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もらい事故への対応について

2020-06-08

もらい事故だと保険会社が交渉できない?

 相談をお受けしていると,「自分の保険会社から『過失割合が0対100なので,交渉をすることができない』と言われた」という話をよく聞きます。

 たしかに,被害者に落ち度のない,いわゆるもらい事故の場合,自分の保険会社は交渉を行うことはできません。

 なぜなら,示談交渉などを弁護士以外の者が行うことが弁護士法72条という法律で基本的に禁止されていて,違反すると犯罪になるためです。

示談代行サービスとは

 それでは,自動車保険のテレビCMなどで示談代行サービスをうたっていて,実際に示談代行サービスが行われているのは何故でしょうか?

 これは,被害者に少しでも落ち度があれば,保険会社は,その程度に応じて対人又は対物保険の支払いをする必要が出てきますので,自分たちが支払う保険金に関することとして,示談代行を行うことができるためです。

 これに対し,もらい事故の場合,そこで行われる交渉は,全て被害者から加害者に対する支払に関するものであって,自分の保険会社は対人・対物保険の保険金を支払う必要がありませんので,交渉を行うことはできないのです。

示談代行サービスが使えない場合の対応方法

 示談代行サービスが使えない場合でも,慰謝料など怪我に関する補償の問題や,車の時価額の問題など,交渉をしなければ適切に賠償が受けられない場面は多々あります。

 このような場合,弁護士に依頼することで,適切に交渉を行っていくことが可能になります。

 弁護士に依頼する場合,弁護士費用が発生することになりますが,交通事故の場合,弁護士費用を差し引いても示談交渉を依頼した方が良いという場合も多いです。

 しかし,それでも支払いが生じる以上,やはり費用は気になるとことだと思います。

 こうした場面で弁護士に依頼してしっかりと示談交渉を行いつつ,弁護士に支払う費用に備える保険が,弁護士費用特約です(CMでもこの保険のことをアピールするものもあります。)。

 弁護士費用特約そのものにかかる保険料は通常は低額で,使用しても等級は下がりませんので,交通事故の被害に遭ったときに備える保険として非常に有効です。

 弁護士費用特約のご加入がある方は,ご相談だけでも利用できますので是非積極的にご活用ください。

 また,ご加入がない方でも,示談交渉を依頼するメリットがあることが多いので,お気軽にお問い合わせください。

人身事故への切り替えについて

2020-05-12

 事故発生から間もない段階でのご相談をお受けした場合,人身事故への切り替えをした方が良いのか?という点について聞かれることがよくあります。

 ここでいう人身事故への切り替えとは,保険会社との関係ではなく,警察に対して,交通事故が物件事故扱いとなっているものを人身事故扱いとしてもらうかどうかということを意味しています。

 事故当日に警察に状況を説明しているとは思いますが,後日診断書を警察に提出して人身事故への切り替えまでするかどうか悩まれている人もいらっしゃるかと思います。

 ここでは,人身事故への切り替えの持つ意味を解説します。

刑事処分

 交通事故に関する刑事処分は,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)によってなされていますが,文字通り人を死傷させた場合を念頭に置いていますので,物件事故の場合はこの法律の対象外となります。

 わざと車をぶつけたような場合は刑法上の器物損壊罪が成立する可能性がありますが,一般的に交通事故で想定されているケースではないでしょう。

 また,わざとではなくても,交通事故で建造物を損壊した場合には道路交通法116条によって刑事処分を受ける可能性はあります。

 いずれにせよ,物件事故で通常想定されている,不注意による自動車(バイク)同士の事故で,自動車(バイク)が破損させられたというケースでは,基本的にそれだけで刑事責任の対象とならないと考えて良いでしょう(修理費などの民事責任が問題となることは言うまでもありません。)。

 したがって,物件事故と人身事故では,この点が大きく異なりますので,人身事故の切り替えをすることは,加害者に刑事処分を受けさせるかどうかに大きく影響することとなります。

 もっとも,人身事故への切り替えをしたとしても,怪我の程度が軽く,相手に前科・前歴がなければ,不起訴処分となって刑事処分を受けないことも多いです。

行政処分

 交通違反や交通事故では,自動車等の運転者の交通違反や交通事故の内容により一定の点数を付けられていて,その過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止や取消等の処分を行われることになります。

 人身事故の場合,次のように交通事故の付加点数(違反点数)が定められています。

① 専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合

死亡事故 20点

治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 13点

治療に要する期間が30日以上3か月未満 9点

治療に要する期間が15日以上30日未満 6点

治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 3点

② ①以外の場合

死亡事故 13点

治療に要する期間が3か月以上または後遺障害がある 9点

治療に要する期間が30日以上3か月未満 6点

治療に要する期間が15日以上30日未満 4点

治療に要する期間が15日未満または建造物の損壊に係る事故 2点

※→警視庁ホームページ

 

 このように,怪我をしているかどうか,怪我がどの程度重いかによって付加点数が異なりますので,加害者にとって,人身事故の届け出がされるかどうかは重大な影響があります(仕事上,自動車の運転が必須な人などは特にそうでしょう。)。

刑事記録の違い

 人身事故の場合,実況見分によって事故に至るまでの状況や,道路の形状といったことが細かく記録され,実況見分調書というものが作成されます。

 これを見れば,どのような事故であったのかある程度正確に知ることができます。

 これに対し,物件事故の場合,基本的に刑事処分の対象とならないため,本格的な捜査は行われないのが通例です。

 書類は一応作成されますが,物件事故報告書という簡易なもので,事故の概要しか分かりません。

賠償上の違い

 法律上,加害者側から損害賠償を受けるにあたって,人身事故への切り替えが条件になっているということはありません。

 インターネット上の情報を見ていると,人身事故への切り替えをしなければ支払われないものがあるとか,後遺障害の認定が受けられなくなるといったものを目にします。

 しかし,少なくとも私の経験上,交通事故の届出自体をしていないというのであればともかく,人身事故の切り替えをしていないという理由だけで相手の任意保険会社から支払いを拒まれたことはありません。

 また,後遺障害の認定を含めた自賠責保険の請求の場合でも,物件事故の交通事故証明書に,「人身事故証明書入手不能理由書」という紙を1枚添付すれば,適切に処理がされています。

 人身事故の切り替えをしていた方が後遺障害の認定がされやすいかどうかについては,検証のしようがないため(全く同じ事件というものはないので),断定的に述べることはできません。

 ただ,上記の「人身事故証明書入手不能理由書」を添付する方法で認定を受けられたものも多数ありますし,反面,当初から人身事故扱いとなっていても認定が受けられなかったものもありますので,明白な違いというものは認められません。

 以上のような次第ですので,弊所では,基本的に,人身事故への切り替えが,賠償の範囲や額に直結するものとは考えていません。

人身事故へ切り替えをしておいた方が良いケース

相手への処分を求める場合

 人身事故への切り替えは,加害者の刑事処分や行政処分の内容に大きな影響を与えますので,加害者への処分を求めたい場合には,切り替えをした方が良いでしょう。

事故状況が問題になるケース

 既に述べたように,人身事故への切り替え自体で損害賠償の額が直接変わるというものではありません。

 しかし,既に述べたように,人身事故への切り替えをした場合の違いとして,実況見分等の捜査が行われ,その記録が作成されるということがあります。

 これらの本来の目的は,適切に刑事処分を行うことにありますが,被害者としても,これらの書類を取り寄せることで,民事の損害賠償請求の中で証拠として活用することができます。

