人身傷害保険の併用で過失分も含めて満額回収できた事例
今回は,当事務所で取り扱った交通事故の案件の中で,人身傷害保険を利用して過失分も含めて裁判基準で賠償金を回収できた事例をご紹介します。
事案の経過
事案は,駐車場内の事故で,被害者が駐車スペースにバックで自車を停めようとしたところ,停めようとした駐車スペースの横のスペースに停まっていた車が突然後退してきたため,被害者が運転する車と衝突してしまったという交通事故です。
当事務所の活動
物損
まず,今回の場合,駐車場内の車同士の事故であったため,過失なしとすることが難しいというところが問題となりました。
感覚的には,安全を確認した上で駐車スペースに向けて進んでいるため,いきなりバックしてきた相手の車が一方的に悪いという風に感じられるところです。
しかし,駐車場内の事故の場合に一般の道路と違うところは,車の間から歩行者が出てきたり,車が後退で動き出したりする可能性が高く,ドライバーが通常以上にそういったことに注意をしながら運転をしなければならないという点です。
そのため,駐車場内の事故の場合,過失がゼロとなることは難しく,通路を進行する車と駐車スペースから出ようとする車の過失割合は,通路を進行する車が30,駐車スペースから出ようとする車が70とされることが一般的で(別冊判例タイムズNo.38),保険会社は,駐車場内の事故というだけで,50対50を主張してくることも珍しくありません。
本件でも相手方は,当初過失割合を50対50と主張していました。
しかし,ご依頼を受け,防犯カメラの映像を元に,事故状況から被害者が事故を回避することが困難であったことを丁寧に説明し,最終的に過失割合を25対75としつつ,相手方の修理費用については負担しない(片賠と言います。)という条件で示談することができました。
片賠の場合,通常であれば負担すべき相手の修理費用の一部の負担がなくなるため,上記の例でいうと,実質的には25対75よりも有利な条件となります。
人身
物損については以上のように解決できましたが,人身の場合,片賠で解決ということにはなりません(加害者に人身損害が発生していたとしても,被害者の負担分は元々自賠責保険で賄って終了となるケースが多いため)。
そうすると,人身事故の場合でも,25%分は自分の損害について自己負担が発生することになります。
このときに注意をしなければならないのは,通常,被害者の過失割合が小さい場合であれば,加害者側の保険会社が治療費を全額負担してくれることが多いのですが,この分についても,実際には自己負担分が生じているということです。
例えば,裁判基準で計算したときに100万円の慰謝料が見込める場合であったとします。
このときに,過失が25%であったとすると,慰謝料として100万円×75%=75万円が受け取れるのかというとそうではありません。
仮に,それまでに治療費として病院に100万円が支払われていたとすると,加害者は被害者の自己負担分の25万円分多く支払ったことになりますので,この分が最終的に清算の対象となるのです。 その結果,慰謝料は先ほど計算した75万円から25万円を差し引いた50万円しか受け取ることができず,元の計算の半分となってしまいます。
この点は,気付いていないまま治療を受けている方がほとんどなので,自分に過失があるようなケースでは,治療費の総額をセーブすることも考えなければなりません。
具体的には,健康保険を利用することや(労災適用の場合は使用不可),整骨院に毎日通院することは控えるなどすることが考えられます。
このように,過失がある場合,被害者が受け取れる金額に大きな影響が出てくるのですが,このような過失の影響を受けずに済むような保険が後で説明する人身傷害保険です。
今回の場合,人傷害保険金を先に回収し,残額を裁判で相手方に請求するという方針をとりました。
そして,裁判所に提出する訴状と証拠を完成させた上で,相手方の保険会社に訴状をあらかじめ送付したところ,こちらが予定していた金額での和解に応じてくれたため(慰謝料は裁判基準の満額),実際には訴えを提起する前に解決となりました。
金額の変化
過失割合
当初50対50から0対75へ
人身回収額
当初の相手方の提示額は約79万円だったのですが,人身傷害保険金約91万の支払いを受け(ここでも若干の交渉を行いました。),さらに追加で約55万円の支払いを受け,合計で約146万円の支払いを受けることができました。
交渉のポイント
過失の交渉
過失割合については,通常想定されているケースとの違いを強く主張するとともに,片賠などで柔軟に解決方法を探ることが重要です。
人身傷害保険の特徴を知っておく!
人身傷害保険とは,被害者(被保険者)が交通事故で怪我をしたときに実費相当額を自分の保険でカバーするためのもので,附帯率は平成28年3月時点で90%を超えるとも言われています。
主に,自分の過失が大きい場合や,相手が保険に加入していなかったような場合に効果を発揮します。
しかし,この保険は,自分の過失が小さい場合であっても,非常に使える保険なのです。
人身傷害保険は,保険会社が定めた基準にしたがって保険金が支払われるもので,裁判基準を満額補償するものではありません。
しかし,詳しい説明はかなり専門的なので割愛しますが,裁判をすることによって,ご加入の人身傷害保険の保険会社に自分の過失分について支払いをしてもらい,元々加害者が負担すべきであった分については加害者に負担させるということが可能になるのです。
この点は保険会社の担当者もよく知らないことが多いのですが,人身傷害保険は裁判と組み合わせることによって,このような絶大な効果を発揮しますので,弁護士であれば当然この点も考慮しつつ方針を決めていくことになります。
メッセージ
人身傷害保険を最大限に利用しようと思うと,自ずと裁判をすることを視野に入れていくことになりますが,その場合の請求の仕方は,単純に自分の損害を請求する場合よりもはるかに複雑です。
また,弁護士でも,人身傷害保険の仕組みをよく知らないということもあります。
そのため,基本的にご自身で行うことは困難ですし,人身傷害保険を使わない通常のケースと同じようにうっかり示談をしてしまうと,大きく損してしまうということもあり得ますので,人身傷害保険にご加入の場合で自分にも過失があるようなケースの場合,交通事故に強い弁護士にご依頼されることをおすすめします。