのはどちらも同じ組織であるということです。

被害者請求が有利?

 インターネットで交通事故を取り扱う弁護士や行政書士のホームページを見ると、何が何でも被害者請求をしなければならないような印象を与えるものが目立つように思いますが、これは本当でしょうか?

 後遺障害が認定されるかどうかは、①誰がやっても認定されるもの、②誰がやっても認定されないもの、③やり方によっては認定されるものに分類することができます。

 このうち、①と②については、誰がやっても結果は変わらないのですから、事前認定であろうと被害者請求であろうと違いはありません。

 被害者請求をすることで結果が変わり得るのは③だけということになります。

 そのため、「あなた」が被害者請求をすべきかどうかは、自分のケースが③に当たるかどうかが問題となります。

 では、③に該当するケースはどれほどあるのでしょうか?

 実は、これが問題で、答えは「分からない」と言わざるを得ません。

 なぜなら、最初から被害者請求を行って等級の認定が出た場合、それが事前認定をしたら認定されなかったかどうかを確認する術がないからです。

 逆に、最初に事前認定を行って認定されなかったものが、異議申立てで認定されたような場合は、上記の③に当てはまると考えられますが、けーすとししては多くありません。

 他に③のケースに該当すると考えられるのは、作成された後遺障害診断書を確認したところ、後遺症の記載が漏れていたり、後遺症の内容からすると当然行わなければならない検査が漏れていたような場合に、追加の対応を依頼するような場合です。

 しかし、後遺障害診断書の提出前に、後遺障害診断書の訂正や追加の検査が実施されていれば、あとは事前認定であっても、既にこの問題は解消されていますので、やはり結果に違いが生じるとは考えにくいです。このケースは、「被害者請求」か「事前認定」かという問題というより、厳密には、後遺障害診断書の提出前に内容のチェックを行ったかどうかという問題といえます。

 このように考えたときに、③のケースがどれだけあるかというと、決して多くないのではないかというのが、私のこれまでの経験からの実感です。

 少なくとも、「絶対に被害者請求にしなければ損をする」と断言できるようなことはありません。

 ただし、事前認定であれば認定されたものが被害者請求をしたから認定されなかったというケースはおそらくないので、全体で見れば、被害者請求にした方が認定の確率が多少高いということは言えるかもしれません(個々の被害者に対してはミスリードになると思いますが)。

どうしたらよいか

 以上のように、被害者請求の方が事前認定よりも後遺障害の認定がされやすいという証拠はありません。

 しかし、私自身、異議申立事案など、明らかに③に該当するケースを見てきましたので、場合によっては、敢えて被害者請求を選択しなければならないこともあるでしょう。

 また、被害者請求自体は、特別な費用が発生するようなものでもありませんので(多少の郵便代などはかかりますが)、手間が少しかかる以外に特にデメリットはありません。

 さらに、被害者請求のたしかなメリットとして、自賠責基準の賠償金を先に受け取ることができるというものがあります。

 後遺症の影響で仕事ができなくなったといった事情で、交渉や裁判に時間や費用をかけられないという被害者にとって、これは大きなメリットになります。

 なぜなら、時間をかけられないということは、その分最終的に受け取ることのできる賠償金の額も小さくなる可能性があるためです。

 このような事情からすれば、基本的に全件被害者請求を行うということで良いと思います。

 しかし、それは、必ずしも被害者請求の方が事前認定よりも認定の確率が上がるという趣旨ではないのです。

道路交通法と過失割合の関係

2022-06-02

 交通事故の相談を受けていると、インターネットで色々と調べてこられる方もいます。

 その際、過失割合について、「相手は道路交通法〇条違反だから、こちらに過失はないですよね?」と言われることがあります。

 しかし、道路交通法は過失割合を決める際に、重要な手掛かりとはなりますが、それだけでどちらにどれだけ有利かは分かりません。

 今回は、道路交通法と過失割合の関係について解説します。

 

被害者側にも道路交通法違反はある

 道路交通法には、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という条文があります(70条)。

 この条文はいわゆる一般規定というもので、内容は非常に抽象的で、簡単に言うと、「安全に運転しなければならない」ということです。

 そして、被害者側も、完全に「安全な運転」をしていれば、追突事故のような場合を除き、ほとんどのケースで事故を回避することが可能です。

 例えば、優先道路であっても、見通しが悪い交差点があれば、そこから車や自転車が飛び出してくる可能性があるので、慎重に運転し、カーブミラー等を確認するといったことです。

