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後遺障害併合11級【鎖骨変形・左肩機能障害】で約730万円→約1500万円
事案の概要
事故状況は、友人が運転する車の助手席に被害者が乗っていたところ、運転手が意識を失って信号機に衝突したというものでした。
被害者は、右肩鎖関節脱臼、左肩腱板断裂などの傷害を負い、治療を約20か月間にわたっておこなったものの、鎖骨変形のほか、左肩の関節機能障害が残存し、それぞれ、「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号と左肩関節に「機能に障害を残すもの」として後遺障害12級6号が認定されることとなりました。
9~13級の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合ですので、重い方の(今回は同じ等級ですが)等級を1級繰り上げることになるため、併合11級となります。
まずは、人身傷害保険で金額を算出してもらったところ、最終の支払額が730万円という結果になりました。
この金額の妥当性をチェックするため、ご相談となりました。
当事務所の活動
まず、上記のとおり本件は人身傷害保険で対応されていましたが、対人保険でも対応可能な案件でしたので、対人賠償での対応に切り替えてもらいました(人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法が約款で定められており増額が見込めません)。
交渉を行った結果、慰謝料や逸失利益が大幅に増額し、最終支払額が約1500万円となり、2倍強での解決となりました。
ポイント
鎖骨変形
本件は、類型的に後遺障害逸失利益が問題となる「鎖骨変形」(後遺障害等級12級5号)が後遺障害に含まれていたため、この点が交渉でのポイントになります。
鎖骨は、変形があったとしても日常生活や労働に支障はないのではないかという指摘があり、裁判上も、等級表どおりに労働能力喪失率が認定されないケースがあります。
そのため、本件のように他にも後遺障害がある場合には、その後遺障害を元に逸失利益を計算されるにとどまり、鎖骨変形分は考慮されないということがあり得ます。
本件の場合、別の後遺障害が左肩関節の機能障害の後遺障害等級12級6号であり、この障害は、通常労働能力喪失率や労働能力喪失期間が問題になることは少ないため、この等級に基づき労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間は67歳までとされる可能性があります。
しかし、本件の交渉では労働能力喪失率については20%とすることを特に争われませんでしたので、労働能力喪失期間が問題となりました。
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基礎収入の考え方
また、逸失利益の基礎収入の部分が、人身傷害保険の考え方に基づいて、実収入よりも高い平均賃金が用いられていましたので、この点が元々被害者にとって有利になっていました。
裁判基準で逸失利益を計算する場合、若年の労働者などでなければ、通常は事故前年の年収をベースに計算します。
この点をどう考慮すべきがが悩ましい問題でした。
減収がない場合の逸失利益
本件は、上記のような点の他に、依頼者にとって不利になり得る事情として、事故後に減収がなく、むしろ収入が増えているという事情がありました。
実務上、減収がないからいって逸失利益自体がゼロということにはならないのが通例ですが、それでも、認定される金額が減少することは少なからずあります。
最終的な示談金額
上記のような点を総合的に考慮して、逸失利益の額を当初約490万円とされていたところを、約930万円とすることで示談としました。
この金額ですが、基礎収入を平均賃金ではなく実年収をベースに、11級の労働能力喪失率で67歳までで計算した額とほぼ変わらないものでしたので、裁判をした場合、この金額を下回ることも考えられました。
本件は、妥当な落としどころを考える際に、実務上の様々な考え方を知っておかなければならず、結論的にはいい示談ができたのではないかと思います。
後遺障害14級9号【むち打ち・主婦】で約330万円獲得(治療費除く)
事案の概要
