Archive for the ‘コラム’ Category
高齢者の逸失利益
逸失利益の概要
交通事故で被害者に後遺症が残った場合や被害者が死亡した場合、後遺障害逸失利益や死亡逸失利益と呼ばれる賠償金が支払われることになります。
後遺障害逸失利益とは、後遺症によって仕事に支障が出たために、収入が減少したことに対する補填を意味します。
簡単にいうと、事故に遭う前の収入が1000万円であった人の収入が事故後に900万円に減少した場合に、この差額の100万円を賠償として支払うというものです。
もちろん、1年分だけ補償すれば良いというわけではありませんので、生涯にわたって減収が予測される部分については、全て補償の対象となります。
例えば、治療を終えた時点で、事故がなければあと10年は働けるはずだった人の場合、自力で歩けない等の後遺症により、10年間は仕事に影響が出て、本来得られるはずだった収入の額に影響が出ることが考えられます。
この場合、この10年分の減収を損害として加害者に金銭の請求をするのが後遺障害逸失利益です。
逆にいうと、後遺症の影響で減収する可能性がない期間については、基本的に賠償の対象とならず、例えば30歳くらいで事故に遭った人について何歳分までを補償すれば良いのかが問題となります。
裁判を含む一般的な考え方ではこの年齢は67歳と設定されることが多いです。上記の例で、30歳で治療を終えた場合、後遺症として賠償の対象とするのは、30歳から67歳までの37年とされることになります。
死亡事故の場合も、生活費控除という特殊な処理をすることになりますが、基本的な考え方は同様です。
そうすると、67歳を超えて仕事をしていたり、事故に遭った時点で60歳を超えていて、67歳を過ぎてもまだまだ仕事をする予定だった人の場合はどうなるのでしょうか?
このように、高齢者の逸失利益には特有の問題があります。
高齢者の逸失利益の特色
有職者の場合
最近では、60歳を超えても就労を続ける人も少なくありませんので、比較的高齢の人であっても、逸失利益が生じることは十分あり得ます。
ただし、この場合、上記で述べたように、一般的なケースのように67歳までの期間で逸失利益の計算を行うと、対象となる期間が短くなる結果、賠償金の額が小さくなってしまったり、67歳を超えるような人の場合、賠償金が0ということになりかねません。
そこで、こういう場合、「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とみなして計算するという方法で賠償を請求します。
裁判でも、こうした計算方法が広く認められています。
その結果、67歳が間近であったり、67歳を超えて仕事をしているような高齢者であっても、逸失利益が認められることになります。
※ただし、事案によっては、必ずこの計算が認められるわけではありませんので注意しましょう。
無職者の場合
無職の場合、収入がないのですから、減収を前提とした後遺障害逸失利益の請求はできないことになります。
しかし、事故当時に一時的に仕事をしていなくても、そのうち仕事を開始する予定だったという人もいるでしょう。
そういう人の場合、就職活動を行っていた等、仕事をする意欲があったことを証明し、後遺障害逸失利益を請求することが可能です。
ただ、後遺障害逸失利益は、通常、被害者の事故に遭う前の収入額によって金額が決まるのですが、無職者の場合、事故前の収入というものが存在しません。そこで、適切に計算を行うための収入を設定する必要があります。
一般的には、年齢別の労働者の平均賃金を用いることが多いです。
家事従事者の場合
高齢者であっても、事故前に同居する家族のために家事を行っていたという人は少なくないでしょう。
このような人の場合、一般的な主婦(主夫)の場合と同様、家事に関する逸失利益を請求することが可能です。
この場合の計算方法ですが、女性労働者の平均賃金を用いることが一般的です。
ただし、この場合も、一般的には全年齢の平均賃金を用いることになるのに対し、高齢者の場合、家事労働にも多少の制限があることがありますので、年齢別の平均賃金を用いることがあります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
高齢者の場合、形式的に計算すると、後遺障害逸失利益がゼロということにもなりかねませんが、上記のとおり、多少の制限はあるものの、請求自体は認められています。
高齢者の後遺障害逸失利益の計算は、通常の場合以上に技術的な面が多いので分かりにくい部分となっています。
そのため、通常の場合以上に示談交渉をしっかりと行うことが必要と言えるでしょう。
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学生・児童など若年者の逸失利益
逸失利益とは
死亡事故や後遺症が残るような事故が発生すると,被害者が事故に遭わなければ働いて稼ぐことができたはずの収入が得られなくなる(減額になる)という事態が生じます。
このような収入の減少について賠償が受けられなければ、被害者本人や、被害者に扶養されていた家族の生活が難しくなってしまいます。
そこで、こうした損害を賠償するために、治療費や慰謝料などのほかに,「死亡逸失利益」や「後遺障害逸失利益」というものが加害者から支払われます。
例えば,年収1000万円の人が死亡すると,単純計算で1年で1000万円の損失が生じることになります。
また,後遺症で年収が1000万円から500万円に低下した場合,同様に,1年で500万円の損失が生じることになります。
実務上,実際に受け取ることのできる額は,「中間利息控除」という処理をしますし、死亡事故では「生活費控除」という処理をしますので,若干計算は複雑になりますが,逸失利益のイメージはこのようなものです。
逸失利益は事故前の収入に左右される
上記の例でも明らかなように,「事故によってどの程度収入が減ったか」が重要なポイントになりますので,事故に遭った人の年収によって逸失利益の額は変わります。
年収が2倍違うと,逸失利益の額も2倍違ってきます。
そして,基準となる年収は,一般的には,事故の前年の年収を用います。
つまり,事故の影響がなかった場合,直近でどの程度稼ぐことができていたかが基準になるわけです。
学生や児童等の逸失利益の計算方法は?
逸失利益の計算において事故の前年の年収に着目すると,事故当時に仕事に付いていない学生や児童の逸失利益はどうなるのでしょうか?
