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1人暮らしで無職の休業損害・逸失利益

2021-11-24

 交通事故の損害賠償は、実際に生じた損害を補填する(原状回復)ことを目的としているため、実際に生じていない損害について、加害者に対する制裁的な目的として支払いを求めることはできません。

 したがって、休業損害や後遺障害逸失利益というものも、あくまでも仕事を休んだり、一部に制限が生じたために減収が生じていることを理由として請求するものであり、仕事に何の影響もないのに賠償を求めることはできません。

 ただし、厳密に減収が生じていなければ賠償の請求ができないかというと、必ずしもそうではなく、後遺障害逸失利益については、全くゼロということはむしろ少なく、ある程度の賠償が認められることが多いですし、休業損害についても、ケースによっては認められるものがあります。

 それでは、1人暮らしをしていて、特に収入もないような人が交通事故の被害者となった場合にはどうなるのでしょうか?

 高齢者で、妻や夫に先立たれていたようなケースは珍しくありませんが、このような場合には、仕事といえるものを全くしていない一方で、家事労働に支障が出ることがあります。こうした場合休業損害や逸失利益はゼロなるのでしょうか?

 この点について解説します。

家事労働の休業損害・逸失利益の判例

 最高裁判例では、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げている」、「一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」として、家事労働についても、休業損害や逸失利益の対象となることを認めています。

自分のための家事労働に関する実務

 保険会社との交渉や裁判実務でも、家事労働について休業損害や逸失利益が認められることについて争いはありません。

 問題は、家事労働が自分のためだけに行われているような場合です。

 このような場合には、休業損害や逸失利益を否定するのが裁判も含めた実務の傾向です。保険会社が支払いに応じることはまずないと言ってよいでしょう。

 これは、家事労働に休業損害や逸失利益を認める際に最高裁の判例が指摘する、家事労働が「現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」ということに着目したものであると考えられます。

 また、「労働」というものが、あくまでも他人のために行うものであるという考え方もあるでしょう。

例外的に賠償が認められる場合

 家事ができなくなったために、身の回りのことをやってもらう必要が生じ、家政婦を雇ったような場合、必要といえる範囲で、その費用の賠償が認められるとされています。

 別居していても、家族のために介護や育児への協力といった形で家事労働の分担を行っていることがあり、このような場合には、休業損害や逸失利益が認められる可能性があります。

 また、事故当時たまたま仕事に就いていなかっただけで、仕事に就く確実な予定があったような場合には、その分の休業損害・逸失利益が認められることになります。

私見

 現在の実務の考え方は以上のとおりで、1人暮らしをしている場合、どんなに家事に支障が生じようと、それが自分のためである限り、休業損害は認められないということになります。

 しかし、例えば、利き腕を骨折してギプス固定したために、料理ができず外食や総菜等の購入で済ませる、家事に時間がかかるといった事態が生じた場合、実生活に支障が生じているのは明らかで、それが直接財産的な損害として現れないのは、家事を自分でしている場合に、自分に対して対価を支払うということがあり得ないためです。

 現実に家政婦を利用するなどしないで済んだとしても、それは自分自身の努力や苦痛の代償でしかありません。

 このことを慰謝料として考慮するという考え方もあるかもしれませんが、慰謝料として考慮できるような損害があるのであれば、端的に休業損害として認めれば足ります。

 もちろん、1人暮らしの場合と2人以上で暮らしている場合とで家事の量に違いがあるのは分かりますが、実務上、家族の数によって休業損害の額に違いを設けてもいませんし、1人の場合に全くゼロになる理由は分かりません。家政婦に頼めば対価を支払わなければならないことにも違いはありません。

 個人的には、現在の実務はナンセンスだと思いますし、考え方を改めるべきではないかと思います。

 ただ、裁判例の中にも、1人暮らしの場合の家事労働の休業損害を認めているものもありますが(東京高裁平成15年10月30日判決)、ごく少数ですので、基本的には、1人暮らしの家事労働の休業損害は認められないと考えておいた方がよいでしょう。

むち打ち症が14級9号に認定される目安

2021-11-17

 むち打ち症を中心とした打撲・捻挫で後遺障害等級が認定されるかどうかは、交通事故の被害者の多くが関心があるところだと思います。

 まず、大前提として、典型例であるむち打ち症は、1か月以内で治療が終了することが約80%、6か月以上要するものは約3%に過ぎず、多くは3か月以内に治癒するというデータがあることを知らなければなりません。

 その上で後遺障害14級9号が認定されるのは、症状が残存することが「医学的に説明可能」であるものです。

 したがって、それなりに理由がつかなければ、後遺障害等級の認定がされることはありません。

 また、どういうケースであれば後遺障害14級9号が認定されるのかという詳細な基準は公表されておらず、社外秘のブラックボックスとなっていますので、認定の基準はデータを元に推測するほかありません。

 認定のための条件として一般的に言われているのは以下のようなことですので、これらについて見ていきます。

 ①訴えている症状(自覚症状)の内容

 ②症状の一貫性

 ③通院の頻度

 ④MRI等の画像検査結果

 ⑤その他の神経学的検査

 ⑥事故の衝撃の強さ

 

自覚症状

 「自覚症状」は、被害者自身が訴えていることなので、被害者が訴えてさえいれば、その真偽は問わずに後遺障害診断書に記載されることになるでしょう。

 そのため、自覚症状の記載があったからといって、それがそのまま後遺障害の認定につながるわけではありませんが、ここに書かれているものが認定の出発点となることに間違いはありません。

