むち打ち症が14級9号に認定される目安

2021-11-17

 むち打ち症を中心とした打撲・捻挫で後遺障害等級が認定されるかどうかは、交通事故の被害者の多くが関心があるところだと思います。

 まず、大前提として、典型例であるむち打ち症は、1か月以内で治療が終了することが約80%、6か月以上要するものは約3%に過ぎず、多くは3か月以内に治癒するというデータがあることを知らなければなりません。

 その上で後遺障害14級9号が認定されるのは、症状が残存することが「医学的に説明可能」であるものです。

 したがって、それなりに理由がつかなければ、後遺障害等級の認定がされることはありません。

 また、どういうケースであれば後遺障害14級9号が認定されるのかという詳細な基準は公表されておらず、社外秘のブラックボックスとなっていますので、認定の基準はデータを元に推測するほかありません。

 認定のための条件として一般的に言われているのは以下のようなことですので、これらについて見ていきます。

 ①訴えている症状(自覚症状)の内容

 ②症状の一貫性

 ③通院の頻度

 ④MRI等の画像検査結果

 ⑤その他の神経学的検査

 ⑥事故の衝撃の強さ

 

自覚症状

 「自覚症状」は、被害者自身が訴えていることなので、被害者が訴えてさえいれば、その真偽は問わずに後遺障害診断書に記載されることになるでしょう。

 そのため、自覚症状の記載があったからといって、それがそのまま後遺障害の認定につながるわけではありませんが、ここに書かれているものが認定の出発点となることに間違いはありません。

 自覚症状の内容としては、痛い、しびれがある、重だるい、違和感がある、といったものがあります。

 自覚症状として記載されていないものは、審査の対象とならないのです。

 その上で、後遺障害として認定されるためには、「労働能力の喪失を伴うもの」である必要があり、仕事に何らかの支障が生じるレベルのものであることが要求されています。

 したがって、違和感がある程度では、認定の対象とはなりません。

 また、痛みの認定基準として、「ほとんど常時存在すること」、つまり、「いつも痛い」ということが要求されていますが、後遺障害診断書に「いつも痛い」と敢えて書かなくても認定されないということはありません。

 ただし、逆に、「起きたときに痛い」、「雨が降ると痛い」とか書かれていて、その他のときには痛くないような場合は、この条件を満たさないため、非該当となると考えられます。

症状の一貫性

 事故による受傷では、基本的に事故直後が一番症状が強く、徐々に症状が軽くなっていくという経過をとりますので、気候の変化や生活上の動作で多少の症状の上下があったとしても、ある日突然症状が現れるといったことは考えにくいです。

 そのため、事故から1か月以上経過して症状を訴えるような場合、そもそも症状自体が事故と無関係とみなされて認定されない可能性が高いでしょう。

実際に問題になる部分

上記の点は、後遺障害の認定を受けるために最低限満たしておかなければならない条件で、後遺障害の認定が受けられるかどうかが微妙な事案というのは、これらを満たした上で、何かが足りないケースです。

そこで、後遺障害14級9号が認定されるためにどのような条件が必要とされているのか、これまでに実際に後遺障害14級9号が認定されたケースを元に、検討してみます。

通院の頻度

 通院の頻度について、例えば2日に1回は通わなければダメだとかいうことはありませんが、通院の頻度が例えば月に1、2回という程度だと、認定されないケースが多いです。

 この点は、実際にどこまで認定で重視されているのかは不明ですが、弊所で確認できたもの中では、少なくとも通院日数が20日未満で認定されたものはありませんでしたので、やはり、ある程度の通院(週に2回程度)はしておくと安心だと思います。

