人身傷害保険金の増額に成功した事例

2017-10-11

今回は,当事務所で取り扱った交通事故の案件の中でも少し特殊なケースで,人身傷害保険金の増額に成功した事例をご紹介します。

 

事案の経過

 事案は,交差点内の交通事故で,被害者が交差点にさしかかったところ,無謀運転の車両が交差点に進入してきたため,それを避けようとして別の車両に衝突してしまったというものです。

 主たる責任がある無謀運転の車両は現場から逃走してしまったため,責任の追及はできず,かといって,実際にぶつかった相手の車両にも過失があるようには考えられなかったため,自身が加入する保険会社の人身傷害保険を利用して通院や休業損害の支払いを受けていました。

 その後,治療を継続したものの,小指に可動域制限が残り,後遺障害等級13級6号が認定され,後遺症の分も含めて人身傷害保険金の額が保険会社から示され,内容に問題がないのかご相談に来られました。

 

当事務所の活動

契約の確認

 人身傷害保険は,被害者と保険会社との間の契約ですので,契約通りの支払いといえるのかがチェックのポイントです。

 そこでまず,人身傷害保険の約款を確認しました。

 約款と保険会社から提示された金額を比較すると,慰謝料については,保険会社が定める方法によって計算されていて,問題はありませんでした。

 問題は後遺症による逸失利益です。

 逸失利益とは,後遺症による将来の減収を予測して,その分の損害を計算したものです。

 これを見ると,減収が生じる期間(労働能力喪失期間)がなぜか8年分とされていて,根拠も曖昧で交渉の余地がありそうであったため,交渉をすることとなりました。

人身傷害保険金でも交渉できる!

 保険会社の担当者は,初めはそもそも人身傷害保険の金額について交渉の余地はないという感じでした。

 たしかに,加害者側の保険会社に請求する場合と異なり,支払の基準が明記されているため,争いになることは多くはないでしょう。

 しかし,人身傷害保険は,基本的に実際に生じた損害を補填する保険ですので,損害の大きさを不当に小さく見積もっていれば,当然交渉の対象となります。

 そこで,まずはこの点について,人身傷害保険の基本的な性質を踏まえて説明するところから始めました。

逸失利益の交渉

 次に,交渉の対象となることについては同意が得られたため,本題の逸失利益の額について交渉をしていきました。

 労働能力喪失期間が8年とされた理由は,被害者が消防士で,その現役の期間だということでした。

 しかし,被害者に確認してもそのような事実はないとのことでしたので,まずは実際の現役年齢がどのくらいなのかを説明し,この点についてはある程度説得することができました。

 ただ,交渉に当たって,実際に減収が生じていないという問題があったため,この点についてきちんと説明しなければなりませんでした。

 この点については,従前の給料の内訳,後遺障害の内容と現在の仕事への支障,将来の減収の可能性などについて,様々な資料を提供することによって,和解に至ることができました。

 

金額の変化

 交渉の結果,労働能力喪失期間について,当初8年とされていたところを30年分としつつ,労働能力喪失率について若干の調整を行い,結果として,当初の提示額約368万円から約664万円へと約300万円の増額に成功しました。

 

交渉のポイント

加害者への請求との違い

 人身傷害保険金の算定は,保険の契約の内容によって決まりますので,加害者に損害賠償の請求をするのとは違います。

 そのため,契約上,保険会社がどこまで支払いをしなければならないのかという契約の解釈の問題となります。

 この点についてきちんと区別ができていないと,まともに取り合ってもらうこともできないでしょう。

 一般的に,弁護士が加害者側の保険会社と増額交渉をするものの代表的なものは慰謝料です。

 慰謝料は,法律的に見ると,必ずしも基準があるわけではなく,事故に遭った人の状況によって金額に違いが出てくるところです。

 そのため,支払をする保険会社としては,できるだけ低く見積もろうとしますし,被害者としては,反対にできるだけ高く見積もろうとしますので,このギャップを埋める交渉が必要となります。

 ところが,人身傷害保険の場合,慰謝料の算出方法について約款上明確に決められていますので,基本的に慰謝料の額を争うことはできません。

 しかし,慰謝料の金額が変わらないといっても,既に述べたように,交渉できるところがあるかもしれないのです。

減収がない場合の逸失利益

 逸失利益は,後遺症による減収についての賠償ですので,本来であれば,全く減収がなければ請求は認められないということになりそうです。

 しかし,実際は,本人の努力や職場の配慮でカバーしているに過ぎなかったり,将来的な昇給の遅れ等の可能性があったりするので,減収がないからといって門前払いされることはありません。

 ただし,公務員のような一般の会社員などよりも身分保障が手厚い場合は,若干厳しく見られる可能性があり,本件はまさにそのようなケースでした。

 このような場合は,損害が発生することをより説得的に伝える必要がありますので,過去の裁判例などに照らし,資料をきちんと揃えて,説明も丁寧に行うことが重要となります。

メッセージ

 人身傷害保険金の請求は,保険の契約に基づく請求であり,加害者に対して求める損害賠償の請求とは違います。

 しかし,専門的な契約の内容に関することですので,加害者に賠償の請求をするとき以上に,被害者は弱い立場に立たされるともいえます。

 保険会社から,「保険の契約で決まっているから。」と言われたら,信じざるを得ないのではないでしょうか。

 また,人身傷害保険は,加害者からスムーズに支払いを受けられない何らかの事情がある場合に使うことが多く,あくまでも補助的なものですので,被害者としても,元々期待値が高くないということもあると思います。

 しかし,そういう場合でも,出された金額について疑問に感じれば一度検証をしてみるということは重要で,今回はご相談に来られたことで大幅な増額が可能となりました。

 相手の保険会社であろうと自分の保険会社であろうと,言われるがままにしていると思わぬところで損をしているかもしれないことに違いはありません。

 今回のケースは,典型的なケースとはいえませんが,人身傷害保険の支払額について疑問がある場合は,一度弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。

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