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夏季休暇のお知らせ

2025-08-01

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 誠に勝手ながら弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2025年8月9日(土)~2025年8月17日(日)

死亡事故の慰謝料の相場について詳しく解説します

2025-04-15

死亡慰謝料の基本的な考え方

 交通事故で被害者が亡くなった死亡事故の場合、慰謝料の額も高額になります。

 死亡事故の慰謝料は、一般的には被害者が家族の中でどのような立場にあったのかによって変わると言われていて、①「一家の支柱」が2800万円、②「母親、配偶者」が2500万円、③その他(独身者、子供、幼児等)が2000万円~2500万円というのが相場であると言われています。

(日弁連交通事故相談センター東京支部『2025年版 損害賠償額算定基準』(赤い本)』205頁より)

※③の「その他」に幅があるのは、被害者が子供である場合もあれば高齢者である場合もあり、実際に裁判で認められている金額にかなりの幅があるためです(若年者は高額になる傾向にあると言われています)。

 ただし、個々の被害者の家族との関係や事故態様、加害者側の態度など、様々な事情によって死亡事故の慰謝料の金額は変動するとされており、実際に裁判所で出された金額を見ても、かなりの幅が見られます。

 そこで、ここでは具体的な事例でどのくらいの死亡慰謝料が認められてきたのかについて、実際に最近の令和4年から令和5年の間に出された判決を調査した結果を踏まえて解説します。

死亡慰謝料額の調査結果

最近の裁判の全体的な傾向

 まず、裁判所が認定した死亡慰謝料の全体的な傾向ですが、概ね上記の目安金額に沿った判断がされているといえます。

 その中で、飲酒運転や、加害者が不合理な弁明を行ったりするなど、加害者が強く非難されるべき事案の場合には、上記の目安を超えて高額の慰謝料が認められています。

 例えば、大阪地裁令和5年11月17日判決では、原付バイクに乗った被害者が赤信号で停止していたところ、無免許・飲酒運転の加害自動車に追突され、そのままビルの壁まで進んで圧し潰された挙句、救護義務を果たすことなく加害者が立ち去ったという事案で、死亡慰謝料として3300万円が認められています。

 他にも、東京地裁令和5年10月27日判決の、アクセルとブレーキを踏み間違えて自車を加速させ、赤信号無視をして、青信号で横断歩道を横断していた母子をはねて死亡させたという事案では、過失の大きさや刑事事件において自身の過失を一向に認めようとしなかった加害者の態度などを考慮して、母子それぞれに死亡慰謝料3100万円が認められています。この事案は、ニュースなどで大きく報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

実際の認定のされ方

 死亡事故の場合、亡くなった被害者本人の慰謝料に加え、大切な家族を失った遺族(近親者)固有の慰謝料というものが認められ、これらは、計算上は区別されるというのが基本的な考え方です。

 では、遺族の数が多ければその分トータルで支払われる慰謝料の額が多くなるかというとそういうわけではなく、上で示した目安の金額は、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の額を合算したものとされています。

 つまり、遺族の数によって慰謝料の合計額が変わることは予定されていないということです。

 例えば、一家の支柱であった被害者が事故で亡くなった場合、目安によれば慰謝料の額は2800万円ですが、残された家族が、妻と子供2名であるというような場合、被害者本人の慰謝料が2400万円、妻の慰謝料が200万円、子供の慰謝料が100万円×2となり、合計が2800万円などとされます。

年齢による違い

 遺族の数によって慰謝料の総額は変わらないと言いましたが、実際に裁判例を見てみると、20代など若くして被害者が亡くなったケースで、配偶者や子供がいる場合、その親もまだ存命であることが少なくなく、そうした場合、子供に先立たれた親の苦痛は想像に難くないため、こうした親の慰謝料の額を合算すると、上記の目安の金額を超えるということも多いです。

 このような点も考慮すると、やはり被害者が若い場合に慰謝料の額が大きくなりやすいということは言えると思います。

 その反面、高齢者が被害者となった場合、事故当時に同居する配偶者がいた場合でも、2500万円を下回る金額しか認められないケースが散見されました。

 やはり、年齢によって死亡慰謝料の額に違いが出ると考えた方が良さそうです。

 ただ、被害者が高齢であった場合でも、会社の代表取締役として相応の報酬を得ていたような場合には、比較的大きな慰謝料が認められているものもありますので、よく事案を分析する必要があります。

