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異議申立で【非該当→後遺障害14級】(膝蓋骨骨折)となり約380万円の賠償

2022-10-14

事案の概要

 事故状況は、被害者が横断歩道近くを横断中、左折してきた車にはねられたというもので、被害者は、右膝蓋骨開放骨折等の傷害を負いました。事故後、相手方保険会社の対応に疑問を持たれたため、ご依頼となりました。

当事務所の活動

 本件で争いとなった事項は多岐にわたるのですが、まず、事故状況に関して双方の言い分が異なっていましたので、この点から整理する必要がありました。

 具体的には、衝突地点が横断歩道の直近かもっと離れた場所かで争いがあったのですが、事故状況を記録したドライブレコーダー等はなかったため、膠着状態となりました。

 そこで、刑事記録を取り付けてみたところ、本件は加害者が略式起訴されていたため、詳細な資料を見ることができ、結果として、被害者側の言い分が通ることとなりました。

 その後、通院を継続したものの、骨折部位の痛みが残ることとなったため、後遺障害認定の申請を行いましたが、後遺障害非該当という結果となりました。

 しかし、受傷内容や、被害者の訴えている症状からすると、後遺障害認定が妥当な事案だと判断しましたので、異議申立てを行い、結果として後遺障害14級9号が認定されました。

 示談交渉では、逸失利益の計算にあたって、開業間もない会社の代表者であったため、通常どおり事故前年の年収を用いて計算すると金額が低くなってしまうという問題ありましたが、追加資料を提出し、事故後の増収の状況を踏まえた金額で示談することができました。

ポイント

 本件は、異議申立て事案ですので、一度認められなかった後遺障害の認定をどうやったら認められるのかを検討することがポイントとなります。

 このアプローチの仕方は事案によって異なるのですが、まず前提として、必要書類を一式提出しても後遺障害等級が認められなかったということを認識しなければなりません。

 「認められて当然」というようなケースであれば、1度目の申請で後遺障害等級が認定されたはずです。

 つまり、この時点で、認定できるかどうか微妙な部分があるということになります。

 異議申立てでは、この部分を補う方法は何かを考えることになります。

 この事案では、開放骨折後の骨折箇所の痛みというものでしたので、認定機関は、「この程度では痛みは残らないだろう」と考えたと推測することができます。

 ということは、こちらからは、「この状態からは痛みが生じてしかるべき」ということを示していく必要があります。

 痛みの原因を画像で証明できれば12級13号が認定されますし、証明できたとまでは言えなくても、医学的な説明が可能というレベルまで認められれば14級9号が認定されることになります。

 いずれにしても、骨折後の骨癒合の状態が決め手になりますので、ここを明らかにすることにしました。

 レントゲン・CT画像を正確に見るには、専門家の知識が必要となりますので(素人目で分かるようなものであれば、1度目の申請で認められている)、今回は外部の医師に協力を仰ぎ、意見書を作成してもらうことにしました。

 その結果、後遺障害等級14級9号が認定されました。

 逸失利益の計算も、杓子定規に計算すると金額が低くなるところでしたが、実態に合わせて計算方法を見直したことがポイントとなりました。

・関連記事

「後遺障害認定の異議申立て」

後遺障害14級9号【右肩関節痛・代表役員】裁判で約110万円→約550万円

2022-09-22

事案の概要

 事故状況は、被害者が自動車を運転して優先道路の交差点を直進していたところ、右方から交差点に進入した車が衝突してきたというものです。

 被害者は、右肩腱板損傷や頚部挫傷といった診断名で約1年間通院をしたものの、右肩関節痛の症状が残存し、後遺障害の事前認定を受けた結果14級が認定されたものの、保険会社の示談金の提示額が低かったためご相談となりました。

