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1人暮らしで無職の休業損害・逸失利益
交通事故の損害賠償は、実際に生じた損害を補填する(原状回復)ことを目的としているため、実際に生じていない損害について、加害者に対する制裁的な目的として支払いを求めることはできません。
したがって、休業損害や後遺障害逸失利益というものも、あくまでも仕事を休んだり、一部に制限が生じたために減収が生じていることを理由として請求するものであり、仕事に何の影響もないのに賠償を求めることはできません。
ただし、厳密に減収が生じていなければ賠償の請求ができないかというと、必ずしもそうではなく、後遺障害逸失利益については、全くゼロということはむしろ少なく、ある程度の賠償が認められることが多いですし、休業損害についても、ケースによっては認められるものがあります。
それでは、1人暮らしをしていて、特に収入もないような人が交通事故の被害者となった場合にはどうなるのでしょうか?
高齢者で、妻や夫に先立たれていたようなケースは珍しくありませんが、このような場合には、仕事といえるものを全くしていない一方で、家事労働に支障が出ることがあります。こうした場合休業損害や逸失利益はゼロなるのでしょうか?
この点について解説します。
家事労働の休業損害・逸失利益の判例
最高裁判例では、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げている」、「一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」として、家事労働についても、休業損害や逸失利益の対象となることを認めています。
自分のための家事労働に関する実務
保険会社との交渉や裁判実務でも、家事労働について休業損害や逸失利益が認められることについて争いはありません。
問題は、家事労働が自分のためだけに行われているような場合です。
このような場合には、休業損害や逸失利益を否定するのが裁判も含めた実務の傾向です。保険会社が支払いに応じることはまずないと言ってよいでしょう。
これは、家事労働に休業損害や逸失利益を認める際に最高裁の判例が指摘する、家事労働が「現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情による」ということに着目したものであると考えられます。
また、「労働」というものが、あくまでも他人のために行うものであるという考え方もあるでしょう。
例外的に賠償が認められる場合
家事ができなくなったために、身の回りのことをやってもらう必要が生じ、家政婦を雇ったような場合、必要といえる範囲で、その費用の賠償が認められるとされています。
別居していても、家族のために介護や育児への協力といった形で家事労働の分担を行っていることがあり、このような場合には、休業損害や逸失利益が認められる可能性があります。
また、事故当時たまたま仕事に就いていなかっただけで、仕事に就く確実な予定があったような場合には、その分の休業損害・逸失利益が認められることになります。
私見
現在の実務の考え方は以上のとおりで、1人暮らしをしている場合、どんなに家事に支障が生じようと、それが自分のためである限り、休業損害は認められないということになります。
しかし、例えば、利き腕を骨折してギプス固定したために、料理ができず外食や総菜等の購入で済ませる、家事に時間がかかるといった事態が生じた場合、実生活に支障が生じているのは明らかで、それが直接財産的な損害として現れないのは、家事を自分でしている場合に、自分に対して対価を支払うということがあり得ないためです。
現実に家政婦を利用するなどしないで済んだとしても、それは自分自身の努力や苦痛の代償でしかありません。
このことを慰謝料として考慮するという考え方もあるかもしれませんが、慰謝料として考慮できるような損害があるのであれば、端的に休業損害として認めれば足ります。
もちろん、1人暮らしの場合と2人以上で暮らしている場合とで家事の量に違いがあるのは分かりますが、実務上、家族の数によって休業損害の額に違いを設けてもいませんし、1人の場合に全くゼロになる理由は分かりません。家政婦に頼めば対価を支払わなければならないことにも違いはありません。
個人的には、現在の実務はナンセンスだと思いますし、考え方を改めるべきではないかと思います。
ただ、裁判例の中にも、1人暮らしの場合の家事労働の休業損害を認めているものもありますが(東京高裁平成15年10月30日判決)、ごく少数ですので、基本的には、1人暮らしの家事労働の休業損害は認められないと考えておいた方がよいでしょう。
サラリーマン(給与所得者)の休業損害のポイント
前回までに,主婦や会社役員,個人事業主の交通事故による休業損害について見てきて,その際に,これらの請求が会社から一定の給料の支払いを受けているサラリーマン(給与所得者)の場合と比較して難しいと述べてきました。
それでは,サラリーマン(給与所得者)であれば,休業損害(休業補償)の請求は容易なのでしょうか?