逸失利益は,将来得られるはずであった収入のことですので,学生や児童であっても,将来的には仕事に就くことが予想され、当然逸失利益は存在しますし,対象となる期間も長いため金額も大きくなります。
とはいっても,直近の就労実績がないため、通常のケースのように,「事故前年の収入」の額を元に計算することはできません。
実務上は,このような場合,一般的な労働者の全年齢の平均賃金(賃金センサス)を用いて計算します。
全年齢の平均賃金は,一般的な労働者が,生涯を通して得る収入を平均したものですので,生涯にわたって影響が続く死亡・後遺症の逸失利益を計算する際に用いるのは合理的です。
男性の場合,男性のみの平均値を用いてよいですが,女性の場合,女性のみの平均値を用いると逸失利益の額が小さくなってしまいますので,男女を含んだ平均値を用いるようにします。
また,学歴によっても計算結果が変わりますので,被害者の家庭の事情等の属性を見て,有利な方法で計算を行います。
若年労働者の逸失利益の計算方法は?
学生や児童など,収入のない被害者については,上記のように考えることができますが,就職して間もないような若年の労働者の逸失利益はどうでしょうか?
この場合,現実に就労の実績は存在し、基準にすることのできる「事故前年の収入」というものがありますので,単純に考えると,この数字を用いて計算することになります。
しかし,一般的に,仕事に就いて,経験を積んで役職がついたり,転職するなどしてステップアップしていくことで,得られる収入の額は大きくなっていきます。
そのため,就職して間もない時期は,収入が小さいということにあります。
逸失利益は,「本来得られるはずだった収入」を補填するものですので,このように就労して間もない時点の金額的に小さな収入額を元に計算されてしまうと,十分な補償がされたことにはなりません。
そこで,このような若年労働者の場合,将来の昇給を考慮して逸失利益の額を計算することになります。
具体的には,学生などと同様に,平均賃金を用いるという方法があります。
この平均賃金を用いる計算をするかどうかの分かれ目ですが,30歳未満という数字が目安として示されていますので参考になります。

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赤信号無視を争う裁判
最近,立て続けに3件の加害者が赤信号無視を否認している事案の裁判が終わりましたので,これについて触れてみたいと思います。
事案の詳細は記載しませんが,結論からいうと,過失割合①30:70,②0:70(片側賠償),③0:100で,いずれもこちら側に有利な形で終了しました。
①は,対人・対物保険を使っていただくことにはなりましたが,人身傷害保険の仕組みの関係で,人身部分については満額回収ができています。
②は,同じく人身傷害保険の関係で人身部分の満額回収ができ,相手方の賠償はしないことになったため,保険を対人・対物保険を使う必要もありませんでした。
③は,人身は主張が認められない部分があったものの,過失割合は0:100だったため,物損で満額回収できました。
赤信号無視否認の場合の特徴
・0か100か
交通事故の過失割合の話をするときに,保険会社の担当者から「動いているもの同士なので,0:100にはなりません」といったことを言われることがあります。
たしかに,車を運転するときは,運転手は細心の注意を払う必要があるため,車が動いていれば多少の過失があるとされることがほとんどです。
しかし,これには例外があり,典型例が赤信号無視です。
信号機の表示に従うことは,最も基本的な交通ルールなので,赤信号無視をすれば,基本的に過失100%ということになるのです。
つまり、赤信号を無視が認められた方は100%加害者で、赤信号無視をしていない(通常は青信号)方は100%被害者ということになります。
したがって,どちらが赤信号無視をしたのかが問題となる場合,過失割合が30%なのか20%なのかという違いが出るのではなく,基本的には0か100かという問題になります。
※最終的にどちらが赤信号だったのか分からないという場合には,痛み分けで50:50にするという考え方もあります。
・円満解決が困難
このケースでは、青信号で交差点に進入した方には何ら落ち度がなく、しかも加害者側が嘘をついていて(勘違いをしている可能性もあります)、むしろこちらが加害者と言われているようなという状況にありますので、感情的な対立が大きく、加害者側の保険会社としても、加害者本人が「赤信号無視をしていない」と言っていれば、それにしたがって動くしかありませんので、交渉で賠償金の支払いを受けることは非常に困難です。
その結果、裁判所の判断を仰ぐことになるのですが、裁判では次に述べるように証拠が不足しているという問題が出てきます。
・証拠が足りない
赤信号無視で裁判になっている場合,ドライブレコーダーや防犯カメラ,第三者である目撃者といったものがあれば,そもそも裁判をするまでもありませんから,裁判になっているという時点で,決め手となる証拠が欠けているということになります。
そういう意味では,8割とか9割といった高い確率で勝てる裁判ではありません。
これらのことを踏まえた上で,裁判をするメリットやデメリット,勝つために何がポイントになるのかについて説明します。
裁判のメリット
裁判をする場合の大きなメリットは,人身傷害保険による過失分の補填です。
人身傷害保険は,自動車保険にオプションとして付帯されるもので,最近では大半の方が加入しています。
この保険は,通常,自損事故や自分の過失が大きいような,加害者から自分の治療費などを支払ってもらえないような場合に使う保険で,治療費や休業損害といった実損害のほか,慰謝料なども保険会社の基準によることになりますが払われます。
この保険の特徴として,裁判で和解したり判決が出て,賠償金の総額が確定した場合で,過失の問題で加害者からの支払が十分ではない場合,不足する部分を補うことができるというものがあります。
その結果,裁判で赤信号無視が確定できず,0:100にすることができない場合でも,痛み分けで50:50ということになれば,足りない部分を人身傷害保険でカバーすることが可能となり,結果的に人身部分は満額回収することができます。
赤信号無視がはっきりしない場合でも受取額が増えるというのは,裁判の大きなメリットです。
なお,物損についてはこのようなメリットはありません。
裁判のデメリット
相手方が赤信号無視を否認しているということは,こちら側が赤信号だったと言われていることを意味します。
つまり,相手からするとこちらが100%加害者ということになります。
そのため,こちら側から裁判を起こした場合,反対に相手からも裁判を起こされることになります。
