異議申立で後遺障害【非該当→14級】となり約410万円の賠償

2022-05-16

事案の概要

 事故状況は,住宅街の中の交差点を左折しようとしていたところ、後方から追突されたというものです。

 被害者は,外傷性頚部症候群・腰部挫傷の傷害を負って通院加療を行うこととなりました。

 本件は、ご紹介の案件で、事故直後から対応を開始したものですが、特徴は、被害者の訴える症状の重さと仕事への影響が大きいということにありました。

治療中の経過

 事故から間もない時期は、急性期といって症状が強く出るので、仕事を休むことになりました。そして、事故発生から一月弱の時点で、一旦復帰することになりました。

 ところが、被害者の従事していた仕事が首にかかる負担が大きいものであったため、仕事を続けることができず、再び休業状態となってしまいました。

 その後、配置転換による就労の継続を模索したものの、結局完全に復帰することができずに、職場を退職せざるを得なくなりました。

 そして、事故から約9か月が経過したところで、「症状固定」となりましたが、その時点でも復職はできていませんでした。

当事務所の活動

①休業損害の交渉

 本件の問題点の一つ目は、休業損害が通常と比較して大きかったという点です。

 事故による賠償は、「事故がなければなかった損害」の全てが対象となるわけではありません。

 法律上は、事故と損害の間に「相当因果関係」がなければならないとされています。

 「相当因果関係」とは、事故があれば、通常生じるような損害のことをいいます。

 今回の場合、骨折等を伴わない打撲・捻挫に属するものでしたが、打撲・捻挫で9か月間休業するということは、通常では起こりません。

 したがって、休業損害全てについて相当因果関係があるというのは困難でした。

 打撲・捻挫であれば、保険会社によっては、1か月でも長過ぎるというところがあると思います。

 本件の場合、依頼者の仕事の内容に加え、医師も安静を求める診断書を書いてくれていたこと、弁護士が交渉を行ったこともあって、結果的に3か月分の休業損害が認められました。

②後遺障害の異議申立

 本件の問題点の二つ目は、自賠責保険の後遺障害の認定が出なかったことです。

 打撲・捻挫の場合に後遺障害の認定を受ける場合、後遺障害14級9号という等級に当てはまるかどうかという点が問題となります。

 14級9号が認定されるには、「症状が医学的に説明がつくもの」である必要がありますが、認定上は、症状の一貫性、画像所見、事故態様といった要素が重視されているとされています。

 本件の場合、症状は一貫して存在しており、MRI画像上も、神経根の圧迫のようなものが確認できましたので、これらの点は問題なかったと思います。

 ただ、事故状況が、車の損傷写真を見ても、それほど強度の後遺障害が残るようなものには見えませんでしたので、この点が問題となったのではないかと思いません。

 異議申立では、事故状況について後から変更することはできませんでしたので、事故後の実際に生じている支障の内容や、退職した事実、症状固定後も通院を続けていること等を資料を示しながら説明しました。

 その結果、後遺障害14級9号の認定を受けることができました。

③示談交渉

 その後、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の交渉を行い、早期解決のため、多少の譲歩はありましたが、ほぼ裁判基準での示談(治療費を除いて約410万円)に至ることができました。

 

ポイント

休業の長期化

 怪我の内容から比較して休業が長過ぎると評価されるような事例がまれに存在します。

 むち打ち症自体、医学的に全てが解明されたわけでないため、現在の医学では説明できないような事態が生じている可能性がありますし、精神的なことが症状の大きさに影響を与えるとも言われていますので、そうしたことが関係しているのかもしれません。

 いずれにせよ、通常の相場を大きく超えて休業が続くような場合、加害者側に賠償の責任を負わせるのは困難です。

 可能な限り賠償を受けようとする場合でも、職場復帰に向けて努力をしたり、主治医の協力を得たりする必要があります。

 休業損害についてアドバイスするとすれば、「復帰に向けて努力するのが第一、どうしても復帰できない場合は、そのことを証明するために必要なことをする」ということです。漫然と休業を続けていた場合、弁護士が交渉をしたとしても、賠償を受けるのは困難です。

 本件では、職場復帰に向けて真摯に努力していたことがうかがわれ、医師もそのことを理解してくれていたため、一定の賠償を受けることができたものです。

異議申立て

 後遺障害認定の異議申立ては、一般的には成功の可能性が低いものです。

 なぜなら、初回の請求時に診断書・診療報酬明細書、画像資料といった、認定のために必要な資料を一式提出しているからです。認定されてしかるべきケースであれば、これだけ提出すれば認定されます。

 したがって、異議申立てでは、これらの必須資料の他に、決め手となるような資料を提出する必要があります。

 本件の場合、症状固定後も痛みのために通院を継続せざるを得なかったという事情に加え、仕事も辞めることになったという特徴的な事情がありました。

 本件の異議申立てでは、こうした事情が考慮されたものと考えられます。