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【夏季休暇・営業時間変更のご案内】

2017-08-08

誠に勝手ながら,弊所では,下記の期間を夏季休暇期間とさせていただきます。

休暇期間 平成29815日(火)~平成29818日(金)

※平成29年8月14日(月)は,営業時間を16時までとさせていただきます。

 

また,平成29年8月21日(月)から,サービス向上のため,営業時間を下記のとおり変更させていただきます。

営業時間の変更

(平成29810日まで)

10時~19

(平成29821日から)

9時~18

 

 ご面倒をおかけしますが,ご了承の程,何卒,よろしくお願いいたします。

後遺障害等級14級9号で5年を超える労働能力喪失期間が認められた事例

2017-07-04

 今回は,当事務所で取り扱った交通事故の案件の中で,後遺障害等級14級9号が認定され,逸失利益の労働能力喪失期間が5年に限定されなかった事例についてご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,信号機のある交差点の交通事故で,被害者が原付バイクで交差点を直進しようとしたところ,対向車線の自動車が右折しようとしてきて衝突したというものです。

 被害者は,交通事故により右足関節を骨折し,8か月以上の通院をしたものの後遺症が残り,自賠責保険で後遺障害等級14級9号が認定されたところ,相手方の保険会社から賠償金の提示があったため,ご相談に来られました。

 

当事務所の活動

 骨折後の後遺障害ですので,12級13号の可能性も考えられましたが,既に提出済みの資料や,ご依頼者様のご意向により,14級9号を前提として,賠償金の増額交渉を行うこととしました。

 

賠償金額

 元々の相手方の提示額は,全て合わせて約88万円(自賠責保険金75万円除く)で,後遺障害部分に限っていうと,過失分(15%)を差し引くと自賠責保険金を下回るというもので追加支払については実質0円となっていました。

 しかし,弁護士がご依頼を受けて交渉を行ったところ,過失分と自賠責保険金を差し引いても後遺障害部分でだけで約110万円,傷害部分を加えると,合計約280円(自賠責保険金を加えると約360万円)となり,増額幅は約195万円となりました。

 

交渉のポイント

⑴ 本件の特徴

 本件で認定された後遺障害等級14級9号で,交通事故ではよく見られる等級といえます。

 しかし,14級9号が認定される例として多いむち打ち症とは異なり,今回は足関節の骨折後の14級9号であったというところに,特徴がありました。

⑵ 逸失利益の問題

 後遺障害が残った場合に請求することができる逸失利益とは,これ以上良くならない後遺症によって将来の減収が生じることを補填するものです。

 そのため,症状が固定してから,年齢により働けなくなるまでの期間(一般的に67歳までとされることが多いです。)について,この減収分を請求することになります。

 ところが,一部の後遺障害の中には,後遺障害と認定されながら,後遺症による減収が一生続くことはないとして,労働能力喪失期間を一定の期間に限定されるものがあります。

 その代表的なものが,14級9号です。

 14級9号とは,痛みやしびれといった神経症状について主に認定されるもので,症状が回復したり,症状に慣れること等によって,労働能力が回復すると考えられています。

 そのため,14級9号の場合は,労働能力喪失期間は67歳までとはされず,特にむち打ち症を原因とするものについては,裁判上,労働能力喪失期間を原則として5年とすることが定着しています。

⑶ 骨折の場合

 このように,14級9号は,他の後遺障害のように機械的に賠償金の算出をすることができないという難しさがあり,保険会社が労働能力喪失期間を限定してくることにも理由があります。

 そこで,実際には,何年程度が妥当なのかということが問題になってきます。

 むち打ち症の場合には5年が一般的と書きましたが,骨折の場合はどうなのでしょうか?

 骨折の後の14級9号の場合は,裁判上も明確な基準があるわけではなく,67歳までとするものもあれば,10年とするものもあり,むち打ち症の場合と同様に5年とするものも見られます。

⑷ 今回のケース

 今回のケースでは,保険会社は労働能力喪失期間を当初3年と主張していました。

 しかし,上で述べたように,裁判ではむち打ち症の場合でも5年,骨折の場合はそれを超える期間を認定するものも少なくないことから,労働能力喪失期間について交渉を行いました。

 その結果,労働能力喪失期間は8年,後遺障害慰謝料も当初は40万円とされていたところを110万円(裁判基準の満額)とすることで示談することができました。

 

メッセージ

 後遺障害の逸失利益の計算は,一般的な計算方法は確立されているものの,後遺障害の内容,原因となった傷害,職業,年齢といった事情から,必ずしも一般的な考え方で対処できるものではありません。

 最近の裁判の動向などを元に,どのあたりで示談をすべきなのかを見極めることが大事です(場合によっては裁判をすべきこともあるでしょう。)。

 また,一般的な考え方では処理できないという場合は,被害者の側で,その理由を資料によって根拠を示しつつ説明していかなければなりません。

 特に,後遺障害の損害賠償は,将来の損害を予測して請求するという性質のものであることから,この辺りの説得が難しいところです。

 交通事故で後遺障害の損害賠償が問題となった場合は,一度弁護士にご相談ください。

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

ご依頼の場合の料金はこちら→「弁護士費用」

 

後遺症を残した被害者が亡くなった場合の賠償額

2017-06-21

 交通事故の損害賠償と一言で言っても,実際には1つとして同じ事件はありません。

 中には,特殊な状況により,どのような損害賠償の請求ができるのか迷うような場面もあります。

 今回は,その中でも,交通事故で後遺障害を残した被害者が,その後加害者から賠償金の支払いを受ける前に亡くなってしまったという場合について,請求がどうなるのか見ていきたいと思います。

 

何が問題?

 そもそも,このようなケースで何が問題になるのでしょうか?