まとめ

 最近の死亡事故の裁判の傾向を見ると、目安となる基準から大きく増減することは多くないと言えそうです。

 ただ、特に事故状況や相手の態度など、軽微な事故ではあまり慰謝料の額には関わらないような事情でも、死亡事故の場合は数百万円単位で違いが出ることがあるので、交渉を行う場合には、こういった事情を漏らさずに言っていく必要があります。

 また、以前から指摘されているところですが、被害者が高齢者である場合、若年者の場合と比較すると慰謝料の額が低くなる傾向にはあるようです。

 しかし、被害者が高齢者の場合でも、基準によれば死亡慰謝料が2000万円くらいまで下がってもおかしくないところですが、そこまで低い金額となっていることは珍しいので、高齢者だからといって上記の基準から2000万円まで下げることは応じがたいところです。

 死亡事故の場合、考慮しなければならないことが多岐にわたりますので、示談の前に弁護士にご相談していただくことをおすすめします。

後遺障害14級【頚椎捻挫】が認定され、後遺症慰謝料を満額取得したケース

2025-04-01

事案の概要

 事故の状況は、十字路交差点を直進中、右側から一時停止無視の車が被害車両の右側面に衝突してきたというものでした。

 被害者は、首に痛みを訴えており、後遺障害認定に進む段階で依頼となりました。

弁護士の活動

自賠責保険の後遺障害認定

 本件も後遺障害の被害者請求を行うところから対応を開始しましたので、交通事故証明書や診断書・診療報酬明細書、物損に関する資料の取得から始めました。

 書類を整えて自賠責保険会社に被害者請求を行った結果、首の痛みについて後遺障害14級9号の認定を受けることができました。

保険会社との交渉

 後遺障害の認定結果を踏まえて相手の保険会社と裁判基準に基づいて交渉を行ったところ、後遺障害慰謝料について満額の支払いを受けることで示談が成立しました。

ポイント

 本件は、資料を取得した段階で、後遺障害の認定を受ける可能性が高いのではないかと思いました。

 というのも、車の破損状況を見ても、側面のドアが大きくへこみ、フレームにも損傷が生じており、運転席にいた被害者への衝撃も相当であったことがうかがえたほか、被害者は年齢が70代の高齢者で椎間板の膨隆も見られたため、一度症状が出ると容易に完治しない(後遺症として残りやすい)と考えられたためです。

 また、通院の頻度も2~3日に1回程度と少なくありませんでした。

 このようなケースは、後遺障害認定が受けられる典型的なものといえます。後遺障害診断書の記載内容が良かったとか、弁護士の活動が功を奏したというわけではありません(示談交渉の場面では弁護士の力を発揮しています)。

 あくまでも、事故状況や被害者自身の身体の状態といった客観的な事情が重要であるということです。

PTSDなど精神障害と賠償の問題

2025-02-03

 最近、有名人がPTSDになったというニュースを目にすることがありますが、交通事故の場合でも、PTSDの発症が問題になることがあります。

 また、弁護士業務との関係では、労働関係の仕事をしていると、パワハラや過剰労働を理由として精神疾患をり患したという方の相談を受けることも珍しくありません。

 このような経験を踏まえて最近の世論の状況を見ていると疑問に思うことが多々あります。

 そこで、今回は、被害者が精神障害を発症した場合の賠償の考え方や、他の怪我とは異なる注意点などについて解説します。

※なお、ここで述べるのは、あくまでも弁護士の視点から見解を述べるものであり、最新の医学的知見に基づくものではありません。

PTSDとは

 PTSDとは、自分自身又は他人の生命や身体に脅威を及ぼすような、著しい精神的ショックを与えるような心的外傷体験となる出来事に曝されることで生じるとされていて、具体的なトラウマ体験として、自然災害や事故、火災、戦争、性犯罪、激しい暴力、虐待などが挙げられています。

 また、症状としては、フラッシュバックや悪夢、トラウマ事象に関連する刺激の回避、否定的な考えや気分、イライラや怒りっぽさ、不眠などがみられるとされています(一様ではありません)。

