弁護士に依頼するメリット

はじめに

 弁護士への依頼というと、一般的にはハードルが高いと思われる方が多いかもしれません。私自身、自分が弁護士になっていなかったら、弁護士と関わることは一生なかったかもしれません。

 しかし、交通事故の場合、インターネットによる情報や口コミで、弁護士に示談交渉を依頼することで加害者側の保険会社から支払われる慰謝料の額が増額することが広く知られるようになり、弁護士特約や着手金無料の費用体系を利用することで費用負担を軽減することができるようになった結果、以前よりもはるかに弁護士が身近な存在となっています。

 ここでは、交通事故の場合になぜ弁護士に依頼する人が増えているのか、弁護士に依頼するメリットについて解説します。

1 保険会社とのやり取りを全て任せられる

 このホームページをご覧になられている方は,保険会社の対応に何らかの不安や不満をお持ちの方がほとんどだと思います。
 保険会社は、「なぜ治療費の支払いを突然打切るのか」「後遺症の申請って何なのか」「慰謝料の額はどうやって決まるのか」「逸失利益って何なのか」など,通常誰でも疑問に思うようなものについて,懇切丁寧に教えてくれるということはなく,「一般的にそうなっているから」「自社の基準です」などと言って、一方的に考えを押し付けてきます。
 保険会社の言うことは、間違っていないこともありますが、おかしいことも多々あります。

 結果的に間違っていなかったとしても、良く分からないことを一方的に押し付けられることは被害者にとって苦痛になります。
 そもそも、よく分からないまま示談をしてしまうということ自体、かなり危ういことです。

 弁護士に交渉を依頼すれば、保険会社とのやり取りを全て引き受けた上で、何がどうして認められるのか(あるいは認められないのか)についてご説明しながら進めていきますので、よく分からないで示談をしてしまって後悔するといったことを防ぐことができます。

2 示談交渉をしないと適切な金額での示談は困難

交通事故に遭ったときに弁護士に依頼するメリット 「交通事故に遭っても,相手が任意保険会社に加入していれば,何も問題ない。」とお考えではありませんか?
 しかし、実際には、保険会社は、慰謝料の金額について、裁判所で一般的に認定される適正額よりも低い自社の基準による支払いの提示をしてくることがほとんどと言っても過言ではありません。

 加害者側の保険会社は営利企業で,そもそも保険料を支払ってくれている加害者(保険の契約者)のために動く立場であり,被害者のために存在するわけではないですので,誤解を恐れずに言えば,被害者に対する支払いを極力小さくしようとするのはむしろ当たり前ともいえます。
 例えば,過去の事例などを元に,慰謝料の額が60万円~90万円のどこかになりそうなケースがあったとします。
 保険会社としては,支払金額を60万円で済ませようと思うのは当然ですね。

 さらに、任意保険は、最低補償の自賠責保険に対する上乗せ保険になるのですが、慰謝料額を自賠責保険の基準に合わせることで、任意保険会社としての支払いはゼロ円とするということも珍しくありません。

 これに対し,弁護士は,過去の事例を元に,慰謝料の額としてどの程度が妥当なのかを算出し,これに基づいて純粋に依頼者のために活動する存在です。上の例で言えば、可能な限り90万円に近くなるように交渉をしていきます。
 保険会社からは様々な反論が出されることがありますが,弁護士は,過去のデータや,交通事故に関する様々な知識を駆使して,依頼者のために何がベストなのかを考え,保険会社と闘っていくことになります。
 さらに,弁護士は,保険会社がどうしても適正額の支払に応じない場合,「裁判をする」という強力なカードを持っています。
 このカードは,実際に使わなくても,保険会社に対して強いプレッシャーを与えることになります。

 その結果、弁護士が示談交渉を行うことによって、保険会社から適正額での慰謝料を受け取ることが可能になるのです。

 この弁護士の示談交渉による慰謝料の増額は、むちうちのような軽傷な事案から死亡事故に至るまで、ほとんどのケースで当てはまるメリットとなっています。

3 休業損害や逸失利益などの複雑な計算を適切に行う

 交通事故による怪我が怪我が原因で仕事を休まないといけなくなったり、できる仕事の内容が変わってしまうことがあり、その分の補償も相手の保険会社から支払ってもらう必要があります。このような損害の事を休業損害または逸失利益といいます。