その結果,同じ裁判の中で相手からの訴えについても対応しなければならなくなるのですが,この部分は,弁護士費用特約の範囲外となります。
また,人身事故で痛み分けとなった場合に,人身傷害保険を利用して受取額が増えることになるのは相手も同じです。
そのため,こういったことに対応するため,加入している対人・対物保険を使用していただく必要が出てきます。
これらの保険を使うと等級が下がって支払わなければならない保険料が増えますので,この点がデメリットとなります。
もっとも,人身傷害保険の恩恵を考えると,保険料の増額を差し引いてもプラスになることが多いので,この点の比較は裁判をする前に確認しておく必要があります。
逆に,損害が物損のみで,金額も小さい場合,完全に勝たなければ経済的にマイナスということもあり得ます。
裁判のポイント
既に述べたように,このような裁判では決め手となる証拠がないことが前提となっていますので,裁判のポイントは,事故そのものの説明はもちろんのこと,事故前後の行動についての説明についてもいかに自然にできているのかということなどが点になります。
しかし,最終的にそれらの事情を見てどう判断されるかは裁判官次第です。
Aという裁判官は原告の言うことが正しいと考えても,Bという裁判官は被告が正しいと考えるかもしれません。
また,立証がどこまでいったら十分なのかという点についても,裁判官によってかなりバラつきがあります。
こう言ってしまうと身も蓋もないかもしれませんが,このように決め手に欠ける裁判の場合,「どの裁判官が担当になるか」が結果を分ける一番重要なポイントのような気がします。
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裁判所の事実認定の問題
裁判は,相手方との交渉が行き詰まったときに,紛争解決の最終手段となるものですが,結論の出され方について,皆さんが持たれているイメージと異なるところがあったり,私自身,疑問に思うこともあるので,今回はこのことについてお話します。
裁判官の行う作業とは
裁判官は,①法令の解釈と②事実認定を行います。
法令の解釈とは,「○○法の〇条に書かれていることは,××ということを意味している」という風に,一見して抽象的な法令の文言が,具体的にどのような場面を想定しているのかを明らかにする作業です。
次に,事実認定とは,一方の当事者が,「××という事実がある」(例えば,「AさんがBさんにお金を貸した」,「交通事故はこういう風にして起こった」)と主張したのに対し,相手方が「そんな事実はない」と言われたときに,言い分どおりの事実があったのかどうかを,裁判官が判断するということです。
裁判で争うというと,一般的には,後者のイメージが強いと思いますので,この点を掘り下げて考えてみたいと思います。
証明責任とは
裁判をする際に知っておかなければならないこととして,「証明責任」という言葉があります。
例えば,「AさんがBさんにお金を貸した(消費貸借)ので,Bさんにお金を返してほしいが,Bさんは,お金はもらったもの(贈与)だと言っている」というような場合に,「Aさんには,消費貸借契約(お金を貸したこと)の存在について証明責任がある」というような表現をします。
その結果,読んで字のごとく,Aさんは,消費貸借契約について証明する責任があり,この証明に失敗すれば,Aさんはお金を取り戻すことができないということになります。
そのため,裁判になれば,Aさんは,消費貸借契約があったということを様々な証拠を元に証明していくことになります。
証明の程度
次に,この証明といっても,「この証拠があれば,○○であることは100%間違いない!」といえるようなものがあれば,そもそも裁判で争うことはないと思われますので,通常は,そこまでは至らない微妙な点があるはずです(「契約書がない」「契約書はあるが,体裁がおかしい」etc)。
その中で,裁判官は事実を認定しなければならないわけですが,この証明の程度は,最高裁判例によれば,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持たせる程度(高度の蓋然性)の証明が必要と言われています(最高裁平成50年10月24日判決。「ルンバール事件」)。
これだけ言われてもよく分かりませんが,要は,極めて高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があるということです。
実際には,やや緩和されて判断されているようですが,基本的には高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があることに変わりはありません。
ただ,この点についての裁判官のさじ加減がかなりまちまちで,裁判を利用する側としては,運に強く左右されてしまうというところが問題です。
実際の認定の問題
先の例でいえば,お金を受け取ったことに争いはなく,それがもらったものなのか貸したものなのかの二者択一となりますが,どちらがより真実に近いかという点で,51対49で貸したものだといえれば,請求を認めてよいのか(依頼者の方と話をしていると,このイメージを持っている方が多いようです),それとも,80対20(あるいはそれ以上)くらいにならないといけないのかというところが,裁判官の考え方によって大きく変わり得るところです。
「証明責任」の考え方や,前掲の最高裁判例を重く見れば,証明の程度をかなり強く要求することになり,結論として,「これを認めるに足りる証拠がない」(実際の判決でよく見られる表現)などといって請求が認められないことになるのでしょう。
しかし,既に述べたように,そもそも,誰が見ても勝ち負けが明らかなようなケースでは,通常はそもそも裁判になどなっていないと考えられますので,このような結論を安易に出すべきではないと思います。
実際,仮に,「7:3でお金は貸したものだ」と裁判官が思ったとしても,それでは証明の程度としては足りないとする裁判官であれば,原告の請求は認められないことになってしまいますが,これは,結果的に,訴えられた側からしてみると,事実上お金はもらったものと認められ,返さなくても良いことになってしまいます。
実際には,「お金はもらったものだ」という認定までされたわけではありませんが,「貸したものではない」とされることは,「もらったもの」とほぼ同じ効果があります。
しかし,裁判官としても,基本的にはもらったものではない(おそらく貸したもの)と考えていたはずですので,二人の当事者に対して出される結論としてはおかしいはずです(「消極的誤判」の問題)。
これが紛争解決を求めて起こした裁判の帰結として妥当なものといえるでしょうか?
