主婦の休業損害に関する様々な問題

2016-12-28

 前回は,交通事故による主婦の休業損害(休業補償)の基本的な考え方について述べました(「主婦の休業損害なら弁護士にご相談を」)。

 今回は,主婦の休業損害(休業補償)を請求するときに保険会社との交渉の際に問題になりやすいところで,前回触れていなかった点についていくつか見ていきたいと思います。

兼業主婦の場合

 かつては、主婦というと家事のみを行う専業主婦が多かったですが、現在では,主婦と言っても,家事にだけ専念するのではなく,家事をしながらもパートの仕事など家事以外の労働に従事して,収入を得ている場合の方がむしろ多くなっています。

 それでは,このような兼業主婦が交通事故に遭った場合の休業損害の計算はどのようになるのでしょうか?

計算方法

 前回見たように,専業主婦であっても休業によって財産的な損害が発生したと考えるとすると,兼業主婦の場合は,専業主婦としての損害に加えて,家事以外の仕事を休んだことによる損害分が加算されるように思えます。

 しかし,実務上は,このように2重に計算して合算するという方法は基本的に採られておらず,現実の収入額と女性労働者の平均賃金(賃金センサス)のいずれか高い方を基礎として計算することとされています。

主婦業とパートの仕事の違い

 基本的に24時間労働である家事労働は,交通事故によって負った怪我の症状が残り,通院を続けている限り,常に支障が生じる可能性があります。

 これに対して,パートタイマーとしての減収は,復帰をして仕事を休まなくなれば,それ以上発生することはありません。

 また,減収が生じているかどうかは,給与明細を見るか勤務先に問い合わせをすれば一目瞭然です。この点は,家事に対する支障がどの程度生じているのかが外部からは窺い知れないことと比較すると対照的です。

保険会社との示談交渉のポイント

 まず,保険会社から主張される可能性があるものとして考えられるのは,あくまでもパートの仕事として休業損害を認定することができるとして,主婦業のことを考慮しないというものです。

 ただ,この点は,上記のように,兼業主婦の場合でも主婦としての休業損害を考えることができることは実務上定着していますので,少なくとも弁護士が介入した後で保険会社がこちらの主張に全く応じないということは多くありません。

 実際によく問題となるのは,パートの仕事に復帰した後は主婦業にも支障はなかったとして,休業の期間について制限をしてくるということです。

 つまり,パートの仕事ができる以上は,家事も問題なくできただろうというわけです。

 しかし,実際には,パートは時間が限られていて,我慢をして仕事をするということもあり得ます。

 また,24時間労働の家事については,仮にパートの仕事に出ることはできたとしても,残った時間の中から通院をすればその分家事に支障が出ることは当然に起こり得ますし,夕飯を作ることができなかったり,他の家族に家事を手伝ってもらうことになったということもあり得ます。

 したがって,パートの仕事に復帰できたからといって,家事に全く支障がなくなるということにはなりませんので,この点は,きちんと説明をしていく必要があります。

 

男性の家事従事者の場合

 最近では,男性が専業主夫をするということも珍しくありませんが,この場合の休業損害の計算にあたって問題となることはあるのでしょうか?

(1) そもそも認められるのか

 保険会社によっては,これを簡単には認めないということもありますが,実務上は,男性でも問題なく認められるとされています(当然ではありますが…)。

(2) 計算方法は?

 女性の場合,女性労働者の平均賃金(賃金センサス)を用いて賠償額を計算していたため,男性の労働者の平均賃金を用いるのではないかとも思えるのですが,この点は,男性であっても女性労働者の平均賃金を用いることとされています。

 この点も,公平性という観点からは当然といえます。

 

同居する家族がいない場合

 同居する家族がいない場合でも,家事に支障が生じたとして損害賠償の請求ができるのでしょうか?

 この点については,実務上は否定的に考えられています。

 個人的には,他人に頼めば費用がかかるなどとして家事労働の財産的な価値を認めるのであれば,たまたま単身者であったからといって,損害をゼロとすることが果たして妥当なのか疑問が残るところです。

 

高齢者の場合

 高齢の方でも,家事をされているという方も多いと思いますが,そのような方でも,休業損害は認められます。

 ただし,その計算方法については,全女性の平均賃金を用いるのではなく,年齢に応じた平均賃金が用いられることがあります。

 

まとめ

 このように,主婦の休業損害の場合,サラリーマンが仕事を休んだ場合とは異なり,どの程度の財産的な損害が発生したのか一見して分からないことから,様々な問題が生じます。

 保険会社とも争いになりやすいところですので,どの程度請求が可能なのか気になる方は,一度弁護士にご相談ください。