当事務所の活動

 既に後遺障害認定済みの事案で、特に異議申立てのご希望もなかったため、すぐに示談交渉を開始しました。

 元々保険会社(正確には共済)が示していた金額は、他の事案と比較しても著しく低く、後遺障害部分については自賠責保険の定額分のみというものでした。

 当事務所で示談交渉をした結果、2.5倍ほどにはなりましたが、通常想定される賠償金の額よりも非常に低かったため、裁判での解決を求めることになりました。

 結果として、裁判所から和解案が提示され、それを双方が受け入れる形で解決することができ、金額も当初の約5倍となりました。

ポイント

 この裁判では多くの争点がありましたが、大きなポイントは、会社の代表取締役であったというところにありました。

 会社役員の場合、一般的な給与所得者(サラリーマン)とは大きく異なる以下の3つの点があります。

 1つ目は、使用者側の立場ですので、出退勤が厳しく管理されていないということです。

 2つ目は、役員の場合、仕事を休んでも報酬が減額されないことが多いことです。

 3つ目は、賠償金の計算をするときに、実務上、役員報酬額の全額を対象とするとは限らないということです。

 →詳しくは「社長・役員の休業損害(休業補償)の交渉」

 

 本件では、被害者が日常的に行っている業務の内容と事故後の変化、後遺症が残ったという事実やカルテの記載、会社の構成や他の従業員の給与の額といったことを示しながら、実際に仕事に支障が生じていること、報酬の中の労働対価部分の証明を行いました。

 また、休業損害については、役員報酬の減額がなかったため、本来であれば反射損害として会社から請求を出すべきところだったと思いますが、本件では、被害者がいわゆる一人会社の株主兼社長という特徴があったため、そのまま被害者個人の損害として認めてもらうことができました。

まとめ

 保険会社は、役員であるというだけの理由で休業損害や逸失利益の存在を否定してくる場合があります。

 しかし、難しい問題はあるものの、実際に休業や業務への支障が生じているのに、これが認められないということはありません。

 役員の休業損害・逸失利益は、賠償上何がどういった理由で問題となるのかをよく理解した上で、資料を示しながら適切に自分の主張を整理する必要があります。

 この交渉は難しいものとなることが多いので、弁護士にお任せください。

後遺障害併合14級【頚部、腰部、左肩痛・無職】で約170万円を獲得

2022-08-19

事案の概要

 事故状況は、被害者が自動車を運転して道路を直進していたところ、左側の路外施設から出てきた車が側面に衝突してきたというものです。

 被害者は、頚椎捻挫、腰椎椎間板障害、左肩関節捻挫といった傷害を負い、事故から半年を経過しても症状が消失せず、今後について不安に思われたためご依頼となりました。

当事務所の活動

 痛み等の症状が強く残っていたため、まずは後遺障害の認定を受けることとなりました。

 申請の際は、車の破損状況から、被害車両に強い衝撃が加わったことがうかがわれたため、その写真を添付することとしました。

 申請の結果、頚部、腰部、左肩の症状について、それぞれ後遺障害14級9号の認定を受けることができました。

 被害者は高齢で無職であり、就労の予定もなかったため、逸失利益の請求はありませんでしたが、結果として、治療費を除き約170万円を獲得することができました(自賠責保険金を含む)。

ポイント

 この事案は、後遺障害診断書の記載を見る限りでは、特筆すべき記載はなく、通院期間が若干長くなっていたものの、実通院日数は50日とそれほど多くもなく、後遺障害等級の認定が受けられない可能性もあった事案でした。

 結果的に後遺障害の認定を受けることができたのは、事故の衝撃が大きかったことがうかがわれるという点に加え、被害者が高齢で、レントゲン、MRIの画像上、症状が長引くことを裏付けるような所見が得られたということが考慮されたのではないかと思います(認定理由には詳細は記載されないため、正確なところは不明です)。

 最近では、後遺症が残っていても後遺障害の認定が受けられないということも少なからずありますが、後遺症が残ることについて納得のいく説明ができるようなケースであれば、認定が受けられることを示す事案でした。

 また、本件の後遺障害診断書の記載は、非常に簡素なもので、特記事項としては、MRI所見で、軽度のヘルニアがあるという程度で、その他は、特に異常なしといったことしか書いておらず、後遺障害診断書だけを見れば、何ら有利なことは書かれていないといって良いような内容でした。

 そのため、14級9号の認定がされるかどうかは、後遺障害診断書の記載のみで決まるものではないということを再確認させられた事案でもありました。

後遺障害併合11級【鎖骨変形・左肩機能障害】で約730万円→約1500万円

2022-07-26

事案の概要

 事故状況は、友人が運転する車の助手席に被害者が乗っていたところ、運転手が意識を失って信号機に衝突したというものでした。

 被害者は、右肩鎖関節脱臼、左肩腱板断裂などの傷害を負い、治療を約20か月間にわたっておこなったものの、鎖骨変形のほか、左肩の関節機能障害が残存し、それぞれ、「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号と左肩関節に「機能に障害を残すもの」として後遺障害12級6号が認定されることとなりました。