事故状況は,被害車両が交差点の停止線の手前で停止していたところ、加害者が運転する大型トラックが後退してきて、被害車両の前部に衝突したというものです(逆突事故)。
当事務所の活動
被害者は、事故により首・腰の痛みのほか、耳鳴り、手先のしびれ等を訴え、仕事や家事に支障が出ていました。また、約9カ月の治療を経ても首の痛みなどがなくならなかったため(腰痛は完治)、後遺障害の申請を行いました
その結果、首の痛みなどについて、後遺障害14級9号が認定されることになりました。
この認定結果を踏まえて、相手の保険会社との交渉を行ったところ、治療費を除き、約330万円を受け取ることができました(後遺障害の自賠責保険金75万円を含む)。
ポイント
後遺障害認定
本件は、前方からぶつけられるという、いわゆる逆突事故にあたり、後遺障害の認定は難しいかもしれないと思ったのですが、加害車両がトラックであり、被害車両の損傷を見ると内部骨格部分の変形も確認できたため、車両写真を添付して後遺障害の申請を行い、それが効果的だったのかは分かりませんが、認定を受けることができました。
示談交渉
示談金額については、通院を9か月と若干長めに認定されており、その分慰謝料の額も相場よりも多少高く認定されることになりました。また、逸失利益も請求額を満額認められています。
主婦の休業損害部分は判断が分かれるところだと思いますが、仕事の休みはなかった中で50万円弱が認定されましたので、全体で見ると良い示談ができたのではないかと思います。
本件は、主婦の被害者がむち打ち症で後遺障害14級9号が認定された場合の典型的なケースの1つです。
後遺障害14級9号【むち打ち・主婦】で約350万円獲得(治療費除く)
事案の概要
事故状況は,被害車両が交差点を直進しようとしたところ、対向右折車が衝突してきたというものです。
当事務所の活動
被害者は、事故により首・腰の痛みのほか、手のしびれ等を訴え、家事にも支障が出ていました。また、約9カ月の治療を経ても痛みなどがなくならなかったため、後遺障害の申請を行いました。
その結果、首の痛みなどについて、後遺障害14級9号が認定されることになりました。腰痛については、別件事故で既に後遺障害14級9号が認定されており、加重障害には該当しなかったため、今回の事故での認定はありませんでした。
この認定結果を踏まえて、相手の保険会社との交渉を行ったところ、治療費を除き、約350万円を受け取ることができました(後遺障害の自賠責保険金75万円を含む)。
なお、後遺障害の慰謝料と逸失利益については、当方の請求の満額が支払われました。
ポイント
本件は、保険会社の対応が悪くなく、通院9か月、後遺障害部分の賠償も満額、主婦の休業損害部分も50万円超という結果でした。
主婦の休業損害部分は、裁判をしてもかなり幅が出るところですので、トータルで見るといい示談ができたと思います。
腰の既存障害の部分ですが、骨折等はなかったため、仮に後遺障害等級が認定されたとしても14級9号ですので、併せて併合14級になるのみで、結論に影響はなかったと考えられます。
また、首と腰は別部位ですので、既存障害を特に考慮することなく、通常どおり請求をすべきところです(厳密に言うと、主婦の休業損害ですので、既存障害を考慮する余地がないわけではないのですが、前回事故から10年近く経過していたため、いずれにせよ本件の場合は考慮すべきではないでしょう)。
この点について、弁護士によっては違った見解を持つこともあるようですので、比較していただく場合に参考にしていただければ幸いです。
後遺障害14級9号【頚椎・腰椎捻挫後の疼痛】で約120万円→340万円
事案の概要
事故状況は,被害者が自転車で横断歩道を走行中、自動車にひかれたというもので、被害者は、頚椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負いました。
依頼の経緯
本件は、ご相談前に既に事前認定により頚椎捻挫と腰椎捻挫にそれぞれ後遺障害14級9号(併合14級)が認定されており、それに基づいて、保険会社から、最終の支払額を約120万円とする示談金の提示がされていました。
この示談金額が妥当かどうかということでご相談に来られました。
当事務所の活動
弁護士が保険会社の提示額をチェックしたところ、入通院に関する慰謝料の額が低いことに加え、後遺症部分の賠償が75万円となっており、相場からすると著しく低くなっていました。
