Author Archive

後遺障害12級【骨盤骨変形】で治療費等を除き1300万円の支払いを受けたケース

2026-03-31

事案の概要

 事故の状況は、店舗の駐車場で、ブレーキとアクセルを踏み間違えた車両が後退してきて、被害者が店舗と車両に挟まれて負傷したというものです。

 被害者は、骨盤輪損傷、左寛骨臼骨折、左脛骨骨折、左膝前十字靭帯損傷、左膝内側側副靭帯損傷の傷害を負い、今後の対応に不安を感じられてご依頼となりました。

 

弁護士の活動

後遺障害認定

 本件では、被害者の方は手術が必要となるほどの重傷を負われたのですが、術後の予後は悪くなく、自覚可能な深刻な可動域制限などはありませんでした。

 ただ、骨盤骨の変形障害は残ってしまったため、その点で「骨盤骨の著しい変形」として後遺障害12級5号の認定を受けました。

示談交渉

 この後遺障害の認定結果を受けて、加害者側の保険会社と交渉を行ったところ、治療費のほか、自宅の一部改造費や休業損害といった既に補償を受けていた部分を除いて、約1300万円(自賠責保険金224万円を含む)の賠償を受ける内容で示談をすることができました。

ポイント

 本件のポイントは後遺障害部分の補償に関する部分で、被害者ご本人様の自覚症状としては大きな後遺症がなく、日常生活にも大きな影響がないように思われたことでした。後遺障害に対する補償で大きな割合を占めるのは後遺障害逸失利益(仕事への支障とそれに伴う収入の減少)ですが、まったく仕事に支障がないということになれば、この後遺障害逸失利益自体がないという判断にもなりかねません。

 今回後遺障害の認定を受けたのは骨盤骨の変形障害ですが、骨の癒合に問題があり、その程度が大きい場合、「変形障害」として後遺障害の認定を受けることがあります。

 痛みを伴う場合には後遺障害12級13号という等級もあり、痛みに伴う日常生活への支障も生じているのが通例ですので、逸失利益の主張をするのはそう難しくありません。

 しかし、中には、レントゲンなどではっきり分かる変形が確認できても、仕事にはほとんど支障がないという人もいます

 このような場合には、逸失利益の評価が難しくなります(特に鎖骨や脊柱の変形障害で問題となることが多いです)。

 そもそも後遺障害は、将来も治る見込みがないものですから、今の時点で特に仕事に支障がなくても、業務内容に変更が生じたり、転職が必要となった時点で問題が生じてくるかもしれません。

 したがって、現状だけを見て、安易に妥協するのは危険です。

 本件は骨盤骨の変形障害で、鎖骨や脊柱の変形障害のときほどこの点が問題となったわけではありませんが、後遺障害認定の結果と自覚症状にギャップがあるような場合には、逸失利益の金額をどのようにすべきかは慎重に行う必要があります。

死亡事故で近親者慰謝料を考慮して相場を上回る額で和解したケース

2026-03-17

事案の概要

 事故の状況は、被害者がバイクで十字路交差点を直進しようとしたところ、右折のトラックにはねられたというものでした。

 被害者は大腿骨遠位端開放骨折、橈骨・尺骨遠位端骨折、頭骨骨折、肋骨骨折、恥骨骨折、等の多数の骨折のほか、外傷性クモ膜下出血・脳挫傷の重傷を負いました。

 事故直後はせん妄状態で意思疎通は困難で、入院を経て意思疎通もできるようになったものの、事故前の状態まで回復することなく施設に入所されることとなり、施設で亡くなられました(直接の死因は貧血となっています)。

弁護士の活動

後遺障害認定の検討

 本件は、被害者のご家族がご相談にみえられ、当初は高次脳機能障害について後遺障害認定を受けてから、加害者側と賠償交渉を行う予定でした(その時点ではご本人様も意思疎通はできる状態でした。)。

 しかし、後遺障害診断書の取り付けがスムーズにいかず、自賠責保険会社への申請の準備に時間がかかっていたところ、ご本人様が亡くなられたため、後遺障害認定ではなく死亡事故として加害者側へ賠償金の請求を行うこととしました。

