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裁判所の事実認定の問題

2021-06-11

 裁判は,相手方との交渉が行き詰まったときに,紛争解決の最終手段となるものですが,結論の出され方について,皆さんが持たれているイメージと異なるところがあったり,私自身,疑問に思うこともあるので,今回はこのことについてお話します。

裁判官の行う作業とは

 裁判官は,①法令の解釈と②事実認定を行います。

 法令の解釈とは,「○○法の〇条に書かれていることは,××ということを意味している」という風に,一見して抽象的な法令の文言が,具体的にどのような場面を想定しているのかを明らかにする作業です。

 次に,事実認定とは,一方の当事者が,「××という事実がある」(例えば,「AさんがBさんにお金を貸した」,「交通事故はこういう風にして起こった」)と主張したのに対し,相手方が「そんな事実はない」と言われたときに,言い分どおりの事実があったのかどうかを,裁判官が判断するということです。

 裁判で争うというと,一般的には,後者のイメージが強いと思いますので,この点を掘り下げて考えてみたいと思います。

証明責任とは

 裁判をする際に知っておかなければならないこととして,「証明責任」という言葉があります。

 例えば,「AさんがBさんにお金を貸した(消費貸借)ので,Bさんにお金を返してほしいが,Bさんは,お金はもらったもの(贈与)だと言っている」というような場合に,「Aさんには,消費貸借契約(お金を貸したこと)の存在について証明責任がある」というような表現をします。

 その結果,読んで字のごとく,Aさんは,消費貸借契約について証明する責任があり,この証明に失敗すれば,Aさんはお金を取り戻すことができないということになります。

 そのため,裁判になれば,Aさんは,消費貸借契約があったということを様々な証拠を元に証明していくことになります。

証明の程度

 次に,この証明といっても,「この証拠があれば,○○であることは100%間違いない!」といえるようなものがあれば,そもそも裁判で争うことはないと思われますので,通常は,そこまでは至らない微妙な点があるはずです(「契約書がない」「契約書はあるが,体裁がおかしい」etc)。

 その中で,裁判官は事実を認定しなければならないわけですが,この証明の程度は,最高裁判例によれば,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持たせる程度(高度の蓋然性)の証明が必要と言われています(最高裁平成50年10月24日判決。「ルンバール事件」)。

 これだけ言われてもよく分かりませんが,要は,極めて高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があるということです。

 実際には,やや緩和されて判断されているようですが,基本的には高いレベルで裁判官に確信を抱かせる必要があることに変わりはありません。

 ただ,この点についての裁判官のさじ加減がかなりまちまちで,裁判を利用する側としては,運に強く左右されてしまうというところが問題です。

実際の認定の問題

 先の例でいえば,お金を受け取ったことに争いはなく,それがもらったものなのか貸したものなのかの二者択一となりますが,どちらがより真実に近いかという点で,51対49で貸したものだといえれば,請求を認めてよいのか(依頼者の方と話をしていると,このイメージを持っている方が多いようです),それとも,80対20(あるいはそれ以上)くらいにならないといけないのかというところが,裁判官の考え方によって大きく変わり得るところです。

 「証明責任」の考え方や,前掲の最高裁判例を重く見れば,証明の程度をかなり強く要求することになり,結論として,「これを認めるに足りる証拠がない」(実際の判決でよく見られる表現)などといって請求が認められないことになるのでしょう。

 しかし,既に述べたように,そもそも,誰が見ても勝ち負けが明らかなようなケースでは,通常はそもそも裁判になどなっていないと考えられますので,このような結論を安易に出すべきではないと思います。

 実際,仮に,「7:3でお金は貸したものだ」と裁判官が思ったとしても,それでは証明の程度としては足りないとする裁判官であれば,原告の請求は認められないことになってしまいますが,これは,結果的に,訴えられた側からしてみると,事実上お金はもらったものと認められ,返さなくても良いことになってしまいます。

 実際には,「お金はもらったものだ」という認定までされたわけではありませんが,「貸したものではない」とされることは,「もらったもの」とほぼ同じ効果があります。

 しかし,裁判官としても,基本的にはもらったものではない(おそらく貸したもの)と考えていたはずですので,二人の当事者に対して出される結論としてはおかしいはずです(「消極的誤判」の問題)。

 これが紛争解決を求めて起こした裁判の帰結として妥当なものといえるでしょうか?

