後遺障害14級で,裁判の後,人身傷害保険の支払いも受けた事例

2019-06-24

事案の概要

 事故現場は,T字路交差点が連結したような変則的な十字路交差点で,相手方に一時停止の規制があり,事故の態様は,直進していた被害車両との出合い頭事故でした。

 通常,このような事故状況であれば相手方の過失割合が大きいのは明らかなのですが,本件の場合,相手方が自分の非を認めようとせず,やむを得ず裁判をすることになりました。

当事務所の活動

 本件は,元々他の事務所が担当していたのですが,事情により,弊所で引き継いだものです。

 そのため,弊所では裁判から担当しました。

過失割合の争い

 本件では,過失割合が争いとなりましたが,相手方が自身の過失が小さいと主張する主な理由は,事前に一時停止をして交差点に入ったから,自分には落ち度がないというものでした。

 しかし,一時停止をしたというわりには,事故の前の被害車両との位置関係などを述べることはなく,実質的にみると,安全確認に必要な一時停止をしていたとはいえない状況でした。

 そのため,裁判所も,一時停止による過失割合の修正は認めませんでした。

治療費や後遺障害認定についての争い

 その他,治療費や後遺障害認定(14級9号)についても争われ,相手方からは外部の医師による意見書まで提出されました。

 しかし,こちらの提出した主張・証拠に対して,有効な反論とはなっていませんでしたので,特に問題とはなりませんでした。

和解の提案

 裁判で主張と証拠が出揃った段階で,裁判所から和解の提案が行われました。

 過失の割合は相手方の徐行を考慮して基本的に30対70のところ,和解を前提として25対75としつつ,人身についてはシートベルトの着用方法の点を考慮して30対70とされました。

 そのほか,休業損害を主婦として請求していたのですが,70万円を超える認定がされました。

 この和解案を見て,人身傷害保険のことも考慮して(理由は後述),和解を受けることとし,相手方からも異存はなかったため,和解で終了しました。

ポイント

過失割合

 過失割合については,一般的に「別冊判例タイムズNo.38」(判例タイムズ社)という本を参考に決められることが多いです。

 この本は,東京地裁民事交通訴訟研究会というところが作成したものであり,実務上非常に重視されています。

 今回も,この基準を前提にしつつ,話が進められました。

 これによると,一時停止のある道路の出合い頭事故の過失割合は,20対80が基本となり,一時停止のある側だけが減速していた場合は30対70,一時停止のある側が一時停止をしていた場合は40対60となります。

 今回も,相手方の一時停止が認められれば,40対60となるところでした(実際,相手方の主張を見る限り,一旦停止していた可能性はありました。)。

 しかし,一般的にも誤解されがちなのですが,一時停止の規制がある場合,一時停止をすればそれだけでよいということにはなりません。

 当たり前のことですが,一時停止をしたうえで,左右の安全確認をしなければならないわけで,安全確認をしたときに車が走行してくるのが分かれば,交差点に進入してはいけません。

 そのため,交差点の見通しが悪く,停止線の手前で停止しても道路の状況が分からない場合,さらに徐行発進して安全確認をしなければなりません。

 先ほどの一時停止で40対60となるのは,一時停止をして相手の車を確認したものの,速度と距離の判断を誤って事故を起こしたという場合を想定しているのです。

 したがって,事故が発生するまで相手の車に気付かなかったというような場合には,このような修正は認められないのです。

 本件でも,刑事記録により,相手方が衝突まで被害車両の存在に気付かなかったことが分かったため,この修正は認められませんでした。

 別冊判例タイムズNo.38の基準を使う場合でも,基準の意味をよく理解して,具体的な事案に当てはまるのかよく吟味する必要があるのです。

人身傷害保険の利用

 過失割合については,こちらの減速なしと相手の減速ありが認められるなど,完全に満足のいくものではありませんでしたが,和解が可能かどうかは,最終的に受け取れる金額がどうなるかが重要となります。

 本件の場合,人身については,事前に自賠責保険の保険金(被害者は同乗者であったため,自賠責が相手方分と運転者分で2つ利用可能でした)を受け取っていたため,過失相殺をされると,約120万円の減額となり,受け取れる金額が大幅に減少し,相手からの支払いは約11万円となってしまいました。

 しかし,本件は,被害者が人身傷害保険に加入しているという特色がありました。

 人身傷害保険は,被害者が自分の怪我を治すための保険で,過失にかかわりなく支払いを受けることができ,通常使っても保険料が上がらないという特色があります。

 さらに,裁判を行った場合には,「裁判基準」で過失分の穴埋めができるという非常に優れた保険となっています。→詳細はこちら「人身傷害保険で過失の穴埋め」

 今回は,裁判を先に行って,後で人身傷害保険から支払いを受けたのですが,このような場合でも,最近の保険では,ほとんどの場合,上記のような補填が可能になっています(詳細はご自身の保険の約款をご確認ください。)。

 この点について,人身傷害保険を後から使うことはできないかのように書かれているホームページを見たことがありますが,明らかに誤りです。

 本件でも,和解後,人身傷害保険から約120万円の過失分について保険金の支払いを受けることができましたので,結果として,過失30%分についても,裁判基準での支払いを受けることができました。

 このように,人身傷害保険があるかどうかは,裁判をするかどうか,和解の方針をどうするかに重大な影響を与えますので,被害者に過失がある場合,この保険の有無を確認することは,もはや必須となっているといえます。

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