この後遺症部分の75万円というのは、自賠責保険の14級の定額部分と同じ金額であり、上乗せ保険である任意保険としての支払は0円であることを意味しています。
本件の特徴として、今回の事故の何年か前に、別の事故で怪我をして、その部分で後遺障害等級の認定を受けていたということがありました(怪我の場所は今回とは別)。
しかし、伺った事情からすると、十分に増額が見込まれたため、見込み額をご案内した上で、示談金の増額交渉を行うことになりました。
その結果、当初の約120万円から最終支払額340万円となって示談することができました。
ポイント
上記のとおり、本件は事故の前に後遺障害等級の認定を受けていたというところに特徴がありました。
この点に関連して当事務所の来られる前に別の交通事故に強いことをうたう事務所に相談したところ、そのような場合は後遺障害逸失利益が認められない可能性があるとの回答をされたそうです。
しかし、後遺障害の逸失利益は、事故前年の年収をベースに計算することになるのですが、この事故前年の年収は、前回の事故の後遺症があることを前提に稼いだお金です。
言い換えると、事故前年の年収について、前回の事故での後遺症がなければ、より大きな収入が得られていたかもしれないのです。
したがって、それ以上に前回事故の後遺症を理由に減額すべきではありません。
また、同一部位を怪我した場合、そもそも加重障害といって、前回後遺障害等級の認定を受けたときよりも上位の等級に該当しなければ、自賠責保険の後遺障害等級に認定されないことになりますが、それとも異なります。
この点については、厳密に考えると、後遺障害等級や労働能力喪失率は、健常な人を基準に定められたものなので、後遺症を元々持っていた人にそのまま当てはめることはできないのではないかという議論も一応あります。
しかし、既に述べたように、後遺症があることを前提としても実際に稼ぐ力があって、その年収をベースに逸失利益を計算しているのですから、それ以上に減額をする必要はないでしょう。
実務上も、保険会社はそのような減額までは考えていません。
前述のような別の弁護士によるアドバイスは、このような議論を知らないで行ったのか、敢えて見込みを消極的に答えたのかは分かりませんが、実務の相場とは異なるものと言えるでしょう。
たしかに、この点は若干マイナーな問題で、交通事故を専門的に扱っていないと判断に迷う部分であるとは思います(同一部位の場合は、自賠責保険の認定段階で問題なるので、比較的よく知られていると思います)。
当事務所では、セカンドオピニオンも承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
後遺障害14級9号【異議申立】で約340万円(治療費除く)獲得
事案の概要
事故状況は,丁字路交差点の優先道路を被害車両が直進中、左側の道路から交差点に進入してきた加害車両が衝突したというもので、被害者は、頚椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負いました。
治療中の経過
頚椎捻挫・腰椎捻挫は、交通事故で最も多い傷病名ですが、本件の場合、症状が比較的強く出ており、トリガーポイント注射を打つなどして症状の緩和に努めていました。しかし、約11か月の通院にもかかわらず、症状は完全に消失することなく、首・腰痛などが残存することとなりました。
被害者請求(1回目)
上記のとおり、後遺症が残ることとなったため、まずは後遺障害について被害者請求を行うことにしました。
しかし、1回目の申請では、自賠責保険の後遺障害には該当しないという結果となってしまいました。
事故自体は、軽いとまでは言えないものの、車のフレームまで損傷していたわけではなく、怪我の内容からしても、後遺症が残るほどのものではないと判断された可能性がありました。
異議申立て
本件には特殊性があり、依頼を受けた事故の2か月ほど前に別の事故により同一部位を損傷して治療中だったところに、新たに事故が起きたというものでした。
こういった事故のことを、保険の用語では「異時共同不法行為」と呼んでいます。
法律の用語でも共同不法行為というものがありますが、内容は別のものです。
「異時共同不法行為」の場合、保険会社の考え方では、2事故目が発生した段階で1事故目の加害者は対応を終え、以後は2事故目の保険会社が治療終了まで対応することになります。