 過失の割合が0対100で争いもないような場合であれば,それほど問題はありませんが,それ以外の場合,事故の状況を正確に把握する必要があり,その際に,中立な第三者である捜査機関によって作成された書類は,最も有効な資料となります。

 特に,加害者が,事故当初は事故状況について率直に認めていたのが,後になって内容を覆してくるというような場合,加害者の事故直後の説明を元に作成された実況見分調書を示すことで,そうした主張を封じることができます。

 このとき,物件事故の場合だと,必ずしも双方の主張を聞いて書類が作成されるわけではなかったりするので,十分な対応ができないことがあります。

まとめ

 人身事故への切り替えは,刑事処分・行政処分に関するものですので,これらの加害者への処分をどうしたいかによって行うべきかどうかを考えることになります。

 他方で,民事の損害賠償との関係でも,事故状況に関する証拠を押さえるという点で意味があります。

 人身事故への切り替えを積極的に行うべきかはケースによりますが,事故状況などで争いになりそうな場合には,速やかに切り替えを行うと良いでしょう。

慰謝料の額と通院日数の関係

2019-11-15

 交通事故の慰謝料の額の計算は、「どれだけ通院が必要だったか」と密接な関係がありますが、通院すればするほど支払われる慰謝料の額が増えるというわけでもありません。

 交通事故の件で被害者の方から色々とお話を伺っていると、インターネットを見て、慰謝料が通院日数すればするほど大きくなるという風に考えている方が少なからずいらっしゃるようです。
 これは、ある意味では間違っていないのですが、「慰謝料を増やすために通院の回数を稼ごう」などというのは、通院の目的を履き違えたものですし、実際には慰謝料の額が増えるどころか減る可能性すらある行為です。

 ここでは、通院の日数が慰謝料の額にどのように影響するのかについて、自賠責基準と裁判基準を比較しながら解説します。 

自賠責保険の場合

 自賠責保険から支払われる慰謝料の額は,計算方法が決まっており,1日当たり4,200円(※)です。この4,200円にかける日数は,通常は通院にかかった期間の長さですが,通院が2日に1回よりも少ない場合,実際に通った日数の2倍となります。

(※)令和2年4月1日以降に発生した事故については1日当たり4200円→4300円となります

(具体例)

 例えば,4月1日に治療を開始して5月30日に治療を終え(この間60日),この間に40回通院した人の場合,慰謝料の額は,4,200円×60日=252,000円となります。
 同じく,4月1日から5月30日までの治療期間で,10日しか通院していない人の場合,慰謝料の額は,4,200円×10日×2=84,000円となります。

 この違いを見ると,通院をすればするほど慰謝料の額が増えるようにも見えます。
 しかし,例えば,通院期間180日の間に100日間通院したら,4,200円×180日=756,000円が当然支払われるものと考えている人がいますが,これは誤りです。

 自賠責保険の場合で注意しなければならないのは,支払われる保険金には上限額があるということです。
 自賠責保険の場合,通院の慰謝料や治療費,休業損害などについては,合計で120万円しか出ません(加害者が複数などの場合を除く)。
 そのため,通院をすればするほど治療費が大きくなり,慰謝料に割り当てることのできる保険金の枠もどんどん小さくなります。

 例えば、1ヶ月間に20日ほどの割合で、6カ月間通院した場合で、1ヶ月当たりの治療費が10万円だったとします。
 この場合、治療費として60万円が支払われることになり,残りは60万円ですから,先ほどの計算のように慰謝料の額は756,000円とはならず,支払われるのは60万円に過ぎません。
 この60万円の中には、休業損害や通院のための交通費も含まれますので、純粋な慰謝料といえる部分はもっと少なくなるでしょう。
 さらに極端なケースで、治療費が100万円かかったような場合、残りは20万円となり、通院回数の多さから交通費も多少大きくなると思われますので、慰謝料に充てられる額が10万円ほどということもあり得るわけです。
 自賠責保険の残枠が小さくなれば、任意保険会社からの任意保険基準による最終の慰謝料の支払額も小さくなることが予想されます。

 弁護士が交渉すれば、裁判基準という自賠責保険のような上限額のない計算をしますので、それほど影響はないかもしれませんが、自分で交渉をしようという場合、上記のことを頭に入れておく必要があります。

裁判基準の場合(実際に支払われるべき慰謝料の額)

 実務的には,弁護士が慰謝料の請求をする場合,日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「赤い本」と呼ばれる本で示されている基準によって金額の計算を行います。

 この基準は,入院が〇か月,通院が〇か月なら〇〇円ということを表(※)の形で金額を示しており,入院又は通院にどれくらいの期間を要したかによって金額が決まるようになっています(個別の事情によって変動することはあり得ます。)。
 入通院に時間がかかったということは、それだけ症状がある期間が長いということですので、その分精神的・身体的な苦痛も長く続きます。したがって、入通院期間の長さを慰謝料の額を決める際の基準に用いることには合理性があります。

 しかし,ここも注意が必要で,「通院が長引けば慰謝料の額が大きくなるとは限らない」のです。

 代表的なものとして,以下のようなものがあります。

(※)むち打ち症や打撲・捻挫などの他覚的所見がないケガの場合とそれ以外のケガの場合とで表を区別しており,他覚的所見がないようなケガの場合,金額が小さくなります。

実際に通った日数が少ない場合の計算方法

 この点は,保険会社との交渉をしているときに,頻繁に問題になる点です。

 上記のとおり,慰謝料の額は,入院又は通院にどのくらいの期間を要したかによって決まる傾向にありますが,同じ通院期間の人であっても,毎日のように通院せざるを得なかったような人もいれば,月に1回程度の通院にとどまったような人もいます。

 このような違いがあるときに,慰謝料の額が同じでよいのかという問題です。

 この点について,弁護士が用いている「赤い本」の基準では,「通院が長期にわたる場合は,実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」としています。

 この計算方法によれば,例えば,通院が1年間であれば,通常なら慰謝料の額は154万円となりますが,この間の実際の通院日数が12日程度なら,慰謝料の額が12日×3.5=42日分の通院に相当する額になり,このケースだと,80万円ほどになってしまうということになります。

 また,むち打ち症や打撲・捻挫などの他覚的所見がない怪我の場合でも,同様に,「通院が長期にわたる場合は,実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」とされています。

 ただし,この基準は,あくまでも実通院日数の3.5倍(又は3倍)程度を通院期間の目安とすること「も」あるとしているのであって,必ずそのような計算をするとはしておらず,むしろ,あくまでも通院期間で計算するのが原則で,このような計算をするのは例外的なものであるとしています(2016年版「赤い本」下巻)。

 したがって,保険会社と交渉をする際にも,通院日数の少なさは考慮せずに計算をすべきです。

 ただし,実際に通院した日数が極端に少ない場合の基準については、上記のとおり曖昧な部分があり、やはり通院日数が多い場合と少ない場合とで通院による負担も変わってくるところなので、金額に差が出たとしてもおかしくありません(通院間隔が開くことになるので、結果的に治療終了までの期間が長くなってしまうケースもあると思います)。