 9~13級の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合ですので、重い方の(今回は同じ等級ですが)等級を1級繰り上げることになるため、併合11級となります。

 まずは、人身傷害保険で金額を算出してもらったところ、最終の支払額が730万円という結果になりました。

 この金額の妥当性をチェックするため、ご相談となりました。

当事務所の活動

 まず、上記のとおり本件は人身傷害保険で対応されていましたが、対人保険でも対応可能な案件でしたので、対人賠償での対応に切り替えてもらいました(人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法が約款で定められており増額が見込めません)。

 交渉を行った結果、慰謝料や逸失利益が大幅に増額し、最終支払額が約1500万円となり、2倍強での解決となりました。

ポイント

鎖骨変形

 本件は、類型的に後遺障害逸失利益が問題となる「鎖骨変形」(後遺障害等級12級5号)が後遺障害に含まれていたため、この点が交渉でのポイントになります。

 鎖骨は、変形があったとしても日常生活や労働に支障はないのではないかという指摘があり、裁判上も、等級表どおりに労働能力喪失率が認定されないケースがあります。

 そのため、本件のように他にも後遺障害がある場合には、その後遺障害を元に逸失利益を計算されるにとどまり、鎖骨変形分は考慮されないということがあり得ます。

 本件の場合、別の後遺障害が左肩関節の機能障害の後遺障害等級12級6号であり、この障害は、通常労働能力喪失率や労働能力喪失期間が問題になることは少ないため、この等級に基づき労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間は67歳までとされる可能性があります。

 しかし、本件の交渉では労働能力喪失率については20%とすることを特に争われませんでしたので、労働能力喪失期間が問題となりました。

※関連記事

鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

基礎収入の考え方

 また、逸失利益の基礎収入の部分が、人身傷害保険の考え方に基づいて、実収入よりも高い平均賃金が用いられていましたので、この点が元々被害者にとって有利になっていました。

 裁判基準で逸失利益を計算する場合、若年の労働者などでなければ、通常は事故前年の年収をベースに計算します。

 この点をどう考慮すべきがが悩ましい問題でした。

減収がない場合の逸失利益

 本件は、上記のような点の他に、依頼者にとって不利になり得る事情として、事故後に減収がなく、むしろ収入が増えているという事情がありました。

 実務上、減収がないからいって逸失利益自体がゼロということにはならないのが通例ですが、それでも、認定される金額が減少することは少なからずあります。

最終的な示談金額

 上記のような点を総合的に考慮して、逸失利益の額を当初約490万円とされていたところを、約930万円とすることで示談としました。

 この金額ですが、基礎収入を平均賃金ではなく実年収をベースに、11級の労働能力喪失率で67歳までで計算した額とほぼ変わらないものでしたので、裁判をした場合、この金額を下回ることも考えられました。

 本件は、妥当な落としどころを考える際に、実務上の様々な考え方を知っておかなければならず、結論的にはいい示談ができたのではないかと思います。

後遺障害14級9号【むち打ち・主婦】で約330万円獲得(治療費除く)

2022-07-21

事案の概要

 事故状況は,被害車両が交差点の停止線の手前で停止していたところ、加害者が運転する大型トラックが後退してきて、被害車両の前部に衝突したというものです(逆突事故)。

当事務所の活動

 被害者は、事故により首・腰の痛みのほか、耳鳴り、手先のしびれ等を訴え、仕事や家事に支障が出ていました。また、約9カ月の治療を経ても首の痛みなどがなくならなかったため(腰痛は完治)、後遺障害の申請を行いました

 その結果、首の痛みなどについて、後遺障害14級9号が認定されることになりました。

 この認定結果を踏まえて、相手の保険会社との交渉を行ったところ、治療費を除き、約330万円を受け取ることができました(後遺障害の自賠責保険金75万円を含む)。

ポイント

後遺障害認定

 本件は、前方からぶつけられるという、いわゆる逆突事故にあたり、後遺障害の認定は難しいかもしれないと思ったのですが、加害車両がトラックであり、被害車両の損傷を見ると内部骨格部分の変形も確認できたため、車両写真を添付して後遺障害の申請を行い、それが効果的だったのかは分かりませんが、認定を受けることができました。