 他方で,同じ状況でも6:4くらいでも足りると考えている裁判官であれば,原告の請求は認められるということになるでしょう。

 このように,微妙な案件では,裁判官による判断が分かれることがあり得ますが,それを当事者がどう受け止めれば良いのかは難しい問題です。

最後に

 裁判官が,自らの出す判決の重みや当事者主義の原則から,自身の心証が曖昧なままで安易に一方当事者の請求を認めないとすることも理解できないわけではありませんが,実際の当事者は,自分にとって重要な財産であったり,ときには誇りをかけて裁判に挑んでいます。

 また,当事者は,「証拠が,あるいは若干足りないところがあるかもしれないが,それでもいろいろな事情をくみ取ってもらえれば,真実を認めてもらえるのではないか」と期待して裁判を起こしています。

 そのような中で,裁判官は,安易に「証明責任」を理由に証明が足りないなどとするのではなく,可能な限り真実が何かを探求し,どうしてもそれが分からなかったという場合にのみ,「証明責任」を理由に,判決を出すべきだと思います。

 しかし,当事者に裁判官を選ぶ権利はありませんので,証明の程度についてどのような考え方をしている裁判官にあたるかは,最終的に運次第となります。

 一応,わが国では,事実認定について2審まで争うことが可能ですが,個人的には,心理学的な観点からも,1審の認定を覆すことは容易ではないと考えています。

 このような現状からすると,紛争の解決手段として,裁判というものが必ずしも最善なものではないということが分かってきます。

 交通事故でいうと,「保険会社は支払いが渋く,言っていることがおかしい」,「裁判所ならきちんと判断してもらえる」というイメージがあるかもしれませんが(私も以前はそのように考えていました),裁判所が,証明責任を理由にそれ以上に支払いを認めないということも十分あり得るのです。

 したがって,基本的には,示談交渉で保険会社が出せるギリギリのところまで回答を引出し,その上で,明らかにおかしければ裁判をするという風に考えた方が良いのではないかと思います。

 

参考文献

(判例タイムズNo.1419_5頁 須藤典明「高裁から見た民事訴訟の現状と課題」)

サラリーマンと自営業者の休業損害の違い

2021-05-13

サラリーマン(給与所得者)と自営業者(事業所得者)では,休業損害の認定上,様々な違いがあります。

ここでは,当事務所で実際に取り扱ってきた案件や,文献等を元に,大まかな違いについてまとめてみました。

 

給与所得者

事業所得者

労務管理

・第三者である使用者によりタイムカード等で管理

→残業代等につながる重要なものなので,休業時間についても正確に把握される

・自分で管理

→時間を正確に管理されていないことが多く,記録があったとしても自分で作成したものなので信用性が問題となる

復帰時期・休業の必要性

・復帰時期について,会社・産業医と相談することになる

・復帰ができない場合,解雇もあり得るし,そうでなくても体裁上,復帰できる場合には多少無理をしても速やかに復帰することがある

・休業によって事業の継続に著しい支障が出るような場合,無理をしてでも復帰する傾向にある

・反面,加害者からの補償があれば,それ以上に大きなマイナスが出ないような場合,休業が長期化することも見られる(復帰するかは自己判断になる)

提出書類

・源泉徴収票

・休業損害証明書

 

・確定申告書

・休業したことが分かる資料(決まりがない)

・休業の理由が事故によるものであることが分かる資料(決まりはないが,医師からの安静指示が出ている場合,その診断書等)

計算方法

・休業が連続している場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額(付加給を含む)を90日で割り,休業開始から休業終了までの期間をかける

・休業が連続していない場合

給与収入の事故前3か月の合計給与額を同期間の稼働日数で割って,実際の休業日数をかける

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・事故前年の所得金額(青色申告特別控除前の所得金額。売上ではない)を365日で割って,休業日数をかけるのが一般的(稼働日数を用いることもあり得る)

・家族が手伝っている場合,その分を基礎収入額から差し引くことがある

・怪我の程度や仕事の内容に照らし,最後に一定の割合をかけることもある(例えば,「実際の休業日数100日のうちの30%」等)

・その他,外注に出した場合の外注費を損害額とすることもあり得る

※休業することによって無駄になる固定経費分を加算することも可能(地代家賃等)

上記のような違いから,交渉や裁判では以下のような傾向があります。

・自営業者は,実際に休業したかどうかを第三者(保険会社・裁判所)が把握することが難しいことに加え,入院や医師による安静指示がないような場合,加害者が負担すべき休業損害の日数を証明するのが非常に難しい。

