Archive for the ‘解決事例’ Category

後遺障害14級9号【むち打ち】で裁判を行った事例

2020-07-01

事案の概要

 事故は信号待ちで停車中に,後方から追突されたというものです。

 ケガの内容は,頚椎捻挫と腰椎捻挫,股関節捻挫で,職業は主婦です。

  このケースでは,加害者本人が交通事故と被害者の受傷の因果関係を争っていたため,やむを得ず被害者側の人身傷害保険を利用して通院をしていたというところに特色があり,そのままでは慰謝料等について適正に支払われることは到底期待できず,人身傷害保険の治療費の支払いも停止する見込みとなったため,弁護士への依頼となりました。

当事務所の活動

治療の打ち切り

 治療は人身傷害保険を利用して行っていましたが,人身傷害保険の場合も,加害者の対人賠償保険と同様にいつまでも支払いが出るわけではありません。

 治療によって改善が見込まれなくなってくると,「症状固定」といって,それ以降は治療費の支払いはされず,後遺障害等級の認定を受けた後で,認定に応じた保険金の支払いを受けることになります。

 そのため,保険会社が「症状固定」と判断すれば,治療費の支払いがストップすることになります。

 このケースでも,治療途中で保険会社から治療費の支払い終了が告げられましたが,「症状固定」の判断をするには時期尚早で,医師は治療の終了に賛成していたわけではなかったため,この点の対応を検討することになりました。

  通常であれば,医師の見解を書面に記してもらうなどして治療費の支払延長の交渉を試みるところです。

 しかし,今回のように本来賠償をすべき加害者がいる中で,人身傷害保険を利用しているケースでは,敢えて人身傷害保険の保険会社を相手に交渉を行う必要はありません(いずれにせよ,加害者との間で争わなくてはならないため)。

 そのため,とりあえず健康保険を使って自費で通院をした上で,いよいよ治療の効果が出なくなった段階で後遺症の申請を行うこととしました。

 人身傷害保険金としては,治療費を除いて約54万円が支払われました。

後遺症の認定申請

 事故から半年以上を経過しても症状がなくならなかったため,後遺症の申請(被害者請求)を行い,その結果,頚椎捻挫後の頚部痛について後遺障害等級14級9号が認定されることとなり,自賠責保険金として75万円が支払われました。

裁判

 依頼に至るまでの経過に照らし,示談交渉の余地はほとんどなかったのですが,実際に交渉を試みても全く支払いに応じる様子がなかったため,裁判に踏み切ることにしました。

 裁判では,後遺症の発生のほか腰椎捻挫・股関節捻挫と事故との因果関係まで争われることとなりましたが,弁護士が資料を精査し,損害の額に影響を与えないことなどを主張しました。

 その結果,最終的に,人身傷害保険金(約54万円)と自賠責保険金(75万円)を除いて約200万円が支払われることを内容とする和解が成立しました。これらを合計すると約329万円なります(治療費を除く)。

ポイント

 本件は,相手方の対応が悪く,かといって,人身傷害保険の対応も十分なものとは言えず,人身傷害保険の保険会社に言われるがまま,治療打ち切り後の対応を怠っていれば,後遺症の認定も受けられず,まともな賠償を受けられることができなかったのではないかと思います。

 「症状固定」とはどういう意味を持つのか,「後遺障害」とはどのような場合に等級が認定されるのかといった基本的な考え方を理解しておく必要があったといえるでしょう。

 また,今回のように加害者の態度が著しく悪い場合,過失割合等に争いがなくても,裁判をせざるを得ない場合があります。

 裁判となると,通常の示談交渉では問題とならないような細かい因果関係まで争われることが多々あり,それが言いがかりのようなものであればそれほど気にする必要はありませんが,一応理由のあるものであれば,それに対する反論を適切に行わなければなりません。

 このような対応は,専門家でなければ相当に難しいところですので,裁判を検討されているのであれば,弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。

実通院日数が少ない兼業主婦の事例

2020-06-30

事案の概要

事故は高速道路で渋滞中に,後方から追突されたというものです。

治療自体はそれほど問題なく進みましたが,最終的に提示された示談金額が少額であったため,弁護士が介入することとなりました。

当事務所の活動

後遺症について

 本件は,治療を約8か月受けたところで,相手方の保険会社から治療終了についてのアナウンスがなされたのですが,元々の症状がそれほど強くなく,治療期間も十分であったため,特に後遺症を残すことなく治療を終えていました。