本件も、1事故目については別の弁護士が示談をしていました(このような示談は、法律的な観点からはリスクがあるのですが、ここでは割愛します)。
そのため、弊所でも基本的には2事故目に着目して対応をしていたのですが、後遺症が残ったことについて1事故目の影響があったことも否定できませんでした。
また、MRIの画像上、はっきりとヘルニアが確認できるというのも特徴的でした。
そこで、改めて、1事故目の資料を一式取り付けて異議申立てを行うとともに、1事故目についても同時に被害者請求を行い、弁護士の意見書も添付することにしました。
その結果、後遺障害として認められ、後遺症部分について賠償を受けることができました。
また、本件は休業損害の額が比較的大きかったのですが、後遺障害の認定が受けられたことで、比較的高額の賠償を受けることができました。
ポイント
異議申立ては、一般的には成功の可能性が低いものです。
なぜなら、初回の請求時に診断書・診療報酬明細書、画像資料といった、認定のために必要な資料を一式提出しているからです。
また、後遺障害14級9号は、被害者が訴えている症状が、「医学的に説明のつくもの」であることが必要です。言い換えると、1回目の申請では症状が残っていることが医学的に説明がつかないと判断されたことになります。
そうすると、異議申立てでは、通常の資料だけでは「医学的に説明がつかない」とされた後遺症について、「医学的に説明がつく」ということを訴えていかなければなりません。
通常の資料では足りないわけですので、その事案に特徴的な、後遺症が残ってもおかしくないことを示す資料を探す必要があります。
そうすると、事故が2回重なることで、通常なら治ったはずの怪我が治りにくくなるということは十分あり得ますし、1事故目の方が衝撃が強かったなどの事情があれば、そのことを積極的にアピールしていく必要があるでしょう(今回のケースでは、そこまでの事情は確認できませんでした)。
保険会社の考え方にしたがって1事故目で示談をしている場合、2事故目の後遺障害の申請でも1事故目のことは特に気にしないかもしれません。
しかし、1事故目も含めてトータルで考えることで初めて後遺症が「医学的に説明がつく」といえるケースもあり得ますので、改めて1事故目の影響がどうだったのか検討してみる必要があります。
異議申立で後遺障害【非該当→14級】となり約410万円の賠償
事案の概要
事故状況は,住宅街の中の交差点を左折しようとしていたところ、後方から追突されたというものです。
被害者は,外傷性頚部症候群・腰部挫傷の傷害を負って通院加療を行うこととなりました。
本件は、ご紹介の案件で、事故直後から対応を開始したものですが、特徴は、被害者の訴える症状の重さと仕事への影響が大きいということにありました。
治療中の経過
事故から間もない時期は、急性期といって症状が強く出るので、仕事を休むことになりました。そして、事故発生から一月弱の時点で、一旦復帰することになりました。
ところが、被害者の従事していた仕事が首にかかる負担が大きいものであったため、仕事を続けることができず、再び休業状態となってしまいました。
その後、配置転換による就労の継続を模索したものの、結局完全に復帰することができずに、職場を退職せざるを得なくなりました。
そして、事故から約9か月が経過したところで、「症状固定」となりましたが、その時点でも復職はできていませんでした。
当事務所の活動
①休業損害の交渉
本件の問題点の一つ目は、休業損害が通常と比較して大きかったという点です。
事故による賠償は、「事故がなければなかった損害」の全てが対象となるわけではありません。
法律上は、事故と損害の間に「相当因果関係」がなければならないとされています。
「相当因果関係」とは、事故があれば、通常生じるような損害のことをいいます。
今回の場合、骨折等を伴わない打撲・捻挫に属するものでしたが、打撲・捻挫で9か月間休業するということは、通常では起こりません。
したがって、休業損害全てについて相当因果関係があるというのは困難でした。
打撲・捻挫であれば、保険会社によっては、1か月でも長過ぎるというところがあると思います。
本件の場合、依頼者の仕事の内容に加え、医師も安静を求める診断書を書いてくれていたこと、弁護士が交渉を行ったこともあって、結果的に3か月分の休業損害が認められました。