他方で,同じ状況でも6:4くらいでも足りると考えている裁判官であれば,原告の請求は認められるということになるでしょう。
このように,微妙な案件では,裁判官による判断が分かれることがあり得ますが,それを当事者がどう受け止めれば良いのかは難しい問題です。
最後に
裁判官が,自らの出す判決の重みや当事者主義の原則から,自身の心証が曖昧なままで安易に一方当事者の請求を認めないとすることも理解できないわけではありませんが,実際の当事者は,自分にとって重要な財産であったり,ときには誇りをかけて裁判に挑んでいます。
また,当事者は,「証拠が,あるいは若干足りないところがあるかもしれないが,それでもいろいろな事情をくみ取ってもらえれば,真実を認めてもらえるのではないか」と期待して裁判を起こしています。
そのような中で,裁判官は,安易に「証明責任」を理由に証明が足りないなどとするのではなく,可能な限り真実が何かを探求し,どうしてもそれが分からなかったという場合にのみ,「証明責任」を理由に,判決を出すべきだと思います。
しかし,当事者に裁判官を選ぶ権利はありませんので,証明の程度についてどのような考え方をしている裁判官にあたるかは,最終的に運次第となります。
一応,わが国では,事実認定について2審まで争うことが可能ですが,個人的には,心理学的な観点からも,1審の認定を覆すことは容易ではないと考えています。
このような現状からすると,紛争の解決手段として,裁判というものが必ずしも最善なものではないということが分かってきます。
交通事故でいうと,「保険会社は支払いが渋く,言っていることがおかしい」,「裁判所ならきちんと判断してもらえる」というイメージがあるかもしれませんが(私も以前はそのように考えていました),裁判所が,証明責任を理由にそれ以上に支払いを認めないということも十分あり得るのです。
したがって,基本的には,示談交渉で保険会社が出せるギリギリのところまで回答を引出し,その上で,明らかにおかしければ裁判をするという風に考えた方が良いのではないかと思います。
参考文献
(判例タイムズNo.1419_5頁 須藤典明「高裁から見た民事訴訟の現状と課題」)

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サラリーマンと自営業者の休業損害の違い
サラリーマン(給与所得者)と自営業者(事業所得者)では,休業損害の認定上,様々な違いがあります。
ここでは,当事務所で実際に取り扱ってきた案件や,文献等を元に,大まかな違いについてまとめてみました。
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給与所得者 |
事業所得者 |
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労務管理 |
・第三者である使用者によりタイムカード等で管理 →残業代等につながる重要なものなので,休業時間についても正確に把握される |
・自分で管理 →時間を正確に管理されていないことが多く,記録があったとしても自分で作成したものなので信用性が問題となる |
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復帰時期・休業の必要性 |
・復帰時期について,会社・産業医と相談することになる ・復帰ができない場合,解雇もあり得るし,そうでなくても体裁上,復帰できる場合には多少無理をしても速やかに復帰することがある |
・休業によって事業の継続に著しい支障が出るような場合,無理をしてでも復帰する傾向にある ・反面,加害者からの補償があれば,それ以上に大きなマイナスが出ないような場合,休業が長期化することも見られる(復帰するかは自己判断になる) |
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提出書類 |
・源泉徴収票 ・休業損害証明書
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・確定申告書 ・休業したことが分かる資料(決まりがない) ・休業の理由が事故によるものであることが分かる資料(決まりはないが,医師からの安静指示が出ている場合,その診断書等) |
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計算方法 |
・休業が連続している場合 給与収入の事故前3か月の合計給与額(付加給を含む)を90日で割り,休業開始から休業終了までの期間をかける ・休業が連続していない場合 給与収入の事故前3か月の合計給与額を同期間の稼働日数で割って,実際の休業日数をかける ・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等) |
・事故前年の所得金額(青色申告特別控除前の所得金額。売上ではない)を365日で割って,休業日数をかけるのが一般的(稼働日数を用いることもあり得る) ・家族が手伝っている場合,その分を基礎収入額から差し引くことがある ・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等) ・その他,外注に出した場合の外注費を損害額とすることもあり得る ※休業することによって無駄になる固定経費分を加算することも可能(地代家賃等) |
上記のような違いから,交渉や裁判では以下のような傾向があります。
・自営業者は,実際に休業したかどうかを第三者(保険会社・裁判所)が把握することが難しいことに加え,入院や医師による安静指示がないような場合,加害者が負担すべき休業損害の日数を証明するのが非常に難しい。
・給与所得者の場合,自らの意思で復帰時期を決めるのが事実上困難であり,休業損害証明書という定型の書類があるので,休業の必要性も比較的認められやすい。
そのため,結論として,自営業者の休業損害の支払いを受けるのは,給与所得者よりも難しい傾向にあります。
自営業者の場合,実際に休業したのはいつで,休業の理由は何だったのか,正確に記録しておくことは必須です。
また,本当に休業が必要なのかを自己責任で判断しなければならないということを認識しておく必要があります。
その上で,固定経費分の損害の請求等,漏れがないように支払いを求めることが重要です。

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後遺障害14級9号【肩関節脱臼後の疼痛】で140万円→280万円
事案の概要
自転車で道路を横断中,右折してきた四輪車にはねられたというもので,被害者は,肩関節や足関節の靭帯損傷といった傷害を負いました。
その後,通院加療を続けていましたが,肩関節の痛みが後遺症として残ることとなりました。
当事務所の活動
依頼前の状況
本件では,依頼の前に,事前認定により後遺障害等級14級9号が認定され,賠償金額として約140万円が提示されていました。
しかし,保険会社の算定の仕方が妥当なのか疑問に思われたため,ご相談となりました。