示談交渉

 後遺症が特に問題とはならなかったため,そのまま示談交渉を行うことになりました。

 当初示されていた示談金額は約28万円で,自賠責基準での慰謝料に交通費が加算されたのみでした。

 しかし,被害者は兼業主婦でしたので,自賠責基準であるとしても金額は低いと言わざるを得ず,慰謝料も,通院日数が少なかったため,裁判基準を大幅に下回るものとなっていました。

 そこで,弁護士が,慰謝料を裁判基準により計算しなおし,休業損害についても新たに加算した上で賠償金の計算を行いました。

 その後,示談交渉の結果,賠償金額が約110万円となり,当方の主張が概ね認められた形で示談をすることができました。

ポイント

 本件は,後遺症がないケースで,保険会社の提示する金額が低くなる典型的なケースであるといえます。

 ポイントは,①通院日数が少ないことと,②兼業主婦で,勤務先の仕事の休業は少ないことです。

実通院日数の少なさ

 ①の通院日数が少ないことは,保険会社との交渉の中ではマイナスに働く事情になります。

 その理由は,自賠責保険の慰謝料の計算方法が,治療を開始してから終了するまでの期間の長さか,実際に通院した日数を2倍した数字のいずれか小さい方に4,200円(令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は4,300円)をかけることになっているためです。

 この方法によると,たとえどれだけ症状が治るまでに時間がかかったとしても,通院の日数が少ないと慰謝料の金額も大きくならないことになります。

 そして,相手方の任意保険会社は,自賠責保険の認定額を念頭に置いて支払額を決定しますので,自賠責基準の金額が低ければ,任意保険会社との交渉でも金額が低くなる傾向にあるのです。

 さらに,弁護士が用いる「赤い本」の基準でも,実通院日数が少ない場合,通常であれば治療を終えるまでの期間の長さによって金額を定めるところが,実通院日数の3倍を目安とすることがあるとされています(むち打ちの場合)。

 そのため,実通院日数が少ない場合に,通常の場合と同様の慰謝料を受け取るためには,相応の交渉が必要となるのです。

兼業主婦で仕事の休みはほとんどない

 兼業主婦で勤務先の仕事の休みが少ない(又はない)場合,主婦の休業損害を請求できるのかは悩ましいところです。

 なぜなら,勤務先の仕事に出ていたということは,家庭でも家事が出来たのではないかという疑問が生じるためです。

 しかし,実際には,症状を抱えて通院をしつつ,仕事を休まなかったのであれば,その分のしわ寄せがあるはずであり,それが家事に影響するということはよくあります。

 また,そうでなくとも,収入を得るために仕事には無理をして出ていても,家事については他の家族に頼るということもあります。

 いずれにせよ,症状があって通院をしている以上,仕事を休まなかったからといって家事労働に支障が出なかったということには必ずしもなりません。

 裁判でも,仕事を休まなかった主婦に休業損害を認めるものがあります。

 そのため,この点についても,実際に家事に支障が出ていたのであればしっかりと主張をすべきですが,保険会社はこの点は容易には認めません。

まとめ

 後遺症がなく,実際に通院の日数が少ない場合,保険会社から示される金額が小さく,弁護士に依頼するほどのことでもないと思われがちですが,本件のようなケースでは,金額大きく変わることも少なくありませんので,示談をする前に,一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

後遺障害14級9号【むち打ち】で示談交渉を行った事例

2019-09-04

事案の概要

 事故は信号待ちで停車中に,後方から追突されたというものです。

 相手方の保険会社を利用して治療を継続していましたが,完全には症状がなくならないまま治療費の支払いの打ち切りを宣告されたため,ご相談となりました。

当事務所の活動

後遺症の認定申請

 まず,治療の打ち切りの問題については,治療の長さ,訴えている症状の内容,事故の状況などから,自賠責保険に対して,後遺症の認定を申請することをおすすめしました。

 これは,法律的に見ても,症状が固定した時期(治療しても根本的な改善が見られない状態になった時期)になると,一般的にそれより後の治療費の支払いはされなくなり,その分について補償を受けるためには,後遺症の認定を受ける必要があるためです。

 その結果,頚椎捻挫後の首の痛みについて,後遺障害等級14級9号が認定されました。

示談交渉

 上記の結果を受けて,相手方保険会社と示談交渉を行い,結果として,慰謝料については示談交渉であることを考慮して,多少の譲歩をしたものの,後遺症の逸失利益は,労働能力喪失期間5年の裁判の相場にしたがって支払いを受けることができました。