示談交渉~訴訟提起

 本件は、当初は保険会社とやり取りをしていましたが、ご本人様が亡くなられたことから、相手方に弁護士がつくこととなり、事案の性質上、訴訟提起が望ましかったため、訴訟提起をすることとなりました。

 また、それに先立って、自賠責保険会社に対して死亡事故として保険金の請求を行い、自賠責保険会社において事故と死亡の間の因果関係が認められ、保険金が支払われることとなりましたので、不足分について訴訟提起をしました。

訴訟~和解

 本件の裁判での争点は過失割合や逸失利益など複数ありましたが、特に重要だったのは慰謝料の額です。

 死亡事故の場合の慰謝料の額は、家族構成(扶養している家族の有無)や被害者の年齢などが重視されて決められる傾向にあります。

 本件では、ご本人様の事故当時の年齢は81歳で、一人暮らし、同居している家族もいないという状況でした。

 慰謝料の額の目安は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)が参照されることが多いですが、このように単身で扶養する家族のいない被害者の場合、2000万円~2500万円が相場とされていて、さらに、高齢の被害者の場合は、若年の被害者と比較すると低額になる傾向があるため、本件のような高齢の被害者の場合は、この下限に近いものとされています。

 したがって、本件の場合2000万円程度が慰謝料の目安となります。

 しかし、本件では、慰謝料を増額するための事情を説明し、最終的に、死亡慰謝料として2300万円(近親者慰謝料含む)が和解金として認められ、これに入院慰謝料300万円を加えて和解することができました。

※実際の賠償金は、逸失利益等を加算した上で、事故状況による過失相殺もありました。

ポイント

 上記のように、本件では死亡慰謝料の額がポイントとなりましたが、本件で特徴的だったのは、ご本人様に6名のお子様がいらっしゃったということです。

 死亡事故の場合、民法711条により、被害者本人だけでなく、身近な人を亡くした近親者にも固有の慰謝料が認められることになります。

 そして、上で述べた目安金額には、この近親者慰謝料の額も含まれているとされています。

 しかし、このような考え方をとると、同居したり扶養したりしている家族がいない被害者の場合、近親者がいてもいなくても慰謝料の総額は変わらないこととなり、近親者慰謝料が考慮されていないのと同様の結果になります。

 それでは近親者固有の慰謝料が認められている意味がありませんので、この裁判では、生前の被害者と家族との交流状況等について説明し、被害者本人の慰謝料に加算する形で近親者慰謝料を認めてもらうことができました。その分目安金額よりも慰謝料の額が高くなっています。

 このように、交通事故の損害賠償では目安となる「赤い本」という基準がありますが、それをそのまま使用していればよいというわけではなく、事案に応じて修正する必要もあります。

 また、今回は説明を割愛していますが、死亡事故の場合、訴訟提起をすることにより相手方と有利な条件で和解できる可能性があります。

 死亡事故の場合、どのように手続を進めていけばよいか、賠償金額はどれくらいが適正なのかを判断するのが難しい部分がありますので、弁護士へのご依頼を強くおすすめします。

異議申立てで【14級→12級】平衡機能障害が認定され、訴訟で和解したケース

2026-03-04

事案の概要

 事故の状況は、横断歩道を歩いて横断していた被害者が、右折してきた自動車にはねられたというものです。

 被害者は、頭を強く打ち、急性硬膜下血腫等の傷害を負った結果、通院加療を受けたものの、めまい等の神経症状の後遺症が残りました。

 本件は、別の弁護士からの引継ぎの事案でしたが、その時点で、めまいの症状について、局部に神経症状を残すものとして、後遺障害14級9号の認定を受けていました。

 

弁護士の活動

自賠責保険の異議申し立て

 本件では、めまい症状とは別に、事故後に腱板断裂について手術を受けるなどしていたのですが、これについては、事故から治療開始までに時間が空いていたことなどを理由に後遺障害認定には至っていませんでした。

 前任の弁護士は、この腱板断裂部分で異議申立てを検討していたようでした。

 しかし、腱板断裂は、日常生活の中で生じることもある疾患であり、自覚症状がないこともあるため、事故によって生じたものであるかどうかは、慎重に判断する必要があります。