後遺障害等級の検討
本件は,そもそも後遺障害等級が14級9号でよいのかということをまず検討する必要がありました。
骨折・脱臼を原因とする痛みなどの神経症状に関する後遺障害は,後遺障害等級14級9号のほかに,後遺障害等級12級13号が認定される可能性があります。
14級9号と12級13号の違いは,訴えている症状について,関節面の不整や骨癒合の不全等といった他覚的に確認することのできる原因が存在するかという点にあります。
本件の場合,主治医から,レントゲン上は特に問題がないという説明を受けていたことと,異議申立てをするためには時間と若干の費用が発生することになるため,後遺障害等級は14級を前提として示談交渉を行うことになりました。
示談交渉
本件で,相手方の示した金額で問題があったのは,通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料でした。
後遺障害逸失利益については,計算方法については疑問があったものの,計算結果は低いとは言い難いものでした。
具体的には,本来であれば,被害者が症状固定時に16歳であり,労働能力喪失期間を考える際,稼働開始までの期間分を控除するという処理が必要となるため,例えば,労働能力喪失期間が10年であれば,対象となる期間は,10年間から18歳(一般的に稼働開始可能と考えられる年齢)までの2年間を引かなければなりません。
この処理は,単純に10から2を引くのではなく,中間利息を控除したライプニッツ係数を用います。
ところが,相手方は,労働能力喪失期間を5年としながら,この5年のライプニッツ係数をそのまま用いていました。
これは,実質的には労働能力喪失期間として7年を認定したのと同様になります(最終的な計算結果は,中間利息控除の関係で,7年で計算したよりも高くなります)。
一般的に後遺障害等級14級9号の場合,労働能力喪失期間を就労可能年限までではなく,一定期間の制限されることが多く(むち打ち以外の場合は例外あり),若年者の場合,回復が期待できるため,その可能性も高まります。
そうすると,労働能力喪失期間が実質7年とされるのであれば,決して不当とはいえません。
また,相手方は,逸失利益の計算にあたって,全年齢の女性労働者の平均賃金を用いていました。
労働能力喪失期間に制限のない後遺障害であれば,この数値を用いることが想定されるのですが,労働能力喪失期間が制限される場合で,被害者が若年者の場合だと,後遺障害の影響を受ける時点の収入は,働き始めたばかりの頃で,全年齢の平均賃金よりも低くなることが想定されます。
したがって,逸失利益算定のための基礎となる基礎収入の額も,厳密に考えると,全年齢の女性労働者の平均賃金よりも低くなる可能性がありました。
以上の点を考慮すると,相手方から示された逸失利益の額は低いものとはいえないのではないかと考えられました。
そこで,示談交渉の対象を慰謝料の部分に絞ることとしました。
その結果,最終の支払額が約280万円となって示談が成立することとなりました。
ポイント
保険会社から示される金額は一般的には低いことが多いのですが,若年の学生が被害者となった場合のように,単純な計算とはならないような場合,むしろ裁判をするよりもいい条件なのではないかと思われることがあります。
一方で,慰謝料のような算定が単純なものについては,ほぼ例外なく低い金額が示されます。
示談交渉では,やみくもに相手の見解を否定するのではなく,論点を絞って交渉を進めることが有効な場合があります(そうすることで,解決までの時間も早まるというメリットもあります。)。

千葉で交通事故のご相談なら福留法律事務所へ
当事務所は、千葉県を中心に交通事故の被害者救済に特化し、10年近くで500件以上の解決実績がある法律事務所です。
交通事故の示談交渉で保険会社から提示される賠償金額は、本来受け取るべき適正額より低いことがほとんどです。
特に、後遺障害が残る事故や死亡事故では、弁護士が交渉することで賠償金が大幅に増額されるケースも少なくありません。
当事務所では、交通事故被害に遭われた方の正当な権利を守るため、豊富な経験を持つ弁護士が示談金の増額交渉や後遺障害等級の認定を強力にサポートいたします。
保険会社とのやり取りで生じる精神的なご負担も、私たちが代理人となることで軽減できます。
「保険会社から提示された金額が妥当か知りたい」という方のために、賠償金額の無料診断サービスも行っております。
ご相談は千葉県全域に対応しており、後遺症に関するお悩みは全国からの電話相談も可能です。
ご来所が難しい場合でも、まずはお気軽にお問い合わせください。
もらい事故への対応について
もらい事故だと保険会社が交渉できない?
相談をお受けしていると,「自分の保険会社から『過失割合が0対100なので,交渉をすることができない』と言われた」という話をよく聞きます。
たしかに,被害者に落ち度のない,いわゆるもらい事故の場合,自分の保険会社は交渉を行うことはできません。
なぜなら,示談交渉などを弁護士以外の者が行うことが弁護士法72条という法律で基本的に禁止されていて,違反すると犯罪になるためです。
示談代行サービスとは
それでは,自動車保険のテレビCMなどで示談代行サービスをうたっていて,実際に示談代行サービスが行われているのは何故でしょうか?
これは,被害者に少しでも落ち度があれば,保険会社は,その程度に応じて対人又は対物保険の支払いをする必要が出てきますので,自分たちが支払う保険金に関することとして,示談代行を行うことができるためです。
これに対し,もらい事故の場合,そこで行われる交渉は,全て被害者から加害者に対する支払に関するものであって,自分の保険会社は対人・対物保険の保険金を支払う必要がありませんので,交渉を行うことはできないのです。
示談代行サービスが使えない場合の対応方法
示談代行サービスが使えない場合でも,慰謝料など怪我に関する補償の問題や,車の時価額の問題など,交渉をしなければ適切に賠償が受けられない場面は多々あります。
このような場合,弁護士に依頼することで,適切に交渉を行っていくことが可能になります。
弁護士に依頼する場合,弁護士費用が発生することになりますが,交通事故の場合,弁護士費用を差し引いても示談交渉を依頼した方が良いという場合も多いです。
しかし,それでも支払いが生じる以上,やはり費用は気になるとことだと思います。
こうした場面で弁護士に依頼してしっかりと示談交渉を行いつつ,弁護士に支払う費用に備える保険が,弁護士費用特約です(CMでもこの保険のことをアピールするものもあります。)。
弁護士費用特約そのものにかかる保険料は通常は低額で,使用しても等級は下がりませんので,交通事故の被害に遭ったときに備える保険として非常に有効です。
弁護士費用特約のご加入がある方は,ご相談だけでも利用できますので是非積極的にご活用ください。
また,ご加入がない方でも,示談交渉を依頼するメリットがあることが多いので,お気軽にお問い合わせください。