ポイント

 本件は,事故の程度としてはそれほど大きいものではなく,事故状況からすると,後遺症の認定が出ないことも十分に考えられました。

 しかし,被害者の年齢が60歳を超えていて,頚椎に加齢による変性が見られ,訴える症状も強く,整形外科への通院も比較的多かったという事情があり,結果として後遺障害等級が認められました。

※むちうちの場合の後遺症認定のポイントはこちら→「むち打ち症と後遺障害等級の認定」

 14級9号の場合,労働能力喪失期間を3年などと主張されることが多いのですが,この点については,最近の裁判の傾向を示し,根気強く交渉をすることが必要となります。

 本件は,むち打ち症で後遺障害等級14級9号が認定された場合の典型的な事例であったと思いますが,だからこそ,しっかりと相応の支払いを受けられるようにしなければなりません。

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

その他の事例はこちら→「解決事例一覧」

ご依頼の場合の料金はこちら→「弁護士費用」

 

12級8号【TFCC損傷後の変形障害】で1230万円→1460万円

2019-07-09

事案の概要

 事故は十字路交差点の出合い頭事故で,被害者は,右手関節TFCC損傷,左肋骨骨折,左血胸などの傷害を負いました。

 治療により症状は軽快したものの,TFCC損傷による変形障害や疼痛等が残存し,「長管骨に変形を残すもの」として,後遺障害等級12級8号が認定され,保険会社から賠償金額の提示があった段階での依頼となりました。

 

当事務所の活動

 本件は,元々相手方から既払金を除いて約1230万円の提示がされていて,それほど悪い金額ではありませんでした。

 しかし,内容の詳細を見ると,慰謝料や逸失利益の計算について気になるところがありましたので,この点について交渉を行うこととしました。

 その結果,最終の支払額が約1460万円となり,約230万円の増額となって示談することができました。

 

ポイント

 本件の問題は,休業損害と逸失利益の計算の部分にありました。

 被害者は,事故の少し前に自営に仕事を変えていて,それによって大幅に収入が増えていたのです。

 それだけであれば,取引先の協力を得て資料を取り付け,給与の振込先口座の預金通帳の写しを提出するなどして収入の証明ができるのです。

 しかし,今回の場合,給与が手渡しで実際の支払いを証明するものがない,給与から源泉徴収がされているものの,税金の面からもこれを裏付ける資料がないといった問題がありました(事故当年は未申告)。

 このような場合,収入がゼロではないことは明らかであるものの,正確な金額を計算することができないということで,一般的な労働者の平均賃金を参考にして金額を計算することがあります。

 本件の場合も,休業損害はそのまま請求した金額が支払われていましたが,逸失利益は平均賃金を用いて計算されることとなり,依頼前は,業種別の若干低い金額が用いられていました。

 平均賃金と一言で言っても,学歴や業種によって差をつけるのか,平均賃金から一定割合を差し引くのかといった考慮が必要となることがあり,いずれにせよ重要なのは,「確実にその程度の収入は得ていただろう」と言えなければならないので,その点が本件では問題となりました。

 交渉の結果,慰謝料の金額を増額できたことに加え,逸失利益の基礎収入も業種の限定を行わない形で計算を行い,結果的に増額に成功しました。

 休業損害の収入の証明は,事故前の実績で判断されることとなりますので,事故の直前に仕事を変え,収入も増えたとなれば,審査も当然厳しくなります。

 その場合でも,給与の支払いが振込みで行われるなどしていれば,金額の証明ができることは多いとは思いますが,そういった証明ができない場合には,平均賃金を使った計算などに頼らなければならなくなります。

 本件の資料の状況等に照らすと,いい条件で示談ができたのではないかと思います。

 

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

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後遺障害14級で,裁判の後,人身傷害保険の支払いも受けた事例

2019-06-24

事案の概要

 事故現場は,T字路交差点が連結したような変則的な十字路交差点で,相手方に一時停止の規制があり,事故の態様は,直進していた被害車両との出合い頭事故でした。

 通常,このような事故状況であれば相手方の過失割合が大きいのは明らかなのですが,本件の場合,相手方が自分の非を認めようとせず,やむを得ず裁判をすることになりました。

当事務所の活動

 本件は,元々他の事務所が担当していたのですが,事情により,弊所で引き継いだものです。

 そのため,弊所では裁判から担当しました。

過失割合の争い

 本件では,過失割合が争いとなりましたが,相手方が自身の過失が小さいと主張する主な理由は,事前に一時停止をして交差点に入ったから,自分には落ち度がないというものでした。