 結論としては、「通院が多少少なかったとしても慰謝料の額に影響が出るとは考えにくいが、通院日数が極端に少ないと慰謝料の額に影響が出る可能性がある」ということになります。

 なお、骨折をした場合で、「骨癒合のための時間を要し、かつ、その間は骨折箇所を固定するくらいで治療としてできることはない」というようなことがしばしば見られますが、このような場合、通院の頻度が少なくなるのは当然ですので、そのことを理由に慰謝料を減額すべきではないと考えます。

過剰診療の場合

 事故の状況から見て,治療に時間がかかるとは到底思えないような場合に,慰謝料目当てに通院をしても,それに応じて高額の慰謝料が払われるほど甘くはありません。

 場合によっては,過剰な診療分が慰謝料の額から差し引かれることさえあります。

 そのため,一言でいうと「同じような怪我が治るまでに一般的に必要とされる期間」が慰謝料の額に反映されると考えた方が良いです。

 もちろん,どれだけ治療を要するのかは,人によって多少の違いがありますので,はっきりとした基準があるわけではありませんし,少しでも通院が長くなったら、その分は慰謝料の計算にあたって考慮しないというわけでもありません。

 しかし,常識的に考えて過剰というような通院の仕方は,慰謝料の増額につながらないばかりか,最終的にその治療費を自分で負担しなければならないリスクもあるということを認識しておく必要があります。

適切な治療を受けていなかった場合

 逆に,本来であれば受けるべき治療を受けずに,それが原因で治療が長引いてしまうというケースも考えられます。

 この場合も,治療費は過剰というよりもむしろ少ないので,特段問題となりませんが,「同じような怪我が治るまでに一般的に必要とされる期間」との比較をすると,期間が長すぎるということが考えられます。

 そのため,この場合も,慰謝料の額が治療期間に応じて大きくなるとは言い難い部分があります。

まとめ

 結局のところ,医師の指示のもと,自分が怪我を治すために必要と思える範囲で治療を受ける分には問題ありませんし,それに伴って慰謝料の額が大きくなる傾向にあるのは事実であるといえます。

 したがって,多くの場合,通院の長さに応じて慰謝料の額が多くなると考えて差支えないでしょう。

 しかし,これはあくまでも,交通事故によって負った怪我の内容からみて妥当な範囲であれば当てはまることなので,通常必要とされる治療期間よりも明らかに治療に時間がかかっているような場合は,その原因にもよりますが,必ずしも治療期間の長さに応じた慰謝料の額になるとは限らないのです。

 特に,自賠責保険では,計算された慰謝料の額がそのまま支払われるわけではないので,そのことを認識しておく必要があるでしょう。

裁判で相手のセンターラインオーバーが認められた事案

2018-11-19

事案の概要

 事故の状況は,加害者が運転する車がセンターラインを越えて走行してきたため,被害者の車に衝突したというもので,双方とも怪我はありませんでした。

 しかし,加害者がセンターラインオーバーの事実を認めなかったため,適切に賠償が行われず,ご依頼となりました。

 

当事務所の活動

示談交渉

 本件は,センターラインオーバーの事故であったため,事実関係の証明さえできれば,通常,相手方が全額責任を負うことは明らかな事案でした。

 しかし,相手方は,弁護士介入後も一向にこの事実を認めず,双方の損害はそれぞれ自分で直すという,いわゆる「自損自弁」の見解を変えることがなかったため,やむを得ず訴訟提起を行うこととなりました。

 

裁判での活動

 本件の問題点は,センターラインオーバーを証明する決定的な証拠がないということでした。ここでいう決定的な証拠とは,それを見れば事故状況そのものがはっきりと分かるというような物的な証拠のことで,典型的なものはドライブレコーダーや防犯カメラの映像のようなものです。

 本件は,実は,事故現場を撮影した防犯カメラは存在しました。

 しかし,夜間の事故であったことに加え,相手のセンターラインオーバーの程度も大きくなく,双方のサイドミラーが接触したという程度であったため,カメラの映像ではセンターラインオーバーを確認することができませんでした。

 また,センターラインオーバーの場合,車の損傷状況からは,どちらがセンターラインを越えていたのかを判別することは困難であるため,他に有効な物的証拠を見出すことはできませんでした。

 その結果,事故後の双方当事者の対応といった間接事実によって,センターラインオーバーを証明することとなりました。

 そのため,相手の対応の何がどのようにおかしいのかを具体的に指摘した上で,当事者の経験した事実を詳細に記した「陳述書」という提出し,それをもって,裁判所に判断をしてもらうこととなりました。

 その結果,裁判所が相手方のセンターラインオーバーを認め,それを前提にこちらの請求のほぼこちらの主張どおりの和解をすることができました(和解では,早期の解決のため10%の限度で譲歩することとなりました。)。

 

コメント

 本件のように,当事者の供述のみで証明する方法は,通常かなりの困難を伴います。

 なぜなら,裁判では,どちらがより正しいかということを競うのではなく,こちらが主張したい事実について,裁判官に確信を抱かせる必要があり,しかも,裁判所は,あくまでも中立な立場で厳格に判断しなければならないため,曖昧な理由で事実を認めるわけにはいかないからです。

 そのため,一般的には,供述を元に事実を認める場合であっても,何らかの裏付けが必要となります。

 本件の場合,相手の主張で不合理な点があることが動かしがたい事実であったため,物的証拠がなかったにもかかわらず,こちらの主張が認められました。

 本件のポイントは,被害者の話をよく聞いた上で,裁判の中で相手の供述の不合理な点を明らかにするという点にありました。

 しかし,一般的には,このようなケースで勝つことは相当に難しいので,ドライブレコーダーを搭載するなどして,万が一のときのために備えておくことをおすすめします。 

ご依頼の場合の料金はこちら→「弁護士費用」

 

弁護士による示談交渉の役割

2018-07-27

 このサイトをご覧になっている方は,交通事故に遭って,何らかの点でお困りで,情報を探されている方だと思います。

 しかし,弁護士が間に入って交渉する必要がそもそもあるのか疑問に思われる方も多いのではないでしょうか?

 そこで,弁護士による示談交渉がどういった場面で必要になるのか,簡単な事例にして説明します。

 

慰謝料の交渉の場合

 治療が終わると,慰謝料の支払いを受けて示談という場面になりますが,この慰謝料の交渉について考えてみます。

 このとき,相手から例えば「あなたの慰謝料は50万円です。」と言われたときに,あなたはそれが適切かどうか判断できるでしょうか?

 慰謝料とは,端的に言うと,精神的な苦痛に対する賠償で,精神的な苦痛にかかわるあらゆる事情が考慮されて決定されるものです。

 当然,この判断は難しいので,当事者間で話し合いをする場合,ある程度の幅を持った金額とならざるを得ず,裁判になれば,裁判所は最終的な金額を判定しなければならない立場なので「65万円」などと金額をきっちり決められますが,この金額は裁判をして初めて確定するものです。

 そのため,裁判をせずに早期に示談で解決しようと思えば,先の例でいうと,「正確なところは分からないものの,50万円から70万円の間と考えられるので,この範囲で妥当なところ」で示談金額を決めていかなければなりません。

 

保険会社の立場になって考える

 ここで,保険会社の立場で考えていただきたいのですが,金額が50万円~70万円と予想されるときに,70万円を支払うでしょうか?

