症状固定後の通院

2021-10-27

「症状固定」の意義

 交通事故の治療費などの支払いは、無限に続くわけではなく、どこかで区切りをつけて、以降の補償は「後遺障害」という形で行われています。

 そのため、通院をしても症状が良くならないということになってくると、保険会社から治療費の支払いを打ち切られることになります。

 この区切りのタイミングになったことを「症状固定」といいます。

 「症状固定」とは文字どおり症状が固定して治療をしても改善が見られなくなった状態を指します。治療の成果がないことと、時間の経過による改善も見込めないことの2点がポイントです。

 この「症状固定」になると、治療費や休業損害の支払いはなくなります。

 休業損害については、後遺障害逸失利益という項目で、後遺障害等級に応じて支払われることになります。

 また、治療費については、後述のように、症状の改善に役立っていないということになるので、支払いの対象から外れることになります。※例外はあります

 それでは、「症状固定」となった後に通院をしたい場合、どのように扱われるのでしょうか?

 これには、大きく分けて2つのパターンがありますので、それぞれ解説します。

①保険会社が一方的に言っているに過ぎない場合

 保険会社から打ち切りを通知されたとしても、実際には「症状固定」に至っていないこともあります。

 「症状固定」の考え方は上記のとおりで、治療が症状の改善に役立っているかどうかが重要なポイントになります。

 したがって、治療の効果が十分に出ているにもかかわらず、保険会社が短期間で打ち切りを言ってきたような場合、そもそも「症状固定」には至ってはいませんので、加害者は治療費の支払いを免れることはできません。

 このような場合、一旦治療費を自分で立て替えた上で領収証を保管し、後日保険会社に対して請求することになります。

 このとき、注意しなければならないのは、治療の効果が出ていたとしても、いわゆる対症療法に過ぎず、一時的に症状が和らいでも、時間が経つと元に戻ってしまうという一進一退の状態の場合、やはり「症状固定」とみなされる可能性があるということです。

 治療直後の改善状況だけでなく、例えば1か月前と比べてどうなのかを見極めるようにしてください。

 実際には「症状固定」になっていないのであれば、後でそのことが検証できるように、主治医に意見書のようなものを作成してもらうことも検討しましょう。

 さらに重要な点として、「症状固定」に至っていない場合には、その時点での症状をもって後遺障害と見ることはできないということです。

 例えば、むち打ち症になって交通事故から3か月ほどが経った時点で、相手の保険会社から「症状固定になっていると考えられるので、以後の補償を受けたければ後遺障害認定を受けてください」と言われたとします(実際にこのように言われることは珍しくありません)。

 しかし、一般的には、事故から3か月程度の段階で症状が固定したということはできません。

 なぜなら、受傷からそれほど時間が経っていないため、その後の時間の経過によって症状が良くなる可能性が高いからです。

 3か月経過した時点で症状が残っていたとしても、翌月には症状が軽くなっていたり、完治していることがあり得るのです。

 「後遺障害」とは、治療や時間の経過によって良くならない、この先もずっと続いていく症状について、その程度に応じて賠償をしようとするものですので、症状の軽快が予想されるようなものについて認定をすることはできません。

 そのため、この例のような状態で保険会社に言われるままに後遺障害の申請をしたとしても、後遺障害の認定を受けることはまずできないと言ってよいでしょう。

 したがって、このようなケースの場合で、しっかり治療を受け、症状が残ってしまう場合に後遺障害の認定を受けようと思うのであれば、本当の意味で症状固定に至るまでは自費で通院するなどして、通院が途絶えないようにしなければなりません。

②実際に「症状固定」に至っている場合

 損害賠償の基本は「原状回復」です。

 事故がなかった状態に戻すために必要なことを金銭による賠償という形で行います。

 したがって、治療をしても元に戻らないのであれば、無駄な治療であるともいえるので賠償の対象とはならないことになります。

 この場合でも、対症療法的な治療を求めて通院を継続することは自由です。ただし、その治療費は加害者側からの支払いの対象ではなくなります。

 ただし、これには例外があり、何も治療しなければ、症状固定時の症状を維持することができず、かえって悪化してしまうというような場合には、症状固定後であっても治療費が加害者側の負担とされることがあります。

 また、人工関節の交換手術のように、将来確実に追加の手術が必要となるような場合、この費用も加害者側の負担となります。

通院の方法

 以上のように、「症状固定」に至っている場合でも、そうでない場合でも、自費で通院を継続するということがあり得ますが、その場合の通院は、健康保険を利用していていただくことをおすすめします。

 健康保険を使用した場合、医療機関に支払う治療費の額が3割負担で済むということに加え、自由診療で受診した場合、医療機関は、健康保険利用時と比較して200%で診療報酬を算出することが多いため、健康保険を利用するかどうかによって、負担額が大きく異なることになります。

 なお、労災保険が使用できる通勤途中の事故のような場合には健康保険を使用することはできませんので注意しましょう。この場合、労災保険を利用した通院の継続を検討することになります(労災での通院が認められれば、治療費の負担はありません)。

まとめ

 このように、「症状固定」と保険会社から言われた場合、まず、本当の意味で「症状固定」となっているかどうかで対応が変わります。

 「症状固定」になっていないのであれば、主治医にそのことを確認し、証拠として残してもらうことが重要です。その上で、示談交渉の際に、「本当の症状固定」の時期までの治療費等の支払いを請求しましょう。

 これに対し、実際に「症状固定」に至っているのであれば、症状を一時的に緩和する効果があったとしても、治療費の支払いを相手に負担させることは困難です。

 この場合は基本的には後遺障害等級の認定を受けることを検討します。

 また、将来手術を予定しているなど、例外的に症状固定後の治療費を相手に負担させることができる場合には、忘れずにこれを請求するようにしましょう。

 

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