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医療機関の通院が6か月未満で後遺障害等級14級9号が認定された事例

2017-06-01

 今回は,当事務所で取り扱った案件の中で,医療機関での通院期間が6か月に満たなかったケースで後遺障害等級の認定がされた事例についてご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,道路を直進中,左方の脇道から飛び出してきた加害車両が,ご依頼者様の車に衝突してきたというものです。

 事故の衝撃により,ご依頼者様は,頚椎捻挫・背部挫傷,腰椎捻挫といった傷害を負うことになりました。

 その後,整形外科と整骨院を併用して治療を続けましたが,事故後約半年が経過した時点で治療を終了し,相手方から賠償金額の提示があったことから,ご相談に来られました。

当事務所弁護士の活動

 お話を詳しく伺ったところ,治療を終了した段階でも首や腰・背中の痛み,足の親指のしびれといった症状が残っているとのことでした。

 事故状況や画像所見などから,後遺症が認定される可能性が考えられましたので,まずは後遺障害診断書の作成をおすすめしました。

 後遺障害診断書の作成にあたっては,用紙に記載すべきことを事前にお伝えし,医師が作成する際に記載漏れや誤りが生じないようにしました。

 また,整骨院が作成した施術証明書を見たところ,ご依頼者様から聴き取った内容と整合しない記載が見受けられましたので,整骨院に対して加筆・修正を依頼しました。

 さらに,申請の段階で,後遺障害等級が認定されるべきであることを説明する弁護士作成の意見書を添付し,万全の準備を整えて申請を行いました。

 その結果,首と腰のそれぞれについて後遺障害等級14級9号が認定されました(併合14級)。

賠償金額

 上記後遺障害等級の認定結果を元に弁護士が保険会社と交渉をした結果,後遺症の逸失利益については満額,慰謝料についても裁判基準を元にした金額で示談することができ,最終的な賠償金額は,治療中に支払われた治療費を除き,約246万円(後遺障害自賠責保険金を含む)となりました。

 当初の相手方からの提示額が約44万円だったので,約200万円の増額となりました。

後遺障害等級の認定にあたって

⑴ 問題点

 本件で後遺障害等級の認定を受けるために問題となりそうだったことは,整形外科での治療期間が169日と半年に満たなかったことと,整骨院が作成した施術証明書では,この169日が経過する前に転帰の欄に「治癒」という記載がされていたことでした。

⑵ 治療期間

 一般的に,後遺障害とは,「これ以上治療をしても良くならない状態」について認定されるものですので,認定を受けるにあたって,相応の期間の経過と必要な治療を受けてきたということが必要になります。

 そして,一般的にこの期間が半年程度とみられていることから,今回はこの条件を満たしていないのではないかという懸念がありました。

→通院日数などについて詳しく知りたい方はこちら「むち打ち症と後遺障害等級の認定」

 しかし,後遺障害診断書作成時点で症状が残存していたことは後遺障害診断書の記載からも明らかで,整形外科への通院を止めた後も整骨院への通院は続いていたこと,わずかに半年に満たなかったに過ぎなかったことから,この点はクリアできると考えました。

⑶ 施術証明書の問題

 「転帰」とは,患者の通院・症状の経過を記載するものです。

 転帰には,①治癒,②継続,③転医,④中止の4つがあります。

 「治癒」とは,基本的に症状がなくなったときに使われます。

 「継続」は,症状が残っていて治療の必要性があるため,引き続き通院をする場合に使います。

 「転医」は,病院を移る場合に使われます。

 「中止」は,症状は残っているものの,通院をしても良くならない後遺症となったような場合に,治療を終了するときに使います。

 そのため,後遺障害の申請をする方の場合,通常,最後の診断書や施術証明書の転帰の欄は,「中止」に〇が付いていて,ここが「治癒」とされていると,被害者が,症状が完全になくなったと申告したと取られてしまう可能性があります。

 そこで私が整骨院に連絡を取ったところ,柔道整復師の先生に誤解が見受けられたため修正を依頼し,さらに,整形外科の治療が終了した後の施術について施術証明書の作成がなかったため,合わせてその分の作成を依頼しました。

 

メッセージ

 本件は,元々後遺障害の申請をされていない方の事案でしたが,むち打ち症となった方は,ご自身の症状が「後遺障害」といえるほどのものではないと考えて,そもそも後遺障害についての請求ということを考えない方も多いようです。

 しかし,症状自体はそれほど労働や日常生活に影響を与えないとしても,長い間症状に悩まされる苦痛は相当なものです。

 そのため,後になって後悔しないためにも,事故の前に感じていなかった痛みや違和感などが残っているのであれば,後遺障害の申請をすべきかどうかを一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

 もちろん,症状があれば全て後遺障害の認定がされるわけではありません。今回のケースは様々な視点から見て,後遺障害の等級が認定されるに値する後遺症が残っていたといえたということです。

 しかし,今回約44万円から約246万円に増額したことからも明らかなように,弁護士にご相談いただくことで,思った以上に提示額が少なかったということが初めて分かるということもあります。

 損害賠償の内容は,かなり専門的な事柄を含んでいますので,相手の保険会社から賠償金の提示がありましたら,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

ご依頼の場合の料金はこちら→「弁護士費用」

 

減収がなくても後遺障害逸失利益の請求はできる

2017-05-09

 逸失利益とは,交通事故で負った後遺症によって以前のように仕事ができなくなったために,本来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害のことをいいます。

 ところが,実際に後遺症が残った人の中には,後遺障害等級の認定を受けたものの,仕事に復帰して交通事故が起きる前と同じかそれよりも多い収入を得られるようになる人も少なからずいらっしゃいます。

 そうすると,逸失利益の性質が,上記のように「将来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害」,つまり減収となったことを損害としてみるものであるとすると,このような場合,減収がない以上一切請求ができないのではないかという疑問が生じます。

 そこで今回は,このような,後遺障害等級が認定されたものの減収がない場合の逸失利益の額がどのようになるのかについて見てみたいと思います。

被害者が請求できるのは実損害分のみ

 交通事故の被害者が請求することができるのは損害の賠償です。

 不法行為責任について定めた民法709条も,「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としています。

 したがって,加害者に請求することのできるのは、実際に生じた損害分だけということになり、請求する金額には明確な根拠が必要となります。

 つまり,賠償の請求と損害の発生は表裏の関係にあるのです。

 注意したいのは、慰謝料は、目に見えない身体的・肉体的苦痛を金銭的に評価したものですので、実際に生じた経済的な損害とリンクしていないように見えるということです。しかし、少なくとも我が国では、慰謝料についても実際に生じた損害をベースにするものと考えられていて、実際に被害者が受けた怪我の内容等によって決まるものですので、懲罰的な意味合いでの増額は認められません。

減収がないと請求できない?

 以上のような一般論を元に,「減収がない=損害がない」と考えると、後遺障害が認定されているにもかかわらず、収入が減少していないような場合には、賠償の請求ができなくなるように思えます。

 このような考え方は,交通事故の前と後の利益状態を比較して金銭的なマイナスがあった場合に「損害」があったとみなすもので,専門的には,差額説などと言われている考え方に基づくものです。

 裁判所は,一般的には差額説に立って損害を把握しているといわれています。

 しかし,裁判をした場合に,事故後に減収がない人については逸失利益が認められないという判断がされているのかというと必ずしもそうではありません。

 減収がないといっても,それは職場の人がフォローしてくれていたり,仕事の内容が変わったのに減給とならないように配慮してくれていたり,被害者自身が努力をして,何とか仕事ができるような状態にしている結果であるようなことが多く,この点を無視することはできません。

 むしろ,現在の実務上は,現実の減収がないということのみで逸失利益を問答無用で認めないという考え方は採られていないといってよいでしょう。

実務上の考え方

 上記のように,被害者からの請求に当たっては損害が発生したことが条件となっていますので,減収がなくても請求を認めてもらうためには,「減収がなくても損害が発生している」といえなければなりません。

 そのため,何をもって「損害」といえるのかがポイントになってきます。

 この点について,上記の差額説の他に,後遺症によって労働能力が喪失したこと自体を損害とみるという考え方や,後遺症が残ったという事実を損害として捉える考え方があります。

 まず前提として、後遺障害の逸失利益の計算は、フィクションの部分が大きいということを知っておかなければなりません。

 逸失利益の計算は、「基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」によって計算されますが、現実には、労働能力喪失率とピタリと一致する減収が生じるわけではありませんし、今は減収がなくても、将来転職しようとするときに不利に働いたり、働き方が変わることによってマイナスの影響が出てくることもあるでしょう。逆に、今は大きく収入が減っていても、数年後には後遺症の影響が出にくい仕事をして事故前よりもはるかに高額の収入を得ているかもしれません。

