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交通事故の納得できないルール

2022-07-01

 交通事故事件で弁護士の対応が必要となるということは、加害者側の保険会社との間で何かしら争いあるのが通常です。

 争いがあるパターンの1つは、被害者か保険会社のいずれかが法律上のルールや相場をよく理解していないというものです。

 保険会社の理解が不足している場合、法律上のルールや相場を理解してもらうことが重要になりますので、法律の条文を示したり過去の事例を示すことで交渉します。

 問題となるのは被害者側が法律上のルールや相場に納得できないという場合です。

 率直に申し上げて、法律のルールは、必ずしも交通事故の被害者にとって優しいものではありません。

 様々な場面でそうしたことがあるのですが、これまでの経験から、ほとんどの問題の根本的な原因は、①被害者が自分の言い分を証明しなければならないこと、②相当因果関係の範囲外は賠償されないこと、の2点であると思います。

 そこで、今回はこれらについて解説します。

証明責任

 法律の世界では、「証明責任」という言葉があります。

 証明責任とは、専門的には、法律が適用されるために必要となる事実について、真偽不明の状態となった場合に、その法律の適用によって生じる効果を得られないという当事者の負担のことをいいます。

 これだと分かりにくいので、交通事故の場合に即して解説します。

交通事故の場合

 まず、交通事故の場合、民法709条や自賠法3条(自賠法3条は人身事故のみ)といった条文があることで、加害者に対して法律的に金銭の請求が可能となっています。

 そのため、被害者としては、民法709条に書かれている条件を満たしているかどうかが非常に重要となります。

 では、交通事故の場合、ここでいう条件がどのようなものかというと次のようなものです。

①相手が自動車事故を起こして自分が被害者となったこと

②自分に何らか損害が生じたことと、損害の金額

③自分に生じた損害と事故との因果関係

④相手に過失があること

 これらについて「証明責任がある」ということは、これらを全て証明しなければ、民法709条の適用が認められず、加害者に対して金銭の請求ができないということになります。

 そして、これらの「証明責任」は、被害者にあるとされています。

※④の相手の過失は、人身事故の場合、自賠法3条により相手が証明しなければならないのですが、実際に問題となるのは過失があるかないか(0か100か)ではなく、過失の割合がどの辺りなのかであり、細かい事故状況と過失の割合に争いがあれば、見解の相違がある事故状況については、結局被害者側が証明しなければなりません。

何で被害者が証明しなければならないのか

 「何の落ち度もない被害者が、なぜ資料を出したりしないといけないのか」といって不満を持つ人もいるでしょう。その気持ちは分かります。

 しかし、いくら被害者だからといっても、加害者側が言い値で賠償しなければならないとするのはさすがに行き過ぎでしょう。

 過大請求とまで言わなくても、被害者が計算の仕方を誤解している可能性もありますし、少なくとも加害者側でチェックをする必要があり、そうすると、最低限の資料は被害者が提出する必要があります。

 もっと言うと、当たり屋に車をぶつけられたような場合でも、相手が「自分が被害者だ」と訴えてきた場合、何の証明もなく支払いに応じなければならない、もしくは、自分に何の落ち度もないことを証明しなければならないということになってしまいます。ドライブレコーダーもつけていないというような場合、それを証明するのは困難です。

 結論としては、被害者側が損害の発生や額などを証明しなければならないという点はやむ得ないというほかありません。

 したがって、これを受け入れられないといって証明を怠れば、賠償も受けられないということになります。

証明の程度

 では、証明とはどの程度のものをいうのか?

 法律上、明確な決まりがあるわけではありませんが、基本的には、第三者に確信を抱かせる程度の証明は必要といえます。

 「被害者の言っていることがおそらく正しいだろう」という程度では足りず、より強い証拠を出す必要があるのです。

相当因果関係

 証明の問題と並んで、被害者の納得が得られないのが、因果関係の問題です。

 交通事故の場合の因果関係とは、「事故がなければこうならなかった」といっただけでは足りず、「事故が起きれば、通常はそういう損害が発生するだろう」というものでなくてはなりません。これを相当因果関係といいます。

 逆に言うと、他の案件では生じないような自分に特有の損害が生じたような場合や、通常のケースと比較して過大な損害が発生しているような場合は、賠償の対象外となる可能性があります。

 これは、先ほどの証明の問題とは異なり、「損害が発生していることを証明できたとしても認められないもの」になります。

 典型例は、会社の役員が事故に遭って、重要な商談に参加できなくなった結果、会社に莫大な損害が生じたといったもので、そのような損害まで加害者は賠償しなくても良いとされています。