・給与所得者の場合,自らの意思で復帰時期を決めるのが事実上困難であり,休業損害証明書という定型の書類があるので,休業の必要性も比較的認められやすい。

そのため,結論として,自営業者の休業損害の支払いを受けるのは,給与所得者よりも難しい傾向にあります。

自営業者の場合,実際に休業したのはいつで,休業の理由は何だったのか,正確に記録しておくことは必須です。

また,本当に休業が必要なのかを自己責任で判断しなければならないということを認識しておく必要があります。

その上で,固定経費分の損害の請求等,漏れがないように支払いを求めることが重要です。

後遺障害14級9号【頚椎捻挫後の疼痛】で0円→130万円

2021-05-07

事案の概要

 事故状況は,コンビニエンスストアの駐車場内の事故で,駐車スペースに駐車していた車両同士が,同じタイミングで駐車スペースから出ようとしたところ,衝突してしまったというものです。

 被害者は,頚椎捻挫・腰部挫傷の傷害を負って通院加療を続けていましたが,頚部痛・腰部痛が後遺症として残ることとなりました。

 

当事務所の活動

依頼前の状況

 本件は,どちらも駐車スペースから出ようとしていた車両で,特に優先関係は見られず,過失については5分5分とするのが妥当なケースでした。

 そのため,人身損害については,加害者に対して過失割合に応じて支払いを求めることはせず,被害者が加入していた人身傷害保険を利用して治療を受けていました。

 また,人身傷害保険によって,頚部痛について後遺障害等級14級9号が認定されたため,これに応じて人身傷害保険金が支払われました。

 本件は被害者の過失が大きいため,人身傷害保険金の支払いを受けた場合,通常であれば,加害者から追加の支払を受けることは困難です。

 したがって,加害者側の保険会社との間で交渉を行う余地はほとんどなく,特に動きはありませんでした。

 

依頼後の対応

 本件は,人身傷害保険から先行して支払いが出ているケースであったため,加害者側から支払いを受ける賠償金額の計算にあたって,人身傷害保険会社に請求権が移った分を差し引くという処理をする必要があります。

 例えば,裁判基準で損害合計額が400万円,過失割合50:50の場合で,人身傷害保険金として300万円を受け取っていたような場合,加害者側への請求額は200万円(400万円の50%)ですが,300万円の範囲で請求権が人身傷害保険会社に移りますので,加害者側としては,追加の支払に応じることはできないということになります。

 ただし,人身傷害保険の約款により,加害者との間で「判決または裁判上の和解において人身傷害条項損害額基準に基づき算定された損害の額を超える損害の額が確定し,その基準が社会通念上妥当であると認められるとき」は,その金額を元に,被害者の過失分に人身傷害保険金を充てることとなっていますので,この仕組みを利用して,加害者に追加請求を行うことが考えられます。

※人身傷害保険の仕組みについて詳しくはこちら→「人身傷害保険で過失分をカバーする」

 本件でも,交渉で追加の支払を受けるのは困難でしたので,特に事前交渉をすることなく,直接訴訟提起を行いました。

 その結果,既に支払われていた人身傷害保険金の他に,交渉では支払いを受けることが困難であった130万円の支払いを加害者から追加で受けるという形で和解することができました。

 

ポイント

 事故の発生について,被害者の過失も大きい場合,人身損害については自賠責保険を利用して補償を受けることが考えられます。

 自賠責保険は,自分の過失が著しく大きくない限り,過失に関係なく保険金が支払われるという特徴があり,過失に応じて加害者から支払いを受けるよりも,補償が手厚くなることがあるのです(※ただし,保険金に上限があります。)。

 また,自賠責保険の他に,自身が加入する人身傷害保険を利用するという方法もあり,この方法を用いると,自賠責保険から保険金の支払いを受けるよりも手続きが簡単で,基本的に自賠責保険と同等以上の支払を受けられますので,人身傷害保険の加入がある場合,これを利用するとよいでしょう。

 その場合,裁判を利用することで,人身傷害保険金の支払いを自身の過失部分の補填に充てることが可能となりますので,人身傷害保険が使えなかった場合と比較して,さらに大幅に補償額が増やすことも可能です。