 この計算式は、そういった個々の事情を踏まえた上で、「この後遺症の内容なら、おおよそこのくらいの損害額になるだろう」という概算に過ぎないのです。

 したがって、現時点で減収がないことは、逸失利益の額を計算する事情の一つにはなりますが、それだけで逸失利益が否定されるようなものではありません。

 実務上は,差額説を機械的に用いるのではなく,現実に減収がなくても,労働能力の低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているとか,昇給,転職等に際して不利益な取り扱いを受けるおそれがあるような場合には,逸失利益が認められるとされています(最高裁昭和56年12月22日判決)。

 ただし,逸失利益の存在自体が認められたとして,減収がなかったことが全く考慮されないかというと,そうではありません。

 やはり,実際に収入が下がった人と変化がない(又は収入が上がった)人では,逸失利益の額を算出するときに差が出ることはあり得ます。

 裁判上は,労働能力喪失率を調整するなどして,控えめに金額を計算されるということがありますので,示談交渉でも,同様に減額調整が必要となることもあり得ます。

 この辺りは,後遺障害の内容や実際の就労状況などを見ながら,妥協の必要があるのか検討していくことになります。

どういった事情が考慮されているのか?

 減収がない場合の逸失利益の認定についての一般論は以上のとおりですが,逆に言うと,全く経済的な不利益がないといえるような状況であれば,逸失利益が否定されるということも可能性としてはあります。
 そこで,減収がないのに逸失利益が発生していると主張して,この点が争いになっている場合,何らかの不利益が生じていることを説明する必要があります。

 この際に考慮される事情として,①昇進・昇給等における不利益,②業務への支障,③退職・転職の可能性,④勤務先の規模・存続可能性等,⑤本人の努力,⑥勤務先の配慮,⑦生活上の支障といったものが挙げられています。

 ③が挙げられているのは,再就職にあたって後遺症の存在が不利に扱われ,収入が低くなる可能性があるためで,④が挙げられているのは,勤務先の経営基盤が不安定な場合,リストラ等で転職が必要となる可能性があるためです。
 ただ、最近では、終身雇用や人事考課に対する考え方も変化してきていますので、大規模な会社だから将来も減収は生じにくいと考えるのは疑問があるところです。

 ⑤⑥⑦は、比較的主張がしやすいものといえるでしょう。⑦は、仕事には関係ないように思えますが、日常生活に不自由していれば、それが仕事のパフォーマンス低下につながることが考えられます。

 実際の交渉や裁判の場でまず見られるのは、事故前の収入と事故後の収入の変化です。

 例えば、令和3年に事故に遭い、令和3年中に症状固定となったような被害者の場合、令和2年は後遺障害の影響がなかったころの収入、令和3年は事故による休業損害の影響があった収入、令和4年は治療終了後の後遺障害による業務の制限で下がってしまった収入となるのが、通常想定されているケースです。
 この例だと、令和2年が年収1000万円、令和3年が年収500万円、令和4年が年収800万円となり、後遺障害11級であれば、年収の減少幅200万円/1000万円は、11級の労働能力喪失率20%と一致することになるため、その分を請求するのに障害はありません。
 しかし、実際には、1000万円→500万円(入通院中に減収が生じることは多い)→1000万円などと収入が減らないことがしばしば存在し、その場合、上記の各事情を考慮して、場合によっては逸失利益の額が減額となることがあります。

 ただし、14級のような比較的軽い後遺障害の場合、元々労働能力喪失率が5%となっており、ほとんど稼働能力が維持されていますので、実際には減収が生じることの方が稀だと考えられます。したがって、安易に減額することは妥当ではありませんし、実務でも、14級の場合に減収がないからといって逸失利益を減額したりすることは多くありません。

 逆に、重い後遺障害で、労働能力喪失率が高く設定されているにもかかわらず、事故前と同様に仕事ができているような場合には、労働能力喪失率表どおりの計算では損害を過大評価されていると見ざるを得ないような場合もあるでしょう。そのような場合、減額となる可能性が高まります。

その他に注意すべき点は?

 逸失利益の算定にあたって用いる労働能力喪失率は,認定された等級に応じて,通常は自賠責保険の労働能力喪失率表で示された数字を用いることになりますが,この点で,特に公務員で減収がない場合には,一般の減収が生じている場合と比較して不利な認定がされることがあります。

 具体的には,定年までは労働能力喪失率を低く認定するなどといったことがあり得ます。
 その理由は,公務員の場合,民間企業の従業員と比較して身分保障が手厚く,後遺症があっても減収が生じない可能性が高いと考えられるためです。

まとめ

 以上のように,事故の後に減収がないからといって逸失利益が認められないというわけではありません。しかし,相手方からは,減収がないから逸失利益は認められないという主張が出されることも十分に予想されます。

 そのようなときは,逸失利益が認められた過去の事例を示し(多数あります),上記考慮事情として挙げられたものを具体的に説明するなどして,請求に理由があることを説得的に説明していくことになります。

 逸失利益の請求は,単純な実費の損害賠償とは異なり,理論的に難しい部分を含みますので,交通事故で後遺障害等級が認定されましたら,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

(参考文献 日弁連交通事故相談センター東京支部編「平成20年版赤い本下巻」9頁~、同「令和4年版赤い本下巻」17頁~)

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後遺障害の逸失利益

 

 

【ゴールデンウイーク休業のご案内】

2017-04-13

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて,誠に勝手ながら下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

平成29年5月3日(水)から平成29年5月7日(日)

通院日数が少なくてもむち打ち症で後遺障害等級14級9号が認定された事例

2017-04-13

 今回は,当事務所で取り扱った案件の中で,医療機関での通院日数が比較的少なくても後遺障害等級の認定がされた事例についてご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,交差点で停車中に追突されたという事故で,被害者の方が頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負ったというものです。

 その後,約8か月間通院を続けたものの,頚部痛や左でん部痛・左下肢しびれといった後遺症が残ることとなりました。

 そのため,後遺症について後遺障害等級の認定申請を行うことになったのですが,ここで1つ問題がありました。

 それは,ご依頼者様の通院が,整骨院が中心で医療機関での通院は合計で25日しかなかったということです。

 後遺障害等級の認定に当たっては治療の経過も考慮事情とされているため,必要最低限の資料を提出するのみで後遺障害等級が認定されるかどうか不安がありました。

 そのため,事故の衝撃の大きさについて客観的な資料を元に説明するとともに,後遺障害等級が認定されるべき事情を説明する弁護士作成の意見書を添付して後遺障害の申請を行うこととしました。

 その結果,首と腰のそれぞれについて後遺障害等級14級9号が認定されました(併合14級)

 

賠償金額

 上記後遺障害等級の認定結果を元に弁護士が保険会社と交渉をした結果,後遺症の逸失利益や休業損害については満額(逸失利益はむち打ち症であることを考慮し,労働能力喪失率5%,労働能力喪失期間5年),慰謝料についても裁判基準を元にした金額(約195万円)で示談することができ,最終的な賠償金額は,治療中に支払われた治療費を除き,約380万円(後遺障害自賠責保険金を含む)となりました。

 

後遺障害等級の認定と通院日数の関係?