 このように賠償の範囲が限定されている理由は、「損害の公平な分担」にあるなどとされていますが、被害者にとっては納得できるものではないでしょう。

 しかし、この相当因果関係の考え方は、交通事故以外の損害賠償全般に用いられているものであり、誰しも、過失で他人に損害を発生させてしまうことはあり得る中で、被害者に一方的にその損害を負担させてしまうと、安全に取引や生活を行うことができなくなってしまいます。

 そのため、相当因果関係の基本的な考え方についても、受け入れざるを得ないのが現状です。

 ただし、何をもって「相当」といえるのかについては、判然としない部分もありますので、相手から「因果関係がない」と言われても、それが正しいとは限りません。その場合、交渉が必要となります。

まとめ

 以上のように、保険会社の対応以前に、法律上のルールの関係で、被害者が納得できない部分が出てくる場合があります。

 そういう場合、ルール自体がおかしいことを指摘しても、保険会社は応じませんし、裁判所の判断も変わらないでしょう。

 被害者としては、ルールについては受け入れた上で、ルールの中で最大限できることを考えるという風に意識を切り替える必要があります。

道路交通法と過失割合の関係

2022-06-02

 交通事故の相談を受けていると、インターネットで色々と調べてこられる方もいます。

 その際、過失割合について、「相手は道路交通法〇条違反だから、こちらに過失はないですよね?」と言われることがあります。

 しかし、道路交通法は過失割合を決める際に、重要な手掛かりとはなりますが、それだけでどちらにどれだけ有利かは分かりません。

 今回は、道路交通法と過失割合の関係について解説します。

 

被害者側にも道路交通法違反はある

 道路交通法には、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という条文があります(70条)。

 この条文はいわゆる一般規定というもので、内容は非常に抽象的で、簡単に言うと、「安全に運転しなければならない」ということです。

 そして、被害者側も、完全に「安全な運転」をしていれば、追突事故のような場合を除き、ほとんどのケースで事故を回避することが可能です。

 例えば、優先道路であっても、見通しが悪い交差点があれば、そこから車や自転車が飛び出してくる可能性があるので、慎重に運転し、カーブミラー等を確認するといったことです。

 現実には、そこまで慎重に走っていない車も多数ありますが、「みんながそう運転しているからいい」ということにはなりません。

 つまり、事故が現実に起きている以上、ほとんどの場合で被害者側にも何らかの落ち度があり、その落ち度は、道路交通法70条違反になり得るということです。

 保険会社の担当者が「動いているもの同士なので0:100」にはならないというのはこの趣旨です。

 したがって、被害者側にも道路交通法違反はある以上、相手に道路交通法違反があるからといって0:100になるわけではありません。

道路交通法が過失割合に与える影響

 では、道路交通法の定めが過失割合と関係がないのかというとそういうわけではなく、実際の過失割合は、道路交通法の定めを参考にしつつ、様々な事情を考慮して決定されることになります。

 例えば、道路交通法を見れば、交差する道路でどちらが優先するのかを明らかにすることが可能です。

 一時停止の規制があれば、道路交通法43条により、停止線の直前で一時停止をした上で、交差道路を通行する車両等の進行を妨害してはならないとされていますので、実際に一時停止をしたかどうかにかかわらず、交差道路を通行する車両に対して劣後することになります。

一方で、優先車の方でも、道路交通法42条1により、「左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとしするときは徐行しなければならない」とされています。つまり、優先車が徐行していなければ、道路交通法42条1号に違反しているということになります。

 この類型では、劣後車が一時停止無視をしていたとしても、優先車が徐行して注意しながら走行していれば、多くの場合は事故に至らないと考えられますので、この類型では、多くのケースで、被害者側にも道路交通法違反があるわけです。

 もっとも、この徐行義務は、道路が「優先道路」であった場合には課されていません。

 道路交通法上の「優先道路」とは、標識により優先道路であることが明らかにされているか、交差点の中まで中央線や車両通行帯の表示が連続しているものをいいます(道路交通法36条2項)。一時停止の規制があるのみでは、ここでいう「優先道路」とはなりません。この点は誤解が多いところです。

 しかし、優先道路だからといって、歩行者が出てくる可能性もありますし、全く注意せずに走行していては、とても「安全な運転」とはいえません。

 したがって、優先道路を走行していたとしても、道路交通法70条違反を免れるわけではありません。

 ただし、「優先道路」ではない場合と比較すると、明確に徐行義務が課されているわけではないため、過失割合の点でも、「優先道路」に当たる場合の方が若干有利になっています(10%程度)。