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人身事故への切り替えについて
事故発生から間もない段階でのご相談をお受けした場合,人身事故への切り替えをした方が良いのか?という点について聞かれることがよくあります。
ここでいう人身事故への切り替えとは,保険会社との関係ではなく,警察に対して,交通事故が物件事故扱いとなっているものを人身事故扱いとしてもらうかどうかということを意味しています。
事故当日に警察に状況を説明しているとは思いますが,後日診断書を警察に提出して人身事故への切り替えまでするかどうか悩まれている人もいらっしゃるかと思います。
ここでは,人身事故への切り替えの持つ意味を解説します。
刑事処分
交通事故に関する刑事処分は,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)によってなされていますが,文字通り人を死傷させた場合を念頭に置いていますので,物件事故の場合はこの法律の対象外となります。
わざと車をぶつけたような場合は刑法上の器物損壊罪が成立する可能性がありますが,一般的に交通事故で想定されているケースではないでしょう。
また,わざとではなくても,交通事故で建造物を損壊した場合には道路交通法116条によって刑事処分を受ける可能性はあります。
いずれにせよ,物件事故で通常想定されている,不注意による自動車(バイク)同士の事故で,自動車(バイク)が破損させられたというケースでは,基本的にそれだけで刑事責任の対象とならないと考えて良いでしょう(修理費などの民事責任が問題となることは言うまでもありません。)。
したがって,物件事故と人身事故では,この点が大きく異なりますので,人身事故の切り替えをすることは,加害者に刑事処分を受けさせるかどうかに大きく影響することとなります。
もっとも,人身事故への切り替えをしたとしても,怪我の程度が軽く,相手に前科・前歴がなければ,不起訴処分となって刑事処分を受けないことも多いです。
行政処分
交通違反や交通事故では,自動車等の運転者の交通違反や交通事故の内容により一定の点数を付けられていて,その過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止や取消等の処分を行われることになります。
人身事故の場合,次のように交通事故の付加点数(違反点数)が定められています。
① 専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合
死亡事故 20点
治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 13点
治療に要する期間が30日以上3か月未満 9点
治療に要する期間が15日以上30日未満 6点
治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 3点
② ①以外の場合
死亡事故 13点
治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 9点
治療に要する期間が30日以上3か月未満 6点
治療に要する期間が15日以上30日未満 4点
治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 2点
このように,怪我をしているかどうか,怪我がどの程度重いかによって付加点数が異なりますので,加害者にとって,人身事故の届け出がされるかどうかは重大な影響があります(仕事上,自動車の運転が必須な人などは特にそうでしょう。)。
刑事記録の違い
人身事故の場合,実況見分によって事故に至るまでの状況や,道路の形状といったことが細かく記録され,実況見分調書というものが作成されます。
これを見れば,どのような事故であったのかある程度正確に知ることができます。
これに対し,物件事故の場合,基本的に刑事処分の対象とならないため,本格的な捜査は行われないのが通例です。
書類は一応作成されますが,物件事故報告書という簡易なもので,事故の概要しか分かりません。
賠償上の違い
法律上,加害者側から損害賠償を受けるにあたって,人身事故への切り替えが条件になっているということはありません。
インターネット上の情報を見ていると,人身事故への切り替えをしなければ支払われないものがあるとか,後遺障害の認定が受けられなくなるといったものを目にします。
しかし,少なくとも私の経験上,交通事故の届出自体をしていないというのであればともかく,人身事故の切り替えをしていないという理由だけで相手の任意保険会社から支払いを拒まれたことはありません。
また,後遺障害の認定を含めた自賠責保険の請求の場合でも,物件事故の交通事故証明書に,「人身事故証明書入手不能理由書」という紙を1枚添付すれば,適切に処理がされています。
人身事故の切り替えをしていた方が後遺障害の認定がされやすいかどうかについては,検証のしようがないため(全く同じ事件というものはないので),断定的に述べることはできません。
ただ,上記の「人身事故証明書入手不能理由書」を添付する方法で認定を受けられたものも多数ありますし,反面,当初から人身事故扱いとなっていても認定が受けられなかったものもありますので,明白な違いというものは認められません。
以上のような次第ですので,弊所では,基本的に,人身事故への切り替えが,賠償の範囲や額に直結するものとは考えていません。
人身事故へ切り替えをしておいた方が良いケース
相手への処分を求める場合
人身事故への切り替えは,加害者の刑事処分や行政処分の内容に大きな影響を与えますので,加害者への処分を求めたい場合には,切り替えをした方が良いでしょう。
事故状況が問題になるケース
既に述べたように,人身事故への切り替え自体で損害賠償の額が直接変わるというものではありません。
しかし,既に述べたように,人身事故への切り替えをした場合の違いとして,実況見分等の捜査が行われ,その記録が作成されるということがあります。
これらの本来の目的は,適切に刑事処分を行うことにありますが,被害者としても,これらの書類を取り寄せることで,民事の損害賠償請求の中で証拠として活用することができます。
過失の割合が0対100で争いもないような場合であれば,それほど問題はありませんが,それ以外の場合,事故の状況を正確に把握する必要があり,その際に,中立な第三者である捜査機関によって作成された書類は,最も有効な資料となります。
特に,加害者が,事故当初は事故状況について率直に認めていたのが,後になって内容を覆してくるというような場合,加害者の事故直後の説明を元に作成された実況見分調書を示すことで,そうした主張を封じることができます。
このとき,物件事故の場合だと,必ずしも双方の主張を聞いて書類が作成されるわけではなかったりするので,十分な対応ができないことがあります。
まとめ
人身事故への切り替えは,刑事処分・行政処分に関するものですので,これらの加害者への処分をどうしたいかによって行うべきかどうかを考えることになります。