 「休業損害」は、怪我を治すための治療中に仕事を休んだことで生じる給料の減額といった損害のことを指し、「逸失利益」とは、治療をしても完治することが見込めなくなって後遺症が残った状態で治療を終了した場合に、その後遺症が原因で将来仕事へ支障が出ることによって生じる損害のことをいいます。

 特に後遺症による逸失利益の場合、基本となる収入はどこまで含まれるのか、後遺症の内容に応じた減収はどの程度生じることが見込まれるか・後遺症はいつまで続くのかといった点が主に問題となり,将来の予測をして請求するもので,治療費のように実際に生じた実費を請求するのとは性質が異なります。
 そのため,計算方法も,実損害をそのまま計上するというのではなく,過去の事例を元にした実務の相場にしたがって行うということになります。
 相場といっても,過去の裁判の中には被害者にとって不利な判断がされているもありますので,有利不利を問わず幅広く事例を見ていかなければなりません。
 保険会社は,当然自分にとって有利な事例を元に交渉をしてくることが予想されますので,慰謝料同様,しっかりと交渉していく必要があるのです。

 日本の損害賠償の制度は、「事故がなかった状態に戻すこと」を目的としています。つまり、賠償金を適切に受け取ることができて、初めてプラスマイナスゼロの状態になるのです(もちろん、お金では取り戻せないものの方が問題なのですが、民事の賠償では、そうしたものも金銭的に評価するということを建前にしています)。
 そうすると、「適切な金額が支払われていない」ということは、損害の補填が受けられていない部分があるということを意味します。通院の慰謝料であれば、どの程度で満足するかは人それぞれですので、あるいは金額に相場よりも足りないところが気にしないという人もいるかもしれません。
 しかし、後遺障害・死亡事故の逸失利益や重度後遺障害の将来介護費用のように、今の時点ではどの程度のマイナスがあるか良く分からないようなものについて、相場よりも低い額で示談することは危険です。
 なぜなら、後遺障害が将来転職しなければならないといったときに不利になったり、収入が減少したことで生活費が足りないといった問題は、今すぐではなく遅れて生じてくるからです。

4 どうしても折り合えない場合,裁判も可能

まずは示談交渉による解決を目指す

 当事務所では,基本的に,いきなり相手に対して裁判を起こすということはなく,まずは,話し合いによる解決を目指しています。
 日本では,裁判というと大げさというイメージがまだまだあるようでして,ご相談に来られる方も,最初から裁判を希望されている方は少ないです。
 また,実際に裁判は時間がかかることが多く,一方の当事者から主張が出されるごとに1か月以上の間隔が空くことが通例で,最終的な判決が出るまでには少なくとも6か月程度は時間を要すると考えていただいた方が良いです。
 そのため,そうした負担を回避するためにも,話し合いで早期に解決するということには大きなメリットがあるといえます。
 もっとも,弁護士にご依頼いただいた場合,裁判所に行くのは基本的に弁護士のみで,ご依頼者様にやっていただくのは,裁判所に提出する書面の修正箇所の確認などで,直接裁判に関わる必要はありません。
 裁判をすると,途中で裁判所から和解案というものが示されるのが通例で,この和解案を受けることができれば,それで裁判は終了します(保険会社は,ほとんどのケースで和解案には応じるようです)。
 仮に裁判をしたとしても、多くの場合は和解で終了しています。
 まれに,事故状況に大きな争いがあり,証拠も決め手に欠けるような場合,尋問といって,ご本人に裁判所に出て事情をお話しいただく手続きが生じることがあります。
 この場合でも,弁護士が事前に手続きの説明や予行練習等を行いますので,それほど心配する必要はありません。

裁判にはルールがある

 早期解決のためには交渉が有効とはいえ,交渉は相手があることですので,弁護士がいくら頑張って説明を行ったとしても,相手方が不当に請求を拒むこともあり,そういった場合には裁判等の手続をとっていく必要があります。裁判手続では,弁護士と同様に法律のプロである裁判官が,当事者の主張を聞いて厳格に判断を行うことになります。