 本件では、事故前に肩の痛みを訴えて通院をしており、事故直後にMRI検査を行ったわけでもなかったため、腱板断裂について後遺障害を得るのは難しいと判断しました。

 その一方で、めまいの症状については、ご本人様からうかがった話によれば、日常生活への影響は深刻で、後遺障害の等級として釣り合っていないように思われましたので、こちらで異議申立てができないか検討しました。

 そこで改めて後遺障害診断書を見ると、「明らかな眼振は見られない」との記載があり、この点に問題があるように思われました。

 めまいの後遺障害で、最も重視されているのが眼振の有無です。

 眼振は、自分でコントロールできるものではないため、眼振が認められれば、障害については証明できたことになります。

 そこで、まず、改めて耳鼻咽喉科で眼振を含む後遺障害認定に必要となる各種検査を受けていただき、後遺障害診断書も新たに作成してもらうようにお願いしました。

 その結果、やはり眼振が認められ、その結果を後遺障害診断書にも反映してもらうことができましたので、それを元に異議申し立ての手続を行い、結果として、12級13号の認定を受けることができました。

示談交渉~訴訟提起

 本件では、相手方の保険会社には既に弁護士がついていたため、異議申し立ての結果を踏まえて交渉を行いましたが、金額の乖離が大きかったため、やむを得ず訴訟を提起することとなりました。

 裁判では、ご本人の症状が12級13号でも評価しきれていないように思いましたので、後遺障害9級を前提に請求を行いました。

 結果として、9級の認定を受けるためには裏付けが不足していたため、12級13号の認定にとどまりましたが、12級13号を前提とした請求額としては満額で早期に和解することができました。

 

ポイント

 本件は、ご本人が申告されている症状と後遺障害診断書の内容が見合っていないことに着目して後遺障害診断書の記載内容を改めることで異議申し立てが認められた事案です。

 異議申し立てができるかどうかは、単純に資料だけを見ても判断できず、被害者ご本人からしっかりお話をうかがうことが大事であることを改めて認識させる事案でした。

 また、訴訟提起をしたことで、交渉で得られるよりも手厚く補償を受けることができましたので、時間はかかりましたが、よい解決に至れたのではないかと思います。

冬季休暇のお知らせ

2025-12-12

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、誠に勝手ながら、弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2025年12月27日(土)~2026年1月4日(日)

後遺障害14級【耳鳴り】が認定、後遺症慰謝料・逸失利益を取得したケース

2025-12-01

事案の概要

 事故の状況は、信号待ちで停車中に後方から追突されたという事故で、被害者は、頚椎捻挫の他に耳鳴り症を訴えており、治療中の段階からのご依頼となりました。

弁護士の活動

自賠責保険の後遺障害認定

 本件は、追突事故でむち打ち症を発症したという、典型的な交通事故の事例でしたが、首の痛み等は比較的早い段階で収まったのに対し、耳鳴りの症状が強く、しかも長引いていたという点に特徴がありました。

 耳鳴り症も一定の条件を満たせば、後遺障害の認定を受けることができますので、聴覚検査を複数回受けていただき、後遺障害診断書にオージオグラムを添付して被害者請求を行った結果、「14級相当」の後遺障害認定を受けることができました。

保険会社との交渉

 後遺障害の認定結果を踏まえて相手の保険会社と裁判基準に基づいて交渉を行ったところ、後遺障害慰謝料について満額の支払いを受けることで示談が成立しました。

 逸失利益については、事故後に減収がなく、むしろ収入が増えていたという問題がありましたが、同年代の男性の平均賃金を用いて計算する方法で合意に至ることができました。

ポイント

 むち打ち症で耳鳴りを訴える方は多くはありませんが、稀ではありません。また、一度症状が出ると、他のむち打ち症の症状のように長期化する可能性があります。

 このような場合に適切に賠償を受けるためには、早い段階で耳鼻科を受診していただき、事故後に症状が一貫して存在することを明確にしておくことが重要です。

 また、後遺症が存在するにもかかわらず、収入が減るどころか増えているというような場合、逸失利益(後遺症による減収)を請求するには、相応の理由の説明が必要となります。