他方で,民事の損害賠償との関係でも,事故状況に関する証拠を押さえるという点で意味があります。
人身事故への切り替えを積極的に行うべきかはケースによりますが,事故状況などで争いになりそうな場合には,速やかに切り替えを行うと良いでしょう。

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特に、後遺障害が残る事故や死亡事故では、弁護士が交渉することで賠償金が大幅に増額されるケースも少なくありません。
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交通事故の慰謝料と通院日数
交通事故の慰謝料の額の計算は、「どれだけ通院が必要だったか」と密接な関係がありますが、通院すればするほど支払われる慰謝料の額が増えるというわけでもありません。
交通事故の件で被害者の方から色々とお話を伺っていると、整骨院などに通院した際、柔道整復師から、「通院回数が多い方がもらえる慰謝料の額も大きくなる」などと言われるケースがあるようです。また、インターネット上の情報にも同様の記述が見られます。
これは、100%間違っているとは言いませんが、「慰謝料を増やすために通院の回数を稼ごう」などというのは、通院の目的を履き違えたものですし、実際には慰謝料の額が増えるどころか減る可能性すらある行為で控えるべきであり、場合によってかえって自身にとって不利益な結果となることもあります。
ここでは、なぜ通院回数を増やせば慰謝料が増えるといえないのかについて、自賠責基準と裁判基準の説明をしつつ解説します。
自賠責保険の場合
自賠責保険から支払われる慰謝料の額は,計算方法が決まっており,1日当たり4,300円(※)です。この4,300円にかける日数は,通常は通院にかかった期間の長さですが,通院が2日に1回よりも少ない場合,実際に通った日数の2倍となります。
(※)令和2年3月31日以前に発生した事故については1日当たり4200円となります
(具体例)
例えば,4月1日に治療を開始して5月30日に治療を終え(この間60日),この間に40回通院した人の場合,慰謝料の額は,4,300円×60日=258,000円となります。
同じく,4月1日から5月30日までの治療期間で,10日しか通院していない人の場合,慰謝料の額は,4,300円×10日×2=86,000円となります。
この違いを見ると,通院をすればするほど慰謝料の額が増えるようにも見えます。
しかし,この計算でも、通院の回数が30回と50回で慰謝料の額に違いはありません。
また、例えば、通院期間180日の間に100日間通院したら,4,200円×180日=774,000円が当然支払われるものと考えている人がいますが,これも誤りです。
自賠責保険の場合で注意しなければならないのは,支払われる保険金には上限額があるということです。
自賠責保険の場合,通院の慰謝料や治療費,休業損害などについては,すべてを合計して120万円しか支払われません(加害者が複数などの場合を除く)。
そのため,通院をすればするほど治療費が大きくなり,慰謝料に割り当てることのできる保険金の枠もどんどん小さくなります。
特に、交通事故の場合、自由診療扱いで治療・施術を受けていることが多いですが、その場合、健康保険を使用した場合と比較して窓口負担額は6倍以上となっていることが多く、1回あたりの治療費の額も大きくなっています。
例えば、1ヶ月間に20日ほどの割合で、6カ月間通院した場合で、1ヶ月当たりの治療費が10万円だったとします。
この場合、治療費として60万円が支払われることになり,残りは60万円ですから,先ほどの計算のように慰謝料の額は774,000円とはならず,支払われるのは60万円に過ぎません。
この60万円の中には、休業損害や通院のための交通費も含まれますので、純粋な慰謝料といえる部分はもっと少なくなるでしょう。
さらに極端なケースで、治療費が100万円かかったような場合、残りは20万円となり、通院回数の多さから交通費も多少大きくなると思われますので、慰謝料に充てられる額が10万円ほどということもあり得るわけです。
自賠責保険の残枠が小さくなれば、任意保険会社からの任意保険基準による最終の慰謝料の支払額も小さくなることが予想されます。
他の弁護士のホームページでは、任意保険基準>自賠責基準などとしているものも多いため、最低でも自賠責基準で慰謝料がもらえると誤解している人も多いと思いますが、上記のように自賠責基準で計算した慰謝料を支払ってしまうと自賠責保険の上限額である120万円を超えていしまいそうな場合、自賠責基準を下回る金額で算定されることが多いです。
弁護士が交渉すれば、裁判基準という自賠責保険のような上限額のない計算をしますので、計算上は影響はないかもしれませんが、自分で交渉をしようという場合、上記のことを頭に入れておく必要があります。
裁判基準の場合(実際に支払われるべき慰謝料の額)
実務的には,弁護士が慰謝料の請求をする場合,日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「赤い本」と呼ばれる本で示されている基準によって金額の計算を行います。
この基準は,入院が〇か月,通院が〇か月なら〇〇円ということを表の形で金額を示しており,入院又は通院にどれくらいの期間を要したかによって金額が決まるようになっています(個別の事情によって変動することはあり得ます。)。
入通院に時間がかかったということは、それだけ症状がある期間が長いということですので、その分精神的・身体的な苦痛も長く続きます。したがって、入通院期間の長さを慰謝料の額を決める際の基準に用いることには合理性があります。
しかし,ここも注意が必要で,「通院が長引けば慰謝料の額が大きくなるとは限らない」のです。
代表的なものとして,以下のようなものがあります。
実際に通った日数が少ない場合の計算方法
この点は,保険会社との交渉をしているときに,頻繁に問題になる点です。
上記のとおり,慰謝料の額は,入院又は通院にどのくらいの期間を要したかによって決まる傾向にありますが,同じ通院期間の人であっても,毎日のように通院せざるを得なかったような人もいれば,月に1回程度の通院にとどまったような人もいます。
このような違いがあるときに,慰謝料の額が同じでよいのかという問題です。
この点について,弁護士が用いている「赤い本」の基準では,「通院が長期にわたる場合は,実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」としています。
この計算方法によれば,例えば,通院が1年間であれば,通常なら慰謝料の額は154万円となりますが,この間の実際の通院日数が12日程度なら,慰謝料の額が12日×3.5=42日分の通院に相当する額になり,このケースだと,80万円ほどになってしまうということになります。
また,むち打ち症や打撲・捻挫などの他覚的所見がない怪我の場合でも,同様に,「通院が長期にわたる場合は,実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」とされています。