②後遺障害の異議申立
本件の問題点の二つ目は、自賠責保険の後遺障害の認定が出なかったことです。
打撲・捻挫の場合に後遺障害の認定を受ける場合、後遺障害14級9号という等級に当てはまるかどうかという点が問題となります。
14級9号が認定されるには、「症状が医学的に説明がつくもの」である必要がありますが、認定上は、症状の一貫性、画像所見、事故態様といった要素が重視されているとされています。
本件の場合、症状は一貫して存在しており、MRI画像上も、神経根の圧迫のようなものが確認できましたので、これらの点は問題なかったと思います。
ただ、事故状況が、車の損傷写真を見ても、それほど強度の後遺障害が残るようなものには見えませんでしたので、この点が問題となったのではないかと思いません。
異議申立では、事故状況について後から変更することはできませんでしたので、事故後の実際に生じている支障の内容や、退職した事実、症状固定後も通院を続けていること等を資料を示しながら説明しました。
その結果、後遺障害14級9号の認定を受けることができました。
③示談交渉
その後、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の交渉を行い、早期解決のため、多少の譲歩はありましたが、ほぼ裁判基準での示談(治療費を除いて約410万円)に至ることができました。
ポイント
休業の長期化
怪我の内容から比較して休業が長過ぎると評価されるような事例がまれに存在します。
むち打ち症自体、医学的に全てが解明されたわけでないため、現在の医学では説明できないような事態が生じている可能性がありますし、精神的なことが症状の大きさに影響を与えるとも言われていますので、そうしたことが関係しているのかもしれません。
いずれにせよ、通常の相場を大きく超えて休業が続くような場合、加害者側に賠償の責任を負わせるのは困難です。
可能な限り賠償を受けようとする場合でも、職場復帰に向けて努力をしたり、主治医の協力を得たりする必要があります。
休業損害についてアドバイスするとすれば、「復帰に向けて努力するのが第一、どうしても復帰できない場合は、そのことを証明するために必要なことをする」ということです。漫然と休業を続けていた場合、弁護士が交渉をしたとしても、賠償を受けるのは困難です。
本件では、職場復帰に向けて真摯に努力していたことがうかがわれ、医師もそのことを理解してくれていたため、一定の賠償を受けることができたものです。
異議申立て
後遺障害認定の異議申立ては、一般的には成功の可能性が低いものです。
なぜなら、初回の請求時に診断書・診療報酬明細書、画像資料といった、認定のために必要な資料を一式提出しているからです。認定されてしかるべきケースであれば、これだけ提出すれば認定されます。
したがって、異議申立てでは、これらの必須資料の他に、決め手となるような資料を提出する必要があります。
本件の場合、症状固定後も痛みのために通院を継続せざるを得なかったという事情に加え、仕事も辞めることになったという特徴的な事情がありました。
本件の異議申立てでは、こうした事情が考慮されたものと考えられます。
後遺障害14級9号【頚椎捻挫後の疼痛】で0円→130万円
事案の概要
事故状況は,コンビニエンスストアの駐車場内の事故で,駐車スペースに駐車していた車両同士が,同じタイミングで駐車スペースから出ようとしたところ,衝突してしまったというものです。
被害者は,頚椎捻挫・腰部挫傷の傷害を負って通院加療を続けていましたが,頚部痛・腰部痛が後遺症として残ることとなりました。
当事務所の活動
依頼前の状況
本件は,どちらも駐車スペースから出ようとしていた車両で,特に優先関係は見られず,過失については5分5分とするのが妥当なケースでした。
そのため,人身損害については,加害者に対して過失割合に応じて支払いを求めることはせず,被害者が加入していた人身傷害保険を利用して治療を受けていました。
また,人身傷害保険によって,頚部痛について後遺障害等級14級9号が認定されたため,これに応じて人身傷害保険金が支払われました。
本件は被害者の過失が大きいため,人身傷害保険金の支払いを受けた場合,通常であれば,加害者から追加の支払を受けることは困難です。
したがって,加害者側の保険会社との間で交渉を行う余地はほとんどなく,特に動きはありませんでした。
依頼後の対応
