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10代の頚椎後遺障害・異議申立で【非該当→後遺障害14級】

2023-04-18

事案の概要

 事故状況は、被害者が自転車に乗って青信号で横断歩道を横断していたところ、信号無視の自動車にはねられたというものです。

 幸い、骨折はなかったのですが、被害者は腰部打撲、右膝関節打撲、外傷性頚部症候群の傷害を負うことになり、症状固定の段階でのご相談となりました。

当事務所の活動

傷害部分の解決

 本件は、症状固定の時期が近づいてきていましたので、まずは、後遺障害の申請を行うことにしました。

 しかし、残念ながら初回の請求では後遺障害非該当という結果になってしまいましたので、まずは後遺障害分を除いた形(傷害分といいます)で示談交渉を進めることにしました。

 その結果、まずは傷害分について95万円の支払いを受けることができました。

後遺障害の異議申立て

 その上で、被害者請求で後遺障害非該当という結果が届いたものの、異議申立てが可能か検討しました。

 本件は、よくある頚椎捻挫の事例とは異なる特徴がありました。それは、被害者が事故当時17歳と若かったにもかかわらず、頚椎椎間板ヘルニアの所見が得られていたことです。

 椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間のクッションの役割を果たしている椎間板が変性などにより飛び出してしまった状態をいいますが、加齢によって生じることが多く、交通事故の被害者でも、元々ヘルニアを持っているという人は多いです。

 しかし、今回の被害者のように、10代で頚椎のヘルニアが出ているということは多くなく、身体の回復も中高年と比較すると早いため、むち打ち症のような怪我で後遺障害が認定されるケースは多くありません。

 それにもかかわらず、本件ではヘルニアが確認されたため、主治医は、今回の事故による外傷性のものではないかという見解を示していました。

 そこで、弊所では、このヘルニアの存在に着目し、異議申立てを行うことにしました。

 その結果、当初の判断が覆り、後遺障害14級9号の認定を受けることができました(自賠責保険金75万円の獲得)。

 さらに、この認定を受けて、加害者側と追加の交渉を行い、自賠責保険金と合算して、約130万円を追加で取得することができました。

 なお、後遺傷害部分の賠償金が通常と比べて低くなっているのは、被害者が裁判までは望まなかったことと、被害者の年齢が若く、短期間の労働能力喪失期間(頚椎捻挫の場合、5年程度が一般的)では、逸失利益の額が大きくならないことによります。

※器質的変性を前提とする後遺障害の場合、労働能力喪失期間は原則67歳までとなり、その場合、若年者の場合は一般的な労働者の平均賃金を使って計算するので、金額が小さくなるということはありません。

ポイント

 本件は、異議申立てが成功した事例ですが、ポイントは2つあります。

 1つは、事故自体が自転車で車にはねれられたというもので、危険かつ身体への衝撃も大きいと言えること、2つ目は、若い被害者であったにもかかわらず、ヘルニアの所見が出ていたことです。

 これらは、一般的なむち打ち症の事案とは異なる特徴で、異議申立てによる後遺障害等級の変更が見込めると判断しました。

 異議申立ての方針としては、本件は主治医が協力的で、頚椎椎間板ヘルニアが事故によって生じたのではないかとの見解を示してくれていましたので、主治医に追加で意見書を作成してもらい、これを異議申立書に添付することとしました。

(なお、外傷性のヘルニアであるということまで証明できれば、後遺障害12級13号という可能性もあったのですが、初回のMRIを撮影したのが事故から3か月経過後だったので、そこまでの立証には至りませんでした。事故から間が空いてしまうと、たとえ外傷性のヘルニアだということがいえたとしても、他の例えばスポーツなどで生じたものと区別が難しくなってしまいます。)