 まず前提として,後遺障害の損害賠償請求が可能なものを確認します。

後遺障害について損害賠償の請求ができるものとしては,次の3つが考えられます。

 ①慰謝料

 ②逸失利益

 ③将来介護費用

 それぞれ,①は精神的苦痛に対する賠償,②は後遺障害による収入の減少に対する賠償,③は重度の後遺障害を負ったことによる介護費用に対する賠償を意味します。

 この内,①の慰謝料については,後遺障害の等級に応じて請求をすることができます(厳密にいうとこれも問題になりえますが。)。

 これに対し,②と③は,将来的に実際に生じる損害を予測して支払いを求めるものです。

 例えば,40歳で重度の後遺障害を残すことが確定した被害者の場合,逸失利益については,その後67歳(一般的な就労可能年限)までの27年間分の減収を予測して請求することになります。

 同じく将来介護費用については,平均余命までの年数分にかかる介護費用を計算して請求することになります。

 このように②と③については,あくまでも将来現実に発生する損害を予測して請求するという性質のものです。

 したがって,その予測した未来が到来する前に被害者が死亡したのであれば,その時点で将来の減収を考慮する余地はなく,介護の必要性も消滅するのではないのかという疑問が生じるのです。

 

2つの考え方

 この問題については,2つの考え方があり,1つを切断説,もう1つを継続説といいます。

 切断説…逸失利益は死亡時までに限られるという見解

 継続説…死亡の事実を考慮せず,死亡後であっても後遺症の存続が想定できた期間についてはこれを対象期間として逸失利益を算定すべきであるとする見解

 

実務で採用されている考え方

逸失利益について

〇最高裁判例①(平成8年4月25日判決)

 逸失利益については,「貝採り事件判決」という有名な判例があります。

 事案は,交通事故によって脳挫傷,頭蓋骨骨折,肋骨及び左下腿の骨折といった重傷を負った被害者が,知覚障害,腓骨神経麻痺,複視といった後遺障害を残していたところ,自宅近くの海で貝採りをしているときに,心臓麻痺を起こして死亡したというものです。

(1) 一審

 一審は,逸失利益の継続期間を死亡時までに限らないとしつつ,被害者が死亡したことにより,その後の生活費の支出を免れているとして生活費の控除(30%)を行うとしました。

(2) 控訴審

 これに対し,控訴審では,逸失利益の算定にあたって,一般的に平均的な稼働可能期間を前提としているのは,事の性質上将来における被害者の稼働期間を確定することが不可の王であるため,擬制を行っているものであるとし,被害者の生存期間が確定してその後の逸失利益が生じる余地のないことが判明した場合には,死亡した事実を逸失利益の算定にあたって斟酌せざるを得ないとして,死亡時以後の逸失利益を認めませんでした。

(3) 最高裁

 最高裁は,「労働能力の一部喪失による損害は,交通事故の時に一定の内容のものとして発生している」として,逸失利益の継続期間について,死亡した事実は考慮しないとしました。

 ただ,例外的に,交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていた場合には,死亡後の期間の逸失利益は認められないとしています。

 この例外的な場合とは,交通事故当時既に末期がんで,交通事故後にがんで亡くなったような場合が想定されています。

 

★生活費の控除

〇最高裁判例②(平成8年5月31日判決)

 ①の一審が行った生活費の控除については,①の最高裁判決では判断を示していません。この点については,同じ年に出された次の最高裁の判決があります。

 事案は,交通事故によって後遺症が残った被害者が,別の交通事故で死亡したというものです。

 上記の点について最高裁は,「交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り,死亡後の生活費を控除することができる。」としました。

 その理由として,交通事故と死亡との間に相当因果関係が認められない場合には,被害者が死亡により生活費の支出を必要としなくなったことは,損害の原因と同一原因により生じたものということができず,損益相殺の法理またはその類推適用ができないことを挙げています。

 

 このように,逸失利益の算定に当たっては,後遺症が残った後に被害者が死亡したとしても,原則としてそのことを理由に金額を減額することはしないということになります。

 

将来の介護費用

 重度の後遺障害が残った場合、事故の前とは異なり自立して生活ができなくなることがあり、その場合、介護が必要となってきます。

 介護が必要になると、施設の利用料や介護サービスの利用料が発生したり、家族が自宅で介護を行う場合でも、家族にかかる負担は非常に重いものになります。

 これらについても、加害者が賠償の責任を負うものとなりますが、その都度請求するというよりも、将来の介護費用を計算して一括して加害者に請求することが多いです。

 これが、「将来の介護費用」です。

〇最高裁判例③(平成11年12月20日)

 被害者が交通事故の後に別の理由でなくなった場合、将来の介護費用について死亡後の期間分も負担することになるのかが問題となります。被害者が亡くなったことで、それ以降の介護費用が実際には発生しないことが明らかになっているからです。

 これについては次の最高裁の判例があります。

 事案は,交通事故によって後遺障害等級1級3号の重度の後遺障害を残した被害者が,その後胃がんにより死亡したというものです。

 この事例で,加害者が被害者の死亡後の期間についても将来の介護費用を負担しなければならないのかが争われました。

 結論としては,最高裁は死亡後の介護費用の支払いについては認めませんでした。

 その理由として,「被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになる。」と述べています。

 

整理が難しい問題

 事故と関係なく亡くなったのであれば,それ以降の逸失利益を加害者が負担する理由はないのではないかという気もします。

 しかし,損害賠償の基本的な考え方や,仮に死亡後の逸失利益を払わなくても良いとした場合の実際上の不都合の問題から,逸失利益については,死亡後の分も含めて賠償の義務があるとされています。

 他方で,将来の介護費用については,現実に支出する費用の補填であるため,その必要がなくなった場合にまで加害者に負担を負わせるべきではないと考えられているのです。

 このように,後遺症が残った後で被害者が亡くなった場合,整理が難しい問題がありますが,相手方に賠償を請求する場合,基本的に1円単位で賠償金額を計算する必要があり,実際にこのような状況になった場合,上記のような考えにしたがって正しく計算を行う必要があります。

 損害賠償を請求する中で,どう考えたら良いのか迷うようなことが生じた場合には,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

(参考文献 上記判例の最高裁判所判例解説)

医療機関の通院が6か月未満で後遺障害等級14級9号が認定された事例

2017-06-01

 今回は,当事務所で取り扱った案件の中で,医療機関での通院期間が6か月に満たなかったケースで後遺障害等級の認定がされた事例についてご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,道路を直進中,左方の脇道から飛び出してきた加害車両が,ご依頼者様の車に衝突してきたというものです。

 事故の衝撃により,ご依頼者様は,頚椎捻挫・背部挫傷,腰椎捻挫といった傷害を負うことになりました。

 その後,整形外科と整骨院を併用して治療を続けましたが,事故後約半年が経過した時点で治療を終了し,相手方から賠償金額の提示があったことから,ご相談に来られました。

当事務所弁護士の活動

 お話を詳しく伺ったところ,治療を終了した段階でも首や腰・背中の痛み,足の親指のしびれといった症状が残っているとのことでした。

 事故状況や画像所見などから,後遺症が認定される可能性が考えられましたので,まずは後遺障害診断書の作成をおすすめしました。

 後遺障害診断書の作成にあたっては,用紙に記載すべきことを事前にお伝えし,医師が作成する際に記載漏れや誤りが生じないようにしました。

 また,整骨院が作成した施術証明書を見たところ,ご依頼者様から聴き取った内容と整合しない記載が見受けられましたので,整骨院に対して加筆・修正を依頼しました。

 さらに,申請の段階で,後遺障害等級が認定されるべきであることを説明する弁護士作成の意見書を添付し,万全の準備を整えて申請を行いました。

 その結果,首と腰のそれぞれについて後遺障害等級14級9号が認定されました(併合14級)。

賠償金額

 上記後遺障害等級の認定結果を元に弁護士が保険会社と交渉をした結果,後遺症の逸失利益については満額,慰謝料についても裁判基準を元にした金額で示談することができ,最終的な賠償金額は,治療中に支払われた治療費を除き,約246万円(後遺障害自賠責保険金を含む)となりました。