示談交渉

 示談金額については、通院を9か月と若干長めに認定されており、その分慰謝料の額も相場よりも多少高く認定されることになりました。また、逸失利益も請求額を満額認められています。

 主婦の休業損害部分は判断が分かれるところだと思いますが、仕事の休みはなかった中で50万円弱が認定されましたので、全体で見ると良い示談ができたのではないかと思います。

 本件は、主婦の被害者がむち打ち症で後遺障害14級9号が認定された場合の典型的なケースの1つです。

後遺障害14級9号【むち打ち・主婦】で約350万円獲得(治療費除く)

2022-07-14

事案の概要

 事故状況は,被害車両が交差点を直進しようとしたところ、対向右折車が衝突してきたというものです。

当事務所の活動

 被害者は、事故により首・腰の痛みのほか、手のしびれ等を訴え、家事にも支障が出ていました。また、約9カ月の治療を経ても痛みなどがなくならなかったため、後遺障害の申請を行いました。

 その結果、首の痛みなどについて、後遺障害14級9号が認定されることになりました。腰痛については、別件事故で既に後遺障害14級9号が認定されており、加重障害には該当しなかったため、今回の事故での認定はありませんでした。

 この認定結果を踏まえて、相手の保険会社との交渉を行ったところ、治療費を除き、約350万円を受け取ることができました(後遺障害の自賠責保険金75万円を含む)。

 なお、後遺障害の慰謝料と逸失利益については、当方の請求の満額が支払われました。

ポイント

 本件は、保険会社の対応が悪くなく、通院9か月、後遺障害部分の賠償も満額、主婦の休業損害部分も50万円超という結果でした。

 主婦の休業損害部分は、裁判をしてもかなり幅が出るところですので、トータルで見るといい示談ができたと思います。

 腰の既存障害の部分ですが、骨折等はなかったため、仮に後遺障害等級が認定されたとしても14級9号ですので、併せて併合14級になるのみで、結論に影響はなかったと考えられます。

 また、首と腰は別部位ですので、既存障害を特に考慮することなく、通常どおり請求をすべきところです(厳密に言うと、主婦の休業損害ですので、既存障害を考慮する余地がないわけではないのですが、前回事故から10年近く経過していたため、いずれにせよ本件の場合は考慮すべきではないでしょう)。

 この点について、弁護士によっては違った見解を持つこともあるようですので、比較していただく場合に参考にしていただければ幸いです。

後遺障害14級9号【頚椎・腰椎捻挫後の疼痛】で約120万円→340万円

2022-07-13

事案の概要

 事故状況は,被害者が自転車で横断歩道を走行中、自動車にひかれたというもので、被害者は、頚椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負いました。

依頼の経緯

 本件は、ご相談前に既に事前認定により頚椎捻挫と腰椎捻挫にそれぞれ後遺障害14級9号(併合14級)が認定されており、それに基づいて、保険会社から、最終の支払額を約120万円とする示談金の提示がされていました。

 この示談金額が妥当かどうかということでご相談に来られました。

当事務所の活動

 弁護士が保険会社の提示額をチェックしたところ、入通院に関する慰謝料の額が低いことに加え、後遺症部分の賠償が75万円となっており、相場からすると著しく低くなっていました。

 この後遺症部分の75万円というのは、自賠責保険の14級の定額部分と同じ金額であり、上乗せ保険である任意保険としての支払は0円であることを意味しています。

 本件の特徴として、今回の事故の何年か前に、別の事故で怪我をして、その部分で後遺障害等級の認定を受けていたということがありました(怪我の場所は今回とは別)。

 しかし、伺った事情からすると、十分に増額が見込まれたため、見込み額をご案内した上で、示談金の増額交渉を行うことになりました。

 その結果、当初の約120万円から最終支払額340万円となって示談することができました。

ポイント

 上記のとおり、本件は事故の前に後遺障害等級の認定を受けていたというところに特徴がありました。

 この点に関連して当事務所の来られる前に別の交通事故に強いことをうたう事務所に相談したところ、そのような場合は後遺障害逸失利益が認められない可能性があるとの回答をされたそうです。

