学生・児童など若年者の逸失利益

2021-10-11

逸失利益とは

 死亡事故や後遺症が残るような事故が発生すると,被害者が事故に遭わなければ働いて稼ぐことができたはずの収入が得られなくなる(減額になる)という事態が生じます。

 このような収入の減少について賠償が受けられなければ、被害者本人や、被害者に扶養されていた家族の生活が難しくなってしまいます。

 そこで、こうした損害を賠償するために、治療費や慰謝料などのほかに,「死亡逸失利益」や「後遺障害逸失利益」というものが加害者から支払われます。

 例えば,年収1000万円の人が死亡すると,単純計算で1年で1000万円の損失が生じることになります。

 また,後遺症で年収が1000万円から500万円に低下した場合,同様に,1年で500万円の損失が生じることになります。

 実務上,実際に受け取ることのできる額は,「中間利息控除」という処理をしますし、死亡事故では「生活費控除」という処理をしますので,若干計算は複雑になりますが,逸失利益のイメージはこのようなものです。

逸失利益は事故前の収入に左右される

 上記の例でも明らかなように,「事故によってどの程度収入が減ったか」が重要なポイントになりますので,事故に遭った人の年収によって逸失利益の額は変わります。

 年収が2倍違うと,逸失利益の額も2倍違ってきます。

 そして,基準となる年収は,一般的には,事故の前年の年収を用います。

 つまり,事故の影響がなかった場合,直近でどの程度稼ぐことができていたかが基準になるわけです。

学生や児童等の逸失利益の計算方法は?

 逸失利益の計算において事故の前年の年収に着目すると,事故当時に仕事に付いていない学生や児童の逸失利益はどうなるのでしょうか?

 逸失利益は,将来得られるはずであった収入のことですので,学生や児童であっても,将来的には仕事に就くことが予想され、当然逸失利益は存在しますし,対象となる期間も長いため金額も大きくなります。

 とはいっても,直近の就労実績がないため、通常のケースのように,「事故前年の収入」の額を元に計算することはできません。

 実務上は,このような場合,一般的な労働者の全年齢の平均賃金(賃金センサス)を用いて計算します。

 全年齢の平均賃金は,一般的な労働者が,生涯を通して得る収入を平均したものですので,生涯にわたって影響が続く死亡・後遺症の逸失利益を計算する際に用いるのは合理的です。

 男性の場合,男性のみの平均値を用いてよいですが,女性の場合,女性のみの平均値を用いると逸失利益の額が小さくなってしまいますので,男女を含んだ平均値を用いるようにします。

 また,学歴によっても計算結果が変わりますので,被害者の家庭の事情等の属性を見て,有利な方法で計算を行います。

若年労働者の逸失利益の計算方法は?

 学生や児童など,収入のない被害者については,上記のように考えることができますが,就職して間もないような若年の労働者の逸失利益はどうでしょうか?

 この場合,現実に就労の実績は存在し、基準にすることのできる「事故前年の収入」というものがありますので,単純に考えると,この数字を用いて計算することになります。

 しかし,一般的に,仕事に就いて,経験を積んで役職がついたり,転職するなどしてステップアップしていくことで,得られる収入の額は大きくなっていきます。

 そのため,就職して間もない時期は,収入が小さいということにあります。

 逸失利益は,「本来得られるはずだった収入」を補填するものですので,このように就労して間もない時点の金額的に小さな収入額を元に計算されてしまうと,十分な補償がされたことにはなりません。

 そこで,このような若年労働者の場合,将来の昇給を考慮して逸失利益の額を計算することになります。

 具体的には,学生などと同様に,平均賃金を用いるという方法があります。

 この平均賃金を用いる計算をするかどうかの分かれ目ですが,30歳未満という数字が目安として示されていますので参考になります。