後遺障害認定のポイント

 後遺症について補償を受けるために必須の後遺症認定ですが,症状が残っていれば必ず受けられるというものではありません。

 まず,自賠責保険がいう後遺障害と認められるためには,事故と相当因果関係があり,将来においても回復が困難と見込まれるもので,その存在が医学的に認められ,労働能力の喪失を伴うものでなければなりません。

 また,認定の基準については細かく定められていますので,どの基準を満たしているかによって等級が決まります。

 そして,最も重要なことは,これらのことを証拠によって証明しなければならないということです。

 そのため,後遺障害にあたることを証明するという観点から注意すべき点について説明します。

治療中の注意点

症状の一貫性

 自賠責保険における後遺障害の認定は書類審査ですので,後遺障害の認定を受けるために,後遺症の内容・程度を書類によって証明するということに力を注ぐ必要があります。

 この証明にあたっては,どのような症状があり,どのような治療が行われてきたのかという治療の経過も重視されることになります。また,後遺障害の内容によっては,早期に適切な検査を受けていなければ,後遺症が残ったとしても,後になって事故との因果関係を証明することが困難なものもあります。

 また,後遺障害等級の認定に当たっては,症状が受傷当初から一貫していることが重視されています。

 そのため,例えば,①治療の途中で一旦は良くなったと言っていた人が時間をおいて痛いと言い出した場合,②当初は何も症状を訴えていなかったのに、時間をおいてから新たな症状を訴え始めたような場合には、その症状について後遺障害の認定を受けることが難しくなります。

 さらに,よくある問題として,症状自体は一貫していたものの,本人が医師にそのことを十分伝えておらず,記録上は,症状が出たり出なかったりしているように見える場合があります。

 既に述べたように,後遺障害の認定を受けるためには,基準を満たしていることを証明することが重要ですので,このように,医師への申告が不十分だと,カルテや診断書の記載上,症状が当初から一貫していないということになって,後遺障害の認定が難しくなるので注意しましょう。

そもそも本当に事故によって生じたものなのか

 事故によって症状が発生したのかどうかという因果関係が争われるケースでは、上記のように症状を訴える時期の問題のほかに受傷状況と訴えている症状のバランスを欠いているという場合がありますが、いずれにせよ、詐病等でない限り、「他に原因がある可能性が疑われる」ケースであるといえます。

 経験上、この問題が生じるケースは、大きく分けて2つあり、1つは加齢によっても生じるもの、もう1つは精神的な問題によって症状が引き起こされているものです。

 加齢によるものとしては、圧迫骨折や腱板損傷、視覚障害といったものが挙げられます。

 圧迫骨折や腱板断裂は、高齢になってくると損傷しやすくなってくるため、強い衝撃を受けなくても発生することがあり、しかも事故前の時点では本人が傷害の発生について無自覚であったりするため、事故後にこれらの存在が発覚すると、それが事故によって生じたのかどうか分からなくなります。

 特に、首や腰の痛みは、事故の怪我で頻繁にみられる頚椎捻挫や腰椎捻挫につきものですので、これらとの区別も困難です。

 場合によっては、本当は事故によって生じたものではないということもあり得るのです。

 こういった問題が生じないように、次に述べる適切に検査を受けることが重要となります。

 視覚障害のようなものについては、加齢によって生じることは広く知られていると思いますが、障害が出てくるタイミングと、事故のタイミングが近いと、事故によるものかどうか分からなくなることがあります。

 眼に直接外傷が生じたようなケースではそれほど問題にならないと思いますが、眼や神経には視覚障害を及ぼすような外傷はないのに、事故発生後しばらくしてから急激に視覚障害が生じているような場合、事故とは無関係の疾患である可能性が高まります。

 ところが、本人の感覚としては、事故前は正常だったという事実があるため、事故と関係があるのではないかと疑うことがあります。

 このように、本人の認識と、自分の身体の中で実際に起こっていることとの間にギャップがあることがありますが、その場合、見込んだ後遺障害等級の認定が受けられないということになります。

 しかし、事故とは無関係に発生したものを加害者の責任にすることができないことは言うまでもありませんので、受傷状況に対して自覚症状が大きいような場合、事故との関係があるかどうかをよく主治医に確認していただき、因果関係を明らかにするために必要に応じて適切な検査を受けるようにしてください。

適切に検査・治療をうけること

 後遺障害の認定に当たっては,ただ症状が残っていることを証明できただけでは足りず,それが事故によって生じたことや原因が存在することまで証明できなければなりません。

 そのため,骨折などしていればレントゲンやCT,MRIなどで,そのことが客観的に分かるように,事故直後に必要な検査を受けて証拠を作っておくことが非常に重要です。

 さらに,治療終了時点でも後遺症が残っているのであれば,骨癒合が上手くいかなった可能性がありますが,その場合,治療終了段階で骨癒合などに問題があることを証明するために,改めて検査を受ける必要があります。

 これらの検査は,賠償上は原因を証明するという目的で行われるのに対し,医師は,治療の方針を決定するためなどに行うという点に違いがあり,この違いから,厳密に確認できなくても治療の方針が変わらないといった場合に,医師が細かい確認を行わないという可能性がありますので,賠償上の必要性を説明して,適切に検査を受けることが重要です。

 例えば、交通事故で最も多い、頚椎捻挫・腰椎捻挫といった怪我の場合、骨折の可能性も否定できないため、レントゲン検査は通常行われます。しかし、それ以上にMRI検査まで行われることはあまり多くありません。