弁護士として実際に様々な交通事故のご相談をお受けしていると,サラリーマンの場合でも,必要な補償が100%受けられているは限らないことが少なからず見受けられますので,今回はサラリーマン(給与所得者)の休業損害(休業補償)の請求について解説いたします。
基本的な計算の方法
前提として,サラリーマンの休業損害(休業補償)の計算の仕方について確認しておきましょう。
休業日数の把握
まず,実際にどれくらい休んだのかを確認するために,「休業損害証明書」を作成します。
休業損害証明書は,自賠責の定型書式を用いて,会社に作成を依頼することが通例です。
保険会社に言えば用紙を送ってくれますので,送られてきた用紙を会社の担当者に渡して作成を依頼しましょう。
これにより休業日数を把握することができます。
基礎収入額の設定
次に,休業1日当たりにどのくらいの損害が発生するのかを確認します。
この計算方法としては,交通事故の直前3か月の給料(額面)の平均値を用いるのが一般的です。
実際には,事故前3か月分の給料の合計額÷90日とすることが多いです(各月の日数を考慮して91日や92日で割ったとしても間違いではありません。)。
休業損害の計算
以上の結果,休業損害の計算式は以下のようになります。
基礎収入額×休業日数=休業損害
具体例
イメージをしやすくするために,以下のような事例で見てみましょう。
①事故日
11月1日
②休業日数
11月1日から11月15日までの15日
③収入
2月 30万円
3月 30万円
4月 30万円
(※20日勤務で月給30万円,日給1万5000円)
④会社から支払われた11月分の給料
11月16日~30日までの半月分として15万円
基礎収入
(30万円+30万円+30万円)÷90日=1万円/日
休業損害額
1万円×15日=15万円
コメント
これが基本的なサラリーマンの休業損害の考え方であり,具体例では,約半月休業して,15万円が休業損害として支払われているので,会社から支払われた給料と合わせれば30万円となり,感覚的にも支払いに不足しているということはないはずです。
注意点
休業損害証明書は,被害者が会社に作成を依頼することになります。
黙っていても保険会社は対応してくれませんので,自分で動くようにしましょう。
また,多くの方が毎月給料の支払いを受けていると思いますが,事故前と同じように支払いを受けようとするのであれば,毎月休業損害証明書を提出する必要があります。
人によっては,数ヶ月をまとめて作成依頼して保険会社に提出する人がいますが,その場合,支払いが遅れることになるというマイナスに加え,保険会社から,「この時期以降の支払いはできません」と言われて,途方に暮れてしまうこともあります。
休業損害の支払いは,あくまでも,「事故によって発生した損害であるということが相当である」といえる範囲に限られます。
したがって,非常に軽微な事故で,延々と休業を続けているようなケースでは,支払いはされないということになります。
どの程度なら支払われるということを一概に言うことは難しいのですが,実務上重視されているのは,「主治医による就業の制限がされているかどうか」です。
むち打ちなどの場合,多くの場合,就労の制限まではされませんので,事故当初の短期間や通院のための一部欠勤部分にとどまるということも多いでしょう。
むち打ちで数ヶ月にわたって復帰もせずに休業を続けているというような場合,相手方から支払いを受けるのは非常に困難であるといって良いでしょう。
保険会社との交渉でよく問題となる点
上記のように,連続して休業しているような場合には,保険会社の支払いも不足がないことが多いでしょう。
しかし,よく問題となるのは,休業が飛び飛びになっている場合です。
具体例
先ほどの例で,通院などのために,11月1日,5日~10日,15日の合計8日といったように飛び飛びで休業した場合で見てみましょう。
先ほどの計算方法では,1万円×8日で8万円が休業損害となりそうです。
ここで注意すべきなのは会社から実際に支払われる給料との合計額なのですが,先ほどの「収入」のところで見たように,日給では1万5000円となっていて,20日勤務だとすると,会社に出社することができたのは20日-8日の12日になります。
その結果,会社からの支払額は,1万5000円×12日=18万円となります。
そうすると,先ほどの休業損害額8万円をプラスすると,合計26万円ということになるのですが,事故の前は毎月30万円の給料を受け取っていたことからすると4万円も下がっています。
この点が問題なのですが,保険会社は,実際にほとんどの場合でこのような計算をしてきます。
なぜこのような事になるのか?
それでは,なぜ初めの例では問題がなかったものが2番目の例では問題になるのかということなのですが,理由は簡単で,休日が適切に考慮されていないからです。
つまり,初めの例では,11月1日から11月15日の間に休日が含まれている中で,休業の日数について,休日も含めて連続した15日間という期間で計算をしていました。
これに対して,2番目の例では,飛び飛びで休んでいたために,連続した期間としての計算をすることができず,休日を含まない実際に休んだ日を使って計算しています。
問題の原因は,基礎収入の額を計算するときには休日を含む90日で割っていたということです。休日を含んでいる分,1日の単価は低くなっています。
そのため,2番目の例のように,この単価に休日を含まない実際に休んだ日をかけると支払額が小さくなるのです。
今回は,月の稼働日数が20日の例で考えてみましたが,月に3日しか働かず,1日の仕事の単価が10万円という場合を考えると,1日当たりの休業損害が1万円というのが不当であることがよりハッキリとします。
交渉の方法
計算上の問題点は上記のとおり明らかですが,保険会社は,こうした違いを無視して機械的に前述の方法で基礎収入を計算してきます。
これに対する対応の方法としては,基礎収入について,休日を含まない稼働日数を元に日給を算出するということが考えられます。
実際に,裁判上もこのような計算方法が認められていますので(東京地裁平成26年1月21日判決等多数),弁護士としてもこの計算によって請求を行うのですが,保険会社の担当者によってはすぐに応じないことがあります。
そのような場合には,過去の裁判例や理屈について根気強く説明することが必要となります。
どこまでが基礎収入になる?