 ただし,この方法を使うには,裁判を起こすことで,人身傷害保険の保険会社の求償額を変更するという処理が必要となり,弁護士のサポートがほぼ必須となります。

後遺障害14級9号【肩関節脱臼後の疼痛】で140万円→280万円

2021-02-17

事案の概要

 自転車で道路を横断中,右折してきた四輪車にはねられたというもので,被害者は,肩関節や足関節の靭帯損傷といった傷害を負いました。

 その後,通院加療を続けていましたが,肩関節の痛みが後遺症として残ることとなりました。

当事務所の活動

依頼前の状況

 本件では,依頼の前に,事前認定により後遺障害等級14級9号が認定され,賠償金額として約140万円が提示されていました。

 しかし,保険会社の算定の仕方が妥当なのか疑問に思われたため,ご相談となりました。

後遺障害等級の検討

 本件は,そもそも後遺障害等級が14級9号でよいのかということをまず検討する必要がありました。

 骨折・脱臼を原因とする痛みなどの神経症状に関する後遺障害は,後遺障害等級14級9号のほかに,後遺障害等級12級13号が認定される可能性があります。

 14級9号と12級13号の違いは,訴えている症状について,関節面の不整や骨癒合の不全等といった他覚的に確認することのできる原因が存在するかという点にあります。

 本件の場合,主治医から,レントゲン上は特に問題がないという説明を受けていたことと,異議申立てをするためには時間と若干の費用が発生することになるため,後遺障害等級は14級を前提として示談交渉を行うことになりました。

示談交渉

 本件で,相手方の示した金額で問題があったのは,通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料でした。

 後遺障害逸失利益については,計算方法については疑問があったものの,計算結果は低いとは言い難いものでした。

 具体的には,本来であれば,被害者が症状固定時に16歳であり,労働能力喪失期間を考える際,稼働開始までの期間分を控除するという処理が必要となるため,例えば,労働能力喪失期間が10年であれば,対象となる期間は,10年間から18歳(一般的に稼働開始可能と考えられる年齢)までの2年間を引かなければなりません。

 この処理は,単純に10から2を引くのではなく,中間利息を控除したライプニッツ係数を用います。

 ところが,相手方は,労働能力喪失期間を5年としながら,この5年のライプニッツ係数をそのまま用いていました。

 これは,実質的には労働能力喪失期間として7年を認定したのと同様になります(最終的な計算結果は,中間利息控除の関係で,7年で計算したよりも高くなります)。

 一般的に後遺障害等級14級9号の場合,労働能力喪失期間を就労可能年限までではなく,一定期間の制限されることが多く(むち打ち以外の場合は例外あり),若年者の場合,回復が期待できるため,その可能性も高まります。

 そうすると,労働能力喪失期間が実質7年とされるのであれば,決して不当とはいえません。

 また,相手方は,逸失利益の計算にあたって,全年齢の女性労働者の平均賃金を用いていました。

 労働能力喪失期間に制限のない後遺障害であれば,この数値を用いることが想定されるのですが,労働能力喪失期間が制限される場合で,被害者が若年者の場合だと,後遺障害の影響を受ける時点の収入は,働き始めたばかりの頃で,全年齢の平均賃金よりも低くなることが想定されます。

 したがって,逸失利益算定のための基礎となる基礎収入の額も,厳密に考えると,全年齢の女性労働者の平均賃金よりも低くなる可能性がありました。

 以上の点を考慮すると,相手方から示された逸失利益の額は低いものとはいえないのではないかと考えられました。

 そこで,示談交渉の対象を慰謝料の部分に絞ることとしました。

 その結果,最終の支払額が約280万円となって示談が成立することとなりました。

ポイント

 保険会社から示される金額は一般的には低いことが多いのですが,若年の学生が被害者となった場合のように,単純な計算とはならないような場合,むしろ裁判をするよりもいい条件なのではないかと思われることがあります。

 一方で,慰謝料のような算定が単純なものについては,ほぼ例外なく低い金額が示されます。

 示談交渉では,やみくもに相手の見解を否定するのではなく,論点を絞って交渉を進めることが有効な場合があります(そうすることで,解決までの時間も早まるというメリットもあります。)。

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

後遺障害12級13号【左寛骨臼骨・左大腿骨頭骨折】で500万円→1000万円

2021-02-15

事案の概要

 事故は,道路上で交通整理を行っていた被害者が,前方不注視の加害車両にひかれたというもので,被害者は,骨盤や大腿骨を骨折して入院を要することとなり,リハビリのための通院を続けたものの,関節面の不整を原因とする関節痛等の後遺症が残存することとなりました。

 事前認定により後遺障害等級12級13号が認定されたものの,保険会社から示された賠償金の額に疑問を持たれたため,依頼となりました。

当事務所の活動

依頼前の状況

 本件では,依頼の前に,認定済みの後遺障害等級にしたがって保険会社から賠償金額が示されていましたので,その金額を増額することができるかどうかが問題となりました。

 具体的には,入通院慰謝料が約120万円,後遺障害逸失利益が約250万円,後遺障害慰謝料100万円,その他調整金を合計して,500万円という金額が示されていました。

