可動域制限角度の後遺障害診断書の訂正で10級10号・約1800万円を獲得した事例

2018-08-14

事案の概要

 事案は,青信号で道路を横断中,右折してきた車が衝突してきたというもので,被害者は右橈骨粉砕骨折の重傷を負いました。

当事務所の活動

 ご相談に来られた時点で治療は終盤となっていましたが,可動域制限が残り,改善の見込みもないということでしたので,後遺症の問題がありました。

後遺障害診断書の作成

 後遺障害の申請に当たって,まずは主治医に後遺障害診断書の作成を依頼することとなりました。

 私がご相談時に被害者に状態を直接確認した際,手首が通常の半分も曲がらず,しかもそれが痛みによるものではなく,物理的に無理ということでしたので,後遺障害等級10級10号が見込まれると判断していました。

 ところが,出来上がった後遺障害診断書を見ると,患側(けがをした方)の可動域と健側(けがをしていない方)の可動域を比較したときに,患側の可動域が健側よりも制限されているとはいえ,3分の2程度は曲がるという結果になっていました。

 この場合,認定される後遺障害等級は12級6号となり,想定していた後遺障害等級とは異なります。

 手や足など、身体の左右があるものの可動域制限に関する後遺障害等級は、原則としてけがをした方とけがをしていない方の可動域を比較し、制限の割合がどの程度になっているかによって等級が認定されるのです。例えば、主要運動の可動域が、健側100度、患側50度であれば、患側の可動域が健側に対して2分の1に制限されているということになり、この割合で等級が振り分けられます。

後遺障害診断書の訂正

 どうして想定と異なる結果となったのか、よくよく後遺障害診断書を確認してみると,左手(けがをしていない方)の可動域が健康な人よりも制限されていることになっていることが分かりました。

 上で説明したように、後遺障害等級の振り分けは、左右の可動域を比較して行われますので、けがをしていない方も元々可動域が制限されていたとなれば、左右差が小さくなり、認定される等級も低いものとなります。

 そこで,左手もあまり曲がらないのか被害者に確認してみると,全く問題なく曲がるということだったので,この点に記載の誤りがあることが分かりました。

 そのため,この点について後遺障害診断書を作成した主治医に訂正してもらう必要が生じましたので,弁護士が病院に同行して医師に事情を説明し,再度左手の可動域を計測して正しい値を後遺障害診断書に記入してもらうことができました。

 記載が変わってしまったことを医師に尋ねると、完全に誤りだったということでした。

 そして,訂正された自賠責保険会社に提出したところ,無事に後遺障害等級10級10号が認定され,自賠責保険金461万円が支払われました。

示談交渉

 被害者は,兼業主婦の方だったのですが,それまでに休業損害として支払われていたのはパートの仕事に関するものだけでした。

 そこで,休業損害について家事労働の点を踏まえて再計算したものを請求しました。

 後遺障害部分については,逸失利益は家事労働をベースに就労可能年限まで,慰謝料は裁判基準で請求を行いました。

 その結果,休業損害の額は約2倍になり,後遺障害に関する賠償は裁判基準の満額で示談することができ,自賠責保険金と合わせて約1800万円が追加で支払われることとなりました。

コメント

 本件は,後遺障害診断書の記載に誤りがあったという事案で,しかも,けがをした部分に関する記載の誤りではなく,健康な部分に関する記載に誤りがあったというもので,誤りに気付きにくい事案でした。

 医師は,日々大量の患者さんを診察する中で後遺障害診断書の作成を行いますので,ときとして誤りを記入してしまうことがあります。

 その場合,誤りを正すのは被害者が自ら行わなければなりません。

 そして,本件のようなケースで左手側の記入ミスが後遺障害等級との関係で問題になることに気付くには,後遺障害等級が健側と患側の比較によって決まるということを最低限知っておく必要があります。

 私は,後遺障害の申請が被害者請求なのか事前認定なのかによって結果が大きく変わることはないと基本的に考えていますが,本件のように,後遺障害診断書を漫然と保険会社に提出するだけでは適切に補償を受けられないことがあることを改めて認識させられました。

 また,本件で被害者は,医師から後遺障害の認定は受けられないだろうという話をされていたそうです。後遺障害認定が見込まれる他の被害者の方からも,このように医師から言われたという話を聞くことがあります。

 しかし,損害賠償上の後遺障害は,医師が想定しているものと必ずしも一致しません。また、後遺障害認定は医師が行うものでもありません。

 そのため,医師にこのように説明されたときでも鵜呑みにせず,後遺症が気になる場合は,後遺障害の認定が受けられるかどうか弁護士にご相談されることをおすすめします。