 本件の場合、転職を伴っていたこともあり、この辺りの説明が通常以上に難しい点がありましたが、逸失利益についても一般的なケースとそん色ないような形で賠償を受けることができましたので、いい示談ができたのではないかと思います。

夏季休暇のお知らせ

2025-08-01

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 誠に勝手ながら弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2025年8月9日(土)~2025年8月17日(日)

死亡事故の慰謝料の相場について詳しく解説します

2025-04-15

死亡慰謝料の基本的な考え方

 交通事故で被害者が亡くなった死亡事故の場合、慰謝料の額も高額になります。

 死亡事故の慰謝料は、一般的には被害者が家族の中でどのような立場にあったのかによって変わると言われていて、①「一家の支柱」が2800万円、②「母親、配偶者」が2500万円、③その他(独身者、子供、幼児等)が2000万円~2500万円というのが相場であると言われています。

(日弁連交通事故相談センター東京支部『2025年版 損害賠償額算定基準』(赤い本)』205頁より)

※③の「その他」に幅があるのは、被害者が子供である場合もあれば高齢者である場合もあり、実際に裁判で認められている金額にかなりの幅があるためです(若年者は高額になる傾向にあると言われています)。

 ただし、個々の被害者の家族との関係や事故態様、加害者側の態度など、様々な事情によって死亡事故の慰謝料の金額は変動するとされており、実際に裁判所で出された金額を見ても、かなりの幅が見られます。

 そこで、ここでは具体的な事例でどのくらいの死亡慰謝料が認められてきたのかについて、実際に最近の令和4年から令和5年の間に出された判決を調査した結果を踏まえて解説します。

死亡慰謝料額の調査結果

最近の裁判の全体的な傾向

 まず、裁判所が認定した死亡慰謝料の全体的な傾向ですが、概ね上記の目安金額に沿った判断がされているといえます。

 その中で、飲酒運転や、加害者が不合理な弁明を行ったりするなど、加害者が強く非難されるべき事案の場合には、上記の目安を超えて高額の慰謝料が認められています。

 例えば、大阪地裁令和5年11月17日判決では、原付バイクに乗った被害者が赤信号で停止していたところ、無免許・飲酒運転の加害自動車に追突され、そのままビルの壁まで進んで圧し潰された挙句、救護義務を果たすことなく加害者が立ち去ったという事案で、死亡慰謝料として3300万円が認められています。

 他にも、東京地裁令和5年10月27日判決の、アクセルとブレーキを踏み間違えて自車を加速させ、赤信号無視をして、青信号で横断歩道を横断していた母子をはねて死亡させたという事案では、過失の大きさや刑事事件において自身の過失を一向に認めようとしなかった加害者の態度などを考慮して、母子それぞれに死亡慰謝料3100万円が認められています。この事案は、ニュースなどで大きく報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

実際の認定のされ方

 死亡事故の場合、亡くなった被害者本人の慰謝料に加え、大切な家族を失った遺族(近親者)固有の慰謝料というものが認められ、これらは、計算上は区別されるというのが基本的な考え方です。

 では、遺族の数が多ければその分トータルで支払われる慰謝料の額が多くなるかというとそういうわけではなく、上で示した目安の金額は、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の額を合算したものとされています。

 つまり、遺族の数によって慰謝料の合計額が変わることは予定されていないということです。

 例えば、一家の支柱であった被害者が事故で亡くなった場合、目安によれば慰謝料の額は2800万円ですが、残された家族が、妻と子供2名であるというような場合、被害者本人の慰謝料が2400万円、妻の慰謝料が200万円、子供の慰謝料が100万円×2となり、合計が2800万円などとされます。

年齢による違い

 遺族の数によって慰謝料の総額は変わらないと言いましたが、実際に裁判例を見てみると、20代など若くして被害者が亡くなったケースで、配偶者や子供がいる場合、その親もまだ存命であることが少なくなく、そうした場合、子供に先立たれた親の苦痛は想像に難くないため、こうした親の慰謝料の額を合算すると、上記の目安の金額を超えるということも多いです。