 しかし,一時停止をしたというわりには,事故の前の被害車両との位置関係などを述べることはなく,実質的にみると,安全確認に必要な一時停止をしていたとはいえない状況でした。

 そのため,裁判所も,一時停止による過失割合の修正は認めませんでした。

治療費や後遺障害認定についての争い

 その他,治療費や後遺障害認定(14級9号)についても争われ,相手方からは外部の医師による意見書まで提出されました。

 しかし,こちらの提出した主張・証拠に対して,有効な反論とはなっていませんでしたので,特に問題とはなりませんでした。

和解の提案

 裁判で主張と証拠が出揃った段階で,裁判所から和解の提案が行われました。

 過失の割合は相手方の徐行を考慮して基本的に30対70のところ,和解を前提として25対75としつつ,人身についてはシートベルトの着用方法の点を考慮して30対70とされました。

 そのほか,休業損害を主婦として請求していたのですが,70万円を超える認定がされました。

 この和解案を見て,人身傷害保険のことも考慮して(理由は後述),和解を受けることとし,相手方からも異存はなかったため,和解で終了しました。

ポイント

過失割合

 過失割合については,一般的に「別冊判例タイムズNo.38」(判例タイムズ社)という本を参考に決められることが多いです。

 この本は,東京地裁民事交通訴訟研究会というところが作成したものであり,実務上非常に重視されています。

 今回も,この基準を前提にしつつ,話が進められました。

 これによると,一時停止のある道路の出合い頭事故の過失割合は,20対80が基本となり,一時停止のある側だけが減速していた場合は30対70,一時停止のある側が一時停止をしていた場合は40対60となります。

 今回も,相手方の一時停止が認められれば,40対60となるところでした(実際,相手方の主張を見る限り,一旦停止していた可能性はありました。)。

 しかし,一般的にも誤解されがちなのですが,一時停止の規制がある場合,一時停止をすればそれだけでよいということにはなりません。

 当たり前のことですが,一時停止をしたうえで,左右の安全確認をしなければならないわけで,安全確認をしたときに車が走行してくるのが分かれば,交差点に進入してはいけません。

 そのため,交差点の見通しが悪く,停止線の手前で停止しても道路の状況が分からない場合,さらに徐行発進して安全確認をしなければなりません。

 先ほどの一時停止で40対60となるのは,一時停止をして相手の車を確認したものの,速度と距離の判断を誤って事故を起こしたという場合を想定しているのです。

 したがって,事故が発生するまで相手の車に気付かなかったというような場合には,このような修正は認められないのです。

 本件でも,刑事記録により,相手方が衝突まで被害車両の存在に気付かなかったことが分かったため,この修正は認められませんでした。

 別冊判例タイムズNo.38の基準を使う場合でも,基準の意味をよく理解して,具体的な事案に当てはまるのかよく吟味する必要があるのです。

人身傷害保険の利用

 過失割合については,こちらの減速なしと相手の減速ありが認められるなど,完全に満足のいくものではありませんでしたが,和解が可能かどうかは,最終的に受け取れる金額がどうなるかが重要となります。

 本件の場合,人身については,事前に自賠責保険の保険金(被害者は同乗者であったため,自賠責が相手方分と運転者分で2つ利用可能でした)を受け取っていたため,過失相殺をされると,約120万円の減額となり,受け取れる金額が大幅に減少し,相手からの支払いは約11万円となってしまいました。

 しかし,本件は,被害者が人身傷害保険に加入しているという特色がありました。

 人身傷害保険は,被害者が自分の怪我を治すための保険で,過失にかかわりなく支払いを受けることができ,通常使っても保険料が上がらないという特色があります。

 さらに,裁判を行った場合には,「裁判基準」で過失分の穴埋めができるという非常に優れた保険となっています。→詳細はこちら「人身傷害保険で過失の穴埋め」

 今回は,裁判を先に行って,後で人身傷害保険から支払いを受けたのですが,このような場合でも,最近の保険では,ほとんどの場合,上記のような補填が可能になっています(詳細はご自身の保険の約款をご確認ください。)。

 この点について,人身傷害保険を後から使うことはできないかのように書かれているホームページを見たことがありますが,明らかに誤りです。

 本件でも,和解後,人身傷害保険から約120万円の過失分について保険金の支払いを受けることができましたので,結果として,過失30%分についても,裁判基準での支払いを受けることができました。

 このように,人身傷害保険があるかどうかは,裁判をするかどうか,和解の方針をどうするかに重大な影響を与えますので,被害者に過失がある場合,この保険の有無を確認することは,もはや必須となっているといえます。