 本件は後遺障害認定の異議申立てが成功したのですが、異議申立てが成功するかどうかの見通しは、多くの認定・非該当の事例に接していなければ分からないものです。「納得できないから異議申し立てをする」というだけでは、異議申立て自体は、成功しない確率の方が高いので、失敗に終わる可能性が高く、時間と労力を無駄にしてしまいます。

 また、他の非該当となる事案との違いを見極め、それに応じて用意すべき資料も変わってきます。

 このように、後遺障害認定の異議申立ては経験が重要となりますので、弁護士によって結果に違いが出る部分だと思います。

・関連事項

後遺障害認定の異議申立て

むち打ち症の後遺障害

後遺障害14級9号【頚部痛、腰痛、左母指痛・自営業】102万円→176万円

2023-02-10

事案の概要

 事故状況は、十字路交差点をバイクで直進中、対向の自動車が右折で衝突してきたというものです。

この事故で、被害者は頚部挫傷、腰部挫傷、右膝関節挫傷、右肘関節挫傷、左母指挫傷の傷害を負い、約半年間通院を続けましたが、頚部痛・腰痛・左母指痛の後遺症が残ることとなりあました。

当事務所の活動

 本件は、ご依頼前に保険会社の事前認定によって後遺障害併合14級の認定を受けていた事案でしたが、相手の保険会社の示してきた賠償金額が小さかったため、ご相談となりました。

 保険会社の主張する金額を弁護士がチェックしたところ、自賠責保険の額しか補償されていないことが判明しましたので、裁判基準(弁護士基準)との差額を上乗せするように交渉を行うこととなりました。

 その結果、当初の金額から70万円超増額した額で示談することとなりました。

ポイント

 本件は、被害者側にも若干の過失がある事案だったこともあり、保険会社の提示が自賠責保険の基準そのままという事案でした。

 自賠責保険の上限額は、治療中の部分(傷害部分といいます)が120万円、後遺障害14級部分が75万円ですので、今回は合計195万円(治療費含む)ということになります。

 しかし、任意保険は自賠責保険の上乗せ保険であり、これでは任意保険からの支払いは実質的にはないのと同じです。

 特に、本件では、後遺障害逸失利益については最初から検討された形跡もない杜撰なものでした。

 そこで、確定申告書の控え等を提出して交渉することで、上記の内容で示談をすることができました。

 本件のように、特に後遺傷害部分については、保険会社が自賠責基準の額をそのまま出してくることが少なくありません(14級だと75万円)。

 後遺障害が認定されたような事案では、示談前に弁護士にご相談されることを強くおすすめします。

後遺症が原因で退職の被害者・異議申立で【非該当→後遺障害14級】

2023-01-27

事案の概要

 事故状況は、高速道路上で、後方から無理に車線変更をしようとした車に衝突されたというものです。

 被害者は、頚椎捻挫・腰部挫傷、右肩挫傷の傷害を負いました。

当事務所の活動

過失割合の交渉 

 本件は、後方から衝突されていたもので、被害者が避けようもなく過失相殺されるのは酷な事案でした。

 しかし、高速道路上の車線変更の事案では通常過失割合は20:80とされています。

 また、ドライブレコーダーの搭載もなかったため、詳細な事故状況を証明することは難しい事案でした。

 そのため、相手の保険会社は、当初過失相殺を主張してきました。

 そこで、この過失割合の部分から交渉を開始することになりました。

 ドライブレコーダーの映像や目撃証言等がない場合、事故状況を証明するための一番初めに検討すべき証拠は破損した車両の状態です。

 本件でも、車の破損した位置や傷の付き方を元に、後方から衝突されたこと主張し、無事に0:100で解決することができました。

後遺障害の異議申立

 次に、本件では被害者は長期間の療養にもかかわらず後遺症が残存しましたが、初回の後遺障害申請の結果は、後遺障害非該当という結果でした。

 しかし、被害者は、保険会社からの治療費支払の打ち切り後も長期間に渡って自費で通院を続けており、事故後、症状の負傷箇所の痛みにより仕事を退職していたという特色がありました。

