後遺障害併合11級【鎖骨変形・左肩機能障害】で約730万円→約1500万円
事案の概要
事故状況は、友人が運転する車の助手席に被害者が乗っていたところ、運転手が意識を失って信号機に衝突したというものでした。
被害者は、右肩鎖関節脱臼、左肩腱板断裂などの傷害を負い、治療を約20か月間にわたっておこなったものの、鎖骨変形のほか、左肩の関節機能障害が残存し、それぞれ、「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号と左肩関節に「機能に障害を残すもの」として後遺障害12級6号が認定されることとなりました。
9~13級の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合ですので、重い方の(今回は同じ等級ですが)等級を1級繰り上げることになるため、併合11級となります。
まずは、人身傷害保険で金額を算出してもらったところ、最終の支払額が730万円という結果になりました。
この金額の妥当性をチェックするため、ご相談となりました。
当事務所の活動
まず、上記のとおり本件は人身傷害保険で対応されていましたが、対人保険でも対応可能な案件でしたので、対人賠償での対応に切り替えてもらいました(人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法が約款で定められており増額が見込めません)。
交渉を行った結果、慰謝料や逸失利益が大幅に増額し、最終支払額が約1500万円となり、2倍強での解決となりました。
ポイント
鎖骨変形
本件は、類型的に後遺障害逸失利益が問題となる「鎖骨変形」(後遺障害等級12級5号)が後遺障害に含まれていたため、この点が交渉でのポイントになります。
鎖骨は、変形があったとしても日常生活や労働に支障はないのではないかという指摘があり、裁判上も、等級表どおりに労働能力喪失率が認定されないケースがあります。
そのため、本件のように他にも後遺障害がある場合には、その後遺障害を元に逸失利益を計算されるにとどまり、鎖骨変形分は考慮されないということがあり得ます。
本件の場合、別の後遺障害が左肩関節の機能障害の後遺障害等級12級6号であり、この障害は、通常労働能力喪失率や労働能力喪失期間が問題になることは少ないため、この等級に基づき労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間は67歳までとされる可能性があります。
しかし、本件の交渉では労働能力喪失率については20%とすることを特に争われませんでしたので、労働能力喪失期間が問題となりました。
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基礎収入の考え方
また、逸失利益の基礎収入の部分が、人身傷害保険の考え方に基づいて、実収入よりも高い平均賃金が用いられていましたので、この点が元々被害者にとって有利になっていました。
裁判基準で逸失利益を計算する場合、若年の労働者などでなければ、通常は事故前年の年収をベースに計算します。
この点をどう考慮すべきがが悩ましい問題でした。
減収がない場合の逸失利益
本件は、上記のような点の他に、依頼者にとって不利になり得る事情として、事故後に減収がなく、むしろ収入が増えているという事情がありました。
実務上、減収がないからいって逸失利益自体がゼロということにはならないのが通例ですが、それでも、認定される金額が減少することは少なからずあります。
最終的な示談金額
上記のような点を総合的に考慮して、逸失利益の額を当初約490万円とされていたところを、約930万円とすることで示談としました。
この金額ですが、基礎収入を平均賃金ではなく実年収をベースに、11級の労働能力喪失率で67歳までで計算した額とほぼ変わらないものでしたので、裁判をした場合、この金額を下回ることも考えられました。
本件は、妥当な落としどころを考える際に、実務上の様々な考え方を知っておかなければならず、結論的にはいい示談ができたのではないかと思います。