基本給のほかに,各種手当も含みますが,実費に対応して支払われる通勤手当については,通勤をして実際に交通費を払わなければ発生しないものなので,基礎収入には算入しないことになります。
有休休暇を利用した場合は請求の必要がない?
有休休暇を利用した場合でも請求は可能
休業損害を含めて,基本的に損害賠償は,実際に損害が生じて初めて加害者に請求することができるようになります。
そのため,有休休暇を利用して会社から支払いを受けた場合には,加害者に対して休業損害の請求をすることができないのではないかということが問題となります。
この点については,現在の実務上は,有休休暇を利用した場合でも,有休休暇を利用する権利を自身が望まないタイミングで使用することになっていることから,損害があるとして賠償の請求をすることができることとなっています。
この場合の損害の額については難しいところがありますが,一般的には,通常の休業損害と同様に,基礎収入額に応じて使用した日数分の請求が認めれることが多いです。
請求の方法
有休休暇を利用した場合は,保険会社が応じないというよりも,被害者本人が損害があることに気付いていないということが多いので,請求を忘れないようにしましょう。
ボーナスは?
ボーナスの減額分も請求は可能
事故によって休業したことが賞与の計算上マイナスに評価され,結果として賞与の額が減った場合には,この減額分を事故の加害者に請求することができます。
内容に問題がなければ,特に争いなく保険会社から支払われることも多いです。
もっとも,減額又は減額の可能性があるのに,そのことを適切に相手方に伝えなかった場合には,損害賠償上考慮されないことになりますので,この点も忘れずにチェックしましょう。
請求の方法
ボーナスについては,「賞与減額証明書」というものを別途会社に作成してもらうとともに,賞与の計算規程についても併せて交付をお願いすることになります。
残業ができなくなった場合は?
事故によってマイナスになった分の請求が可能
仕事には復帰したものの,事故前のように残業ができなくなったという方もいらっしゃいますが,このようなものも,事故によって発生した損害として請求は可能です。
この場合の問題点は,既にみたように,休業損害の計算が基本的に基礎収入に休業の日数をかけるという方法で行われるため,休業をしていない以上,通常の請求方法では残業代分のマイナスが計上されないという点にあります。
休業損害証明書によってしか請求ができないものと考えていると,この点を見落としがちになるので,注意が必要です。
請求の方法
請求の方法としては,復帰後の給与の額と事故前の給与の額の差額を残業代分の損害として請求することなどが考えられます(大阪地裁平成28年3月24日等参照)。
当事務所でも,同様の方法によって相手方保険会社に対して請求を行い,支払を得られたことがあります。
まとめ
以上のように,サラリーマンの休業損害の請求は,認定はそれほど難しいところはないものの,被害者の側できちんと把握して主張しておかなければ見落とされてしまうものが多いのが特徴です。
一つ一つの損害を漏らさずに適切に請求を行うためには,細かいチェックとそれなりの理論構成が必要となるところもありますので,しっかりと補償を受けられたい場合には,まずは専門家である弁護士への無料相談をご利用ください。
自営業者・個人事業主の休業損害
交通事故の休業損害のことでお悩みの方の中には,自営業・個人事業主の方もいらっしゃいます。
そこで今回は,役員の場合と同様に,給与所得者の場合とは異なる難しさがある自営業者(個人事業主)の休業損害の問題について見ていきたいと思います。
自営業者(個人事業主)と給与所得者の違い
収入関係の把握
給与所得者の場合,使用者から受け取る給与がそのまま収入であるといえるため,会社から源泉徴収票を取り寄せれば容易に収入状況を把握することができます。
これに対して,個人事業主の場合には,基本的に確定申告書類の控えを用いて収入状況を把握することになるのですが,以下で述べるように必ずしも適切に申告しているとは限らず,その場合,実際の収入を把握することが困難になります。
また、よくある誤解として、売上の減少をそのまま加害者に請求することができると考える方が多いのですが、休業損害ということができるのはあくまでも利益に関する部分です。
例えば、仕入れに100万円、売上150万円の仕事をしていた場合、最大でも利益は50万円で、この他に売り上げを上げるために家賃や光熱費、広告宣伝費等が発生します。このときに、事故に遭って仕事を停止したからといって、150万円が請求できるとすると、支払いを免れた経費分得することになってしまいます。
損害賠償の目的はあくまでも原状回復ですので、このようなことは認められません。加害者側に請求することができるのは、あくまでも事故に遭わなければ手元に残っていたはずのお金ですので、経費を差し引く必要があります。もっとも、後で述べるように、休業をすることで無駄になってしまった経費については、別に請求することは可能です。
ここでのポイントは、自営業の場合、売上だけでなく、経費についても何がどれだけかかっているのかが重要であり、経費が分からなければ休業損害の額も分からないということです。
この点は、後で述べる確定申告をしていない場合で問題となってきます。
休業の実態・必要性の把握
