鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

2017-03-02

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が生じる典型的なケースとして,これまでにいくつか見てきましたが,同じく交通事故でよく生じる怪我の1つである鎖骨骨折というものがあります。

 弁護士として様々なお話を伺っているときに,診断書の傷病名というところに着目するのですが,「鎖骨骨折」は,交通事故の衝撃で被害者が転倒して手やひじや肩などを地面についたようなときに,その衝撃で発生することが多いため,歩行者や自転車・バイクの被害者によく見られる診断名です。

 また,ケースによっては,シートベルトの圧迫によっても発生することがあるようです。

 このように,このホームページをご覧いただいている方の中にもお困りの方が多いと思われる鎖骨骨折の後遺症や損害賠償について今回は見ていきます。

想定される後遺障害の等級は?

12級5号(変形障害)

 裸体となったときに明らかに分かる程度に鎖骨が変形癒合した場合,12級5号が認定されます。

 レントゲン写真によってはじめて分かる程度であれば,ここには該当しません。

12級6号(可動域制限)

 鎖骨は肩甲骨とつながっており,鎖骨骨折により,肩関節の可動域制限・運動障害が発生する可能性があります。

 障害が残った側の肩関節の可動域が,健側(怪我をしていない方)の4分の3以下となっている場合は,後遺障害等級12級6号の認定が見込まれます。

 さらに、可動域が健側の2分の1以下となっていると、後遺障害等級10級10号となります。

12級13号(神経障害)

 骨折によって痛みなどの神経症状が残った場合で,骨癒合の不全や関節面の不整などがあって,その症状の存在を医学的に証明することができる場合には,12級13号が認定されることになります。

等級の併合について

 12級5号が認定されて,さらに痛みがある場合,12級13号と併合で11級とはならず,痛みは12級5号の中に含まれているという形で判断されます。

 これに対し,12級5号が認定され,さらに肩関節に健側と比較して4分の3以下の機能障害が発生した場合,機能障害について12級6号が認定され,併合11級となります。

(「労災補償 障害認定必携」より)

弁護士による示談交渉・増額のポイント

後遺障害逸失利益の計算について

 事故で残った後遺症について後遺障害等級が認定されると、後遺症に対して加害者側から賠償金が支払われることになります。

 この後遺症に対する賠償金として支払われる項目は主に2つで、1つは後遺障害逸失利益、もう1つは後遺障害慰謝料です。

 このうち、後遺障害逸失利益は、後遺症の内容によって金額が変わってきます。

 後遺障害逸失利益は、後遺症による将来にわたる収入の減少を補償しようというもので、通常は「事故前年の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」という計算式によって計算します。

 労働能力喪失率とは、後遺症が原因となって減る収入の割合のことです。簡単にいうと、事故前の年収が1000万円だった人が、事故の後遺症で年収800万円となっていれば、労働能力喪失率は20%と評価することができます。※実際には、この計算式で用いる割合と減収の割合は一致しません。

 労働能力喪失期間とは、後遺症による労働能力の制限が何年続くのかを指しています。

12級6号(可動域制限)の場合

 12級6号の可動域制限の後遺障害等級がが認定される場合,通常はレントゲン写真やCTなどで骨癒合の不全や関節面の不整を確認することができるということになります。

 これらの他覚的所見が時間の経過によって正常な形になることは期待できないため、それに伴う可動域制限が改善するということも考えにくいです。

 したがって,逸失利益の労働能力喪失期間については、原則にしたがって就労可能年齢一杯分(実務的には67歳までとされることが多いです。)とされるべきであると考えられます。

 労働能力喪失率は、12級であれば、一般的な例と同様に14%とされることが多いでしょう。

12級13号の場合

 12級13号の場合,神経症状による後遺障害であるため,労働能力が回復する可能性も否定できません。

 過去の裁判例を見ても、労働能力喪失期間を10年などと制限している例が見られます。

 しかし,むち打ち症とは異なり、関節面の不整・骨癒合の不全といった状態に変化はないと考えられますので,基本的には労働能力喪失期間の限定は行うべきではないと考えるべきでしょう。

 労働能力喪失率は、一般的な例と同様に14%とされることが多いと思いますが、実際の労働への支障の程度が小さい場合は、割合を下げられることもあり得ます。

12級5号(変形障害)の場合

 後遺障害の内容が鎖骨の変形障害にとどまる場合、後遺障害逸失利益が発生するかどうかについて争いがあります。

 なぜなら、鎖骨は、先天的に欠損している場合や後天的に全摘出したような場合であっても、肩関節の可動や日常生活に大きな影響はないとされているからです。

 実際に、過去の裁判を見ても、変形障害があっても労働能力の喪失に関係しないなどとして後遺障害逸失利益を否定するものが見られます。

 したがって、保険会社もこの点を指摘して後遺障害逸失利益を否定したり、金額を著しく低く認定してくることがあります。

 しかし,上記のような他の後遺障害が認定されるレベルに至っていないものであっても,モデルのように外見が労働能力に影響するような職業はもちろんのこと,通常の労務に支障が生じることは考えられますので,逸失利益を全く否定することは妥当ではありません。

 この際の逸失利益の計算については,被害者の職業や,変形障害以外の障害の内容等を元に判断していくことになりますが、労働能力喪失率は実態に合わせて通常とは異なる数値が用いられることが考えられます。

 また、骨癒合の不全による痛みを伴っている場合、前記のとおり12級13号とは認定されず、12級5号のみが認定されることになりますが、表面上の等級が12級5号だからといって、痛みに対する12級13号のみの場合よりも賠償金の額が小さくなることはあり得ません。

 しかし、保険会社は、12級5号の特殊性を理由に逸失利益を不当に制限してくることがありますので、この点はしっかりと交渉をしていく必要があります。

後遺障害慰謝料

 後遺症の慰謝料については定額化が進んでいますので、後遺症の内容によって大きく変わることはありません。ただし、変形障害が残った場合で、後遺障害逸失利益は認められなかったような場合には、外見の変化による苦痛を慰謝料を加算するという形で修正することがあります。

まとめ

 鎖骨骨折に関する後遺症として想定されるものとしては,以上のように複数のものが考えられます。

 そのため,どのような後遺障害の認定がされる可能性があるのかを後遺障害の申請の前に見極め,そのために必要な3DCT検査を受けておくなどして準備を整えた上で申請を行うことが重要となります。

 また,後遺障害の認定が受けられた場合でも,12級5号のように逸失利益の算定に強く争いが生じる可能性があるものもありますので,交渉の際には,自分にとってどの程度の損害賠償が妥当なのかを見極める必要があります。

 上で見たように、後遺障害部分の示談交渉は、交通事故の賠償に関する正確な知識を必要としますので、後遺障害等級認定後はお早目に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

○関連記事

・「肩・ひじ・手の関節の後遺症の賠償

・「骨折による後遺障害等級12級13号のポイント

・「後遺症の等級と慰謝料について」