交通事故における頚椎椎間板ヘルニアと素因減額
目次
はじめに
交通事故で首を痛め、その後の検査で頚椎椎間板ヘルニアが見つかった場合、保険会社や加害者側の弁護士から、
「元々あったヘルニアが原因で治療が長引いた」
「後遺症が残ったのは元々あったヘルニアのせいだ」
「加害者が全ての責任を負うわけではありません」
などと言われることがあります。
このような場合に問題となるのが「素因減額」です。
頚椎椎間板ヘルニアとは
頚椎椎間板ヘルニアとは、首の骨(頚椎)の間にある椎間板が突出し、神経を圧迫する状態をいいます。
症状としては、
- 首の痛み
- 肩や腕の痛み
- 手のしびれ
- 筋力低下
などが生じることがあります。
交通事故による追突などで首に強い衝撃が加わったことを契機として症状が出現したり、悪化したりするケースがあります(ただし、明確な因果関係は不明です)。
素因減額とは
素因減額とは、被害者側に存在した特徴的な体質や疾病などが損害の発生や拡大に影響した場合に、損害賠償額を減額する考え方です。
素因減額の対象となるような疾患は多岐にわたりますが、例えば、「骨粗鬆症の患者が交通事故に遭ったときに、通常の人であれば骨折をするほどの怪我の仕方ではなかったのに骨折してしまった」というような事例が分かりやすいかもしれません(ただし、高齢者の場合には素因減額には慎重であるべきです)。
この素因減額が認められると、賠償金額の全体から割合的に加害者の責任が割り引かれることになりますので、被害者が受けられる補償は大きく減ることになります。
この割合は様々ですが、既往症の影響が大きいと見られれば、70~80%といった大幅な減額がされることもあります
もっとも、事故前からヘルニアが存在していたとしても、当然に素因減額が認められるわけではありません。
この記事では、頚椎椎間板ヘルニアと素因減額の考え方について解説します。
ヘルニアが見つかれば必ず素因減額されるのか
結論からいうと、MRIでヘルニアが確認されたとしても、それだけで素因減額が認められるわけではありません。
実際には、中高年になると症状がなくてもMRI上で椎間板の変性やヘルニア所見が確認されることは珍しくありません。
裁判例でも、単に画像上の変性所見が存在するというだけでは、素因減額が否定される傾向にあります。
では、実際にはどのようなケースで素因減額が認められるのでしょうか。
素因減額が認められやすいケース
次のような事情がある場合には、素因減額が認められる可能性があります。
事故前から治療を受けていた場合
事故前から首の痛みや手のしびれなどの症状が継続していた場合には、事故との因果関係が問題となります。
さらに、その症状について整形外科で継続的な通院や投薬を受けていた場合には、事故による影響だけではないと判断され、素因減額となる可能性が高まります。
重度の後遺障害が認められた場合
素因減額が問題となるようなケースでは、後遺障害の残存も問題なっていることが少なくありませんが、その中でも、頚椎前方固定術の手術が行われたような場合には注意が必要です。
ヘルニアによる痛み等の症状が強い場合、頚椎前方固定術が行われることがありますが、この場合、後遺障害別表第二11級7号が認定される可能性があります。
一般的にむち打ち症の後遺症に認定される後遺障害は同14級9号にとどまるのが通例で、11級の場合とは賠償額が大きく違います。一概には言えませんが、数倍の違いがあると考えていただいてよいです。
交通事故を原因とする首の痛みで頚椎前方固定術が行われるのは稀であり、事故や受傷自体はそれほど大きくないのに、損害の額が大幅に膨らんでくると、素因減額をされる可能性は高まります。
保険会社や相手の弁護士から「もともとのヘルニア」と言われたら
保険会社は、ヘルニアの所見があるということのみで、素因減額を主張してくることがあります。
しかし、あくまでも通院状況や後遺症の程度が、一般的な被害者にも生じ得る程度のものであれば、そもそも素因減額の前提となる「損害の拡大」がありませんので、素因減額は認められません。
また、頚椎椎間板ヘルニアは、健常な人でも加齢によって生じることがしばしば見られるようなもので、そのような加齢による変性を理由とした素因減額は基本的に認められません。
そのほか、事故前に通院歴や症状がなかったことも重要な要素です。
保険会社や相手の弁護士から素因減額の主張が出されたら、こちらからはこれらの事情を主張することになります。
素因減額が争点となる場合に重要な資料
素因減額が問題となる場合には、次のような資料が重要になります。
- 診療録(カルテ)
- 事故前の通院歴
- 頚椎椎間板ヘルニアに関して書かれた専門書
これらを総合的に検討し、事故によって症状が発生したのか、それとも既往症によるものなのかを判断することになります。
弁護士に相談するメリット
相手方から頚椎椎間板ヘルニアを理由とした賠償金の減額が主張されることは少なくありませんが、最近の裁判の傾向では、現実にヘルニアを理由とした素因減がされることはあまりありません。
弁護士にご依頼いただいた場合、頚椎椎間板ヘルニアと素因減額に関するこのような実務の傾向と、なぜそのような結論になっているのかを踏まえて、効果的に反論をおこなっていきます。

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