 当初の相手方からの提示額が約44万円だったので,約200万円の増額となりました。

後遺障害等級の認定にあたって

⑴ 問題点

 本件で後遺障害等級の認定を受けるために問題となりそうだったことは,整形外科での治療期間が169日と半年に満たなかったことと,整骨院が作成した施術証明書では,この169日が経過する前に転帰の欄に「治癒」という記載がされていたことでした。

⑵ 治療期間

 一般的に,後遺障害とは,「これ以上治療をしても良くならない状態」について認定されるものですので,認定を受けるにあたって,相応の期間の経過と必要な治療を受けてきたということが必要になります。

 そして,一般的にこの期間が半年程度とみられていることから,今回はこの条件を満たしていないのではないかという懸念がありました。

→通院日数などについて詳しく知りたい方はこちら「むち打ち症と後遺障害等級の認定」

 しかし,後遺障害診断書作成時点で症状が残存していたことは後遺障害診断書の記載からも明らかで,整形外科への通院を止めた後も整骨院への通院は続いていたこと,わずかに半年に満たなかったに過ぎなかったことから,この点はクリアできると考えました。

⑶ 施術証明書の問題

 「転帰」とは,患者の通院・症状の経過を記載するものです。

 転帰には,①治癒,②継続,③転医,④中止の4つがあります。

 「治癒」とは,基本的に症状がなくなったときに使われます。

 「継続」は,症状が残っていて治療の必要性があるため,引き続き通院をする場合に使います。

 「転医」は,病院を移る場合に使われます。

 「中止」は,症状は残っているものの,通院をしても良くならない後遺症となったような場合に,治療を終了するときに使います。

 そのため,後遺障害の申請をする方の場合,通常,最後の診断書や施術証明書の転帰の欄は,「中止」に〇が付いていて,ここが「治癒」とされていると,被害者が,症状が完全になくなったと申告したと取られてしまう可能性があります。

 そこで私が整骨院に連絡を取ったところ,柔道整復師の先生に誤解が見受けられたため修正を依頼し,さらに,整形外科の治療が終了した後の施術について施術証明書の作成がなかったため,合わせてその分の作成を依頼しました。

 

メッセージ

 本件は,元々後遺障害の申請をされていない方の事案でしたが,むち打ち症となった方は,ご自身の症状が「後遺障害」といえるほどのものではないと考えて,そもそも後遺障害についての請求ということを考えない方も多いようです。

 しかし,症状自体はそれほど労働や日常生活に影響を与えないとしても,長い間症状に悩まされる苦痛は相当なものです。

 そのため,後になって後悔しないためにも,事故の前に感じていなかった痛みや違和感などが残っているのであれば,後遺障害の申請をすべきかどうかを一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

 もちろん,症状があれば全て後遺障害の認定がされるわけではありません。今回のケースは様々な視点から見て,後遺障害の等級が認定されるに値する後遺症が残っていたといえたということです。

 しかし,今回約44万円から約246万円に増額したことからも明らかなように,弁護士にご相談いただくことで,思った以上に提示額が少なかったということが初めて分かるということもあります。

 損害賠償の内容は,かなり専門的な事柄を含んでいますので,相手の保険会社から賠償金の提示がありましたら,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

ご依頼の場合の料金はこちら→「弁護士費用」

 

減収がなくても後遺障害逸失利益の請求はできる

2017-05-09

 逸失利益とは,交通事故で負った後遺症によって以前のように仕事ができなくなったために,本来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害のことをいいます。

 ところが,実際に後遺症が残った人の中には,後遺障害等級の認定を受けたものの,仕事に復帰して交通事故が起きる前と同じかそれよりも多い収入を得られるようになる人も少なからずいらっしゃいます。

 そうすると,逸失利益の性質が,上記のように「将来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害」,つまり減収となったことを損害としてみるものであるとすると,このような場合,減収がない以上一切請求ができないのではないかという疑問が生じます。

 そこで今回は,このような,後遺障害等級が認定されたものの減収がない場合の逸失利益の額がどのようになるのかについて見てみたいと思います。

被害者が請求できるのは実損害分のみ

 交通事故の被害者が請求することができるのは損害の賠償です。

 不法行為責任について定めた民法709条も,「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としています。

 したがって,加害者に請求することのできるのは、実際に生じた損害分だけということになり、請求する金額には明確な根拠が必要となります。

 つまり,賠償の請求と損害の発生は表裏の関係にあるのです。

 注意したいのは、慰謝料は、目に見えない身体的・肉体的苦痛を金銭的に評価したものですので、実際に生じた経済的な損害とリンクしていないように見えるということです。しかし、少なくとも我が国では、慰謝料についても実際に生じた損害をベースにするものと考えられていて、実際に被害者が受けた怪我の内容等によって決まるものですので、懲罰的な意味合いでの増額は認められません。

減収がないと請求できない?

 以上のような一般論を元に,「減収がない=損害がない」と考えると、後遺障害が認定されているにもかかわらず、収入が減少していないような場合には、賠償の請求ができなくなるように思えます。

 このような考え方は,交通事故の前と後の利益状態を比較して金銭的なマイナスがあった場合に「損害」があったとみなすもので,専門的には,差額説などと言われている考え方に基づくものです。

 裁判所は,一般的には差額説に立って損害を把握しているといわれています。

 しかし,裁判をした場合に,事故後に減収がない人については逸失利益が認められないという判断がされているのかというと必ずしもそうではありません。

 減収がないといっても,それは職場の人がフォローしてくれていたり,仕事の内容が変わったのに減給とならないように配慮してくれていたり,被害者自身が努力をして,何とか仕事ができるような状態にしている結果であるようなことが多く,この点を無視することはできません。