 現実には、そこまで慎重に走っていない車も多数ありますが、「みんながそう運転しているからいい」ということにはなりません。

 つまり、事故が現実に起きている以上、ほとんどの場合で被害者側にも何らかの落ち度があり、その落ち度は、道路交通法70条違反になり得るということです。

 保険会社の担当者が「動いているもの同士なので0:100」にはならないというのはこの趣旨です。

 したがって、被害者側にも道路交通法違反はある以上、相手に道路交通法違反があるからといって0:100になるわけではありません。

道路交通法が過失割合に与える影響

 では、道路交通法の定めが過失割合と関係がないのかというとそういうわけではなく、実際の過失割合は、道路交通法の定めを参考にしつつ、様々な事情を考慮して決定されることになります。

 例えば、道路交通法を見れば、交差する道路でどちらが優先するのかを明らかにすることが可能です。

 一時停止の規制があれば、道路交通法43条により、停止線の直前で一時停止をした上で、交差道路を通行する車両等の進行を妨害してはならないとされていますので、実際に一時停止をしたかどうかにかかわらず、交差道路を通行する車両に対して劣後することになります。

一方で、優先車の方でも、道路交通法42条1により、「左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとしするときは徐行しなければならない」とされています。つまり、優先車が徐行していなければ、道路交通法42条1号に違反しているということになります。

 この類型では、劣後車が一時停止無視をしていたとしても、優先車が徐行して注意しながら走行していれば、多くの場合は事故に至らないと考えられますので、この類型では、多くのケースで、被害者側にも道路交通法違反があるわけです。

 もっとも、この徐行義務は、道路が「優先道路」であった場合には課されていません。

 道路交通法上の「優先道路」とは、標識により優先道路であることが明らかにされているか、交差点の中まで中央線や車両通行帯の表示が連続しているものをいいます(道路交通法36条2項)。一時停止の規制があるのみでは、ここでいう「優先道路」とはなりません。この点は誤解が多いところです。

 しかし、優先道路だからといって、歩行者が出てくる可能性もありますし、全く注意せずに走行していては、とても「安全な運転」とはいえません。

 したがって、優先道路を走行していたとしても、道路交通法70条違反を免れるわけではありません。

 ただし、「優先道路」ではない場合と比較すると、明確に徐行義務が課されているわけではないため、過失割合の点でも、「優先道路」に当たる場合の方が若干有利になっています(10%程度)。

まとめ

 このように、道路交通法でどのような規制がされているのかを見ると、どちらが優先するのか、また、一時停止の規制があるのみの場合と優先道路の場合といったように、類型ごとに比較した場合に、どちらをより被害者に有利にすべきかといったことが分かります。

 とはいえ、そこから直ちに、過失割合が30:70だとか具体的な数字が導かれるわけではありませんので、過去の裁判でどういう判断がされてきたのかといったことを踏まえた上で、相場を掴む必要があります。

 少なくとも、相手の道路交通法違反を指摘できれば勝てるといった簡単な話ではないのです。

事故状況に争いがあるケース

2022-05-27

 交通事故の損害賠償の請求を行う場合に、最も問題となるものの1つに「事故状況についての争い」があります。

 この点が争いになると、交渉で解決する可能性が低くなり、裁判でも納得できる結果が得られないことも多くなります。

 今回は、なぜこの点が問題なのかについて解説します。

特徴

 交渉の中で争いになることは、他にも慰謝料の額や後遺障害の認定など多数ありますが、こうしたものが争いになる場合、あくまでも金額が多いか少ないかといった相場感の問題や、証明するための資料が不足しているということが大半ですので、多少納得がいかないところがあったとしても、合意に至ることが多いです。

 これに対して、事故状況について双方の言い分が違う場合、通常は一方が真実を言っていて、他方が真実と違うことを言っているということになります。

 また、事実と違うことを言われて困るのは、通常被害者側です。

 そのため、被害者側の不満は、著しく大きなものとなります。

問題点

誰が証明するのか

 事故状況に争いがある場合、誰がこれを証明するのかが問題となります。

 被害者側の立場からすれば、「相手が嘘を言っているのだから、相手が自分の言い分を証明すべきだ」という気持ちになるでしょう。

 しかし、実際は、被害者側が、自分に有利になる事実を証明しなければなりません。

 なぜそうなるかは、自分が加害者にでっち上げられたようなことをイメージして見ると分かります。

 相手から突然車をぶつけられ、相手が加害者だと言ってお金を請求された場合に、請求された側がそうじゃないことを証明しなければならないとすると、不当請求が容易にまかり通ってしまいます。

