主婦の休業補償が払われる場合と払われない場合

2026-05-26

主婦の休業補償とは

 交通事故で怪我をしたことが原因で仕事ができなくなれば、休業補償(厳密にいうと休業損害に対する賠償)が支払われます。

 これは主婦の場合でも同様で、交通事故による怪我が原因で家事の一部ができなくなれば、その分に対して休業補償が支払われます。

 しかし、主婦であれば必ずこの休業補償が支払われるかというとそういうわけではなく、不合理な扱いを受けることもあります。

 どういう場合に主婦の休業補償が支払われ、どのような場合には支払われないのか、最近の実務の動向を踏まえて弁護士が解説します。

支払いがあるかどうかを決める要素

 主婦の休業補償が支払われるかどうかを左右する要素としては、主に以下のものがあります。

・怪我の程度・治療状況

・家族内での家事の分担状況

・家事の他に仕事があるかどうか(兼業主婦)

・家事以外の仕事の休業状況

・家事以外の仕事の収入額

怪我の程度・治療状況

 言うまでもないかもしれませんが、例えば、かすり傷程度の怪我で、通院も含めて家事に何ら支障が生じていないような場合には休業損害は認められません。

 逆に、入院が必要となったり、怪我が重く、自宅で安静にしていなければならないような場合には家事はできなくなりますので、家事に関する休業補償の支払いを受けることは難しくありません。

 悩ましいのは、絶対安静というほどではないが、骨折等で身体の一部の動きに制限が生じていたり、負傷箇所の痛みやめまい等が生じて家事の一部ができなくなっているような場合です。

 この場合、実際にどのような家事に支障が生じているか、家事を休まなければならないような怪我の内容か、といった点を考慮して、どのくらいの割合で支障が生じているのかを判断することになります。通院による時間の制限も考慮する必要があります。

 具体的には、「家事労働の何%の制限が生じているのか」を確定して、その分単価を減額して計算することになります。

兼業主婦かどうか

 現代社会では、家事だけをする専業主婦の方はそれほど多くなく、正社員やパートの仕事をしながら家事もこなしているという方が少なくありません。

 このような方の場合には、家事以外の仕事で休業があれば、その休業に応じた補償を受けられます。

 しかし、仕事を休んだ分に対して補償が受けられたからといって、それまでしていた家事は問題なくできたということにはなりません。

 例えば、1日中安静にしていて、仕事はおろか家事も全くできなかったという場合、仕事と家事のそれぞれに休業が発生していることになります。

 そこで、仕事の休業分に家事の休業分を加算した額が賠償の対象となるのかが問題となりますが、これについては否定するのが判例です(最高裁昭和62年1月19日)。

家事以外の仕事の休業状況

 怪我自体の影響や通院によって家事には支障が出ていたものの、仕事は頑張って行っていたというケースではどのように考えられるのでしょうか。

 実際に被害者の方からお話を伺っていると、このようなことは多く、何も珍しいことではありません。

 一方で、「仕事が出来ていたのだから家事も出来ただろう」という理屈も分からないわけではありません。

 この点も悩ましいところなのですが、実務上は、次に述べる家事以外の収入の多さも踏まえて、家事労働に影響があったかどうかを判断する傾向にあります。

 また、パートタイム労働者か、フルタイム勤務なのかによっても違いが出てきます。

家事以外の収入の額

 被害者が家事以外にも仕事をしていた場合、実務上重視されているのは、その家事以外の仕事の収入額です。

 具体的には、家事以外の仕事の収入額が女性労働者の平均賃金(賃金センサス女性・学歴計・全年齢)と比較して高いかどうかを一つの目安として、これを上回る場合には、その仕事の休業分に対する補償のみで、別途家事労働への休業補償を支払わないというケースが少なくありません。

実務の傾向に対する評価

 このように、実務では、怪我の程度や元々の家事分担の内容を元にしつつ、兼業主婦の場合には、家事以外の仕事の状況によって補償額が決められる傾向にあります。

 しかし、率直に言って、これは現代社会における主婦の働き方が分かっていないものと言わざるをえないでしょう。

 最近では、女性でも高い所得を得ている人が少なくない一方で、賃金が低いパートタイム労働者として働いている人もいます。

 そして、高所得者の兼業主婦だから仕事だけをしているわけではなく、仕事に加え、例えば保育園の送り迎えをしながら、家に帰ったら料理や子供の寝かしつけをしたり、買い物をこなしていたりするのです。

 そのような中で、仕事を休むわけにはいかないので(高所得であればなおさら)、仕事はしつつ、通院に時間を取られるため子供の送り迎えは夫に頼んだり、料理をする時間がないので外食や出来合いの物を購入したりして、何とか調整をした上で、土日を休養にあてるといった形で何とか調整をしていたりするわけです。

 また、最近では在宅ワークも増えていて、在宅ワークは身体への負担は大きくないためこなすことができるが、家事のように体を動かす仕事はできないというケースもあるでしょう。

 また、現代では収入格差が大きく、時間当たりの賃金額に大きな隔たりがありますので、平均賃金を超えているからといって、フルタイムで働いているとも限りません。

 したがって、高収入であれば主婦業に対する補償はしなくてもよいなどという理屈は現実を知らない乱暴な議論というほかなく、実態に即していないと言ってよいと思います。

被害者がやるべきこと

 保険会社や裁判所の考え方が簡単に変わるとは言えません。

 ただ、兼業主婦の方が休業補償について請求しようと思えば、少なくとも、ご自身の損害がどのようなものなのかを説明できるようにしておく必要があります。

 具体的には、元々どのような家事をしていたのか、事故によってどういった家事ができなくなったか、そのとき身体に生じていた症状はどのようなものだったのか、通院1回あたりどの程度時間をとられていたか、といった点について、後で説明できなければいけません。

 したがって、こういった事項について日記などにまとめておくとよいでしょう。

 また、保険会社や裁判所は、通院先のカルテの記載内容を重視しています。家事に支障が出ているようであれば、そのことを医師にも話しておいていただき、それがカルテにも記載してもらえれば良いです。

まとめ

 このように、主婦の休業補償は、保険会社はもとより、裁判所の考え方も必ずしも妥当なものとはいえない面があり、実務上非常に難しい問題となっています。

 主婦の休業補償について適切に補償されることをお望みであれば、一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。