自賠責保険と任意保険の違いについて
最近は,インターネットで交通事故の損害賠償に関する情報に容易にアクセスできるようになったこともあって,当事務所にご相談に来られる方も,基本的な情報についてインターネットで調べた上で,弁護士にも相談してみようということで相談に来られる方は多いです。
このホームページをご覧の方の中にも,あるいは,インターネットで自分で情報を得られるので,自分には交通事故の交渉について弁護士のサポートは不要だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,インターネットで得られる情報は,断片的で不正確なものも多く,弁護士の視点から見ると必ずしも的を射ていないものも少なくありません。
そこで今回は,今一つ分かりづらい自賠責保険と任意保険の違いについて千葉の皆様と一緒に見ていきたいと思います。
そもそも自賠責保険とは?
車に乗られる方であれば皆さん自賠責保険のことはご存知であるかと思いますが,自賠責保険は強制保険とされており,加入しないで自動車の運転をすると1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになります(自賠法86条の3第3号,同法5条)。
また,自賠責保険の場合は,公平で簡易迅速に被害者を救済することを目的としているため,事案ごとの事情について深く踏み込むことなく,補償の範囲は最低限度にとどまり,審査も定型的に処理がされるという点にも特徴があります。
自賠責保険は,加害者が加入する保険であるにもかかわらず被害者のための保険でもあるということと,最低限度の補償を迅速に行うところがポイントです。
自賠責保険と任意保険の違い
① 任意保険は自賠責保険の不足分をカバーするもの
任意保険は,被害者に生じた損害の内,自賠責保険によってカバーされない部分を補てんするため の保険です。
したがって,自賠責保険とはそもそも対象としている部分が違う,上乗せ部分の保険ということになります。
保険の約款上は,「自賠責保険等によって支払われる金額を超過する場合に限り,その超過額に対してのみ」対人賠償保険金を支払うなどとなっているところです。
② 自賠責保険は被害者保護のためのもの
任意保険は,基本的に加害者が多額の賠償金の負担を回避するために加入するものであるのに対し,自賠責保険は,むしろ被害者の保護を目的としているというところにも違いがあります(自賠法1条)。
そのため,任意保険に加入していなかったことによる不利益は自己責任になりますので,自賠責保険とは異なり,加入していなかったとしても罰せられるということはありません。
また,自賠責保険は被害者保護のための制度であるため,被害者が直接自賠責保険会社に対して賠償金の支払いを請求することができます(自賠法16条1項)。
このことを,被害者請求あるいは16条請求などと呼びます。
③ 任意保険による支払いでは,損害の認定が厳密に行われる
任意保険に加入していた場合,ほとんどのケースで賠償の範囲を無制限としていますので,その場合,事故によって生じた損害については,任意保険会社が基本的に全額賠償をしなければなりません。
そして,本来であれば,被害者ごとに生じる損害や事情は異なりますので,賠償すべき金額を算出するには,様々な事情を考慮した上で,争いがある事実については細かく認定していくことになります。
したがって,自賠責保険では,最低限度の補償を迅速に行うという観点から定型的に算出されていた賠償金額についても,任意保険会社が支払う場合には,事案に応じて妥当な金額はどの程度なのかを厳密に見ていくことになります。
④ 基準が異なる
ア 自賠責基準
自賠責保険は,加入していないことで罰則が科されるなど,取り扱いは民間の保険会社が行っているものの,実質的には,公的な色合いも強いものになります。
そのため,自賠責保険の支払基準は政令で定めることとされています(自賠法13条1項,16条の3第1項)。
また,自賠責保険は最低限度の補償を行う強制加入の保険であることから,基準を満たすものを無制限に支払うわけではなく,上限額が設けられています。
具体的には,傷害部分については120万円までとされており,後遺障害部分についても,認定された後遺障害等級に応じて,14級なら75万円,13級なら139万円といった上限が設けられています。
ここでのポイントは,基準と上限額は区別して考えるべきであるということです。
具体的に言うと,計算上の基準にしたがって計算した金額が上限額よりも大きくなり,全額の支払いが受けられないということがあります。
また,イレギュラーな場面としては,上記の例とは反対に基準にしたがって計算した額よりも上限額の方が大きく,そのままで自賠保険から上限額一杯の支払いが受けられないというときに,裁判等を行うことにより,余った枠の分について支払いを受けられるようにするということもありえます(最高裁平成18年3月30日判決参照)。
イ 任意保険基準?
任意保険の場合,前述のとおり,賠償の範囲が無制限とされていることが多いので,支払うべき金額は,「法律上賠償の義務を負う範囲」ということになります。
これは,法律を元に裁判所が認定する金額とイコールですので,保険会社としては,賠償の範囲が無制限とされている場合,裁判所が認めるであろう金額については全額支払わなければなりません。
つまり,任意保険会社が独自に設定した基準で定型的に支払えばいいというわけでなく,個々の事案に応じて裁判の相場にしたがった金額を支払う必要があります。
この点で,定型的な基準にしたがって支払えば済む自賠責保険の場合とは大きく異なります。
まとめ
今回は,自賠責保険と任意保険の違いについて簡単に見てみました。
ポイントは,自賠責保険は,被害者救済のために,公平かつ簡易迅速に,最低限の補償を行うために定型処理されるのに対し,任意保険は,加害者の賠償リスクを回避するための保険で,法律上賠償の義務があるものについてはしっかりと支払いをしなければならないということです。
次回は,自賠責保険との関係でよくある誤解について見てみたいと思います。