示談交渉の結果

 まず,入通院慰謝料については,自賠責保険の基準よりは高額でしたが,入院が3カ月強と比較的長期間に及んでいたことに照らすと低額であったため,その点を考慮し,約220万円で請求しました。

 後遺障害逸失利益は,労働能力喪失期間を10年とされていたため,これを,一般的な後遺障害に合わせて67歳となるまで(31年)として計算し,約500万円で請求しました。

 最後に,後遺障害慰謝料は,12級が認定された場合の一般的な事例にならい,290万円で請求を行いました。

 その結果,請求のほぼ満額に当たる1000万円で示談することができました。

ポイント

 本件は,その他のケースと比較して,保険会社がこちらの請求に対して大きく譲歩してきた事案であったといえます。

 一般的に,示談交渉の段階で保険会社がこちらの請求の満額を支払ってくることは決して多くありません。

 弁護士が行う請求は,一般的な相場にしたがって行ってはいますが,個別の事情を見ると,必ずしも裁判所で認められるとは限らないものが含まれているためです。

 本件の場合,特に逸失利益について,12級13号という神経症状に関する後遺障害であり,裁判実務上,労働能力喪失期間が限定される例も散見されるため,裁判をした場合には減額となる可能性もありました。

 そのような中で,示談交渉の段階で請求した金額のほとんどが認められたため,被害者にとっていい解決となったのではないかと思います。

骨折後の後遺障害について詳しくはこちら→「骨折の後遺障害」

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

冬期休暇のお知らせ

2020-12-17

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて,誠に勝手ながら弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2020年12月28日(月)~2021年1月3日(日)

後遺障害14級9号【むち打ち】で裁判を行った事例

2020-07-01

事案の概要

 事故は信号待ちで停車中に,後方から追突されたというものです。

 ケガの内容は,頚椎捻挫と腰椎捻挫,股関節捻挫で,職業は主婦です。

  このケースでは,加害者本人が交通事故と被害者の受傷の因果関係を争っていたため,やむを得ず被害者側の人身傷害保険を利用して通院をしていたというところに特色があり,そのままでは慰謝料等について適正に支払われることは到底期待できず,人身傷害保険の治療費の支払いも停止する見込みとなったため,弁護士への依頼となりました。

当事務所の活動

治療の打ち切り

 治療は人身傷害保険を利用して行っていましたが,人身傷害保険の場合も,加害者の対人賠償保険と同様にいつまでも支払いが出るわけではありません。

 治療によって改善が見込まれなくなってくると,「症状固定」といって,それ以降は治療費の支払いはされず,後遺障害等級の認定を受けた後で,認定に応じた保険金の支払いを受けることになります。

 そのため,保険会社が「症状固定」と判断すれば,治療費の支払いがストップすることになります。

 このケースでも,治療途中で保険会社から治療費の支払い終了が告げられましたが,「症状固定」の判断をするには時期尚早で,医師は治療の終了に賛成していたわけではなかったため,この点の対応を検討することになりました。

  通常であれば,医師の見解を書面に記してもらうなどして治療費の支払延長の交渉を試みるところです。

 しかし,今回のように本来賠償をすべき加害者がいる中で,人身傷害保険を利用しているケースでは,敢えて人身傷害保険の保険会社を相手に交渉を行う必要はありません(いずれにせよ,加害者との間で争わなくてはならないため)。

 そのため,とりあえず健康保険を使って自費で通院をした上で,いよいよ治療の効果が出なくなった段階で後遺症の申請を行うこととしました。

 人身傷害保険金としては,治療費を除いて約54万円が支払われました。

後遺症の認定申請

 事故から半年以上を経過しても症状がなくならなかったため,後遺症の申請(被害者請求)を行い,その結果,頚椎捻挫後の頚部痛について後遺障害等級14級9号が認定されることとなり,自賠責保険金として75万円が支払われました。

裁判

 依頼に至るまでの経過に照らし,示談交渉の余地はほとんどなかったのですが,実際に交渉を試みても全く支払いに応じる様子がなかったため,裁判に踏み切ることにしました。

 裁判では,後遺症の発生のほか腰椎捻挫・股関節捻挫と事故との因果関係まで争われることとなりましたが,弁護士が資料を精査し,損害の額に影響を与えないことなどを主張しました。

