高齢者の逸失利益

2021-10-25

逸失利益の概要

 交通事故で被害者に後遺症が残った場合や被害者が死亡した場合、後遺障害逸失利益や死亡逸失利益と呼ばれる賠償金が支払われることになります。

 後遺障害逸失利益とは、後遺症によって仕事に支障が出たために、収入が減少したことに対する補填を意味します。

 簡単にいうと、事故に遭う前の収入が1000万円であった人の収入が事故後に900万円に減少した場合に、この差額の100万円を賠償として支払うというものです。

 もちろん、1年分だけ補償すれば良いというわけではありませんので、生涯にわたって減収が予測される部分については、全て補償の対象となります。

 例えば、治療を終えた時点で、事故がなければあと10年は働けるはずだった人の場合、自力で歩けない等の後遺症により、10年間は仕事に影響が出て、本来得られるはずだった収入の額に影響が出ることが考えられます。
 この場合、この10年分の減収を損害として加害者に金銭の請求をするのが後遺障害逸失利益です。

 逆にいうと、後遺症の影響で減収する可能性がない期間については、基本的に賠償の対象とならず、例えば30歳くらいで事故に遭った人について何歳分までを補償すれば良いのかが問題となります。

 裁判を含む一般的な考え方ではこの年齢は67歳と設定されることが多いです。上記の例で、30歳で治療を終えた場合、後遺症として賠償の対象とするのは、30歳から67歳までの37年とされることになります。

 死亡事故の場合も、生活費控除という特殊な処理をすることになりますが、基本的な考え方は同様です。

 そうすると、67歳を超えて仕事をしていたり、事故に遭った時点で60歳を超えていて、67歳を過ぎてもまだまだ仕事をする予定だった人の場合はどうなるのでしょうか?

 このように、高齢者の逸失利益には特有の問題があります。

高齢者の逸失利益の特色

有職者の場合

 最近では、60歳を超えても就労を続ける人も少なくありませんので、比較的高齢の人であっても、逸失利益が生じることは十分あり得ます。

 ただし、この場合、上記で述べたように、一般的なケースのように67歳までの期間で逸失利益の計算を行うと、対象となる期間が短くなる結果、賠償金の額が小さくなってしまったり、67歳を超えるような人の場合、賠償金が0ということになりかねません。

 そこで、こういう場合、「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とみなして計算するという方法で賠償を請求します。

 裁判でも、こうした計算方法が広く認められています。

 その結果、67歳が間近であったり、67歳を超えて仕事をしているような高齢者であっても、逸失利益が認められることになります。

※ただし、事案によっては、必ずこの計算が認められるわけではありませんので注意しましょう。

無職者の場合

 無職の場合、収入がないのですから、減収を前提とした後遺障害逸失利益の請求はできないことになります。

 しかし、事故当時に一時的に仕事をしていなくても、そのうち仕事を開始する予定だったという人もいるでしょう。

 そういう人の場合、就職活動を行っていた等、仕事をする意欲があったことを証明し、後遺障害逸失利益を請求することが可能です。

 ただ、後遺障害逸失利益は、通常、被害者の事故に遭う前の収入額によって金額が決まるのですが、無職者の場合、事故前の収入というものが存在しません。そこで、適切に計算を行うための収入を設定する必要があります。

 一般的には、年齢別の労働者の平均賃金を用いることが多いです。

家事従事者の場合

 高齢者であっても、事故前に同居する家族のために家事を行っていたという人は少なくないでしょう。

 このような人の場合、一般的な主婦(主夫)の場合と同様、家事に関する逸失利益を請求することが可能です。

 この場合の計算方法ですが、女性労働者の平均賃金を用いることが一般的です。

 ただし、この場合も、一般的には全年齢の平均賃金を用いることになるのに対し、高齢者の場合、家事労働にも多少の制限があることがありますので、年齢別の平均賃金を用いることがあります。

まとめ

 いかがだったでしょうか。

 高齢者の場合、形式的に計算すると、後遺障害逸失利益がゼロということにもなりかねませんが、上記のとおり、多少の制限はあるものの、請求自体は認められています。

 高齢者の後遺障害逸失利益の計算は、通常の場合以上に技術的な面が多いので分かりにくい部分となっています。

 そのため、通常の場合以上に示談交渉をしっかりと行うことが必要と言えるでしょう。

 

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