 むしろ,現在の実務上は,現実の減収がないということのみで逸失利益を問答無用で認めないという考え方は採られていないといってよいでしょう。

実務上の考え方

 上記のように,被害者からの請求に当たっては損害が発生したことが条件となっていますので,減収がなくても請求を認めてもらうためには,「減収がなくても損害が発生している」といえなければなりません。

 そのため,何をもって「損害」といえるのかがポイントになってきます。

 この点について,上記の差額説の他に,後遺症によって労働能力が喪失したこと自体を損害とみるという考え方や,後遺症が残ったという事実を損害として捉える考え方があります。

 まず前提として、後遺障害の逸失利益の計算は、フィクションの部分が大きいということを知っておかなければなりません。

 逸失利益の計算は、「基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」によって計算されますが、現実には、労働能力喪失率とピタリと一致する減収が生じるわけではありませんし、今は減収がなくても、将来転職しようとするときに不利に働いたり、働き方が変わることによってマイナスの影響が出てくることもあるでしょう。逆に、今は大きく収入が減っていても、数年後には後遺症の影響が出にくい仕事をして事故前よりもはるかに高額の収入を得ているかもしれません。

 この計算式は、そういった個々の事情を踏まえた上で、「この後遺症の内容なら、おおよそこのくらいの損害額になるだろう」という概算に過ぎないのです。

 したがって、現時点で減収がないことは、逸失利益の額を計算する事情の一つにはなりますが、それだけで逸失利益が否定されるようなものではありません。

 実務上は,差額説を機械的に用いるのではなく,現実に減収がなくても,労働能力の低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているとか,昇給,転職等に際して不利益な取り扱いを受けるおそれがあるような場合には,逸失利益が認められるとされています(最高裁昭和56年12月22日判決)。

 ただし,逸失利益の存在自体が認められたとして,減収がなかったことが全く考慮されないかというと,そうではありません。

 やはり,実際に収入が下がった人と変化がない(又は収入が上がった)人では,逸失利益の額を算出するときに差が出ることはあり得ます。

 裁判上は,労働能力喪失率を調整するなどして,控えめに金額を計算されるということがありますので,示談交渉でも,同様に減額調整が必要となることもあり得ます。

 この辺りは,後遺障害の内容や実際の就労状況などを見ながら,妥協の必要があるのか検討していくことになります。

どういった事情が考慮されているのか?

 減収がない場合の逸失利益の認定についての一般論は以上のとおりですが,逆に言うと,全く経済的な不利益がないといえるような状況であれば,逸失利益が否定されるということも可能性としてはあります。
 そこで,減収がないのに逸失利益が発生していると主張して,この点が争いになっている場合,何らかの不利益が生じていることを説明する必要があります。

 この際に考慮される事情として,①昇進・昇給等における不利益,②業務への支障,③退職・転職の可能性,④勤務先の規模・存続可能性等,⑤本人の努力,⑥勤務先の配慮,⑦生活上の支障といったものが挙げられています。

 ③が挙げられているのは,再就職にあたって後遺症の存在が不利に扱われ,収入が低くなる可能性があるためで,④が挙げられているのは,勤務先の経営基盤が不安定な場合,リストラ等で転職が必要となる可能性があるためです。
 ただ、最近では、終身雇用や人事考課に対する考え方も変化してきていますので、大規模な会社だから将来も減収は生じにくいと考えるのは疑問があるところです。

 ⑤⑥⑦は、比較的主張がしやすいものといえるでしょう。⑦は、仕事には関係ないように思えますが、日常生活に不自由していれば、それが仕事のパフォーマンス低下につながることが考えられます。

 実際の交渉や裁判の場でまず見られるのは、事故前の収入と事故後の収入の変化です。

 例えば、令和3年に事故に遭い、令和3年中に症状固定となったような被害者の場合、令和2年は後遺障害の影響がなかったころの収入、令和3年は事故による休業損害の影響があった収入、令和4年は治療終了後の後遺障害による業務の制限で下がってしまった収入となるのが、通常想定されているケースです。
 この例だと、令和2年が年収1000万円、令和3年が年収500万円、令和4年が年収800万円となり、後遺障害11級であれば、年収の減少幅200万円/1000万円は、11級の労働能力喪失率20%と一致することになるため、その分を請求するのに障害はありません。
 しかし、実際には、1000万円→500万円(入通院中に減収が生じることは多い)→1000万円などと収入が減らないことがしばしば存在し、その場合、上記の各事情を考慮して、場合によっては逸失利益の額が減額となることがあります。

 ただし、14級のような比較的軽い後遺障害の場合、元々労働能力喪失率が5%となっており、ほとんど稼働能力が維持されていますので、実際には減収が生じることの方が稀だと考えられます。したがって、安易に減額することは妥当ではありませんし、実務でも、14級の場合に減収がないからといって逸失利益を減額したりすることは多くありません。

 逆に、重い後遺障害で、労働能力喪失率が高く設定されているにもかかわらず、事故前と同様に仕事ができているような場合には、労働能力喪失率表どおりの計算では損害を過大評価されていると見ざるを得ないような場合もあるでしょう。そのような場合、減額となる可能性が高まります。

その他に注意すべき点は?

 逸失利益の算定にあたって用いる労働能力喪失率は,認定された等級に応じて,通常は自賠責保険の労働能力喪失率表で示された数字を用いることになりますが,この点で,特に公務員で減収がない場合には,一般の減収が生じている場合と比較して不利な認定がされることがあります。

 具体的には,定年までは労働能力喪失率を低く認定するなどといったことがあり得ます。
 その理由は,公務員の場合,民間企業の従業員と比較して身分保障が手厚く,後遺症があっても減収が生じない可能性が高いと考えられるためです。

まとめ

 以上のように,事故の後に減収がないからといって逸失利益が認められないというわけではありません。しかし,相手方からは,減収がないから逸失利益は認められないという主張が出されることも十分に予想されます。

 そのようなときは,逸失利益が認められた過去の事例を示し(多数あります),上記考慮事情として挙げられたものを具体的に説明するなどして,請求に理由があることを説得的に説明していくことになります。

 逸失利益の請求は,単純な実費の損害賠償とは異なり,理論的に難しい部分を含みますので,交通事故で後遺障害等級が認定されましたら,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

(参考文献 日弁連交通事故相談センター東京支部編「平成20年版赤い本下巻」9頁~、同「令和4年版赤い本下巻」17頁~)

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後遺障害の逸失利益

 

 

【ゴールデンウイーク休業のご案内】

2017-04-13

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて,誠に勝手ながら下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

平成29年5月3日(水)から平成29年5月7日(日)