 その結果,最終的に,人身傷害保険金(約54万円)と自賠責保険金(75万円)を除いて約200万円が支払われることを内容とする和解が成立しました。これらを合計すると約329万円なります(治療費を除く)。

ポイント

 本件は,相手方の対応が悪く,かといって,人身傷害保険の対応も十分なものとは言えず,人身傷害保険の保険会社に言われるがまま,治療打ち切り後の対応を怠っていれば,後遺症の認定も受けられず,まともな賠償を受けられることができなかったのではないかと思います。

 「症状固定」とはどういう意味を持つのか,「後遺障害」とはどのような場合に等級が認定されるのかといった基本的な考え方を理解しておく必要があったといえるでしょう。

 また,今回のように加害者の態度が著しく悪い場合,過失割合等に争いがなくても,裁判をせざるを得ない場合があります。

 裁判となると,通常の示談交渉では問題とならないような細かい因果関係まで争われることが多々あり,それが言いがかりのようなものであればそれほど気にする必要はありませんが,一応理由のあるものであれば,それに対する反論を適切に行わなければなりません。

 このような対応は,専門家でなければ相当に難しいところですので,裁判を検討されているのであれば,弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。

実通院日数が少ない兼業主婦の事例

2020-06-30

事案の概要

事故は高速道路で渋滞中に,後方から追突されたというものです。

治療自体はそれほど問題なく進みましたが,最終的に提示された示談金額が少額であったため,弁護士が介入することとなりました。

当事務所の活動

後遺症について

 本件は,治療を約8か月受けたところで,相手方の保険会社から治療終了についてのアナウンスがなされたのですが,元々の症状がそれほど強くなく,治療期間も十分であったため,特に後遺症を残すことなく治療を終えていました。

示談交渉

 後遺症が特に問題とはならなかったため,そのまま示談交渉を行うことになりました。

 当初示されていた示談金額は約28万円で,自賠責基準での慰謝料に交通費が加算されたのみでした。

 しかし,被害者は兼業主婦でしたので,自賠責基準であるとしても金額は低いと言わざるを得ず,慰謝料も,通院日数が少なかったため,裁判基準を大幅に下回るものとなっていました。

 そこで,弁護士が,慰謝料を裁判基準により計算しなおし,休業損害についても新たに加算した上で賠償金の計算を行いました。

 その後,示談交渉の結果,賠償金額が約110万円となり,当方の主張が概ね認められた形で示談をすることができました。

ポイント

 本件は,後遺症がないケースで,保険会社の提示する金額が低くなる典型的なケースであるといえます。

 ポイントは,①通院日数が少ないことと,②兼業主婦で,勤務先の仕事の休業は少ないことです。

実通院日数の少なさ

 ①の通院日数が少ないことは,保険会社との交渉の中ではマイナスに働く事情になります。

 その理由は,自賠責保険の慰謝料の計算方法が,治療を開始してから終了するまでの期間の長さか,実際に通院した日数を2倍した数字のいずれか小さい方に4,200円(令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は4,300円)をかけることになっているためです。

 この方法によると,たとえどれだけ症状が治るまでに時間がかかったとしても,通院の日数が少ないと慰謝料の金額も大きくならないことになります。

 そして,相手方の任意保険会社は,自賠責保険の認定額を念頭に置いて支払額を決定しますので,自賠責基準の金額が低ければ,任意保険会社との交渉でも金額が低くなる傾向にあるのです。

 さらに,弁護士が用いる「赤い本」の基準でも,実通院日数が少ない場合,通常であれば治療を終えるまでの期間の長さによって金額を定めるところが,実通院日数の3倍を目安とすることがあるとされています(むち打ちの場合)。

 そのため,実通院日数が少ない場合に,通常の場合と同様の慰謝料を受け取るためには,相応の交渉が必要となるのです。

兼業主婦で仕事の休みはほとんどない

 兼業主婦で勤務先の仕事の休みが少ない(又はない)場合,主婦の休業損害を請求できるのかは悩ましいところです。

 なぜなら,勤務先の仕事に出ていたということは,家庭でも家事が出来たのではないかという疑問が生じるためです。

 しかし,実際には,症状を抱えて通院をしつつ,仕事を休まなかったのであれば,その分のしわ寄せがあるはずであり,それが家事に影響するということはよくあります。

 また,そうでなくとも,収入を得るために仕事には無理をして出ていても,家事については他の家族に頼るということもあります。

 いずれにせよ,症状があって通院をしている以上,仕事を休まなかったからといって家事労働に支障が出なかったということには必ずしもなりません。

 裁判でも,仕事を休まなかった主婦に休業損害を認めるものがあります。

 そのため,この点についても,実際に家事に支障が出ていたのであればしっかりと主張をすべきですが,保険会社はこの点は容易には認めません。

まとめ

 後遺症がなく,実際に通院の日数が少ない場合,保険会社から示される金額が小さく,弁護士に依頼するほどのことでもないと思われがちですが,本件のようなケースでは,金額大きく変わることも少なくありませんので,示談をする前に,一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

もらい事故への対応について

2020-06-08

もらい事故だと保険会社が交渉できない?

