圧迫骨折と11級7号の認定・示談のポイント

2017-01-18

 交通事故で怪我を負った場合,治療を行ってもどうしても元通りとはいかず,後遺症(後遺障害)が残ってしまうことがあります。

 後遺症に関する損害賠償の請求方法には,ある程度決まった方式があるのですが,内容によってはどうしても定型通りに処理することが難しいものもあります。

 今回は,その中でも比較的よく見られる圧迫骨折について後遺障害等級11級7号が認定された場合について,等級の認定の段階と損害賠償請求の段階における逸失利益や慰謝料といった損害賠償の弁護士による示談交渉・増額のポイントについて紹介したいと思います。

 

圧迫骨折とは?

 私たちの体には,身体を支える脊椎というものが存在しますが,この脊椎を構成する椎体というものに力が加わってつぶれてしまうことがあり,このことを圧迫骨折と呼んでいます。

 圧迫骨折は,若い人でも非常に強い力が加わることによって発生することがありますが,高齢になって骨粗しょう症になったりすると,それほど大きな力が加わらなくても日常生活における軽い転倒などによって発生することがあります。

 圧迫骨折自体がこのような性質を持っているため,特に高齢者の場合,事故で脊椎に衝撃が加わることで骨折が生じやすく,また骨折箇所が元通りとはならずに後遺症として残りやすいという特徴があります。

 

圧迫骨折で認定される可能性がある後遺障害等級

 実際に圧迫骨折となった場合,認定される後遺障害等級としては以下のものが考えられます。

 

変形障害

6級5号

脊柱に著しい変形を残すもの

8級相当

脊柱に中程度の変形を残すもの

11級7号

脊柱に変形を残すもの

 

 変形障害の各等級の区別は,後方椎体高と比較して前方椎体高がどの程度減少しているのか,後彎は発生しているか,コブ法による側彎度が50度以上か,回旋位,屈曲・伸展位の角度はどうなっているのかといった点に着目し,条件を満たしていれば,6級5号あるいは8級相当の後遺障害等級が認定されることになります。

 

運動障害

6級5号

脊柱に運動障害を残すもの

8級2号

脊柱に運動障害を残すもの

 

 運動障害の各等級の区別は,頸椎と胸腰椎の双方に圧迫骨折等が生じ,それにより頸部と胸腰部が強直したか(6級5号),頸椎又は胸腰椎のいずれかに圧迫骨折等が生じ,頸部又は胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたか(8級2号)といった点でなされることになります。

 

荷重機能障害

6級相当

荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合であって,頸部及び腰部の両方の保持に困難があり,常に硬性補装具を必要とするもの

8級相当

荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合であって,頸部又は腰部のいずれかの保持に困難があり,常に硬性補装具を必要とするもの

 

 荷重機能障害の区別は上記のとおりで,「荷重機能の障害の原因が明らかに認められる場合」とは,脊椎圧迫骨折・脱臼,脊柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化があり,それらがエックス線写真等により確認できる場合をいいます。

 運動障害の場合と共通することですが,これらの形式的要件を満たしていても,受傷の程度によっては,因果関係がない(硬性補装具の必要はない)として見込んだ等級の認定が受けられないということもありますので注意が必要です。

 

11級7号の認定とは

 11級7号の要件は以下のとおりです。

11級7号

①脊椎圧迫骨折を残しており,そのことがエックス線写真等により確認できるもの

②脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)

③3個以上の脊椎について,椎弓切除術等の椎弓形成術をうけたもの

 

 認定の要件は以上のとおりで,圧迫骨折の診断がされていれば,11級7号が認定されることが多いと言ってよいでしょう。

 しかし,既に述べたとおり,圧迫骨折は日常生活でも発生する可能性があり,事故によって生じたものであるかどうか(陳旧性のものかどうか)が問題となることもあります。

 この点については,事故直後にMRI検査を受けることにより,陳旧性のものかどうかを確認することができますので,圧迫骨折が疑われる場合は,早期にMRI検査を受けるようにしましょう。

 なお,今回対象としているのは,この中の①ですが,事故で発症したヘルニア等の治療法として脊椎の固定術が行われた場合には,②によって11級7号が認定されることになり,そのようなケースも比較的よく見られます。

 

弁護士による11級7号の示談交渉・増額のポイント

逸失利益の計算方法は?

 11級7号に限らず,後遺症に後遺障害等級が認定されると,慰謝料の他に逸失利益を請求することができますが,11級7号の場合,この逸失利益の賠償金額について争われることが多いのです。

 この点について詳しく見ていきましょう。

ⅰ 逸失利益の一般論

 逸失利益とは,後遺症によって仕事が以前のようにできなくなったことによる将来分を含めた減収に関する賠償のことをいいます。

 通常,後遺障害等級は,症状がこれ以上良くならない状態(症状固定)で,残った症状について認定されるものです。

 したがって,減収が見込まれる期間を仕事が可能な期間分について,症状固定時の障害の程度に応じて目一杯請求することになります(67歳までとするのが一般的)。

ⅱ 11級7号の場合

 上記一般論に対し,11級7号の場合,変形障害が残ったとしても,日常生活にそれほど支障がないというケースも多く,そもそも他の11級の後遺障害(例えば,手の人差し指,中指,薬指のいずれかを失った場合等)と同程度の労働能力の喪失があるのか,労働能力の喪失が一生涯続くものなのか,といった点について様々な議論があります。

 この点については,裁判上も判断が確定しているわけではないので,被害者の年齢や職業,骨折の部位・程度等を考慮して,具体的に見ていくほかありません。

 最近の裁判の傾向を見ていると,骨折後に痛みが残った場合の後遺障害等級である12級13号に準じて計算するようなケースが見られます。

 この場合,労働能力喪失率が20%→14%となり,労働能力喪失期間も,就労可能年限までではなく,若干減らされることがあります。

 ただし,基本的には,他の11級と同様の労働能力の喪失があるというのが基本的な考え方となりますので(2004年版赤い本下巻参照),安易に妥協することはできません。

 

慰謝料の額は?

 後遺症について11級が認定された場合のいわゆる裁判基準による慰謝料の相場は,420万円程度とされています。

 慰謝料については,逸失利益の場合とは異なり,圧迫骨折後の11級7号の場合であっても,この相場にしたがって支払われる傾向にあります。

 

まとめ

 圧迫骨折による11級7号のポイントは,事故によって生じたものであることを証明するためにまずはMRI検査を受けるということと,逸失利益の請求について何が問題となるのかを正確に把握しておくということにあります。

 なお,上記のような労働能力喪失の程度・期間については,厳密にいうと,11級7号に限らず争いになりやすいところではあります。

 しかし,11級7号の場合,裁判上も確定した考えがあるわけではなく,相手方から反論された場合,自身の見解を根拠を示しながら説得的に主張していくことが重要となってきます。

 そのため,交通事故によって圧迫骨折が診断された場合には,弁護士にご相談の上,適切に交渉を行っていくことをおすすめします。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」