 それでは困るので、請求をする側が事故状況などを証明するというルールになっています。

証拠がない

 ドライブレコーダーや第三者である目撃者といった証拠があれば、相手もそれを受け入れざるをえないため問題となることはほとんどありません。

 逆にいうと、事故状況が争いになっているということは、こういった決定的な証拠がないということを意味します。

 しかも、他の争点の場合、例えば被害者の収入状況など、「完全には立証できないものの、ある程度の証明はできている」ということが多いの対し、事故状況が争いになっている場合、0か100か(どちらが真実か)ということが多く、その意味で、ほとんど証明できていないのと同様の状態がしばしば見られます。

 そのような状態の中で、少しでも自分に有利な事情を探して証明いくことになります。

証明のハードルが高い

 証明するといっても、この類型では決定的な証拠がないことは既に述べたとおりです。

 そのような中で、裁判官(あるいは保険会社の担当者)に対して、どの程度までこちらの言い分が正しいと思わせる必要があるのでしょうか?

 「どちらが真実か」という観点からすれば、相手よりも少しでもこちらの言い分が正しいと思わせれば「勝ち」になるように思えます(実際、そういうイメージを持っている人は多いようです)。

 しかし、実際に求められている証明とは、それよりもはるかにハードルが高く、裁判官に「高度の蓋然性」を抱かせる、つまり確信を抱かせる程度の証明ができないといけません。

 この点は、多少裁判官によって感覚の違いがあるとしても、「多分こちらが正しいだろう」という程度では足りないということです。

 繰り返しになりますが、この類型では決定的な証拠はありませんので、事故状況に争いがある場合の証明は相当難易度が高いものとなっています。

 ただ、事故によっては、決定的とまではいえないものの、かなり有力な証拠がある場合があります。例えば、車の破損状況から、衝突の角度、強さが分かるような場合です。

 このようなケースであれば、裁判所もこちらの言い分を認める可能性が高まります。

問題の原因

 このようなケースでは、被害者は、「相手が嘘を言っているのが許せない」といって感情的になることが多く、その気持ちは十分に分かります。

 ただ、私の経験上、事実と異なることを言っている相手方も、嘘と分かって言っているケースはむしろ稀なのではないかと考えています。

 つまり、何らかの誤解や思い込みによって、事実と違うことを真実だと思ってしまっているということです。

 例えば、実際は徐行していなかったのに、「自分は普段から慎重に運転しているから徐行していたはずだ」とか、「自分は安全確認をしていたのだから、相手の方が速度違反していたんだ」といったものです。

 実際には、事故現場の見通しが悪かったり、安全確認といっても常に360度確認できるわけはないので、相手の車の動きを完全に見ていたわけではないのに(それができていれば事故は起きていない)、憶測でそう考えてしまっているということです。

 こうなってくると、相手も嘘を言っているつもりはないので(むしろこちらが嘘を言っているように思っている)、話をまとめるのが非常に難しくなります。

 認知機能が低下した高齢者が、このような思い込みをしているケースもあります。

解決策

 以上のように、事故に遭ったときに、敢えて嘘を言う者は決して多くない思いますが、思い込みから、事件の解決を困難にする者は一定数存在します。

 たまたま加害者がそういった相手かどうかは運によるとしか言いようがなく、そうなってしまった場合、実際にこちらの言い分を通すことは困難なことが多いです。

 結局、事前にそうした場合に備えてドライブレコーダーを設置するというのが、現状で考えられる最善の策であると思いますので、まだ取り付けていない人は、早めに取り付けることをおすすめします。私自身、自家用車にはドライブレコーダーを前後に取り付けています。