 保険会社はビジネスで保険金の支払いをしているので,50万円の可能性もあるのに上限の70万円を支払うということは通常あり得ないということが分かるでしょう。

 むしろ,できるだけ下限の50万円で済ませようとするはずです(ケースによってどの程度下げてくるかは差がありますが,少なくとも上限の金額をすすんで払うというケースは,少なくとも私は見たことがありません。)。

 しかし,逆に下限の金額であるとすれば,裁判をすれば金額が上がる可能性が非常に高いので,言い換えると,その金額で示談すると被害者が損をする可能性が高いです。

 そのため,この金額をできる限り適正な金額に近づける必要があります。

 

実際に交渉をする

 保険会社の提示する金額が基本的に低いことが分かったところで,次に交渉です。

 ここで,あなたが,「50万円では納得できない60万円払ってほしい」と言ったとします。

 これに対して,保険会社から,「うちの計算では50万円なので,これ以上払えない。」と言って譲らなかったら,どうしますか?

 保険会社が自社の見解を持つのはもちろん自由なので,これを覆すためには,相応の根拠を示さなければなりません。

 具体的には,こちらから「過去のデータや文献ではこうなっているので,これだけは支払わないといけないはずだ。」などとして説得していく必要があります。

 

それでも効果が出なかった場合は?

 こうなってしまっては,話し合いでは解決できないので,裁判などの特別な手続きを踏む必要がありますが,この手続きは一言でいうと非常に面倒で時間と手間がかかる手続きです。

 

弁護士の役割

 こういったことを一人でやり切れるという場合は,弁護士は不要です。

 しかし,一般的に上記のようなことをご自身でやろうとするのは困難ですので,これをご本人に代わって行うのが弁護士です。

 特に,交通事故に強い弁護士であれば,データや知識を豊富に持っているので,このようなことをスムーズに行うことが期待できます。実際には,裁判までいかずに,話し合いで解決に至る場合も多いでしょう。

 紹介した事例は慰謝料の増額の件ですが,その他にも休業損害の補償,逸失利益の交渉等,さまざまな場面で同じようなことが起こり得ます。

 それらを適切な形で解決していくのが,我々弁護士による示談交渉の役割なのです。

交通事故に遭った後で,2回目の事故に遭ってしまったら?

2017-09-04

 ある日突然交通事故に遭うことは,その人にとって大きな問題となりますが,あまりよくあることではありません。

 しかし,不幸にして,交通事故に遭った後,さらに2回目の交通事故に遭われる方もいらっしゃいます。

 そして,多数の交通事故事件を取り扱っていると,そういった複数の交通事故が絡むケースに遭遇することが少なからずあります。

 そこで,今回は,そのように2回以上の複数回交通事故に巻き込まれた場合,損害賠償がどうなるのか見てみたいと思います。

 

3つのケース

 複数の事故に巻き込まれるパターンには,大きく分けて以下の3つが考えられます。

 ①1事故目に遭って,治療も終えた後で,再度交通事故に遭った場合

 ②1事故目に遭って,治療をしていたところ,治療が終了しない間に新たに交通事故に遭った場合

 ③交通事故に遭って自分の車がはじき出されたところ,別の車に追突されたような場合

 今回は,この中の①のケースについて見ていきます。

 

共同不法行為とは

 上記の各ケースは,それぞれ問題となることが異なりますが,共通しているのは,誰にどれだけの責任を負わせることができるのかという問題です。

 これを解決するための法律上の規定としては,共同不法行為というものがあります。

 共同不法行為が成立すると,各加害者が全損害について連帯して責任を負うことになりますので,被害者としては,どちらかの加害者に対して,自分に生じた損害の全額を請求すれば足りますので,被害者にとっては非常に便利な制度です。

 しかし,賠償金額を算定することが難しいケースであっても,全てこの制度で処理できるとは限らないというところに問題があります。

 

既に治療が終了していた①のケース

共同不法行為は使えるのか

 この場合,誰が怪我を負わせたのか分からないというようなケースではないので,基本的に共同不法行為は使えないといってよいでしょう。

治療期間中の損害

 このケースの場合,1事故目の治療が終了するまでの治療費や休業損害を1事故目の加害者に請求して,2事故目の発生から2事故目の治療終了までの治療費や休業損害は2事故目の加害者に請求すれば良いので,ここまでは問題ありません。

 問題となるのは,1つ目の事故で後遺障害が残って,2つ目の事故でも後遺障害が残ったという場合です。

後遺障害 自賠責の場合

 自賠責保険では,加重障害といって,既に後遺障害が認定されていた場合に,同じ部位にさらに重い後遺障害が認定された場合,新たに認定された後遺障害の保険金の額から既に認定されて支払われた保険金分の額を差し引いた額が支払われることになります。

 部位が異なれば,通常通り保険金の支払いが出ることになります。

後遺障害 裁判基準での請求の場合

(1) 逸失利益

 自賠責保険の場合は,決められた基準に従って形式的に支払えば良いのでこれでいいのですが,我々が加害者に損害賠償の請求をするときは,実損害の請求になりますので,実際にどのくらいの損害が発生したのかを正確に算出する必要があります。

 1つ目の事故の加害者に対しては,後遺障害の認定が出た段階で損害の計算ができ,それにしたがって請求すれば良いので特に問題はありません。

 これに対し,2つ目の事故の後遺障害については,既に1つ目の事故で労働能力の低下などが見られるため,このことをどのように考慮し,請求が可能な金額がどうなるのか少し考えてみる必要があります。

 この点については,次の3つのものが考えられています。

 ①2事故目の直前の収入を基礎収入として,2事故目自体の労働能力喪失率をかける

 ②2事故目の後遺障害の等級に基づいて逸失利益を計算し,そこから1事故目の後遺障害の等級に基づいた逸失利益を引く

 ③2事故目の後遺障害等級に基づいて逸失利益を計算し,そこから1事故目の後遺障害の存在を理由として相当な割合で減額する。

 ①の方法は,事故直前の収入が,既存障害を前提として得ていたものであるため,この時点で既存障害を考慮することができているので,実態も合っていて分かりやすい方法です。

 しかし,2事故目自体の労働能力喪失率とはどうやって認定するのでしょうか?

 現実的な計算方法として,A.2つの後遺障害の労働能力喪失率を引き算するという方法と,B.1事故目と2事故目の間の労働能力の差を1事故目の後で残った労働能力率で割るという方法,C.専門家の意見を聞いて独自に認定するという方法が考えられます。

 ②の方法は,2事故目の逸失利益の計算の際の基礎収入をどう設定すれば良いのかという問題があり,③の方法は,どのような割合で減額すればよいのか不明であるという問題があります。

(2) 慰謝料

 慰謝料についても,通常とは異なる考え方が取られます。

 別部位の場合は,それ自体,単独で後遺障害が残ったのとあまり変わらない程度の精神的苦痛が生じたといえるのではないかと思いますが,同一部位の加重障害の場合,そのように言えるのかが問題となります。

 ここでも,次のような3つの考え方があります。

 ①2事故目自体の後遺障害の等級を想定し,それによって慰謝料の額を決める。

 ②2事故目の加重障害の等級に基づく慰謝料の額から1事故目の等級に基づく慰謝料の額を差し引く。

 ③加重障害の等級に基づく慰謝料の額から相当な割合で減額する。

 

まとめ

 以上のように,加重障害が生じた場合の賠償金額の計算方法には様々なものがあり,裁判上も確定していません。

そのため,実際に受け取れる金額の見通しをつけることは非常に難しく,特に交渉でどのような金額を求めれば良いのか判断することは難しいところです。

このような複雑な事態が生じた方は,早急に弁護士にご依頼されることをおすすめします。

 

(参考文献 2006年版 赤い本 下巻 129頁~)

後遺症を残した被害者が亡くなった場合の賠償額

2017-06-21

 交通事故の損害賠償と一言で言っても,実際には1つとして同じ事件はありません。

 中には,特殊な状況により,どのような損害賠償の請求ができるのか迷うような場面もあります。

 今回は,その中でも,交通事故で後遺障害を残した被害者が,その後加害者から賠償金の支払いを受ける前に亡くなってしまったという場合について,請求がどうなるのか見ていきたいと思います。

 

何が問題?