 そこで、これらの点について根拠を示しつつ説明を行うことで異議申立てを行うことにしました。

 その結果、腰痛について後遺障害14級9号が認定されました(頚部痛については別件事故で認定済み)。

示談交渉

 その後、示談交渉では、頚部痛について別件事故で後遺障害14級9号が認定されていたため、逸失利益をその分減額すべきではないかと保険会社から主張されました。

 最終的に、後遺障害については裁判基準の満額で、休業損害は期間が長かったため満額とはいきませんでしたが一般的な相場に照らせば十分な支払いを得ることができました。

 最終的な示談金額は、物損や治療費を除いて約320万円(自賠責保険金含む)となりました。

ポイント

過失割合 

 過失割合の交渉ですが、今回は上手くいきましたが、ドライブレコーダーの映像がない場合で、事故状況に争いがある場合、こちらの言い分を証明することは非常に難しいです。

 前提として、相手の保険会社は、契約者である加害者の意向に反する示談をすることはできません。

 そのため、保険会社は、加害者が虚偽の主張をしている場合、それと異なる事実を前提に示談することは相当にハードルが高くなります。

 この点も、ドライブレコーダーの映像のような有無を言わさないような証拠があれば問題がないのですが、それ以外の、「車両の傷の付き方」といった証拠では、やはり少し弱い部分があることは否定できません。そういった証拠で勝負しようとする場合、説明の工夫が必要になります。

異議申立

 後遺障害等級の異議申立てについては、決まったやり方があるわけではありませんが、同種の事案と比較して際立っている点があれば、それを強調していくのがセオリーだと思います。

示談交渉

 交渉に関しては、別件で頚部痛について後遺障害14級が出ていたことをどう考慮すべきかが問題となりますが、この点は、負傷した部位が違うので、腰の後遺障害に関する補償に関して、頚の後遺障害のことを考慮すべきではありません。

 この点は、弁護士でも誤解している者がいるようですが、例えば、事故の影響で片腕が使えなくなった人が、何とか頑張って500万円の年収を得ていたとします。そうした中で、足を骨折して足が不自由になったという場合に、さらに仕事へマイナスの影響が出ることは明らかで、後発事故前の年収500万円は、腕の後遺症を前提に稼いでいた金額ですので、これをベースに足の逸失利益を計算することに何ら問題ありません。

 後遺障害の逸失利益で既存障害が問題となるのは、あくまでも同一部位を重ねて負傷した場合です。

後遺障害併合10級【脊柱変形・股関節機能障害・会社員】で2500万円を獲得

2022-12-27

事案の概要

 事故状況は、夜間に会社からの帰宅中、横断歩道のない幹線道路を横断しようとした被害者が、車にはねられたというものです。

 被害者は、骨盤骨折、右寛骨臼骨折、頚椎横突起骨折、軸椎椎体骨折、外傷性くも膜下出血等の傷害を負いました。

当事務所の活動

 本件は、通勤災害という労災が使用できるケースでしたので、治療は労災保険を使って専念していただき、治療終了後の慰謝料や後遺障害に関する賠償について弁護士が相手方と交渉を行うこととなりました。

方針のポイント

 まず、本件は、夜間の幹線道路の横断歩道がない場所を横断したというものでしたので、歩行者といえでも相応の過失が認められてしまうような事案でした。

 このような場合、治療費も含めて、過失分については加害者に対して賠償の請求をすることはできませんので、治療費としての支出をいかに抑えるかが重要なポイントになります。

 本件は、労災保険が使えるケースだったのですが、この場合、労災をしようすることをおすすめします。

 労災保険を使用して治療費に対して療養給付が支払われる場合、被害者は、治療費の自身の過失分について負担しなくても良くなります。

 入院・手術を伴うようなケースでは、治療費が数百万円にのぼることも珍しくありません。

 そのような高額な治療費について過失が1割でもある場合、被害者の負担は大きなものとなりますので、労災を使用して安心して治療を受けることをおすすめします。

 この他に、自身の自動車保険の人身傷害保険に加入がある場合、これを利用して過失分の補てんを受けることも可能ですが、本件のように歩行中の事故の場合、使用できないこともありますので、労災が使えたのは補償にとって有利な点でした。