 このページをご覧の皆さんの中には,既にインターネットで後遺症に関する情報を調べられた方もいらっしゃるかもしれません。

 その中には,後遺障害等級が認定されるための条件のようなものが記載されているものもあると思います。

 そして,この条件について,通院日数が重要であると書かれているものが少なからず見られます。

 具体的には,「整骨院ではなく,病院などの医療機関に〇日以上通った方がいい」といったものです。

 たしかに,後遺障害等級は,治療を尽くしたものの治療の効果が期待できない状態に至ったときに,残った後遺症について認定されるものですから,まともに治療を受けていない状態で,後遺障害等級の認定をしてほしいと言っても難しいでしょう。

 私がこれまで見てきた中でも,極端に通院日数が少ないケースでは,基本的に後遺障害等級非該当の結果が出ています。そういった意味では,通院の日数を無視することはできません。

 しかし,後遺障害等級は,通院日数のみで認定されているわけではなく,後遺障害等級を認定している損害保険料率算出機構は,〇日以上の通院が必要などと公表してはいません。

 したがって,「後遺障害等級の認定のために〇日は通院しなければならない」ということを断言することはできず,推測に過ぎないのです。

 ただ,私も医療機関への通院の重要性を否定するものでは全くなく,医療の専門家である医師によって経過観察が行われ,適切な治療を受けることは,損害賠償請求に当たって不可欠だと思います。

 しかし,必要もないのに,医療機関に半年で100日以上の通院をご依頼者様に勧めるようなことは,賠償上の因果関係との関係で問題が生じるおそれもありますし,被害者の方のご負担も大きいので,当事務所ではしておりません。

 あくまでも医療機関での通院を中心に考えつつ,整骨院への通院によって病院では足りない部分を補うようなイメージで,常識的な範囲で通われるのが良いかと思います。

メッセージ

 本件のようなケースでも後遺障害等級が認定されたことからも分かるように,通院の日数だけを見て,後遺障害等級が認定されないなどと安易に判断することはできません。

 後遺障害等級の認定は,事故の状況,治療中の症状の変化,MRIをはじめとする画像資料などを見て,総合的に判断されるものです。

 したがって,インターネット上の情報を元に後遺障害等級の認定を諦める前に,見込みについてまずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

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「むち打ち症と後遺障害等級の認定」

「弁護士に依頼するメリット」

鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

2017-03-02

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が生じる典型的なケースとして,これまでにいくつか見てきましたが,同じく交通事故でよく生じる怪我の1つである鎖骨骨折というものがあります。

 弁護士として様々なお話を伺っているときに,診断書の傷病名というところに着目するのですが,「鎖骨骨折」は,交通事故の衝撃で被害者が転倒して手やひじや肩などを地面についたようなときに,その衝撃で発生することが多いため,歩行者や自転車・バイクの被害者によく見られる診断名です。

 また,ケースによっては,シートベルトの圧迫によっても発生することがあるようです。

 このように,このホームページをご覧いただいている方の中にもお困りの方が多いと思われる鎖骨骨折の後遺症や損害賠償について今回は見ていきます。

想定される後遺障害の等級は?

12級5号(変形障害)

 裸体となったときに明らかに分かる程度に鎖骨が変形癒合した場合,12級5号が認定されます。

 レントゲン写真によってはじめて分かる程度であれば,ここには該当しません。

12級6号(可動域制限)

 鎖骨は肩甲骨とつながっており,鎖骨骨折により,肩関節の可動域制限・運動障害が発生する可能性があります。

 障害が残った側の肩関節の可動域が,健側(怪我をしていない方)の4分の3以下となっている場合は,後遺障害等級12級6号の認定が見込まれます。

 さらに、可動域が健側の2分の1以下となっていると、後遺障害等級10級10号となります。

12級13号(神経障害)

 骨折によって痛みなどの神経症状が残った場合で,骨癒合の不全や関節面の不整などがあって,その症状の存在を医学的に証明することができる場合には,12級13号が認定されることになります。

等級の併合について

 12級5号が認定されて,さらに痛みがある場合,12級13号と併合で11級とはならず,痛みは12級5号の中に含まれているという形で判断されます。

 これに対し,12級5号が認定され,さらに肩関節に健側と比較して4分の3以下の機能障害が発生した場合,機能障害について12級6号が認定され,併合11級となります。

(「労災補償 障害認定必携」より)

弁護士による示談交渉・増額のポイント

後遺障害逸失利益の計算について

 事故で残った後遺症について後遺障害等級が認定されると、後遺症に対して加害者側から賠償金が支払われることになります。

 この後遺症に対する賠償金として支払われる項目は主に2つで、1つは後遺障害逸失利益、もう1つは後遺障害慰謝料です。

 このうち、後遺障害逸失利益は、後遺症の内容によって金額が変わってきます。

 後遺障害逸失利益は、後遺症による将来にわたる収入の減少を補償しようというもので、通常は「事故前年の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」という計算式によって計算します。

 労働能力喪失率とは、後遺症が原因となって減る収入の割合のことです。簡単にいうと、事故前の年収が1000万円だった人が、事故の後遺症で年収800万円となっていれば、労働能力喪失率は20%と評価することができます。※実際には、この計算式で用いる割合と減収の割合は一致しません。

 労働能力喪失期間とは、後遺症による労働能力の制限が何年続くのかを指しています。

12級6号(可動域制限)の場合

 12級6号の可動域制限の後遺障害等級がが認定される場合,通常はレントゲン写真やCTなどで骨癒合の不全や関節面の不整を確認することができるということになります。

 これらの他覚的所見が時間の経過によって正常な形になることは期待できないため、それに伴う可動域制限が改善するということも考えにくいです。

 したがって,逸失利益の労働能力喪失期間については、原則にしたがって就労可能年齢一杯分(実務的には67歳までとされることが多いです。)とされるべきであると考えられます。

 労働能力喪失率は、12級であれば、一般的な例と同様に14%とされることが多いでしょう。

12級13号の場合

 12級13号の場合,神経症状による後遺障害であるため,労働能力が回復する可能性も否定できません。

 過去の裁判例を見ても、労働能力喪失期間を10年などと制限している例が見られます。

 しかし,むち打ち症とは異なり、関節面の不整・骨癒合の不全といった状態に変化はないと考えられますので,基本的には労働能力喪失期間の限定は行うべきではないと考えるべきでしょう。

 労働能力喪失率は、一般的な例と同様に14%とされることが多いと思いますが、実際の労働への支障の程度が小さい場合は、割合を下げられることもあり得ます。

12級5号(変形障害)の場合

 後遺障害の内容が鎖骨の変形障害にとどまる場合、後遺障害逸失利益が発生するかどうかについて争いがあります。

 なぜなら、鎖骨は、先天的に欠損している場合や後天的に全摘出したような場合であっても、肩関節の可動や日常生活に大きな影響はないとされているからです。

 実際に、過去の裁判を見ても、変形障害があっても労働能力の喪失に関係しないなどとして後遺障害逸失利益を否定するものが見られます。

 したがって、保険会社もこの点を指摘して後遺障害逸失利益を否定したり、金額を著しく低く認定してくることがあります。

 しかし,上記のような他の後遺障害が認定されるレベルに至っていないものであっても,モデルのように外見が労働能力に影響するような職業はもちろんのこと,通常の労務に支障が生じることは考えられますので,逸失利益を全く否定することは妥当ではありません。

 この際の逸失利益の計算については,被害者の職業や,変形障害以外の障害の内容等を元に判断していくことになりますが、労働能力喪失率は実態に合わせて通常とは異なる数値が用いられることが考えられます。

 また、骨癒合の不全による痛みを伴っている場合、前記のとおり12級13号とは認定されず、12級5号のみが認定されることになりますが、表面上の等級が12級5号だからといって、痛みに対する12級13号のみの場合よりも賠償金の額が小さくなることはあり得ません。

 しかし、保険会社は、12級5号の特殊性を理由に逸失利益を不当に制限してくることがありますので、この点はしっかりと交渉をしていく必要があります。

後遺障害慰謝料

 後遺症の慰謝料については定額化が進んでいますので、後遺症の内容によって大きく変わることはありません。ただし、変形障害が残った場合で、後遺障害逸失利益は認められなかったような場合には、外見の変化による苦痛を慰謝料を加算するという形で修正することがあります。

まとめ

 鎖骨骨折に関する後遺症として想定されるものとしては,以上のように複数のものが考えられます。

 そのため,どのような後遺障害の認定がされる可能性があるのかを後遺障害の申請の前に見極め,そのために必要な3DCT検査を受けておくなどして準備を整えた上で申請を行うことが重要となります。

 また,後遺障害の認定が受けられた場合でも,12級5号のように逸失利益の算定に強く争いが生じる可能性があるものもありますので,交渉の際には,自分にとってどの程度の損害賠償が妥当なのかを見極める必要があります。

 上で見たように、後遺障害部分の示談交渉は、交通事故の賠償に関する正確な知識を必要としますので、後遺障害等級認定後はお早目に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

○関連記事

・「肩・ひじ・手の関節の後遺症の賠償

・「骨折による後遺障害等級12級13号のポイント

・「後遺症の等級と慰謝料について」

肩・ひじ・手の関節の後遺症(12級6号など)の賠償

2017-02-15

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が残ることは少なくありませんが,後遺症が残ったからといって,全てが加害者に請求することができる損害賠償の対象となるとは限りません。

 自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうかがポイントとなってきます。

 今回は,交通事故で比較的多く見られる後遺障害の中でも,上肢の運動障害(可動域制限)について,認定された後の損害賠償の問題も含めて見ていきます。

 