 このような点も考慮すると、やはり被害者が若い場合に慰謝料の額が大きくなりやすいということは言えると思います。

 その反面、高齢者が被害者となった場合、事故当時に同居する配偶者がいた場合でも、2500万円を下回る金額しか認められないケースが散見されました。

 やはり、年齢によって死亡慰謝料の額に違いが出ると考えた方が良さそうです。

 ただ、被害者が高齢であった場合でも、会社の代表取締役として相応の報酬を得ていたような場合には、比較的大きな慰謝料が認められているものもありますので、よく事案を分析する必要があります。

まとめ

 最近の死亡事故の裁判の傾向を見ると、目安となる基準から大きく増減することは多くないと言えそうです。

 ただ、特に事故状況や相手の態度など、軽微な事故ではあまり慰謝料の額には関わらないような事情でも、死亡事故の場合は数百万円単位で違いが出ることがあるので、交渉を行う場合には、こういった事情を漏らさずに言っていく必要があります。

 また、以前から指摘されているところですが、被害者が高齢者である場合、若年者の場合と比較すると慰謝料の額が低くなる傾向にはあるようです。

 しかし、被害者が高齢者の場合でも、基準によれば死亡慰謝料が2000万円くらいまで下がってもおかしくないところですが、そこまで低い金額となっていることは珍しいので、高齢者だからといって上記の基準から2000万円まで下げることは応じがたいところです。

 死亡事故の場合、考慮しなければならないことが多岐にわたりますので、示談の前に弁護士にご相談していただくことをおすすめします。

後遺障害14級【頚椎捻挫】が認定され、後遺症慰謝料を満額取得したケース

2025-04-01

事案の概要

 事故の状況は、十字路交差点を直進中、右側から一時停止無視の車が被害車両の右側面に衝突してきたというものでした。

 被害者は、首に痛みを訴えており、後遺障害認定に進む段階で依頼となりました。

弁護士の活動

自賠責保険の後遺障害認定

 本件も後遺障害の被害者請求を行うところから対応を開始しましたので、交通事故証明書や診断書・診療報酬明細書、物損に関する資料の取得から始めました。

 書類を整えて自賠責保険会社に被害者請求を行った結果、首の痛みについて後遺障害14級9号の認定を受けることができました。

保険会社との交渉

 後遺障害の認定結果を踏まえて相手の保険会社と裁判基準に基づいて交渉を行ったところ、後遺障害慰謝料について満額の支払いを受けることで示談が成立しました。

ポイント

 本件は、資料を取得した段階で、後遺障害の認定を受ける可能性が高いのではないかと思いました。

 というのも、車の破損状況を見ても、側面のドアが大きくへこみ、フレームにも損傷が生じており、運転席にいた被害者への衝撃も相当であったことがうかがえたほか、被害者は年齢が70代の高齢者で椎間板の膨隆も見られたため、一度症状が出ると容易に完治しない(後遺症として残りやすい)と考えられたためです。

 また、通院の頻度も2~3日に1回程度と少なくありませんでした。

 このようなケースは、後遺障害認定が受けられる典型的なものといえます。後遺障害診断書の記載内容が良かったとか、弁護士の活動が功を奏したというわけではありません(示談交渉の場面では弁護士の力を発揮しています)。

 あくまでも、事故状況や被害者自身の身体の状態といった客観的な事情が重要であるということです。

PTSDなど精神障害と賠償の問題

2025-02-03

 最近、有名人がPTSDになったというニュースを目にすることがありますが、交通事故の場合でも、PTSDの発症が問題になることがあります。

 また、弁護士業務との関係では、労働関係の仕事をしていると、パワハラや過剰労働を理由として精神疾患をり患したという方の相談を受けることも珍しくありません。

 このような経験を踏まえて最近の世論の状況を見ていると疑問に思うことが多々あります。

 そこで、今回は、被害者が精神障害を発症した場合の賠償の考え方や、他の怪我とは異なる注意点などについて解説します。

※なお、ここで述べるのは、あくまでも弁護士の視点から見解を述べるものであり、最新の医学的知見に基づくものではありません。

PTSDとは

 PTSDとは、自分自身又は他人の生命や身体に脅威を及ぼすような、著しい精神的ショックを与えるような心的外傷体験となる出来事に曝されることで生じるとされていて、具体的なトラウマ体験として、自然災害や事故、火災、戦争、性犯罪、激しい暴力、虐待などが挙げられています。