示談交渉のポイント

 本件の示談交渉時のポイントは、脊柱変形の後遺障害を含んでいたことにありました。

 脊柱変形は、他の後遺障害とは異なり、逸失利益が生じるのか、生じたとして、労働能力喪失率表どおりに考えてよいのかという点に議論があり、裁判上も、やや厳しい判断となることが少なくありません。

 実際に、このケースでも被害者に脊柱変形そのものによる目立った仕事への支障は見受けられないという事情がありました(収入の減少もない)。

 そこで、相手の保険会社は、顧問医の意見も踏まえて、「脊柱変形による逸失利益はない」と主張してきました。

 しかし、この点については、たしかに労働能力喪失率を控え目に認定されるケースは少なくないものの、これを完全に否定する事例も少ないというデータがあります。

 そこで、この点を資料を示しながら粘り強く交渉し、最終的には自賠責保険金461万円のほかに、2000万円超の損害が認められることになりました。

 また、過失についても、保険会社からはかなり厳しめの提案がきていましたが、交渉により、保険会社提案の割合から10%修正させることができました。

 

関連事項

圧迫骨折と11級7号の認定・示談のポイント

後遺障害併合9級【肩関節機能障害等・会社員】治療費以外に4000万円が認容

2022-12-27

事案の概要

 事故は、被害者がバイクで走行中、左車線の車が急に方向転換をしてきたため、避けられずに衝突したというものです。

この事故で、被害者は、脾臓損傷、肩甲骨骨折、肋骨骨折、腰椎横突起骨折等の傷害を負いました。

当事務所の活動

 被害者は、脾臓は摘出となり、肩甲骨等については保存療法で通院・リハビリを続けました。

 また、本件は、相手が任意保険の加入がなかったため、治療費の自賠責保険金の回収等も行いつつ、治療のフォローを行いました。

 治療による症状固定後、肩関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されることとなり、後遺障害等級第10級10号に認定されることとなりました。

 また、本件では、被害者の精神的なダメージが大きく、非器質性精神障害として後遺障害等級12級13号が認定されました。

 その結果、最終的な認定としては併合9級ということになりました。

 後遺障害等級の認定により、自賠責保険金が支払われましたが、実際に生じた損害を賄うには到底足りませんので、この分については、被害者が加入していた保険の無保険車傷害保険を使用することにしました。

 無保険車傷害保険金の額については、弁護士が保険会社と交渉し、治療費以外で4000万円を超える認定を得ることができました(この内、約650万円は社会保険によって補填されていました)。

ポイント

 この事案では、相手が無保険であるということが非常に重要な問題となっていました。自動車を運転する者であれば、任意保険に加入するのが通常ですので、無保険で自動車を運転している時点で、賠償金を支払うだけの経済的な余裕がないことが予想されます。

 特に、今回のような高額な賠償が生じるようなケースでは、全額回収することは絶望的といってよいでしょう。破産して支払いを免れるということも十分予想されます。

 このような場合、無保険車傷害保険を使用することが考えられます。

 この保険は、通常、自動車保険に自動で付帯しているもので、人身損害で後遺障害事案又は死亡事案という条件がありますが、相手が無保険の場合に備えて、自分の加入している保険で治療費や慰謝料等を支払ってもらうというものです。