まとめ

 このように、道路交通法でどのような規制がされているのかを見ると、どちらが優先するのか、また、一時停止の規制があるのみの場合と優先道路の場合といったように、類型ごとに比較した場合に、どちらをより被害者に有利にすべきかといったことが分かります。

 とはいえ、そこから直ちに、過失割合が30:70だとか具体的な数字が導かれるわけではありませんので、過去の裁判でどういう判断がされてきたのかといったことを踏まえた上で、相場を掴む必要があります。

 少なくとも、相手の道路交通法違反を指摘できれば勝てるといった簡単な話ではないのです。

事故状況に争いがあるケース

2022-05-27

 交通事故の損害賠償の請求を行う場合に、最も問題となるものの1つに「事故状況についての争い」があります。

 この点が争いになると、交渉で解決する可能性が低くなり、裁判でも納得できる結果が得られないことも多くなります。

 今回は、なぜこの点が問題なのかについて解説します。

特徴

 交渉の中で争いになることは、他にも慰謝料の額や後遺障害の認定など多数ありますが、こうしたものが争いになる場合、あくまでも金額が多いか少ないかといった相場感の問題や、証明するための資料が不足しているということが大半ですので、多少納得がいかないところがあったとしても、合意に至ることが多いです。

 これに対して、事故状況について双方の言い分が違う場合、通常は一方が真実を言っていて、他方が真実と違うことを言っているということになります。

 また、事実と違うことを言われて困るのは、通常被害者側です。

 そのため、被害者側の不満は、著しく大きなものとなります。

問題点

誰が証明するのか

 事故状況に争いがある場合、誰がこれを証明するのかが問題となります。

 被害者側の立場からすれば、「相手が嘘を言っているのだから、相手が自分の言い分を証明すべきだ」という気持ちになるでしょう。

 しかし、実際は、被害者側が、自分に有利になる事実を証明しなければなりません。

 なぜそうなるかは、自分が加害者にでっち上げられたようなことをイメージして見ると分かります。

 相手から突然車をぶつけられ、相手が加害者だと言ってお金を請求された場合に、請求された側がそうじゃないことを証明しなければならないとすると、不当請求が容易にまかり通ってしまいます。

 それでは困るので、請求をする側が事故状況などを証明するというルールになっています。

証拠がない

 ドライブレコーダーや第三者である目撃者といった証拠があれば、相手もそれを受け入れざるをえないため問題となることはほとんどありません。

 逆にいうと、事故状況が争いになっているということは、こういった決定的な証拠がないということを意味します。

 しかも、他の争点の場合、例えば被害者の収入状況など、「完全には立証できないものの、ある程度の証明はできている」ということが多いの対し、事故状況が争いになっている場合、0か100か(どちらが真実か)ということが多く、その意味で、ほとんど証明できていないのと同様の状態がしばしば見られます。

 そのような状態の中で、少しでも自分に有利な事情を探して証明いくことになります。

証明のハードルが高い

 証明するといっても、この類型では決定的な証拠がないことは既に述べたとおりです。

 そのような中で、裁判官(あるいは保険会社の担当者)に対して、どの程度までこちらの言い分が正しいと思わせる必要があるのでしょうか?

 「どちらが真実か」という観点からすれば、相手よりも少しでもこちらの言い分が正しいと思わせれば「勝ち」になるように思えます(実際、そういうイメージを持っている人は多いようです)。

 しかし、実際に求められている証明とは、それよりもはるかにハードルが高く、裁判官に「高度の蓋然性」を抱かせる、つまり確信を抱かせる程度の証明ができないといけません。

 この点は、多少裁判官によって感覚の違いがあるとしても、「多分こちらが正しいだろう」という程度では足りないということです。

 繰り返しになりますが、この類型では決定的な証拠はありませんので、事故状況に争いがある場合の証明は相当難易度が高いものとなっています。

 ただ、事故によっては、決定的とまではいえないものの、かなり有力な証拠がある場合があります。例えば、車の破損状況から、衝突の角度、強さが分かるような場合です。

 このようなケースであれば、裁判所もこちらの言い分を認める可能性が高まります。

問題の原因

 このようなケースでは、被害者は、「相手が嘘を言っているのが許せない」といって感情的になることが多く、その気持ちは十分に分かります。

 ただ、私の経験上、事実と異なることを言っている相手方も、嘘と分かって言っているケースはむしろ稀なのではないかと考えています。

 つまり、何らかの誤解や思い込みによって、事実と違うことを真実だと思ってしまっているということです。

 例えば、実際は徐行していなかったのに、「自分は普段から慎重に運転しているから徐行していたはずだ」とか、「自分は安全確認をしていたのだから、相手の方が速度違反していたんだ」といったものです。