 また、症状としては、フラッシュバックや悪夢、トラウマ事象に関連する刺激の回避、否定的な考えや気分、イライラや怒りっぽさ、不眠などがみられるとされています(一様ではありません)。

 そして、他の精神疾患との合併があると、重症化しやすいということです。

 なお、性的暴行の被害者の場合、症状が残存しやすいという報告があるそうです。

(医学書院「標準精神医学 第9版」より)。

PTSDの賠償金の額

 被害者がPTSDなどの精神障害を発症した場合の賠償金の額ですが、非常に高額になることがあります。

 一般の方が抱くイメージでは、賠償金というと慰謝料や、問題を解決するために示談金(上乗せ)というものではないかと思います。

 たしかに、精神障害の場合でも慰謝料の額が重要となるのは間違いありませんが、現実的に金額が大きくなる要因は、仕事を休業したことへの補償の部分です。

 例えば、トラウマとなるような体験があった後、仕事に復帰できない状態が続いたとなれば、その間の給料の補償を加害者が行わなければなりません。

 この額は、単純計算で、年収が1000万円の人が半年休業すれば500万円、1年休業すれば1000万円となります。

 さらに、症状が完治しないまま1年ないし2年が経過するなど、長期の療養を経ても症状が寛解しない場合、短期的に完治することは見込めず、後遺症として長期間にわたって症状が残存してしまう可能性があります。

 また、その結果、元どおりに仕事をすることができなくなるということも予想されます。

 そうすると、賠償金を一時金で払うとなると、この将来にわたる損害を予測した上で計算する必要がありますので、その額は被害者の年収に応じて高額となっていきます。

 入院加療を要するような精神疾患を発症したような場合であれば、相当重度の後遺症(交通事故の場合、自賠責保険の認定では、14級、12級、9級がありえますが、実際の症状を見て、より重く見ることも考えられます)として取り扱うことになりますので、上記の年収1000万円で9級相当の後遺症が残ったとすると、事故当時の年齢で大きく変わりますが、20代であれば、賠償金の額はこれだけで8000万円を超えるような額となります(実際の計算では修正が必要となることは後述)。

 ここに、将来の医療費や慰謝料が加算されることになります。

 したがって、このような金額で示談したからといって、「金持ちがお金で解決した」とか「口止め料が含まれている」とかいうわけではないのです。

 

交通事故実務での取り扱い

 交通事故の場合は、PTSDと医師に診断されているかどうかに縛られることはなく、「非器質性精神障害」という大きな括りで事故との因果関係などを考慮することになります。

※非器質性精神障害に対し、「器質性精神障害」とは、脳に器質的(臓器・組織の形態的異常にもとづく)損傷が生じたことにより精神作用が障害された場合、「高次脳機能障害」として取り扱われることになります。

 

精神障害の場合に特有の問題

原因が一つではないこと

 精神障害の場合、障害を発生する原因は一つの出来事だけではなく、その他の出来事や人間関係など、元々被害者が抱えていた問題も原因となっている可能性があります。

 そうすると、損害賠償という観点で見ると、実際に生じている損害をどこまで加害者に負担させてよいのかを検討する必要があります。

被害者本人の特性も考慮しなければならないこと

 上記の点にも関連しますが、精神障害は、同じ体験をすれば誰もが発症するものではなく、発症しやすさには個人差があります。

 このような個人差の問題も、加害者の責任を考えるときに考慮しなければなりません。

 具体的には、実際の出来事の程度に比較して被害者の訴えている症状が著しく大きい場合、それが詐病などでなくても、その責任をすべて加害者に負わせることはできないでしょう。

 この点は、損害賠償の実務上は、「素因減額」という概念で処理されることになります。

 これは、被害者の特性に応じて加害者側の賠償の責任を軽減するというもので、認められると、例えば「損害が1000万円だったとしても、3割(この割合は事情により大きく増減します)を差し引いて賠償すべきなのは700万円」といった結果になります。