 補償内容は保険会社によって異なりますが、今回の事例では、裁判所の基準にしたがって支払がされるという内容になっていました。

 そのため、事実上、相手方に保険が付いているのと同様の状態となりますので、弁護士が交渉することにより、しっかりと裁判基準で賠償を受けることができました。

 交渉では、後遺障害の中に非器質性精神障害を含んでおり、労働能力喪失期間の認定が問題となり得るところでしたが、逸失利益は請求額が満額認められることとなりました。

 その他、過失割合も、基本過失割合では、こちらに過失が生じるところでしたが、刑事記録を取り寄せ、相手の無謀運転を証明することができましたので、0:100で支払いを受けることができました。

コメント

 法律事務所によっては、相手が無保険と聞くと、その時点で依頼をお断りするところもあるようです。しかし、上記のように、相手が無保険の場合でも、無保険車傷害保険を使用することで、十分な補償を受けられることがありますし、人身傷害保険を利用する場合でも、逸失利益の計算で交渉が必要となるケースが多くあります。

 重症のケースでは、十分な保険金の支払いを受けるための交渉は必要ですので、相手が無保険でも、弁護士に一度ご相談いただくことをおすすめします。

後遺障害10級11号【左足関節機能障害・会社員】交渉で900万円→2400万円

2022-12-02

事案の概要

 事故状況は、港湾施設内で被害者がフォークリフトの荷物に足を挟まれたというもので、左足関節の骨折を負ったというものです。

 足関節骨折後に関節拘縮が見られ、可動域制限を残したため、相手方保険会社による事前認定が行われ、後遺障害等級10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」が認定されました。

 損害保険料率算出機構によって認定された上記の後遺障害等級10級11号を前提に、相手の保険会社から賠償金900万円の提示があったのですが、金額に疑問を持たれて、ご依頼となりました。

当事務所の活動

 相手方保険会社から示された金額を見ると、通院慰謝料が著しく低く(約45万円)、後遺障害部分の賠償についても、慰謝料が同様に著しく低かったほか、逸失利益の基礎収入、労働能力喪失期間の認定に問題があり、大幅な増額の可能性がありました。

 そこで、弊所にて交渉を行ったところ、請求額の満額に近い金額(96%程度)の約2400万円で示談することができました。

ポイント

 今回の交渉自体は1か月程度と比較的短期間で終了したのですが、交渉の際に少し気になったのは、逸失利益の基礎収入の部分でした。

 本件の被害者の方は、給与所得者ではあるのですが、就業先が短期間で変わることにより、収入の変動が大きいという特徴がありました。

 そのため、事故前の収入よりも事故後の収入の方が多くなっているところがあり、後遺症による減収部分の認定が厳密には難しいという問題がありました。

 後遺障害逸失利益は、後遺症によって仕事に支障が生じる結果、収入が下がってしまうことに対して、この将来の収入の低下分を請求するものです。

 したがって、後遺症があっても収入が下がっていなければ、逸失利益は存在しないのではないかという考えが出てきます。

 実際の実務では、仮に減収が生じていなくても、それは本人の努力や職場の配慮などによるもので、将来的な問題の発生は否定できないということで、逸失利益が全く存在しないとされることは少ないです。

 しかし、例えば労働能力喪失率が79%(5級)などとされているのに、全く収入が下がっていないとすれば、この割合が実態と合っていないという判断はあり得ます。

 その結果、労働能力喪失率が通常よりも低く認定されてしまうということは、実務では珍しくありません。

 そこで、今回もこの点が若干気になったのですが、裁判外での交渉であったこともあり、このことが正面から争われることなく、示談することができました(裁判になれば、相手の弁護士が強く主張してくることが予想される部分です)。

 他にも、保険会社から出される典型的な主張として、労働能力喪失期間(後遺症による減収が予想される期間)の制限の問題がありましたが、骨癒合の不全や関節拘縮を原因とした関節可動域障害であれば、時間の経過によって改善することは見込めませんので、この点で譲歩するべきではありません。