弁護士に依頼すべき理由はこちら→「なぜ弁護士に交渉を依頼すべきか」

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会社員で後遺障害12級6号が認定され,過失割合の交渉も行った事例

2019-05-20

事案の概要

 事故の状況は,バイクで道路を走行中,右側からバスが車線変更をして接触してきたというもので,被害者は,鎖骨・肋骨・肩甲骨の骨折といった傷害を負い,過失割合や事故当時に身に付けていたものなどに関する賠償の問題もあったため,事故から間もない時点でのご依頼となりました。

当事務所の活動

物損の示談交渉

 まずは,物損の交渉からですが,本件は,バイクの修理費用が時価額を上回る,経済的全損にあたりましたので,この点の賠償の交渉が必要となりました。

 また,事故当時身に付けていたものなども破損していましたので,この点も併せて交渉を行いました。

 物損の交渉の一般論については,こちらをご覧ください。

過失割合

 本件は,弁護士への依頼前の物損の交渉の時点で過失割合は5:95で話が進んでいて(物損は相手からの請求なし),この点について被害者は特に異存はありませんでした。

 しかし,弁護士が介入すると,保険会社がそれまでの主張を撤回し,過失割合20:80を新たに主張してきました。

 四輪車が車線変更をして二輪車に接触した場合の過失割合は,一般的には20:80とされているのです。

 保険会社が一旦示した金額を撤回することは通常はないのですが,物損で示した過失割合を,弁護士が介入した後の人身の交渉の際に撤回してくるということはたまにあります。

 物損と人身では金額の大きさが違うことに加え,弁護士介入後の人身の支払額は,保険会社が通常予定している金額よりもさらに大きくなるためだと考えられます。

 そのため,この点も交渉を行う必要が生じました。

 一般的な過失割合を修正するためには,それ相応の理由が必要となり,しかも,こちらが主張したい事実を自分で証明しなければなりません。

 事故の状況は,ドライブレコーダーなどで証明することができることもありますが,それが難しい場合,刑事手続の中で作成された資料を用いて証明をしていきます。

 本件は,加害者の刑事裁判が行われていましたので,裁判所の記録を取得する必要がありました。

 この裁判記録を確認することにより,事故の状況を証明することができ,被害者が事故を回避することが一般的な車線変更の場合と比較して困難であったことが分かりましたので,このことを理由に過失割合を5:95に戻すことができました。このことは,人身の賠償額に大きく影響することになります。

後遺障害の認定

 被害者は,治療を行いましたが,肩の関節の可動域に障害が残ったため,後遺症の認定を受けることになりました。

 本件は,実際に通院した日数が10日(他に入院2日)と短かったのですが,無事に後遺障害等級12級6号の認定を受けることができ,これに伴い,自賠責保険金として224万円が支払われました。

 むちうちに代表される,痛みやしびれなどの神経症状のみの後遺症の場合とは異なり,骨折後の可動域制限の場合であれば,実通院日数がそれほど問題とはならないのです。

 この場合,症状固定時点での骨の癒合の仕方などに問題があり,それによって可動域が制限されているということが,画像資料によって客観的に把握することができるということが重要なポイントとなります。

人身の示談交渉

 本件の場合,既に述べたように,過失割合も争いとなりましたが,この点は,20:80から5:95となりました。

 人身の交渉で金額面の差が出る部分は,主に慰謝料と逸失利益です。

 過失割合5:95を前提としても,当初相手方は約950万円を提示していました。

 しかし,これは相場と比較して著しく低かったため,交渉を行い,最終の支払額は約1160万円として示談をすることができました。

ポイント

 今回の交渉で金額に大きな影響を与えたのは,過失割合の部分でした。

 被害者本人が交渉をしていた場合と弁護士が介入した場合で,弁護士が介入した後で不利になることはほとんどないのですが,たまにあるのが,物損示談時の過失割合が変更されるパターンです。

 この場合,物損の方で一般的な相場よりも保険会社が譲歩している可能性が高いため,人身の方の過失割合の交渉は難しいことが多いです。

 しかし,一方で,全く譲歩する余地がないのに保険会社が譲歩することはほとんどありません。

 つまり,保険会社にも何らかの弱みがあるはずです。ただ,それを証明する資料が不足しているために,一般的な相場を強く主張してくるのです。

 今回の場合,刑事記録を取得することで,相手の弱み(被害者が避けられない状況だったこと)を証明することができたので,過失割合を相場から修正することができました。

 弁護士基準で慰謝料や逸失利益などを請求しようとする場合,金額が大きくなり,過失割合の交渉もよりシビアになりますので,しっかりと資料を揃え,論理を整えることが重要となるのです。