上肢の関節の機能障害(運動障害)に関する自賠責保険の基準

 上肢の関節の機能障害(運動障害)が後遺症として残った場合の,自賠責保険における後遺障害等級は以下のとおりです。

(「労災補償 障害認定必携」参照)

 

6級6号

1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

8級6号

1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

10級10号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

12級6号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

※骨折部にキュンチャー(髄内釘)を装着しているか、金属釘を用いたことが機能障害の原因となっている場合は、これらの除去をしてから等級の認定を行うことになります。また、廃用性の機能障害(ギプスによって患部を固定していたために、治癒後に機能障害が残ったような場合)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うとされています。

「関節の用を廃したもの」とは

①関節が強直したもの

※肩関節の場合は,肩甲上腕関節が癒合し,骨性硬直していることがエックス線写真により確認できるものを含む。

②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

③人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,「関節の用を廃したもの」の③以外のもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

 関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

 

 今回は,この中の主に12級6号について見ていきます。

 

認定のポイント

 12級6号であれば,3大関節の中の,1つの可動域が,健側の可動域の3/4以下に制限されていれば認定されることになります。

 そこで,この意味について確認しておきます。

3大関節

 3大関節とは,①肩関節,②ひじ関節,③手関節のことをいいます。

可動域

 可動域とは,関節がどの程度動くのかを示しています。

健側(けんそく)とは

 健側とは,障害が残った腕など(患側)に対して,障害が残っていない方の腕などのことを指します。

関節可動域の測定

 関節可動域の対象となるのは,以下のものです(主要運動といいます。)。

肩関節

屈曲or外転+内転

ひじ関節

屈曲+伸展

手関節

屈曲+伸展

 

測定方法

 自分の力で動かす自動運動と他人の力を借りて動かす他動運動が考えられますが,基本的に可動域の測定を行う場合は他動運動の数値を用います。

 ただし,末梢神経損傷を原因として関節を稼働させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が動くものの自動では動かせないような場合等,他動運動による測定値を用いることが適当ではない場合には,自動運動を用いることがあります。

 自動運動を用いて測定する場合は,その測定値を(   )で囲んで表示するか,「自動」または「active」などと明記することになります。

 測定は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会によって決定された「関節可動域表示ならびに測定法」にならって行われることになります。

 

後遺障害の対象となっていない側にも障害がある場合は?

 上記のように,可動域制限の程度は,健側と患側の比較によって行いますが,事故とは関係なく,健側となるべき側に障害があるような場合,患側の比較をしても,障害がないという結果にもなりかねません。

 このような場合,各可動域について設定されている「参考可動域」との比較によって評価されることになりますので,後遺障害診断書作成の際に,そのことが分かるように医師に記載してもらいましょう。

 

参考運動とは?

 上記のような主要運動とは別に参考運動というものがあります。

 これは,主要運動の可動域が1/2(10級10号)又は3/4(12級6号)をわずかに上回る場合に,このままでは12級6号又は非該当となってしまうところを,参考運動がそれぞれ1/2又は3/4以下となっていれば,10級10号又は12級6号と認定するというものです。

 この「わずかに」とは,原則として5度であり,一部の機能障害については10度とされています。

 このような場合に,参考運動の測定を行っていなければ,当然このことは考慮されませんので,主要運動の可動域制限が,等級の認定基準にわずかに満たない場合には,参考運動の可動域の測定も欠かさずに行うようにしましょう。

 

注意点

 このように,可動域制限さえ出ていれば等級が認定されるかというとそうではありません。

 機能障害の原因となる骨癒合の不良や関節周辺組織の変性による関節拘縮といった異常が画像上明らかであることが必要です。

 そうでなければ、痛みについての14級9号にとどまるか,後遺障害非該当ということもあり得ます。

 そのため,この点について,骨癒合の状態等についてCT等でしっかりと確認しておく必要があります

 以上のように,後遺症に見合った等級の認定が行われるためには,しっかりとチェックしておくべきことがありますので,弁護士にご依頼いただいた場合,後遺障害診断書が適切に作成されるためのサポートをさせていただきます。

 

示談交渉・損害賠償上のポイント

 上記のような点をクリアして12級6号が認定された場合の損害賠償上の問題点についてご説明します。

 後遺障害に関する損害賠償では,基本的に慰謝料と逸失利益が問題となるのですが,このうちの慰謝料については,12級だと290万円程度が相当とされており,それほど問題とはなりません。

 また,逸失利益についても,同じ12級でも,「12級13号」の場合と異なり,就労可能年限である67歳までが労働能力喪失期間として認定されることが通例ですが(例外はあります。),保険会社はできるだけ賠償金を低く見積もってくることが多いので,この点で減額されないようにしっかりと交渉していくことが必要になります。

 この点も,やみくもに交渉をすればいいというわけではありませんので,弁護士にご依頼いただいた場合,請求を基礎づける過去の事例を示すなどして,適正な賠償額が支払われるように根拠に基づいて交渉をしていきます。

 

まとめ

 12級6号が認定されるためには,自賠責保険の後遺障害認定は原則として書類審査ですので,ご自身の障害の程度が正しく評価されるために,必要な検査を受け,それが後遺障害診断書上も表れているかが重要です。

 また,損害賠償請求に当たっては,不当に減額されないように適切に示談交渉を行っていく必要があります。

 弁護士にご依頼ただければ,後遺障害の申請から損害賠償の示談交渉まで行いますので,交通事故で負った後遺症についてご不安な場合は,一度弁護士にご相談ください。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」

 

サラリーマン(給与所得者)の休業損害のポイント

2017-02-07

 前回までに,主婦や会社役員,個人事業主の交通事故による休業損害について見てきて,その際に,これらの請求が会社から一定の給料の支払いを受けているサラリーマン(給与所得者)の場合と比較して難しいと述べてきました。

 それでは,サラリーマン(給与所得者)であれば,休業損害(休業補償)の請求は容易なのでしょうか?

 弁護士として実際に様々な交通事故のご相談をお受けしていると,サラリーマンの場合でも,必要な補償が100%受けられているは限らないことが少なからず見受けられますので,今回はサラリーマン(給与所得者)の休業損害(休業補償)の請求について解説いたします。

 

基本的な計算の方法

 前提として,サラリーマンの休業損害(休業補償)の計算の仕方について確認しておきましょう。

休業日数の把握

 まず,実際にどれくらい休んだのかを確認するために,「休業損害証明書」を作成します。

 休業損害証明書は,自賠責の定型書式を用いて,会社に作成を依頼することが通例です。

 保険会社に言えば用紙を送ってくれますので,送られてきた用紙を会社の担当者に渡して作成を依頼しましょう。

 これにより休業日数を把握することができます。

基礎収入額の設定

 次に,休業1日当たりにどのくらいの損害が発生するのかを確認します。

 この計算方法としては,交通事故の直前3か月の給料(額面)の平均値を用いるのが一般的です。

 実際には,事故前3か月分の給料の合計額÷90日とすることが多いです(各月の日数を考慮して91日や92日で割ったとしても間違いではありません。)。

休業損害の計算

 以上の結果,休業損害の計算式は以下のようになります。

 基礎収入額×休業日数=休業損害

具体例

 イメージをしやすくするために,以下のような事例で見てみましょう。

①事故日

 11月1日

②休業日数

 11月1日から11月15日までの15日

③収入

 2月 30万円

 3月 30万円

 4月 30万円

 (※20日勤務で月給30万円,日給1万5000円)

④会社から支払われた11月分の給料

 11月16日~30日までの半月分として15万円

 

基礎収入

 (30万円+30万円+30万円)÷90日=1万円/日

休業損害額

 1万円×15日=15万円

コメント

 これが基本的なサラリーマンの休業損害の考え方であり,具体例では,約半月休業して,15万円が休業損害として支払われているので,会社から支払われた給料と合わせれば30万円となり,感覚的にも支払いに不足しているということはないはずです。

注意点

 休業損害証明書は,被害者が会社に作成を依頼することになります。

 黙っていても保険会社は対応してくれませんので,自分で動くようにしましょう。

 また,多くの方が毎月給料の支払いを受けていると思いますが,事故前と同じように支払いを受けようとするのであれば,毎月休業損害証明書を提出する必要があります。

 人によっては,数ヶ月をまとめて作成依頼して保険会社に提出する人がいますが,その場合,支払いが遅れることになるというマイナスに加え,保険会社から,「この時期以降の支払いはできません」と言われて,途方に暮れてしまうこともあります。