自営業者(個人事業主)と給与所得者の違いとして,まず使用者から労働時間を管理されているわけではないという点が挙げられます。その結果、第三者に「休業の事実」について証明してもらうのが難しいという特徴があります。
例えば、事故による怪我で事故直後の2週間仕事を休み、その後は仕事には復帰したものの通院や身体の痛みなどを理由に一部制限をかけながら仕事を続けていたような場合(実際にこのようなケースは多いです)、第三者(保険会社)から見て、休んだ事実をどのように把握すればよいのでしょうか。
このように、自営業者の場合、まず「仕事を休んだ」ということを何らかの資料を元に証明しなければなりません。
入院していたような場合や、営業自体を停止していたような場合にはそれほど証明は難しくないと思いますが、営業自体は他の従業員によって続けられていたような場合、この証明は難しいものとなりますので、少なくとも仕事を休んだことの記録をつけるなどしておいた方が良いでしょう。
売上以外の損害
自営業者(個人事業主)の場合,給与所得者の場合と異なり,休業した場合,売上が減少するだけでなく,日々発生する経費も無駄になる可能性があります。この点は、事故のために無駄になっているのですから、賠償を求めていく必要があります。
収入の変動
給与所得者の場合,給与の額が年によって大きく変動するということはそれほど多くありませんが,個人事業主の場合には,年によって収入が大きく異なるということも珍しくありません。また、1年の中でも時期によって売り上げが変動するという業種もあります。そのような場合、賠償の基礎となる金額をどう設定するのかが問題となります。
損害賠償上の問題
損害賠償の請求に当たっては,事故によって損害が発生したことを自分で証明することが不可欠となりますが(「被害者が知っておくべき損害賠償の基本」),自営業者(個人事業主)の場合,上記特徴がありますので,証明をすることが難しいケースも出てきます。
以下では,その具体例について見ていきます。
収入の証明
ア 提出書類
収入の証明は,基本的に税務署の受付日付印のある確定申告書類を用いて行うことになります。受付日付印がない場合は,課税証明書も付けることが考えられます。
なぜ確定申告書類が資料として用いられるかというと、自営業者の休業損害を算定するにあたっては、実際の売上の額に加え、売上を上げるためにどのような経費がいくら必要となっているのか重要となるのですが、確定申告書類を見れば、経費について過大に申告することはあっても過少に申告することは少ないと考えられ、その意味で、確定申告書類を見れば、「そこに記載されている以上に経費はないだろう」ということが分かります。
また、利益についても、敢えて多めに申告して税金を高く支払う人は通常いないので、「最低限、ここに記載されている利益はあるだろう」ということが分かります。
したがって、結果的に、休業損害の額を計算するにあたって、非常に信用性の高い書類ということになるのです。
イ 税務申告に問題がある場合
ここでよく問題になるのが,過少申告をしていたり,そもそも確定申告をしていなかったような場合です。
税務申告の問題と交通事故の損害賠償の問題は,次元が異なりますので,このような場合であっても請求自体は可能です。
しかし,収入に関する主張が税務申告のときと損害賠償のときと異なっているということ自体が矛盾するものですので,請求はかなり厳しいと言わざるを得ません。
確定申告をせずに休業損害の請求をしようとする方は、売上さえ証明することができれば、加害者は支払いに応じるはずだと思うかもしれません。また、事故に遭わなければ売り上げを得られていたのは間違いないから加害者が売り上げの補填をするのは当然だと思うかもしれません。
そして、売上については、通帳の記載などで証明することが容易なケースも多いでしょう。※報酬も手渡しで、預金もせずにそのまま使っていたというような場合は、ほぼ証明は不可能です。
しかし、既に述べたように、自営業者の場合、売上=収入ではありません。
月に100万円の売上があったとしても、仕入や人件費、家賃、備品購入等、諸々の経費があった上で100万円を売り上げているのであって、手元に残る利益は30万円だったりするわけです(経費が70万円)。
場合によっては、売上はあってもそれを上回る経費が生じていて赤字になっているということもあるかもしれません。
他方で、事故にあったことで仕事を休業していた結果、仕入れもしなかったということになれば、その分経費の支出は小さくなります。
したがって、このような場合に休業損害として100万円を受け取ることになれば、本来の収入以上の利益を得ることになってしまいます(仕入れをせずにすんでいるため)。
当然、損害の賠償としてこのようなことは認められませんので、自営業者の場合、売上だけでなく、どのような経費がどの程度生じているのかを明らかにしなければなりません。
このように、経費がいくらだったのかは、自営業者の休業損害・逸失利益を請求するために非常に重要なポイントになりますが、経費の額について、被害者が言うことを鵜呑みにすることはできず(所得を申告していないのであれば尚更)、容易に信用することはできません。
そのため、このような場合には,客観性の高い会計帳簿類(総勘定元帳,売上台帳,仕入台帳,金銭出納帳など)を用いて,収入の実態を証明していきますが,これらについても、全てを包み隠さず出していることの保証はどこにもありません。また、そのような会計帳簿類が存在せず,証明も不十分である場合には,休業損害がゼロとされる可能性があります。