 今回の交渉でも、弁護士介入後はこの点で争ってくることはありませんでした。

異議申立で【非該当→後遺障害14級】(膝蓋骨骨折)となり約380万円の賠償

2022-10-14

事案の概要

 事故状況は、被害者が横断歩道近くを横断中、左折してきた車にはねられたというもので、被害者は、右膝蓋骨開放骨折等の傷害を負いました。事故後、相手方保険会社の対応に疑問を持たれたため、ご依頼となりました。

当事務所の活動

 本件で争いとなった事項は多岐にわたるのですが、まず、事故状況に関して双方の言い分が異なっていましたので、この点から整理する必要がありました。

 具体的には、衝突地点が横断歩道の直近かもっと離れた場所かで争いがあったのですが、事故状況を記録したドライブレコーダー等はなかったため、膠着状態となりました。

 そこで、刑事記録を取り付けてみたところ、本件は加害者が略式起訴されていたため、詳細な資料を見ることができ、結果として、被害者側の言い分が通ることとなりました。

 その後、通院を継続したものの、骨折部位の痛みが残ることとなったため、後遺障害認定の申請を行いましたが、後遺障害非該当という結果となりました。

 しかし、受傷内容や、被害者の訴えている症状からすると、後遺障害認定が妥当な事案だと判断しましたので、異議申立てを行い、結果として後遺障害14級9号が認定されました。

 示談交渉では、逸失利益の計算にあたって、開業間もない会社の代表者であったため、通常どおり事故前年の年収を用いて計算すると金額が低くなってしまうという問題ありましたが、追加資料を提出し、事故後の増収の状況を踏まえた金額で示談することができました。

ポイント

 本件は、異議申立て事案ですので、一度認められなかった後遺障害の認定をどうやったら認められるのかを検討することがポイントとなります。

 このアプローチの仕方は事案によって異なるのですが、まず前提として、必要書類を一式提出しても後遺障害等級が認められなかったということを認識しなければなりません。

 「認められて当然」というようなケースであれば、1度目の申請で後遺障害等級が認定されたはずです。

 つまり、この時点で、認定できるかどうか微妙な部分があるということになります。

 異議申立てでは、この部分を補う方法は何かを考えることになります。

 この事案では、開放骨折後の骨折箇所の痛みというものでしたので、認定機関は、「この程度では痛みは残らないだろう」と考えたと推測することができます。

 ということは、こちらからは、「この状態からは痛みが生じてしかるべき」ということを示していく必要があります。

 痛みの原因を画像で証明できれば12級13号が認定されますし、証明できたとまでは言えなくても、医学的な説明が可能というレベルまで認められれば14級9号が認定されることになります。

 いずれにしても、骨折後の骨癒合の状態が決め手になりますので、ここを明らかにすることにしました。

 レントゲン・CT画像を正確に見るには、専門家の知識が必要となりますので(素人目で分かるようなものであれば、1度目の申請で認められている)、今回は外部の医師に協力を仰ぎ、意見書を作成してもらうことにしました。

 その結果、後遺障害等級14級9号が認定されました。

 逸失利益の計算も、杓子定規に計算すると金額が低くなるところでしたが、実態に合わせて計算方法を見直したことがポイントとなりました。

・関連記事

「後遺障害認定の異議申立て」

後遺障害14級9号【右肩関節痛・代表役員】裁判で約110万円→約550万円

2022-09-22

事案の概要

 事故状況は、被害者が自動車を運転して優先道路の交差点を直進していたところ、右方から交差点に進入した車が衝突してきたというものです。

 被害者は、右肩腱板損傷や頚部挫傷といった診断名で約1年間通院をしたものの、右肩関節痛の症状が残存し、後遺障害の事前認定を受けた結果14級が認定されたものの、保険会社の示談金の提示額が低かったためご相談となりました。