 そして、他の精神疾患との合併があると、重症化しやすいということです。

 なお、性的暴行の被害者の場合、症状が残存しやすいという報告があるそうです。

(医学書院「標準精神医学 第9版」より)。

PTSDの賠償金の額

 被害者がPTSDなどの精神障害を発症した場合の賠償金の額ですが、非常に高額になることがあります。

 一般の方が抱くイメージでは、賠償金というと慰謝料や、問題を解決するために示談金(上乗せ)というものではないかと思います。

 たしかに、精神障害の場合でも慰謝料の額が重要となるのは間違いありませんが、現実的に金額が大きくなる要因は、仕事を休業したことへの補償の部分です。

 例えば、トラウマとなるような体験があった後、仕事に復帰できない状態が続いたとなれば、その間の給料の補償を加害者が行わなければなりません。

 この額は、単純計算で、年収が1000万円の人が半年休業すれば500万円、1年休業すれば1000万円となります。

 さらに、症状が完治しないまま1年ないし2年が経過するなど、長期の療養を経ても症状が寛解しない場合、短期的に完治することは見込めず、後遺症として長期間にわたって症状が残存してしまう可能性があります。

 また、その結果、元どおりに仕事をすることができなくなるということも予想されます。

 そうすると、賠償金を一時金で払うとなると、この将来にわたる損害を予測した上で計算する必要がありますので、その額は被害者の年収に応じて高額となっていきます。

 入院加療を要するような精神疾患を発症したような場合であれば、相当重度の後遺症(交通事故の場合、自賠責保険の認定では、14級、12級、9級がありえますが、実際の症状を見て、より重く見ることも考えられます)として取り扱うことになりますので、上記の年収1000万円で9級相当の後遺症が残ったとすると、事故当時の年齢で大きく変わりますが、20代であれば、賠償金の額はこれだけで8000万円を超えるような額となります(実際の計算では修正が必要となることは後述)。

 ここに、将来の医療費や慰謝料が加算されることになります。

 したがって、このような金額で示談したからといって、「金持ちがお金で解決した」とか「口止め料が含まれている」とかいうわけではないのです。

 

交通事故実務での取り扱い

 交通事故の場合は、PTSDと医師に診断されているかどうかに縛られることはなく、「非器質性精神障害」という大きな括りで事故との因果関係などを考慮することになります。

※非器質性精神障害に対し、「器質性精神障害」とは、脳に器質的(臓器・組織の形態的異常にもとづく)損傷が生じたことにより精神作用が障害された場合、「高次脳機能障害」として取り扱われることになります。

 

精神障害の場合に特有の問題

原因が一つではないこと

 精神障害の場合、障害を発生する原因は一つの出来事だけではなく、その他の出来事や人間関係など、元々被害者が抱えていた問題も原因となっている可能性があります。

 そうすると、損害賠償という観点で見ると、実際に生じている損害をどこまで加害者に負担させてよいのかを検討する必要があります。

被害者本人の特性も考慮しなければならないこと

 上記の点にも関連しますが、精神障害は、同じ体験をすれば誰もが発症するものではなく、発症しやすさには個人差があります。

 このような個人差の問題も、加害者の責任を考えるときに考慮しなければなりません。

 具体的には、実際の出来事の程度に比較して被害者の訴えている症状が著しく大きい場合、それが詐病などでなくても、その責任をすべて加害者に負わせることはできないでしょう。

 この点は、損害賠償の実務上は、「素因減額」という概念で処理されることになります。

 これは、被害者の特性に応じて加害者側の賠償の責任を軽減するというもので、認められると、例えば「損害が1000万円だったとしても、3割(この割合は事情により大きく増減します)を差し引いて賠償すべきなのは700万円」といった結果になります。

症状がいつまで続くのかを予測するのが困難であること

 精神障害は、器質性の障害とは異なり、時間の経過と共に寛解する可能性があります。

 したがって、賠償金の計算にあたっても、一生涯障害が続くものとはせずに、賠償の対象を一定期間に限定することがあります。

 非器質性精神障害の場合、この期間を10年程度とされることも少なくありません。

まとめ

 以上のように、ある出来事によってPTSDを発症したといっても、発症にその出来事がどこまで影響しているのか、被害者自身の特性はどうだったのか、将来にわたる損害の発生はどのように考えればよいのかといった点について考慮すべきことは多いです。

 また、実際に生じた出来事(事故)の大きさと、被害者の訴える症状・損害が必ずしも釣り合っているわけではありません(少なくとも、裁判実務の考え方からすると明らかに損害が過大であるということがあります)。

 確実に言えることは、断片的な事実によって事実を推測できるようなものではなく、賠償金の額についても、素人考えで高いとか低いとか言えるようなものではないということです。