ネットの情報には要注意

2022-03-31

 最近では、インターネットで交通事故に関する様々な情報が発進されていて、このサイトもそのうちの一つです。

 これらの情報の中には役に立つものもありますが、中には、被害者を惑わす不適切なものもありますので、注意するようにしてください。

 私が依頼を受けた案件でも、後遺障害の認定手続きに関して、行政書士から不安をあおられるような説明を受けた結果、適切な処理ができなかったという案件があります。

 文章を書くのは人間ですので、ホームページ上に書いたことの中に誤りが含まれることもあるでしょう(弊所の記事の中にも誤りがある可能性はゼロとはいえません)。

 しかし、不確かな情報で顧客を誘引しようとすることは明らかに不適切であり、また、そのような者が本業を適切に行っているとも思えないので、十分に気を付けてください。

弁護士の広告の規制(参考)

 弁護士の出すインターネットを含めた広告については、記載内容に守るべき指針が定められていて、以下のようなものは掲載してはいけないとされています。

 これは、弁護士に対する規制ですが、一般的にも当てはまる部分が多いと思われますので、参考にしてみてください。

1 困惑させ、又は過度な不安をあおる広告

 例「今すぐ請求しないとあなたの過払金は失われます。」

 「すぐに〇〇しないと大変なことになりますよ」といったものですね。

 このような広告は、見た人が不安に駆られ、正常な判断力を失わせることになるため、不適切というわけです。

2 誇大又は過度な期待を抱かせる広告

 例「当事務所ではどんな事件でも解決してみせます。」

 例「たちどころに解決します。」

 これらは、実際には結果が必ずしも保証できないにもかかわらず、それができるように見えますので、不適切です。「誰でも痩せられます」とうたうダイエット商品のようなものです。

※弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け負い、又は保証してはならないとされています。弁護士の業務で、「絶対に勝てる」というものは存在しないのです。

3 弁護士等の選択にとってあまり重要でない事項をあたかも重要であるかのように強調した広告又は不正確な基準を用いて実際よりも優位であるかのような印象を与えるような広告

 これは少し分かりにくく、グレーな部分も多いと思われます。例としては以下のものが挙げられています。

例「○○地検での保釈ならお任せ下さい、元○○地検検事正」

例「保釈の実績○○件、保釈なら当事務所へ」

4 訴訟事件の勝訴率の表示

 これは、実際には受け持った事件の性質に大きく左右されるものでもあり、広告を見た人に当てはまるとは限らないものですので、誤導又は誤認のおそれのある広告の典型例として禁止されています。

 ところが、インターネットを見ていると、後遺障害の認定率が〇〇といったものも中にはあるようなので、こういったものを見て誤認されないように願います。

まとめ

 いかがだったでしょうか。インターネットで色々とみていただくと、思い当たるものが見つかるではないでょうか。

 個人的な印象ですが、弁護士のホームページよりも、行政書士等のホームページに不適切だと考えられるものが多いように思います(不確かなことを断定的に語るなど)。※もちろん、行政書士一般に問題があるわけではありません。

 初めての交通事故で分からないことが多く、不安になる気持ちも分かりますが、怪しい情報に惑わされず、冷静に判断することが大事です。

1人暮らしで無職の休業損害・逸失利益

2021-11-24

 交通事故の損害賠償は、実際に生じた損害を補填する(原状回復)ことを目的としているため、実際に生じていない損害について、加害者に対する制裁的な目的として支払いを求めることはできません。

 したがって、休業損害や後遺障害逸失利益というものも、あくまでも仕事を休んだり、一部に制限が生じたために減収が生じていることを理由として請求するものであり、仕事に何の影響もないのに賠償を求めることはできません。

 ただし、厳密に減収が生じていなければ賠償の請求ができないかというと、必ずしもそうではなく、後遺障害逸失利益については、全くゼロということはむしろ少なく、ある程度の賠償が認められることが多いですし、休業損害についても、ケースによっては認められるものがあります。

 それでは、1人暮らしをしていて、特に収入もないような人が交通事故の被害者となった場合にはどうなるのでしょうか?

 高齢者で、妻や夫に先立たれていたようなケースは珍しくありませんが、このような場合には、仕事といえるものを全くしていない一方で、家事労働に支障が出ることがあります。こうした場合休業損害や逸失利益はゼロなるのでしょうか?