 しかし、後遺障害の逸失利益は、事故前年の年収をベースに計算することになるのですが、この事故前年の年収は、前回の事故の後遺症があることを前提に稼いだお金です。

 言い換えると、事故前年の年収について、前回の事故での後遺症がなければ、より大きな収入が得られていたかもしれないのです。

 したがって、それ以上に前回事故の後遺症を理由に減額すべきではありません。

 また、同一部位を怪我した場合、そもそも加重障害といって、前回後遺障害等級の認定を受けたときよりも上位の等級に該当しなければ、自賠責保険の後遺障害等級に認定されないことになりますが、それとも異なります。

 この点については、厳密に考えると、後遺障害等級や労働能力喪失率は、健常な人を基準に定められたものなので、後遺症を元々持っていた人にそのまま当てはめることはできないのではないかという議論も一応あります。

 しかし、既に述べたように、後遺症があることを前提としても実際に稼ぐ力があって、その年収をベースに逸失利益を計算しているのですから、それ以上に減額をする必要はないでしょう。

 実務上も、保険会社はそのような減額までは考えていません。

 前述のような別の弁護士によるアドバイスは、このような議論を知らないで行ったのか、敢えて見込みを消極的に答えたのかは分かりませんが、実務の相場とは異なるものと言えるでしょう。

 たしかに、この点は若干マイナーな問題で、交通事故を専門的に扱っていないと判断に迷う部分であるとは思います(同一部位の場合は、自賠責保険の認定段階で問題なるので、比較的よく知られていると思います)。

 当事務所では、セカンドオピニオンも承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

後遺障害14級9号【異議申立】で約340万円(治療費除く)獲得

2022-07-11

事案の概要

 事故状況は,丁字路交差点の優先道路を被害車両が直進中、左側の道路から交差点に進入してきた加害車両が衝突したというもので、被害者は、頚椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負いました。

治療中の経過

 頚椎捻挫・腰椎捻挫は、交通事故で最も多い傷病名ですが、本件の場合、症状が比較的強く出ており、トリガーポイント注射を打つなどして症状の緩和に努めていました。しかし、約11か月の通院にもかかわらず、症状は完全に消失することなく、首・腰痛などが残存することとなりました。

被害者請求(1回目)

 上記のとおり、後遺症が残ることとなったため、まずは後遺障害について被害者請求を行うことにしました。

 しかし、1回目の申請では、自賠責保険の後遺障害には該当しないという結果となってしまいました。

 事故自体は、軽いとまでは言えないものの、車のフレームまで損傷していたわけではなく、怪我の内容からしても、後遺症が残るほどのものではないと判断された可能性がありました。

異議申立て

 本件には特殊性があり、依頼を受けた事故の2か月ほど前に別の事故により同一部位を損傷して治療中だったところに、新たに事故が起きたというものでした。

 こういった事故のことを、保険の用語では「異時共同不法行為」と呼んでいます。

 法律の用語でも共同不法行為というものがありますが、内容は別のものです。

 「異時共同不法行為」の場合、保険会社の考え方では、2事故目が発生した段階で1事故目の加害者は対応を終え、以後は2事故目の保険会社が治療終了まで対応することになります。

 本件も、1事故目については別の弁護士が示談をしていました(このような示談は、法律的な観点からはリスクがあるのですが、ここでは割愛します)。

 そのため、弊所でも基本的には2事故目に着目して対応をしていたのですが、後遺症が残ったことについて1事故目の影響があったことも否定できませんでした。

 また、MRIの画像上、はっきりとヘルニアが確認できるというのも特徴的でした。

 そこで、改めて、1事故目の資料を一式取り付けて異議申立てを行うとともに、1事故目についても同時に被害者請求を行い、弁護士の意見書も添付することにしました。

 その結果、後遺障害として認められ、後遺症部分について賠償を受けることができました。

 また、本件は休業損害の額が比較的大きかったのですが、後遺障害の認定が受けられたことで、比較的高額の賠償を受けることができました。

ポイント

 異議申立ては、一般的には成功の可能性が低いものです。

 なぜなら、初回の請求時に診断書・診療報酬明細書、画像資料といった、認定のために必要な資料を一式提出しているからです。

 また、後遺障害14級9号は、被害者が訴えている症状が、「医学的に説明のつくもの」であることが必要です。言い換えると、1回目の申請では症状が残っていることが医学的に説明がつかないと判断されたことになります。