高齢者の死亡事故で慰謝料を約2400万円として示談した事案

2025-01-29

事案の概要

 本件は、被害者(事故当時80代)が道路を横断していたところ、前方不注視の自動車にはねられ、約5か月間の入院の後、亡くなられてしまったという事案です。

弁護士の活動

 死亡事故の場合、一般的に交渉が必要となる事項は、逸失利益(就労、年金、退職金等)、慰謝料、過失割合といったものになります。

 本件の場合、被害者は一人暮らしで就労はなく、逸失利益は年金のみでしたので、特に交渉が必要となったのは慰謝料と過失割合の部分でした。

慰謝料

 死亡事故の慰謝料の額は、一般的に家族構成や年齢に左右されるとされていて、家族を扶養する一家の大黒柱が亡くなった場合、慰謝料の額も高くなり、また、高齢者と比較すると若年者の方が慰謝料の額が高くなるとされています。

 一般的に慰謝料の基準額として用いられている、日弁連交通事故相談センター東京支部が作成している「損害賠償額算定基準」(赤い本)によると、一家の支柱が2800万円、母親、配偶者が2500万円、その他が2000万円~2500万円とされています。

 本件の被害者の場合、子供は独立し、一人暮らしをしていましたので、「その他」にあたります。

 そして、この「その他」の基準に幅があるのは、若年者と高齢者とで差が生じるためであるとされています。

 その結果、一人暮らしの高齢者の場合、この基準に従えば、その他の下限の2000万円に近い額となります(入院経過を考慮した増額もあり得ます)。

 本件では、事案を総合的に見て、入院時のものも含めて慰謝料の額を約2400万円とすることで保険会社との間で合意することができました。

過失割合

 過失割合は、当初保険会社から15%と主張されていましたが、刑事裁判の記録を精査したところ、加害者の脇見運転が疑われたため、過失0%で交渉を行いました。

 この点は、最終的に保険会社が過失0%を認めることはありませんでしたが、過失10%で示談とすることになりました。

ポイント

 本件は、争点もそれほど多くなく、過失割合で若干譲歩していること、自賠責保険金の枠を使い切っていないことから、裁判での解決もあり得るところでした(裁判には遅延損害金や弁護士費用の加算といったメリットがあります)。

 しかし、上では記載していませんが、本件では、過去の判例に照らせば請求が認められる可能性が低いものについて保険会社が支払いを認めていたという特殊事情があり、そのことを差し引くと訴訟提起のメリットが大きいとは考えられなかったため、ご遺族と相談の上で示談による解決としました。

 金額面で考えると、死亡事故であれば全て裁判をした方がよいようにも思われるのですが、実際に交渉をおこなってみると、裁判では認められないような慰謝料の増額や費目の計上が認められることもあります。

 この辺りの裁判を行うべきかどうかの見極めは、弁護士としての知識と経験が必要となりますので、死亡事故の場合、示談の前に迷わず弁護士にご相談していただくことをおすすめします。

冬季休暇のお知らせ

2024-12-09

拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて,誠に勝手ながら弊所では下記の期間を休業とさせていただきます。
 ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどお願い申し上げます。

休暇期間

2024年12月27日(金)~2025年1月5日(日)

肩関節可動域制限の後遺症で逸失利益を540万円から1260万円に増額した事案

2024-10-29

事案の概要

 本件は、歩行者が見通しの悪い道路を横断しようとしたところ、右側からきたバイクに衝突されたというのものです。

 被害者は、左上腕骨近位端骨折などの傷害を負いました。

 本件は加害者が無保険という問題があったため、自身で加入されていた人身傷害保険によって治療費などの補償を受けていましたが、左上腕骨近位端骨折後の左肩関節機能障害等が後遺障害として残存しました。

 人身傷害保険会社の事前認定により、後遺障害12級6号が認定されましたが、金額に疑問を持たれたため、弊所にご相談いただきました。

 

弁護士の活動

後遺障害認定

 本件は、人身傷害保険の事案でしたが、人身傷害保険の場合でも、事前認定により後遺障害等級の認定を受けることができます。

 本件では、肩関節機能障害が「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として自賠法施行令別表第二第12級6号が認定されました。

 他に左肩痛も後遺症として残っていましたが、これは機能障害と通常派生する関係にあるため、機能障害の認定に含まれて評価されることになります。

保険会社との交渉

 人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法は契約(約款)で定められていますので、一般の交通事故の事案のように、保険会社と交渉して増額させることはできません。

 しかし、後遺障害逸失利益については、後遺障害の内容や被害者の仕事の内容、実際の減収の有無などによって増減しうるので、保険会社との間で見解の相違が生じることがあります。