仮に,収入の具体的な金額について明確に証明ができない場合でも,就労の実態が証明できる場合には,少なくとも平均賃金を上回るだけの収入を得ていたことが確実であるということが証明できれば,賃金センサスにおける平均賃金額を用いて,ある程度の賠償を受けることは一応可能です。
例えば、生活費を含めたお金の流れを見れば、1000万円程度は所得がないとおかしいというような場合です。
しかし、この証明のハードルも高く、示談交渉で相手の保険会社が認める可能性は低いと言わざるを得ません。
いずれにせよ,適切に確定申告をしていない場合,十分な賠償を受けられる可能性が低くなりますので,確定申告は適切に行っておくことが損害賠償上も重要になります。
「無申告の自営業者は、休業損害を補償してもらうのが難しい」ということを認識しておきましょう。
なお、税務上は修正申告をすることが望ましいことは言うまでもありませんが、修正申告をしたからといって、休業損害の支払が認められるとは限りません。
休業の実態・必要性の証明
休業の実態については,売上の減少等の具体的な事情を元に証明をしていきます。
また,休業が実際にどの程度必要であったのかを証明することはなかなか難しいところですが,受傷の内容・程度,年齢,仕事の内容などを元に判断されることになりますので,これらの事情を元に,医師の協力を得るなどして,休業せざるを得なかったことを的確に説明していく必要があります。
入院したような場合や、医師から自宅で安静にするように指示されたような場合は、その期間休業したことを証明することは難しくありませんので、問題となるのは、一見すると仕事に復帰することが可能な状態であるにもかかわらず、休業しているような場合です。
この場合、実際に休業していたことが証明できたとしても、事故との因果関係が不明となることもあり得ます。
なお,休業の証明が難しく損害の全ての賠償が認められない場合でも,「〇日間を通じて,〇%の就労制限があった」などとして賠償が認められることもあります。
固定経費の損害
ア どういったものが請求できるか
個人事業主の場合,自身が休業をせざる得ない場合には,無駄な経費の支出を止めて完全に休業の状態とした上で,売り上げの減少を相手方に請求したいところですが,現実には,地代家賃や租税公課,損害保険料などのように,休業した期間も含めて支払いをしなければならないもの存在します。
このような支払いは,売上に貢献することなく無駄になるものですので,交通事故による損害として加害者に賠償を求めることができます。
これは,休業損害(消極損害)とは異なる独立した損害(積極損害)ともいえますが,計算上は,休業損害の基礎日額を計算するときに,固定経費分を考慮して計算するということが多いです。
逆に,休業をすれば支払いもしなくて済むような経費については,損害に計上することができません。
例えば、一時的にお店を閉めたとしても、テナントの家賃は支払わざるを得ませんが、この分は無駄な出費となってしまいますので加害者に請求することが可能です。
逆に、支払いの対象とならないのは、営業活動をしているからこそ発生するような経費です。例えば、交通費などは自宅で安静にしている限り発生しないものですので、休業中に無駄な経費として発生することはありませんので、賠償を求めることはできません。
費目によっては,ケースによって損害として認められることもあれば認められないこともあるというものもありますので,具体的にどこまで請求できるのかは,弁護士にご相談いただいた方が良いかと思います。
なお,このような固定経費については,後遺障害逸失利益や死亡逸失利益の損害額の計算に当たっては計上することができませんのでご注意ください。
イ 証明の方法
上記のように,経費のすべてを計上することができるわけではないことから,費目ごとの経費の金額を信頼のできる書類によって証明しなければなりません。
一般的には,確定申告のときに提出する書類の中の「損益計算書」を用いますが,それがない場合は,会計帳簿などを用いて証明を試みることになります。
ウ 保険会社との示談交渉
この点について,保険会社の対応としてよくあるのが,算定の基礎となる金額について,青色申告特別控除前の所得金額を用いるのみで,その他の経費を考慮しないというものです。
上記のように,事故による休業で無駄になった経費については,賠償が認められるというのが実務の取り扱いですので,きちんと請求していく必要があります。
収入の変動
一般的には,休業損害ないし逸失利益の金額の算定をする場合,交通事故があった日の前年の収入を元に計算をすることになります。
しかし,自営業・個人事業主の場合,事故の前年の収入が多かった場合は良いですが,事故の前年の収入がたまたま低かったような場合には,通常どおりに計算すると低い収入額をベースに計算されてしまうので,十分な賠償を受けられなくなってしまいます。
実務では、所得の傾向を確認するため、数年間分の確定申告書類の提出が求められることがあります。
また、起業後間もない段階で事故に遭ったような場合、事故時点での休業損害の額をどのように把握すればよいのか判断が難しい場合もあります。
自営業者の収入の寄与率とは?