通院日数が少なくてもむち打ち症で後遺障害等級14級9号が認定された事例

2017-04-13

 今回は,当事務所で取り扱った案件の中で,医療機関での通院日数が比較的少なくても後遺障害等級の認定がされた事例についてご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,交差点で停車中に追突されたという事故で,被害者の方が頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負ったというものです。

 その後,約8か月間通院を続けたものの,頚部痛や左でん部痛・左下肢しびれといった後遺症が残ることとなりました。

 そのため,後遺症について後遺障害等級の認定申請を行うことになったのですが,ここで1つ問題がありました。

 それは,ご依頼者様の通院が,整骨院が中心で医療機関での通院は合計で25日しかなかったということです。

 後遺障害等級の認定に当たっては治療の経過も考慮事情とされているため,必要最低限の資料を提出するのみで後遺障害等級が認定されるかどうか不安がありました。

 そのため,事故の衝撃の大きさについて客観的な資料を元に説明するとともに,後遺障害等級が認定されるべき事情を説明する弁護士作成の意見書を添付して後遺障害の申請を行うこととしました。

 その結果,首と腰のそれぞれについて後遺障害等級14級9号が認定されました(併合14級)

 

賠償金額

 上記後遺障害等級の認定結果を元に弁護士が保険会社と交渉をした結果,後遺症の逸失利益や休業損害については満額(逸失利益はむち打ち症であることを考慮し,労働能力喪失率5%,労働能力喪失期間5年),慰謝料についても裁判基準を元にした金額(約195万円)で示談することができ,最終的な賠償金額は,治療中に支払われた治療費を除き,約380万円(後遺障害自賠責保険金を含む)となりました。

 

後遺障害等級の認定と通院日数の関係?

 このページをご覧の皆さんの中には,既にインターネットで後遺症に関する情報を調べられた方もいらっしゃるかもしれません。

 その中には,後遺障害等級が認定されるための条件のようなものが記載されているものもあると思います。

 そして,この条件について,通院日数が重要であると書かれているものが少なからず見られます。

 具体的には,「整骨院ではなく,病院などの医療機関に〇日以上通った方がいい」といったものです。

 たしかに,後遺障害等級は,治療を尽くしたものの治療の効果が期待できない状態に至ったときに,残った後遺症について認定されるものですから,まともに治療を受けていない状態で,後遺障害等級の認定をしてほしいと言っても難しいでしょう。

 私がこれまで見てきた中でも,極端に通院日数が少ないケースでは,基本的に後遺障害等級非該当の結果が出ています。そういった意味では,通院の日数を無視することはできません。

 しかし,後遺障害等級は,通院日数のみで認定されているわけではなく,後遺障害等級を認定している損害保険料率算出機構は,〇日以上の通院が必要などと公表してはいません。

 したがって,「後遺障害等級の認定のために〇日は通院しなければならない」ということを断言することはできず,推測に過ぎないのです。

 ただ,私も医療機関への通院の重要性を否定するものでは全くなく,医療の専門家である医師によって経過観察が行われ,適切な治療を受けることは,損害賠償請求に当たって不可欠だと思います。

 しかし,必要もないのに,医療機関に半年で100日以上の通院をご依頼者様に勧めるようなことは,賠償上の因果関係との関係で問題が生じるおそれもありますし,被害者の方のご負担も大きいので,当事務所ではしておりません。

 あくまでも医療機関での通院を中心に考えつつ,整骨院への通院によって病院では足りない部分を補うようなイメージで,常識的な範囲で通われるのが良いかと思います。

メッセージ

 本件のようなケースでも後遺障害等級が認定されたことからも分かるように,通院の日数だけを見て,後遺障害等級が認定されないなどと安易に判断することはできません。

 後遺障害等級の認定は,事故の状況,治療中の症状の変化,MRIをはじめとする画像資料などを見て,総合的に判断されるものです。

 したがって,インターネット上の情報を元に後遺障害等級の認定を諦める前に,見込みについてまずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

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「むち打ち症と後遺障害等級の認定」

「弁護士に依頼するメリット」

鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

2017-03-02

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が生じる典型的なケースとして,これまでにいくつか見てきましたが,同じく交通事故でよく生じる怪我の1つである鎖骨骨折というものがあります。

 弁護士として様々なお話を伺っているときに,診断書の傷病名というところに着目するのですが,「鎖骨骨折」は,交通事故の衝撃で被害者が転倒して手やひじや肩などを地面についたようなときに,その衝撃で発生することが多いため,歩行者や自転車・バイクの被害者によく見られる診断名です。

 また,ケースによっては,シートベルトの圧迫によっても発生することがあるようです。

 このように,このホームページをご覧いただいている方の中にもお困りの方が多いと思われる鎖骨骨折の後遺症や損害賠償について今回は見ていきます。

想定される後遺障害の等級は?

12級5号(変形障害)

 裸体となったときに明らかに分かる程度に鎖骨が変形癒合した場合,12級5号が認定されます。

 レントゲン写真によってはじめて分かる程度であれば,ここには該当しません。

12級6号(可動域制限)

 鎖骨は肩甲骨とつながっており,鎖骨骨折により,肩関節の可動域制限・運動障害が発生する可能性があります。

 障害が残った側の肩関節の可動域が,健側(怪我をしていない方)の4分の3以下となっている場合は,後遺障害等級12級6号の認定が見込まれます。

 さらに、可動域が健側の2分の1以下となっていると、後遺障害等級10級10号となります。

12級13号(神経障害)

 骨折によって痛みなどの神経症状が残った場合で,骨癒合の不全や関節面の不整などがあって,その症状の存在を医学的に証明することができる場合には,12級13号が認定されることになります。

等級の併合について

 12級5号が認定されて,さらに痛みがある場合,12級13号と併合で11級とはならず,痛みは12級5号の中に含まれているという形で判断されます。

 これに対し,12級5号が認定され,さらに肩関節に健側と比較して4分の3以下の機能障害が発生した場合,機能障害について12級6号が認定され,併合11級となります。

(「労災補償 障害認定必携」より)

弁護士による示談交渉・増額のポイント

後遺障害逸失利益の計算について

 事故で残った後遺症について後遺障害等級が認定されると、後遺症に対して加害者側から賠償金が支払われることになります。

 この後遺症に対する賠償金として支払われる項目は主に2つで、1つは後遺障害逸失利益、もう1つは後遺障害慰謝料です。

 このうち、後遺障害逸失利益は、後遺症の内容によって金額が変わってきます。

 後遺障害逸失利益は、後遺症による将来にわたる収入の減少を補償しようというもので、通常は「事故前年の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」という計算式によって計算します。