 そうすると、異議申立てでは、通常の資料だけでは「医学的に説明がつかない」とされた後遺症について、「医学的に説明がつく」ということを訴えていかなければなりません。

 通常の資料では足りないわけですので、その事案に特徴的な、後遺症が残ってもおかしくないことを示す資料を探す必要があります。

 そうすると、事故が2回重なることで、通常なら治ったはずの怪我が治りにくくなるということは十分あり得ますし、1事故目の方が衝撃が強かったなどの事情があれば、そのことを積極的にアピールしていく必要があるでしょう(今回のケースでは、そこまでの事情は確認できませんでした)。

 保険会社の考え方にしたがって1事故目で示談をしている場合、2事故目の後遺障害の申請でも1事故目のことは特に気にしないかもしれません。

 しかし、1事故目も含めてトータルで考えることで初めて後遺症が「医学的に説明がつく」といえるケースもあり得ますので、改めて1事故目の影響がどうだったのか検討してみる必要があります。

夏季休暇のお知らせ

2022-07-08

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて,誠に勝手ながら弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2022年8月9日(火)~2022年8月14日(日)

「物損は受けられない」の意味

2022-07-07

 「交通事故に強い」、「交通事故専門」をうたう弁護士のホームページは、最近は数多くありますが、その中に、「物損のみのご相談は受け付けていません」といった注意書きが書かれていることがあります。

 弊所でも、現在、物損のみの事案については、基本的にご相談をお受けしておりません。

 その理由を結論から申し上げますと、物損で揉めている場合、①人身事故よりも解決までに時間がかかるケースの割合が多く、時間に見合った費用を頂くと被害者にとって経済的メリットがない、②法律的な考え方(裁判所の考え方)に従えば、被害者の要求が認められないことが少なくない(=泣き寝入りになる、納得のいく解決が望めない)ためです。

 なぜ、弁護士は物損のみの依頼を受けることができないところが多いのか、この点についてご説明します。

よくある誤解

 この点について、「弁護士が儲からないから受けられないのではないか」と思われることがあるようです。

 これは、実際にお話を伺っていても、「こんな小さな案件だと受けてもらえないですか?」と聞かれることも多いですし、他の法律事務所の口コミを見ても、「儲からないから雑に扱われた」といったことが書き込まれていることがあるようですので、そういう印象を持たれている方は実際に多いのでしょう。

 しかし、これには一部誤解があります。

 弁護士の報酬は事件の内容に応じて弁護士が自由に設定することができますので、どんな案件でも弁護士に利益が出るような料金を設定することができます。したがって、弁護士が儲からないから受けられないということはあり得ないともいえます。

 例えば、1万円を請求する事案でも、時間や手間がかかると思えば、50万円の費用を設定してもよいわけです(実際に過失割合で争いが生じている場合、裁判をして解決するまでの執務時間が数十時間に及ぶというケースも少なくありません)。

 もちろん、1万円を請求するために50万円を払うという人はほとんどいないと思いますので、実際には契約が成立することはないでしょう。儲からないから受けられないということがあったとしても、その意味は、「依頼者が儲からない(利益がない)から受けられない」ということになります。

実際の料金設定

 実際の弁護士費用の設定は、上記のように費用を50万円といった定額で定めるというよりも、タイムチャージといって、弁護士の執務時間に応じて報酬を受け取るという方式をとることが多いです。

 弁護士特約でもこの方式は認められていて、その場合の費用は1時間当たり2万円(税別)となっています。

 また、時間の上限は30時間となっていますが、裁判をしてもその程度で収まることが多いことに加え、事情があれば延長も可能です。

 弁護士の側から見れば、タイムチャージ制であれば、事件をお受けしても赤字になるということは通常ありませんので、「少額だから受けられない」ということはないのです。(※事務所によっては、多額の経費により、タイムチャージ制では利益が出ないということもあり得るかもしれません…)

 したがって、少なくとも弁護士特約に加入されているケースであれば、費用面の問題からお受けできないということはあまりありません(逆に言うと、弁護士特約に未加入の場合、タイムチャージ制をとると被害者の方にとって経済的にマイナスとなることが多いと思われますので、費用面からお受けすることができません)。