 逆に、必要もないのに毎日通うと過剰診療にもなりかねませんので、医師や理学療法士の指示を仰ぎつつ、常識的な範囲内で通ってください。

 また、通院が多いほど認定されやすいというわけではありませんので、誤解のないようにしてください(100日以上通院しても非該当ということもめずらしくありません)。

 なお、ここでいう通院頻度とは、医療機関のことを指し、整骨院等は含まないことに注意してください。

MRI等の画像検査結果

 画像検査結果については、打撲・捻挫を前提とする以上、外傷性の異常所見は認められないということになります(これが認められれば、骨折や脊髄損傷ということになります)。

 打撲・捻挫の場合、特に頚椎捻挫・腰椎捻挫の場合に重視される画像所見とは、骨棘や椎間孔の狭小、ヘルニア等による神経根の圧迫が見られるような場合が典型例です。

 神経根が椎間孔を出るまでの間に圧迫されると、その部位によって、頚部・腕・肩等の痛みや、腕や指先のしびれが生じることがあります。

 神経根の圧迫自体は、ほとんどの場合に事故の前からあったものと考えられますが、それまで症状がなかったものが、事故の衝撃により刺激されることで生じ、そのために症状が長引くということがあり得ます。

 したがって、このような所見があることは、症状が長引く(後遺症が残る)ことを医学的に説明するための材料となります。

 ただし、後遺障害の認定がされているケースの全てでMRI検査がされているというわけではありませんでしたので、これが必須の条件とまでは言えないようです。

その他の神経学的検査等

 その他に、以下のようなテストすることで、症状の裏付けとすることができます。

 ただし、患者の意思によって結果が左右され得るもので絶対視することはできず、弊所で取り扱ったものでも、これらが陽性となっていても非該当となったものはあります。

 逆に、これらのテストで異常なしとされていても認定されたものもあります。

ジャクソンテスト

 頭部を背屈させ、軽く下に押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

スパーリングテスト

 痛みのある側に頭と首を傾けさせた上で頭部を押して椎間孔を狭めることで、神経根症状が出るかどうかを見るテスト。

ラセーグテスト

 患者を仰向けにして、股関節と膝関節を90度に曲げた状態から、膝を徐々に伸ばしていくことで、下腿後面に痛みが出るかどうかを見るテスト。

SLRテスト

 患者を仰向けにして、膝を伸ばした状態で脚を挙げていくことで、どの段階で痛みが出るかを見るテスト。正常な場合70度くらいまで上がる。

事故の衝撃の強さ

 車両の損傷状況を示す資料を提出することは必須ではないのですが、事故の衝撃の強さも認定にあたって考慮されていると言われています(任意保険会社側に照会されているのかもしれません)。

 衝撃の強さが大きかったかどうかは、車体の骨格部分の損傷があるかどうかが判断の目安となるでしょう。

 車体に擦過傷のようなものがついた程度の事故で、後遺障害の認定が出たものは確認できませんでした。

まとめ

 以上のようなポイントからすれば、①事故で車が大破し、②MRI上で神経根の圧迫が確認でき、③神経根の圧迫に対応した神経症状が一貫して生じていて、④神経学的検査でもそれが確認でき、⑤通院の頻度もそれなり多く適切に治療を受けている、といったケースであれば、かなり高い確率で後遺障害14級9号が認定されるといって良いでしょう。

 しかし、そうでない場合、「これがあれば認定される」とか「これがなければ認定されない」という決定的なものは見受けられません。

 ほとんど同じような条件でも、Aさんは認定されていてBさんは認定されていないとか、Cさんの方が条件的に厳しそうなのに、なぜかCさんは認定されているといったことがあります。

 最近弊所で対応させていただいた案件に関していうと、被害者がバイク・自転車で自動車に衝突されて転倒した事例や、比較的高齢で症状が長引くのも無理はないと考えられるような事例、異議申立てで追加資料を提出してようやく認められたというケースが多く、単純な追突事故では認められないケースが多くなっています。

 被害者側でコントロールできる事情はそれほど多くはありませんが、自覚症状を一貫して伝える、神経症状が強い場合はMRI検査をお願いする、通院の間隔が開き過ぎないにするといったことがありますので、この点を意識するようにしてみてください。

 

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