 本件では、被害者のデスクワークが中心という仕事の内容で実際に収入の減少も見受けられなかったため、肩関節機能障害による収入への影響がほとんどないのではないかという点が問題とされ、かなり低い金額が提示されていました。

 弁護士が介入し、交渉を行ったところ、若干の増額はみられましたが、想定していた金額を大幅に下回ったため、やむを得ず人身傷害保険会社に対して訴訟を行うこととなりました。

 また、訴訟提起に先立って、自賠責保険の被害者請求を行い、最低限の保険金を確保しておきました。

裁判所での和解

 裁判を行った場合、交渉の場合よりも厳格に説明や証明を求められることになります。

 本件のような後遺障害の逸失利益が問題となる場合、どのような形で仕事に支障があり、現実に損害が発生しているのかを丁寧に説明する必要があります。

 様々な主張・立証を尽くした結果、最終的には、後遺障害逸失利益を当初の540万円から1260万円に大幅に増額させた形で保険会社と和解することができました。

ポイント

 後遺障害逸失利益は、後遺症によって仕事に支障が生じ、その結果収入が下がってしまうことの損害を補填するものです。

 したがって、減収が生じていることが大前提となります。

 ところが、(特に後遺障害の程度が比較的軽微な場合)後遺症があっても仕事は問題なくこなしているということが少なくありません。

 そこで、減収がない場合の後遺障害逸失利益をどう考えるか、ということが、交通事故事案の実務上、主要なテーマとしてこれまでに多くの議論が行われてきました。

 これを考える場合、後遺障害逸失利益というのが、どんな損害を補填しようとするものなのかを基本に立ち返って考え、過去の裁判ではどのような点が考慮されて判断されているのかを吟味する必要があります。

 そうすることで、実際の裁判で何を主張しなければいけないのかが見えてきますし、弁護士の視点でいうと、依頼人からどのような事情を聴き出さなければいけないのかが分かってきます。

 この点は、弁護士によってかなり違いが出てくる場面ではないかと思います。

 当事務所では、人身傷害保険の場合でも、後遺障害逸失利益の増額交渉をお受けしておりますので、金額にご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

 

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減収がなくても後遺障害逸失利益の請求はできる

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2024-07-29

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休暇期間

2024年8月10日(土)~2024年8月18日(日)

鎖骨の変形障害の後遺症で逸失利益を270万円から660万円に増額した事案

2024-04-02

事案の概要

 本件は、視界が悪い道路をバイクで走行中の自損事故で、被害者は、鎖骨骨折、肋骨骨折などの傷害を負いました。

 本件は加害者がいる事故ではないため、自身で加入されていた人身傷害保険によって治療費などの補償を受けていましたが、鎖骨骨折部は元通りにはならず、変形障害を残すこととなりました。

弁護士の活動

後遺障害認定の結果

 本件は、加害者がいない事故で、加害者の自賠責保険を使うことはできませんが、人身傷害保険を使用する場合でも、自賠責保険と同様に後遺障害等級の認定が行われます。

 本件の場合、認定された後遺障害等級は、自賠法施行令別表第二第12級5号の「鎖骨に著しい変形を残すもの」でした。

 他に、肩関節可動域制限と骨折部の疼痛などもありましたが、可動域制限については認定の対象となる数値までわずかに足りず、疼痛は、上記変形障害から派生する障害にあたるため、変形障害に含まれて評価される(別途評価はしない)ことになりました。

保険会社との交渉

 人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法は契約(約款)で定められていますので、一般の交通事故の事案のように、保険会社と交渉して増額させることはできません。

 しかし、後遺障害等級が認定された場合、後遺障害逸失利益の計算が、人身傷害保険の契約に照らしても妥当ではないことが少なからずあります。

 本件でも、弁護士が見て、後遺障害逸失利益の計算が正しく行われていないと考えられましたので、この点の交渉を行いました。

 その結果、逸失利益の額が2倍以上となって保険金の支払を受けることができました。

ポイント

 後遺障害逸失利益の増額交渉は、加害者がいる場合に行う任意保険会社との交渉とほとんど変わりません。基礎収入の設定が人身傷害保険の方が有利になっていることはありますが、労働能力喪失率や労働能力喪失期間といった金額に大きく影響する部分についての考え方は共通しています。

 本件の場合、鎖骨の変形障害という、裁判実務上も後遺障害逸失利益が生じるかどうかに見解の違いがあるようなケースで、保険会社からも、「通常労働能力の喪失は想定されない」などとして、金額を著しく少なく認定されていました。