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主婦のむちうちで14級が認定され,後遺症の賠償が満額となった事例

2019-04-12

事案の概要

 事故の状況は,信号待ちで停車中に後方から加害車両に追突されたというもので,被害者は頚椎捻挫・腰椎捻挫・肩関節捻挫のけがを負いました。

 順調に回復していたのですが,事故から8か月近くが経過し,治療の終了が見えてきたところで症状が悪化し(整骨院の施術の問題の可能性がありました。),保険会社から打ち切りの連絡がありました。

 そのため,このタイミングで弁護士への依頼となりました。

 

当事務所の活動

打ち切りに対する対応

 まずは,治療費の支払いの延長交渉から始まりました。

 事故から相当時間が経過しており,骨折等の他覚所見もありませんでしたので,治療費の延長を求めることは非常に困難でした。

 さらに,本件の場合,整骨院での施術が原因で症状が悪化した可能性があり,客観的に見ても,加害者にそれによって追加で生じた治療費の支払いを求めることは難しい状況でした。

 それでも,交渉を行った結果,さらに2か月強の治療費の支払いに応じてもらえることになりました(保険会社によっては,一切交渉を受け付けられなかった可能性が高いです。)。

後遺症の申請

 治療終了後も,被害者の訴える症状が強かったため,自賠責保険会社に対して後遺症の申請を行うことにしました。

 本件は追突事故でしたが,後部バンパーだけでなく,内部まで損傷が及んでいたことが写真からも明らかでしたので,この写真を添付しました。

 結果として,頚椎捻挫後の症状と腰椎捻挫後の症状についてそれぞれ後遺障害等級14級9号が認定されました。

示談交渉

 治療費の件は既に交渉ができていたので,示談交渉で問題となったのは,主婦として休業損害の上乗せと慰謝料,後遺障害に関する賠償の点でした。

 主婦の休業損害については,会社員としての休業損害が既に50万円以上出ていたことから,上乗せが難しい部分でした。また,本件の場合,治療の延長の問題もあったため,この点を強硬に主張することは得策ではないと思われました。

 そのため,この部分は上乗せを求めない代わりに,その他の部分の満額の支払いを求めることにしました。

 その結果,入通院慰謝料は約108万円,後遺障害逸失利益は約81万円(労働能力喪失期間5年),後遺障害慰謝料は110万円と,いずれも裁判基準の満額(入通院慰謝料は,当初終了予定だった8か月の基準を上回る額)での支払いを受けることができました(その他に既払の治療費や休業損害等が約200万円ありました。)。

 

コメント

 本件は,相手の保険会社の対応が比較的良かったため,請求がほぼ認められましたが,いい意味で珍しい事案だったと思います。

 基本的に,怪我を「治す」という意味では,医師による治療が推奨されるところであり,整骨院の施術によって症状が悪化した可能性がある場合,しかも,治療が相当進んだ段階でそのような事態が生じた場合,相手方からの打ち切りを拒むことは非常に難しいと言わざるを得ません。

 整骨院による症状の緩和の効果や,通院のしやすさ等のメリットは否定できませんが,仮に賠償上の何らかのデメリットが生じた場合,その点は自己責任になる可能性が高いことを認識しておくべきです。

 特に,本件は後遺症について等級の認定が出たので後遺症についても補償を受けることができましたが,仮に等級が出なかった場合,その部分の補償が受けられないこととなって,大きな苦痛を伴うこととなりますので,どのような治療を受けるのがベストなのか,賠償の観点からもしっかりと検討をすることをおすすめします。

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相手方からの請求に対し,逆に約204万円の支払いを受けた事案

2019-01-07

事案の概要

 事故の状況は,被害者が運転するバイクが,道路の左前方にあるコンビニエンスストアの駐車場に左折で入ろうとする車を追い抜いて道路を直進しようとしたところ,コンビニエンスストアから右折で道路に出ようとしたバイクが左前方の車の陰から出てきたため衝突したというものでした。

 そして,加害者から弁護士を通じてバイクの修理費用について時効の関係で損害賠償の請求をされたため,ご依頼となりました。

 

当事務所の活動

 本件は,被害者が骨折の傷害を負っていて,後遺症について後遺障害等級14級9号の認定を受けており,この点に関する慰謝料等が認められる事案であったため,相手方に対して賠償する分を差し引いても,逆に支払いを受けられるような事案でした。