本件は,人身傷害保険から先行して支払いが出ているケースであったため,加害者側から支払いを受ける賠償金額の計算にあたって,人身傷害保険会社に請求権が移った分を差し引くという処理をする必要があります。
例えば,裁判基準で損害合計額が400万円,過失割合50:50の場合で,人身傷害保険金として300万円を受け取っていたような場合,加害者側への請求額は200万円(400万円の50%)ですが,300万円の範囲で請求権が人身傷害保険会社に移りますので,加害者側としては,追加の支払に応じることはできないということになります。
ただし,人身傷害保険の約款により,加害者との間で「判決または裁判上の和解において人身傷害条項損害額基準に基づき算定された損害の額を超える損害の額が確定し,その基準が社会通念上妥当であると認められるとき」は,その金額を元に,被害者の過失分に人身傷害保険金を充てることとなっていますので,この仕組みを利用して,加害者に追加請求を行うことが考えられます。
※人身傷害保険の仕組みについて詳しくはこちら→「人身傷害保険で過失分をカバーする」
本件でも,交渉で追加の支払を受けるのは困難でしたので,特に事前交渉をすることなく,直接訴訟提起を行いました。
その結果,既に支払われていた人身傷害保険金の他に,交渉では支払いを受けることが困難であった130万円の支払いを加害者から追加で受けるという形で和解することができました。
ポイント
事故の発生について,被害者の過失も大きい場合,人身損害については自賠責保険を利用して補償を受けることが考えられます。
自賠責保険は,自分の過失が著しく大きくない限り,過失に関係なく保険金が支払われるという特徴があり,過失に応じて加害者から支払いを受けるよりも,補償が手厚くなることがあるのです(※ただし,保険金に上限があります。)。
また,自賠責保険の他に,自身が加入する人身傷害保険を利用するという方法もあり,この方法を用いると,自賠責保険から保険金の支払いを受けるよりも手続きが簡単で,基本的に自賠責保険と同等以上の支払を受けられますので,人身傷害保険の加入がある場合,これを利用するとよいでしょう。
その場合,裁判を利用することで,人身傷害保険金の支払いを自身の過失部分の補填に充てることが可能となりますので,人身傷害保険が使えなかった場合と比較して,さらに大幅に補償額が増やすことも可能です。
ただし,この方法を使うには,裁判を起こすことで,人身傷害保険の保険会社の求償額を変更するという処理が必要となり,弁護士のサポートがほぼ必須となります。
後遺障害12級13号【左寛骨臼骨・左大腿骨頭骨折】で500万円→1000万円
事案の概要
事故は,道路上で交通整理を行っていた被害者が,前方不注視の加害車両にひかれたというもので,被害者は,骨盤や大腿骨を骨折して入院を要することとなり,リハビリのための通院を続けたものの,関節面の不整を原因とする関節痛等の後遺症が残存することとなりました。
事前認定により後遺障害等級12級13号が認定されたものの,保険会社から示された賠償金の額に疑問を持たれたため,依頼となりました。
当事務所の活動
依頼前の状況
本件では,依頼の前に,認定済みの後遺障害等級にしたがって保険会社から賠償金額が示されていましたので,その金額を増額することができるかどうかが問題となりました。
具体的には,入通院慰謝料が約120万円,後遺障害逸失利益が約250万円,後遺障害慰謝料100万円,その他調整金を合計して,500万円という金額が示されていました。
示談交渉の結果
まず,入通院慰謝料については,自賠責保険の基準よりは高額でしたが,入院が3カ月強と比較的長期間に及んでいたことに照らすと低額であったため,その点を考慮し,約220万円で請求しました。
後遺障害逸失利益は,労働能力喪失期間を10年とされていたため,これを,一般的な後遺障害に合わせて67歳となるまで(31年)として計算し,約500万円で請求しました。
最後に,後遺障害慰謝料は,12級が認定された場合の一般的な事例にならい,290万円で請求を行いました。
その結果,請求のほぼ満額に当たる1000万円で示談することができました。
ポイント
本件は,その他のケースと比較して,保険会社がこちらの請求に対して大きく譲歩してきた事案であったといえます。
一般的に,示談交渉の段階で保険会社がこちらの請求の満額を支払ってくることは決して多くありません。