 自覚症状の内容としては、痛い、しびれがある、重だるい、違和感がある、といったものがあります。

 自覚症状として記載されていないものは、審査の対象とならないのです。

 その上で、後遺障害として認定されるためには、「労働能力の喪失を伴うもの」である必要があり、仕事に何らかの支障が生じるレベルのものであることが要求されています。

 したがって、違和感がある程度では、認定の対象とはなりません。

 また、痛みの認定基準として、「ほとんど常時存在すること」、つまり、「いつも痛い」ということが要求されていますが、後遺障害診断書に「いつも痛い」と敢えて書かなくても認定されないということはありません。

 ただし、逆に、「起きたときに痛い」、「雨が降ると痛い」とか書かれていて、その他のときには痛くないような場合は、この条件を満たさないため、非該当となると考えられます。

症状の一貫性

 事故による受傷では、基本的に事故直後が一番症状が強く、徐々に症状が軽くなっていくという経過をとりますので、気候の変化や生活上の動作で多少の症状の上下があったとしても、ある日突然症状が現れるといったことは考えにくいです。

 そのため、事故から1か月以上経過して症状を訴えるような場合、そもそも症状自体が事故と無関係とみなされて認定されない可能性が高いでしょう。

実際に問題になる部分

上記の点は、後遺障害の認定を受けるために最低限満たしておかなければならない条件で、後遺障害の認定が受けられるかどうかが微妙な事案というのは、これらを満たした上で、何かが足りないケースです。

そこで、後遺障害14級9号が認定されるためにどのような条件が必要とされているのか、これまでに実際に後遺障害14級9号が認定されたケースを元に、検討してみます。

通院の頻度

 通院の頻度について、例えば2日に1回は通わなければダメだとかいうことはありませんが、通院の頻度が例えば月に1、2回という程度だと、認定されないケースが多いです。

 この点は、実際にどこまで認定で重視されているのかは不明ですが、弊所で確認できたもの中では、少なくとも通院日数が20日未満で認定されたものはありませんでしたので、やはり、ある程度の通院(週に2回程度)はしておくと安心だと思います。

 逆に、必要もないのに毎日通うと過剰診療にもなりかねませんので、医師や理学療法士の指示を仰ぎつつ、常識的な範囲内で通ってください。

 また、通院が多いほど認定されやすいというわけではありませんので、誤解のないようにしてください(100日以上通院しても非該当ということもめずらしくありません)。

 なお、ここでいう通院頻度とは、医療機関のことを指し、整骨院等は含まないことに注意してください。

MRI等の画像検査結果

 画像検査結果については、打撲・捻挫を前提とする以上、外傷性の異常所見は認められないということになります(これが認められれば、骨折や脊髄損傷ということになります)。

 打撲・捻挫の場合、特に頚椎捻挫・腰椎捻挫の場合に重視される画像所見とは、骨棘や椎間孔の狭小、ヘルニア等による神経根の圧迫が見られるような場合が典型例です。

 神経根が椎間孔を出るまでの間に圧迫されると、その部位によって、頚部・腕・肩等の痛みや、腕や指先のしびれが生じることがあります。

 神経根の圧迫自体は、ほとんどの場合に事故の前からあったものと考えられますが、それまで症状がなかったものが、事故の衝撃により刺激されることで生じ、そのために症状が長引くということがあり得ます。

 したがって、このような所見があることは、症状が長引く(後遺症が残る)ことを医学的に説明するための材料となります。

 ただし、後遺障害の認定がされているケースの全てでMRI検査がされているというわけではありませんでしたので、これが必須の条件とまでは言えないようです。

その他の神経学的検査等

 その他に、以下のようなテストすることで、症状の裏付けとすることができます。

 ただし、患者の意思によって結果が左右され得るもので絶対視することはできず、弊所で取り扱ったものでも、これらが陽性となっていても非該当となったものはあります。

 逆に、これらのテストで異常なしとされていても認定されたものもあります。

ジャクソンテスト

 頭部を背屈させ、軽く下に押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

スパーリングテスト

 痛みのある側に頭と首を傾けさせた上で頭部を押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

ラセーグテスト

 患者を仰向けにして、股関節と膝関節を90度に曲げた状態から、膝を徐々に伸ばしていくことで、下腿後面に痛みが出るかどうかを見るテスト。

SLRテスト

 患者を仰向けにして、膝を伸ばした状態で脚を挙げていくことで、どの段階で痛みが出るかを見るテスト。正常な場合70度くらいまで上がる。

事故の衝撃の強さ

 車両の損傷状況を示す資料を提出することは必須ではないのですが、事故の衝撃の強さも認定にあたって考慮されていると言われています(任意保険会社側に照会されているのかもしれません)。

 衝撃の強さが大きかったかどうかは、車体の骨格部分の損傷があるかどうかが判断の目安となるでしょう。

 車体に擦過傷のようなものがついた程度の事故で、後遺障害の認定が出たものは確認できませんでした。

まとめ

 以上のようなポイントからすれば、①事故で車が大破し、②MRI上で神経根の圧迫が確認でき、③神経根の圧迫に対応した神経症状が一貫して生じていて、④神経学的検査でもそれが確認でき、⑤通院の頻度もそれなり多く適切に治療を受けている、といったケースであれば、かなり高い確率で後遺障害14級9号が認定されるといって良いでしょう。