以上のような形で基礎収入が計算されていくことになりますが,事業所得者の場合には,申告所得額の中に,本人の労働とは関係なく得られる家賃収入などの収益があることや,実際には家族の協力があるのにそれに対して専従者給与として労務に見合った適正な対価を支払っていないこともあるなど,交通事故被害者本人の労務に対する対価とは言い難いものが含まれていることがあります。
このような場合,交通事故によって休業をしたとしても,影響が出ない部分も相当程度あると考えられますので,その分を計算上差し引くことになります(最高裁昭和43年8月2日判決参照)。
その際,収入のうち,被害者の寄与率は〇%などとして計算が行われることが一般的となっています。
まとめ
以上のように,自営業者の休業損害の請求は,様々な点で問題になりうるところであり,実務の状況を正確に理解していなければ,適正な賠償を受けることが難しいところがあり,交渉にせよ裁判にせよ,どのように損害を立証していくのかが非常に重要になります。
また,保険会社の対応は,一般的に,定型処理が可能な部分に限られ,固定経費の計上や収入の変動といった特別な事情については考慮されないことが多いです。
そのため,自営業者・個人事業主の方で,交通事故を原因とする休業でお悩みの方は,交通事故に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。
【参考文献】
別冊判例タイムズNo.38
2001年・2014年版 赤い本下巻
・関連記事
社長・役員の休業損害(休業補償)の交渉
交通事故のご相談をお受けしていると,会社の役員をされている社長などの方が交通事故の被害者としてご相談に来られることもあります。そして,多くの役員の方が抱えている問題で共通することとして,休業損害(逸失利益)の問題があります。
保険会社によっては,役員であるというだけで,請求を門前払いすることもあるようです。
なぜ,役員の場合だと問題があり,どうやって請求をしていけばよいのか?
今回は,役員報酬に関する休業損害(休業補償)・逸失利益の問題について見ていきたいと思います。
休業損害の問題
減収がない
役員報酬の場合、交通事故に遭ったからといって期中に一度決めた報酬の額を減額することは税務上困難なことが多いため、仕事に出ることができなくても、会社からそのまま役員報酬が支払われることが少なくありません。
交通事故で賠償の対象となるのは、あくまでも損害が発生したといえる範囲に限られますので、収入に変化がなければ、基本的に請求はできません。
ただし、この場合、休んでいる役員に対して無駄に報酬を支払うことになったという意味で、会社に損害が発生していることになりますので、会社から事故の加害者に対して損害賠償の請求をすることは可能です。このことを反射損害といいます。
休業したことの証明
通常、給与所得者であれば、出退勤が管理されているため、いつ仕事を休んだのかは会社に証明してもらえれば、相手の保険会社も納得します。
しかし、会社役員は、会社の従業員のように出退勤が厳格に管理されていません(特にオーナー社長のような場合)。
そのため、いつ休んだのかについて、被害者である役員自身で証明する必要があります。
しかし、これは業態にもよりますが、後で証明しようと思っても、適切な資料が用意できないことが多々あります。
後になって証明できず休業損害の支払いが受けられないという事態にならないように、交通事故が原因で仕事を休むことがあれば、その日時と理由をその都度記録しておくことをおすすめします。
役員報酬の特色
役員報酬の場合に何が問題になるのかを見る前に,まず役員報酬の特色について見ておきましょう。
役員の場合と一般的な給与所得者を比較すると,給与所得者の場合,給料が労働の対価であることに疑いはないのに対し,役員の場合,法人税負担の軽減のために役員報酬を増額し利益を圧縮していること,実質的には何ら役員として稼働していないにもかかわらず親族等に報酬を支払っていること,利益配当的な要素を含んでいることや,役員が休業していてもそれまで通り報酬を支払っていたりするということがあります。
さらに,被害者が役員を務めている会社は小規模であることも少なくなく,被害者個人の休業損害ということを超えて,会社の売上が減少するという大きな損害が発生することもあります。
こうした違いから,役員が休業した場合の損害賠償請求においては,給与所得者の場合と異なる配慮が必要となりますので,以下で詳しく見ていきます。
労務対価部分と利益配当等の部分の区別
上記のように,一口に役員報酬といっても,その中身は様々です。
ここで,交通事故の損害賠償という観点から見ると,加害者が賠償の責任を負うのは,交通事故によって負った怪我などの影響で仕事ができなくなり,それによって損害が発生した部分ということになります。
つまり,賠償金額として算定の基礎となるのは,実際に役員としての仕事を休業せざるを得なくなった場合で,その間の役員報酬の内,労働の対価部分に限られるということになります。
したがって,すでに述べたように,そもそも役員として全く稼働していなかったような人の場合,交通事故によって役員の仕事に影響が出ることはありませんので,役員としての休業損害は発生しないこととなります。
また,役員として稼働していたとしても,既に述べたように,100%が労働の対価と言えるのかについては,検討する必要がありますので,1月当たりの報酬額が100万円の人が1か月休業した場合に,100万円を休業損害として請求するためには,役員報酬が100%労働の対価といえることを証明しなければなりません。
証明の方法
役員報酬の内,どの程度が労働の対価部分といえるのかは,会社の規模,利益状況,役員の地位,職務内容,役員報酬の額,他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額,事故後の役員報酬の額,類似の会社の役員報酬の額などによって判断していくことになります。
そして,これらを証明するためには,法人の事業概況説明書や損益計算書といった会社の確定申告の際に提出する書類や,賃金センサス,実際にどのような仕事をしていたのかについての業務記録などを用いることになります。
役員報酬が,自分が働いた分の対価として適正であることを説明していくわけです。
誰が請求するのか?