当事務所の活動

 既に後遺障害認定済みの事案で、特に異議申立てのご希望もなかったため、すぐに示談交渉を開始しました。

 元々保険会社(正確には共済)が示していた金額は、他の事案と比較しても著しく低く、後遺障害部分については自賠責保険の定額分のみというものでした。

 当事務所で示談交渉をした結果、2.5倍ほどにはなりましたが、通常想定される賠償金の額よりも非常に低かったため、裁判での解決を求めることになりました。

 結果として、裁判所から和解案が提示され、それを双方が受け入れる形で解決することができ、金額も当初の約5倍となりました。

ポイント

 この裁判では多くの争点がありましたが、大きなポイントは、会社の代表取締役であったというところにありました。

 会社役員の場合、一般的な給与所得者(サラリーマン)とは大きく異なる以下の3つの点があります。

 1つ目は、使用者側の立場ですので、出退勤が厳しく管理されていないということです。

 2つ目は、役員の場合、仕事を休んでも報酬が減額されないことが多いことです。

 3つ目は、賠償金の計算をするときに、実務上、役員報酬額の全額を対象とするとは限らないということです。

 →詳しくは「社長・役員の休業損害(休業補償)の交渉」

 

 本件では、被害者が日常的に行っている業務の内容と事故後の変化、後遺症が残ったという事実やカルテの記載、会社の構成や他の従業員の給与の額といったことを示しながら、実際に仕事に支障が生じていること、報酬の中の労働対価部分の証明を行いました。

 また、休業損害については、役員報酬の減額がなかったため、本来であれば反射損害として会社から請求を出すべきところだったと思いますが、本件では、被害者がいわゆる一人会社の株主兼社長という特徴があったため、そのまま被害者個人の損害として認めてもらうことができました。

まとめ

 保険会社は、役員であるというだけの理由で休業損害や逸失利益の存在を否定してくる場合があります。

 しかし、難しい問題はあるものの、実際に休業や業務への支障が生じているのに、これが認められないということはありません。

 役員の休業損害・逸失利益は、賠償上何がどういった理由で問題となるのかをよく理解した上で、資料を示しながら適切に自分の主張を整理する必要があります。

 この交渉は難しいものとなることが多いので、弁護士にお任せください。

後遺障害併合14級【頚部、腰部、左肩痛・無職】で約170万円を獲得

2022-08-19

事案の概要

 事故状況は、被害者が自動車を運転して道路を直進していたところ、左側の路外施設から出てきた車が側面に衝突してきたというものです。

 被害者は、頚椎捻挫、腰椎椎間板障害、左肩関節捻挫といった傷害を負い、事故から半年を経過しても症状が消失せず、今後について不安に思われたためご依頼となりました。

当事務所の活動

 痛み等の症状が強く残っていたため、まずは後遺障害の認定を受けることとなりました。

 申請の際は、車の破損状況から、被害車両に強い衝撃が加わったことがうかがわれたため、その写真を添付することとしました。

 申請の結果、頚部、腰部、左肩の症状について、それぞれ後遺障害14級9号の認定を受けることができました。

 被害者は高齢で無職であり、就労の予定もなかったため、逸失利益の請求はありませんでしたが、結果として、治療費を除き約170万円を獲得することができました(自賠責保険金を含む)。

ポイント

 この事案は、後遺障害診断書の記載を見る限りでは、特筆すべき記載はなく、通院期間が若干長くなっていたものの、実通院日数は50日とそれほど多くもなく、後遺障害等級の認定が受けられない可能性もあった事案でした。

 結果的に後遺障害の認定を受けることができたのは、事故の衝撃が大きかったことがうかがわれるという点に加え、被害者が高齢で、レントゲン、MRIの画像上、症状が長引くことを裏付けるような所見が得られたということが考慮されたのではないかと思います(認定理由には詳細は記載されないため、正確なところは不明です)。

 最近では、後遺症が残っていても後遺障害の認定が受けられないということも少なからずありますが、後遺症が残ることについて納得のいく説明ができるようなケースであれば、認定が受けられることを示す事案でした。