 しかし、そうでない場合、「これがあれば認定される」とか「これがなければ認定されない」という決定的なものは見受けられません。

 ほとんど同じような条件でも、Aさんは認定されていてBさんは認定されていないとか、Cさんの方が条件的に厳しそうなのに、なぜかCさんは認定されているといったことがあります。

 被害者側でコントロールできる事情はそれほど多くはありませんが、自覚症状を一貫して伝える、神経症状が強い場合はMRI検査をお願いする、通院の間隔が開き過ぎないにするといったことがありますので、この点を意識するようにしてみてください。

重度後遺障害と家屋等の改造費

2021-11-12

 交通事故の被害者が重度の後遺障害を残した場合、後遺障害があることを前提に生活をしていくために、自宅の改築や自家用車の改造が必要となることがあります。
 車イスで屋内を移動するためのバリアフリー化や介護仕様の浴槽やトイレの設置、エレベーターの設置といったものが考えられます。

 これらは、事故がなければ発生しなかったものですし、重度の後遺症が残ったのであれば、このようなことが必要になることも十分予想されますので、加害者に対して、家屋改造費や自動車改造費を損害として請求することが可能です。
 しかし、無制限に改造費の実費が請求できるわけではなく、認められる範囲には制限がありますので、この点について解説します。

改造の必要性

 言うまでもありませんが、自宅の改築や自家用車の改造が必要でなければ、賠償の請求はできません。
 そのため、後遺障害の程度が重度で、かつ、在宅介護になる場合で、通常の家屋や車両では生活が困難である必要があります。
 また、被害者本人が生活するために必要であったり、介護のために必要であるということが言えなければなりません。

 介護とは無関係に自宅をリフォームした部分については、賠償として認められません。

金額の相当性

 改造自体が必要であったとしても、標準的な設備・材料を超えて、高級な仕様にした場合、賠償の範囲が標準的な仕様と同等の額に限られて、一部の費用が自己負担となる可能性があります。

介護等の目的以上にプラスになる部分

 自宅を全面的に改築したり、新築するような場合、被害者の介護等の目的のためだけでなく、その他の部分もそれまでのものよりも新しくなり、耐用年数が伸長し家屋の価値も向上するといった、後遺症とは無関係の部分でもプラスになる部分が生じてきます。

 重度後遺障害が残りつつ、被害者が自宅での生活を継続する場合、被害者本人だけでなく、その家族が同居しているケースが多いと思われますが、このプラスの部分について、同居する家族もその恩恵を受けることになります。
 このような場合、加害者側がそういった部分まで負担しなければならない理由はないので、改築または新築の費用の全額ではなく、一部が減額されることになるでしょう。

 被害者としては、事故がなければそのような工事を行うことはなかったのだから、加害者が全て賠償すべきだと思われるかもしれませんし、感覚的には理解できるところです。
 しかし、損害賠償の場面では、元の状態よりもプラスになることまでは想定されていないことと、賠償の範囲は相当といえるものでなければならないという大原則があります。

 そのため、被害者としても、改築・新築等を行う場合、被害者の後遺症のために必要な工事かどうかをよく検討して、後遺症と必ずしも関係がない部分が含まれる場合には、その部分が賠償の対象とならない可能性があることを考慮した上で工事を依頼するようにした方が良いでしょう。
  特に、建て替えを行ったような場合、被害者の後遺症とは無関係に利便性・価値が向上する部分が多く含まれると思われますので、全額が賠償される可能性は低くなるでしょう。

 また、介護のための家屋を新築するため、土地を購入したような場合、土地自体に資産としての独立した価値がありますので、購入費用が全額賠償される可能性は非常に低いと考えられます。

代表者の事故で会社の売上が下がった場合

2021-11-02

 交通事故の被害者の中には、社長など会社の代表者である人もいます。

 そして、会社によっては、社長が事故で仕事を休んだ結果、会社の売上が減少するということがあり得ます。

 被害者にとっては(特に小規模な会社であれば)、通常の休業損害と同様に加害者が賠償をしてしかるべきであると思うかもしれません。

 しかし、一般的な給与所得者が仕事を休んだ結果、勤務先から給与が支払われなくなったような場合と、上記のような会社に損害が生じたようなケースとでは損害賠償の場面では明白に異なります。

 そこで、今回はこのような交通事故の被害者が仕事ができなくなった結果、会社に損害が生じた場合にどのような処理がされるのかについて説明します。

最高裁判例

 今回のようなケースについては、有名な最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決というものがあります。

 この事故は、薬剤師であった被害者が、無免許運転のスクーターにはねられ、眼に障害が生じた結果、経営していた有限会社の利益も減少したため、会社の損害についても賠償を請求したというものです。

 結論として、裁判所は、会社からの請求を認めました。

 しかし、このケースでは、以下のような特徴がありました。

 ①会社には被害者以外に薬剤師がおらず、元々個人で薬局を営んでいたが、納税上の理由で有限会社の形にしたに過ぎず、実質は個人営業の薬局

 ②社員は被害者と妻のみで、妻は名目上の社員

 このような事情の中で、裁判所は、「被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様直個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められる」ということを理由に、会社の損害賠償請求を認めました。