 そもそも,このようなケースで何が問題になるのでしょうか?

 まず前提として,後遺障害の損害賠償請求が可能なものを確認します。

後遺障害について損害賠償の請求ができるものとしては,次の3つが考えられます。

 ①慰謝料

 ②逸失利益

 ③将来介護費用

 それぞれ,①は精神的苦痛に対する賠償,②は後遺障害による収入の減少に対する賠償,③は重度の後遺障害を負ったことによる介護費用に対する賠償を意味します。

 この内,①の慰謝料については,後遺障害の等級に応じて請求をすることができます(厳密にいうとこれも問題になりえますが。)。

 これに対し,②と③は,将来的に実際に生じる損害を予測して支払いを求めるものです。

 例えば,40歳で重度の後遺障害を残すことが確定した被害者の場合,逸失利益については,その後67歳(一般的な就労可能年限)までの27年間分の減収を予測して請求することになります。

 同じく将来介護費用については,平均余命までの年数分にかかる介護費用を計算して請求することになります。

 このように②と③については,あくまでも将来現実に発生する損害を予測して請求するという性質のものです。

 したがって,その予測した未来が到来する前に被害者が死亡したのであれば,その時点で将来の減収を考慮する余地はなく,介護の必要性も消滅するのではないのかという疑問が生じるのです。

 

2つの考え方

 この問題については,2つの考え方があり,1つを切断説,もう1つを継続説といいます。

 切断説…逸失利益は死亡時までに限られるという見解

 継続説…死亡の事実を考慮せず,死亡後であっても後遺症の存続が想定できた期間についてはこれを対象期間として逸失利益を算定すべきであるとする見解

 

実務で採用されている考え方

逸失利益について

〇最高裁判例①(平成8年4月25日判決)

 逸失利益については,「貝採り事件判決」という有名な判例があります。

 事案は,交通事故によって脳挫傷,頭蓋骨骨折,肋骨及び左下腿の骨折といった重傷を負った被害者が,知覚障害,腓骨神経麻痺,複視といった後遺障害を残していたところ,自宅近くの海で貝採りをしているときに,心臓麻痺を起こして死亡したというものです。

(1) 一審

 一審は,逸失利益の継続期間を死亡時までに限らないとしつつ,被害者が死亡したことにより,その後の生活費の支出を免れているとして生活費の控除(30%)を行うとしました。

(2) 控訴審

 これに対し,控訴審では,逸失利益の算定にあたって,一般的に平均的な稼働可能期間を前提としているのは,事の性質上将来における被害者の稼働期間を確定することが不可の王であるため,擬制を行っているものであるとし,被害者の生存期間が確定してその後の逸失利益が生じる余地のないことが判明した場合には,死亡した事実を逸失利益の算定にあたって斟酌せざるを得ないとして,死亡時以後の逸失利益を認めませんでした。

(3) 最高裁

 最高裁は,「労働能力の一部喪失による損害は,交通事故の時に一定の内容のものとして発生している」として,逸失利益の継続期間について,死亡した事実は考慮しないとしました。

 ただ,例外的に,交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていた場合には,死亡後の期間の逸失利益は認められないとしています。

 この例外的な場合とは,交通事故当時既に末期がんで,交通事故後にがんで亡くなったような場合が想定されています。

 

★生活費の控除

〇最高裁判例②(平成8年5月31日判決)

 ①の一審が行った生活費の控除については,①の最高裁判決では判断を示していません。この点については,同じ年に出された次の最高裁の判決があります。

 事案は,交通事故によって後遺症が残った被害者が,別の交通事故で死亡したというものです。

 上記の点について最高裁は,「交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り,死亡後の生活費を控除することができる。」としました。

 その理由として,交通事故と死亡との間に相当因果関係が認められない場合には,被害者が死亡により生活費の支出を必要としなくなったことは,損害の原因と同一原因により生じたものということができず,損益相殺の法理またはその類推適用ができないことを挙げています。

 

 このように,逸失利益の算定に当たっては,後遺症が残った後に被害者が死亡したとしても,原則としてそのことを理由に金額を減額することはしないということになります。

 

将来の介護費用

 重度の後遺障害が残った場合、事故の前とは異なり自立して生活ができなくなることがあり、その場合、介護が必要となってきます。

 介護が必要になると、施設の利用料や介護サービスの利用料が発生したり、家族が自宅で介護を行う場合でも、家族にかかる負担は非常に重いものになります。

 これらについても、加害者が賠償の責任を負うものとなりますが、その都度請求するというよりも、将来の介護費用を計算して一括して加害者に請求することが多いです。

 これが、「将来の介護費用」です。

〇最高裁判例③(平成11年12月20日)

 被害者が交通事故の後に別の理由でなくなった場合、将来の介護費用について死亡後の期間分も負担することになるのかが問題となります。被害者が亡くなったことで、それ以降の介護費用が実際には発生しないことが明らかになっているからです。

 これについては次の最高裁の判例があります。

 事案は,交通事故によって後遺障害等級1級3号の重度の後遺障害を残した被害者が,その後胃がんにより死亡したというものです。

 この事例で,加害者が被害者の死亡後の期間についても将来の介護費用を負担しなければならないのかが争われました。

 結論としては,最高裁は死亡後の介護費用の支払いについては認めませんでした。

 その理由として,「被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになる。」と述べています。

 

整理が難しい問題

 事故と関係なく亡くなったのであれば,それ以降の逸失利益を加害者が負担する理由はないのではないかという気もします。

 しかし,損害賠償の基本的な考え方や,仮に死亡後の逸失利益を払わなくても良いとした場合の実際上の不都合の問題から,逸失利益については,死亡後の分も含めて賠償の義務があるとされています。

 他方で,将来の介護費用については,現実に支出する費用の補填であるため,その必要がなくなった場合にまで加害者に負担を負わせるべきではないと考えられているのです。

 このように,後遺症が残った後で被害者が亡くなった場合,整理が難しい問題がありますが,相手方に賠償を請求する場合,基本的に1円単位で賠償金額を計算する必要があり,実際にこのような状況になった場合,上記のような考えにしたがって正しく計算を行う必要があります。

 損害賠償を請求する中で,どう考えたら良いのか迷うようなことが生じた場合には,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

(参考文献 上記判例の最高裁判所判例解説)