症状がいつまで続くのかを予測するのが困難であること

 精神障害は、器質性の障害とは異なり、時間の経過と共に寛解する可能性があります。

 したがって、賠償金の計算にあたっても、一生涯障害が続くものとはせずに、賠償の対象を一定期間に限定することがあります。

 非器質性精神障害の場合、この期間を10年程度とされることも少なくありません。

まとめ

 以上のように、ある出来事によってPTSDを発症したといっても、発症にその出来事がどこまで影響しているのか、被害者自身の特性はどうだったのか、将来にわたる損害の発生はどのように考えればよいのかといった点について考慮すべきことは多いです。

 また、実際に生じた出来事(事故)の大きさと、被害者の訴える症状・損害が必ずしも釣り合っているわけではありません(少なくとも、裁判実務の考え方からすると明らかに損害が過大であるということがあります)。

 確実に言えることは、断片的な事実によって事実を推測できるようなものではなく、賠償金の額についても、素人考えで高いとか低いとか言えるようなものではないということです。

高齢者の死亡事故で慰謝料を約2400万円として示談した事案

2025-01-29

事案の概要

 本件は、被害者(事故当時80代)が道路を横断していたところ、前方不注視の自動車にはねられ、約5か月間の入院の後、亡くなられてしまったという事案です。

弁護士の活動

 死亡事故の場合、一般的に交渉が必要となる事項は、逸失利益(就労、年金、退職金等)、慰謝料、過失割合といったものになります。

 本件の場合、被害者は一人暮らしで就労はなく、逸失利益は年金のみでしたので、特に交渉が必要となったのは慰謝料と過失割合の部分でした。

慰謝料

 死亡事故の慰謝料の額は、一般的に家族構成や年齢に左右されるとされていて、家族を扶養する一家の大黒柱が亡くなった場合、慰謝料の額も高くなり、また、高齢者と比較すると若年者の方が慰謝料の額が高くなるとされています。

 一般的に慰謝料の基準額として用いられている、日弁連交通事故相談センター東京支部が作成している「損害賠償額算定基準」(赤い本)によると、一家の支柱が2800万円、母親、配偶者が2500万円、その他が2000万円~2500万円とされています。

 本件の被害者の場合、子供は独立し、一人暮らしをしていましたので、「その他」にあたります。

 そして、この「その他」の基準に幅があるのは、若年者と高齢者とで差が生じるためであるとされています。

 その結果、一人暮らしの高齢者の場合、この基準に従えば、その他の下限の2000万円に近い額となります(入院経過を考慮した増額もあり得ます)。

 本件では、事案を総合的に見て、入院時のものも含めて慰謝料の額を約2400万円とすることで保険会社との間で合意することができました。

過失割合

 過失割合は、当初保険会社から15%と主張されていましたが、刑事裁判の記録を精査したところ、加害者の脇見運転が疑われたため、過失0%で交渉を行いました。

 この点は、最終的に保険会社が過失0%を認めることはありませんでしたが、過失10%で示談とすることになりました。

ポイント

 本件は、争点もそれほど多くなく、過失割合で若干譲歩していること、自賠責保険金の枠を使い切っていないことから、裁判での解決もあり得るところでした(裁判には遅延損害金や弁護士費用の加算といったメリットがあります)。

 しかし、上では記載していませんが、本件では、過去の判例に照らせば請求が認められる可能性が低いものについて保険会社が支払いを認めていたという特殊事情があり、そのことを差し引くと訴訟提起のメリットが大きいとは考えられなかったため、ご遺族と相談の上で示談による解決としました。

 金額面で考えると、死亡事故であれば全て裁判をした方がよいようにも思われるのですが、実際に交渉をおこなってみると、裁判では認められないような慰謝料の増額や費目の計上が認められることもあります。

 この辺りの裁判を行うべきかどうかの見極めは、弁護士としての知識と経験が必要となりますので、死亡事故の場合、示談の前に迷わず弁護士にご相談していただくことをおすすめします。

« Older Entries