 休業損害の支払いは,あくまでも,「事故によって発生した損害であるということが相当である」といえる範囲に限られます。

 したがって,非常に軽微な事故で,延々と休業を続けているようなケースでは,支払いはされないということになります。

 どの程度なら支払われるということを一概に言うことは難しいのですが,実務上重視されているのは,「主治医による就業の制限がされているかどうか」です。

 むち打ちなどの場合,多くの場合,就労の制限まではされませんので,事故当初の短期間や通院のための一部欠勤部分にとどまるということも多いでしょう。

 むち打ちで数ヶ月にわたって復帰もせずに休業を続けているというような場合,相手方から支払いを受けるのは非常に困難であるといって良いでしょう。

保険会社との交渉でよく問題となる点

 上記のように,連続して休業しているような場合には,保険会社の支払いも不足がないことが多いでしょう。

 しかし,よく問題となるのは,休業が飛び飛びになっている場合です。

具体例

 先ほどの例で,通院などのために,11月1日,5日~10日,15日の合計8日といったように飛び飛びで休業した場合で見てみましょう。

 先ほどの計算方法では,1万円×8日で8万円が休業損害となりそうです。

 ここで注意すべきなのは会社から実際に支払われる給料との合計額なのですが,先ほどの「収入」のところで見たように,日給では1万5000円となっていて,20日勤務だとすると,会社に出社することができたのは20日-8日の12日になります。

 その結果,会社からの支払額は,1万5000円×12日=18万円となります。

 そうすると,先ほどの休業損害額8万円をプラスすると,合計26万円ということになるのですが,事故の前は毎月30万円の給料を受け取っていたことからすると4万円も下がっています。

 この点が問題なのですが,保険会社は,実際にほとんどの場合でこのような計算をしてきます。

なぜこのような事になるのか?

 それでは,なぜ初めの例では問題がなかったものが2番目の例では問題になるのかということなのですが,理由は簡単で,休日が適切に考慮されていないからです。

 つまり,初めの例では,11月1日から11月15日の間に休日が含まれている中で,休業の日数について,休日も含めて連続した15日間という期間で計算をしていました。

 これに対して,2番目の例では,飛び飛びで休んでいたために,連続した期間としての計算をすることができず,休日を含まない実際に休んだ日を使って計算しています。

 問題の原因は,基礎収入の額を計算するときには休日を含む90日で割っていたということです。休日を含んでいる分,1日の単価は低くなっています。

 そのため,2番目の例のように,この単価に休日を含まない実際に休んだ日をかけると支払額が小さくなるのです。

 今回は,月の稼働日数が20日の例で考えてみましたが,月に3日しか働かず,1日の仕事の単価が10万円という場合を考えると,1日当たりの休業損害が1万円というのが不当であることがよりハッキリとします。

交渉の方法

 計算上の問題点は上記のとおり明らかですが,保険会社は,こうした違いを無視して機械的に前述の方法で基礎収入を計算してきます。

 これに対する対応の方法としては,基礎収入について,休日を含まない稼働日数を元に日給を算出するということが考えられます。

 実際に,裁判上もこのような計算方法が認められていますので(東京地裁平成26年1月21日判決等多数),弁護士としてもこの計算によって請求を行うのですが,保険会社の担当者によってはすぐに応じないことがあります。

 そのような場合には,過去の裁判例や理屈について根気強く説明することが必要となります。

 

どこまでが基礎収入になる?

 基本給のほかに,各種手当も含みますが,実費に対応して支払われる通勤手当については,通勤をして実際に交通費を払わなければ発生しないものなので,基礎収入には算入しないことになります。

 

有休休暇を利用した場合は請求の必要がない?

有休休暇を利用した場合でも請求は可能

 休業損害を含めて,基本的に損害賠償は,実際に損害が生じて初めて加害者に請求することができるようになります。

 そのため,有休休暇を利用して会社から支払いを受けた場合には,加害者に対して休業損害の請求をすることができないのではないかということが問題となります。

 この点については,現在の実務上は,有休休暇を利用した場合でも,有休休暇を利用する権利を自身が望まないタイミングで使用することになっていることから,損害があるとして賠償の請求をすることができることとなっています。

 この場合の損害の額については難しいところがありますが,一般的には,通常の休業損害と同様に,基礎収入額に応じて使用した日数分の請求が認めれることが多いです。

請求の方法

 有休休暇を利用した場合は,保険会社が応じないというよりも,被害者本人が損害があることに気付いていないということが多いので,請求を忘れないようにしましょう。

 

ボーナスは?

ボーナスの減額分も請求は可能 

 事故によって休業したことが賞与の計算上マイナスに評価され,結果として賞与の額が減った場合には,この減額分を事故の加害者に請求することができます。

 内容に問題がなければ,特に争いなく保険会社から支払われることも多いです。

 もっとも,減額又は減額の可能性があるのに,そのことを適切に相手方に伝えなかった場合には,損害賠償上考慮されないことになりますので,この点も忘れずにチェックしましょう。

請求の方法

 ボーナスについては,「賞与減額証明書」というものを別途会社に作成してもらうとともに,賞与の計算規程についても併せて交付をお願いすることになります。

 

残業ができなくなった場合は?

事故によってマイナスになった分の請求が可能

 仕事には復帰したものの,事故前のように残業ができなくなったという方もいらっしゃいますが,このようなものも,事故によって発生した損害として請求は可能です。

 この場合の問題点は,既にみたように,休業損害の計算が基本的に基礎収入に休業の日数をかけるという方法で行われるため,休業をしていない以上,通常の請求方法では残業代分のマイナスが計上されないという点にあります。

 休業損害証明書によってしか請求ができないものと考えていると,この点を見落としがちになるので,注意が必要です。

請求の方法

 請求の方法としては,復帰後の給与の額と事故前の給与の額の差額を残業代分の損害として請求することなどが考えられます(大阪地裁平成28年3月24日等参照)。

 当事務所でも,同様の方法によって相手方保険会社に対して請求を行い,支払を得られたことがあります。 

まとめ

 以上のように,サラリーマンの休業損害の請求は,認定はそれほど難しいところはないものの,被害者の側できちんと把握して主張しておかなければ見落とされてしまうものが多いのが特徴です。

 一つ一つの損害を漏らさずに適切に請求を行うためには,細かいチェックとそれなりの理論構成が必要となるところもありますので,しっかりと補償を受けられたい場合には,まずは専門家である弁護士への無料相談をご利用ください。

自営業者・個人事業主の休業損害

2017-01-31

 交通事故の休業損害のことでお悩みの方の中には,自営業・個人事業主の方もいらっしゃいます。

 そこで今回は,役員の場合と同様に,給与所得者の場合とは異なる難しさがある自営業者(個人事業主)の休業損害の問題について見ていきたいと思います。

 

自営業者(個人事業主)と給与所得者の違い

収入関係の把握

 給与所得者の場合,使用者から受け取る給与がそのまま収入であるといえるため,会社から源泉徴収票を取り寄せれば容易に収入状況を把握することができます。

 これに対して,個人事業主の場合には,基本的に確定申告書類の控えを用いて収入状況を把握することになるのですが,以下で述べるように必ずしも適切に申告しているとは限らず,その場合,実際の収入を把握することが困難になります。

 また、よくある誤解として、売上の減少をそのまま加害者に請求することができると考える方が多いのですが、休業損害ということができるのはあくまでも利益に関する部分です。

 例えば、仕入れに100万円、売上150万円の仕事をしていた場合、最大でも利益は50万円で、この他に売り上げを上げるために家賃や光熱費、広告宣伝費等が発生します。このときに、事故に遭って仕事を停止したからといって、150万円が請求できるとすると、支払いを免れた経費分得することになってしまいます。

 損害賠償の目的はあくまでも原状回復ですので、このようなことは認められません。加害者側に請求することができるのは、あくまでも事故に遭わなければ手元に残っていたはずのお金ですので、経費を差し引く必要があります。もっとも、後で述べるように、休業をすることで無駄になってしまった経費については、別に請求することは可能です。

 ここでのポイントは、自営業の場合、売上だけでなく、経費についても何がどれだけかかっているのかが重要であり、経費が分からなければ休業損害の額も分からないということです。

 この点は、後で述べる確定申告をしていない場合で問題となってきます。

休業の実態・必要性の把握

 自営業者(個人事業主)と給与所得者の違いとして,まず使用者から労働時間を管理されているわけではないという点が挙げられます。その結果、第三者に「休業の事実」について証明してもらうのが難しいという特徴があります。

 例えば、事故による怪我で事故直後の2週間仕事を休み、その後は仕事には復帰したものの通院や身体の痛みなどを理由に一部制限をかけながら仕事を続けていたような場合(実際にこのようなケースは多いです)、第三者(保険会社)から見て、休んだ事実をどのように把握すればよいのでしょうか。