減収がなくても後遺障害逸失利益の請求はできる

2017-05-09

 逸失利益とは,交通事故で負った後遺症によって以前のように仕事ができなくなったために,本来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害のことをいいます。

 ところが,実際に後遺症が残った人の中には,後遺障害等級の認定を受けたものの,仕事に復帰して交通事故が起きる前と同じかそれよりも多い収入を得られるようになる人も少なからずいらっしゃいます。

 そうすると,逸失利益の性質が,上記のように「将来得られるはずだった収入が得られなくなったという損害」,つまり減収となったことを損害としてみるものであるとすると,このような場合,減収がない以上一切請求ができないのではないかという疑問が生じます。

 そこで今回は,このような,後遺障害等級が認定されたものの減収がない場合の逸失利益の額がどのようになるのかについて見てみたいと思います。

被害者が請求できるのは実損害分のみ

 交通事故の被害者が請求することができるのは損害の賠償です。

 不法行為責任について定めた民法709条も,「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としています。

 したがって,加害者に請求することのできるのは、実際に生じた損害分だけということになり、請求する金額には明確な根拠が必要となります。

 つまり,賠償の請求と損害の発生は表裏の関係にあるのです。

 注意したいのは、慰謝料は、目に見えない身体的・肉体的苦痛を金銭的に評価したものですので、実際に生じた経済的な損害とリンクしていないように見えるということです。しかし、少なくとも我が国では、慰謝料についても実際に生じた損害をベースにするものと考えられていて、実際に被害者が受けた怪我の内容等によって決まるものですので、懲罰的な意味合いでの増額は認められません。

減収がないと請求できない?

 以上のような一般論を元に,「減収がない=損害がない」と考えると、後遺障害が認定されているにもかかわらず、収入が減少していないような場合には、賠償の請求ができなくなるように思えます。

 このような考え方は,交通事故の前と後の利益状態を比較して金銭的なマイナスがあった場合に「損害」があったとみなすもので,専門的には,差額説などと言われている考え方に基づくものです。

 裁判所は,一般的には差額説に立って損害を把握しているといわれています。

 しかし,裁判をした場合に,事故後に減収がない人については逸失利益が認められないという判断がされているのかというと必ずしもそうではありません。

 減収がないといっても,それは職場の人がフォローしてくれていたり,仕事の内容が変わったのに減給とならないように配慮してくれていたり,被害者自身が努力をして,何とか仕事ができるような状態にしている結果であるようなことが多く,この点を無視することはできません。

 むしろ,現在の実務上は,現実の減収がないということのみで逸失利益を問答無用で認めないという考え方は採られていないといってよいでしょう。

実務上の考え方

 上記のように,被害者からの請求に当たっては損害が発生したことが条件となっていますので,減収がなくても請求を認めてもらうためには,「減収がなくても損害が発生している」といえなければなりません。

 そのため,何をもって「損害」といえるのかがポイントになってきます。

 この点について,上記の差額説の他に,後遺症によって労働能力が喪失したこと自体を損害とみるという考え方や,後遺症が残ったという事実を損害として捉える考え方があります。

 まず前提として、後遺障害の逸失利益の計算は、フィクションの部分が大きいということを知っておかなければなりません。

 逸失利益の計算は、「基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」によって計算されますが、現実には、労働能力喪失率とピタリと一致する減収が生じるわけではありませんし、今は減収がなくても、将来転職しようとするときに不利に働いたり、働き方が変わることによってマイナスの影響が出てくることもあるでしょう。逆に、今は大きく収入が減っていても、数年後には後遺症の影響が出にくい仕事をして事故前よりもはるかに高額の収入を得ているかもしれません。

 この計算式は、そういった個々の事情を踏まえた上で、「この後遺症の内容なら、おおよそこのくらいの損害額になるだろう」という概算に過ぎないのです。

 したがって、現時点で減収がないことは、逸失利益の額を計算する事情の一つにはなりますが、それだけで逸失利益が否定されるようなものではありません。

 実務上は,差額説を機械的に用いるのではなく,現実に減収がなくても,労働能力の低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているとか,昇給,転職等に際して不利益な取り扱いを受けるおそれがあるような場合には,逸失利益が認められるとされています(最高裁昭和56年12月22日判決)。

 ただし,逸失利益の存在自体が認められたとして,減収がなかったことが全く考慮されないかというと,そうではありません。

 やはり,実際に収入が下がった人と変化がない(又は収入が上がった)人では,逸失利益の額を算出するときに差が出ることはあり得ます。

 裁判上は,労働能力喪失率を調整するなどして,控えめに金額を計算されるということがありますので,示談交渉でも,同様に減額調整が必要となることもあり得ます。

 この辺りは,後遺障害の内容や実際の就労状況などを見ながら,妥協の必要があるのか検討していくことになります。

どういった事情が考慮されているのか?

 減収がない場合の逸失利益の認定についての一般論は以上のとおりですが,逆に言うと,全く経済的な不利益がないといえるような状況であれば,逸失利益が否定されるということも可能性としてはあります。
 そこで,減収がないのに逸失利益が発生していると主張して,この点が争いになっている場合,何らかの不利益が生じていることを説明する必要があります。

 この際に考慮される事情として,①昇進・昇給等における不利益,②業務への支障,③退職・転職の可能性,④勤務先の規模・存続可能性等,⑤本人の努力,⑥勤務先の配慮,⑦生活上の支障といったものが挙げられています。

 ③が挙げられているのは,再就職にあたって後遺症の存在が不利に扱われ,収入が低くなる可能性があるためで,④が挙げられているのは,勤務先の経営基盤が不安定な場合,リストラ等で転職が必要となる可能性があるためです。
 ただ、最近では、終身雇用や人事考課に対する考え方も変化してきていますので、大規模な会社だから将来も減収は生じにくいと考えるのは疑問があるところです。

 ⑤⑥⑦は、比較的主張がしやすいものといえるでしょう。⑦は、仕事には関係ないように思えますが、日常生活に不自由していれば、それが仕事のパフォーマンス低下につながることが考えられます。

 実際の交渉や裁判の場でまず見られるのは、事故前の収入と事故後の収入の変化です。

 例えば、令和3年に事故に遭い、令和3年中に症状固定となったような被害者の場合、令和2年は後遺障害の影響がなかったころの収入、令和3年は事故による休業損害の影響があった収入、令和4年は治療終了後の後遺障害による業務の制限で下がってしまった収入となるのが、通常想定されているケースです。
 この例だと、令和2年が年収1000万円、令和3年が年収500万円、令和4年が年収800万円となり、後遺障害11級であれば、年収の減少幅200万円/1000万円は、11級の労働能力喪失率20%と一致することになるため、その分を請求するのに障害はありません。
 しかし、実際には、1000万円→500万円(入通院中に減収が生じることは多い)→1000万円などと収入が減らないことがしばしば存在し、その場合、上記の各事情を考慮して、場合によっては逸失利益の額が減額となることがあります。

 ただし、14級のような比較的軽い後遺障害の場合、元々労働能力喪失率が5%となっており、ほとんど稼働能力が維持されていますので、実際には減収が生じることの方が稀だと考えられます。したがって、安易に減額することは妥当ではありませんし、実務でも、14級の場合に減収がないからといって逸失利益を減額したりすることは多くありません。

 逆に、重い後遺障害で、労働能力喪失率が高く設定されているにもかかわらず、事故前と同様に仕事ができているような場合には、労働能力喪失率表どおりの計算では損害を過大評価されていると見ざるを得ないような場合もあるでしょう。そのような場合、減額となる可能性が高まります。

その他に注意すべき点は?