 そのため,まずは人身に関する賠償金額を算出し,加害者側に請求することにしました。

 本件のような,コンビニ駐車場から出てきた車両と道路を直進している車両の間の過失割合は,駐車場から出る側が80%,直進している側が20%とされることが一般的です。

 しかし,本件は,直進車の前方に停車車両があったため,この点を踏まえて20%の修正を行い,加害者側は60対40を主張していました。

 本件は,加害者の過失割合に関する意向が強く,加害者側の請求に関する部分については,40%以外で和解できないような状況でした。

 他方で,この加害者側の請求は,バイクの修理費用のみで金額も比較的小さいのに対し,被害者からの請求に関しては,金額が大きいものの,支払いは相手の保険会社が行うため,それほど強くこだわっていないという事情がありました。

 また,こちらの対物保険を使った場合の保険料の増額が小さく,過失割合を修正したとしても,結局保険を使った方が経済的であったため,実質的には違いがないという特色もありました。

 そこで,早期解決のため,加害者に対する支払いについては,対物保険を使って40対60としつつ,被害者からの請求については,30対70とすることで合意することとなりました。

 その結果,約204万円の支払いを受けることで示談となりました。

 

コメント

 本件のように,前方に障害物があった場合,どちらにとって不利な事情になるのかは悩ましい問題ですが,車両の間をバイクがすり抜けようとした場合や,歩行者が車の陰から出てきて道路を横断しようとした場合,バイクや歩行者にとって不利になることから,直進車にとって不利になることも十分に考えられると思います。

 とはいっても,20%の割合での修正はやはり大きいと思われますが,物損は対物保険を利用した方が経済的なメリットがあったため,対物の過失割合にこだわって紛争を長期化させるよりも,人身でしっかりと賠償を受けて早期の解決を図ったのが本件の特徴です。

 なお,過失が大きい側の人身に関する補償は,自賠責保険の範囲内にとどまることが多いため,賠償の請求をされることはあまりありません。

 本件でも,加害者から人身に関する賠償の請求はされていませんでした。

 交通事故の解決の方法には様々なバリエーションがあるため,保険の加入状況等を見てみなければ,どのように解決を図るべきか判断しかねるような場合もありますので,自分の場合にどのような可能性があるのか,しっかりと検討することが必要です。

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足の骨折で後遺障害等級14級9号が認定された事案

2018-11-08

事案の概要

 事故の状況は,センターラインオーバーの対向車と衝突し,車の右前部が大破,エアバッグが作動したというもので,被害者は,胸や脚などを打撲し,右足を骨折するなどの怪我を負いました。

 

当事務所の活動

治療中のサポート

 本件は,治療中の段階でのご依頼でしたので,保険会社とのやり取りを弁護士が行うことで,まずは治療で身体をできるだけ元の状態に専念していただきつつ,今後の流れなどについてご説明を行いました。

 特に,後遺症が残りそうなケースであったため,どういったタイミングで後遺症とみなすことになるかといったことをご説明し,様子を見ることになりました。

後遺障害の申請

 そして,後遺症をいえるような状態となったため,医師と相談していただくことになったのですが,医師から,「後遺障害診断書は書くけど,認められないと思う。」と言われたとのことでした。

 しかし,私が見る限り,十分後遺症の認定が受けられると考えられましたので,後遺障害診断書の作成をしてもらい,自賠責保険に対して被害者請求を行いました。

支払われました。

保険会社との交渉

 本件での交渉のポイントは2つありました。1つは,被害者が主婦であったため,主婦の休業損害をどう見るかということで,もう1つは,骨折後の痛みの後遺症について,むちうちなどと同じように考えていいのかということです。

 主婦の休業損害は,金額の計算に決まりがあるわけではなく,骨折後の痛みがどの程度続くのかということも確定した考え方があるわけではないため,この設定が非常に無づかしいのです。

 相手方からは,当初,追加で約220万円を支払うという提示がされました。

 初めから弁護士が付いていたからか,極端に低い金額ではありませんでしたが,今回の事故で負った怪我の内容などからすると,やはり低いと言わざるを得ませんでした。

 そのため,改めて見解に食い違いがある点について文書で説明を行い,根気強く交渉を行った結果,最終的に300万円を支払うということで合意することとなりました。

 