 実際には、事故現場の見通しが悪かったり、安全確認といっても常に360度確認できるわけはないので、相手の車の動きを完全に見ていたわけではないのに(それができていれば事故は起きていない)、憶測でそう考えてしまっているということです。

 こうなってくると、相手も嘘を言っているつもりはないので(むしろこちらが嘘を言っているように思っている)、話をまとめるのが非常に難しくなります。

 認知機能が低下した高齢者が、このような思い込みをしているケースもあります。

解決策

 以上のように、事故に遭ったときに、敢えて嘘を言う者は決して多くない思いますが、思い込みから、事件の解決を困難にする者は一定数存在します。

 たまたま加害者がそういった相手かどうかは運によるとしか言いようがなく、そうなってしまった場合、実際にこちらの言い分を通すことは困難なことが多いです。

 結局、事前にそうした場合に備えてドライブレコーダーを設置するというのが、現状で考えられる最善の策であると思いますので、まだ取り付けていない人は、早めに取り付けることをおすすめします。私自身、自家用車にはドライブレコーダーを前後に取り付けています。

ネットの情報には要注意

2022-03-31

 最近では、インターネットで交通事故に関する様々な情報が発進されていて、このサイトもそのうちの一つです。

 これらの情報の中には役に立つものもありますが、中には、被害者を惑わす不適切なものもありますので、注意するようにしてください。

 私が依頼を受けた案件でも、後遺障害の認定手続きに関して、行政書士から不安をあおられるような説明を受けた結果、適切な処理ができなかったという案件があります。

 文章を書くのは人間ですので、ホームページ上に書いたことの中に誤りが含まれることもあるでしょう(弊所の記事の中にも誤りがある可能性はゼロとはいえません)。

 しかし、不確かな情報で顧客を誘引しようとすることは明らかに不適切であり、また、そのような者が本業を適切に行っているとも思えないので、十分に気を付けてください。

弁護士の広告の規制(参考)

 弁護士の出すインターネットを含めた広告については、記載内容に守るべき指針が定められていて、以下のようなものは掲載してはいけないとされています。

 これは、弁護士に対する規制ですが、一般的にも当てはまる部分が多いと思われますので、参考にしてみてください。

1 困惑させ、又は過度な不安をあおる広告

 例「今すぐ請求しないとあなたの過払金は失われます。」

 「すぐに〇〇しないと大変なことになりますよ」といったものですね。

 このような広告は、見た人が不安に駆られ、正常な判断力を失わせることになるため、不適切というわけです。

2 誇大又は過度な期待を抱かせる広告

 例「当事務所ではどんな事件でも解決してみせます。」

 例「たちどころに解決します。」

 これらは、実際には結果が必ずしも保証できないにもかかわらず、それができるように見えますので、不適切です。「誰でも痩せられます」とうたうダイエット商品のようなものです。

※弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け負い、又は保証してはならないとされています。弁護士の業務で、「絶対に勝てる」というものは存在しないのです。

3 弁護士等の選択にとってあまり重要でない事項をあたかも重要であるかのように強調した広告又は不正確な基準を用いて実際よりも優位であるかのような印象を与えるような広告

 これは少し分かりにくく、グレーな部分も多いと思われます。例としては以下のものが挙げられています。

例「○○地検での保釈ならお任せ下さい、元○○地検検事正」

例「保釈の実績○○件、保釈なら当事務所へ」

4 訴訟事件の勝訴率の表示

 これは、実際には受け持った事件の性質に大きく左右されるものでもあり、広告を見た人に当てはまるとは限らないものですので、誤導又は誤認のおそれのある広告の典型例として禁止されています。

 ところが、インターネットを見ていると、後遺障害の認定率が〇〇といったものも中にはあるようなので、こういったものを見て誤認されないように願います。

まとめ

 いかがだったでしょうか。インターネットで色々とみていただくと、思い当たるものが見つかるではないでょうか。

 個人的な印象ですが、弁護士のホームページよりも、行政書士等のホームページに不適切だと考えられるものが多いように思います(不確かなことを断定的に語るなど)。※もちろん、行政書士一般に問題があるわけではありません。

 初めての交通事故で分からないことが多く、不安になる気持ちも分かりますが、怪しい情報に惑わされず、冷静に判断することが大事です。