 逸失利益の算定にあたって用いる労働能力喪失率は,認定された等級に応じて,通常は自賠責保険の労働能力喪失率表で示された数字を用いることになりますが,この点で,特に公務員で減収がない場合には,一般の減収が生じている場合と比較して不利な認定がされることがあります。

 具体的には,定年までは労働能力喪失率を低く認定するなどといったことがあり得ます。
 その理由は,公務員の場合,民間企業の従業員と比較して身分保障が手厚く,後遺症があっても減収が生じない可能性が高いと考えられるためです。

まとめ

 以上のように,事故の後に減収がないからといって逸失利益が認められないというわけではありません。しかし,相手方からは,減収がないから逸失利益は認められないという主張が出されることも十分に予想されます。

 そのようなときは,逸失利益が認められた過去の事例を示し(多数あります),上記考慮事情として挙げられたものを具体的に説明するなどして,請求に理由があることを説得的に説明していくことになります。

 逸失利益の請求は,単純な実費の損害賠償とは異なり,理論的に難しい部分を含みますので,交通事故で後遺障害等級が認定されましたら,一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

(参考文献 日弁連交通事故相談センター東京支部編「平成20年版赤い本下巻」9頁~、同「令和4年版赤い本下巻」17頁~)

・関連記事

後遺障害の逸失利益

 

 

鎖骨骨折による後遺症と損害賠償のポイント

2017-03-02

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が生じる典型的なケースとして,これまでにいくつか見てきましたが,同じく交通事故でよく生じる怪我の1つである鎖骨骨折というものがあります。

 弁護士として様々なお話を伺っているときに,診断書の傷病名というところに着目するのですが,「鎖骨骨折」は,交通事故の衝撃で被害者が転倒して手やひじや肩などを地面についたようなときに,その衝撃で発生することが多いため,歩行者や自転車・バイクの被害者によく見られる診断名です。

 また,ケースによっては,シートベルトの圧迫によっても発生することがあるようです。

 このように,このホームページをご覧いただいている方の中にもお困りの方が多いと思われる鎖骨骨折の後遺症や損害賠償について今回は見ていきます。

想定される後遺障害の等級は?

12級5号(変形障害)

 裸体となったときに明らかに分かる程度に鎖骨が変形癒合した場合,12級5号が認定されます。

 レントゲン写真によってはじめて分かる程度であれば,ここには該当しません。

12級6号(可動域制限)

 鎖骨は肩甲骨とつながっており,鎖骨骨折により,肩関節の可動域制限・運動障害が発生する可能性があります。

 障害が残った側の肩関節の可動域が,健側(怪我をしていない方)の4分の3以下となっている場合は,後遺障害等級12級6号の認定が見込まれます。

 さらに、可動域が健側の2分の1以下となっていると、後遺障害等級10級10号となります。

12級13号(神経障害)

 骨折によって痛みなどの神経症状が残った場合で,骨癒合の不全や関節面の不整などがあって,その症状の存在を医学的に証明することができる場合には,12級13号が認定されることになります。

等級の併合について

 12級5号が認定されて,さらに痛みがある場合,12級13号と併合で11級とはならず,痛みは12級5号の中に含まれているという形で判断されます。

 これに対し,12級5号が認定され,さらに肩関節に健側と比較して4分の3以下の機能障害が発生した場合,機能障害について12級6号が認定され,併合11級となります。

(「労災補償 障害認定必携」より)

弁護士による示談交渉・増額のポイント

後遺障害逸失利益の計算について

 事故で残った後遺症について後遺障害等級が認定されると、後遺症に対して加害者側から賠償金が支払われることになります。

 この後遺症に対する賠償金として支払われる項目は主に2つで、1つは後遺障害逸失利益、もう1つは後遺障害慰謝料です。

 このうち、後遺障害逸失利益は、後遺症の内容によって金額が変わってきます。

 後遺障害逸失利益は、後遺症による将来にわたる収入の減少を補償しようというもので、通常は「事故前年の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息」という計算式によって計算します。

 労働能力喪失率とは、後遺症が原因となって減る収入の割合のことです。簡単にいうと、事故前の年収が1000万円だった人が、事故の後遺症で年収800万円となっていれば、労働能力喪失率は20%と評価することができます。※実際には、この計算式で用いる割合と減収の割合は一致しません。

 労働能力喪失期間とは、後遺症による労働能力の制限が何年続くのかを指しています。

12級6号(可動域制限)の場合

 12級6号の可動域制限の後遺障害等級がが認定される場合,通常はレントゲン写真やCTなどで骨癒合の不全や関節面の不整を確認することができるということになります。

 これらの他覚的所見が時間の経過によって正常な形になることは期待できないため、それに伴う可動域制限が改善するということも考えにくいです。

 したがって,逸失利益の労働能力喪失期間については、原則にしたがって就労可能年齢一杯分(実務的には67歳までとされることが多いです。)とされるべきであると考えられます。

 労働能力喪失率は、12級であれば、一般的な例と同様に14%とされることが多いでしょう。

12級13号の場合

 12級13号の場合,神経症状による後遺障害であるため,労働能力が回復する可能性も否定できません。

 過去の裁判例を見ても、労働能力喪失期間を10年などと制限している例が見られます。

 しかし,むち打ち症とは異なり、関節面の不整・骨癒合の不全といった状態に変化はないと考えられますので,基本的には労働能力喪失期間の限定は行うべきではないと考えるべきでしょう。

 労働能力喪失率は、一般的な例と同様に14%とされることが多いと思いますが、実際の労働への支障の程度が小さい場合は、割合を下げられることもあり得ます。

12級5号(変形障害)の場合

 後遺障害の内容が鎖骨の変形障害にとどまる場合、後遺障害逸失利益が発生するかどうかについて争いがあります。

 なぜなら、鎖骨は、先天的に欠損している場合や後天的に全摘出したような場合であっても、肩関節の可動や日常生活に大きな影響はないとされているからです。

 実際に、過去の裁判を見ても、変形障害があっても労働能力の喪失に関係しないなどとして後遺障害逸失利益を否定するものが見られます。

 したがって、保険会社もこの点を指摘して後遺障害逸失利益を否定したり、金額を著しく低く認定してくることがあります。

 しかし,上記のような他の後遺障害が認定されるレベルに至っていないものであっても,モデルのように外見が労働能力に影響するような職業はもちろんのこと,通常の労務に支障が生じることは考えられますので,逸失利益を全く否定することは妥当ではありません。

 この際の逸失利益の計算については,被害者の職業や,変形障害以外の障害の内容等を元に判断していくことになりますが、労働能力喪失率は実態に合わせて通常とは異なる数値が用いられることが考えられます。

 また、骨癒合の不全による痛みを伴っている場合、前記のとおり12級13号とは認定されず、12級5号のみが認定されることになりますが、表面上の等級が12級5号だからといって、痛みに対する12級13号のみの場合よりも賠償金の額が小さくなることはあり得ません。