 労働能力喪失率とは、後遺症が原因となって減る収入の割合のことです。簡単にいうと、事故前の年収が1000万円だった人が、事故の後遺症で年収800万円となっていれば、労働能力喪失率は20%と評価することができます。※実際には、この計算式で用いる割合と減収の割合は一致しません。

 労働能力喪失期間とは、後遺症による労働能力の制限が何年続くのかを指しています。

12級6号(可動域制限)の場合

 12級6号の可動域制限の後遺障害等級がが認定される場合,通常はレントゲン写真やCTなどで骨癒合の不全や関節面の不整を確認することができるということになります。

 これらの他覚的所見が時間の経過によって正常な形になることは期待できないため、それに伴う可動域制限が改善するということも考えにくいです。

 したがって,逸失利益の労働能力喪失期間については、原則にしたがって就労可能年齢一杯分(実務的には67歳までとされることが多いです。)とされるべきであると考えられます。

 労働能力喪失率は、12級であれば、一般的な例と同様に14%とされることが多いでしょう。

12級13号の場合

 12級13号の場合,神経症状による後遺障害であるため,労働能力が回復する可能性も否定できません。

 過去の裁判例を見ても、労働能力喪失期間を10年などと制限している例が見られます。

 しかし,むち打ち症とは異なり、関節面の不整・骨癒合の不全といった状態に変化はないと考えられますので,基本的には労働能力喪失期間の限定は行うべきではないと考えるべきでしょう。

 労働能力喪失率は、一般的な例と同様に14%とされることが多いと思いますが、実際の労働への支障の程度が小さい場合は、割合を下げられることもあり得ます。

12級5号(変形障害)の場合

 後遺障害の内容が鎖骨の変形障害にとどまる場合、後遺障害逸失利益が発生するかどうかについて争いがあります。

 なぜなら、鎖骨は、先天的に欠損している場合や後天的に全摘出したような場合であっても、肩関節の可動や日常生活に大きな影響はないとされているからです。

 実際に、過去の裁判を見ても、変形障害があっても労働能力の喪失に関係しないなどとして後遺障害逸失利益を否定するものが見られます。

 したがって、保険会社もこの点を指摘して後遺障害逸失利益を否定したり、金額を著しく低く認定してくることがあります。

 しかし,上記のような他の後遺障害が認定されるレベルに至っていないものであっても,モデルのように外見が労働能力に影響するような職業はもちろんのこと,通常の労務に支障が生じることは考えられますので,逸失利益を全く否定することは妥当ではありません。

 この際の逸失利益の計算については,被害者の職業や,変形障害以外の障害の内容等を元に判断していくことになりますが、労働能力喪失率は実態に合わせて通常とは異なる数値が用いられることが考えられます。

 また、骨癒合の不全による痛みを伴っている場合、前記のとおり12級13号とは認定されず、12級5号のみが認定されることになりますが、表面上の等級が12級5号だからといって、痛みに対する12級13号のみの場合よりも賠償金の額が小さくなることはあり得ません。

 しかし、保険会社は、12級5号の特殊性を理由に逸失利益を不当に制限してくることがありますので、この点はしっかりと交渉をしていく必要があります。

後遺障害慰謝料

 後遺症の慰謝料については定額化が進んでいますので、後遺症の内容によって大きく変わることはありません。ただし、変形障害が残った場合で、後遺障害逸失利益は認められなかったような場合には、外見の変化による苦痛を慰謝料を加算するという形で修正することがあります。

まとめ

 鎖骨骨折に関する後遺症として想定されるものとしては,以上のように複数のものが考えられます。

 そのため,どのような後遺障害の認定がされる可能性があるのかを後遺障害の申請の前に見極め,そのために必要な3DCT検査を受けておくなどして準備を整えた上で申請を行うことが重要となります。

 また,後遺障害の認定が受けられた場合でも,12級5号のように逸失利益の算定に強く争いが生じる可能性があるものもありますので,交渉の際には,自分にとってどの程度の損害賠償が妥当なのかを見極める必要があります。

 上で見たように、後遺障害部分の示談交渉は、交通事故の賠償に関する正確な知識を必要としますので、後遺障害等級認定後はお早目に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

○関連記事

・「肩・ひじ・手の関節の後遺症の賠償

・「骨折による後遺障害等級12級13号のポイント

・「後遺症の等級と慰謝料について」

肩・ひじ・手の関節の後遺症(12級6号など)の賠償

2017-02-15

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が残ることは少なくありませんが,後遺症が残ったからといって,全てが加害者に請求することができる損害賠償の対象となるとは限りません。

 自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうかがポイントとなってきます。

 今回は,交通事故で比較的多く見られる後遺障害の中でも,上肢の運動障害(可動域制限)について,認定された後の損害賠償の問題も含めて見ていきます。

 

上肢の関節の機能障害(運動障害)に関する自賠責保険の基準

 上肢の関節の機能障害(運動障害)が後遺症として残った場合の,自賠責保険における後遺障害等級は以下のとおりです。

(「労災補償 障害認定必携」参照)

 

6級6号

1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

8級6号

1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

10級10号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

12級6号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

※骨折部にキュンチャー(髄内釘)を装着しているか、金属釘を用いたことが機能障害の原因となっている場合は、これらの除去をしてから等級の認定を行うことになります。また、廃用性の機能障害(ギプスによって患部を固定していたために、治癒後に機能障害が残ったような場合)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うとされています。

「関節の用を廃したもの」とは

①関節が強直したもの

※肩関節の場合は,肩甲上腕関節が癒合し,骨性硬直していることがエックス線写真により確認できるものを含む。

②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

③人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,「関節の用を廃したもの」の③以外のもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

 関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

 

 今回は,この中の主に12級6号について見ていきます。

 

認定のポイント

 12級6号であれば,3大関節の中の,1つの可動域が,健側の可動域の3/4以下に制限されていれば認定されることになります。

 そこで,この意味について確認しておきます。

3大関節

 3大関節とは,①肩関節,②ひじ関節,③手関節のことをいいます。

可動域

 可動域とは,関節がどの程度動くのかを示しています。

健側(けんそく)とは

 健側とは,障害が残った腕など(患側)に対して,障害が残っていない方の腕などのことを指します。

関節可動域の測定

 関節可動域の対象となるのは,以下のものです(主要運動といいます。)。

肩関節

屈曲or外転+内転

ひじ関節

屈曲+伸展

手関節

屈曲+伸展

 

測定方法

 自分の力で動かす自動運動と他人の力を借りて動かす他動運動が考えられますが,基本的に可動域の測定を行う場合は他動運動の数値を用います。

 ただし,末梢神経損傷を原因として関節を稼働させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が動くものの自動では動かせないような場合等,他動運動による測定値を用いることが適当ではない場合には,自動運動を用いることがあります。

 自動運動を用いて測定する場合は,その測定値を(   )で囲んで表示するか,「自動」または「active」などと明記することになります。

 測定は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会によって決定された「関節可動域表示ならびに測定法」にならって行われることになります。

 

後遺障害の対象となっていない側にも障害がある場合は?

