サラリーマンと自営業者の休業損害の違い

2021-05-13

サラリーマン(給与所得者)と自営業者(事業所得者)では,休業損害の認定上,様々な違いがあります。

ここでは,当事務所で実際に取り扱ってきた案件や,文献等を元に,大まかな違いについてまとめてみました。

 

給与所得者

事業所得者

労務管理

・第三者である使用者によりタイムカード等で管理

→残業代等につながる重要なものなので,休業時間についても正確に把握される

・自分で管理

→時間を正確に管理されていないことが多く,記録があったとしても自分で作成したものなので信用性が問題となる

復帰時期・休業の必要性

・復帰時期について,会社・産業医と相談することになる

・復帰ができない場合,解雇もあり得るし,そうでなくても体裁上,復帰できる場合には多少無理をしても速やかに復帰することがある

・休業によって事業の継続に著しい支障が出るような場合,無理をしてでも復帰する傾向にある

・反面,加害者からの補償があれば,それ以上に大きなマイナスが出ないような場合,休業が長期化することも見られる(復帰するかは自己判断になる)

提出書類

・源泉徴収票

・休業損害証明書

 

・確定申告書

・休業したことが分かる資料(決まりがない)

・休業の理由が事故によるものであることが分かる資料(決まりはないが,医師からの安静指示が出ている場合,その診断書等)

計算方法

・休業が連続している場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額(付加給を含む)を90日で割り,休業開始から休業終了までの期間をかける

・休業が連続していない場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額を同期間の稼働日数で割って,実際の休業日数をかける

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・事故前年の所得金額(青色申告特別控除前の所得金額。売上ではない)を365日で割って,休業日数をかけるのが一般的(稼働日数を用いることもあり得る)

・家族が手伝っている場合,その分を基礎収入額から差し引くことがある

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・その他,外注に出した場合の外注費を損害額とすることもあり得る

※休業することによって無駄になる固定経費分を加算することも可能(地代家賃等)

上記のような違いから,交渉や裁判では以下のような傾向があります。

・自営業者は,実際に休業したかどうかを第三者(保険会社・裁判所)が把握することが難しいことに加え,入院や医師による安静指示がないような場合,加害者が負担すべき休業損害の日数を証明するのが非常に難しい。

・給与所得者の場合,自らの意思で復帰時期を決めるのが事実上困難であり,休業損害証明書という定型の書類があるので,休業の必要性も比較的認められやすい。

そのため,結論として,自営業者の休業損害の支払いを受けるのは,給与所得者よりも難しい傾向にあります。

自営業者の場合,実際に休業したのはいつで,休業の理由は何だったのか,正確に記録しておくことは必須です。

また,本当に休業が必要なのかを自己責任で判断しなければならないということを認識しておく必要があります。

その上で,固定経費分の損害の請求等,漏れがないように支払いを求めることが重要です。