 それにもかかわらず、弁護士特約に加入されている場合でも、「物損のみの場合にお受けできない」というのは、費用面以外の理由があるのです。

物損は被害者の納得感が得られにくい

 物損で保険会社との間でもめることがあるとすると、代表的なものは以下のものになります。

 ①過失割合

 ②車両の時価額

 ③代車代

 ④評価損

過失割合

 物損で争いが生じている場合、大部分が過失割合に関するものといってよいでしょう。

 まず、過失割合については、実務上、相場というものがある程度固まってきているところですので、事故状況自体にあらそいがなく、被害者がこの相場そのものに納得できないという場合、結果を覆すことは困難です。

 これに対し、過失割合の前提となる事故状況について、事故の加害者が事実とは違うとんでもないことを言っていることもあるでしょう。しかし、事故状況に争いがある場合、ドライブレコーダーのようなものがなければ、自分の訴えたい事故状況を証明するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

 どんなに相手が間違ったことを言っていても、こちらの言い分が正しいことを証明できるものがなければ、保険会社や裁判所を説得することはできないのです。

 「被害者が泣き寝入りするのはおかしい!」と思われるかもしれません(その感覚は理解できます)。しかし、第三者から見ると、どちらが被害者なのかを知る手がかりがないのです。

 厳密には、ドライブレコーダーのようなものがなくても、車の破損状況からおおよその事故状況を証明できることもありますが、そのように都合のよい形で傷が残されていることは多くありません。

 交渉で過失割合を修正できる典型例は、基本の過失割合を修正できるような特殊な事情があって、保険会社がそのことを見落としているような場合です。

 この点について、被害者の方がよく述べられるのは、ご自身が認識している事実を前提に、「ここにこういう傷がついているということは、事故状況は自分が言っていることが正しいということの証拠だ」というものです。

 しかし、ほとんどのケースで、そのような訴えの前提に、ご自身の考え・認識といった証拠では明らかになっていないものが使われており、机上の空論となっています。仮に、決定的な証拠があるのであれば、そこまで争いになっていないはずです。

車両の時価額

 車両の時価額で争いになった場合も難しい問題があります。中古車の時価額を知るための参考資料として「レッドブック」というものがありますが、ここに掲載されている金額が正しいものとは限りません。

 そこで、レッドブックの価格に納得できない場合、時価額を算出するための資料を被害者側で用意しなければなりません。

 多くの場合、インターネット上の売出価格を元に算出し、それによって示談することもありますが、これはあくまでも売出価格であって成約価格ではないという問題や、実際に売られている車は、オプションの有無などに違いがあり、事故車と同種のものとは言い難いものが含まれているという問題があります。

 さらに、年式が古い車の場合、レッドブックに掲載すらされておらず、インターネットで検索しても数台しかヒットしないようなこともあり、そのようなケースではデータの数として十分とは言えず、車両の状態にも大きな差があるため、適正額を定めるのは一層難しくなります。

 このように車両の適正な時価額を厳密に証明するというのは簡単なことではありません。

 特に、年式が10年以上前の車種の場合、実際に買い替えようとすると、交渉を行ったとしても、そこで得られる賠償金では不足するというケースが少なからずあります。

 ここで問題となる車両の時価額とは、本人にとって物理的に移動手段として価値があるかどうかではなく、あくまでも第三者から見て経済的な価値があるかどうかです。移動手段としては十分利用できる場合でも、第三者から見ればほとんど価値がないということがあり得ますが、そうした場合、被害者の納得感の得られる賠償を受けることは難しいのです。

代車代

 代車代も悩ましい問題があります。被害者からすると、「必要があって借りたのだから賠償されるのは当然」と考えるでしょう。しかし、それほど簡単な話ではありません。

 通常の修理可能な案件で、過失割合に争いがないようなケースでは、保険会社のアジャスターが損害確認を行い、修理工場と協定を結んで、速やかに修理が行われ、その間に代車が必要になれば、代車代も支払われます。

 保険会社によっては、過失が0:100でなければ払えないというところもありますが、この点は交渉で支払いを受けられるようにすることもそこまで難しくありません。

 問題は、上で述べた過失割合や車両の時価額で争いがある場合です。

 被害者からすると、「保険会社がおかしいことを言って交渉が長引いているのだから、その間に代車が必要になれば、それを保険会社が支払うのは当然」と思われるでしょう。

 しかし、結果的にどちらがおかしいかは裁判をしてみなければ分からないことです。

 また、賠償の基本は、被害者に生じた損害の実費清算なので、交渉に時間がかかりそうな場合、修理や買い替えを先行させて、立て替えた費用を後日相手方に清算してもらうことも可能です。

