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高齢者の逸失利益
逸失利益の概要
交通事故で被害者に後遺症が残った場合、逸失利益と呼ばれる賠償金が支払われることになります。
この逸失利益とは、後遺症によって仕事に支障が出たために、収入が減少したことに対する補填を意味します。
簡単にいうと、事故に遭う前の収入が1000万円であった人の収入が事故後に900万円に減少した場合に、この差額の100万円を賠償として支払うというものです。
もちろん、1年分だけ補償すれば良いというわけではありませんので、生涯にわたって減収が予測される部分については、全て補償の対象となります。
逆にいうと、後遺症の影響で減収する可能性がない期間については、基本的に賠償の対象となりません。具体的にいうと、就労可能年限を超える期間については、通常は賠償の対象とならず、一般的にはこの年齢は67歳と設定されることが多いです。
高齢者の逸失利益の特色
このように、逸失利益の請求は、「事故前にどれだけの収入があったか(稼ぐ力があったか)」、「どれだけの期間後遺症による影響が出るか」によりますので、比較的若い世代の被害者とは異なる配慮が必要となります。
有職者の場合
最近では、60歳を超えても就労を続ける人も少なくありませんので、比較的高齢の人であっても、逸失利益が生じることは十分あり得ます。
ただし、この場合、通常のケースのように、67歳までの期間で逸失利益の計算を行うと、対象となる期間が短くなる結果、賠償金の額が小さくなってしまったり、67歳を超えるような人の場合、賠償金が0ということになりかねません。
そこで、こういう場合、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とみなして計算するという方法で賠償を請求します。
ただし、事案によっては、必ずこの計算が認められるわけではありませんので注意しましょう。
無職者の場合
無職の場合、収入がないのですから、減収を前提とした逸失利益の請求はできないことになります。
しかし、事故当時に一時的に仕事をしていなくても、そのうち仕事を開始する予定だったという人もいるでしょう。
そういう人の場合、就職活動を行っていた等、仕事をする意欲があったことを証明し、逸失利益を請求することが可能です。
この場合の計算方法ですが、年齢別の労働者の平均賃金を用いることが一般的です。
家事従事者の場合
高齢者であっても、事故前に同居する家族のために家事を行っていたという人は少なくないでしょう。
このような人の場合、一般的な主婦(主夫)の場合と同様、家事に関する逸失利益を請求することが可能です。
この場合の計算方法ですが、女性労働者の平均賃金を用いることが一般的です。
ただし、この場合も、一般的には全年齢の平均賃金を用いることになるのに対し、高齢者の場合、家事労働にも多少の制限があることがありますので、年齢別の平均賃金を用いるがあります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
高齢者の場合、形式的に計算すると、逸失利益がゼロということにもなりかねませんが、上記のとおり、多少の制限はあるものの、請求自体は認められています。
高齢者の逸失利益の計算は、通常の場合以上に技術的な面が多いので分かりにくい部分となっています。
そのため、通常の場合以上に示談交渉をしっかりと行うことが必要と言えるでしょう。
学生・児童など若年者の逸失利益
逸失利益とは
死亡事故や後遺症が残るような事故が発生すると,治療費や慰謝料などのほかに,「逸失利益」というものが加害者から支払われます。
「逸失利益」とは,将来得られるはずだった収入が,亡くなってしまったり,後遺症で仕事が思うようにできなくなってしまった結果,受け取ることができなくなった分を補填するというものです。
例えば,年収1000万円の人が死亡すると,単純計算で1年で1000万円の損失が生じることになります。
また,後遺症で年収が1000万円から500万円に低下した場合,同様に,1年で500万円の損失が生じることになります。
実務上,実際に受け取ることのできる額は,「中間利息控除」という処理をしますので,若干計算は複雑になりますが,逸失利益のイメージはこのようなものです。
逸失利益は事故前の収入に左右される
上記の例でも明らかなように,「事故によってどの程度収入が減ったか」が重要なポイントになりますので,事故に遭った人の年収によって逸失利益の額は変わります。
年収が2倍違うと,逸失利益の額も2倍違ってきます。
そして,基準となる年収は,一般的には,事故の前年の年収を用います。
つまり,事故の影響がなかった場合,直近でどの程度稼ぐことができていたかが基準になるわけです。
学生や児童等の逸失利益の計算方法は?
逸失利益の計算において事故の前年の年収に着目すると,事故当時に仕事に付いていない学生や児童の逸失利益はどうなるのでしょうか?
逸失利益は,将来得られるはずであった収入のことですので,学生や児童であっても,当然逸失利益は存在しますし,対象となる期間も長いため金額も大きくなります。
とはいっても,通常のケースのように,「事故前年の収入」の額を元に計算することはできません。
実務上は,このような場合,一般的な労働者の全年齢の平均賃金(賃金センサス)を用いて計算します。
全年齢の平均賃金は,一般的な労働者が,生涯を通して得る収入を平均したものですので,生涯にわたって影響が続く死亡・後遺症の逸失利益を計算する際に用いるのは合理的です。
男性の場合,男性のみの平均値を用いてよいですが,女性の場合,女性のみの平均値を用いると逸失利益の額が小さくなってしまいますので,男女を含んだ平均値を用いるようにします。
また,学歴によっても計算結果が変わりますので,被害者の家庭の事情等の属性を見て,有利な方法で計算を行います。
若年労働者の逸失利益の計算方法は?
学生や児童など,収入のない被害者については,上記のように考えることができますが,就職して間もないような若年の労働者の逸失利益はどうでしょうか?
この場合,基準にすることのできる「事故前年の収入」というものが存在しますので,単純に考えると,この数字を用いて計算することになります。
しかし,一般的に,仕事に就いて,経験を積んで役職がついたり,転職するなどしてステップアップしていくことで,得られる収入の額は大きくなっていきます。
そのため,就職して間もない時期は,収入が小さいということにあります。
逸失利益は,「本来得られるはずだった収入」を補填するものですので,この金額的に小さな数値を元に計算されてしまうと,十分な補償がされたことにはなりません。
そこで,このような若年労働者の場合,将来の昇給を考慮して逸失利益の額を計算することになります。
具体的には,学生などと同様に,平均賃金を用いるという方法があります。
この平均賃金を用いる計算をするかどうかの分かれ目ですが,30歳未満という数字が目安として示されていますので参考になります。