 相談をお受けしていると,「自分の保険会社から『過失割合が0対100なので,交渉をすることができない』と言われた」という話をよく聞きます。

 たしかに,被害者に落ち度のない,いわゆるもらい事故の場合,自分の保険会社は交渉を行うことはできません。

 なぜなら,示談交渉などを弁護士以外の者が行うことが弁護士法72条という法律で基本的に禁止されていて,違反すると犯罪になるためです。

示談代行サービスとは

 それでは,自動車保険のテレビCMなどで示談代行サービスをうたっていて,実際に示談代行サービスが行われているのは何故でしょうか?

 これは,被害者に少しでも落ち度があれば,保険会社は,その程度に応じて対人又は対物保険の支払いをする必要が出てきますので,自分たちが支払う保険金に関することとして,示談代行を行うことができるためです。

 これに対し,もらい事故の場合,そこで行われる交渉は,全て被害者から加害者に対する支払に関するものであって,自分の保険会社は対人・対物保険の保険金を支払う必要がありませんので,交渉を行うことはできないのです。

示談代行サービスが使えない場合の対応方法

 示談代行サービスが使えない場合でも,慰謝料など怪我に関する補償の問題や,車の時価額の問題など,交渉をしなければ適切に賠償が受けられない場面は多々あります。

 このような場合,弁護士に依頼することで,適切に交渉を行っていくことが可能になります。

 弁護士に依頼する場合,弁護士費用が発生することになりますが,交通事故の場合,弁護士費用を差し引いても示談交渉を依頼した方が良いという場合も多いです。

 しかし,それでも支払いが生じる以上,やはり費用は気になるとことだと思います。

 こうした場面で弁護士に依頼してしっかりと示談交渉を行いつつ,弁護士に支払う費用に備える保険が,弁護士費用特約です(CMでもこの保険のことをアピールするものもあります。)。

 弁護士費用特約そのものにかかる保険料は通常は低額で,使用しても等級は下がりませんので,交通事故の被害に遭ったときに備える保険として非常に有効です。

 弁護士費用特約のご加入がある方は,ご相談だけでも利用できますので是非積極的にご活用ください。

 また,ご加入がない方でも,示談交渉を依頼するメリットがあることが多いので,お気軽にお問い合わせください。

人身事故への切り替えについて

2020-05-12

 事故発生から間もない段階でのご相談をお受けした場合,人身事故への切り替えをした方が良いのか?という点について聞かれることがよくあります。

 ここでいう人身事故への切り替えとは,保険会社との関係ではなく,警察に対して,交通事故が物件事故扱いとなっているものを人身事故扱いとしてもらうかどうかということを意味しています。

 事故当日に警察に状況を説明しているとは思いますが,後日診断書を警察に提出して人身事故への切り替えまでするかどうか悩まれている人もいらっしゃるかと思います。

 ここでは,人身事故への切り替えの持つ意味を解説します。

刑事処分

 交通事故に関する刑事処分は,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)によってなされていますが,文字通り人を死傷させた場合を念頭に置いていますので,物件事故の場合はこの法律の対象外となります。

 わざと車をぶつけたような場合は刑法上の器物損壊罪が成立する可能性がありますが,一般的に交通事故で想定されているケースではないでしょう。

 また,わざとではなくても,交通事故で建造物を損壊した場合には道路交通法116条によって刑事処分を受ける可能性はあります。

 いずれにせよ,物件事故で通常想定されている,不注意による自動車(バイク)同士の事故で,自動車(バイク)が破損させられたというケースでは,基本的にそれだけで刑事責任の対象とならないと考えて良いでしょう(修理費などの民事責任が問題となることは言うまでもありません。)。

 したがって,物件事故と人身事故では,この点が大きく異なりますので,人身事故の切り替えをすることは,加害者に刑事処分を受けさせるかどうかに大きく影響することとなります。