弁護士が行う請求は,一般的な相場にしたがって行ってはいますが,個別の事情を見ると,必ずしも裁判所で認められるとは限らないものが含まれているためです。
本件の場合,特に逸失利益について,12級13号という神経症状に関する後遺障害であり,裁判実務上,労働能力喪失期間が限定される例も散見されるため,裁判をした場合には減額となる可能性もありました。
そのような中で,示談交渉の段階で請求した金額のほとんどが認められたため,被害者にとっていい解決となったのではないかと思います。
後遺障害14級9号【むち打ち】で裁判を行った事例
事案の概要
事故は信号待ちで停車中に,後方から追突されたというものです。
ケガの内容は,頚椎捻挫と腰椎捻挫,股関節捻挫で,職業は主婦です。
このケースでは,加害者本人が交通事故と被害者の受傷の因果関係を争っていたため,やむを得ず被害者側の人身傷害保険を利用して通院をしていたというところに特色があり,そのままでは慰謝料等について適正に支払われることは到底期待できず,人身傷害保険の治療費の支払いも停止する見込みとなったため,弁護士への依頼となりました。
当事務所の活動
治療の打ち切り
治療は人身傷害保険を利用して行っていましたが,人身傷害保険の場合も,加害者の対人賠償保険と同様にいつまでも支払いが出るわけではありません。
治療によって改善が見込まれなくなってくると,「症状固定」といって,それ以降は治療費の支払いはされず,後遺障害等級の認定を受けた後で,認定に応じた保険金の支払いを受けることになります。
そのため,保険会社が「症状固定」と判断すれば,治療費の支払いがストップすることになります。
このケースでも,治療途中で保険会社から治療費の支払い終了が告げられましたが,「症状固定」の判断をするには時期尚早で,医師は治療の終了に賛成していたわけではなかったため,この点の対応を検討することになりました。
通常であれば,医師の見解を書面に記してもらうなどして治療費の支払延長の交渉を試みるところです。
しかし,今回のように本来賠償をすべき加害者がいる中で,人身傷害保険を利用しているケースでは,敢えて人身傷害保険の保険会社を相手に交渉を行う必要はありません(いずれにせよ,加害者との間で争わなくてはならないため)。
そのため,とりあえず健康保険を使って自費で通院をした上で,いよいよ治療の効果が出なくなった段階で後遺症の申請を行うこととしました。
人身傷害保険金としては,治療費を除いて約54万円が支払われました。
後遺症の認定申請
事故から半年以上を経過しても症状がなくならなかったため,後遺症の申請(被害者請求)を行い,その結果,頚椎捻挫後の頚部痛について後遺障害等級14級9号が認定されることとなり,自賠責保険金として75万円が支払われました。
裁判
依頼に至るまでの経過に照らし,示談交渉の余地はほとんどなかったのですが,実際に交渉を試みても全く支払いに応じる様子がなかったため,裁判に踏み切ることにしました。
裁判では,後遺症の発生のほか腰椎捻挫・股関節捻挫と事故との因果関係まで争われることとなりましたが,弁護士が資料を精査し,損害の額に影響を与えないことなどを主張しました。
その結果,最終的に,人身傷害保険金(約54万円)と自賠責保険金(75万円)を除いて約200万円が支払われることを内容とする和解が成立しました。これらを合計すると約329万円なります(治療費を除く)。
ポイント
本件は,相手方の対応が悪く,かといって,人身傷害保険の対応も十分なものとは言えず,人身傷害保険の保険会社に言われるがまま,治療打ち切り後の対応を怠っていれば,後遺症の認定も受けられず,まともな賠償を受けられることができなかったのではないかと思います。
「症状固定」とはどういう意味を持つのか,「後遺障害」とはどのような場合に等級が認定されるのかといった基本的な考え方を理解しておく必要があったといえるでしょう。
また,今回のように加害者の態度が著しく悪い場合,過失割合等に争いがなくても,裁判をせざるを得ない場合があります。
裁判となると,通常の示談交渉では問題とならないような細かい因果関係まで争われることが多々あり,それが言いがかりのようなものであればそれほど気にする必要はありませんが,一応理由のあるものであれば,それに対する反論を適切に行わなければなりません。