 このように、自営業者の場合、まず「仕事を休んだ」ということを何らかの資料を元に証明しなければなりません。

 入院していたような場合や、営業自体を停止していたような場合にはそれほど証明は難しくないと思いますが、営業自体は他の従業員によって続けられていたような場合、この証明は難しいものとなりますので、少なくとも仕事を休んだことの記録をつけるなどしておいた方が良いでしょう。

売上以外の損害

 自営業者(個人事業主)の場合,給与所得者の場合と異なり,休業した場合,売上が減少するだけでなく,日々発生する経費も無駄になる可能性があります。この点は、事故のために無駄になっているのですから、賠償を求めていく必要があります。

収入の変動

 給与所得者の場合,給与の額が年によって大きく変動するということはそれほど多くありませんが,個人事業主の場合には,年によって収入が大きく異なるということも珍しくありません。また、1年の中でも時期によって売り上げが変動するという業種もあります。そのような場合、賠償の基礎となる金額をどう設定するのかが問題となります。

 損害賠償上の問題

 損害賠償の請求に当たっては,事故によって損害が発生したことを自分で証明することが不可欠となりますが(「被害者が知っておくべき損害賠償の基本」),自営業者(個人事業主)の場合,上記特徴がありますので,証明をすることが難しいケースも出てきます。

 以下では,その具体例について見ていきます。

収入の証明

ア 提出書類

 収入の証明は,基本的に税務署の受付日付印のある確定申告書類を用いて行うことになります。受付日付印がない場合は,課税証明書も付けることが考えられます。

 なぜ確定申告書類が資料として用いられるかというと、自営業者の休業損害を算定するにあたっては、実際の売上の額に加え、売上を上げるためにどのような経費がいくら必要となっているのか重要となるのですが、確定申告書類を見れば、経費について過大に申告することはあっても過少に申告することは少ないと考えられ、その意味で、確定申告書類を見れば、「そこに記載されている以上に経費はないだろう」ということが分かります。

 また、利益についても、敢えて多めに申告して税金を高く支払う人は通常いないので、「最低限、ここに記載されている利益はあるだろう」ということが分かります。

 したがって、結果的に、休業損害の額を計算するにあたって、非常に信用性の高い書類ということになるのです。

イ 税務申告に問題がある場合

 ここでよく問題になるのが,過少申告をしていたり,そもそも確定申告をしていなかったような場合です。

 税務申告の問題と交通事故の損害賠償の問題は,次元が異なりますので,このような場合であっても請求自体は可能です。

 しかし,収入に関する主張が税務申告のときと損害賠償のときと異なっているということ自体が矛盾するものですので,請求はかなり厳しいと言わざるを得ません。

 確定申告をせずに休業損害の請求をしようとする方は、売上さえ証明することができれば、加害者は支払いに応じるはずだと思うかもしれません。また、事故に遭わなければ売り上げを得られていたのは間違いないから加害者が売り上げの補填をするのは当然だと思うかもしれません。

 そして、売上については、通帳の記載などで証明することが容易なケースも多いでしょう。※報酬も手渡しで、預金もせずにそのまま使っていたというような場合は、ほぼ証明は不可能です。

 しかし、既に述べたように、自営業者の場合、売上=収入ではありません。

 月に100万円の売上があったとしても、仕入や人件費、家賃、備品購入等、諸々の経費があった上で100万円を売り上げているのであって、手元に残る利益は30万円だったりするわけです(経費が70万円)。

 場合によっては、売上はあってもそれを上回る経費が生じていて赤字になっているということもあるかもしれません。

 他方で、事故にあったことで仕事を休業していた結果、仕入れもしなかったということになれば、その分経費の支出は小さくなります。

 したがって、このような場合に休業損害として100万円を受け取ることになれば、本来の収入以上の利益を得ることになってしまいます(仕入れをせずにすんでいるため)。

 当然、損害の賠償としてこのようなことは認められませんので、自営業者の場合、売上だけでなく、どのような経費がどの程度生じているのかを明らかにしなければなりません。

 このように、経費がいくらだったのかは、自営業者の休業損害・逸失利益を請求するために非常に重要なポイントになりますが、経費の額について、被害者が言うことを鵜呑みにすることはできず(所得を申告していないのであれば尚更)、容易に信用することはできません。

 そのため、このような場合には,客観性の高い会計帳簿類(総勘定元帳,売上台帳,仕入台帳,金銭出納帳など)を用いて,収入の実態を証明していきますが,これらについても、全てを包み隠さず出していることの保証はどこにもありません。また、そのような会計帳簿類が存在せず,証明も不十分である場合には,休業損害がゼロとされる可能性があります。

 仮に,収入の具体的な金額について明確に証明ができない場合でも,就労の実態が証明できる場合には,少なくとも平均賃金を上回るだけの収入を得ていたことが確実であるということが証明できれば,賃金センサスにおける平均賃金額を用いて,ある程度の賠償を受けることは一応可能です。

 例えば、生活費を含めたお金の流れを見れば、1000万円程度は所得がないとおかしいというような場合です。

 しかし、この証明のハードルも高く、示談交渉で相手の保険会社が認める可能性は低いと言わざるを得ません。

 いずれにせよ,適切に確定申告をしていない場合,十分な賠償を受けられる可能性が低くなりますので,確定申告は適切に行っておくことが損害賠償上も重要になります。

 「無申告の自営業者は、休業損害を補償してもらうのが難しい」ということを認識しておきましょう。

 なお、税務上は修正申告をすることが望ましいことは言うまでもありませんが、修正申告をしたからといって、休業損害の支払が認められるとは限りません。

休業の実態・必要性の証明

 休業の実態については,売上の減少等の具体的な事情を元に証明をしていきます。

 また,休業が実際にどの程度必要であったのかを証明することはなかなか難しいところですが,受傷の内容・程度,年齢,仕事の内容などを元に判断されることになりますので,これらの事情を元に,医師の協力を得るなどして,休業せざるを得なかったことを的確に説明していく必要があります。

 入院したような場合や、医師から自宅で安静にするように指示されたような場合は、その期間休業したことを証明することは難しくありませんので、問題となるのは、一見すると仕事に復帰することが可能な状態であるにもかかわらず、休業しているような場合です。

 この場合、実際に休業していたことが証明できたとしても、事故との因果関係が不明となることもあり得ます。

 なお,休業の証明が難しく損害の全ての賠償が認められない場合でも,「〇日間を通じて,〇%の就労制限があった」などとして賠償が認められることもあります。

固定経費の損害

ア どういったものが請求できるか

 個人事業主の場合,自身が休業をせざる得ない場合には,無駄な経費の支出を止めて完全に休業の状態とした上で,売り上げの減少を相手方に請求したいところですが,現実には,地代家賃や租税公課,損害保険料などのように,休業した期間も含めて支払いをしなければならないもの存在します。

 このような支払いは,売上に貢献することなく無駄になるものですので,交通事故による損害として加害者に賠償を求めることができます。

 これは,休業損害(消極損害)とは異なる独立した損害(積極損害)ともいえますが,計算上は,休業損害の基礎日額を計算するときに,固定経費分を考慮して計算するということが多いです。

 逆に,休業をすれば支払いもしなくて済むような経費については,損害に計上することができません。

 例えば、一時的にお店を閉めたとしても、テナントの家賃は支払わざるを得ませんが、この分は無駄な出費となってしまいますので加害者に請求することが可能です。

 逆に、支払いの対象とならないのは、営業活動をしているからこそ発生するような経費です。例えば、交通費などは自宅で安静にしている限り発生しないものですので、休業中に無駄な経費として発生することはありませんので、賠償を求めることはできません。

 費目によっては,ケースによって損害として認められることもあれば認められないこともあるというものもありますので,具体的にどこまで請求できるのかは,弁護士にご相談いただいた方が良いかと思います。

 なお,このような固定経費については,後遺障害逸失利益や死亡逸失利益の損害額の計算に当たっては計上することができませんのでご注意ください。

イ 証明の方法

 上記のように,経費のすべてを計上することができるわけではないことから,費目ごとの経費の金額を信頼のできる書類によって証明しなければなりません。

 一般的には,確定申告のときに提出する書類の中の「損益計算書」を用いますが,それがない場合は,会計帳簿などを用いて証明を試みることになります。

ウ 保険会社との示談交渉

 この点について,保険会社の対応としてよくあるのが,算定の基礎となる金額について,青色申告特別控除前の所得金額を用いるのみで,その他の経費を考慮しないというものです。

 上記のように,事故による休業で無駄になった経費については,賠償が認められるというのが実務の取り扱いですので,きちんと請求していく必要があります。

収入の変動

 一般的には,休業損害ないし逸失利益の金額の算定をする場合,交通事故があった日の前年の収入を元に計算をすることになります。

 しかし,自営業・個人事業主の場合,事故の前年の収入が多かった場合は良いですが,事故の前年の収入がたまたま低かったような場合には,通常どおりに計算すると低い収入額をベースに計算されてしまうので,十分な賠償を受けられなくなってしまいます。

 実務では、所得の傾向を確認するため、数年間分の確定申告書類の提出が求められることがあります。

 また、起業後間もない段階で事故に遭ったような場合、事故時点での休業損害の額をどのように把握すればよいのか判断が難しい場合もあります。

自営業者の収入の寄与率とは?