判断の基準

 上記の最高裁判決を元に、実務上、会社と被害者個人が「経済的に一体といえるかどうか」を基準に、会社からの請求を認めるかどうかを判断されるようになっています。

 この「経済的一体性」の判断にあたっては、資本金額・売上高・従業員数等の企業規模、被害者の地位・業務内容・権限、会社財産と個人財産の関係、株主総会・取締役会の開催状況等により判断されるとされています(日弁連交通事故相談センター東京支部編「交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ」243頁)。

 この条件を満たすだけでも難しいのですが、現実に請求する場面を考えると、これらの事情を証明するための書類を揃えることの難しさも考えなければなりません。

 大前提として、損害賠償の請求をする場合、各種資料は被害者が集める必要があります。

 「加害者が悪いのだから加害者が動くべきだ」というような理屈は通用しません。

 そして、この種の請求では、弁護士だけで収集することのできる証拠には限界があり、相当程度被害者本人の協力が必要であるということを頭に入れておく必要があります。

 この他に、被害者が仕事をいつ・どれだけ・どういう理由で休んだのかも当然証明する必要があるでしょう。

 長期入院を余儀なくされ、その期間分を請求するのであればともかく、退院した後も休業が続いたような場合、仕事を実際に休んでいて、休みが必要だったことを証明するのは容易ではありません。

 この点についても、休みが必要だったことが後で検証できるように、何らかの形で証拠化しておく必要があります。

 いずれにせよ、ある程度証拠をそろえたとしても、保険会社が交渉で支払いを認める類のものではありませんので、裁判はほぼ必須となるでしょう。

反射損害

 上記のような場合と関連して、代表者が仕事を休んだにもかかわらず、会社が休まなかった場合と同様の報酬を支払った(減額しなかった)場合があります。

 これは、本来、加害者が支払うべき休業損害を会社が肩代わりして支払ったもので、会社にとってはいわば無駄に報酬を払ったことになりますので、会社が加害者に対して無駄になった分を損害として請求することができます。

 ただし、この場合でも、仕事をいつ・どれだけ・どういう理由で休んだのかを被害者が資料を元に証明する必要があります。

まとめ

 以上のように、残念ながら、交通事故で代表者が負傷し、それによって会社の売上が減少したというような場合、この売上減を加害者に賠償させるのは非常にハードルが高いものとなっています。

 通常、会社には代表者以外に従業員がいますので、代表者が仕事を休んだからといって、企業活動そのものが止まるというものではありません。

 それにもかかわらず、代表者の休業=会社の損害とするのであれば、そのような例外的な事情があることを説明しなければならないのです。

 また、会社と被害者個人が経済的に一体の関係にあるという例外的な場合であっても、そのことを証明できるかどうかは別の問題で、さらに、被害者の休業の状況・必要性についても証明する必要があり、提出しなければならない資料の量も多く、裁判はほぼ必須です。

 裁判所に提出する訴状等の書面は弁護士が作成しますが、資料については、被害者である会社代表者が管理しているものですので、該当する文書を探したりすることは被害者本人が行わざるを得ません。

 そのため、会社の代表者が交通事故に遭って、会社の売上が減少したことを相手に賠償させることを求める場合、資料提出について被害者ご本人にも相応の協力をしていただく必要があります。

 逆にいうと、上記のような例外的な場合にあたり、証明のための労力も厭わないというような場合であれば、適切に証拠を集めて、加害者に賠償の請求をしていくとよいでしょう。

整骨院などへの通院

2021-11-01

 交通事故の、特に頚椎捻挫(むち打ち)・腰椎捻挫といった怪我の治療の際に、「整骨院・接骨院に通ってもいいのか」ということがよく問題になります。

 一般的に、整骨院は、営業時間や待ち時間の関係などから、交通事故の被害者にとって利用しやすいという側面があります。

 そのため、選択肢の一つとして有力なものとなりますが、交通事故の「賠償」という観点から見ると、注意すべき点もありますので、この点について解説します。

 なお、以下は、整骨院の施術の有効性について述べるものではありません。

柔道整復とは

 整形外科で診察・治療を行うのは「医師(医者)」ですが、整骨院で施術を行うのは「柔道整復師」です。

 「柔道整復師」は、医師と同様に国家資格ですが、医師とは明確に違い、「柔道整復」とは、打撲、捻挫、脱臼、骨折等の外傷に対して、外科的手段、薬品の投与等の方法によらないで応急的もしくは医療補助的方法により、その回復を図ることを目的として行う」ものとされています。

 また、医師の同意を得なければ脱臼・骨折に応急手当以外の施術をしてはならないとされており(柔道整復師法17条)、レントゲン検査や診断もできません。

 医師の同意を得ずに施術できるのは、打撲、捻挫のみということになります。

何が問題になるのか

 整骨院・接骨院の利点は、前述の利用しやすさということもありますが、整形外科よりも対応が丁寧で、より効果を実感できるといったこともあるようです。

 その反面、整骨院の施術で問題となりやすいのが、期間が長くなりがち、施術部位が多くなる、施術費用が高額になるといったことがあります。

 施術部位の問題に関しては、健康保険では、近接部位について請求の重複が生じないように、一定の制限が加えられています。

 これに対し、交通事故の場合で健康保険を使用していない場合、賠償の場面での近接部位の算定方法について明確なルールがないため、整骨院から保険会社に対して健康保険のルールを超える請求がされるということが見受けられます。

実務上の取り扱い

 整骨院の施術費用の取り扱いは、自賠責保険を含めて明確なルールが定められていないため、自賠責保険の上乗せ保険である任意保険会社も、それほど強く否定してこないこともあります。

