後遺障害等級14級9号の認定と示談交渉
交通事故で後遺症(後遺障害ともいいます。)が残ってしまった場合,後遺障害の認定を受けた上で損害の賠償を求めていくことになります。
この後遺症(後遺障害)には重いものから順に,1級から14級という等級が設けられています。
交通事故事件に関する様々なご相談をお受けしていると,鞭打ち(むちうち)や腰椎捻挫といった症状を訴える方が多いのですが,そういった方に後遺症が残った場合に認定を受ける可能性が高いのは,後遺障害等級14級9号というものです。
そこで今回は,自賠責保険の等級の中で一番低い等級に位置付けられている後遺障害等級14級について認定や逸失利益・慰謝料といった損害賠償の弁護士による示談交渉・増額のポイントについて見ていきたいと思います。
自賠責保険の等級表
自賠責保険で14級として挙げられているものは以下のとおりです。
1 |
1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
2 |
3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
3 |
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
4 |
上肢の露出面にてのひら大の大きさの醜いあとを残すもの |
5 |
下肢の露出面にてのひら大の大きさの醜いあとを残すもの |
6 |
1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
7 |
1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
8 |
1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
9 |
局部に神経症状を残すもの |
それぞれに検討すべき点がありますが,今回はこの中でも14級9号の「局部に神経症状を残すもの」について詳しく見ていきます。
14級9号が認定されるケース
一口に後遺障害等級14級9号といっても,実際には様々な症状が考えられます。
14級9号が対象とする神経症状には、受傷部位の痛みのほか、しびれや感覚障害、精神障害等、幅広い内容を含んでいますが,実務上目にする機会が多いのは,頚椎捻挫(むちうち)・腰椎捻挫の後に痛みやしびれが残った場合です。また、骨折後の痛みについて認定されることもあります。
認定の難しさと認定に向けてのポイント
14級9号は,基本的に症状の原因を明確に証明することが困難なものについて認定されるものです。例えば骨折であれば、レントゲン画像上、骨の癒合は上手くいっていて原因は明確に分からないものの、患者が痛みがを訴えているといった場合です。むち打ち症に代表される打撲捻挫については、そもそも画像上の異常は見られません。
そのため,元々はっきりとした基準を設けることが難しい等級であるといえます。
しかし,現実に交通事故によって被害者が症状を訴えている以上,きちんと補償を受けられるようにする必要があります。
他方で,症状の程度や感じ方は人によって様々ですし,全く証明がされていないものについて一律に保険金や賠償金を支払うわけにはいきません。
そこで,現実に生じている症状と原因について,様々な資料を元に総合的に判断して,等級が認定されるかどうかが決まることになります。
どの資料が具体的にどのように評価されているのかという点については公表されていませんので,微妙な事案において結果を確実に予測することは非常に難しいといえます。
したがって,被害者としては,評価の対象となっていると思われる事柄については,資料を揃えて適切に自賠責保険会社に対して提出していくことが重要となります。
その際,事故の状況に関する資料や,症状の原因を説明するための画像資料,症状の一貫性を示す書類,ジャクソンテスト・スパーリングテストといった神経根症状誘発テスト等の各種検査結果が記された書類を提出することなどが考えられます。
ただし、ここで挙げた神経根症状誘発テスト等は、あくまでも被害者が痛いとか痺れるとか訴えるかどうかを見るものであり、第三者から見てその存在を確認できるものではありません。したがって、資料としてはそれほど有効なものではないといえるでしょう。
実際の認定例を見ても、これらのテストを受けて陽性の結果が後遺障害診断書に記載されていても非該当となることも少なくなく、他方で、こうしたテストを一切受けていなくても認定を受けられているものも多数あります。
頸椎捻挫・腰椎捻挫などで神経症状が問題となる場合の画像資料については,比較的早い段階でMRI検査を受けることをおすすめします。頸椎や腰椎のヘルニアが症状の長期化に影響を与えている可能性がありますが、レントゲンやCTでは、ヘルニアをはっきりと確認することができないためです。
この他に,医療機関への通院実績も重視されていると一般的に考えられていますが,この点については少し注意が必要です。
たしかに,医療機関にしっかりと通院することは,適切な治療を行った上でなお症状が残存した(症状が固定した)ということを示し,また,治療期間中の症状の適切な把握という意味でも必要であると考えられます。
しかし,後遺症の認定を受けることを目的として過剰に通院をすることは,医師も推奨していないと考えられますし,ご自身にとっても負担であるほか,損害賠償上も過剰診療にあたるとして因果関係が否定される可能性もありますので,必要に応じて適切に通院をすることが重要です(少なくとも,これまでに多数の14級9号の認定事例を見てきた経験上,半年程度の間に100回近くも通わなければならないということはないと考えられます。)。
以上のような点を踏まえて,資料によって医学的に症状について説明ができるといえるような場合には,14級9号が認定されることになります。
このような資料の収集についても,弁護士にご依頼いただいた場合には,弁護士が代行していきます(一部ご協力をお願いすることもあります。)。
なお,むち打ち症の場合でも,12級13号という等級が認定される可能性がありますが,そのためのハードルとして,画像等で医学的に症状を証明することができなければならないため,今よりもむち打ち症に関する理解が進んでいなかった頃であればともかく、現在では可能性は低いと考えられます。
弁護士による14級9号の示談交渉・増額のポイント
等級の認定がされたら,賠償金の請求を行うことになります。
後遺症(後遺障害)について賠償の対象となるのは,主に逸失利益と慰謝料の2つです。
後遺障害慰謝料
このうち,慰謝料については,ある程度定額化が進んでいることもあって,他の等級と比べて特に難しいということはなく,14級の場合のいわゆる裁判基準による相場である110万円程度が認定されることが多いです。
もっとも,保険会社は,自賠責保険基準の32万円などと認定してくることもあるので,そのような場合には,しっかりと交渉する必要があります。
後遺障害逸失利益
これに対し,逸失利益については,金額の算定に難しいところがあります。
逸失利益は,後遺症によって将来どの程度減収が見込まれるかという点に対する賠償ですので,後遺症による影響が将来的にどの程度残るのか(労働能力喪失期間)が問題となります。
一般的には,後遺症が治療をしても良くならないものを指すため,一生涯残るものとして計算を行います。
ところが,14級9号の場合には,長期的に見ると症状が改善するということもしばしば見られるため,この点が問題となるのです。
ここで注意しなければならないのは,労働能力喪失期間は,等級だけではなく,後遺症の原因となった傷病の内容によっても変わってくるということです。
むち打ちについては,最近では5年程度が目安とされていますが,例えば骨折した後に痛みが残ったような場合に,どの程度の期間影響が残るのかという点についてははっきりとした相場があるわけではないのです。
したがって,このような場合には,被害者の方の状況に応じて請求していくことになりますが,その際に,弁護士が,過去の事例や議論の内容を踏まえて適切に説明をしていくことになります。
まとめ
このように,14級9号は,等級としては低いものになりますが,特有の難しさが存在します。
また,様々な議論があるところでもありますので,十分な知識がないままに示談をしてしまうと,本来受けられるはずだった賠償が受けられなかったということにもなりかねません。
14級9号が問題となる場合には,交通事故事件に詳しい弁護士にご依頼されることをおすすめします。
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