 以上のような形で基礎収入が計算されていくことになりますが,事業所得者の場合には,申告所得額の中に,本人の労働とは関係なく得られる家賃収入などの収益があることや,実際には家族の協力があるのにそれに対して専従者給与として労務に見合った適正な対価を支払っていないこともあるなど,交通事故被害者本人の労務に対する対価とは言い難いものが含まれていることがあります。

 このような場合,交通事故によって休業をしたとしても,影響が出ない部分も相当程度あると考えられますので,その分を計算上差し引くことになります(最高裁昭和43年8月2日判決参照)。

 その際,収入のうち,被害者の寄与率は〇%などとして計算が行われることが一般的となっています。

まとめ

 以上のように,自営業者の休業損害の請求は,様々な点で問題になりうるところであり,実務の状況を正確に理解していなければ,適正な賠償を受けることが難しいところがあり,交渉にせよ裁判にせよ,どのように損害を立証していくのかが非常に重要になります。

 また,保険会社の対応は,一般的に,定型処理が可能な部分に限られ,固定経費の計上や収入の変動といった特別な事情については考慮されないことが多いです。

 そのため,自営業者・個人事業主の方で,交通事故を原因とする休業でお悩みの方は,交通事故に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。

【参考文献】

別冊判例タイムズNo.38

2001年・2014年版 赤い本下巻

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2017-01-20

 交通事故のご相談をお受けしていると,会社の役員をされている社長などの方が交通事故の被害者としてご相談に来られることもあります。そして,多くの役員の方が抱えている問題で共通することとして,休業損害(逸失利益)の問題があります。

 保険会社によっては,役員であるというだけで,請求を門前払いすることもあるようです。

 なぜ,役員の場合だと問題があり,どうやって請求をしていけばよいのか?

 今回は,役員報酬に関する休業損害(休業補償)・逸失利益の問題について見ていきたいと思います。

休業損害の問題

減収がない

 役員報酬の場合、交通事故に遭ったからといって期中に一度決めた報酬の額を減額することは税務上困難なことが多いため、仕事に出ることができなくても、会社からそのまま役員報酬が支払われることが少なくありません。

 交通事故で賠償の対象となるのは、あくまでも損害が発生したといえる範囲に限られますので、収入に変化がなければ、基本的に請求はできません。

 ただし、この場合、休んでいる役員に対して無駄に報酬を支払うことになったという意味で、会社に損害が発生していることになりますので、会社から事故の加害者に対して損害賠償の請求をすることは可能です。このことを反射損害といいます。

休業したことの証明

 通常、給与所得者であれば、出退勤が管理されているため、いつ仕事を休んだのかは会社に証明してもらえれば、相手の保険会社も納得します。

 しかし、会社役員は、会社の従業員のように出退勤が厳格に管理されていません(特にオーナー社長のような場合)。

 そのため、いつ休んだのかについて、被害者である役員自身で証明する必要があります。

 しかし、これは業態にもよりますが、後で証明しようと思っても、適切な資料が用意できないことが多々あります。

 後になって証明できず休業損害の支払いが受けられないという事態にならないように、交通事故が原因で仕事を休むことがあれば、その日時と理由をその都度記録しておくことをおすすめします。

役員報酬の特色

 役員報酬の場合に何が問題になるのかを見る前に,まず役員報酬の特色について見ておきましょう。

 役員の場合と一般的な給与所得者を比較すると,給与所得者の場合,給料が労働の対価であることに疑いはないのに対し,役員の場合,法人税負担の軽減のために役員報酬を増額し利益を圧縮していること,実質的には何ら役員として稼働していないにもかかわらず親族等に報酬を支払っていること,利益配当的な要素を含んでいることや,役員が休業していてもそれまで通り報酬を支払っていたりするということがあります。

 さらに,被害者が役員を務めている会社は小規模であることも少なくなく,被害者個人の休業損害ということを超えて,会社の売上が減少するという大きな損害が発生することもあります。

 こうした違いから,役員が休業した場合の損害賠償請求においては,給与所得者の場合と異なる配慮が必要となりますので,以下で詳しく見ていきます。

労務対価部分と利益配当等の部分の区別

 上記のように,一口に役員報酬といっても,その中身は様々です。

 ここで,交通事故の損害賠償という観点から見ると,加害者が賠償の責任を負うのは,交通事故によって負った怪我などの影響で仕事ができなくなり,それによって損害が発生した部分ということになります。

 つまり,賠償金額として算定の基礎となるのは,実際に役員としての仕事を休業せざるを得なくなった場合で,その間の役員報酬の内,労働の対価部分に限られるということになります。

 したがって,すでに述べたように,そもそも役員として全く稼働していなかったような人の場合,交通事故によって役員の仕事に影響が出ることはありませんので,役員としての休業損害は発生しないこととなります。

 また,役員として稼働していたとしても,既に述べたように,100%が労働の対価と言えるのかについては,検討する必要がありますので,1月当たりの報酬額が100万円の人が1か月休業した場合に,100万円を休業損害として請求するためには,役員報酬が100%労働の対価といえることを証明しなければなりません。

証明の方法

 役員報酬の内,どの程度が労働の対価部分といえるのかは,会社の規模,利益状況,役員の地位,職務内容,役員報酬の額,他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額,事故後の役員報酬の額,類似の会社の役員報酬の額などによって判断していくことになります。

 そして,これらを証明するためには,法人の事業概況説明書や損益計算書といった会社の確定申告の際に提出する書類や,賃金センサス,実際にどのような仕事をしていたのかについての業務記録などを用いることになります。

 役員報酬が,自分が働いた分の対価として適正であることを説明していくわけです。

誰が請求するのか?

 休業によって役員報酬が支払われていなかった場合,役員本人に損害が発生していますので,役員本人が請求を行うことになります。

 これに対し,役員が休業していたにもかかわらず,会社がそれまで通り役員報酬を支払っていた場合,役員には基本的に損害は発生していないとも考えられます(税務上の手続の問題から,敢えて減額しないということもあるようです。)。

 しかし,その場合でも,会社には働いていない役員に報酬を支払ったことになり,損害が発生しているといえますので,会社から加害者に対する損害賠償請求が認められることになります(反射損害の請求)。

 また,この場合の役員本人からの請求についても,会社からの請求がされないことが明らかで,加害者に2重払いの可能性がなければ認められる余地があります(大阪地裁平成26年4月22日判決,同平成25年6月11日判決等参照)。

会社の売上減少に関する請求

 役員が,会社の中で重要な役割を占めており,役員報酬としての損害以上に,会社に大きな損害が生じることがあります(会社固有の損害)。

 この場合に,会社の売上減少に関する請求を相手方に行うことはできるのでしょうか?