 この点について解説します。

家事労働の休業損害・逸失利益の判例

 最高裁判例では、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げている」、「一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」として、家事労働についても、休業損害や逸失利益の対象となることを認めています。

自分のための家事労働に関する実務

 保険会社との交渉や裁判実務でも、家事労働について休業損害や逸失利益が認められることについて争いはありません。

 問題は、家事労働が自分のためだけに行われているような場合です。

 このような場合には、休業損害や逸失利益を否定するのが裁判も含めた実務の傾向です。保険会社が支払いに応じることはまずないと言ってよいでしょう。

 これは、家事労働に休業損害や逸失利益を認める際に最高裁の判例が指摘する、家事労働が「現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」ということに着目したものであると考えられます。

 また、「労働」というものが、あくまでも他人のために行うものであるという考え方もあるでしょう。

例外的に賠償が認められる場合

 家事ができなくなったために、身の回りのことをやってもらう必要が生じ、家政婦を雇ったような場合、必要といえる範囲で、その費用の賠償が認められるとされています。

 別居していても、家族のために介護や育児への協力といった形で家事労働の分担を行っていることがあり、このような場合には、休業損害や逸失利益が認められる可能性があります。

 また、事故当時たまたま仕事に就いていなかっただけで、仕事に就く確実な予定があったような場合には、その分の休業損害・逸失利益が認められることになります。

私見

 現在の実務の考え方は以上のとおりで、1人暮らしをしている場合、どんなに家事に支障が生じようと、それが自分のためである限り、休業損害は認められないということになります。

 しかし、例えば、利き腕を骨折してギプス固定したために、料理ができず外食や総菜等の購入で済ませる、家事に時間がかかるといった事態が生じた場合、実生活に支障が生じているのは明らかで、それが直接財産的な損害として現れないのは、家事を自分でしている場合に、自分に対して対価を支払うということがあり得ないためです。

 現実に家政婦を利用するなどしないで済んだとしても、それは自分自身の努力や苦痛の代償でしかありません。

 このことを慰謝料として考慮するという考え方もあるかもしれませんが、慰謝料として考慮できるような損害があるのであれば、端的に休業損害として認めれば足ります。

 もちろん、1人暮らしの場合と2人以上で暮らしている場合とで家事の量に違いがあるのは分かりますが、実務上、家族の数によって休業損害の額に違いを設けてもいませんし、1人の場合に全くゼロになる理由は分かりません。家政婦に頼めば対価を支払わなければならないことにも違いはありません。

 個人的には、現在の実務はナンセンスだと思いますし、考え方を改めるべきではないかと思います。

 ただ、裁判例の中にも、1人暮らしの場合の家事労働の休業損害を認めているものもありますが(東京高裁平成15年10月30日判決)、ごく少数ですので、基本的には、1人暮らしの家事労働の休業損害は認められないと考えておいた方がよいでしょう。

むち打ち症が14級9号に認定される目安

2021-11-17

 むち打ち症を中心とした打撲・捻挫で後遺障害等級が認定されるかどうかは、交通事故の被害者の多くが関心があるところだと思います。

 まず、大前提として、典型例であるむち打ち症は、1か月以内で治療が終了することが約80%、6か月以上要するものは約3%に過ぎず、多くは3か月以内に治癒するというデータがあることを知らなければなりません。

 その上で後遺障害14級9号が認定されるのは、症状が残存することが「医学的に説明可能」であるものです。

 したがって、それなりに理由がつかなければ、後遺障害等級の認定がされることはありません。

 また、どういうケースであれば後遺障害14級9号が認定されるのかという詳細な基準は公表されておらず、社外秘のブラックボックスとなっていますので、認定の基準はデータを元に推測するほかありません。

 認定のための条件として一般的に言われているのは以下のようなことですので、これらについて見ていきます。

 ①訴えている症状(自覚症状)の内容

 ②症状の一貫性

 ③通院の頻度

 ④MRI等の画像検査結果

 ⑤その他の神経学的検査

 ⑥事故の衝撃の強さ

 

自覚症状

 「自覚症状」は、被害者自身が訴えていることなので、被害者が訴えてさえいれば、その真偽は問わずに後遺障害診断書に記載されることになるでしょう。

 そのため、自覚症状の記載があったからといって、それがそのまま後遺障害の認定につながるわけではありませんが、ここに書かれているものが認定の出発点となることに間違いはありません。

 自覚症状の内容としては、痛い、しびれがある、重だるい、違和感がある、といったものがあります。

 自覚症状として記載されていないものは、審査の対象とならないのです。

 その上で、後遺障害として認定されるためには、「労働能力の喪失を伴うもの」である必要があり、仕事に何らかの支障が生じるレベルのものであることが要求されています。

 したがって、違和感がある程度では、認定の対象とはなりません。

 また、痛みの認定基準として、「ほとんど常時存在すること」、つまり、「いつも痛い」ということが要求されていますが、後遺障害診断書に「いつも痛い」と敢えて書かなくても認定されないということはありません。