 しかし、だからといって、賠償上問題がないわけではありません。

 弁護士に依頼するかどうかはともかく、自賠責基準の慰謝料を超える慰謝料の支払いを求めようとする場合、施術費用が妥当なのかもしっかりと判断されることになります。

 特に、示談交渉で折り合いがつかず、裁判で施術費用の妥当性が争われた場合、裁判所が厳しい判断をする可能性が十分あり得ます。

 施術費用の請求が高額過ぎるということになれば、その分慰謝料として受け取ることのできる額も減少することになります。

 裁判実務上は、整骨院の施術費用が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになるとされています。

対応策

 既に述べたように、保険会社がそれほど争ってこなければ問題になることは少ないでしょう(稀に、治療終了後に過去の支払い分を争ってくることがあります)。

 しかし、治療中の段階で、整骨院への通院に異議が出された場合、これを保険会社の横暴などと決めつけて何も対応しないというのはやめた方がよいでしょう。

 上記のとおり、整骨院への通院が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになりますので、整骨院に通院をしようとする場合、少なくとも医師に通ってもいいかどうか確認をすべきです。

 医師が指示をしていなくても、効果が認められれば、整骨院への通院が認められることがありますが、医師が明確に施術に反対している場合、整骨院への通院は避けた方がよいでしょう。

 また、柔道整復師は、各種検査を行って、傷病の診断をすることもできませんので、整形外科にも定期的に(最低でも月に1回程度)は通った方がよいです(保険会社からもその旨の指示が出ることが多いです)。

 施術部位の問題は難しいところですが、健康保険で認められないような請求を、交通事故で自由診療だからといって当然のように請求することは問題であるように思います。

 保険会社から過剰請求が指摘された場合、実際に健康保険の基準から逸脱していないか確認して、問題があるようであれば、是正してもらうか転院をするなどの対応が必要でしょう。

まとめ

 整骨院・接骨院への通院は、交通事故の打撲・捻挫の怪我の場合に広く利用されていて、その有効性も否定できません。

 他方で、その施術費用を加害者に負担させることができるかという点については、実務上、完全に決着がついたとは言い難く、整形外科に通院した場合とは異なる問題があります。

 交通事故の治療の一環として、整骨院への通院をする場合、このことを頭に入れて、主治医に相談しながら、あくまでも補助的なものとして上手く整骨院を利用していくことが重要となります。

症状固定後の通院

2021-10-27

「症状固定」の意義

 交通事故の治療費などの支払いは、無限に続くわけではなく、どこかで区切りをつけて、以降の補償は「後遺障害」という形で行われています。

 そのため、通院をしても症状が良くならないということになってくると、保険会社から治療費の支払いを打ち切られることになります。

 この区切りのタイミングになったことを「症状固定」といいます。

 「症状固定」とは文字どおり症状が固定して治療をしても改善が見られなくなった状態を指します。

 この「症状固定」になると、治療費や休業損害の支払いはなくなります。

 休業損害については、後遺障害逸失利益という項目で、後遺障害等級に応じて支払われることになります。

 また、治療費については、後述のように、症状の改善に役立っていないということになるので、支払いの対象から外れることになります。

 それでは、「症状固定」となった後に通院をしたい場合、どのように扱われるのでしょうか?

 これには、大きく分けて2つのパターンがありますので、それぞれ解説します。

①保険会社だけが一方的に言っている場合

 保険会社から打ち切りを通知されたとしても、実際には「症状固定」に至っていないこともあります。

 「症状固定」の考え方は上記のとおりで、治療が症状の改善に役立っているかどうかが重要なポイントになります。

 したがって、治療の効果が十分に出ているにもかかわらず、保険会社が短期間で打ち切りを言ってきたような場合、そもそも「症状固定」には至ってはいませんので、加害者は治療費の支払いを免れることはできません。

 このような場合、一旦治療費を自分で立て替えた上で領収証を保管し、後日保険会社に対して請求することになります。

 このとき、注意しなければならないのは、治療の効果が出ていたとしても、いわゆる対症療法に過ぎず、一時的に症状が和らいでも、時間が経つと元に戻ってしまうという一進一退の状態の場合、やはり「症状固定」とみなされる可能性があるということです。

 治療直後の改善状況だけでなく、例えば1か月前と比べてどうなのかを見極めるようにしてください。

 実際には「症状固定」になっていないのであれば、後でそのことが検証できるように、主治医に意見書のようなものを作成してもらうことも検討しましょう。

②実際に「症状固定」に至っている場合

 損害賠償の基本は「原状回復」です。

 事故がなかった状態に戻すために必要なことを金銭による賠償という形で行います。

 したがって、治療をしても元に戻らないのであれば、無駄な治療であるともいえるので賠償の対象とはならないことになります。

 この場合、治療を継続することは自由ですが、その治療費は加害者側からの支払いの対象ではなくなります。

 ただし、これには例外があり、何も治療しなければ、症状固定時の症状を維持することができず、かえって悪化してしまうというような場合には、症状固定後であっても治療費が加害者側の負担とされることがあります。

 また、人工関節の交換手術のように、将来確実に追加の手術が必要となるような場合、この費用も加害者側の負担となります。

まとめ

 このように、「症状固定」と保険会社から言われた場合、まず、本当の意味で「症状固定」となっているかどうかで対応が変わります。

 「症状固定」になっていないのであれば、主治医にそのことを確認し、証拠として残してもらうことが重要です。その上で、示談交渉の際に、「本当の症状固定」の時期までの治療費等の支払いを請求しましょう。