 この点については,基本的には,会社は,事故によって直接損害を被ったのではなく,間接的に損害を被ったに過ぎないので(間接損害・企業損害),請求は認められないと考えられます。

 もっとも,以下のような例外的な場合には,請求が認められると考えられます。

 

①会社と役員が経済的に一体的な関係にある場合

 会社と役員が経済的に一体的な関係にある場合には,会社の損害は実質的に役員の損害と同視することができるので,請求が可能です(最高裁昭和43年11月15日判決)。

②故意またはそれに準じるような場合

 故意またはそれに準じるような態様で事故が発生した場合,上記の請求が認められる可能性がありますが,交通事故の場合にはそのようなケースは稀だと思われます(東京地裁平成27年3月25日判決参照)。

 

注意点

 上記のような点について立証に成功すれば,役員でも休業損害の請求を行うことは可能です。

 ただ,会社の代表取締役のような役員の場合に気を付けなければならないのは,役員は,会社から勤務時間等について厳格に管理されておらず,出退勤についてある程度自由に行うことができることもあるため,休業の必要性が争われることがあるということです。

 休業が必要であったかどうかは,基本的に怪我の状況と業務内容によって判断されることになりますので,一般常識に照らし,仕事に復帰できる状態であれば,速やかに復帰した方が良いでしょう。

 仮に,自己判断で休業していたとしても,客観的に見て仕事に復帰できたと判断された場合,その分の支払いを相手方に求めることはできませんので注意してください。

 

弁護士による役員報酬請求(休業損害)の示談交渉・増額のポイント

 役員報酬の上記のような特色を踏まえ,役員報酬の休業補償を求めるときは,まず,誰にどの程度の損害が発生したのかを確認し,請求の主体を確定します。

 次に,発生した損害のうち,どの程度を交通事故の加害者に請求できるのかを検討します。

 その際,会社の規模や被害者の役員としての業務内容等様々な事情について,裁判例を参考にして見ていくことになります。

 最後に,それらの事情を元に,請求の骨子を構成し,根拠となる資料を示して相手方に請求を行うことになります。

 適切に請求の理由付けを行うことができなければ,相手方や裁判所が請求を認めることはありませんので,事前に事案を把握し,準備を怠らないことが重要となります。

 

まとめ

 役員報酬の請求を巡っては,誰が請求するのか,請求できる金額はどうなるか(労務対価部分はどの程度か),休業の必要性はどうかといった問題が存在し,給与所得者の休業損害の請求よりも難しいといえます。

 役員をされていて,交通事故に遭われた場合には,早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

(参考文献 2005年版 赤い本・下巻)

圧迫骨折と11級7号の認定・示談のポイント

2017-01-18

 交通事故で怪我を負った場合,治療を行ってもどうしても元通りとはいかず,後遺症(後遺障害)が残ってしまうことがあります。

 後遺症に関する損害賠償の請求方法には,ある程度決まった方式があるのですが,内容によってはどうしても定型通りに処理することが難しいものもあります。

 今回は,その中でも比較的よく見られる圧迫骨折について後遺障害等級11級7号が認定された場合について,等級の認定の段階と損害賠償請求の段階における逸失利益や慰謝料といった損害賠償の弁護士による示談交渉・増額のポイントについて紹介したいと思います。

 

圧迫骨折とは?

 私たちの体には,身体を支える脊椎というものが存在しますが,この脊椎を構成する椎体というものに力が加わってつぶれてしまうことがあり,このことを圧迫骨折と呼んでいます。

 圧迫骨折は,若い人でも非常に強い力が加わることによって発生することがありますが,高齢になって骨粗しょう症になったりすると,それほど大きな力が加わらなくても日常生活における軽い転倒などによって発生することがあります。

 圧迫骨折自体がこのような性質を持っているため,特に高齢者の場合,事故で脊椎に衝撃が加わることで骨折が生じやすく,また骨折箇所が元通りとはならずに後遺症として残りやすいという特徴があります。

 

圧迫骨折で認定される可能性がある後遺障害等級

 実際に圧迫骨折となった場合,認定される後遺障害等級としては以下のものが考えられます。

 

変形障害

6級5号

脊柱に著しい変形を残すもの

8級相当

脊柱に中程度の変形を残すもの

11級7号

脊柱に変形を残すもの

 

 変形障害の各等級の区別は,後方椎体高と比較して前方椎体高がどの程度減少しているのか,後彎は発生しているか,コブ法による側彎度が50度以上か,回旋位,屈曲・伸展位の角度はどうなっているのかといった点に着目し,条件を満たしていれば,6級5号あるいは8級相当の後遺障害等級が認定されることになります。

 

運動障害

6級5号

脊柱に運動障害を残すもの

8級2号

脊柱に運動障害を残すもの

 

 運動障害の各等級の区別は,頸椎と胸腰椎の双方に圧迫骨折等が生じ,それにより頸部と胸腰部が強直したか(6級5号),頸椎又は胸腰椎のいずれかに圧迫骨折等が生じ,頸部又は胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたか(8級2号)といった点でなされることになります。

 

荷重機能障害

6級相当

荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合であって,頸部及び腰部の両方の保持に困難があり,常に硬性補装具を必要とするもの

8級相当

荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合であって,頸部又は腰部のいずれかの保持に困難があり,常に硬性補装具を必要とするもの

 

 荷重機能障害の区別は上記のとおりで,「荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合」とは,脊椎圧迫骨折・脱臼,脊柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化があり,それらがエックス線写真等により確認できる場合をいいます。

 運動障害の場合と共通することですが,これらの形式的要件を満たしていても,受傷の程度によっては,因果関係がない(硬性補装具の必要はない)として見込んだ等級の認定が受けられないということもありますので注意が必要です。

 

11級7号の認定とは

 11級7号の要件は以下のとおりです。

11級7号

①脊椎圧迫骨折を残しており,そのことがエックス線写真等により確認できるもの

②脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)

③3個以上の脊椎について,椎弓切除術等の椎弓形成術をうけたもの

 

 認定の要件は以上のとおりで,圧迫骨折の診断がされていれば,11級7号が認定されることが多いと言ってよいでしょう。

 しかし,既に述べたとおり,圧迫骨折は日常生活でも発生する可能性があり,事故によって生じたものであるかどうか(陳旧性のものかどうか)が問題となることもあります。

 この点については,事故直後にMRI検査を受けることにより,陳旧性のものかどうかを確認することができますので,圧迫骨折が疑われる場合は,早期にMRI検査を受けるようにしましょう。

 なお,今回対象としているのは,この中の①ですが,事故で発症したヘルニア等の治療法として脊椎の固定術が行われた場合には,②によって11級7号が認定されることになり,そのようなケースも比較的よく見られます。

 

弁護士による11級7号の示談交渉・増額のポイント

逸失利益の計算方法は?

 11級7号に限らず,後遺症に後遺障害等級が認定されると,慰謝料の他に逸失利益を請求することができますが,11級7号の場合,この逸失利益の賠償金額について争われることが多いのです。

 この点について詳しく見ていきましょう。

ⅰ 逸失利益の一般論

 逸失利益とは,後遺症によって仕事が以前のようにできなくなったことによる将来分を含めた減収に関する賠償のことをいいます。

 通常,後遺障害等級は,症状がこれ以上良くならない状態(症状固定)で,残った症状について認定されるものです。

 したがって,減収が見込まれる期間を仕事が可能な期間分について,症状固定時の障害の程度に応じて目一杯請求することになります(67歳までとするのが一般的)。

ⅱ 11級7号の場合

 上記一般論に対し,11級7号の場合,変形障害が残ったとしても,日常生活にそれほど支障がないというケースも多く,そもそも他の11級の後遺障害(例えば,手の人差し指,中指,薬指のいずれかを失った場合等)と同程度の労働能力の喪失があるのか,労働能力の喪失が一生涯続くものなのか,といった点について様々な議論があります。

 この点については,裁判上も判断が確定しているわけではないので,被害者の年齢や職業,骨折の部位・程度等を考慮して,具体的に見ていくほかありません。

 最近の裁判の傾向を見ていると,骨折後に痛みが残った場合の後遺障害等級である12級13号に準じて計算するようなケースが見られます。

 この場合,労働能力喪失率が20%→14%となり,労働能力喪失期間も,就労可能年限までではなく,若干減らされることがあります。

 ただし,基本的には,他の11級と同様の労働能力の喪失があるというのが基本的な考え方となりますので(2004年版赤い本下巻参照),安易に妥協することはできません。

 

慰謝料の額は?

 後遺症について11級が認定された場合のいわゆる裁判基準による慰謝料の相場は,420万円程度とされています。

 慰謝料については,逸失利益の場合とは異なり,圧迫骨折後の11級7号の場合であっても,この相場にしたがって支払われる傾向にあります。

 

まとめ

 圧迫骨折による11級7号のポイントは,事故によって生じたものであることを証明するためにまずはMRI検査を受けるということと,逸失利益の請求について何が問題となるのかを正確に把握しておくということにあります。

 なお,上記のような労働能力喪失の程度・期間については,厳密にいうと,11級7号に限らず争いになりやすいところではあります。

 しかし,11級7号の場合,裁判上も確定した考えがあるわけではなく,相手方から反論された場合,自身の見解を根拠を示しながら説得的に主張していくことが重要となってきます。

 そのため,交通事故によって圧迫骨折が診断された場合には,弁護士にご相談の上,適切に交渉を行っていくことをおすすめします。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」

 

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