 そのため、裁判上(法律上)、過失割合などの交渉に長期間の時間を要したとしても、その間の代車代を相手方に負担させることは困難です(相手方が調査をした後も全損か分損かの報告を怠っていたとか、事務的な遅れがあるような場合は別)。

 他にも、高額な車が事故に遭ったとき、同様のグレードで代車を借りたいという気持ちは理解できるのですが、それをした場合、裁判をしても全額が認められないという可能性があります。

時間的な問題

 上記の代車代との関係で、被害者がしっかり交渉を行いたい場合(弁護士に依頼するということはそういうケースだと思います)、先に自費で修理代や車の買い替え費用を捻出しなければならないのですが、金額が大きくなることもあり、何より被害者が負担しなければならないことへの抵抗感から、これに納得できないということは多いです。

 例えば、「修理代金が100万円になったが、過失割合が0:100か20:80なのかで揉めている」というようなケースがあったとします。

 この場合、事案にもよりますが、保険会社が20:80を提案してきているところを交渉で0:100にしていくのは難しいことが多く、刑事記録を取得する、裁判をする、といったことをしなければならないことも少なくありません。

 このとき、刑事記録を取得して交渉をしたり、裁判をしている時間に代車を借り続けたとすると、代車代が100%加害者から支払われるということは期待できません。

 仮に、相手との間の見解に開きが大きく、その点について一切譲歩できないという場合、修理代や車の買い替えの費用はご自身で立て替えていただく必要があります。

 この点は、例えば、被害に遭った車が修理せずに自走できるとか、家族の車を使用するから代車は必要ないといった場合には問題となりません。

 しかし、生活に必須となる車が事故に遭って動かせない場合、上記のとおり修理や車の買い替えを自費で行うことを覚悟していただく必要があるのです。

 弊所で物損の依頼を受けられないことが多い理由としては、この点が大きいです。

 弁護士にご依頼いただいて交渉を行う場合、状況にもよりますが、交渉に時間がかかることもあります。また、できるだけ時間のロスを少なくするために1つの事案への対応を最優先するとなると、他の事案への対応が遅れることにもなりかねません。

 したがって、物損については、費用を他の事案よりも多めにいただく必要があるのですが(基本的に弁護士特約ではカバーしきれません)、そうすると結局被害者にとって不利益となりますので、端的に「物損については依頼を受けられない」としているのです。

評価損

 これは、あまり争いになることは多くないのですが、修理をしても、事故車扱いとなって売却価格が下がってしまうことを損害として相手に請求するものです。

 最近では、残価設定ローンにより、車の買取りが予定されていることも多く、価格の下落が現実的にマイナスとなるため、問題となることが増えています。

 この点については、裁判上(法律上)の取り扱いは厳しく、外国車や国産の高級車であり、初度登録から間もない事故で、損傷の程度も一定以上のものであるといった条件をクリアしていなければ認められない傾向にあります。

 実際、評価損は、事故車を買い替えるときにはじめて経済的なマイナスが生じるのであり、それがいつになるか分からず、したがって、このマイナスの額がいくらになるかも分かりません。廃車になるまで乗り続けるという人もいると思いますが、そうした場合、評価損が表面化することはありません。

 したがって、評価損は当然に認められるものではないのですが、この点でも納得が得られないことが多いでしょう。

まとめ

 以上のように、物損の場合、被害者にとって納得が得られないケースが多く、「物損のみは受けられない」という場合、これがその理由となっていることが多いのです。

 既に述べたように、料金面では、弁護士特約を利用するなどすれば、問題なく依頼をお受けすることは可能です。

 しかし、せっかくご依頼いただいても、納得の得られない結果に終わる可能性が高いのだとすると、何のために弁護士に依頼するのか分かりません。

 しかも、その理由が、法律的な考え方や、時価額の問題等そもそも完璧な資料が存在していないという、弁護士の努力では如何ともしがたい部分による場合が多いので、費用面で問題がなかったとしても、どうしても初めからお断りするケースが多くなってしまうのです。

 

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