 これに対し、実際に「症状固定」に至っているのであれば、症状を一時的に緩和する効果があったとしても、治療費の支払いを相手に負担させることは困難です。

 この場合は基本的には後遺障害等級の認定を受けることを検討します。

 また、将来手術を予定しているなど、例外的に症状固定後の治療費を相手に負担させることができる場合には、忘れずにこれを請求するようにしましょう。

高齢者の逸失利益

2021-10-25

逸失利益の概要

 交通事故で被害者に後遺症が残った場合、逸失利益と呼ばれる賠償金が支払われることになります。

 この逸失利益とは、後遺症によって仕事に支障が出たために、収入が減少したことに対する補填を意味します。

 簡単にいうと、事故に遭う前の収入が1000万円であった人の収入が事故後に900万円に減少した場合に、この差額の100万円を賠償として支払うというものです。

 もちろん、1年分だけ補償すれば良いというわけではありませんので、生涯にわたって減収が予測される部分については、全て補償の対象となります。

 逆にいうと、後遺症の影響で減収する可能性がない期間については、基本的に賠償の対象となりません。具体的にいうと、就労可能年限を超える期間については、通常は賠償の対象とならず、一般的にはこの年齢は67歳と設定されることが多いです。

 

高齢者の逸失利益の特色

 このように、逸失利益の請求は、「事故前にどれだけの収入があったか(稼ぐ力があったか)」、「どれだけの期間後遺症による影響が出るか」によりますので、比較的若い世代の被害者とは異なる配慮が必要となります。

有職者の場合

 最近では、60歳を超えても就労を続ける人も少なくありませんので、比較的高齢の人であっても、逸失利益が生じることは十分あり得ます。

 ただし、この場合、通常のケースのように、67歳までの期間で逸失利益の計算を行うと、対象となる期間が短くなる結果、賠償金の額が小さくなってしまったり、67歳を超えるような人の場合、賠償金が0ということになりかねません。

 そこで、こういう場合、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とみなして計算するという方法で賠償を請求します。

 ただし、事案によっては、必ずこの計算が認められるわけではありませんので注意しましょう。

無職者の場合

 無職の場合、収入がないのですから、減収を前提とした逸失利益の請求はできないことになります。

 しかし、事故当時に一時的に仕事をしていなくても、そのうち仕事を開始する予定だったという人もいるでしょう。

 そういう人の場合、就職活動を行っていた等、仕事をする意欲があったことを証明し、逸失利益を請求することが可能です。

 この場合の計算方法ですが、年齢別の労働者の平均賃金を用いることが一般的です。

家事従事者の場合

 高齢者であっても、事故前に同居する家族のために家事を行っていたという人は少なくないでしょう。

 このような人の場合、一般的な主婦(主夫)の場合と同様、家事に関する逸失利益を請求することが可能です。

 この場合の計算方法ですが、女性労働者の平均賃金を用いることが一般的です。

 ただし、この場合も、一般的には全年齢の平均賃金を用いることになるのに対し、高齢者の場合、家事労働にも多少の制限があることがありますので、年齢別の平均賃金を用いるがあります。

まとめ

 いかがだったでしょうか。

 高齢者の場合、形式的に計算すると、逸失利益がゼロということにもなりかねませんが、上記のとおり、多少の制限はあるものの、請求自体は認められています。

 高齢者の逸失利益の計算は、通常の場合以上に技術的な面が多いので分かりにくい部分となっています。

 そのため、通常の場合以上に示談交渉をしっかりと行うことが必要と言えるでしょう。

学生・児童など若年者の逸失利益

2021-10-11

逸失利益とは

 死亡事故や後遺症が残るような事故が発生すると,治療費や慰謝料などのほかに,「逸失利益」というものが加害者から支払われます。

 「逸失利益」とは,将来得られるはずだった収入が,亡くなってしまったり,後遺症で仕事が思うようにできなくなってしまった結果,受け取ることができなくなった分を補填するというものです。

 例えば,年収1000万円の人が死亡すると,単純計算で1年で1000万円の損失が生じることになります。

 また,後遺症で年収が1000万円から500万円に低下した場合,同様に,1年で500万円の損失が生じることになります。

 実務上,実際に受け取ることのできる額は,「中間利息控除」という処理をしますので,若干計算は複雑になりますが,逸失利益のイメージはこのようなものです。

逸失利益は事故前の収入に左右される

 上記の例でも明らかなように,「事故によってどの程度収入が減ったか」が重要なポイントになりますので,事故に遭った人の年収によって逸失利益の額は変わります。

 年収が2倍違うと,逸失利益の額も2倍違ってきます。

 そして,基準となる年収は,一般的には,事故の前年の年収を用います。

 つまり,事故の影響がなかった場合,直近でどの程度稼ぐことができていたかが基準になるわけです。

学生や児童等の逸失利益の計算方法は?

 逸失利益の計算において事故の前年の年収に着目すると,事故当時に仕事に付いていない学生や児童の逸失利益はどうなるのでしょうか?