休業によって役員報酬が支払われていなかった場合,役員本人に損害が発生していますので,役員本人が請求を行うことになります。
これに対し,役員が休業していたにもかかわらず,会社がそれまで通り役員報酬を支払っていた場合,役員には基本的に損害は発生していないとも考えられます(税務上の手続の問題から,敢えて減額しないということもあるようです。)。
しかし,その場合でも,会社には働いていない役員に報酬を支払ったことになり,損害が発生しているといえますので,会社から加害者に対する損害賠償請求が認められることになります(反射損害の請求)。
また,この場合の役員本人からの請求についても,会社からの請求がされないことが明らかで,加害者に2重払いの可能性がなければ認められる余地があります(大阪地裁平成26年4月22日判決,同平成25年6月11日判決等参照)。
会社の売上減少に関する請求
役員が,会社の中で重要な役割を占めており,役員報酬としての損害以上に,会社に大きな損害が生じることがあります(会社固有の損害)。
この場合に,会社の売上減少に関する請求を相手方に行うことはできるのでしょうか?
この点については,基本的には,会社は,事故によって直接損害を被ったのではなく,間接的に損害を被ったに過ぎないので(間接損害・企業損害),請求は認められないと考えられます。
もっとも,以下のような例外的な場合には,請求が認められると考えられます。
①会社と役員が経済的に一体的な関係にある場合
会社と役員が経済的に一体的な関係にある場合には,会社の損害は実質的に役員の損害と同視することができるので,請求が可能です(最高裁昭和43年11月15日判決)。
②故意またはそれに準じるような場合
故意またはそれに準じるような態様で事故が発生した場合,上記の請求が認められる可能性がありますが,交通事故の場合にはそのようなケースは稀だと思われます(東京地裁平成27年3月25日判決参照)。
注意点
上記のような点について立証に成功すれば,役員でも休業損害の請求を行うことは可能です。
ただ,会社の代表取締役のような役員の場合に気を付けなければならないのは,役員は,会社から勤務時間等について厳格に管理されておらず,出退勤についてある程度自由に行うことができることもあるため,休業の必要性が争われることがあるということです。
休業が必要であったかどうかは,基本的に怪我の状況と業務内容によって判断されることになりますので,一般常識に照らし,仕事に復帰できる状態であれば,速やかに復帰した方が良いでしょう。
仮に,自己判断で休業していたとしても,客観的に見て仕事に復帰できたと判断された場合,その分の支払いを相手方に求めることはできませんので注意してください。
弁護士による役員報酬請求(休業損害)の示談交渉・増額のポイント
役員報酬の上記のような特色を踏まえ,役員報酬の休業補償を求めるときは,まず,誰にどの程度の損害が発生したのかを確認し,請求の主体を確定します。
次に,発生した損害のうち,どの程度を交通事故の加害者に請求できるのかを検討します。
その際,会社の規模や被害者の役員としての業務内容等様々な事情について,裁判例を参考にして見ていくことになります。
最後に,それらの事情を元に,請求の骨子を構成し,根拠となる資料を示して相手方に請求を行うことになります。
適切に請求の理由付けを行うことができなければ,相手方や裁判所が請求を認めることはありませんので,事前に事案を把握し,準備を怠らないことが重要となります。
まとめ
役員報酬の請求を巡っては,誰が請求するのか,請求できる金額はどうなるか(労務対価部分はどの程度か),休業の必要性はどうかといった問題が存在し,給与所得者の休業損害の請求よりも難しいといえます。
役員をされていて,交通事故に遭われた場合には,早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
(参考文献 2005年版 赤い本・下巻)
主婦の休業損害なら弁護士にご相談を
交通事故の被害者の方の場合,弁護士に保険会社との示談交渉についてご依頼いただくことでメリットが発生することが非常に多いことは,既に何度かご紹介していますが,このように交通事故事案の場合に高い確率で賠償金の額が上がるする最も大きな原因は,慰謝料の額について保険会社が裁判基準よりも低い金額(場合によっては自賠責基準)を提示してくるということにあります。
しかし,その他にも,保険会社がかなり高い確率で低い金額を提示してくるものがあります。
それは,家事従事者(主婦)の休業損害(休業補償)に関するものです。
後で述べるように,主婦の休業損害(休業補償)の請求は,慰謝料の請求と比べると,適正額を保険会社から回収するのは難しいところがあるのですが,今回はこの点について見ていきたいと思います。
休業損害(休業補償)とは?
休業損害とは,交通事故の影響で仕事を休業したことによる収入の減少に関する損害を指します。
例えば,サラリーマンが治療のために10日休業をしたことによって,その分の給料が出なかったとすると,この支払いを受けられなかった分について,1日当たりの給料が1万円なら,これに休業日数の10日をかけて10万円を相手方に賠償の請求をすることになります。
したがって,請求の前提として,基本的に減収が生じたことが条件となってきます(もっとも,有休を使った場合でも請求は可能です。)。
主婦でも休業損害は発生する!
