整骨院などへの通院

2021-11-01

 交通事故の、特に頚椎捻挫(むち打ち)・腰椎捻挫といった怪我の治療の際に、「整骨院・接骨院に通ってもいいのか」ということがよく問題になります。

 一般的に、整骨院は、営業時間や待ち時間の関係などから、交通事故の被害者にとって利用しやすいという側面があります。

 そのため、選択肢の一つとして有力なものとなりますが、交通事故の「賠償」という観点から見ると、注意すべき点もありますので、この点について解説します。

 なお、以下は、整骨院の施術の有効性について述べるものではありません。

柔道整復とは

 整形外科で診察・治療を行うのは「医師(医者)」ですが、整骨院で施術を行うのは「柔道整復師」です。

 「柔道整復師」は、医師と同様に国家資格ですが、医師とは明確に違い、「柔道整復」とは、打撲、捻挫、脱臼、骨折等の外傷に対して、外科的手段、薬品の投与等の方法によらないで応急的もしくは医療補助的方法により、その回復を図ることを目的として行う」ものとされています。

 また、医師の同意を得なければ脱臼・骨折に応急手当以外の施術をしてはならないとされており(柔道整復師法17条)、レントゲン検査や診断もできません。

 医師の同意を得ずに施術できるのは、打撲、捻挫のみということになります。

何が問題になるのか

 整骨院・接骨院の利点は、前述の利用しやすさということもありますが、整形外科よりも対応が丁寧で、より効果を実感できるといったこともあるようです。

 その反面、整骨院の施術で問題となりやすいのが、期間が長くなりがち、施術部位が多くなる、施術費用が高額になるといったことがあります。

 施術部位の問題に関しては、健康保険では、近接部位について請求の重複が生じないように、一定の制限が加えられています。

 これに対し、交通事故の場合で健康保険を使用していない場合、賠償の場面での近接部位の算定方法について明確なルールがないため、整骨院から保険会社に対して健康保険のルールを超える請求がされるということが見受けられます。

実務上の取り扱い

 整骨院の施術費用の取り扱いは、自賠責保険を含めて明確なルールが定められていないため、自賠責保険の上乗せ保険である任意保険会社も、それほど強く否定してこないこともあります。

 しかし、だからといって、賠償上問題がないわけではありません。

 弁護士に依頼するかどうかはともかく、自賠責基準の慰謝料を超える慰謝料の支払いを求めようとする場合、施術費用が妥当なのかもしっかりと判断されることになります。

 特に、示談交渉で折り合いがつかず、裁判で施術費用の妥当性が争われた場合、裁判所が厳しい判断をする可能性が十分あり得ます。

 施術費用の請求が高額過ぎるということになれば、その分慰謝料として受け取ることのできる額も減少することになります。

 裁判実務上は、整骨院の施術費用が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになるとされています。

対応策

 既に述べたように、保険会社がそれほど争ってこなければ問題になることは少ないでしょう(稀に、治療終了後に過去の支払い分を争ってくることがあります)。

 しかし、治療中の段階で、整骨院への通院に異議が出された場合、これを保険会社の横暴などと決めつけて何も対応しないというのはやめた方がよいでしょう。

 上記のとおり、整骨院への通院が認められるかどうかは、医師の指示があるかどうかがポイントになりますので、整骨院に通院をしようとする場合、少なくとも医師に通ってもいいかどうか確認をすべきです。

 医師が指示をしていなくても、効果が認められれば、整骨院への通院が認められることがありますが、医師が明確に施術に反対している場合、整骨院への通院は避けた方がよいでしょう。

 また、柔道整復師は、各種検査を行って、傷病の診断をすることもできませんので、整形外科にも定期的に(最低でも月に1回程度)は通った方がよいです(保険会社からもその旨の指示が出ることが多いです)。

 施術部位の問題は難しいところですが、健康保険で認められないような請求を、交通事故で自由診療だからといって当然のように請求することは問題であるように思います。

 保険会社から過剰請求が指摘された場合、実際に健康保険の基準から逸脱していないか確認して、問題があるようであれば、是正してもらうか転院をするなどの対応が必要でしょう。

まとめ

 整骨院・接骨院への通院は、交通事故の打撲・捻挫の怪我の場合に広く利用されていて、その有効性も否定できません。

 他方で、その施術費用を加害者に負担させることができるかという点については、実務上、完全に決着がついたとは言い難く、整形外科に通院した場合とは異なる問題があります。

 交通事故の治療の一環として、整骨院への通院をする場合、このことを頭に入れて、主治医に相談しながら、あくまでも補助的なものとして上手く整骨院を利用していくことが重要となります。