 逸失利益は,将来得られるはずであった収入のことですので,学生や児童であっても,当然逸失利益は存在しますし,対象となる期間も長いため金額も大きくなります。

 とはいっても,通常のケースのように,「事故前年の収入」の額を元に計算することはできません。

 実務上は,このような場合,一般的な労働者の全年齢の平均賃金(賃金センサス)を用いて計算します。

 全年齢の平均賃金は,一般的な労働者が,生涯を通して得る収入を平均したものですので,生涯にわたって影響が続く死亡・後遺症の逸失利益を計算する際に用いるのは合理的です。

 男性の場合,男性のみの平均値を用いてよいですが,女性の場合,女性のみの平均値を用いると逸失利益の額が小さくなってしまいますので,男女を含んだ平均値を用いるようにします。

 また,学歴によっても計算結果が変わりますので,被害者の家庭の事情等の属性を見て,有利な方法で計算を行います。

若年労働者の逸失利益の計算方法は?

 学生や児童など,収入のない被害者については,上記のように考えることができますが,就職して間もないような若年の労働者の逸失利益はどうでしょうか?

 この場合,基準にすることのできる「事故前年の収入」というものが存在しますので,単純に考えると,この数字を用いて計算することになります。

 しかし,一般的に,仕事に就いて,経験を積んで役職がついたり,転職するなどしてステップアップしていくことで,得られる収入の額は大きくなっていきます。

 そのため,就職して間もない時期は,収入が小さいということにあります。

 逸失利益は,「本来得られるはずだった収入」を補填するものですので,この金額的に小さな数値を元に計算されてしまうと,十分な補償がされたことにはなりません。

 そこで,このような若年労働者の場合,将来の昇給を考慮して逸失利益の額を計算することになります。

 具体的には,学生などと同様に,平均賃金を用いるという方法があります。

 この平均賃金を用いる計算をするかどうかの分かれ目ですが,30歳未満という数字が目安として示されていますので参考になります。

 

裁判所の事実認定の問題

2021-06-11

 裁判は,相手方との交渉が行き詰まったときに,紛争解決の最終手段となるものですが,結論の出され方について,皆さんが持たれているイメージと異なるところがあったり,私自身,疑問に思うこともあるので,今回はこのことについてお話します。

裁判官の行う作業とは

 裁判官は,①法令の解釈と②事実認定を行います。

 法令の解釈とは,「○○法の〇条に書かれていることは,××ということを意味している」という風に,一見して抽象的な法令の文言が,具体的にどのような場面を想定しているのかを明らかにする作業です。

 次に,事実認定とは,一方の当事者が,「××という事実がある」(例えば,「AさんがBさんにお金を貸した」,「交通事故はこういう風にして起こった」)と主張したのに対し,相手方が「そんな事実はない」と言われたときに,言い分どおりの事実があったのかどうかを,裁判官が判断するということです。

 裁判で争うというと,一般的には,後者のイメージが強いと思いますので,この点を掘り下げて考えてみたいと思います。

証明責任とは

 裁判をする際に知っておかなければならないこととして,「証明責任」という言葉があります。

 例えば,「AさんがBさんにお金を貸した(消費貸借)ので,Bさんにお金を返してほしいが,Bさんは,お金はもらったもの(贈与)だと言っている」というような場合に,「Aさんには,消費貸借契約(お金を貸したこと)の存在について証明責任がある」というような表現をします。

 その結果,読んで字のごとく,Aさんは,消費貸借契約について証明する責任があり,この証明に失敗すれば,Aさんはお金を取り戻すことができないということになります。

 そのため,裁判になれば,Aさんは,消費貸借契約があったということを様々な証拠を元に証明していくことになります。

証明の程度

 次に,この証明といっても,「この証拠があれば,○○であることは100%間違いない!」といえるようなものがあれば,そもそも裁判で争うことはないと思われますので,通常は,そこまでは至らない微妙な点があるはずです(「契約書がない」「契約書はあるが,体裁がおかしい」etc)。

 その中で,裁判官は事実を認定しなければならないわけですが,この証明の程度は,最高裁判例によれば,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持たせる程度(高度の蓋然性)の証明が必要と言われています(最高裁平成50年10月24日判決。「ルンバール事件」)。

 これだけ言われてもよく分かりませんが,要は,極めて高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があるということです。

 実際には,やや緩和されて判断されているようですが,基本的には高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があることに変わりはありません。

 ただ,この点についての裁判官のさじ加減がかなりまちまちで,裁判を利用する側としては,運に強く左右されてしまうというところが問題です。

実際の認定の問題

 先の例でいえば,お金を受け取ったことに争いはなく,それがもらったものなのか貸したものなのかの二者択一となりますが,どちらがより真実に近いかという点で,51対49で貸したものだといえれば,請求を認めてよいのか(依頼者の方と話をしていると,このイメージを持っている方が多いようです),それとも,80対20(あるいはそれ以上)くらいにならないといけないのかというところが,裁判官の考え方によって大きく変わり得るところです。

 「証明責任」の考え方や,前掲の最高裁判例を重く見れば,証明の程度をかなり強く要求することになり,結論として,「これを認めるに足りる証拠がない」(実際の判決でよく見られる表現)などといって請求が認められないことになるのでしょう。

 しかし,既に述べたように,そもそも,誰が見ても勝ち負けが明らかなようなケースでは,通常はそもそも裁判になどなっていないと考えられますので,このような結論を安易に出すべきではないと思います。

 実際,仮に,「7:3でお金は貸したものだ」と裁判官が思ったとしても,それでは証明の程度としては足りないとする裁判官であれば,原告の請求は認められないことになってしまいますが,これは,結果的に,訴えられた側からしてみると,事実上お金はもらったものと認められ,返さなくても良いことになってしまいます。

 実際には,「お金はもらったものだ」という認定までされたわけではありませんが,「貸したものではない」とされることは,「もらったもの」とほぼ同じ効果があります。

 しかし,裁判官としても,基本的にはもらったものではない(おそらく貸したもの)と考えていたはずですので,二人の当事者に対して出される結論としてはおかしいはずです(「消極的誤判」の問題)。

 これが紛争解決を求めて起こした裁判の帰結として妥当なものといえるでしょうか?