 ただし、逆に、「起きたときに痛い」、「雨が降ると痛い」とか書かれていて、その他のときには痛くないような場合は、この条件を満たさないため、非該当となると考えられます。

症状の一貫性

 事故による受傷では、基本的に事故直後が一番症状が強く、徐々に症状が軽くなっていくという経過をとりますので、気候の変化や生活上の動作で多少の症状の上下があったとしても、ある日突然症状が現れるといったことは考えにくいです。

 そのため、事故から1か月以上経過して症状を訴えるような場合、そもそも症状自体が事故と無関係とみなされて認定されない可能性が高いでしょう。

実際に問題になる部分

上記の点は、後遺障害の認定を受けるために最低限満たしておかなければならない条件で、後遺障害の認定が受けられるかどうかが微妙な事案というのは、これらを満たした上で、何かが足りないケースです。

そこで、後遺障害14級9号が認定されるためにどのような条件が必要とされているのか、これまでに実際に後遺障害14級9号が認定されたケースを元に、検討してみます。

通院の頻度

 通院の頻度について、例えば2日に1回は通わなければダメだとかいうことはありませんが、通院の頻度が例えば月に1、2回という程度だと、認定されないケースが多いです。

 この点は、実際にどこまで認定で重視されているのかは不明ですが、弊所で確認できたもの中では、少なくとも通院日数が20日未満で認定されたものはありませんでしたので、やはり、ある程度の通院(週に2回程度)はしておくと安心だと思います。

 逆に、必要もないのに毎日通うと過剰診療にもなりかねませんので、医師や理学療法士の指示を仰ぎつつ、常識的な範囲内で通ってください。

 また、通院が多いほど認定されやすいというわけではありませんので、誤解のないようにしてください(100日以上通院しても非該当ということもめずらしくありません)。

 なお、ここでいう通院頻度とは、医療機関のことを指し、整骨院等は含まないことに注意してください。

MRI等の画像検査結果

 画像検査結果については、打撲・捻挫を前提とする以上、外傷性の異常所見は認められないということになります(これが認められれば、骨折や脊髄損傷ということになります)。

 打撲・捻挫の場合、特に頚椎捻挫・腰椎捻挫の場合に重視される画像所見とは、骨棘や椎間孔の狭小、ヘルニア等による神経根の圧迫が見られるような場合が典型例です。

 神経根が椎間孔を出るまでの間に圧迫されると、その部位によって、頚部・腕・肩等の痛みや、腕や指先のしびれが生じることがあります。

 神経根の圧迫自体は、ほとんどの場合に事故の前からあったものと考えられますが、それまで症状がなかったものが、事故の衝撃により刺激されることで生じ、そのために症状が長引くということがあり得ます。

 したがって、このような所見があることは、症状が長引く(後遺症が残る)ことを医学的に説明するための材料となります。

 ただし、後遺障害の認定がされているケースの全てでMRI検査がされているというわけではありませんでしたので、これが必須の条件とまでは言えないようです。

その他の神経学的検査等

 その他に、以下のようなテストすることで、症状の裏付けとすることができます。

 ただし、患者の意思によって結果が左右され得るもので絶対視することはできず、弊所で取り扱ったものでも、これらが陽性となっていても非該当となったものはあります。

 逆に、これらのテストで異常なしとされていても認定されたものもあります。

ジャクソンテスト

 頭部を背屈させ、軽く下に押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

スパーリングテスト

 痛みのある側に頭と首を傾けさせた上で頭部を押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

ラセーグテスト

 患者を仰向けにして、股関節と膝関節を90度に曲げた状態から、膝を徐々に伸ばしていくことで、下腿後面に痛みが出るかどうかを見るテスト。

SLRテスト

 患者を仰向けにして、膝を伸ばした状態で脚を挙げていくことで、どの段階で痛みが出るかを見るテスト。正常な場合70度くらいまで上がる。

事故の衝撃の強さ

 車両の損傷状況を示す資料を提出することは必須ではないのですが、事故の衝撃の強さも認定にあたって考慮されていると言われています(任意保険会社側に照会されているのかもしれません)。

