交通事故と消滅時効

2023-10-20

2つの時効期間

 一般的にはあまり知られていないと思いますが、交通事故の損害賠償請求の権利は、一定期間放置しておくと時効が成立し、行使することができなくなります。

 このように、法律で定められた一定の間、権利行使をしないことにより権利が消滅してしまうという制度のことを消滅時効といいます。

 交通事故の場合の損害請求の基礎となるのは、民法で規定されている不法行為ですが、不法行為の消滅時効期間は2つあり、1つは被害者(又はその法定代理人)が損害及び加害者を知った時から3年間、もう1つは不法行為の時から20年間です(民法724条)。

短期消滅時効

 上記の3年の時効期間のことを短期消滅時効といいます。

 これについては、2020年3月31日以前の改正民法施行前の事故については、人身損害と物件損害の区別によって違いがありませんでした。

 しかし、2020年4月1日の改正民法施行後は、両者を区別し、生命身体に対する不法行為に関しては、5年となっています(民法724条の2)。

 また、それ以前に発生した事故についても、経過措置(附則35条2項)により、2020年4月1日時点で5年が経過していなければ、消滅時効は成立しません。

 したがって、2017年4月1以降に「被害者(又はその法定代理人)が損害及び加害者を知った」場合、人身損害の消滅時効の期間は3年ではなく5年ということになります。

 これに対し、物件損害の場合、民法改正による違いはなく、3年で時効により権利が消滅してしまいます。

 この3年間(5年間)の時効については、もしかするとご存じの方もいるかもしれませんし、一般的によく問題になるのはこちらの方です。

 この3年(5年)の期間については、あくまでも被害者が損害や加害者を知った時からなので、スタートのタイミングをずらすことが可能です。例えば、一般的に怪我に関する損害賠償請求は、症状固定時期をスタートと解することが多く、必ずしも事故当日から5年以内に権利行使をしておかなければならないわけではありません(もっとも、早めに権利行使しておいた方がよいことは言うまでもありません)。

長期消滅時効

 20年の消滅時効は、「不法行為の時」からとされています。

 被害者側の認識に左右されないので、基本的にはスタートのタイミングをずらすことはできないと考えておいた方がよいでしょう。ただし、事故から損害の発生までに時間を要するような特殊な怪我を負った場合には、損害の発生時をもって起算点とされる余地があります。

民法改正前の除斥期間

 2020年4月1日の改正民法施行前の事故については、20年の期間制限が消滅時効ではなく、除斥期間といって、消滅時効よりも厳格で基本的に期限の延長などもできないものとされていました。

 また、権利行使の方法も、裁判外でもよいのか、裁判で行う必要があるのかも判例上明らかではなく、相手方による消滅時効の援用も必要ないとされているため、相手方が除斥期間の主張をすることが権利の濫用だとか主張することも困難でした。

 したがって、事情があって権利行使が遅れていたり、相手方との間で交渉が長引いていたような場合でも、事故のあったときから20年以内に裁判を起こさなければ権利が消滅してしまう可能性がありましたので、確実に事故から20年以内に裁判を起こす必要がありました。

 この点は、民法の改正によって消滅時効とされることになりましたので、相手方が賠償の責任自体は認めていれば債務の承認による時効期間の更新となると考えることができ、それでも不安な場合は、相手方との間で時効の完成を猶予することについて書面で合意することもできます。

 2020年3月31日以前の事故で、事故から長期間が経過している場合、この除斥期間の問題が生じますので注意しましょう。