 もっとも,人身事故への切り替えをしたとしても,怪我の程度が軽く,相手に前科・前歴がなければ,不起訴処分となって刑事処分を受けないことも多いです。

行政処分

 交通違反や交通事故では,自動車等の運転者の交通違反や交通事故の内容により一定の点数を付けられていて,その過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止や取消等の処分を行われることになります。

 人身事故の場合,次のように交通事故の付加点数(違反点数)が定められています。

① 専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合

死亡事故 20点

治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 13点

治療に要する期間が30日以上3か月未満 9点

治療に要する期間が15日以上30日未満 6点

治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 3点

② ①以外の場合

死亡事故 13点

治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 9点

治療に要する期間が30日以上3か月未満 6点

治療に要する期間が15日以上30日未満 4点

治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 2点

※→警視庁ホームページ

 

 このように,怪我をしているかどうか,怪我がどの程度重いかによって付加点数が異なりますので,加害者にとって,人身事故の届け出がされるかどうかは重大な影響があります(仕事上,自動車の運転が必須な人などは特にそうでしょう。)。

刑事記録の違い

 人身事故の場合,実況見分によって事故に至るまでの状況や,道路の形状といったことが細かく記録され,実況見分調書というものが作成されます。

 これを見れば,どのような事故であったのかある程度正確に知ることができます。

 これに対し,物件事故の場合,基本的に刑事処分の対象とならないため,本格的な捜査は行われないのが通例です。

 書類は一応作成されますが,物件事故報告書という簡易なもので,事故の概要しか分かりません。

賠償上の違い

 法律上,加害者側から損害賠償を受けるにあたって,人身事故への切り替えが条件になっているということはありません。

 インターネット上の情報を見ていると,人身事故への切り替えをしなければ支払われないものがあるとか,後遺障害の認定が受けられなくなるといったものを目にします。

 しかし,少なくとも私の経験上,交通事故の届出自体をしていないというのであればともかく,人身事故の切り替えをしていないという理由だけで相手の任意保険会社から支払いを拒まれたことはありません。

 また,後遺障害の認定を含めた自賠責保険の請求の場合でも,物件事故の交通事故証明書に,「人身事故証明書入手不能理由書」という紙を1枚添付すれば,適切に処理がされています。

 人身事故の切り替えをしていた方が後遺障害の認定がされやすいかどうかについては,検証のしようがないため(全く同じ事件というものはないので),断定的に述べることはできません。

 ただ,上記の「人身事故証明書入手不能理由書」を添付する方法で認定を受けられたものも多数ありますし,反面,当初から人身事故扱いとなっていても認定が受けられなかったものもありますので,明白な違いというものは認められません。

 以上のような次第ですので,弊所では,基本的に,人身事故への切り替えが,賠償の範囲や額に直結するものとは考えていません。

人身事故へ切り替えをしておいた方が良いケース

相手への処分を求める場合

 人身事故への切り替えは,加害者の刑事処分や行政処分の内容に大きな影響を与えますので,加害者への処分を求めたい場合には,切り替えをした方が良いでしょう。

事故状況が問題になるケース

 既に述べたように,人身事故への切り替え自体で損害賠償の額が直接変わるというものではありません。

 しかし,既に述べたように,人身事故への切り替えをした場合の違いとして,実況見分等の捜査が行われ,その記録が作成されるということがあります。

 これらの本来の目的は,適切に刑事処分を行うことにありますが,被害者としても,これらの書類を取り寄せることで,民事の損害賠償請求の中で証拠として活用することができます。

 過失の割合が0対100で争いもないような場合であれば,それほど問題はありませんが,それ以外の場合,事故の状況を正確に把握する必要があり,その際に,中立な第三者である捜査機関によって作成された書類は,最も有効な資料となります。

 特に,加害者が,事故当初は事故状況について率直に認めていたのが,後になって内容を覆してくるというような場合,加害者の事故直後の説明を元に作成された実況見分調書を示すことで,そうした主張を封じることができます。

 このとき,物件事故の場合だと,必ずしも双方の主張を聞いて書類が作成されるわけではなかったりするので,十分な対応ができないことがあります。

まとめ

 人身事故への切り替えは,刑事処分・行政処分に関するものですので,これらの加害者への処分をどうしたいかによって行うべきかどうかを考えることになります。

 他方で,民事の損害賠償との関係でも,事故状況に関する証拠を押さえるという点で意味があります。

 人身事故への切り替えを積極的に行うべきかはケースによりますが,事故状況などで争いになりそうな場合には,速やかに切り替えを行うと良いでしょう。

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