 しかし、本件の場合、たしかに、一見すると後遺障害の対象となったのは鎖骨の変形障害のみに見えるのですが、その他に骨折部の痛みがあり、可動域制限についても、等級認定にはわずかに届かなかったものの、相当程度生じていたほか、現実に事故前に行っていた仕事を辞めざるを得なくなるほどの生活に支障も生じていましたので、適切に評価されていないことは明らかでした。

 そこで、弁護士が、参考文献やカルテの記載内容を指摘しつつ、逸失利益の存在を丁寧に説明していった結果、後遺障害逸失利益が当初の2倍以上とすることで合意に至ることができました。

 鎖骨の変形障害は、後遺障害の中でも逸失利益の算定が難しいケースではありますが、関連する専門書を読みこみ、どういった議論があるのかを熟知した上で、裁判の傾向を掴んでいれば、どの辺りが妥当な金額なのかを知ることができ、それによって交渉を有利に進めていくことができます。

 当事務所では、人身傷害保険の場合でも、後遺障害逸失利益の増額交渉をお受けしておりますので、金額にご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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「鎖骨骨折による後遺症」

【頚椎・腰椎捻挫】比較的軽微な事故で後遺障害14級が認定されたケース

2024-03-11

事案の概要

 事故の状況は、T字路の交差点を直進中、右側の後方から右折してきた車が、被害車両の右側面(後方)に衝突してきたというものでした。

 被害者は、首と腰からくる痛みやしびれを訴えており、後遺障害認定に進む段階で依頼となりました。

弁護士の活動

自賠責保険の後遺障害認定

 本件は、後遺障害の被害者請求を行うところから開始することとなりましたので、まずは保険会社から診断書・診療報酬明細書といった資料を取り付けると共に、医療機関からも画像資料の提供を受けて自賠責保険の後遺障害認定手続きに進むことになりました。

 その結果、首・腰ともに後遺障害14級(併合14級)の認定を受けることができました。

保険会社との交渉

 後遺障害の認定結果を踏まえて相手の保険会社と裁判基準に基づいて交渉を行ったところ、家事の休業損害を70万円弱、後遺障害逸失利益は労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間5年という裁判の相場に従い、慰謝料についても裁判基準の9割程度で示談をすることとなりました。

 本件は過失相殺がある事案でしたので、裁判をすることで増額の可能性もあったのですが、家事の休業損害の額が大きかったため、示談とすることとなりました。

ポイント

 本件は、後遺障害の認定が受けることができたのですが、弁護士が最初に資料を確認した段階では、認定は厳しいのではないかという印象を受けました。

 というのも、事故状況は側面衝突だったのですが、修理費用の額は約30万円と比較的低額で(側面衝突の場合、傷の範囲が複数にまたがって修理費用が高額になることが多い)、事故車両の写真を見ても、事故の衝撃は大きいようには見えなかったためです。

 また、治療経過を見ても、特筆すべき事情は見受けられませんでした。

 近年の頚椎捻挫・腰椎捻挫の後遺障害認定では、事故状況が重視されていると考えられていますので、認定は難しいのではないかと思われたのです。

 さらに、後遺障害診断書では、ジャクソンテスト、スパーリングテスト、SLRテストといった神経症状誘発テストの結果はいずれも陰性となっており、後遺障害診断書上の記載でプラスとなる要素はありませんでした。

 それでも、実際に後遺障害認定が受けられたのは、被害者の年齢が60歳を超えており、MRI上、腰椎について神経根の圧迫のようなものが確認されたことが大きかったではないかと思います。

 というのも、このような年齢・所見からすると、そうでない若い健常者と比較して事故によって負った怪我が完治することが難しくなり、後遺症として痛みなどが残ったとしてもおかしくはないからです。

 なお、後遺障害認定の理由が記載された通知書では、実際に何が決定打となったのかを見極めることができないので、上記はあくまでも他の事例と比較した推測にはなりますが、MRI所見の重要性は一般的に指摘されているところであり、今回の認定理由の中でも神経根の圧迫は指摘されていました。

 このように、今回のケースでも、後遺障害14級が認定されるべき事情は存在していましたが、それは通院回数や後遺障害診断書の記載のような被害者や医師にコントロールできるようなものではなく、MRI画像という誰が見ても明らかなような客観的な証拠でした(他覚的所見といいます)。

 本件でも、改めて後遺障害認定で重要なのは客観的な証拠であると感じた次第です。

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