主婦の休業損害なら弁護士にご相談を
交通事故の被害者の方の場合,弁護士に保険会社との示談交渉についてご依頼いただくことでメリットが発生することが非常に多いことは,既に何度かご紹介していますが,このように交通事故事案の場合に高い確率で賠償金の額が上がるする最も大きな原因は,慰謝料の額について保険会社が裁判基準よりも低い金額(場合によっては自賠責基準)を提示してくるということにあります。
しかし,その他にも,保険会社がかなり高い確率で低い金額を提示してくるものがあります。
それは,家事従事者(主婦)の休業損害(休業補償)に関するものです。
後で述べるように,主婦の休業損害(休業補償)の請求は,慰謝料の請求と比べると,適正額を保険会社から回収するのは難しいところがあるのですが,今回はこの点について見ていきたいと思います。
休業損害(休業補償)とは?
休業損害とは,交通事故の影響で仕事を休業したことによる収入の減少に関する損害を指します。
例えば,サラリーマンが治療のために10日休業をしたことによって,その分の給料が出なかったとすると,この支払いを受けられなかった分について,1日当たりの給料が1万円なら,これに休業日数の10日をかけて10万円を相手方に賠償の請求をすることになります。
したがって,請求の前提として,基本的に減収が生じたことが条件となってきます(もっとも,有休を使った場合でも請求は可能です。)。
主婦でも休業損害は発生する!
このように見ると,主婦の場合,家事を行ったとしても,給料が支払われるということは通常ないため,この前提条件を満たさないために請求ができないのではないかという問題が生じます。
また、被害者の方も、家事に支障が出ていることに不満を感じていても、経済的な損失はないことが多いので(実際には家族に代わってもらったりすることが多いため)、「休業損害」として加害者に賠償を請求できるとは思わないことが多いようです。
しかし,そのような考え方は家事労働の重要性を軽視するものですし,家事は他人に頼めば当然対価を支払わなければならないものですので,実際に主婦業を休まざるを得なかったとすれば,財産的な損害が発生しているというべきです。
実務上もこのように考えられていて,家事労働ができなかった場合にも,財産上の損害が発生すると考えられています(最高裁昭和49年7月19日判決)。
ただし、同様に家事に関する損害が問題となり得る一人暮らしの被害者の場合、現在の実務上、家事としての休業損害は認められない傾向にあります。
⇒「1人暮らしで無職の休業損害・逸失利益」
主婦の休業損害の額はどう計算するのか
このように,主婦でも休業損害が発生すること自体については,現在ではほとんど問題になりませんが,この計算方法については,かなり争いになります。
保険会社はこの点について,1日の単価を5700円(令和2年4月1日以降の事故の場合6100円)とする提示をしてくることが非常に多いです。
この金額がどこから来ているかというと,自賠責保険における家事従事者への休業損害の支払額から来ています。
しかし,自賠責保険は,交通事故被害者のために簡易迅速に支払いを行うための最低限の額を定めているに過ぎず,任意保険会社は,自賠責保険ではまかないきれない部分について支払いを行わなければなりません。
では,その金額はどうやって計算するのか?
この点も,前掲の最高裁昭和49年7月19日判決で触れられていて,女子労働者の平均賃金を用いて計算するという方法が,裁判上は定着しています。
したがって,任意保険会社も,この方法に従って,支払う必要があります。
ちなみに,平成26年の全女性労働者の平均賃金は,年収364万1200円(賃金センサス)とされており,これによると,1日当たりの単価は9976円(四捨五入)となりますので,自賠責基準の単価よりもかなり高いことが分かります。
休業日数の認定の難しさ
このように,1日の単価については設定できたとしても,何日分のマイナスがあったのかという休業の日数を認定するのは難しい問題です。
なぜなら,主婦の休業損害は,交通事故によって家事ができなくなったことに対する請求になりますが,入院したり,全く動けない状態なったような場合でなければ,多少は家事を行えるということが多いからです。
そうすると,例えば,完全に家事ができないわけではないものの,以前に比べて50%くらいしか家事ができなくなり,その状態が30日間続いた場合,先ほどの単価の50%に30日をかけるということになります。
しかし,この50%というような家事労働のマイナスの割合を算定するのは非常に難しいです。
相手方に対する証明の問題以前に,当事者でもこの割合を正確に判断することは困難でしょう。
さらに,実際には,治療を続けて症状が軽くなっていくことで,家事労働への支障の程度も減少していきますので,前述の50%が,30%,10%と減っていくことが考えられます。
具体的な計算方法
こうなると,休業損害の額を正確に算定することは不可能といっても過言ではありません。
そこで,金額を算定するときは,裁判所の判断を参考にして概算で決めていくことになります。
しかし,過去の裁判例を見ると,いわゆる裁判基準と呼ばれるような一般的な基準はなく,判断の仕方は様々です。
そのため,弁護士が請求する際に行うことは,怪我の内容や後遺症の内容,通院の状況等,できるだけ似た事案を探し,それを参考に最終的な金額を決めていくほかありません。この点が,弁護士の腕の見せ所ということになります。
その結果,計算方法として,例えば治療期間が180日,通院日数が50日の場合,「通院日数50日を休業の日数とする」,「全治療期間を通じて30%の影響があった」,「初めの30日は50%,残りの150日は20%の影響があった」などとすることが考えられます。
この辺りは,実際の状況を見て,もっとも適切だと思われる方法を選択します。
解決実績
弊所での解決実績の一部をご紹介します
・主婦の休業損害を含め約180万円の支払いを受けた事例(治療費は除く)
・後遺障害等級14級9号で5年を超える労働能力喪失期間が認められた事例
・人身傷害保険を組み合わせて過失分も含めて満額回収できた事例
最後に
このように,請求の金額を決めること自体に難しい点がある主婦の休業損害ですので,保険会社は,かなり低い金額を提示してくることがほとんどです。
そういう意味では,主婦の休業損害の請求は,慰謝料の増額交渉以上に,弁護士が示談交渉を行う必要性が高いと言えると思います。
次回は,様々なケースの中で,主婦の休業損害を請求する際に問題となる点を掘り下げて見ていきたいと思います。