 上記のように,可動域制限の程度は,健側と患側の比較によって行いますが,事故とは関係なく,健側となるべき側に障害があるような場合,患側の比較をしても,障害がないという結果にもなりかねません。

 このような場合,各可動域について設定されている「参考可動域」との比較によって評価されることになりますので,後遺障害診断書作成の際に,そのことが分かるように医師に記載してもらいましょう。

 

参考運動とは?

 上記のような主要運動とは別に参考運動というものがあります。

 これは,主要運動の可動域が1/2(10級10号)又は3/4(12級6号)をわずかに上回る場合に,このままでは12級6号又は非該当となってしまうところを,参考運動がそれぞれ1/2又は3/4以下となっていれば,10級10号又は12級6号と認定するというものです。

 この「わずかに」とは,原則として5度であり,一部の機能障害については10度とされています。

 このような場合に,参考運動の測定を行っていなければ,当然このことは考慮されませんので,主要運動の可動域制限が,等級の認定基準にわずかに満たない場合には,参考運動の可動域の測定も欠かさずに行うようにしましょう。

 

注意点

 このように,可動域制限さえ出ていれば等級が認定されるかというとそうではありません。

 機能障害の原因となる骨癒合の不良や関節周辺組織の変性による関節拘縮といった異常が画像上明らかであることが必要です。

 そうでなければ、痛みについての14級9号にとどまるか,後遺障害非該当ということもあり得ます。

 そのため,この点について,骨癒合の状態等についてCT等でしっかりと確認しておく必要があります

 以上のように,後遺症に見合った等級の認定が行われるためには,しっかりとチェックしておくべきことがありますので,弁護士にご依頼いただいた場合,後遺障害診断書が適切に作成されるためのサポートをさせていただきます。

 

示談交渉・損害賠償上のポイント

 上記のような点をクリアして12級6号が認定された場合の損害賠償上の問題点についてご説明します。

 後遺障害に関する損害賠償では,基本的に慰謝料と逸失利益が問題となるのですが,このうちの慰謝料については,12級だと290万円程度が相当とされており,それほど問題とはなりません。

 また,逸失利益についても,同じ12級でも,「12級13号」の場合と異なり,就労可能年限である67歳までが労働能力喪失期間として認定されることが通例ですが(例外はあります。),保険会社はできるだけ賠償金を低く見積もってくることが多いので,この点で減額されないようにしっかりと交渉していくことが必要になります。

 この点も,やみくもに交渉をすればいいというわけではありませんので,弁護士にご依頼いただいた場合,請求を基礎づける過去の事例を示すなどして,適正な賠償額が支払われるように根拠に基づいて交渉をしていきます。

 

まとめ

 12級6号が認定されるためには,自賠責保険の後遺障害認定は原則として書類審査ですので,ご自身の障害の程度が正しく評価されるために,必要な検査を受け,それが後遺障害診断書上も表れているかが重要です。

 また,損害賠償請求に当たっては,不当に減額されないように適切に示談交渉を行っていく必要があります。

 弁護士にご依頼ただければ,後遺障害の申請から損害賠償の示談交渉まで行いますので,交通事故で負った後遺症についてご不安な場合は,一度弁護士にご相談ください。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」

 

サラリーマン(給与所得者)の休業損害のポイント

2017-02-07

 前回までに,主婦や会社役員,個人事業主の交通事故による休業損害について見てきて,その際に,これらの請求が会社から一定の給料の支払いを受けているサラリーマン(給与所得者)の場合と比較して難しいと述べてきました。

 それでは,サラリーマン(給与所得者)であれば,休業損害(休業補償)の請求は容易なのでしょうか?

 弁護士として実際に様々な交通事故のご相談をお受けしていると,サラリーマンの場合でも,必要な補償が100%受けられているは限らないことが少なからず見受けられますので,今回はサラリーマン(給与所得者)の休業損害(休業補償)の請求について解説いたします。

 

基本的な計算の方法

 前提として,サラリーマンの休業損害(休業補償)の計算の仕方について確認しておきましょう。

休業日数の把握

 まず,実際にどれくらい休んだのかを確認するために,「休業損害証明書」を作成します。

 休業損害証明書は,自賠責の定型書式を用いて,会社に作成を依頼することが通例です。

 保険会社に言えば用紙を送ってくれますので,送られてきた用紙を会社の担当者に渡して作成を依頼しましょう。

 これにより休業日数を把握することができます。

基礎収入額の設定

 次に,休業1日当たりにどのくらいの損害が発生するのかを確認します。

 この計算方法としては,交通事故の直前3か月の給料(額面)の平均値を用いるのが一般的です。

 実際には,事故前3か月分の給料の合計額÷90日とすることが多いです(各月の日数を考慮して91日や92日で割ったとしても間違いではありません。)。

休業損害の計算

 以上の結果,休業損害の計算式は以下のようになります。

 基礎収入額×休業日数=休業損害

具体例

 イメージをしやすくするために,以下のような事例で見てみましょう。

①事故日

 11月1日

②休業日数

 11月1日から11月15日までの15日

③収入

 2月 30万円

 3月 30万円

 4月 30万円

 (※20日勤務で月給30万円,日給1万5000円)

④会社から支払われた11月分の給料

 11月16日~30日までの半月分として15万円

 

基礎収入

 (30万円+30万円+30万円)÷90日=1万円/日

休業損害額

 1万円×15日=15万円

コメント

 これが基本的なサラリーマンの休業損害の考え方であり,具体例では,約半月休業して,15万円が休業損害として支払われているので,会社から支払われた給料と合わせれば30万円となり,感覚的にも支払いに不足しているということはないはずです。

注意点

 休業損害証明書は,被害者が会社に作成を依頼することになります。

 黙っていても保険会社は対応してくれませんので,自分で動くようにしましょう。

 また,多くの方が毎月給料の支払いを受けていると思いますが,事故前と同じように支払いを受けようとするのであれば,毎月休業損害証明書を提出する必要があります。

 人によっては,数ヶ月をまとめて作成依頼して保険会社に提出する人がいますが,その場合,支払いが遅れることになるというマイナスに加え,保険会社から,「この時期以降の支払いはできません」と言われて,途方に暮れてしまうこともあります。

