実通院日数が少ない兼業主婦の事例

2020-06-30

事案の概要

事故は高速道路で渋滞中に,後方から追突されたというものです。

治療自体はそれほど問題なく進みましたが,最終的に提示された示談金額が少額であったため,弁護士が介入することとなりました。

当事務所の活動

後遺症について

 本件は,治療を約8か月受けたところで,相手方の保険会社から治療終了についてのアナウンスがなされたのですが,元々の症状がそれほど強くなく,治療期間も十分であったため,特に後遺症を残すことなく治療を終えていました。

示談交渉

 後遺症が特に問題とはならなかったため,そのまま示談交渉を行うことになりました。

 当初示されていた示談金額は約28万円で,自賠責基準での慰謝料に交通費が加算されたのみでした。

 しかし,被害者は兼業主婦でしたので,自賠責基準であるとしても金額は低いと言わざるを得ず,慰謝料も,通院日数が少なかったため,裁判基準を大幅に下回るものとなっていました。

 そこで,弁護士が,慰謝料を裁判基準により計算しなおし,休業損害についても新たに加算した上で賠償金の計算を行いました。

 その後,示談交渉の結果,賠償金額が約110万円となり,当方の主張が概ね認められた形で示談をすることができました。

ポイント

 本件は,後遺症がないケースで,保険会社の提示する金額が低くなる典型的なケースであるといえます。

 ポイントは,①通院日数が少ないことと,②兼業主婦で,勤務先の仕事の休業は少ないことです。

実通院日数の少なさ

 ①の通院日数が少ないことは,保険会社との交渉の中ではマイナスに働く事情になります。

 その理由は,自賠責保険の慰謝料の計算方法が,治療を開始してから終了するまでの期間の長さか,実際に通院した日数を2倍した数字のいずれか小さい方に4,200円(令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は4,300円)をかけることになっているためです。

 この方法によると,たとえどれだけ症状が治るまでに時間がかかったとしても,通院の日数が少ないと慰謝料の金額も大きくならないことになります。

 そして,相手方の任意保険会社は,自賠責保険の認定額を念頭に置いて支払額を決定しますので,自賠責基準の金額が低ければ,任意保険会社との交渉でも金額が低くなる傾向にあるのです。

 さらに,弁護士が用いる「赤い本」の基準でも,実通院日数が少ない場合,通常であれば治療を終えるまでの期間の長さによって金額を定めるところが,実通院日数の3倍を目安とすることがあるとされています(むち打ちの場合)。

 そのため,実通院日数が少ない場合に,通常の場合と同様の慰謝料を受け取るためには,相応の交渉が必要となるのです。

兼業主婦で仕事の休みはほとんどない

 兼業主婦で勤務先の仕事の休みが少ない(又はない)場合,主婦の休業損害を請求できるのかは悩ましいところです。

 なぜなら,勤務先の仕事に出ていたということは,家庭でも家事が出来たのではないかという疑問が生じるためです。

 しかし,実際には,症状を抱えて通院をしつつ,仕事を休まなかったのであれば,その分のしわ寄せがあるはずであり,それが家事に影響するということはよくあります。

 また,そうでなくとも,収入を得るために仕事には無理をして出ていても,家事については他の家族に頼るということもあります。

 いずれにせよ,症状があって通院をしている以上,仕事を休まなかったからといって家事労働に支障が出なかったということには必ずしもなりません。

 裁判でも,仕事を休まなかった主婦に休業損害を認めるものがあります。

 そのため,この点についても,実際に家事に支障が出ていたのであればしっかりと主張をすべきですが,保険会社はこの点は容易には認めません。

まとめ

 後遺症がなく,実際に通院の日数が少ない場合,保険会社から示される金額が小さく,弁護士に依頼するほどのことでもないと思われがちですが,本件のようなケースでは,金額大きく変わることも少なくありませんので,示談をする前に,一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。