このような対応は,専門家でなければ相当に難しいところですので,裁判を検討されているのであれば,弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。
実通院日数が少ない兼業主婦の事例
事案の概要
事故は高速道路で渋滞中に,後方から追突されたというものです。
治療自体はそれほど問題なく進みましたが,最終的に提示された示談金額が少額であったため,弁護士が介入することとなりました。
当事務所の活動
後遺症について
本件は,治療を約8か月受けたところで,相手方の保険会社から治療終了についてのアナウンスがなされたのですが,元々の症状がそれほど強くなく,治療期間も十分であったため,特に後遺症を残すことなく治療を終えていました。
示談交渉
後遺症が特に問題とはならなかったため,そのまま示談交渉を行うことになりました。
当初示されていた示談金額は約28万円で,自賠責基準での慰謝料に交通費が加算されたのみでした。
しかし,被害者は兼業主婦でしたので,自賠責基準であるとしても金額は低いと言わざるを得ず,慰謝料も,通院日数が少なかったため,裁判基準を大幅に下回るものとなっていました。
そこで,弁護士が,慰謝料を裁判基準により計算しなおし,休業損害についても新たに加算した上で賠償金の計算を行いました。
その後,示談交渉の結果,賠償金額が約110万円となり,当方の主張が概ね認められた形で示談をすることができました。
ポイント
本件は,後遺症がないケースで,保険会社の提示する金額が低くなる典型的なケースであるといえます。
ポイントは,①通院日数が少ないことと,②兼業主婦で,勤務先の仕事の休業は少ないことです。
実通院日数の少なさ
①の通院日数が少ないことは,保険会社との交渉の中ではマイナスに働く事情になります。
その理由は,自賠責保険の慰謝料の計算方法が,治療を開始してから終了するまでの期間の長さか,実際に通院した日数を2倍した数字のいずれか小さい方に4,200円(令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は4,300円)をかけることになっているためです。
この方法によると,たとえどれだけ症状が治るまでに時間がかかったとしても,通院の日数が少ないと慰謝料の金額も大きくならないことになります。
そして,相手方の任意保険会社は,自賠責保険の認定額を念頭に置いて支払額を決定しますので,自賠責基準の金額が低ければ,任意保険会社との交渉でも金額が低くなる傾向にあるのです。
さらに,弁護士が用いる「赤い本」の基準でも,実通院日数が少ない場合,通常であれば治療を終えるまでの期間の長さによって金額を定めるところが,実通院日数の3倍を目安とすることがあるとされています(むち打ちの場合)。
そのため,実通院日数が少ない場合に,通常の場合と同様の慰謝料を受け取るためには,相応の交渉が必要となるのです。
兼業主婦で仕事の休みはほとんどない
兼業主婦で勤務先の仕事の休みが少ない(又はない)場合,主婦の休業損害を請求できるのかは悩ましいところです。
なぜなら,勤務先の仕事に出ていたということは,家庭でも家事が出来たのではないかという疑問が生じるためです。
しかし,実際には,症状を抱えて通院をしつつ,仕事を休まなかったのであれば,その分のしわ寄せがあるはずであり,それが家事に影響するということはよくあります。
また,そうでなくとも,収入を得るために仕事には無理をして出ていても,家事については他の家族に頼るということもあります。
いずれにせよ,症状があって通院をしている以上,仕事を休まなかったからといって家事労働に支障が出なかったということには必ずしもなりません。
裁判でも,仕事を休まなかった主婦に休業損害を認めるものがあります。
そのため,この点についても,実際に家事に支障が出ていたのであればしっかりと主張をすべきですが,保険会社はこの点は容易には認めません。
まとめ
後遺症がなく,実際に通院の日数が少ない場合,保険会社から示される金額が小さく,弁護士に依頼するほどのことでもないと思われがちですが,本件のようなケースでは,金額大きく変わることも少なくありませんので,示談をする前に,一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
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