交通事故に遭った後で,2回目の事故に遭ってしまったら?

2017-09-04

 ある日突然交通事故に遭うことは,その人にとって大きな問題となりますが,あまりよくあることではありません。

 しかし,不幸にして,交通事故に遭った後,さらに2回目の交通事故に遭われる方もいらっしゃいます。

 そして,多数の交通事故事件を取り扱っていると,そういった複数の交通事故が絡むケースに遭遇することが少なからずあります。

 そこで,今回は,そのように2回以上の複数回交通事故に巻き込まれた場合,損害賠償がどうなるのか見てみたいと思います。

 

3つのケース

 複数の事故に巻き込まれるパターンには,大きく分けて以下の3つが考えられます。

 ①1事故目に遭って,治療も終えた後で,再度交通事故に遭った場合

 ②1事故目に遭って,治療をしていたところ,治療が終了しない間に新たに交通事故に遭った場合

 ③交通事故に遭って自分の車がはじき出されたところ,別の車に追突されたような場合

 今回は,この中の①のケースについて見ていきます。

 

共同不法行為とは

 上記の各ケースは,それぞれ問題となることが異なりますが,共通しているのは,誰にどれだけの責任を負わせることができるのかという問題です。

 これを解決するための法律上の規定としては,共同不法行為というものがあります。

 共同不法行為が成立すると,各加害者が全損害について連帯して責任を負うことになりますので,被害者としては,どちらかの加害者に対して,自分に生じた損害の全額を請求すれば足りますので,被害者にとっては非常に便利な制度です。

 しかし,賠償金額を算定することが難しいケースであっても,全てこの制度で処理できるとは限らないというところに問題があります。

 

既に治療が終了していた①のケース

共同不法行為は使えるのか

 この場合,誰が怪我を負わせたのか分からないというようなケースではないので,基本的に共同不法行為は使えないといってよいでしょう。

治療期間中の損害

 このケースの場合,1事故目の治療が終了するまでの治療費や休業損害を1事故目の加害者に請求して,2事故目の発生から2事故目の治療終了までの治療費や休業損害は2事故目の加害者に請求すれば良いので,ここまでは問題ありません。

 問題となるのは,1つ目の事故で後遺障害が残って,2つ目の事故でも後遺障害が残ったという場合です。

後遺障害 自賠責の場合

 自賠責保険では,加重障害といって,既に後遺障害が認定されていた場合に,同じ部位にさらに重い後遺障害が認定された場合,新たに認定された後遺障害の保険金の額から既に認定されて支払われた保険金分の額を差し引いた額が支払われることになります。

 部位が異なれば,通常通り保険金の支払いが出ることになります。

後遺障害 裁判基準での請求の場合

(1) 逸失利益

 自賠責保険の場合は,決められた基準に従って形式的に支払えば良いのでこれでいいのですが,我々が加害者に損害賠償の請求をするときは,実損害の請求になりますので,実際にどのくらいの損害が発生したのかを正確に算出する必要があります。

 1つ目の事故の加害者に対しては,後遺障害の認定が出た段階で損害の計算ができ,それにしたがって請求すれば良いので特に問題はありません。

 これに対し,2つ目の事故の後遺障害については,既に1つ目の事故で労働能力の低下などが見られるため,このことをどのように考慮し,請求が可能な金額がどうなるのか少し考えてみる必要があります。

 この点については,次の3つのものが考えられています。

 ①2事故目の直前の収入を基礎収入として,2事故目自体の労働能力喪失率をかける

 ②2事故目の後遺障害の等級に基づいて逸失利益を計算し,そこから1事故目の後遺障害の等級に基づいた逸失利益を引く

 ③2事故目の後遺障害等級に基づいて逸失利益を計算し,そこから1事故目の後遺障害の存在を理由として相当な割合で減額する。

 ①の方法は,事故直前の収入が,既存障害を前提として得ていたものであるため,この時点で既存障害を考慮することができているので,実態も合っていて分かりやすい方法です。

 しかし,2事故目自体の労働能力喪失率とはどうやって認定するのでしょうか?

 現実的な計算方法として,A.2つの後遺障害の労働能力喪失率を引き算するという方法と,B.1事故目と2事故目の間の労働能力の差を1事故目の後で残った労働能力率で割るという方法,C.専門家の意見を聞いて独自に認定するという方法が考えられます。

 ②の方法は,2事故目の逸失利益の計算の際の基礎収入をどう設定すれば良いのかという問題があり,③の方法は,どのような割合で減額すればよいのか不明であるという問題があります。

(2) 慰謝料

 慰謝料についても,通常とは異なる考え方が取られます。

 別部位の場合は,それ自体,単独で後遺障害が残ったのとあまり変わらない程度の精神的苦痛が生じたといえるのではないかと思いますが,同一部位の加重障害の場合,そのように言えるのかが問題となります。

 ここでも,次のような3つの考え方があります。

 ①2事故目自体の後遺障害の等級を想定し,それによって慰謝料の額を決める。

 ②2事故目の加重障害の等級に基づく慰謝料の額から1事故目の等級に基づく慰謝料の額を差し引く。

 ③加重障害の等級に基づく慰謝料の額から相当な割合で減額する。

 

まとめ

 以上のように,加重障害が生じた場合の賠償金額の計算方法には様々なものがあり,裁判上も確定していません。

そのため,実際に受け取れる金額の見通しをつけることは非常に難しく,特に交渉でどのような金額を求めれば良いのか判断することは難しいところです。

このような複雑な事態が生じた方は,早急に弁護士にご依頼されることをおすすめします。

 

(参考文献 2006年版 赤い本 下巻 129頁~)