 他方で,同じ状況でも6:4くらいでも足りると考えている裁判官であれば,原告の請求は認められるということになるでしょう。

 このように,微妙な案件では,裁判官による判断が分かれることがあり得ますが,それを当事者がどう受け止めれば良いのかは難しい問題です。

最後に

 裁判官が,自らの出す判決の重みや当事者主義の原則から,自身の心証が曖昧なままで安易に一方当事者の請求を認めないとすることも理解できないわけではありませんが,実際の当事者は,自分にとって重要な財産であったり,ときには誇りをかけて裁判に挑んでいます。

 また,当事者は,「証拠が,あるいは若干足りないところがあるかもしれないが,それでもいろいろな事情をくみ取ってもらえれば,真実を認めてもらえるのではないか」と期待して裁判を起こしています。

 そのような中で,裁判官は,安易に「証明責任」を理由に証明が足りないなどとするのではなく,可能な限り真実が何かを探求し,どうしてもそれが分からなかったという場合にのみ,「証明責任」を理由に,判決を出すべきだと思います。

 しかし,当事者に裁判官を選ぶ権利はありませんので,証明の程度についてどのような考え方をしている裁判官にあたるかは,最終的に運次第となります。

 一応,わが国では,事実認定について2審まで争うことが可能ですが,個人的には,心理学的な観点からも,1審の認定を覆すことは容易ではないと考えています。

 このような現状からすると,紛争の解決手段として,裁判というものが必ずしも最善なものではないということが分かってきます。

 交通事故でいうと,「保険会社は支払いが渋く,言っていることがおかしい」,「裁判所ならきちんと判断してもらえる」というイメージがあるかもしれませんが(私も以前はそのように考えていました),裁判所が,証明責任を理由にそれ以上に支払いを認めないということも十分あり得るのです。

 したがって,基本的には,示談交渉で保険会社が出せるギリギリのところまで回答を引出し,その上で,明らかにおかしければ裁判をするという風に考えた方が良いのではないかと思います。

 

参考文献

(判例タイムズNo.1419_5頁 須藤典明「高裁から見た民事訴訟の現状と課題」)

サラリーマンと自営業者の休業損害の違い

2021-05-13

サラリーマン(給与所得者)と自営業者(事業所得者)では,休業損害の認定上,様々な違いがあります。

ここでは,当事務所で実際に取り扱ってきた案件や,文献等を元に,大まかな違いについてまとめてみました。

 

給与所得者

事業所得者

労務管理

・第三者である使用者によりタイムカード等で管理

→残業代等につながる重要なものなので,休業時間についても正確に把握される

・自分で管理

→時間を正確に管理されていないことが多く,記録があったとしても自分で作成したものなので信用性が問題となる

復帰時期・休業の必要性

・復帰時期について,会社・産業医と相談することになる

・復帰ができない場合,解雇もあり得るし,そうでなくても体裁上,復帰できる場合には多少無理をしても速やかに復帰することがある

・休業によって事業の継続に著しい支障が出るような場合,無理をしてでも復帰する傾向にある

・反面,加害者からの補償があれば,それ以上に大きなマイナスが出ないような場合,休業が長期化することも見られる(復帰するかは自己判断になる)

提出書類

・源泉徴収票

・休業損害証明書

 

・確定申告書

・休業したことが分かる資料(決まりがない)

・休業の理由が事故によるものであることが分かる資料(決まりはないが,医師からの安静指示が出ている場合,その診断書等)

計算方法

・休業が連続している場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額(付加給を含む)を90日で割り,休業開始から休業終了までの期間をかける

・休業が連続していない場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額を同期間の稼働日数で割って,実際の休業日数をかける

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・事故前年の所得金額(青色申告特別控除前の所得金額。売上ではない)を365日で割って,休業日数をかけるのが一般的(稼働日数を用いることもあり得る)

・家族が手伝っている場合,その分を基礎収入額から差し引くことがある

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・その他,外注に出した場合の外注費を損害額とすることもあり得る

※休業することによって無駄になる固定経費分を加算することも可能(地代家賃等)

上記のような違いから,交渉や裁判では以下のような傾向があります。

・自営業者は,実際に休業したかどうかを第三者(保険会社・裁判所)が把握することが難しいことに加え,入院や医師による安静指示がないような場合,加害者が負担すべき休業損害の日数を証明するのが非常に難しい。

・給与所得者の場合,自らの意思で復帰時期を決めるのが事実上困難であり,休業損害証明書という定型の書類があるので,休業の必要性も比較的認められやすい。

そのため,結論として,自営業者の休業損害の支払いを受けるのは,給与所得者よりも難しい傾向にあります。

自営業者の場合,実際に休業したのはいつで,休業の理由は何だったのか,正確に記録しておくことは必須です。

また,本当に休業が必要なのかを自己責任で判断しなければならないということを認識しておく必要があります。

その上で,固定経費分の損害の請求等,漏れがないように支払いを求めることが重要です。

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