 衝撃の強さが大きかったかどうかは、車体の骨格部分の損傷があるかどうかが判断の目安となるでしょう。

 車体に擦過傷のようなものがついた程度の事故で、後遺障害の認定が出たものは確認できませんでした。

まとめ

 以上のようなポイントからすれば、①事故で車が大破し、②MRI上で神経根の圧迫が確認でき、③神経根の圧迫に対応した神経症状が一貫して生じていて、④神経学的検査でもそれが確認でき、⑤通院の頻度もそれなり多く適切に治療を受けている、といったケースであれば、かなり高い確率で後遺障害14級9号が認定されるといって良いでしょう。

 しかし、そうでない場合、「これがあれば認定される」とか「これがなければ認定されない」という決定的なものは見受けられません。

 ほとんど同じような条件でも、Aさんは認定されていてBさんは認定されていないとか、Cさんの方が条件的に厳しそうなのに、なぜかCさんは認定されているといったことがあります。

 被害者側でコントロールできる事情はそれほど多くはありませんが、自覚症状を一貫して伝える、神経症状が強い場合はMRI検査をお願いする、通院の間隔が開き過ぎないにするといったことがありますので、この点を意識するようにしてみてください。

重度後遺障害と家屋等の改造費

2021-11-12

 交通事故の被害者が重度の後遺障害を残した場合、後遺障害があることを前提に生活をしていくために、自宅の改築や自家用車の改造が必要となることがあります。
 車イスで屋内を移動するためのバリアフリー化や介護仕様の浴槽やトイレの設置、エレベーターの設置といったものが考えられます。

 これらは、事故がなければ発生しなかったものですし、重度の後遺症が残ったのであれば、このようなことが必要になることも十分予想されますので、加害者に対して、家屋改造費や自動車改造費を損害として請求することが可能です。
 しかし、無制限に改造費の実費が請求できるわけではなく、認められる範囲には制限がありますので、この点について解説します。

改造の必要性

 言うまでもありませんが、自宅の改築や自家用車の改造が必要でなければ、賠償の請求はできません。
 そのため、後遺障害の程度が重度で、かつ、在宅介護になる場合で、通常の家屋や車両では生活が困難である必要があります。
 また、被害者本人が生活するために必要であったり、介護のために必要であるということが言えなければなりません。

 介護とは無関係に自宅をリフォームした部分については、賠償として認められません。

金額の相当性

 改造自体が必要であったとしても、標準的な設備・材料を超えて、高級な仕様にした場合、賠償の範囲が標準的な仕様と同等の額に限られて、一部の費用が自己負担となる可能性があります。

介護等の目的以上にプラスになる部分

 自宅を全面的に改築したり、新築するような場合、被害者の介護等の目的のためだけでなく、その他の部分もそれまでのものよりも新しくなり、耐用年数が伸長し家屋の価値も向上するといった、後遺症とは無関係の部分でもプラスになる部分が生じてきます。

 重度後遺障害が残りつつ、被害者が自宅での生活を継続する場合、被害者本人だけでなく、その家族が同居しているケースが多いと思われますが、このプラスの部分について、同居する家族もその恩恵を受けることになります。
 このような場合、加害者側がそういった部分まで負担しなければならない理由はないので、改築または新築の費用の全額ではなく、一部が減額されることになるでしょう。

 被害者としては、事故がなければそのような工事を行うことはなかったのだから、加害者が全て賠償すべきだと思われるかもしれませんし、感覚的には理解できるところです。
 しかし、損害賠償の場面では、元の状態よりもプラスになることまでは想定されていないことと、賠償の範囲は相当といえるものでなければならないという大原則があります。

 そのため、被害者としても、改築・新築等を行う場合、被害者の後遺症のために必要な工事かどうかをよく検討して、後遺症と必ずしも関係がない部分が含まれる場合には、その部分が賠償の対象とならない可能性があることを考慮した上で工事を依頼するようにした方が良いでしょう。
  特に、建て替えを行ったような場合、被害者の後遺症とは無関係に利便性・価値が向上する部分が多く含まれると思われますので、全額が賠償される可能性は低くなるでしょう。

 また、介護のための家屋を新築するため、土地を購入したような場合、土地自体に資産としての独立した価値がありますので、購入費用が全額賠償される可能性は非常に低いと考えられます。

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