ただし,この基準は,あくまでも実通院日数の3.5倍(又は3倍)程度を通院期間の目安とする「こともある」としているのであって,必ずそのような計算をするとはしておらず,むしろ,あくまでも通院期間で計算するのが原則で,このような計算をするのは例外的なものであるとしています(2016年版「赤い本」下巻)。
したがって,保険会社と交渉をする際にも,通院日数の少なさは考慮せずに計算をすべきです。
ただし,実際に通院した日数が極端に少ない場合の基準については、上記のとおり曖昧な部分があり、やはり通院日数が多い場合と少ない場合とで通院による負担も変わってくるところなので、金額に差が出たとしてもおかしくありません(通院間隔が開くことになるので、結果的に治療終了までの期間が長くなってしまうケースもあると思います)。
結論としては、「通院が多少少なかったとしても慰謝料の額に影響が出るとは考えにくいが、通院日数が極端に少ないと慰謝料の額に影響が出る可能性がある」ということになります。
なお、骨折をした場合で、「骨癒合のための時間を要し、かつ、その間は骨折箇所を固定するくらいで治療としてできることはない」というようなことがしばしば見られますが、このような場合、通院の頻度が少なくなるのは当然ですので、そのことを理由に慰謝料を減額すべきではないと考えます。
過剰診療の場合
事故の状況から見て,治療に時間がかかるとは到底思えないような場合に,慰謝料目当てに通院をしても,それに応じて高額の慰謝料が払われるほど甘くはありません。
場合によっては,過剰な診療分が慰謝料の額から差し引かれることさえあります。
そのため,一言でいうと「同じような怪我が治るまでに一般的に必要とされる期間」が慰謝料の額に反映されると考えた方が良いです。
もちろん,どれだけ治療を要するのかは,人によって多少の違いがありますので,はっきりとした基準があるわけではありませんし,少しでも通院が長くなったら、その分は慰謝料の計算にあたって考慮しないというわけでもありません。
しかし,常識的に考えて過剰というような通院の仕方は,慰謝料の増額につながらないばかりか,最終的にその治療費を自分で負担しなければならないリスクもあるということを認識しておく必要があります。
適切な治療を受けていなかった場合
逆に,本来であれば受けるべき治療を受けずに,それが原因で治療が長引いてしまうというケースも考えられます。
この場合も,治療費は過剰というよりもむしろ少ないので,特段問題となりませんが,「同じような怪我が治るまでに一般的に必要とされる期間」との比較をすると,期間が長すぎるということが考えられます。
そのため,この場合も,慰謝料の額が治療期間に応じて大きくなるとは言い難い部分があります。
まとめ
結局のところ,医師の指示のもと,自分が怪我を治すために必要と思える範囲で治療を受ける分には問題ありませんし,それに伴って慰謝料の額が大きくなる傾向にあるのは事実であるといえます。
したがって,多くの場合,通院の長さに応じて慰謝料の額が多くなると考えて差支えないでしょう。
しかし,これはあくまでも,交通事故によって負った怪我の内容からみて妥当な範囲であれば当てはまることなので,通常必要とされる治療期間よりも明らかに治療に時間がかかっているような場合は,その原因にもよりますが,必ずしも治療期間の長さに応じた慰謝料の額になるとは限らないのです。
特に,自賠責保険では,計算された慰謝料の額がそのまま支払われるわけではないので,そのことを認識しておく必要があるでしょう。

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裁判で相手のセンターラインオーバーが認められた事案
事案の概要
事故の状況は,加害者が運転する車がセンターラインを越えて走行してきたため,被害者の車に衝突したというもので,双方とも怪我はありませんでした。
しかし,加害者がセンターラインオーバーの事実を認めなかったため,適切に賠償が行われず,ご依頼となりました。
当事務所の活動
示談交渉
本件は,センターラインオーバーの事故であったため,事実関係の証明さえできれば,通常,相手方が全額責任を負うことは明らかな事案でした。
しかし,相手方は,弁護士介入後も一向にこの事実を認めず,双方の損害はそれぞれ自分で直すという,いわゆる「自損自弁」の見解を変えることがなかったため,やむを得ず訴訟提起を行うこととなりました。
裁判での活動
本件の問題点は,センターラインオーバーを証明する決定的な証拠がないということでした。ここでいう決定的な証拠とは,それを見れば事故状況そのものがはっきりと分かるというような物的な証拠のことで,典型的なものはドライブレコーダーや防犯カメラの映像のようなものです。
本件は,実は,事故現場を撮影した防犯カメラは存在しました。
しかし,夜間の事故であったことに加え,相手のセンターラインオーバーの程度も大きくなく,双方のサイドミラーが接触したという程度であったため,カメラの映像ではセンターラインオーバーを確認することができませんでした。
また,センターラインオーバーの場合,車の損傷状況からは,どちらがセンターラインを越えていたのかを判別することは困難であるため,他に有効な物的証拠を見出すことはできませんでした。
その結果,事故後の双方当事者の対応といった間接事実によって,センターラインオーバーを証明することとなりました。
そのため,相手の対応の何がどのようにおかしいのかを具体的に指摘した上で,当事者の経験した事実を詳細に記した「陳述書」という提出し,それをもって,裁判所に判断をしてもらうこととなりました。
その結果,裁判所が相手方のセンターラインオーバーを認め,それを前提にこちらの請求のほぼこちらの主張どおりの和解をすることができました(和解では,早期の解決のため10%の限度で譲歩することとなりました。)。
コメント
本件のように,当事者の供述のみで証明する方法は,通常かなりの困難を伴います。
なぜなら,裁判では,どちらがより正しいかということを競うのではなく,こちらが主張したい事実について,裁判官に確信を抱かせる必要があり,しかも,裁判所は,あくまでも中立な立場で厳格に判断しなければならないため,曖昧な理由で事実を認めるわけにはいかないからです。
そのため,一般的には,供述を元に事実を認める場合であっても,何らかの裏付けが必要となります。
本件の場合,相手の主張で不合理な点があることが動かしがたい事実であったため,物的証拠がなかったにもかかわらず,こちらの主張が認められました。
本件のポイントは,被害者の話をよく聞いた上で,裁判の中で相手の供述の不合理な点を明らかにするという点にありました。
しかし,一般的には,このようなケースで勝つことは相当に難しいので,ドライブレコーダーを搭載するなどして,万が一のときのために備えておくことをおすすめします。

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