 また、本件の後遺障害診断書の記載は、非常に簡素なもので、特記事項としては、MRI所見で、軽度のヘルニアがあるという程度で、その他は、特に異常なしといったことしか書いておらず、後遺障害診断書だけを見れば、何ら有利なことは書かれていないといって良いような内容でした。

 そのため、14級9号の認定がされるかどうかは、後遺障害診断書の記載のみで決まるものではないということを再確認させられた事案でもありました。

後遺障害併合11級【鎖骨変形・左肩機能障害】で約730万円→約1500万円

2022-07-26

事案の概要

 事故状況は、友人が運転する車の助手席に被害者が乗っていたところ、運転手が意識を失って信号機に衝突したというものでした。

 被害者は、右肩鎖関節脱臼、左肩腱板断裂などの傷害を負い、治療を約20か月間にわたっておこなったものの、鎖骨変形のほか、左肩の関節機能障害が残存し、それぞれ、「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号と左肩関節に「機能に障害を残すもの」として後遺障害12級6号が認定されることとなりました。

 9~13級の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合ですので、重い方の(今回は同じ等級ですが)等級を1級繰り上げることになるため、併合11級となります。

 まずは、人身傷害保険で金額を算出してもらったところ、最終の支払額が730万円という結果になりました。

 この金額の妥当性をチェックするため、ご相談となりました。

当事務所の活動

 まず、上記のとおり本件は人身傷害保険で対応されていましたが、対人保険でも対応可能な案件でしたので、対人賠償での対応に切り替えてもらいました(人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法が約款で定められており増額が見込めません)。

 交渉を行った結果、慰謝料や逸失利益が大幅に増額し、最終支払額が約1500万円となり、2倍強での解決となりました。

ポイント

鎖骨変形

 本件は、類型的に後遺障害逸失利益が問題となる「鎖骨変形」(後遺障害等級12級5号)が後遺障害に含まれていたため、この点が交渉でのポイントになります。

 鎖骨は、変形があったとしても日常生活や労働に支障はないのではないかという指摘があり、裁判上も、等級表どおりに労働能力喪失率が認定されないケースがあります。

 そのため、本件のように他にも後遺障害がある場合には、その後遺障害を元に逸失利益を計算されるにとどまり、鎖骨変形分は考慮されないということがあり得ます。

 本件の場合、別の後遺障害が左肩関節の機能障害の後遺障害等級12級6号であり、この障害は、通常労働能力喪失率や労働能力喪失期間が問題になることは少ないため、この等級に基づき労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間は67歳までとされる可能性があります。

 しかし、本件の交渉では労働能力喪失率については20%とすることを特に争われませんでしたので、労働能力喪失期間が問題となりました。

※関連記事

鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

基礎収入の考え方

 また、逸失利益の基礎収入の部分が、人身傷害保険の考え方に基づいて、実収入よりも高い平均賃金が用いられていましたので、この点が元々被害者にとって有利になっていました。

 裁判基準で逸失利益を計算する場合、若年の労働者などでなければ、通常は事故前年の年収をベースに計算します。

 この点をどう考慮すべきがが悩ましい問題でした。

減収がない場合の逸失利益

 本件は、上記のような点の他に、依頼者にとって不利になり得る事情として、事故後に減収がなく、むしろ収入が増えているという事情がありました。

 実務上、減収がないからいって逸失利益自体がゼロということにはならないのが通例ですが、それでも、認定される金額が減少することは少なからずあります。

最終的な示談金額

 上記のような点を総合的に考慮して、逸失利益の額を当初約490万円とされていたところを、約930万円とすることで示談としました。

 この金額ですが、基礎収入を平均賃金ではなく実年収をベースに、11級の労働能力喪失率で67歳までで計算した額とほぼ変わらないものでしたので、裁判をした場合、この金額を下回ることも考えられました。

 本件は、妥当な落としどころを考える際に、実務上の様々な考え方を知っておかなければならず、結論的にはいい示談ができたのではないかと思います。

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