 しかし、保険会社は、12級5号の特殊性を理由に逸失利益を不当に制限してくることがありますので、この点はしっかりと交渉をしていく必要があります。

後遺障害慰謝料

 後遺症の慰謝料については定額化が進んでいますので、後遺症の内容によって大きく変わることはありません。ただし、変形障害が残った場合で、後遺障害逸失利益は認められなかったような場合には、外見の変化による苦痛を慰謝料を加算するという形で修正することがあります。

まとめ

 鎖骨骨折に関する後遺症として想定されるものとしては,以上のように複数のものが考えられます。

 そのため,どのような後遺障害の認定がされる可能性があるのかを後遺障害の申請の前に見極め,そのために必要な3DCT検査を受けておくなどして準備を整えた上で申請を行うことが重要となります。

 また,後遺障害の認定が受けられた場合でも,12級5号のように逸失利益の算定に強く争いが生じる可能性があるものもありますので,交渉の際には,自分にとってどの程度の損害賠償が妥当なのかを見極める必要があります。

 上で見たように、後遺障害部分の示談交渉は、交通事故の賠償に関する正確な知識を必要としますので、後遺障害等級認定後はお早目に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

○関連記事

・「肩・ひじ・手の関節の後遺症の賠償

・「骨折による後遺障害等級12級13号のポイント

・「後遺症の等級と慰謝料について」

肩・ひじ・手の関節の後遺症(12級6号など)の賠償

2017-02-15

 交通事故によって後遺症(後遺障害)が残ることは少なくありませんが,後遺症が残ったからといって,全てが加害者に請求することができる損害賠償の対象となるとは限りません。

 自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうかがポイントとなってきます。

 今回は,交通事故で比較的多く見られる後遺障害の中でも,上肢の運動障害(可動域制限)について,認定された後の損害賠償の問題も含めて見ていきます。

 

上肢の関節の機能障害(運動障害)に関する自賠責保険の基準

 上肢の関節の機能障害(運動障害)が後遺症として残った場合の,自賠責保険における後遺障害等級は以下のとおりです。

(「労災補償 障害認定必携」参照)

 

6級6号

1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

8級6号

1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

10級10号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

12級6号

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

※骨折部にキュンチャー(髄内釘)を装着しているか、金属釘を用いたことが機能障害の原因となっている場合は、これらの除去をしてから等級の認定を行うことになります。また、廃用性の機能障害(ギプスによって患部を固定していたために、治癒後に機能障害が残ったような場合)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うとされています。

「関節の用を廃したもの」とは

①関節が強直したもの

※肩関節の場合は,肩甲上腕関節が癒合し,骨性硬直していることがエックス線写真により確認できるものを含む。

②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

③人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち,「関節の用を廃したもの」の③以外のもの

 

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは

 関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの

 

 今回は,この中の主に12級6号について見ていきます。

 

認定のポイント

 12級6号であれば,3大関節の中の,1つの可動域が,健側の可動域の3/4以下に制限されていれば認定されることになります。

 そこで,この意味について確認しておきます。

3大関節

 3大関節とは,①肩関節,②ひじ関節,③手関節のことをいいます。

可動域

 可動域とは,関節がどの程度動くのかを示しています。

健側(けんそく)とは

 健側とは,障害が残った腕など(患側)に対して,障害が残っていない方の腕などのことを指します。

関節可動域の測定

 関節可動域の対象となるのは,以下のものです(主要運動といいます。)。

肩関節

屈曲or外転+内転

ひじ関節

屈曲+伸展

手関節

屈曲+伸展

 

測定方法

 自分の力で動かす自動運動と他人の力を借りて動かす他動運動が考えられますが,基本的に可動域の測定を行う場合は他動運動の数値を用います。

 ただし,末梢神経損傷を原因として関節を稼働させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が動くものの自動では動かせないような場合等,他動運動による測定値を用いることが適当ではない場合には,自動運動を用いることがあります。

 自動運動を用いて測定する場合は,その測定値を(   )で囲んで表示するか,「自動」または「active」などと明記することになります。

 測定は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会によって決定された「関節可動域表示ならびに測定法」にならって行われることになります。

 

後遺障害の対象となっていない側にも障害がある場合は?

 上記のように,可動域制限の程度は,健側と患側の比較によって行いますが,事故とは関係なく,健側となるべき側に障害があるような場合,患側の比較をしても,障害がないという結果にもなりかねません。

 このような場合,各可動域について設定されている「参考可動域」との比較によって評価されることになりますので,後遺障害診断書作成の際に,そのことが分かるように医師に記載してもらいましょう。

 

参考運動とは?

 上記のような主要運動とは別に参考運動というものがあります。

 これは,主要運動の可動域が1/2(10級10号)又は3/4(12級6号)をわずかに上回る場合に,このままでは12級6号又は非該当となってしまうところを,参考運動がそれぞれ1/2又は3/4以下となっていれば,10級10号又は12級6号と認定するというものです。

 この「わずかに」とは,原則として5度であり,一部の機能障害については10度とされています。

 このような場合に,参考運動の測定を行っていなければ,当然このことは考慮されませんので,主要運動の可動域制限が,等級の認定基準にわずかに満たない場合には,参考運動の可動域の測定も欠かさずに行うようにしましょう。

 

注意点

 このように,可動域制限さえ出ていれば等級が認定されるかというとそうではありません。

 機能障害の原因となる骨癒合の不良や関節周辺組織の変性による関節拘縮といった異常が画像上明らかであることが必要です。

 そうでなければ、痛みについての14級9号にとどまるか,後遺障害非該当ということもあり得ます。

 そのため,この点について,骨癒合の状態等についてCT等でしっかりと確認しておく必要があります

 以上のように,後遺症に見合った等級の認定が行われるためには,しっかりとチェックしておくべきことがありますので,弁護士にご依頼いただいた場合,後遺障害診断書が適切に作成されるためのサポートをさせていただきます。

 

示談交渉・損害賠償上のポイント

 上記のような点をクリアして12級6号が認定された場合の損害賠償上の問題点についてご説明します。

 後遺障害に関する損害賠償では,基本的に慰謝料と逸失利益が問題となるのですが,このうちの慰謝料については,12級だと290万円程度が相当とされており,それほど問題とはなりません。

 また,逸失利益についても,同じ12級でも,「12級13号」の場合と異なり,就労可能年限である67歳までが労働能力喪失期間として認定されることが通例ですが(例外はあります。),保険会社はできるだけ賠償金を低く見積もってくることが多いので,この点で減額されないようにしっかりと交渉していくことが必要になります。

 この点も,やみくもに交渉をすればいいというわけではありませんので,弁護士にご依頼いただいた場合,請求を基礎づける過去の事例を示すなどして,適正な賠償額が支払われるように根拠に基づいて交渉をしていきます。

 

まとめ

 12級6号が認定されるためには,自賠責保険の後遺障害認定は原則として書類審査ですので,ご自身の障害の程度が正しく評価されるために,必要な検査を受け,それが後遺障害診断書上も表れているかが重要です。

 また,損害賠償請求に当たっては,不当に減額されないように適切に示談交渉を行っていく必要があります。

 弁護士にご依頼ただければ,後遺障害の申請から損害賠償の示談交渉まで行いますので,交通事故で負った後遺症についてご不安な場合は,一度弁護士にご相談ください。

 

 後遺障害に関する一般的な説明についてはこちらをご覧ください →「後遺症が残った方へ」

 

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