 MRIは、ヘルニア等による神経の圧迫の存在を確認するために有用な検査ですが、一方で、純粋な外傷性のヘルニアはほとんど存在しないとも言われていますので、事故による外傷を確認するために必要な検査とは言い難いです。

 また、ヘルニアがあったかどうかによって治療方針に違いはないという場合も多いでしょう(特に、湿布や痛み止めが処方されるだけのような場合)。

 そのため、頚椎捻挫や腰椎捻挫でMRI検査まで行われることは多くないのですが、後遺障害認定を受ける場合は、外傷性ではないヘルニア等によって痛みが長期化している可能性があることが分かれば、症状が「医学的に説明がつく」という方向に働きますので、認定に役立つことがあります。

 このように考えると、頚椎捻挫や腰椎捻挫の場合でも、治療には役に立たないかもしれないけれど、後遺障害認定を見据えるのであれば、MRI検査を受けておいた方が良いとは言えるでしょう。

 また、上で述べた事故との因果関係が問題になるような症例では、経時的な変化を画像で確認することで、事故によって生じたものか元からあったのかを明らかにすることができることがあります。

 その他,むち打ち症などの場合,施術が充実していて時間的にも融通がききやすいということで,整骨院への通院をするということも珍しくないと思いますが,整形外科での治療が不十分な場合,後遺症の認定を受けにくい傾向が見られますので,整形外科にも並行して通うことをおすすめします(整骨院のみに通う極端なケースだと,相手方が後になって施術費用の支払いを認めないということもあります。)。

後遺障害診断書の書き方

 後遺障害の認定は基本的に書類審査で行われますので,提出する書類の内容が非常に重要となります。

 診断書等は医師が作成することになりますが,医師は損害賠償請求の専門家ではありませんので,内容に不備があることがあります。

 そこで,まず,医師に後遺障害診断書の作成を依頼する際に,①適切な検査を実施してもらうこと,②書類に記載すべきことを漏らさず記載してもらうことを医師にお願いしなければなりません。

 ①については,後遺障害の認定上,画像資料が非常に重視されていますので,レントゲン検査(XP)だけではなく,必要に応じて,MRI検査やCTの撮影を依頼することや,運動障害の場合には可動域を所定の方法で正確に測定してもらうこと,神経症状がある場合は必要な神経学的検査を行ってもらうこと,後遺障害の内容によっては,別途添付する書類の作成を依頼すること等が考えられます。

 ②については,現在の症状を漏らさずに記入してもらうことに加え,実施された手術の内容等も記載してもらうと良いでしょう。

 もっとも、可動域制限があれば、通常は日本整形外科学会所定の方法にしたがって可動域の計測がされますし、画像検査についても、骨折の可能性があれば、最低でもレントゲン検査くらいは実施されるかと思います。

 したがって、これらの点が問題になることはそれほど多くはないのですが、可動域の測定方法に不備があったり、微細な骨折や骨挫傷の有無を調べるためのMRI検査までは行われていないといったことがあり得るほか、胸腹部臓器や眼・耳・鼻に関する後遺障害、特殊な神経障害を残している場合には適切な記載がされない可能性がありますので注意が必要です。

 たまに見かける問題のある後遺障害診断書としては、実際の患者の状態とは一致しない内容が記載された場合が挙げられます。例えば、行ってもいない検査結果が記載されていたり、行った検査結果とは異なることが書かれてしまったような場合あります。

 認定に影響を及ぼさないような部分であればよいのですが、重要な部分に関するものであれば、再度検査を実施の上で内容を修正してもらうなどの対応が必要となります。

等級認定をコントロールはできるわけではない

 交通事故の後遺障害等級の認定は、定められた基準を満たしているかどうかによって判断されるものです。

 いうまでもありませんが、ベースとなるのは事故で負った怪我の内容であり、治療を行っても残ってしまった傷害の状態です。

 インターネットの情報を見られたからなのか、たまに誤解されている方がいるのですが、後遺障害の認定は被害者(患者)がコントロールできるようなものではありません。

 痛みが残っていれば、事前認定では後遺障害が認定されなくても、弁護士や行政書士に依頼すれば必ず後遺障害が認定されるなどということはありえません。逆に、弁護士や行政書士に依頼しなかったからといって必ず後遺障害が認定されないということもありません。

 他の弁護士や行政書士のホームページを見ていると、あたかも弁護士や行政書士に依頼しなければ適正な等級の認定が受けられないかのような宣伝を行っているものも見受けられますが、過剰に不安をあおっているように思います。

 たしかに、検査の不足や患者からの申告の漏れなどから、適切な認定が受けられないことがあったり、補足資料を提出することによって一度出された結果が覆ることはあります。実際に、弊所でも異議申立手続を行った結果認定が覆ったケースが何件もあります。

 しかし、それはあくまでも例外的な場合であると考えておく必要があります。

 例えば、常識的に考えて後遺症(一生残るような障害)が生じるとは到底思えないような軽微な事故で、いくら被害者が「痛い、痛い」と言っても、後遺障害の認定を受けることは困難です。

 また、そもそも、後遺障害は労働能力の低下を伴うものでなければならないので、一定以下の軽微な後遺症については認定の対象外です。

 したがって、このような軽微な事故や軽微な症状を訴える被害者が、「後遺障害認定を受けたい」と言っても、認定を受けることは困難と言わざるをえないですし、それを何らかの方法で後遺障害認定させたとしても、それが弁護士の活動として正しいものだとも思いません。

 後遺障害認定は、被害者が「勝ち取る」ものではないのです。

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