 そして,裁判は,やみくもに主張をすれば請求が認められるというものではなく,請求が認められるためにどういった書面を提出し,主張を根拠づけるためにどういった証拠を提出すべきかということについて,一定のルールがあります。 
 弁護士は,そのルールに則って,依頼者の請求を認めさせるための活動を行っていくのです。
 このルールを意識せずに裁判をしようとしても、自分に有利なことは何でも主張するとともに相手の言うことは徹底的に否定するようなことになって無用に裁判が長期化したり、肝心な部分で必要な主張・立証が足りず、得られるはずであった判決が得られないということにもなりかねません。
 また,専門的な知識と経験がなければ,証拠の収集も容易ではありません。 本人訴訟といって、弁護士に依頼しないで当事者本人が裁判を行っているのを見かけることがありますが、弁護士から見ると、およそ適切に裁判が行われているようには見えません。

 そのため,裁判をしっかりと闘おうとお考えの場合は,弁護士にご依頼されることをおすすめします。

 なお,裁判以外の手続(ADRといいます。)を利用することによって,比較的短時間で解決を求めることもできますので,どういった手続きをとるのが最善なのか,事案に合わせてご提案いたします。

交渉でも裁判実務を意識することは重要

 言うまでもありませんが、示談金額は、保険会社が勝手に決めていいものではありません。
 では,被害者が決めることができるのかというと,そういうわけではなく,被害者も加害者も,「法律」というルールに従わなければなりません。
 そして,法律の条文だけでは,細かい事情に対応することはできませんので,その辺りの細かい解釈や相場といったものは,裁判所が作り上げていきます。
 つまり,保険会社は,過去の裁判の事例にしたがって支払い金額を決めているのです。
 したがって,交渉のために必要な知識が何かというと,「過去の裁判に関する知識」ということになります。

 詳しくは,こちらをご覧ください。→「示談交渉と裁判の重要な関係

弁護士に依頼した場合のデメリット

リスクのない費用体系

 弁護士に依頼する場合に考えなければならないのは、依頼をしたにもかかわらず当初もらえるはずだった示談金よりも受取額が減ってしまうということですが、弁護士特約が利用できる場合には、弁護士費用は保険会社から支払われるので、このリスクはまずないと言ってよいです。

 可能性としては、弁護士が介入後、保険会社が態度を硬化させて賠償金額が減ってしまうということもなくはないと思いますが、経験上はありません。そうしたことがあり得るとすれば、被害者側の要求が一般的な考え方からするとあり得ないような無謀な請求で、それを強固に主張した結果、保険会社側も弁護士に依頼をするようなケースに限られると思います。

 弁護士特約のご加入がない場合は、弁護士費用は増額分の中から成功報酬として頂くことになりますので、この場合も依頼をしてマイナスになるということはありません。

解決までの時間

 保険会社の提案どおりに示談をすればただちに示談が成立することになるのに対し、弁護士に依頼すれば、事案の分析と示談交渉のための時間が必要となりますので、依頼をしない場合と比べて若干の時間を要するのは間違いありません。

 この時間ですが、争点がどれほど複雑か、保険会社の担当者の回答のスピードはどうか、といった点に左右されますので、一概に言うことはできません。

 事案が単純で特に被害者側に不利な点が見当たらず、保険会社の担当者もスピーディーに対応してくれる場合は交渉期間が1週間程度ということもありますし、事案が複雑な場合には数カ月を要することもあります。

 基本的には、増額を求める幅が大きいほど時間がかかる傾向にあります。

まとめ

 弁護士にご依頼される際のメリット・デメリットを簡単にご説明しましたが,交通事故に遭われた方が,交通事故の精神的な負担から解放され,できるだけ早く,元の生活に復帰すること,あるいは,元通りといかないのであれば,それ相応の補償をしっかりと受けられることが何よりも重要です。

 一度示談をしてしまうと、後になって「これを知っていれば示談なんてしなかった」と後悔しても、基本的にやり直しはできません。そのような後悔をしないために、交通事故に遭われた場合,特に保険会社の対応に不満を感じていない方でも,一度弁護士にご相談していただくことをおすすめします。

 特に,自動車保険などに付いている弁護士費用の特約にご加入されている方は,弁護士費用の負担を気にすることなくご依頼いただくことが可能ですので,是非ご利用ください。

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