 休業損害の支払いは,あくまでも,「事故によって発生した損害であるということが相当である」といえる範囲に限られます。

 したがって,非常に軽微な事故で,延々と休業を続けているようなケースでは,支払いはされないということになります。

 どの程度なら支払われるということを一概に言うことは難しいのですが,実務上重視されているのは,「主治医による就業の制限がされているかどうか」です。

 むち打ちなどの場合,多くの場合,就労の制限まではされませんので,事故当初の短期間や通院のための一部欠勤部分にとどまるということも多いでしょう。

 むち打ちで数ヶ月にわたって復帰もせずに休業を続けているというような場合,相手方から支払いを受けるのは非常に困難であるといって良いでしょう。

保険会社との交渉でよく問題となる点

 上記のように,連続して休業しているような場合には,保険会社の支払いも不足がないことが多いでしょう。

 しかし,よく問題となるのは,休業が飛び飛びになっている場合です。

具体例

 先ほどの例で,通院などのために,11月1日,5日~10日,15日の合計8日といったように飛び飛びで休業した場合で見てみましょう。

 先ほどの計算方法では,1万円×8日で8万円が休業損害となりそうです。

 ここで注意すべきなのは会社から実際に支払われる給料との合計額なのですが,先ほどの「収入」のところで見たように,日給では1万5000円となっていて,20日勤務だとすると,会社に出社することができたのは20日-8日の12日になります。

 その結果,会社からの支払額は,1万5000円×12日=18万円となります。

 そうすると,先ほどの休業損害額8万円をプラスすると,合計26万円ということになるのですが,事故の前は毎月30万円の給料を受け取っていたことからすると4万円も下がっています。

 この点が問題なのですが,保険会社は,実際にほとんどの場合でこのような計算をしてきます。

なぜこのような事になるのか?

 それでは,なぜ初めの例では問題がなかったものが2番目の例では問題になるのかということなのですが,理由は簡単で,休日が適切に考慮されていないからです。

 つまり,初めの例では,11月1日から11月15日の間に休日が含まれている中で,休業の日数について,休日も含めて連続した15日間という期間で計算をしていました。

 これに対して,2番目の例では,飛び飛びで休んでいたために,連続した期間としての計算をすることができず,休日を含まない実際に休んだ日を使って計算しています。

 問題の原因は,基礎収入の額を計算するときには休日を含む90日で割っていたということです。休日を含んでいる分,1日の単価は低くなっています。

 そのため,2番目の例のように,この単価に休日を含まない実際に休んだ日をかけると支払額が小さくなるのです。

 今回は,月の稼働日数が20日の例で考えてみましたが,月に3日しか働かず,1日の仕事の単価が10万円という場合を考えると,1日当たりの休業損害が1万円というのが不当であることがよりハッキリとします。

交渉の方法

 計算上の問題点は上記のとおり明らかですが,保険会社は,こうした違いを無視して機械的に前述の方法で基礎収入を計算してきます。

 これに対する対応の方法としては,基礎収入について,休日を含まない稼働日数を元に日給を算出するということが考えられます。

 実際に,裁判上もこのような計算方法が認められていますので(東京地裁平成26年1月21日判決等多数),弁護士としてもこの計算によって請求を行うのですが,保険会社の担当者によってはすぐに応じないことがあります。

 そのような場合には,過去の裁判例や理屈について根気強く説明することが必要となります。

 

どこまでが基礎収入になる?

 基本給のほかに,各種手当も含みますが,実費に対応して支払われる通勤手当については,通勤をして実際に交通費を払わなければ発生しないものなので,基礎収入には算入しないことになります。

 

有休休暇を利用した場合は請求の必要がない?

有休休暇を利用した場合でも請求は可能

 休業損害を含めて,基本的に損害賠償は,実際に損害が生じて初めて加害者に請求することができるようになります。

 そのため,有休休暇を利用して会社から支払いを受けた場合には,加害者に対して休業損害の請求をすることができないのではないかということが問題となります。

 この点については,現在の実務上は,有休休暇を利用した場合でも,有休休暇を利用する権利を自身が望まないタイミングで使用することになっていることから,損害があるとして賠償の請求をすることができることとなっています。

 この場合の損害の額については難しいところがありますが,一般的には,通常の休業損害と同様に,基礎収入額に応じて使用した日数分の請求が認めれることが多いです。

請求の方法

 有休休暇を利用した場合は,保険会社が応じないというよりも,被害者本人が損害があることに気付いていないということが多いので,請求を忘れないようにしましょう。

 

ボーナスは?

ボーナスの減額分も請求は可能 

 事故によって休業したことが賞与の計算上マイナスに評価され,結果として賞与の額が減った場合には,この減額分を事故の加害者に請求することができます。

 内容に問題がなければ,特に争いなく保険会社から支払われることも多いです。

 もっとも,減額又は減額の可能性があるのに,そのことを適切に相手方に伝えなかった場合には,損害賠償上考慮されないことになりますので,この点も忘れずにチェックしましょう。

請求の方法

 ボーナスについては,「賞与減額証明書」というものを別途会社に作成してもらうとともに,賞与の計算規程についても併せて交付をお願いすることになります。

 

残業ができなくなった場合は?

事故によってマイナスになった分の請求が可能

 仕事には復帰したものの,事故前のように残業ができなくなったという方もいらっしゃいますが,このようなものも,事故によって発生した損害として請求は可能です。

 この場合の問題点は,既にみたように,休業損害の計算が基本的に基礎収入に休業の日数をかけるという方法で行われるため,休業をしていない以上,通常の請求方法では残業代分のマイナスが計上されないという点にあります。

 休業損害証明書によってしか請求ができないものと考えていると,この点を見落としがちになるので,注意が必要です。

請求の方法

 請求の方法としては,復帰後の給与の額と事故前の給与の額の差額を残業代分の損害として請求することなどが考えられます(大阪地裁平成28年3月24日等参照)。

 当事務所でも,同様の方法によって相手方保険会社に対して請求を行い,支払を得られたことがあります。 

まとめ

 以上のように,サラリーマンの休業損害の請求は,認定はそれほど難しいところはないものの,被害者の側できちんと把握して主張しておかなければ見落とされてしまうものが多いのが特徴です。

 一つ一つの損害を漏らさずに適切に請求を行うためには,細かいチェックとそれなりの理論構成が必要となるところもありますので,しっかりと補償を受けられたい場合には,まずは専門家である弁護士への無料相談をご利用ください。

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