このように見ると,主婦の場合,家事を行ったとしても,給料が支払われるということは通常ないため,この前提条件を満たさないために請求ができないのではないかという問題が生じます。
また、被害者の方も、家事に支障が出ていることに不満を感じていても、経済的な損失はないことが多いので(実際には家族に代わってもらったりすることが多いため)、「休業損害」として加害者に賠償を請求できるとは思わないことが多いようです。
しかし,そのような考え方は家事労働の重要性を軽視するものですし,家事は他人に頼めば当然対価を支払わなければならないものですので,実際に主婦業を休まざるを得なかったとすれば,財産的な損害が発生しているというべきです。
実務上もこのように考えられていて,家事労働ができなかった場合にも,財産上の損害が発生すると考えられています(最高裁昭和49年7月19日判決)。
ただし、同様に家事に関する損害が問題となり得る一人暮らしの被害者の場合、現在の実務上、家事としての休業損害は認められない傾向にあります。
⇒「1人暮らしで無職の休業損害・逸失利益」
主婦の休業損害の額はどう計算するのか
このように,主婦でも休業損害が発生すること自体については,現在ではほとんど問題になりませんが,この計算方法については,かなり争いになります。
保険会社はこの点について,1日の単価を5700円(令和2年4月1日以降の事故の場合6100円)とする提示をしてくることが非常に多いです。
この金額がどこから来ているかというと,自賠責保険における家事従事者への休業損害の支払額から来ています。
しかし,自賠責保険は,交通事故被害者のために簡易迅速に支払いを行うための最低限の額を定めているに過ぎず,任意保険会社は,自賠責保険ではまかないきれない部分について支払いを行わなければなりません。
では,その金額はどうやって計算するのか?
この点も,前掲の最高裁昭和49年7月19日判決で触れられていて,女子労働者の平均賃金を用いて計算するという方法が,裁判上は定着しています。
したがって,任意保険会社も,この方法に従って,支払う必要があります。
ちなみに,平成26年の全女性労働者の平均賃金は,年収364万1200円(賃金センサス)とされており,これによると,1日当たりの単価は9976円(四捨五入)となりますので,自賠責基準の単価よりもかなり高いことが分かります。
休業日数の認定の難しさ
このように,1日の単価については設定できたとしても,何日分のマイナスがあったのかという休業の日数を認定するのは難しい問題です。
なぜなら,主婦の休業損害は,交通事故によって家事ができなくなったことに対する請求になりますが,入院したり,全く動けない状態なったような場合でなければ,多少は家事を行えるということが多いからです。
そうすると,例えば,完全に家事ができないわけではないものの,以前に比べて50%くらいしか家事ができなくなり,その状態が30日間続いた場合,先ほどの単価の50%に30日をかけるということになります。
しかし,この50%というような家事労働のマイナスの割合を算定するのは非常に難しいです。
相手方に対する証明の問題以前に,当事者でもこの割合を正確に判断することは困難でしょう。
さらに,実際には,治療を続けて症状が軽くなっていくことで,家事労働への支障の程度も減少していきますので,前述の50%が,30%,10%と減っていくことが考えられます。
具体的な計算方法
こうなると,休業損害の額を正確に算定することは不可能といっても過言ではありません。
そこで,金額を算定するときは,裁判所の判断を参考にして概算で決めていくことになります。
しかし,過去の裁判例を見ると,いわゆる裁判基準と呼ばれるような一般的な基準はなく,判断の仕方は様々です。
そのため,弁護士が請求する際に行うことは,怪我の内容や後遺症の内容,通院の状況等,できるだけ似た事案を探し,それを参考に最終的な金額を決めていくほかありません。この点が,弁護士の腕の見せ所ということになります。
その結果,計算方法として,例えば治療期間が180日,通院日数が50日の場合,「通院日数50日を休業の日数とする」,「全治療期間を通じて30%の影響があった」,「初めの30日は50%,残りの150日は20%の影響があった」などとすることが考えられます。
この辺りは,実際の状況を見て,もっとも適切だと思われる方法を選択します。
解決実績
弊所での解決実績の一部をご紹介します
・主婦の休業損害を含め約180万円の支払いを受けた事例(治療費は除く)
・後遺障害等級14級9号で5年を超える労働能力喪失期間が認められた事例
・人身傷害保険を組み合わせて過失分も含めて満額回収できた事例
最後に
このように,請求の金額を決めること自体に難しい点がある主婦の休業損害ですので,保険会社は,かなり低い金額を提示してくることがほとんどです。
そういう意味では,主婦の休業損害の請求は,慰謝料の増額交渉以上に,弁護士が示談交渉を行う必要性が高いと言えると思います。
次回は,様々なケースの中で,主婦の休業損害を請求する際に問題となる点を掘り下げて見ていきたいと思います。