コメント

 本件のように,後遺症の話を医師にした際,申請をしても認められないといった話を医師からされることが,少なからず見受けられるようです。

 しかし,医師は,自賠責上の後遺障害というものに関し,十分な知識を有しているわけではないため,その判断に誤りがあることがしばしばあります。

 これは,医師が考える「後遺症」と,自賠責保険上の「後遺障害」の概念が一致していないからだと思われます。

 自賠責のいう後遺障害は,上は常に介護を要するような重篤なものから,下は日常生活にはほとんど支障がないというものまで含まれていて,特に,下の方の等級では,深刻なものとは言い難いため,医師はこれを後遺症とまでは思わないことがあるようです。

 しかし,日常生活にほとんど支障がないといっても,現実には,痛みが気になって仕方がないといった支障が生じることがあり,この点についても賠償を受けられるか検討をすべきです。

 そして,この賠償を受けるためには,医師に後遺障害の診断書を作成してもらうことが必要ですので,認定が受けられるか否かについての医師の判断はともかく,後遺障害の認定を受ける見込みがある場合には,まずは医師に後遺障害の診断書の作成を依頼しましょう。

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人身傷害保険で後遺障害等級【非該当→14級9号】となった事案

2018-09-26

事案の概要

 事故の状況は,駐車スペースに自車を停めるために対向車線に出たところ,対向車がスピードを出して接近してきたため,慌てて後退したところ,電柱に衝突したというものでした。

 対向車は走り去ってしまったことに加え,ほとんど自損事故といっていい状態だったので,自身が加入する保険会社の人身傷害保険を利用しました。

 症状が固定することとなって治療が終了したもの,後遺症が残ったため後遺症についても補償を受けるべく後遺障害診断書を保険会社に提出したところ,後遺障害は非該当ということで補償を受けられないという通知がされました。

 そこで,後遺症に関する補償(異議申し立て)について当事務所に相談に来られました。

 

当事務所の活動

方針の決定

 本件では,事故衝撃もそれなりに強く,治療の実績も十分でしたので,後遺障害の認定が出てもおかしくはありませんでした。

 ただ,非該当となるには理由があるはずで,後遺障害診断書の内容を見る限り,今後も労働能力の低下が生じるほどの症状が残存するかといわれると,決定的な事情がないのもたしかでした。

 本件の特徴として,本人の訴える症状が非常に強く,症状固定後も自費で長期にわたって通院を続けていたということがありました。

 他方で,事情があってMRI検査等を受けることはできませんでしたので,画像によってヘルニアの存在を示すことが難しいという事情がありました(XP,CTは実施)。

 弊所では,このような事情の下で異議申し立ての手続きを行うこととなりました。

 

異議申し立て手続き

 弁護士が異議申し立ての手続きを行う場合,弁護士が作成した意見書を添付して申請をすることが通例ですが,それだけでは結果が覆ることは考えにくく,何らかの医学的な証拠も併せて添付することになります。

 本件では,既に述べたように,症状固定日以降も自主的に通院を続け,それにもかかわらず症状が残ってしまったということころに特徴がありましたので,医師に新たに後遺障害診断書を作成してもらうことを提案しました。

 その際,前回以上に症状を詳しく書いてもらうことと,改めて通院をしても治癒に至っていないことを踏まえて,今後の症状の改善の見込みを書いてもらうことをお願いしました。

 そのうえで,弁護士作成の意見書では,日常生活や仕事において実際に強い支障が生じていることや,症状の改善が見られないことを強調しました。

 

異議申し立ての結果

 異議申し立ての結果,後遺障害等級14級の認定が得られ,それに伴い,約款にしたがって人身傷害保険金が支払われることとなりました。

 

コメント

 自分の怪我の治療のために自賠責保険を使うことはできませんが,人身傷害保険の場合でも,事前の認定の手続きが利用されています。

 本件でも,事前認定の手続き(に対する異議申し立て)によって,後遺障害等級14級が認められました。

 一般的に,異議申し立てによって結果を覆すことは容易なことではありません。なぜなら,審査する基準自体は同じであるため,同じ被害者について出された結果が変わることはないはずだからです(むしろ,コロコロ結果が変わる方がおかしい。)。

 そのため,異議申し立てをして結果が変わるとしたら,前回の申請時に資料に不足があったか,申請後に新たな事情が判明したといった事情が必要となります。

 今回の場合,前者について,前回の申請時に状態を十分に伝えられていなかったという事情が存在し,後者について,前回申請時からも相当数の通院を続けてもなお症状が緩和していないという事情がありましたので,結果を覆すことができました。

 逆に言うと,そういった事情がなく,ただ単に前回の結果に対する不満を述べるだけでは,まず結果が変わることはないと思います。

 異議申し立ては難しいですが,結果が変わることもありますので,上記のような事情がある場合,一度トライしてみてはいかがでしょうか。

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